「黒曜ランドに差し入れが?」
以前番号を交換していたクロームちゃんからの電話を取ると、そんな相談を受けた。
何でもここのところ、お菓子などの食料品が詰められた謎の差し入れが、彼女らの拠点である黒曜ランドに置かれるようになったのだという。最初は六道君が手配したものかとも思ったのだが、確認を取ってみたところ心当たりはないとの答えが返ってきた、と。
成る程、先日昼食を共にした際城島君があまり食べなかったのはそれのせいか。
黒曜ランドは廃墟で、六道君が拠点にできたことからもわかるように侵入は容易い。
だが差し入れを定期的に置いていくとなると、クロームちゃん達がそこに住んでいるという情報を握られている可能性が高い。継承式妨害を目論む輩が何処に潜んでいるかわからない状況で、それはあまりにも危険だ。
「私の方でも調べてみましょう。他に何か情報は?」
〈…それが……〉
差し入れは決まって、パチンコ屋の袋に入っているらしい。クロームちゃん達もよく通り掛かる、黒曜近辺に店舗があるパチンコ屋のものだそう。中の物も、パチンコの景品のようなのだとか。
となると、普段黒曜を行動範囲にしている人間か。食料品の量から言って、毎日相当な時間パチンコ屋に入り浸っている……一人だけ該当者がいるな。
先日の集まりの折、獄寺君が言っていた加藤ジュリーの行動範囲。どうやって調べたのかは不明だが、あの獄寺君が沢田君の安全に関わることで妥協するとも思えない。情報の確度は高いだろう。
「心当たりがあります。シモン…継承式に招待された、今は並中に通っているファミリーの一人でしょう。ボンゴレの同盟ファミリーの一員なので君達を害する利はないし、食べても問題はないと思いますが…」
そうは言っても現在の加藤君の行動は、クロームちゃん達が戸籍があるかも怪しい廃墟暮らしの中学生でなければ、訴えられてもおかしくないものなのだが。匿名での贈り物とか不審物確定でそのまま廃棄されても文句は言えない。
〈…わかった………あの、レイ〉
「どうかしましたか、クロームちゃん」
〈……継承式…開けそう…?〉
その言葉に、ふむ、と考える。
継承式が中止になる要因は現時点で二つ。けれどクロームちゃんが知っている、否気付いているのは一つだけ。
「今のところ襲撃は沢田君を狙ったもの一件だけなので、最終的な判断を下す
柔らかな声になるよう心掛けて告げると、安堵の言葉が返ってきて、最後の挨拶と共に通話が切れた。
ぐい、と伸びをした後、ベッドに体を預ける。
(…中止になる可能性の方が高いのですよね…)
クロームちゃんには自力で気付いて欲しくて、ああ言ってしまったけれど。
今の沢田君に、ボスになる気はまるでない。ボスの証である大空のボンゴレリングを保持してこそいるが、継ぐ気はゼロだろう。
それを彼が継承式の全権を握る
沢田君がボンゴレを継いでくれれば、きっとマフィアとしてのボンゴレは解体される。
それは私にとっても望ましいことだ。そもそもそれを後押しするべく、沢田君との関わりを持ったのだから。
なのに。だと言うのに。
愚かにも私は、それと相反する思いを抱いている。継承式が中止になればいいと、そう思っている。
問題の先送りに過ぎないとわかってはいるが、荒れ狂う心に蓋をして目を瞑る。
幸いなことに、眠気はすぐに私を攫ってくれた。
◇
とうとう、継承式の前日になってしまった。
朝は何事もないように家を出たが、頭の中がごちゃごちゃでとてもじゃないが授業なんて受けられそうにない。
休みの連絡を入れ、何処へ向かうでもなく街をほっつき歩く。これじゃ立派な不良だ、獄寺君のことを叱れない。
沢田君が下校中に襲われて以降交代で警護をしているのもあってか、私達やシモンが襲われることはなかった。だが代わりと言わんばかりに、継承式に招かれていたギーグファミリーが討たれた。
ギーグファミリーは継承式妨害及びボンゴレの転覆を企てる主犯を始末する、との通信を
リボーン君曰く、どの死体も見たことのないやられ方をしている、とのことだ。
やはり、今度の敵は一筋縄では行かなそうだ。大空の7属性とも大地の7属性とも違う、未知の炎を使う可能性すらある。
だが、不可解な点もある。
継承式の妨害が目的なら、何故今日まで私達は無事に日常を過ごしているのだろうか。
それ程の実力を持つのであれば、私達を襲撃することも可能なはずだ。気が緩んだ隙を突いて闇討ちするなり、方法はあるだろうに。
……もしかしたら、私達は何か取り返しの付かない勘違いをしているのかも知れない。
そう、例えば…
だがそうなると、相手の目的がわからなくなる。一体何を考えている?
そもそも継承式が事の発端なのか、それとも未来での出来事?
