参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的62 予定通りの敗北

〈距離300!!〉

 

 

 自走するボンゴレ基地ユニット、その後方に桔梗が迫る。

 

 だが、このまま終わるはずもなく。

 桔梗の背を、無数のロケットボムが追った。

 

 

「やらせねえ!!」

「ハハン…これは」

「余所見していてよろしいのですか?」

 

 

 桔梗がボムに気を取られた隙を突き、懐に潜り込んだレイが、桔梗の腹に強烈な一撃を叩き込む。

 その直後。衝撃で宙を舞い、バランスを崩した桔梗が、自身の武器である雲の炎を纏った桔梗の葉を、ボンゴレ基地ユニットに投擲した。

 

 

「入江、スパナ!」

 

 

 衝撃で大きく破損し、バランスを崩した基地ユニットはビルにぶつかり停止する。

 中にいるはずの入江とスパナを救助しようと動きかけた獄寺は、その出入り口から脱出した人物を見て目を剥いた。

 

 

「入江、お前ッ!!」

「獄寺君済まない、私は桔梗を追う! スパナ君を頼む!」

「お、おう!」

 

 

 覚束ない足取りで、それでも尚必死に足を動かす入江。彼を見つめる桔梗の肩に、白銀の刃が食い込んだ。

 

 

「ハハン…さすがですね、気配が読み切れませんでしたよ」

 

 

 肩に手を掛け、傷が深くなることも構わずレイの剣を押さえ込んだ桔梗が、もう片方の手で桔梗の葉を飛ばす。

 

 こちらに背を向けただ足を動かす入江には避けようがない一撃が、その背を貫いた。

 

 

 ───刹那。

 

 大輪の、氷の華が咲き誇った。

 

 

「なッ…!?」

「……もういい頃合いか」

 

 

 現状に不釣り合いな程冷静に呟いたレイが、一切の躊躇なく、桔梗の背に蹴りを叩き込む。

 

 彼が雷の炎でコーティングされたビルに体を強かにぶつけるのと、レイが片刃剣(サーベル)を一度振るって血を払い落とすのは、ほぼ同時だった。

 

 

 愛剣を鞘へと納めたレイは、その瞳に浮かべた酷薄な色を吹き消して、立っていた氷の板から飛び降り、道路に倒れ伏した入江の元に向かう。

 

 

「入江君、無事ですね?」

「あ…レイさん……」

「“御守り”を付けておいて正解でした。もう二度とこんな無茶はしないように」

 

 

 ボロボロになった入江の無事を確認し、安堵したレイがその背から氷の華を取り外して仰向けに寝かせる。

 

 彼女が入江の背に付けた“御守り”。それは彼女の異能で創り出した氷の破片。

 目に見えぬ程に細かなそれを起点にスネグーラチカを行使し、入江の体を貫くはずだった凶弾を停止せしめたのである。

 

 

「…君は少し眠れ。安心しなさい、悪くはなりません」

 

 

 それは私が保証する。

 

 その言葉にどれ程信頼が置けるのか知る入江は、小さく頷いた。

 少なくとも彼女は、後先考えずにこのようなことを言う人物ではない。

 

 

 無言でレイが指先を入江の額に置くと、その体が冷気で包み込まれる。

 その胸に灯っていた標的の炎(ターゲットマーカー)が、フッと消えた。

 

 レイが創り出す氷や雪は、彼女の波動が形を成したもの。故にこそ、他者の肉体へ影響を及ぼすことは容易ではない。

 冷気を伴った生体エネルギーを、相手の肉体に流れる生体エネルギーが相殺してしまうからだ。

 

 しかし、幸か不幸かレイという少女は波動についても人を超えていた。人体内部の凍結はともかく、生体エネルギーの流れを乱し、一時的にコールドスリープさせる程度であれば、相殺不可能な量の生体エネルギーを流し込むだけでよかったのだ。

 そして今、入江に施したのはかつての力押しだったそれを技術として磨いたもの。対象を氷塊で覆ってしまうと凍傷などのリスクがある、と拘束ではなく相手の生体エネルギーを乱すことを目的としていた。その分持続時間は長くても一時間と計算が出ているが、この場合はそれだけあれば十分だろう。

