参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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後もう一話だけ第四章は続きます。なので断章も次話となります。と言ってもエピローグ的な話になるので、事実上今話で完結です。
後書きは最後の一話を投稿してから活動報告に上げる予定です。

余談になりますが、Xに創作垢を作りました。
今作の小ネタや短編を載せているので、よろしければどうぞ。
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標的71 未来より、過去へ

「ど、どういうことだ…!?」

「レイ、しかも10年後の…!?」

〈いいリアクションありがとう、10年前の笹川君に山本君。是非とも生で見たかったのですが、そういう訳にもいきませんからね。それと、このドッキリの仕組みはヴェルデ博士ならわかるでしょう〉

 

 

 嫣然と微笑む10年後のレイから水を向けられたヴェルデは眼鏡を押し上げ、辺りを見回すとジェラルドを指差した。

 

 

「そこの男の方に小型の映像投射装置がある。恐らく持ち運びの効く何かに内蔵されているんだろうが、そこから投射される立体映像(ホログラム)だ」

 

 

 震える手で、ジェラルドがバッジを取り外す。

 半年前、彼の誕生日にレイが贈ってきたものだ。それから制服に着け続けていた。

 

 ヴェルデの予想が正しいことを証明するように、バッジの動きに合わせて立体映像(ホログラム)のレイは揺れ動く。

 

 

〈理解はできましたか? 貴方達が見ているのはただの立体映像(ホログラム)。入れ替わりが起こる以前に撮影されていた映像記録です〉

「え、映像記録!?」

「ならなんで芝生達の反応がわかるんだ!! どっか隠れてんじゃねーだろうな!!」

〈…獄寺君。私が誰なのか、忘れていらっしゃるので?〉

 

 

 挑発的に笑ったレイは、その笑みを吹き消すとひたりと綱吉達を見据えた。

 

 

〈私は雪だ。君達が何を言うか、どんな表情(カオ)をするか。全て予測できるに決まっています〉

 

 

 彼らの反応を予測し、それに相応しい言葉を記録として残す。

 言葉にしてしまえばたったそれだけだが、それができるのは世界広しと言えど彼女ただ一人だろう。

 

 

〈本当は私の思考をAI(人工知能)に落とし込もうかとも思いましたが、諸々問題が浮上しまして。さすがに断念せざるを得ませんでした〉

〈レイが二人とか悪夢でしかないから、断念してくれてホント助かったよ〉

 

 

 バッジを音源として、聞き覚えのない声がレイに言葉を投げた。

 

 いや、正確に言えば綱吉達には聞き覚えのない声だ。

 10年後の面々は、驚いたようにバッジに視線を向けている。

 

 

「おい跳ね馬、このお声はまさか…」

「………この時代のツナだ」

「オレ!?」

 

 

 声だけではあるが、10年後の自分の存在に綱吉は目を剥いた。

 

 この時代の綱吉は、入江やこの時代の雲雀、レイと共に入れ替わりを仕組んだ張本人。

 その果てにある白蘭との決着を前提とするならば、確かに映像記録を残していたとしてもおかしくはないが。

 

 

 レイはと言えば、ジトリとした視線を真正面に向けている。

 

 

〈……沢田君、最近二重の意味で体調が思わしくないのでノーリテイクで行こう、と話しませんでしたか。具体的には3分程前に〉

〈あっ〉

〈『あっ』ではないのですが。…では改めて紹介しましょう、機材担当の沢田君です。彼が機材から離れると撮影もストップしますから、映像は期待しないように〉

 

 

 10年後の綱吉、と聞いてそわそわと何かを期待するような視線をレイに向ける獄寺が口を開く前に、先手を打ってレイが言う。

 

 

〈因みにこの歳になってもドジっ子気質が抜けない彼が何故機材担当かと言うと、単純な消去法です。入江君はスパイやってて忙しい、六道君にこんなことで貸しを作るのは癪、雲雀君はもう論外〉

