六道君の援護。
着地に失敗し方々へ散った追っ手。
並中へ向かった雲雀君達。
大丈夫、全部予定通りに進んでる。入江君の大怪我は防げたが、そのバタフライ・エフェクトが起きる様子もない。
……本当はいいことなのだが、素直に喜べないな。だって、それはつまり───
「レイちゃん? 大丈夫??」
「え、ああ、問題ありません。京子ちゃん達も大丈夫ですか? その、だいぶ怖い思いをさせてしまいましたが…」
女子の更衣室で、京子ちゃんに尋ねる。
半ば予定調和とは言え、彼女らのいる場所を戦いの真っ只中にしたのは私だ。
「…それは、少しは怖かったけど」
「でもいいんです! ハル達を守るために、レイちゃんやツナさんがいつも頑張ってるのは知ってますから!」
京子ちゃんが右に、ハルちゃんが左にくっついてくる。
何となくこそばゆくて、顔が赤くなった。
だが、そんな幸せは、ほんのひと時しか許されない。
脈絡なく響いた警報音に、ブラウスとコルセット付きのジャンパースカートの上から
「うお"ぉいっ!! 何事だぁ!!」
「全員無事か!」
「スクアーロ! ジェラルド!」
通信室から救援を要請していたスクアーロ君とジェラルド君の背後の壁が崩れ、ボンゴレアジトに侵入した賊…嵐の
奴は態度こそ真面目とは程遠いが、目に見えない嵐の炎で先制攻撃を仕掛ける等頭は回る。
「そろそろ一人でゆっくり静かにひっそり、暴れてぇーんだぁ!!!」
「ハッハハ!! そーいやそーだな♪」
「そういうことなら、私も残らせてもらいましょう」
ゔぉい!! とただでさえ大きい濁声を張り上げるスクアーロ君に、肩を竦めて見せる。
「少し確認したいことがあるのです。君の邪魔はしませんよ」
「わかりました。隊長! もし戻って来なかったらボスのアレソレの後始末全部隊長に押し付けますね!!」
「う"おぉぉおい!!」
ヴァリアーの二人の遣り取りに笑い、後ろ手に手を振って沢田君達を急かした。
「わ…わかった!! じゃあみんな…アジトから出ようか…?」
戸惑いながらの指示とユニの礼を聞き届け、即座に霧のリングに炎を灯し、幻術を使う。
対象は勿論ザクロだ。
「! …何をする気だぁ」
「静かに、見ていなさい」
スクアーロ君が異変に気付いてこちらに寄ったのを確認して彼の姿を幻覚で隠し、氷で作った人形を幻術でスクアーロ君に見せてザクロと戦わせる。
私は有幻覚が使えない。だけど、普通の幻覚の精度なら
それでも賭けにはなるが、勝算はある。
私の師匠が、私の幻術のクセを知らないはずがないんだから。
修業の時の山本君の動きとチョイス会場離脱までの戦闘で覚えた、
私の幻術でカバーが追い付かなかったところは、いつの間にか誰かの手によって補われている。
さすがは師匠、私が何をしたいのかも全部わかっている様子で、補い方にも無駄がない。
そして、あっという間にザクロが幻覚のスクアーロ君の左腕を切り落とした。
驚愕に息を飲むスクアーロ君は放って、更にダメ押しに、声帯模写で再現したスクアーロ君の声で沢田君達に通信を入れる。
完全に再現できる訳ではないから山本君やジェラルド君辺りには確実に気付かれるだろうが、ザクロさえ騙せればそれでいいので問題はない。
最後にスクアーロ君が危ないことを悟った私が撤退するところを見せれば完璧だ。ザクロは自分が何と戦わされていたのかも気付かず、豪快にアジトを壊しながら立ち去った。
「…オレの技が、既に見切られていただとぉ…?」
「白蘭は
「お前が確かめたいっつったのはこれかあ"ぁ…」
その通りである。正確には、私がこの情報を知っていてもおかしくない状況を作ることが目的だったのだが。
これで、ボンゴレ
思わず、ポケットに隠したものを握り締める。
「ボンゴレ
「それもそうだなあ"ぁ!!」
旧知の仲であるディーノ君が心配なのか、それともただ単に気合を入れるためか。今までよりも大きく答えたスクアーロ君を連れ、アジトを脱出する。
その直前、
◆
「ゔおおぉい!! もう少しマシな移動手段はねえのかあ"ぁ!!」
「仕方がないでしょう、迂闊に街に出ては
今私達がいるのは、並盛上空50m地点。
スクアーロ君はこれに乗って直線距離で並中まで突っ切るのだと思っていたらしく、上昇し街を見下ろせる位置についてから文句ばかり言っている。