 

 

「ッ───レイ!!!」

「沢田君…」

 

 

 夕焼け色の炎を燃やし、降り立った綱吉が、レイに駆け寄る。

 その傍らに横たわる入江の姿を見て一瞬絶句した彼は、縋るようにチョイスの全てを掌の上で操る少女を見た。

 

 

「正一君…どうなってるの…?」

「擬似的なコールドスリープ状態です。生体エネルギーの循環が最小限なので標的の炎(ターゲットマーカー)は消えていますが…間違いなく生きています」

「そっか……よかった」

 

 

 仲間の無事を知り、大きく息を吐いた綱吉。その耳に、慣れ親しんだ音が飛び込んできた。

 

 

〈ツナ、レイ。こっちも倒したぜ〉

〈野球バカにしてはよくやったじゃねーか。…10代目、スパナの野郎は無事です! レイは何してやがる!?〉

「…こうでもしなければ、この大バカ者が死にそうだったのです」

 

 

 スパナの安否を確認し、ようやく気を緩めたらしいレイが唇を尖らせながら視線で示す先にいるのは、今(まさ)にチェルベッロが標的の炎(ターゲットマーカー)の消滅を確認している入江。

 

 

「……わかっていると思いますが、これで終わるつもりは毛頭ありません。今はそれしか言えませんが…」

「うん。わかってる、信じてるよ」

〈桔梗に防衛ラインを突破されたのはオレの責任でもあるしな。まあ信じてやる〉

〈レイが意味もなくこんなことするよーな奴じゃねーのは知ってるのな!〉

 

 

 仲間達の言葉に、レイがそっぽを向く。

 その耳が赤く染まっているのが見えて、綱吉はクスリと笑みを零した。

 

 

 だが。

 僅かに流れた穏やかな空気は、通信機越しの呑気な声と、それに続いた山本の驚愕の声に引き裂かれた。

 

 

〈う〜ん、やっぱり死ねないのか〜〉

〈そんな…トドメは刺してねーが、完全に倒したはず!!〉

「ウソ…!」

「……」

 

 

 倒されたはずの敵標的(デイジー)が、何でもないように起き上がる。

 ミルフィオーレの基地ユニットで起きた出来事を察して思わず声を上げた綱吉に対し、レイは少々退屈そうな無表情を貫く。

 

 そんな二人から十分に距離を置いた地点で、レイに斬られた左肩を抑え、しかし怪我の割に平然とした様子の桔梗が、観覧席含む状況を飲み込めていない全ての人間に説明するように口を開く。

 

 

「デイジーは“不死身の肉体(アンデッドボディ)”を有していましてね。死ねないのが悩みだという変わった男なのです」

「成る程、体内を巡る(活性)の炎による自己治癒を常時行っているのですか」

 

 

 特に感慨もなく、しかしそれ故の恐ろしさが宿るレイの声が簡単かつ簡潔に、デイジーの不死性のタネを暴き立てた。

 隣の綱吉は驚愕の表情を浮かべ、桔梗も左肩に当てていた手を口元へとやっているが、彼らに視線を合わせることもない。

 

 理解していた故に驚愕はなく、予測のうちである故に感慨はない。

 自身を“バケモノ”とまで称した少女に、そんなものは有り得ない。

 

 今後起こり得る全てを予測し、その中でも最善の結末へ至る道を選択し、進んでいる───言ってしまえば全て知っていて当然の状態であるのなら、尚更だ。

 

 

「これにより、チョイスバトルの勝者が決まりました」

〈勝者は───

 

───ミルフィオーレファミリーです!!〉

「チョイスバトルが終了致しましたので、全通話回線を解放します」

 

「よし、もういいから入江君、さっさと起きなさい」

 

 

 レイはわかりきった結果を告げたチェルベッロを興味はないと言わんばかりに押し退け、己の手でコールドスリープさせた入江の頭を小突く。

 事実として、既に『友人達の過去への帰還』を第一に達成すべき目標と定め、それに関わりがないからとチェルベッロに対する複雑な感情を一時的に排している今のレイにとっては、チェルベッロの二人は背景以外の何物でもないのだ。