〈何できょ…間違った、雲雀さんが論外なの…オレより適任じゃん…〉

 

 

 自分でも不得手なことをさせられている自覚があるのだろう、弱りきった10年後の綱吉の声に、レイは唇を尖らせて目を逸らした。

 

 

〈だって私が消滅する(死ぬ)とか言うと、怒って計画の全修正を要求してくるでしょうし〉

〈怒るに決まってんじゃんオレだって怒りたいの我慢してるんだよ!! 味方の犠牲ゼロで戦いを終わらせるために過去の自分死なせるってどういうこと!?〉

「何それどういうことなの!?」

〈どちらの沢田君も口を閉ざしなさい〉

 

 

 二人の綱吉の叫びを切り捨てたレイが、一つ息を吐いて口を開く。

 

 

〈まず、『私』のことは心配せずとも構いません。10年前に帰れば、何事もなかったかのように貴方達の前に姿を見せる…と言いたいところなのですが───多分ぼーっとしているでしょう、迎えに行ってやってください〉

 

 

 その言葉は、間違いなく福音だった。

 

 消えたはずのレイに、10年前に帰りさえすればまた会える。

 そうとしか受け取れぬ言葉に、京子とハルが口を挟んだ。

 

 

「迎えに、行けるの?」

「レイちゃん、消えてないんですか!?」

〈過去で再構成されるだけですので、消えていない、と言うと語弊がありますが…実質的にはそうなのでしょう。それもあって非7³線(ノン・トゥリニセッテ)の影響も消えるはずですから、体のことは気にしないように〉

 

 

 溜息混じりに立体映像(ホログラム)の彼女が告げた瞬間、わ、と空気が揺れた。

 

 自ら進んで身を差し出した、彼らにとってただ一つだけの、平穏の代償。

 それが、取り戻せる。

 

 都合のいい奇跡のようだが、それを告げるレイの声音に嘘の色はない。

 今ここにはいない彼女は、幼き日の友人達の歓喜を想像してか慈しむように目を細め、そして言葉を続けた。

 

 

〈───そして、肝心の『私』がいるだろう場所ですが。ボンゴレアジトの食堂、入って右手、一番奥の椅子の座面に文書を隠しておきました。一応暗号にはしてありますが、簡単なものですから心配は無用です〉

〈レイの簡単の基準おかしいから不安でしかないんだけど〉

〈万一帰還までに解けなかった場合は雲雀君に見せなさい。彼なら一目見ただけで解読できます〉

 

 

 唐突に名前を出された雲雀がキッと立体映像(ホログラム)のレイを睨むが、彼女は怯えるどころか、少し困ったような表情で雲雀を見た。

 

 

〈お願いします、雲雀君〉

 

 

 ───目が合ったと、そう感じたのは、きっと気のせいではない。

 

 どういった経緯を経たのかはわからないし、知る(すべ)はない。知らずとも構わないと、雲雀は思う。

 けれどこの時代の己と彼女が、かつてとは違った形で共にいる選択をしたことは明らかで。

 

 それを否定する気は、まるでなかった。

 

 

 かつてと同じ、信頼から来る甘え。

 それに隠れて仄かに滲む、かつてには有り得なかった甘い色。

 

 かつて、彼が取り戻したかったものと、望んだもの。

 今の雲雀には、それだけで十分だった。

 

 

「………今回だけだからね」

 

 

 眉間に皺を寄せ、少なくとも表面上は心底嫌そうに言った雲雀に、綱吉はホッと息を吐いた。

 暗号解読のノウハウなんて持ち合わせていないし、ましてやいっそ怪物的ですらある頭脳を持つレイが作った暗号なんて、解ける気がしなかったからだ。

 

 その光景を予測したのか、当のレイがふっと唇を綻ばせる。

 

 

