参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的77 見渡す彼女、信じる彼

 そして迎えた、継承式当日。

 

 上空を黒塗りのヘリが飛び交い、辺りを警戒していることからもわかるように、城一つ貸し切った会場は厳戒態勢が引かれている。

 

 元々は丸みが強い瞳を細め、剣呑さを増した表情を浮かべるレイの頭が、ポンと叩かれた。

 

 

「そう緊張すんなって。オレがついてっからさ」

「…ええ、そうですね。頼りにしています、ディーノ君」

 

 

 晴れた青空のような笑顔で言ったディーノに、曖昧な表情を浮かべてレイはそう返す。

 

 雪の守護者の、キャバッローネボスへの同行。

 それは急遽決まった訳ではなく、当人であるレイには事前に連絡と事情の説明があった。

 

 曰く、レイが雪の守護者だということは未来の技術同様、現代のマフィア界においても広まってしまっている。

 しかし初代から百年以上も不在だった第七の守護者の扱いは、ボンゴレ幹部の間でも意見が割れているらしい。今綱吉達と揃って公の場に出ては無用な反発を招き、最悪命を狙われかねない。

 それを防ぐため、キャバッローネ一行に同行する形で出席して欲しい、と。

 

 何故同行者がディーノだったのかも見当は付く。彼が数少ないボンゴレ外でレイについて知る人物だということと、そこそこ長い付き合いの仲なので気心も知れているだろうと9代目が気を使ったのだろう。

 

 

 そういった経緯で友人達とは別で会場入りしたレイは、視線を巡らせた先に見覚えのある姿を見つけて唇を綻ばせる。

 

 

「ディーノ君、向こう」

「お、ビシッと決まってるな」

 

 

 そう言われたのは、今日の式典の主役でもある綱吉達6人(5人)

 

 

「じゃ、会いに行くか!」

「そうですね…彼らには同行できないとしか言っていませんし」

「説明する以前に、そのカッコで驚かれると思うけどな」

 

 

 軽口を叩いたディーノは、常人離れした頭脳と能力を持つ弟分の友人の服装を改めて見た。

 

 スーツは女物のパンツスーツ。その下のシャツも白の飾り気のないもの。

 交差させた腰の剣帯には、それぞれ一振りずつ対になった白銀の剣を吊っている。

 

 自前だという二枚貝の飾りのループタイだけが辛うじて女性らしさを主張しているが、それも微々たるもの。

 いつも彼女が着ている少女らしい服とは正反対の位置にあり、式典に出席する女性達も大抵がドレス姿であるため、中性的な美少年にすら見える。

 

 

「チョイスの時みたくスカートでもよかったんじゃないか?」

「今日は動き易さ優先なのです」

 

 

 レイの返答に少しばかり含むものを感じたのだろう。片眉を跳ね上げたディーノは、しかしそれについて問うでもなく綱吉達の方へと向かうことを優先した。

 

 

「元気か、弟分!!」

「ディーノさん!!」

「まさかこんなに早くこの日が来ちまうとはな。兄貴分としても鼻が高いぜ!!」

 

 

 継承なんぞする気は更々なく、あくまで襲撃者を炙り出すことが一番の目的である綱吉はその言葉に何とも言えない笑い声を返すしかない。

 

 そこに事情を知るからこそ、彼の気持ちが理解できるレイが助け船を出した。

 

 

「……ディーノ君、沢田君が困っています」

「え、レイちゃん!?」

「こんにちは、沢田君、みんな。私はディーノ君と見ていますから」

 

 

 何かあったらすぐに知らせるように。

 

 言葉に込められた無言の圧を察した綱吉は、コクリと頷いた。

 

 

 今ここにいない、来るかもわからない(雲雀)と並ぶ戦闘能力を誇る彼女も、警戒を怠っていない。

 あの山本がやられる程の相手だ、未来での経験があるとは言え、決して油断はできないのだ。

 

 改めてまだ見ぬ敵の強大さを思っていると、唐突に響いたのは聞き覚えのある濁声。

 

 

「久しぶりでもねぇかあ!! カスどもォ!!」

 

 

 作戦隊長S(スペルビ)・スクアーロを始めとする、ボンゴレ9代目直属暗殺部隊・ヴァリアーの面々だ。

 この時代の彼らと別れてからそう間もないはずなのだが、未来でのあれこれを挟んだお陰で懐かしささえ感じてくる。

 