ふと足を止めると、ギーグファミリーが何者かと戦い、そして敗れた場所…5丁目の工場跡地だった。
考えているうちに、自然とここを目指していたらしい。
犯人は現場に戻ってくる…にしては時間が経ち過ぎているが、手掛かりくらいは残されていないだろうか。
人目がないことを確認し、侵入する。うう、廃屋に侵入するとか、本当に不良みたいじゃないか。
さすがに日数が経っているのと、事態の隠蔽のためボンゴレが何かしたらしく、特に犯人に繋がりそうなものはなかった。まあ、入ろうと思えば誰でも入れる場所だし、ある方がおかしいんだが。
屋根があるステージのようなところに腰掛け、溜息を吐く。
ああ、結局何も掴めていない。私は参謀で、彼らよりもずっとずっと先輩なのに。
「ホント、嫌になります…」
「……どうか、したの?」
膝を抱え、思わず弱音を零すと、声が掛けられる。
嘘だろ、この私が人の接近に気付けないだなんて。
バッと戦闘態勢を取ったものの、声を掛けた相手の姿にすぐにそれを解いた。
「古里君…サボりですか?」
「あ、うん…松崎さんも?」
「レイで構いません。……何というか、落ち着かなくて」
縮こめていた体を、ぐいと伸ばす。吹き抜ける風が心地いい。
「落ち着かないって…継承式のこと?」
「ええ。色々とありますが………一番は、沢田君でしょうか」
隣に座った古里君の問いに、ぽつりと本音が漏れる。
私は家族に関することを除き、感情がフラットな状態を保てる。つまり、誰とでも公平に接することができるということだ。まあ立場上でも、好ましく思っているという点からしても、沢田君達は例外になってしまうのだろうけど。
それなのに今は、素直に不安を零したかった。こんな気持ちになるのは、彼もまた、私達の大空に似た性質を持つからだろうか。
「……もう知っているとは思いますが、沢田君は優しいのです。弱くて臆病なのに、困ってる人がいたら見捨てられない。…そんな彼が悩んでるのに、私は何もできない。───違う。
沢田君の人生なのだから、沢田君が決めるべき。
私のように、選択権すら与えられないよりは余程マシ。
そんな綺麗事で飾っていても、結局のところはそういうことだ。
「嫌なのです。あの優しい子が、恐ろしい世界に足を踏み入れるのが」
今までは、仕方なくだった。六道君達が襲撃してきて、次はヴァリアーがやって来た。その後は未来に飛ばされた。
どれもこれも、彼に拒否権なんて無かった。巻き込まれて、巻き込んで、その末に勝利を掴んできた。
だけど。
今回は、違う。
彼は、選ばなければいけないんだ。己の意思で。
彼ならば、ボンゴレをジョット君や私達が望んだ本来の姿に戻してくれるだろうということは重々承知している。
でも、彼に逢って、その人柄を知って…友達になって。
「わかってはいたけれど、恐ろしいのです。彼が、傷付くかも知れないのが」
一度、全てを失った。
私の心に根付くその恐怖は、私自身が思っていた以上に大きかった。
失うことは恐ろしいと、それを防がなくてはいけないと、心の何処かが悲痛な叫びを上げている。
「それなのに私は、彼の判断を尊重して……いいえ、理性的に考えてそちらの方が正しいと、理解はしているのですが」
「…気持ちは、少しわかるな。自分がした判断のせいで、誰かが傷付くかもって考えるのは、怖いから」
「シモンファミリーの…アーデルハイトさん達のことですか」
こくりと古里君が頷いたのを、横目に見る。
この幼さでファミリーのボスを務めているんだ、それなりに苦労して来たんだろう。
「ボスだからと言って、そう気負わずともいいのでは? アーデルハイトさん達も、君がそんな風に沈んでいると心配するでしょう」
間違えば彼のデリケートな部分に触れてしまいそうで、敢えて軽く言うと、その緋色の瞳が見開かれる。
「え、僕、シモンのボスだなんて言ったっけ…?」
「……」
まずい、コザァート君がそうだったから容姿が似ている古里君をボスだと自然に思い込んでいたが、そう言えば明言はしていなかった。
「いえ、何となくそう思っていたのですが…知り合いに、重ねてしまっていたようです。済みません、忘れてください」
「ううん、僕がシモンのボスで合ってるよ。その、知り合いってどんな人?」
咄嗟に出た誤魔化しは、ほとんど真実で。
でも、詳しく教えて欲しいと尋ねてきた古里君のことを突っぱねる気には、なれなかった。
だって、それは彼の先祖のことだから。彼にも当然、知る権利がある。
……いつか、全てを明かせたら。
みんなのことを、たくさん話そう。
「血の繋がりはないのですが、兄のような人がいて。その人の友人です。大勢に慕われていて、兄達とも仲がよくて…私も、たくさん可愛がってもらいました」
「……お兄さんが、いるんだ」
「ええ、兄みたいな人が七人に、姉みたいな人が一人。血の繋がりなんて無くったって、本当の家族みたい
大切な家族、何に代えても守りたいモノ。
思うだけで唇が綻んで、気持ちが少しだけ高揚する。
反対に、何故か古里君の顔色は悪くなっていく。
「その、お兄さん達は今、どうしてるの?」
「とっても遠いところにいます。…幸せだと、いいのですが」
付け加えたその一言は願いであり、祈りだ。
「それでは、私は帰ります。古里君も、気を付けて」
「…うん。また、継承式で」
明るく笑って、工場跡地を出る。
でも、暗雲の忍び寄る気配に気付けない程、私は愚かじゃなかった。
・姉を気取ってるが実は妹気質
友人へのストーカー行為に半目になった。ジュリーの正体を知ったら真顔になる。
精神年齢の低さから感情が動く場合は暴走しがち…なのだが、鋼鉄の理性でそれを抑え込んでいる。自制心の塊。
あんまり触らないであげようと思ったら別の地雷踏んづけた。しかも誘爆させた。後現場に戻ってきた犯人とはニアミスした。
この後あるルートを使ってある人達に連絡を取る。…無駄に終われば、いいのですが。
・弟扱いが板についてるが性根は兄
実は知らなかっただけでレイの存在自体が地雷みたいなものだった。そして絶妙な言葉のニュアンスと自分によく似た表情で明言されなかったこと(家族との望まぬ別離、または死別)まで悟ってしまう。彼的には自分が死んで妹が生き残ったら、という
レイが話すツナと助けに来ない現状が食い違っていて引っ掛かるが、それはそれとして色々考える毎に顔色が悪くなり、アーデルハイトに会ったらまず目を覚ませではなく寝ろと言われる。