〈ユニ、落ち着いたらまたお茶会でもしましょう。前は私が話してばかりでしたので、今度は貴女の大事なひとの話が聞きたいです〉

「は、はい!!」

〈それでは入江君、後は任せました。アルコバレーノも、マーレリングの封印よろしく頼みます〉

「うん、任されたよ」

「心配すんな、コラ!!」

 

 

 返答が聞こえていたはずはないのに、満足げに微笑んだレイの姿が乱れ、プツリと途絶えた。

 

 

「レイちゃん…」

「本当に、規格外なひとだよね…」

 

 

 あはは、と笑った入江が、改まって声を掛けてくる。

 

 

 綱吉達の願いを、叶えるために。

 本当の意味で、この戦いを終わらせるために。

 

 『友達』を、迎えに行くために。

 

 

「過去へ帰ろう!!」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 微睡みから醒めたような心地。

 痛みはない。そも、感覚と呼べるものがない。

 

 それでも、己が己として在るのなら。

 

 

(戻らなくては)

 

 

 何としてでも、友達のところに。

 

 

 こうなるかどうかは、純粋な賭けだった。

 だからこそ、決定された“終わり”が無意味なものにならないよう、策を練った。

 

 それが本当の終わりになったとしても、後悔など抱かぬように。

 

 

 それでも、一つだけ決めていたことがある。

 

 絶望に身を浸すばかりだったあの頃、彼女に逃避を許さなかった呪いが、祝福になると言うのなら。

 絶対に、その道を選ぶのだと。

 

 大切な家族との、そして死の間際とは言え()()()()()()()程焦がれる最愛との再会が、また遠ざかるのだとしても。

 

 もう二度と、()()()()()()()と。

 

 

『行くのですね、ワタシの子。小さな歯車』

 

 

 そう声を掛けられ、レイは顔を横に向け、その存在に視線を向けた。

 

 黒髪に深い青の瞳。

 命を懸けて守った少女に瓜二つの女性───の姿を、借りたモノ。

 

 

 その呼び方に、思うことがない訳ではないけれど。

 それよりも大切なものを、レイは知っていた。

 

 だから、素直に首肯する。

 

 

「ええ」

『対価を差し出してでも、ですか』

「…これは、対価ではありませんよ」

 

 

 システム的に見れば、レイが差し出すものは対価以外に有り得ない。

 

 再びの生を得るためには、それ以前の記憶を差し出す必要がある。

 六道骸やセピラの友だったのだろう女性のように、時折例外を生んでしまう欠陥システムのようだが、それでも記憶という対価の必要性は原則と呼べるものなのだろう。

 

 

 けれど、レイが差し出すものは対価にはなり得ない。

 

 レイではない誰かが、予知した未来。

 レイではない誰かが、忘れなかった思い出。

 

 遺したかったのだとしても、他の誰かに手渡してはいけなかったもの。

 

 レイにはもう不要な記録を、彼女達の思い出を、彼女達だけのものに戻す。

 

 

「こういうのは、手向けと呼ぶのです」

 

 

 答えに対する返答は、初めから求めていなかった

 何らかのリアクションがあったとして、それはジョットと出会う前、レイが浮かべていた微笑みと同義のもの。

 

 レイの言葉を本当の意味で理解することはなく、感情を知ることもない。

 ソレにとって、人の心の機微は小さ過ぎる。

 

 そうと知りながら言葉を交わさなければならない状況に嘆息しつつ、言葉を続ける。

 

 

「そも、アナタが【私】に科した【命題】は未だ完遂されていないはずです。ここで私に生を放棄されるのは、アナタとて困るのでは?」

『ええ。今の貴女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ですが、ワタシは貴女(歯車)殺せ(壊せ)ない。そして、今の貴女でも求めたことを成すのに支障はない。故に、貴女には生きていてもらわなければなりません』

 

 

 唇の端を引き上げたのは、『知ったことか』と言わないため。

 