だが、こればかりは私も譲れない。スクアーロ君は目立つ、とにかく目立つ。そんな奴を地上に出したらいいカモだ。タイミング的にも桔梗やブルーベル、トリカブトら増援とかち合わずに済む以上、空路を使わない理由はない。
並中上空まで移動しながら、今沢田君達が川平不動産を目指し走っているのだろう商店街の方を見る。
彼らのことは、心配ない。
川平がいる限り、沢田君達がザクロの襲撃を受けることはないと、断言できる。
不意に、黄色の閃光が並中から溢れ出した。
「ゔおぉい! あれは何だぁ!!」
「わかりません…急ぎますよ!!」
デイジーが修羅開匣を使ったということは、沢田君達はザクロから逃れた、ということでいいだろう。
通信機器をおいそれと使う訳にも行かないので、その情報を得るためにもディーノ君と合流しなくては。
校舎の間に橙色の光を見とめ、犬ゾリの速度を更に上げる。今のは確実にディーノ君の
「このまま突っ込む、舌を噛まないように注意しなさい!」
何かを喚くスクアーロ君のことは無視だ。できれば気が散るので黙って欲しいが。
鞭と思しき橙に黄色が急接近している。
デイジーの腕が再生しているのも、ディーノ君の鞭の一振り一振りも視認できる。
後、もう少し…───!!
「させるものですか───!!」
所々に
ズザザザ、と地面を滑って校舎にぶつかり、ようやくソリが停止した。
「全員無事ですか!!」
「少しはオレのことを気にしろぉおお!!」
いやそんなに叫べるってことは間違いなく元気でしょう、君。
スクアーロ君のことは気にせず、ソリから飛び降り周囲を見回す。
ディーノ君はソリが突っ込んだ余波で尻餅をついているが無傷。草壁君とロマーリオさんは言わずもがな。雲雀君は…。
と、轟音が響いて校舎の壁に何かがめり込む。
下手人が雲雀君とくれば、めり込まされたのはデイジーで確定だろう。
「よし、ここは雲雀君に任せましょう」
「何言ってんだぁ、相手は
「オレの技も攻略されていた…ありゃさすがの恭弥と言えどキツイんじゃねーか?」
否定的な意見を述べるスクアーロ君とディーノ君、不安げに見つめる草壁君とロマーリオさんに、ふ、と笑いが漏れる。
「何のためのボンゴレ
白蘭は私達のことを侮っている。
幾度となく相対し、そして滅ぼした
だが…獲物がいつまでも狩られるのを待つだけの存在だと思っているのなら、その慢心を利用し尽くすまで。
「いくよロール、
光が散った時には、彼の手には黒光りする手錠が収まっていた。
自分以外で初めて見る、ボンゴレ
あの武器の原型となった手錠を、日常的に見ることができた頃。
こんな未来が待っているなんて、思いもしなかった。
私も彼らと同じように受け継がれる側なのだと、疑いもしなかった。
まさか、その頃の自分の跡を、表向き継ぐことになるなんて。
まさか、ボンゴレ
本当に、考えもしなかったのだ。
「レイさん、大丈夫ですか…?」
「何がでしょうか、草壁君」
「いえ、何というか…目が…」
心配そうに見て来る三人を、雲雀君とデイジーの戦闘に集中しているフリをして無視する。
それでも紫の炎を纏った手錠が振るわれる度、思い起こされるのは戦場での彼の姿。
ああ、私は本当に彼が好きなのだと、こんな時なのに再確認してしまう。
女々しくも考えている間に、調子に乗ったデイジーがペラペラと修羅開匣に関する情報を喋ってくれる。
彼がこちらに注意を払っていないことを確認の上で、ディーノ君に尋ねた。
「ところでディーノ君、沢田君達は今何処に?」
「五丁目の川平不動産で匿われてるが…お前、呑気だな。恭弥が押されてるってのに」
予測通りに運んでいることへの安堵と共に、ディーノ君の問いの答えを呟く。
「信じていますから」
彼も私の
そんな思いを込め、口角を上げて告げると、ロマーリオさんと草壁君が何故か微笑ましげな生暖かい視線でこちらを見ていた。
それに首を傾げつつ、言葉を続ける。
「それに、彼のボンゴレ
見れば、既に雲雀君は立ち上がり、両手で手錠を回している。
その仕草を、彼もよくしていたと記憶を辿って。
「その程度なら
(───あ、らうでぃ、くん……?)
