参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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第五章  夢を見た彼女と、愛故の過ち
標的73 懐かしくも知らぬ顔


 未来での戦いが終結し、しばらく。

 冬の気配も濃厚になって来たとは言え、まだまだ過ごし易い日々が続いている。

 

 

 沢田君達が未来から帰還したその日に、私も無事“生き返った”。

 

 気が付けば川平不動産の前にぼんやりと佇んでいた私は、駆け付けてきた沢田君達にもみくちゃにされ、京子ちゃんとハルちゃん、クロームちゃんには号泣された。

 万一を考えて余計な期待をさせたくなかっただけなのだが、どうやら悪手だったようだ。済まない。

 

 手向けとして差し出したものも、どのような経緯で誰が託したものだったのかはしっかり覚えているが、肝心の中身はもうわからない。そもそもがなくて当然の知識だったのだから、その事実に思うところはないが。

 

 

 そんなこんなで未来での戦いは無事集結した訳だが、その事後処理に追われていた節があるのは否めない。

 

 現ボンゴレに於いては最高幹部(守護者)でも作戦参謀でもない私だが、私と個人的な繋がりがある復讐者(ヴィンディチェ)にとっては重要な情報源。本当に根掘り葉掘り聞かれた。

 

 

 白蘭が狙っていたのは(トゥリニセッテ)、しかもアルコバレーノのおしゃぶりに関してはおしゃぶりを守る役割を課せられた虹の赤子(アルコバレーノ)達を殺害し摘出している。元アルコバレーノである復讐者(ヴィンディチェ)からしても他人事ではないのだろう。

 

 それに(トゥリニセッテ)を狙っていたということは、何らかの手段で復讐者(ヴィンディチェ)達の憎悪の対象であるチェッカーフェイスと接触した可能性すらある。

 それについて白蘭から聞き出そうとしたものの、直接未来の記憶を受け取った訳でもないため初動が遅れ、結局白蘭の身柄はボンゴレに確保されてしまったらしい。

 

 

 白蘭についてはマフィア界の掟の番人を装う今の復讐者(ヴィンディチェ)が投獄してもおかしくない立場だったので、バミューダ君は非常に悔しそうにしていた。

 

 だが、今の白蘭があの白蘭と完全に同一かと言われたら否だ。

 恐らくだが、ユニが何かした。その末にこの世界に舞い戻ってきたのが、今の白蘭だろう。

 

 なので正直、復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄に投獄できる対象に当て嵌まるのか怪しい。まあ終わった話なので今更蒸し返したりはしないが。

 

 

 周囲から隠れて行った事後処理(という名の情報交換)もひと段落し、今日も学校だ。

 

 右手の中指に雪のボンゴレリング、人差し指にはティアのアニマルリングを嵌め、通学路を歩いていると、京子ちゃんと花ちゃんがやってくる。

 

 

「レイ、おはよ!」

「おはよう、花ちゃん、京子ちゃん」

「おはよう!」

 

 

 互いに挨拶をして、他愛もない会話をしながら学校へと向かう。

 

 未来とは比べ物にならないくらいに平和だ。命が脅かされる、ということがどれだけ精神に負担を掛けるのか、改めて理解することになるとは。

 

 

「そう言えば、例の集団転校生来るの今日からだっけ?」

「『()()()中』ってところから来るんだよね、楽しみだなぁ」

 

 

 …………ゑ?

 京子ちゃんの言葉に、体が盛大に硬直した。

 

 あ、待ちなさいティア出て来ないように、半身不随はもう完治しているんだ。

 補助用だという大前提があったからか世話焼きな性格のアニマル兵器を制止し、二人に尋ねる。

 

 

「す、済まない。その『シモン』ってどういう字だったでしょう?」

「先生の話聞いてなかったの? あんたにしては珍しいじゃない」

 

 

 ここのところ色々あり過ぎてボーッとしてたんだ、後悔はしている。現在進行形で。

 

 

「確か、『至』るに『門』で『至門(シモン)』だったと思うよ」

「そうですか……」

 

 

 わあ、如何(いか)にも過ぎる当て字。

 脳内でうちのボスの大親友がお手本みたいなテヘペロを披露した。………童顔って凄いな、違和感が全くない。

 