 誰に求められようと知ったことではない。

 レイの在り方も、生きる意味も、レイ自身が定めるものなのだから。

 

 そんな思いを理解されることは有り得ないとしても、レイはそれならそれで構わなかった。

 なんと言っても、感情の割り切りは得手とするところなのだ。

 

 

「役割を完遂して荷物(【命題】)が捨てられるのなら、喜んで果たしましょう。それでは、もう行かせて戴きます」

 

 

 言いながらレイは、ソレが変化させた、二つ目のリングを撫でる。

 きっと綱吉達の(ボックス)も、同じような姿に変化しているのだろう、と微笑んで。

 

 

「友達を、待たせていますので」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 未来から、無事過去へと帰り着いて。

 

 奈々に飛び付くランボやイーピンを横目に、階段を駆け上がった綱吉は部屋に地震による異常がないことを確認し、続けて玄関へと向かう。

 

 

「ごめん母さん、ちょっと行ってくる!! ついでにケチャップ買ってくるから!!」

「あっツナ、お財布忘れないで!!」

 

 

 奈々から財布を受け取って、綱吉は今度こそ走り出した。

 

 

「10代目!!」

「ツナ!!」

「獄寺君、山本!!」

 

 

 それぞれの家がある方面から走ってきた獄寺、山本と合流し、何処か張り詰めた空気のまま、歩を進める。

 

 

「もうすぐ、だな。なんか緊張してきたぜ」

「本当に、いるんスかね」

 

 

 獄寺が耐え切れぬように零したのは、一抹の不安。

 

 思わず足を止めた綱吉は、釣られて足を止め、振り返ってこちらを見る二人に言った。

 

 

「レイちゃんが、そう言ってた。だから、信じるよ」

 

 

『信じてくれ、私のことを』

 

 あの願いを裏切る理由なんて、綱吉には有りはしない。

 

 

「そうっスね!!」

「だな!!」

 

 

 三人で笑い合って、そしてまた歩を進める。

 

 

 時間ギリギリまで綱吉達だけで解読しようと粘り、結局雲雀に解読してもらった暗号が示していたのは、彼らも足を運んだことのある場所だった。

 

 並盛町の五丁目。

 商店街を右に曲がったところにある不動産屋。

 

 川平不動産。

 

 

「あっ…」

 

 

 見たことがあるよりもオンボロ具合はマシだが、やはりレトロなその軒先に、独り佇む少女がいた。

 

 その手や脚に、見慣れてしまった氷細工の蔦はなく。

 

 

 ぼんやりと空を眺めていた彼女は、やがて視線に気付くと目を見開いた。

 

 

 そして、少し気まずげに笑い、ひらりと右手を振る。

 

 その中指に輝くのは雪のボンゴレリング、人差し指には狼の頭部を象ったアニマルリング。

 

 

「───…やあ、みんな。無事で何よりです」

 

 

 その時本当の意味で、彼らの未来での戦いは幕を閉じたのだった。




・リスポーンした

 後悔なく終わるつもりではあったものの、生存の道があるのなら迷いなく選ぶことも決めていた。例えそれが、彼女が死という逃避すら許されなかった理由なのだとしても。
 リスポーンの影響か死に掛けていた時の記憶が曖昧になっており、最愛の人の幻を見たと思っている。生きていて欲しいと願ったのも、意識が朦朧としていたために『彼が生きている』と思った故と判断。それでも、何とも言えぬ引っ掛かりを感じてはいる。
 尚I世(プリーモ)との関わりについては「え、そんなことありましたか? あの辺りのことは記憶が曖昧で」と誤魔化した。


・暗号解読した

 結局置いて逝かれた訳じゃなくて安堵していたら未来のレイから頼まれた。変に凝ったもの出されたらどうしようかと思いながら確認したら、いつも使っていた一番オーソドックスなやつ(Dの手紙の暗号)だったので胸を撫で下ろしたという裏話があったり。
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