とうとう迎えた、チョイス当日。
「先程の音は、やはり入江君を起こすためのものでしたか」
「すごい音…だった…」
「うん、服を脱ごうとして、そのまま眠っちゃったみたいで…」
「徹夜続きで眠いのはわかるんですが、心を鬼にするつもりで起こしてきたんです」
女子四人、揃ってスーツに着替え、待機場所に向かう。
微かな機械音と共に扉が開くと、中には同じように着替えた沢田君、獄寺君、笹川君がいた。山本君と雲雀君も、修業が仕上がったことは把握している。筋書き通り、並盛神社で合流するだろう。
「はひ、かっこいいです!!」
「…うん…」
「着心地とか、おかしなところない?」
鼓膜を揺らす一緒に来た三人の声に続けるべき言葉は、喉に詰まって出てこなかった。
別に、重ねてしまった訳じゃない。今更そんなことをする程、女々しくはないつもりだ。
ただ少し、ほんの少し、懐かしい姿を思い出しただけ。
「レイちゃん?」
「ど、何処かおかしいかな?」
「いいえ───いいえ。とてもよく、似合っています」
我が王と、同じくらいに。
続く言葉を飲み込み、微笑む。
きっともう、リボーン君が
どうやら、
私達にとって、正装とは
そして同時に、同胞を弔うための
そんな由来は知らなくていい。
そんな使い方をさせるつもりは、毛頭ないのだから。
今一度思い出せ。私が、何のためにここにいるのかを。
私は、レイ・オルテンシア・イヴ。
ボンゴレファミリーの、第七の天候。
これが終わりの始まり。
最後の賭け。
私は成し遂げる。
それが、私なんかを信じてくれた
特例的にリングを持たぬ入江君、そして私の無属性としての参戦が
ここまでは予想通りだ。白蘭の私への興味は尽きていない。だからこそ私をチョイスの戦闘員として組み込んだ。
そして、相手方も私が知る通りのメンバー。
対等さも公平さもまるでないが、そうして油断してくれていた方がこちらもやり易い。
最低限の公平さはチェルベッロさえいれば保証される。それこそ、彼女達の存在意義なのだから。
スクアーロ君共々密航していたジェラルド君が私の顔色を窺って、強張っていた表情を緩めた。
「大丈夫…そうですね」
「ええ。ジェラルド君は見ているだけにするように」
少なくとも、チョイスの間は。
敗北した場合は逃走することも視野に入れていることを知らせている知己の面影を残す青年は、大きく頷いた。
〈3分経ちました。それでは…───チョイスバトル、スタート!!〉
「ボンゴレファイッ!!」
おおっ、と最後に言って、円陣を崩す。
「ところで、作戦だが…レイさん」
「敵の位置は互いに炎レーダーで把握するしかないのですね?」
「ああ、合ってるよ」
“賭け”に勝つためにも大まかな戦い方は私が決めると通達し、それに賛同してくれた未来の友人の顔を見て、目を瞑り。
「入江君とスパナ君は
「確かに、それが一番だろうね」
「私は敵の分断ができるまでここに留まって二人を手伝います」
私の言葉に、全員が頷いた。
「…レイちゃん。オレ、信じてるから」
「勿論オレもな!」
「変な指示出すんじゃねーぞ」
彼ららしい激励の言葉にくすりと笑い、手を挙げる。
「私も、信じている。私達の指示を聞けなくなるような事態が起きても命を最優先に、間違っても死なないように。この歳で友人の墓参りをするのは御免被ります」
「縁起でもねーこと言うな!」
怒鳴った獄寺君、続けて沢田君、山本君とハイタッチをして、外へと飛び出したその背を見送る。
その捨て台詞に、クツリと喉で笑った。
(『縁起でもない』ですか)
一歩足を運ぶ場所を間違えただけで、幽明の境界の向こう側へと行ってしまう場所。
それが戦場であり、今私達が立つチョイスのフィールドもその一種。
そうでありながら、当然のはずの未来予測を『縁起でもない』の一言で切り捨てるとは、まだまだ未熟だ。けれどその青さを、私が生まれてこの方持ち得ない感覚を、私は存外好んでいるらしい。
己の思うところを脳内で言語化し、クツクツとまた喉で笑う。
持たざる故に羨むではなく、尊さすら感じているとは。
私は自分で思う以上に、彼らのことが大切なようだ。
笑ってばかりの私を不思議そうに見る入江君に大丈夫だからと掌を向け、彼の右隣の席に座ってベース用のヘッドホンを頭に着ける。
モニターに映る情報の分析を行ったところ、やはり周囲のビルは雷の炎でコーティングされている。
ついでにどの程度の攻撃であれば貫通するかの予測結果を、目の前のキーボードを叩いてデータとして出力し、取り敢えずはベースに残る三人で共有。
即座に口を開いたのは入江君だ。
「レイさん? このデータは何処から持ってきたの??」
「私の頭の中。精度については信じなさい」
「……うんわかったもう何も言わない。レイさんだもんね」
「ボンゴレ達のディスプレイに表示するならこの形がいいはずだ」
「了解しました」
