参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的61 全ては彼女の指揮のままに

〈時雨蒼燕流 総集奥義───

 

───時雨之化〉

 

 

 かつて兄のように慕った剣士(雨月君)と同じく剣を選んだ山本君が放つ、その全てを込めた奥義。

 

 彼のいる方角が青く輝いたのを視界に収めた私は静かに微笑み、そしてそれをすぐに吹き消す。

 

 

 私は知っている。

 否、私だけが知っているのだ。

 

 ───友達が初めて直面する、『死』を。

 

 

〈おい幻騎士!! 何だ!? どうしたんだ!?〉

〈山本君! 幻騎士に一体何が起こっているんだい!?〉

〈体中に草が生えてる…殺気がねーし…幻騎士の幻覚じゃねえ!〉

 

 

 同じように通信を聞いた二人が困惑したのを通信機越しに察したが、しかし桔梗への追撃の手は一切緩めない。

 

 生まれ持った異能を操って足場を創り、スケートシューズでその上を滑りながら射られた白銀の矢は桔梗を追い立てていく。

 

 

〈幻騎士───!!〉

〈……幻騎士の炎反応が……消えた…〉

 

 

 伝わってくるのは動揺、そして悲しみ。

 沢田君達がそう言った思いを抱えていると思うと、私も悲しくなってしまう。

 

 

「これが、ミルフィオーレの…白蘭の正体、本性です」

 

 

 だが、彼らに道を示す者として、立ち止まってもいられない。

 仮にも親友だった入江君に言わせるには重い一言を奪って、偽らざる私の本音を告げる。

 

 

 メローネ基地攻略の日に言葉を交わして以来、私はあの男がますます嫌いになった。

 きっとそれは、数ある並行世界(パラレルワールド)の私も同じだろう。

 

 人を玩具としてしか見ていないという、私と同類と思われそうなその思考回路が理解できない。

 

 

 私は確かに参謀だから、多少の犠牲は容認する。

 でも本当は、そんなことしたくないんだ。

 

 そんな風に思う度、冷静な部分が間違いのない答えを叩き付けてくる。

 

 無理だ、夢物語だ、絵空事だ、と。

 

 

 だけど、それでも。

 

 誰も欠けず、誰も失われることのない未来(明日)を、私はあの日、確かに望んでいたんだ。

 

 薄氷の上、築き上げた平穏がいつまでも続くようにと。

 昨日と何も変わらない明日が、来るようにと。

 

 

 それは、ただの事実でしかない。

 そしてその事実がある限り、私は白蘭と相容れない。

 

 玩具でしかないから簡単に人を死なせて、つまらないからと犠牲を出して。

 私の思い描く理想を容易く実現させられるくせに、敢えてそうしない、世界をゲームとしか見れないあの男が、私は嫌いだ。

 

 

 確かに、言いようのない疎外感を感じる。

 いつだって視点は周りとズレている。

 

 私が素の状態で生きられているとは、言い難いのだろう。

 

 

 でも、そんな無味乾燥な世界に、私は煌めくものを見つけてしまった。

 輝かしいものを、尊いものを───そして、愛するものを。

 

 この目を焼く程に鮮烈な、灯火を見たのだ。

 

 

 だからこそ、『私』は誰一人として白蘭に協力しなかったのだろう。

 

 どういった選択をし、どんな道を歩んだのかは違えど、あの灯火を見たのは皆同じだから。

 あの灯火を見ていながら、それに背を向けるなんてこと、できるはずもないのだから。

 

 

 詰めていた息を長く吐き、思考をクリアにする。

 

 直後、通信機(ヘッドホン)を通して沢田君の声が届いた。

 

 

〈───勝とう。

 

世界のためとか…(トゥリニセッテ)とか言われてもピンとこなかったけど…白蘭がみんなを酷い目に遭わせてるのは間違いないんだ!!〉

 

 

 …ここまで入江君と一緒になってシゴいて来た私が、言うことでもないんだろうけど。

 

 ()()()()()()()()沢田君(X世)

 

 

〈よし!! 一気に畳み掛けよう!!

標的(ターゲット)を先に倒しさえすれば勝ちなんだ!! 現在僕らと奴らは6対2!! 数的に3対1で標的(ターゲット)と戦える僕らの方が1対3で戦わなければならない敵よりずっと早く倒せる!!

しかも敵の攻撃者(アタッカー)である桔梗は、囮とレイさんに翻弄されてまだ僕の位置を把握できていない!〉

「獄寺君は守備を続行! 沢田君と山本君で一気に空中から敵標的(ターゲット)を撃破しなさい!!」

 

 

 私の指示に応える3つの声は頼もしい。

 

 なら、私も彼らの期待に応えるまでだ。

 

 

 遠方から弓を構え、桔梗を牽制しながら沢田君に尋ねる。

 

 

「…沢田君、何かおかしな感覚はありませんか?」

〈少し前にも、同じ場所を通った気がする…〉

〈えっ、こんな時にコンタクトの故障かい!?〉

「バカですか、入江君」

 

 

 確かに私達はコンタクト型ディスプレイにマップを表示しているから、そうなる可能性もなくはない。だがこの局面でのその判断は、慢心していると取ってもいいんだな?

