本来ならば、それぞれの大空のみが存在を許されるその内部に…“異物”が一人。
「レイちゃんが来たのは想定外だけど…まあいいや♪」
ニコニコと薄っぺらい笑みを浮かべて宣う白蘭を絶対零度の眼差しで見つめるのは、
白銀の双剣を構え、己を庇う彼女に、ユニは茫然と問うた。
「レイさん……どうして、ここに…?」
「……」
ただ一言、
「…ユニ。私は、君を生かすために
まっすぐにユニの瞳を見つめるその
真摯にユニを思い、彼女を救うために命すら懸ける、強い覚悟が窺える眼差し。
それを目にしたジェラルドは、息を呑んだ。
彼女が何をしようとしているのかを、朧げではあるが察したが故に。
「…貴女は、そこまでっ……」
「ジェラルドてめえ、何知ってやがる!?」
結界の外の喧騒が聞こえているのかいないのか、レイはユニだけを見つめ、告げた。
───彼女がこの時代に来た、その最大の理由を。
「君がやろうとしていることを───
アルコバレーノ。
白蘭によって殺された、ユニやリボーン、ラルの同胞達。
唐突に出されたその名に、そして復活という単語に、全員の視線が二人の少女に集まった。
既に死亡している彼らをこの世に呼び戻せるのは、彼らの
それをこの中で一番理解するユニは、何故自分がこれからしようとしていることがわかったのかという疑問も差し置いて、激しく首を横に振った。
「そんなの、無理です! これは
「それは承知の上です。その無理を押し通す方法があるから、私はここにいる」
アルコバレーノの大空として己の務めを全うせんと、その
かつて
「それは……!」
「白いおしゃぶりだと!?」
「レイの奴、一体何を…!!」
そう、それはアルコバレーノのものと寸分違わぬおしゃぶり。
ただ、各属性の炎が灯っているはずの中央部分には、細かな歯車が組み合わせられている。
それは、この日のためにレイが寸暇を惜しんで創りあげたモノ。それを入江提供の薬品に浸し、雪の炎の放出が叶うようにした。
人工的に創られた、透明なおしゃぶりだ。
未来の彼女は、己のことを
それは作戦上ではなく、体質上のことを言っていたのだ。
それ即ち。
「私の炎、雪の炎は───色を持たないが故に、どんな炎の代替も可能です」
胸のおしゃぶりに手を当て、彼女は己がここにいる理由を、他の誰でもいけなかった訳を告げた。
「これなら、君の代わりも十分に務まるでしょう?」
花が綻ぶような、穏やかで美しい笑みを向けられたユニは、いやいやと繰り返し首を振る。
己の代わりになる。
ああ、確かにそれなら可能だろう。前々から炎を込めてきたのだ、それに更に高純度のエネルギーを加えれば、アルコバレーノの復活も容易く現実となる。
だがそれは、つまり。
「ダメです、絶対に…だって、それじゃあ、レイさんが」
「ええ。君の代わりになるということは、“命の炎”を燃やすということ。
───確実に、私という存在は消滅するでしょう」
まるで、明日の天気を告げるように何でもない声で。
どうしようもなく、穏やかで優しい顔をして。
その声色を聞けば。
その表情を見れば。
彼女が残酷な
けれど。
それを受け入れることができるかは、彼ら自身の問題なのである。
「しょう、めつ…?」
茫然と、夕焼け色の瞳を見開いて、綱吉が呟く。
大切な友人が、一緒に過去に帰ることを疑いもしていなかった少女が、自らその命を
「レイさん…」
悲痛な色を声に滲ませ、ジェラルドはそれだけ絞り出した。
その横では、彼女と共に戦ってきた守護者達が驚愕の表情を浮かべている。一番動揺の色が濃いのは雲雀だ。
そんな周囲の様子に顔を歪めたレイは、一瞬ののちにはそんな気配すらも吹き消して、改めてユニと向き合った。
「ユニ。私が引き継ぐ君の役割は、大空のアルコバレーノのもの。私が君の、
だから、君は大切なひとと生きなさい。
少しだけ、ほんの少しだけ、その言葉に抱いた覚悟が揺らいでしまったユニは、その罪悪感を消そうとするかのように言い募る。
「それはレイさんも同じです! レイさんだって、過去に戻ったら沢田さん達と平和に過ごせます…!!」
それは、ユニが信じ続けたもの。
ファミリーの目を気にしながら自分に会いに来て、これからの全てを計画し、心配しなくてもいいと微笑んだ女性の過去の姿を、無事に平和な世界へと帰す。
きっと彼女は、救えなかった自分のことを悔いながらも、あたたかな世界を生きていくのだと。
けれどユニのその言葉に、レイは悲しげに瞳を細めた。
「……無理なのです、ユニ」
「え…?」
何が“無理”なのか理解できずに思わず首を傾げたユニに、レイは儚く笑って。
「私の体は、既に
───
そして、残酷な現実を知らせた。
「そ、んな…」
3ヶ月。たったそれだけ。
過去に帰ったとしても、今までに受けた影響が消える訳ではない。
季節が変わらないうちに、彼女は死に至るだろう。
目の前が真っ暗になり、顔を蒼褪めさせてよろめいたユニを支え、レイは言う。
「私が君の役割も呪いも肩代わりすれば、君は生きられるのです」
「うそ、だって、レイさんが、レイさんも、沢田さん達と一緒に」
どう足掻こうと、彼女は救われない。
その選択肢を選び取るには、何もかも遅過ぎた。
その現実を直視できず、ユニは縋るようにマントを掴んだ。
「…ユニ。生きたいのなら、生きるべきです。
落とされた言葉に見上げた先、己のそれと酷似した色形の瞳。
ユニはその中に、全てを焼き尽くすような劫火を見た。
優しく諭す訳でもないその言葉は、彼女の偽らざる本心なのだろう。
ユニと同じように何かを背負い生まれてきた彼女は、それ故に別の何かを、彼女が本当に大切に思っていたものを
返す言葉を見つけることができず、俯いたユニに何を思ったのか、レイが再び口を開く。
「それでは、言い方を変えましょうか」
そうして指し示されたのは、結界の外。
固唾を飲んで見つめる者達の中には、
愛する人の姿に目を見張ったユニの華奢な肩をそっと手で包み、レイは笑った。
「私が失ってしまったものを、君はまだ持っている」
だから───生きなさい。彼と共に。
しゅるりと大空のおしゃぶりをリボンから外し、それ以外の5つと共に腕の中に抱えたレイが、そっとユニの背を押した。
刹那のうちに少女の体を包んだ氷は地面を滑り、結界の壁を越えたところでようやく溶ける。
「ひ…姫!」
「ユニ、無事だな?」
「
ユニの視線の先、レイの首にかけられた白のおしゃぶりが───淡く、光を放ち始めた。
・この日のために、何もかも掌の上で踊らせた
無色の波動は他の炎の効果を発揮することはできない。本編でユニの代替が叶ったのは既に相当量の大空の炎をユニがおしゃぶりに注ぎ込んでおり、またレイの波動がエネルギーとしては膨大かつ純粋なものであるため。簡単に言うと少量のオレンジジュースに高級な水を入れて嵩増ししているような感じ。どんなに薄くてもオレンジジュースはオレンジジュースとゴリ押ししている。
そして同時に。当然のように死を強いる運命なんてものを、絶対に認める訳にはいかない故の行動でもある。
・踊った先にあったのは、絶望の再演
彼女が望むのならと、信頼故に最愛の掌の上で踊っていた。ただただ可哀想。