そうして沢田君達のコンタクト型ディスプレイに表示されているマップに、スパナ君から提示された形で整えたデータを付加。沢田君達と繋がっているマイクに言葉を落とす。
「マップに追加でデータを送りました、目を通しておくように」
〈待ってレイちゃん今オレ達運転中!!〉
「私有地どころか日本国内かどうかもわからないから事故っても無問題です、これも経験だと思いなさい」
〈おいお前バイク乗ったこともねえクセに無茶言ってんじゃねえ!!〉
「私も乗れますが」
〈えっマジでか?〉
「マジです、山本君。とは言っても小型だけですが。ジャンニーニ君がスケジュール的に今君達が乗っているバイクの改造だけで手いっぱいとのことで、移動手段を持っている私は辞退させてもらいました」
男子諸君とタイミングはズレたが、私も一応リボーン君&ジャンニーニ君のバイク講習には参加している。そのタイミングで、この時代の私の免許証も見せてもらった。
尤も、長いこと臥せっていたためか更新がされておらず、失効していたが。
それにしても、通信越しの驚いている声を聞くと、どうにもその表情も見たくなってしまう。沢田君達のリアクションは見ていて面白いので。
ジェラルド君に映像機器持たせておけばよかったでしょうか、と考え、物見遊山じゃないんだからと吹き消しながら追加で指示を出す。
「
「了解、移動を開始する!」
迷いのない手付きで操作され、ベースが自走を始める。
…沢田君も言っていたが、これだけのものをよくもまあ10日間で準備できたものだ。
その頑張りも何もかも、絶対に無駄にはしないと、目を眇めて中央の椅子に座る背を横目に見た。
「レーダーに敵を確認、3方向に散った」
「やはりしらみつぶしにするつもりですか…」
「獄寺君はその地点で待機、山本君は1ブロック先を左折し3ブロック先の交差点まで行ってくれ、迎撃パターンBだ。綱吉君は速度維持で前進!!」
流れるように指示を出す入江君の声を聞きながら、私も目の前のモニターを見る。
綱吉君とぶつかるのはトリカブト、山本君の方には
ここらが潮時か、と再び口を開いた。
「皆、落ち着いて聞きなさい……猿と名乗る術士、奴は恐らく幻騎士です」
「えぇ!?」
〈それホント!?〉
〈そういうことは先に言えよ!!〉
抗議の声は黙殺し、モニターに示される山本君の位置を確認する。
「幻騎士は一度沢田君が倒していますが、正直あの時の彼は全力だったとは言えません。そう簡単に勝てる相手ではないのは確かでしょう」
「敵は3方向に散っているけど、どの反応が幻騎士のものなのか…」
「山本君の方です」
モニターと睨めっこをする入江君に、断言する。
驚いてこちらを呆然と見つめる彼に、不敵に微笑んだ。
〈確かなんだろーな〉
「何を言っているのですか、獄寺君。…敵の行動含め、全て私の想定内、掌の上のことです」
まあ、実際には少しばかりズルをしているのだが、それを言う機会は永遠に訪れないだろうしな。
最後に山本君、と呼び掛け、檄を飛ばす。
「今度こそ勝ちなさい。時雨蒼燕流は」
〈完全無欠、最強無敵ってな!!〉
おや、最後まで私が言うつもりだったのに。
眉を跳ね上げると、ノイズに混じって囁くような声が聞こえた。
〈…あんがとな、レイ〉
「そのセリフは勝ってから言うべきものでしょう」
〈おう! 修業の成果、見ててくれよな!〉
いや、カメラがある訳じゃないから見れないんだよ、山本君。
そうこうしているうちに、ボンゴレ
〈このまま敵の
「却下です、沢田君。敵が二人以上残っている限り挟み打ちにされる可能性があります」
「炎を消してバイクで向かってくれ!」
沢田君の納得の声を聞き届けて、席を立つ。
腰に
最後に外部用のヘッドホンとコンタクト型ディスプレイの様子を確認。うん、万事問題ない。
出撃の準備を整えた後、入江君の背に手を触れさせた。
「え、なに、レイさん!?」
「ただの“御守り”です。…何があっても、絶対に死なないように」
君の才能は惜しいし、何より友人が死んでしまってはこの時代の私も悲しむだろう。
「……わかってるよ」
何処となく納得の行っていなそうな表情だが、今は咎めまい。
ベースユニットを後にし、カメラの死角になる位置で未来の私が設計した相棒にして半身たる、特殊な
名付けたその名の由来は、『善』ではない私達が、それでも各々胸に抱いたモノ。
ラテン語で『正義』を意味する、女神の名だ。
しゅるりと、超炎リング転送システム起動時に消えてしまったのをスネグーラチカで誤魔化していた氷細工が、再び絡み付く。
これで大丈夫。何も問題はない。
道を、つけよう。
「さあ───やってやりましょう、
青空を裂くような紫の炎を
・参謀の本領発揮
正装とは言っても
入江が白蘭はチョイスで不正はしないという旨の発言をした時は呆れたように溜息を零して、そしてその後で少し決まり悪そうな顔をしていた。道を分かった、かつて親しかった人間に対し信頼を向けることについてだけは、入江を咎められる立場にはないので。