 

 

「霧の(リアル)6弔花…トリカブトを倒し切れていなかったのでしょう。今の沢田君は奴の幻覚空間の中、新しいデータを送ったところで徒労に終わります」

〈そんな!!〉

〈…レイ。オレはどうすればいい?〉

 

 

 懐かしい記憶の中の彼と同じ、揺らぐことのない信頼が乗る声。

 

 

「君の出せる最大火力─── X(イクス) BURNER(バーナー)で幻覚空間ごと吹き飛ばしなさい!!」

 

 

 続け様に指示を出し、番えた矢を放つ。

 

 …時間稼ぎをして来たが、残る(デコイ)の数も少ない。そして桔梗は私の攻撃に対し逃げるのみ。切り札の修羅開匣を使う気配は無い。勿論、この程度で使われても興醒めだが。

 

 

(やはり、桔梗の“演出”ですね)

 

 

 ああでも、そのお陰でチョイスの時間を使って“切り札”が来るまで奴らを引き付けられるんだから、その思考に感謝すべきか。

 

 氷の足場を強く蹴り、桔梗を追う。どうやらこちらの基地の方向に一直線で向かっているようだ。

 

 

「山本君、敵標的(ターゲット)への攻撃を開始しなさい!」

〈オッケー!! 行くぜっ〉

「獄寺君、まっすぐ桔梗が向かっています! 迎撃は任せました!!」

〈微かに炎が見えるぜ、挟み討ちにしてやる!〉

「スパナ君、(デコイ)の残数は?」

〈もう3機を切った…凄い勢いで壊されてる……〉

〈レーザートラップの設置は86%終わってるよ!〉

 

 

 入江君の報告を受けたところで、轟音が響く。沢田君がX(イクス) BURNER(バーナー)をぶちかましたのだろう。

 それと同時、桔梗の姿が一瞬消えた。否、捉えられぬ程の速度で移動したのだ。

 

 

〈異空間を脱出した。レイ、状況は?〉

「桔梗が加速しました、追えるには追えますが引き離されています」

〈わかった。山本、敵の標的(ターゲット)を頼めるか、オレは基地に戻る!!〉

〈綱吉君!? 今からでも山本君と敵の基地に…!!〉

「そんなことを言っている場合ではないでしょう、いい加減にしなさい!!」

 

 

 今の彼に言っても無駄だとはわかっているが、それでも思わず基地の入江君に向かって怒鳴る。

 

 桔梗が基地に迫っているということは即ち、彼とスパナ君の命が危険に晒されているということでもある。

 白蘭が己の能力を自覚したきっかけは、確かに入江君なのだろう。だがそれを己の命で贖おうとするのは断じて認められない。私達がここにいるのは彼の自殺に付き合わされるためではないのだから。

 

 

〈くそうっ!! 抜かれた!! 済まねぇ入江、レイ…〉

〈山本の攻撃が標的(ターゲット)の寸前で敵の基地のバリアに阻まれてる〉

「レーザートラップで足止めを、すぐに追い付きます!」

 

 

 矢継ぎ早に指示を出しながらも、心と頭は冷えている。展開を()()()()、その中の最善へと誘導する段階に移った以上、私は焦りようがない。

 苦笑して足元を蹴ると、バイクに乗った獄寺君が横に並ぶ。

 

 

「レイ! オレがロケットボムで気を逸らす! その隙に!!」

「了解、急ぎましょう!」

 

 

 直後、前方で爆発が起きた。

 爆発したのは向かい合うビルの壁面。

 

 

「トラップが破壊された…!」

「入江君、今すぐにそこから逃走を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、三日前。

 主人不在の風紀財団アジトの一室では、レイとディーノ、リボーンが向かい合っていた。

 

 

こちら(ボンゴレ)には強大な力を持った“個”が多い。でもそれはあちら(ミルフィオーレ)も同じ。(むし)ろ“個”を基準とするなら、数的には向こうの方が少ないまであります」

 

 

 メローネ基地や対ボンゴレ戦線に大量投入して消費した挙句、今まで隠していた(リアル)6弔花の存在を明かしたお陰で求心力ガタ落ちですからね。

 

 敵の失策に唇を綻ばせるでも、嘲笑を浮かべるでもなく。ただ淡々と、レイはそう言ってのける。

 彼女にとって今の言葉は純然たる事実の列挙に過ぎないのだと、否が応でも理解させる態度。

 

 

「白蘭は愚かですが、なまじ頭が切れる分愚かにはなりきれない。他ならぬ自分自身がそうだからこそ、圧倒的な力を誇る一個人に有象無象の群れをぶつけたところでさしたる効果が見込めないのも理解しています。蹂躙される度に士気が下がり、最終的には壊走が関の山の愚策、とね」

 

 