 にしてもなんで今なんだ。ようやく、本っ当にようやく、沢田君達の姿を見ただけでジョット君達のことを思い出さないようになったのに。

 いや、正確に言うと未来に行った辺りから耐性はでき始めてたんだが。

 

 落ち着いてみると未来での共同生活で発狂しなかった私凄いな。だがしかしその直後にやってくるのがこれとは運がないでは済ませられない。

 

 だってシモンなのだ。トマゾなんて私がいた頃は勢力圏が隣り合っている訳でもなかったためにまるで関わりがなく、初代ドン・トマゾやII世(セコーンド)とやり合ったと噂の二代目トマゾの顔も知らない。だがシモンは違う。

 両ボスに揃って振り回されること十数回、妙な連帯感と絆が生まれてしまっているのである。そして経験則から言って十中八九全員が全員初代のメンバーとドッペルゲンガー。これは最早罰ゲームの域だろう。

 

 

「なんかレイちゃん、疲れてる?」

「…大丈夫です、昨夜よく眠れなかっただけなので……」

「あんたでもそんなことあるんだ」

 

 

 ようやく日常に戻って来れたのに次は何だ? シモンが来るってことは彼らと協力しないと倒せないレベルの敵がやって来ると? X世(デーチモ)厄介事引き寄せ過ぎだろう。もう笑うしかできないよ。

 

 引きつった笑みを浮かべながら教室に入ると、少し遅れて沢田君が駆け込んで来た。君また寝坊かい? 今週に入って何度目だ?

 

 

「もし転校生の中に10代目にナメた口きくよーな奴がいたら、10代目の右腕、この獄寺隼人がシメてやります!!」

「いやいや獄寺君!! そんなことしなくていいから!!」

 

 

 獄寺君がG(ジー)君のような落ち着きを身に付けるのは、一体いつのことになるのだろうか。そして山本君は山本君で野球のこと以外を考えてくれ、試験勉強とか。

 

 

「私も楽しみだな。友達になれるといいよね」

 

 

 そう京子ちゃんが話し掛けるなり、沢田君は頬を赤くして鼻の下を伸ばした。大方今日も可愛いとか、学校来てよかったとか、そんなことを考えているのだろう。

 花ちゃんが目敏くそれに気付き、からかいに掛かった。

 

 

「私はこんなガキじゃなくて、大人っぽい転入生希望ね」

「ちぇっ。……あ、レイちゃん。おはよう」

「おはようございます」

「うん、って獄寺君?」

 

 

 近付いてきた獄寺君がぐい、と腕を肩に回してくる。そのまま沢田君や山本君の方に無理やり顔を寄せられた。

 途端、クラス中の視線が私達の背に集中したのを感じる。

 

 …獄寺君には落ち着きの無さだけでなく、己の容姿がどのように見られるのかも自覚してもらう必要がありそうだ。

 彼は言動はともかく見目がいいので、山本君同様女子人気が高いのである。そして私も、京子ちゃん程ではないとは言え注目度は高いと自認している。『人形のよう』とすら形容された容貌が好悪問わず人の目を集めることは、かつての日々で嫌という程思い知らされた。

 

 

「………お前、いい加減何か言うことあんだろ」

「未来で消えた私が、何故現代で再構成されたのかの説明ですか」

 

 

 真剣な表情で私を見つめる獄寺君の向こう側、沢田君と山本君が慌てている。

 

 

「…もしや、気を使わせてしまっていましたか?」

「あ……うん。なんか忙しそうだったし、あんまり訊かれたくないのかなって」

「未来のレイはなんでなのかわかってたみたいだったけど、今のレイは知らないんじゃとも思ってな…」

「成る程…」

 

 

 二人は躊躇していたものの、獄寺君がこのままではよろしくないと踏み込んできた形か。

 …落ち着きとは無縁だが、右腕らしいことができるようになってきたじゃないか。評価を上方修正しなくては。

 

 獄寺君に感謝の言葉を囁き、そしてぐるりと三人を見回す。

 

 

「……正直に言いますと、私も何処まで君達に話すべきか、わからないのです」

「それは、再構成の理由がお前の秘密に関わってるからか?」

「ええ」

 

 