 

 チェルベッロも、レイからの粗雑な扱いに物申すことはなかった。表情にも変化一つ見られず、そもそもレイに押し退けられたことを感知していないようですらある。

 

 

「ぅ……レイさ、ん、チョイスは…?」

「こちらの負けです。その程度、私ならざる君でも予想がつくでしょうに」

「ははっ、そうか…」

「そんなことより入江君、君が10日間先延ばしにし続けたことがあるでしょう? いい加減に話しなさい。私も詳しく知っている訳ではないのです」

「相変わらず辛辣だなぁ…」

 

 

 結果はどうあれ、チョイスという大一番が終わったからか、入江は身を起こすと落ち着いた様子で語り始める。

 

 11年前の些細な出来事から始まった、白蘭との因縁を。

 

 10年バズーカに被弾したこと。

 2回目のタイムトラベルで白蘭に己の能力を自覚させてしまったこと。

 そして───その能力の詳細。

 

 

「───白蘭サンは、同時刻のパラレルワールドにいる全ての自分の知識と思惟を共有できるんだ」

「この世に情報に勝る武器はない…その能力を使えば、()()()()()()()も容易く起こせるでしょうね」

 

 

 合流した観覧していた者達にもわかるように、レイはその具体例とも呼べる兵器・(ボックス)を片手で弄んだ。

 

 長らく調査を続けていたこの時代の雲雀に『偶然が成り立たせた』とまで言わしめた兵器。

 レイもメローネ基地強襲以前にジェペット・ロレンツィニが残した343編の設計書の一部の写しに目を通したが、事前に白蘭の能力を知らなければ、そう表現するしかなかっただろう。

 

 手の中に収まってしまう正六面体に詰め込まれた技術は、科学技術の発達したこの時代においてもオーバーテクノロジーの部分が多いのだ。

 もしも、レイがかつて生きた時代であの設計書を見つけても、(ボックス)の開発には至らなかったと断言できる。それを白蘭は、“ゲームを面白くするためのアイテム”としてこの世に生み出させた。

 

 

 ヒトの範疇に収まらない能力。レイ自身の頭脳もそれに類するものではあるが、この場合は一括りにすべきではない。また、様々な事情から(アルコバレーノ)の大空は除外される。しかし、レイは白蘭のそれと同じ枠に分類すべき能力の持ち主を知っていた。

 

 即ち、彼女の大空。

 ボンゴレ初代ボスにして、ボンゴレリングに選ばれた適応者───ボンゴレI世(プリーモ)・ジョット。

 

 記憶を辿り、うっかり思い出したくないことまで思い出しかけてしまったレイに、大体の説明を終えた入江が話し掛ける。

 

 

「レイさん…この時代(ここ)が選ばれた時代であり、チャンスはこれっきりだということは君も理解しているはずだ。なのにチョイスをこの結果で終わらせた理由を、教えてくれ」

 

 

 途端に集中する視線に居心地悪そうに顔を背けたレイは、「もうすぐ来ます」とだけ告げた。

 

 

「来る…人、なのかい?」

「誰だか知らないけど、その人が来る前に全部終わるからどうにもならないよ、レイちゃん」

 

 

 (リアル)6弔花を引き連れ現れた白蘭の薄紫の瞳と、レイの深海色(ブルーダイヤモンド)の瞳が見つめ合う。

 片方は飄々と、しかし嘲りを隠さず。もう片方は冷静に、しかし自信に満ちて。

 

 

「来ますよ。───いいえ、もうここにいます」

 

 

 その言葉と同時に、リボーンのおしゃぶりが光り輝く。

 

 ───大空()のおしゃぶりを持つ虹の姫君と、雪花と謳われた守護者の、全く同じ色形の瞳が互いの姿を映した。




・昔の価値観出しまくり

 頑張ってボンゴレに有利な状況を積み上げている。
 人体内部に氷塊を創り出す外道戦法は、簡単に言えばコストが高過ぎるので使用不可能。
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