 指揮官としては当然の判断だ。

 この時代、武力としてモノを言うのはリングと(ボックス)。真っ当に考えれば、ボンゴレリングとボンゴレ(ボックス)を持つ綱吉達相手に渡り合えるのは、同様にマーレリングを持つ(リアル)6弔花だけ。

 並行世界(パラレルワールド)でもボンゴレを打倒していることも、彼らだけでも問題ないとの判断を後押しする材料になる。

 

 強い者に、更に強い駒をぶつける。そうしてボンゴレを封じ込め、蹂躙するつもりなのだろう。

 それがレイの読み通り、もっと言えば彼女が望んだものだとは、微塵も思いはしない。

 

 大部隊の物量で攻められた場合と、真6弔花(少数精鋭)の質で攻められた場合。

 リスクを計算し、天秤に掛け、そして彼女は量よりも質の方がマシだと判断した。

 

 

「もし絶え間なく人員を補充され、休む暇もなく戦闘を続けられた場合、私達はいずれ敗北する。幾ら強くとも、私達は個人だからです。それならば、最初からそんな手を打たせなければいい。圧倒的な“個”に目を向けさせ、同様に力を持った“個”でしか打倒は不可能だと思わせればいい」

 

 

 詠うように紡がれる言葉は、悪夢のように部屋に響く。

 

 

「まさか、誘導していたのか!? メローネ基地の強襲の時点から!?」

 

 

 ディーノの驚愕の声に対し、レイはただ微笑みのみを返答とした。

 

 X(イクス) BURNER(バーナー)という必殺技を手にした綱吉が幻騎士を破ったものを始めとして、メローネ基地での戦闘記録はミルフィオーレの手にも渡っている。この時代の自分達に追い付こうとしている彼らの成長度合いは、(リアル)6弔花に相手をさせる理由になる。

 

 

「それならツナ達にも話せばいいだろう。事情を説明すればあいつらも下手に動かない。その方が安全じゃないか?」

「…ディーノ君、日本のテレビ番組を見たことは?」

 

 

 話の繋がりが読めない質問返し。

 それに首を傾げながらも、ディーノは頷いた。

 

 

「まあ、ツナん()で少しは…」

「ではその中に、ドッキリを主題としたものはありましたか」

 

 

 レイが名を出したのは、バラエティーでの鉄板ネタだ。日本に滞在する頻度が高いディーノも、横目に見る程度だが視聴したことはある。

 

 

「私はチョイスで、あれを再現するつもりです」

 

 

 まさかと、息を飲んだディーノの目の前。

 レイは、そう言い切った。

 

 傲岸不遜。それ以上に当て嵌まる言葉はあるまい。

 世界中の裏社会にその名を轟かせたボンゴレの座を揺るがせるどころか、壊滅状態に追い込んだ敵───ミルフィオーレとの決戦に際し、考案された作戦がそれなのだから。奇策にも程がある。

 

 

ボンゴレ(私達)は仕掛け人。ミルフィオーレの用意した舞台の上で、自分達こそが仕掛け人だと思っている彼らを騙さなければいけない。───ここで問題になるのは何ですか? 向こうが騙されてくれるか、でしょう」

「だから、ツナ達には話さねーんだな」

 

 

 ここまで黙っていたリボーンの言葉に、レイは頷く。

 

 本番一発勝負。上手く演じられなければ奈落へ真っ逆さまのお芝居。

 綱吉の大根役者っぷりは、ボイコット宣言時の京子達への対応で露呈している。他の面々も大差はあるまい。

 

 ならば何も知らせずにいた方が、白蘭を確実に騙せるというものだ。

 

 

「想像以上におっかない女だな、お前」

「君にそう言ってもらえるとは、光栄です」

 

 

 悪どい笑みを浮かべる二人にディーノは若干引き気味だが、レイとしては手を緩める気はこれっぽっちもなかった。

 

 

 白蘭に嫌悪を抱いているからではない。全体の利益を追求すべき時に私情を持ち込むなど、愚か者の所業だ。

 ボンゴレが壊滅させられたためではない。レイとてマフィア界の理(弱肉強食)は骨身に沁みている。

 怒りではない。それは怒りよりも冷静であり、冷酷なものだ。

 

 激情と呼ばれる類のモノではない。そう言ったモノに身を委ねることを、彼女はよしとしない。

 

 

 レイはボンゴレI世(プリーモ)の雪の守護者である。本来の立場から言えば、綱吉達X世(デーチモ)ファミリーにとっては先達だ。

 レイにとって綱吉達は大切な友人であり、そして同時に、導くべき後進でもある。

 

 

 守り抜く。

 絶対に傷付けさせはしない。

 

 いつもの通り(かつてのように)、怒り以上に苛烈に研ぎ澄ました使()()()で、彼女は敵を叩き潰そうとしていた。




・マシマロ野郎大っ嫌い

 幼き日に見た灯火が、今尚双眸に焼き付いている。だから、何があっても立ち止まることだけはしない。
 怒りではなく、憎悪でもない。激情に身を委ねず、あくまで理性的に。そーゆー風に振る舞ってるから慈悲深いとか言われちゃうんだぞbyお前の大好きなボス
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