 バミューダ君達は『私が君達との取引に乗った理由の一つです』と言えば察してくれた。百五十年前から現代に現れたことも含めて、それこそ接触の前から疑ってはいたのだろう。

 けれど、沢田君達は何も知らない。(トゥリニセッテ)のこと、チェッカーフェイスのこと、そして【私】が生み出された意味も。

 

 私の抱える秘密は大きく分けて二つあるが、一方を明かせばまず間違いなく現ボンゴレ絡みで面倒なことになる。ようやく未来から帰還したというのに、彼らの平穏を壊してしまいかねない。

 そして今彼らが知りたがっている方は、もっと直接的に命が脅かされる可能性が存在する。

 

 黙考していると、沢田君が控え目に声を上げた。

 

 

「言いたくないなら、言わなくてもいいよ」

「え」

「レイちゃんがそんなに悩むってことは、よっぽどのことだろうし」

「獄寺も無理に聞き出したい訳じゃねーんだ。だろ?」

「ああ…そこまで悩むようなことだとは、思ってなかった」

 

 

 山本君に問われ、獄寺君が申し訳なさそうに視線を逸らした。

 

 

「………その気持ち自体は嬉しく思いますが、やはり話すべきでしょう。私には、君達に黙っていることが多過ぎる」

 

 

 緩んだ頬を意識して引き締め、そして告げる。

 

 彼らからの信頼はとても嬉しいが、それに甘え過ぎるのもよろしくないと思うのだ。

 私だって子供じゃない。甘えてばかりいられる程、この世界が優しくないことだって、とうの昔に知っている。

 

 

「遅くとも、年末まで。それまでには整理をして、君達に話せるようにします」

 

 

 何の整理かは、言わない。まだ言えない。

 平穏に生きたいのなら知らない方がいいことは、確かに存在する。

 

 

「それと、獄寺君」

「ん?」

「今後は間違ってもこんな強引な真似をしないように。紳士の風上にも置けませんし、女というのは殿方が考えるより怖いものなのですから」

「お、おう」

 

 

 獄寺君が詰まりながらも返事をした直後、タイミングよくチャイムが鳴った。HR(ホームルーム)の時間が始まる合図だ。

 

 

「ええ、知っての通り今日から我が校に7人の至門中学の生徒が授業を受けにくるが、我がクラスには2人編入することになった」

 

 

 生徒の名前を呼ぼうとした教師が、何故か言葉に詰まる。

 どうしたのかと思っていたら、言葉を制するようにその眼前に手が翳され。

 

 

「マイ・ネーム・イズ SHITT・P(シットピー)! “しとぴっちゃん”と呼んでクダサーイ!!」

 

 

 教室に入って来てそう言ったのは、何処か知己の面影を残す少女…少女、だよな? 格好が奇抜過ぎるけど同年代だよな?

 …大丈夫なのか、これ。主に服装。風紀委員長が来たりしたら終わらないか、これ。彼風紀を乱していると判断すると容赦もへったくれもなくなるぞ。うちの浮雲もどっこいどっこいだけど。

 

 

「トクギはハッコー」

 

 

 うん、別の意味で不安になってきた。

 ハッコーって発酵だよな、大地の7属性の一つ・沼の炎の。本当に大丈夫か、復讐者(ヴィンディチェ)が学校に来たりしたら大パニック必至だぞ。

 

 最悪の予想に身を震わせる。

 ああ嫌だ、まだ朝のホームルームだというのに、三徹目の朝のように疲れている。

 

 しかし続いて入って来た少年の姿を見て、私の脳はフリーズすることになる。

 ……面影とかそういうレベルじゃない。髪と瞳の色までそっくり同じ。ちょっと待ってくださいここまで露骨なのは正直予想してませんでした。

 

 

 しばし茫然としていると、その間にコザァート君の子孫と思しき少年…コザトエンマ君は自己紹介を上手く行えず黙り込んでしまった。顔の怪我と言い、如何(いか)にも卑屈そうなのであまり萎縮させるのはどうかと思うんだが。

 

 そうは言っても、一介の生徒でしかない私がここででしゃばる訳にもいかない。

 そう結論付け、ふと視線を感じて顔を向けると、沢田君がこちらを見ていた。

 

 