はく、と意味を成さない空気が喉から漏れた。
今、一瞬。ほんの一瞬だけだけど。
彼の姿が、確かに見えた。
今の私でも胸に届くかどうかというくらいに背が高くて、細く見えるけど意外に肩幅もあって、がっしりしてて。
守護者最強の渾名に恥じずとっても強くて、『鬼神』なんて呼ばれたこともあった。
それなりに手入れはしているらしくてふわふわの髪は、綺麗な
瞳は深い湖に喩えられる私のそれより薄い、冬の空の色。
いつも人付き合いなんて二の次で、ジョット君の誘いも断ってばっかり。
でも、本当に危ない時は誰よりファミリーに優しくて。
まるで子供にするみたいな頭の撫で方は、少し不満だったけど。
低くて優しい声で、名前を呼ばれるのが好きだっ───あれ。
あれ、思い出せない。
彼が私を呼ぶ声が、どうしても見つからない。
顔から、血の気が引く。
いつかはこんな時が来ると、わかってはいたけれど。
何故、今なんだ。
(今更、なんで、こんなこと)
胸の懐中時計を、握り締める。
本当に、何故今更。
こんなことに気付く機会は、前からあっただろうに。
怖気付いた?
…いいや、まさか。
この私が恐れるなんて、バカなこと。
「思ったより情けないね。君が死にたくても死ねないのは、晴の活性の炎が体内を巡っているからだろ?
これは風紀委員が没収する」
けれど、全身を締め上げられ、泡を吹いて倒れたデイジーのリングを雲雀君が奪ったところを見ても、体は動こうとしなかった。
・(表向き)2代目雪の守護者
自分のことを受け入れてくれた友達も、何も言わずに無茶振りしてもしっかり応えてくれる兄も大好き。こっそり頭を撫でてくれたのが本当に嬉しかった。
しかしそれも一転、大好きな人の声が記憶から消えていることに気付いてしまった。正確には忘れた訳ではない。つい10日前までイントネーションどころかニュアンスまでそっくり同じ人と接していたので、そっちに上書きされてしまっているだけ。
・(表向き)10代目雲の守護者
使い勝手がわかり過ぎる武器を手にした。気を付けないとトンファーではなく手錠がメインウェポンになりそうな気がしている。
尚この人は気に食わない裏切り者が未だに現世を彷徨っているとは知らない。何故かと言えば一度死んでからの記憶を『生まれ変わりの対価』という形で差し出したから。
・初代兼2代目霧の守護者
末妹が何をしたいのかに即座に気付いてサポートしたぐう有能師匠系亡霊。
尚この人は未だに10代目雲が自分の天敵だと気付いていない。いや似てますがまさかそんなはずは…。10年後のレイが雲雀と結婚した時もあいつのドッペルゲンガー野郎とですか…当人じゃない分まだマシですかね…などと複雑な心境で祝福していた。残念、そっくりさんどころか魂レベルで同一人物です。