 

「相変わらずだな、スクアーロ。XANXUS(ザンザス)は…」

「ウチのボスは欠席だぁ!! 来るわきゃねえ!!」

 

 

 当たり前ですね、と思いながら、レイは微妙な表情で所在なさげに立つ青年に近寄った。

 

 

「久方ぶりですね、ジェラルド君」

「お、お久しぶりです、レイさん」

 

 

 己の姿を見とめるなり顔色を変え、掛けられた言葉に最敬礼を返したジェラルドに、レイは苦笑する。

 未来での彼の様子を知らなければ二度見は必至だが、逆に言えば未来でのことを知るからこそ、その態度も納得がいく。

 

 

「えと、その、オレ」

「その話はまた次の機会に。大丈夫、私は気にしていません」

「わかりましたっ。……あ、後、その…この後、少し話す時間を頂けるでしょうか?」

「ええ、構いません。()()()()()()()()ね」

 

 

 わざと付け足した言葉に、ジェラルドは一気にその表情を戦士のものに変えた。

 

 

「今、沢田が隊長と跳ね馬に連れてかれましたけど…山本武絡みですか」

「さあ、どうでしょう。ですが、十分に気を付けるように」

 

 

 自分の憧れるたった一人の雪花が、現ボンゴレに於いても間違いなく最強の一角たり得る彼女が、そこまで気に掛ける。

 その意味を、ジェラルドはすぐに理解した。

 

 

「ご安心を。オレは、あの男の子孫ですから」

「ええ、わかっています」

 

 

 灰色の双眸を細め、かつて命の遣り取りをした男のように歯を剥き出して笑って見せたジェラルドに、レイも微笑みを返す。

 

 彼女にとっては、彼もまた慈しみ、導くべき一人。

 だが、その実力も把握している。リングを持たぬ彼らに無茶はさせられないが、背に腹が変えられない場合もあるのだ。

 

 

 ジェラルドと別れたレイは、ディーノやスクアーロから解放された綱吉に歩み寄った。

 

 

「沢田君」

「レイちゃん? どうしたの?」

「あの言葉は、まだ有効かと思いまして」

 

 

 あの言葉…未来で、綱吉がレイに告げた言葉。

 

 すぐに思い至ったのだろう、綱吉が頷く。

 

 

「当たり前だよ」

「そうですか。嬉しいです」

 

 

 返された言葉に、微笑んだのは一瞬。

 

 

「沢田君。自慢ではありませんが、私はこの世界の全てを見渡せると自負しています」

「う、うん」

「ですが、前にも言ったように私の手が届く範囲は酷く狭い。だから、好きに動きなさい」

「うん……え? それ、どういう…」

 

 

 言葉の意味がわからなかったのだろう、首を傾げた綱吉に、レイは告げる。

 

 

「君がいいと思ったようにしなさい。それがいい、いいえ、それでいいのです。

 

それが、みんなが負う傷が一番少なくて済む───最善の、道だから」

 

 

 その言葉は、これから起こる事態を知っていないと出て来ない。

 レイは、継承式で何が起こるのか、山本を襲った犯人が誰なのかも把握している。

 

 けれどそれを告げないのは、その結果が最善ではないから。

 最善に至る道を、阻んでしまうから。

 

 

 綱吉には到底見えぬものを見る彼女は、けれどそれ故に全てを綱吉に託そうとしている。

 それを理解して、綱吉は口を開いた。

 

 

「レイちゃん。また───消えちゃったり、しないよね」

 

 

 未来で、彼女は一度消滅した。それがユニを救うためであり、如何(いか)なる奇跡の産物かこうして共にいられるとは言え、再びそんな事態に陥ることを看過できる訳でもない。

 

 糾弾ではなく、またその選択を言外に許した静かな綱吉の声に、レイは理知的な深青の瞳を瞬かせ、そして唇を綻ばせた。

 

 

「まさか。私にだってやりたいこと、やらなければならないことがあるのです」

「そっか…それなら」

 

 

 その言葉に嘘はないと察し、綱吉は頷いた。

 自分の思う通りにしろと言うのなら、結局のところ綱吉のやることは変わらないのだから。

 