 いや何なのですかその目は、如何(いか)にも助けてあげられないかと言いたげなその目は。君は私に何を期待しているのですか、本当に。

 

 思いっきり睨み返すも、琥珀色の瞳は小揺るぎもしない。まるで私ならどうにかできると、確信を抱いているかのようだ。

 いや実際確信があるんだろうけど、超直感が囁いたんだろうけど。本当に我が王(ジョット君)の血筋は。いつまで経っても勝てる気がしない。

 

 

(ああもう、仕方がありません)

 

 

 勝てる気がしないと、そう思ってしまった時点でこちらの敗北だと理解している。

 知己の子孫。今のところそれ以上でもそれ以下でもないけれど、我が友からのご指名だ。これでやってやらないのも私の沽券に関わる。

 

 大きく溜息を吐き、椅子を引いて立ち上がる。当然のように教室中の注目が集まった。

 こういうの、あんまり得意ではないのですけれど。一つ貸しですからね、X世(沢田君)

 

 

 一挙手一投足にいつも以上に気を払う。

 場の注目を集め、それでいて行動を当然のことと思わせる。

 

 そうやって歩き、コザト君の前へ。

 

 

『自信を持って、舞台の主役のつもりでやりなさい。そうすれば、誰も君に文句など言いません』

 

 

 思い返すのは、人心を掴む(すべ)を教えた師の言葉。

 

 この場の中心は私。私の行動は全て許容される。

 そうやって胸を張れば、生徒も教師も私の虜。誰一人として私を咎めることはない。

 

 

「コザトエンマ君、で合っていますね。漢字はどう書くのですか?」

 

 

 D(デイモン)君仕込みのよそ行きの笑顔で、コザァート君そっくりの彼に問う。

 

 

「古い里に、炎と真で…古里炎真」

「とても素敵な名前ですね。炎みたいな色の髪にぴったりです」

 

 

 一対一ならば緊張しないで済むのか、そこまで声量を抑えず自分の名前を言った古里君のことを褒める。

 自慢じゃないがこういうのは得意なんだ、得意になりたかった訳じゃないけど。

 

 一連の会話で緊張も解けたのか、古里君が笑みを零した。

 その顔がどうしようもなく記憶の中の彼に似ていて、息が詰まりそうになる。

 

 

 落ち着け、目の前にいるのはコザァート君じゃない。

 うちのバカボスと一緒になってふざけてた大地の炎の使い手じゃない。

 

 似ていても、血の繋がりがあっても、シモン=コザァートと古里炎真は別人だ。

 

 

 芝居がかった仕草で一つ礼をして、無理やりに呼吸を続けながら席に戻る。

 

 バクバクと早鐘を打つ心臓の音が、誰かに聞かれていませんように。

 

 

 そうして何とか至門中の生徒と過ごす日々の初日をやり過ごした私は、更なる波乱の胤が至る所に蒔かれた後だということを、まだ知らなかった。




・教えられたことは活用している

 ボンゴレと同じく2Pカラーだと思ってたらまんまだった件について。綱吉達の存在を受け入れたことで心に余裕ができているし炎真達のことも同じように受け入れているが、やっぱりそっくりなので引きずられるように知己を思い出す。
 ツナが引き寄せた厄介事の正体が身内だとは、まだ知らない。


・指名しちゃった

 確かにレイならどうにかしてくれるだろうとは思ってたけど、想像以上のものをお出しされた。HR(ホームルーム)が終わっても誰もレイに文句を言わなかったので更に驚いた。レイちゃんやっぱスゲー…。
 悩んでいる時のレイの表情から、彼女の秘密が想像以上に深刻なものだと獄寺、山本共々悟る。実は未来の最終決戦で自分の先祖と何を話したのか聞きたい気持ちもあったが、沈黙を選んだ。ツナの意思を尊重してリボーンも追求を止めたので、意図せぬファインプレー。
 雲雀との関係についても二人が共に進展を望んでいないことを察し、口を噤んでいる。


・助け舟がやってきた

 とても助かったが、よく見るとボンゴレの関係者だと言われている女子生徒だったので内心複雑。優しそうだけど、戦わないといけないのかな…。
 助け舟が行使した技術が家族の仇によって教えられたものだとは、まだ知らない。
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