 

「それでは、私はこの辺で。くれぐれも、私の言ったことを忘れないように」

 

 

 綱吉とそこで別れたレイは、話している間待っていたディーノと共に、再び来賓の中に紛れ込む。

 

 

「…深く聞きはしねーぜ」

「済みません、助かります」

 

 

 目を合わせず、歩きながら落とされた言葉に、レイも同じように返した。

 

 詳しい事情を知らないものの、ディーノは先程の遣り取りで粗方察しているだろう。

 彼の立場とその実力を知るレイとしても、ディーノの対応は有り難かった。

 

 

 そして、来賓達が城内の大広間へと集まり、遂に継承式が始まった。

 

 

 IX世(ノーノ)ファミリーへと一直線に伸びる道を、綱吉達が歩いていく。

 その中に最早見慣れた黒を見とめたレイは目を見張り、次いで納得の笑みを浮かべた。

 

 彼は並中と並盛のことになると案外簡単に、しかも自発的に動く。

 その彼が校内で生徒が瀕死の重傷を負うなどという案件に対し、自ら対応しないなど有り得ないのだ。

 

 

 ボンゴレの紋章が刻まれた小箱が、クッションに乗せられ運ばれてくる。

 

 

(あれが、“罪”…)

 

 

 継承の証の小瓶。

 その中に恐らくは、レイも慕っていた、兄弟ファミリーのボスの血が入っているのだ。

 

 その事実、その経緯に、思うことがない訳がない。

 けれど、今はそれよりも優先すべきものがある。感情も感傷もひと時捨て去ると、そう決めた。

 

 

 静かに双剣の(ヒルト)に手を添えるレイを横目に見て、ディーノもまた腰の鞭に手をやった。

 

 今この瞬間こそが、襲撃者達にとって絶好の機会。絶対に、()()はやって来る。

 

 

「受け継いでもらうよ、X世(デーチモ)

 

 

 その言葉に、場の緊張が頂点に達した刹那───不快、としか言い表せぬ音が会場に響いた。

 次いで轟く爆音。

 

 爆発の規模は然程大きいものではないが、爆破されたのは複数箇所。

 来賓達は、降り落ちてきた瓦礫に半ばパニックに陥っている。

 

 

 9代目と綱吉は無事だ。どうやら9代目の守護者達が守っているらしい。

 

 耳障りな音が鳴り止んだ後も屈強な男達の影に隠れるようにして様子を窺うレイは、一つのことに気が付いた。

 “罪”の小瓶が割れているというのに、9代目とその守護者は誰一人として動揺していない。

 

 

(成る程。先程の物は偽物、本物は安全な場所に保管しているという訳ですか)

 

 

 さすがはマフィアのドン、身内を謀ることにも躊躇いがない古狸であるらしい。

 だが、この件に関しては相手の方が一枚上手だった。

 

 

「金庫が…破られています!!」

「何!?」

「そんな!!」

 

「どうなってる…!?」

「不明です、警戒を怠らずにいなさい!」

 

 

 混乱に声を上げたディーノに叫び返すと、状況が動いた。

 

 

 ガナッシュの銃を分解したチカラ。

 

 雷の炎すら破る氷をつくるチカラ。

 

 

 そのどちらも、レイは知っている。

 この場の誰もが知らずとも、彼女だけは知らないはずがなかった。

 

 レイが、守護者であるが故に。

 

 レイ───レイ・オルテンシア・イヴが、()()()()()()()雪であるが故に。

 

 それは、大切な大空の友とそのファミリーが使う炎。

 自分達と対になる属性を持つ、7つの炎のうち2つ。

 

 

 全てを予見していた深海色(ブルーダイヤモンド)の瞳が、襲撃者の…見知った者達によく似た、その子孫達の姿を映した。




・見渡して、選択した

 誰が何を企て、裏で糸を引いているかを理解した時点で、ただ綱吉達を導くことはできなくなった。彼らを大切に思うからこそ、今は動かないことを選ぶ他なかった。
 その全ては、兄を討ち果たすために。


・信じて、行動する

 一瞬「え、レイちゃんこうなるってわかってて黙ってたの!?」と思ったが、逆にだからこそ何も言えなかったのだと納得もした。
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