スーパーロボット大戦Blank   作:フォトンうさぎ

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第1話:はじまるまじわり ①:鉱石ラジオに呼ばれて

 古き良きものでしか味わえない経験は存在する。宇宙世紀と呼ばれるこの時代では、運転中の振動というのはそれはもう大変珍しいものである。

 しかしこの感覚が、こういった経験や色んな体験というものが脳にインスピレーションを与え、様々なものを作り出すのだ。

 

 そういったことを頭の片隅で考え、有川ユンという男は海沿いの道を屋根付きの大型スクーターの後ろに乗って進んでいた。ヘルメットで頭を覆っているので、いつものモジャモジャとしたパーマじみた白髪はその中だ。

 

 運転しているのは加藤(はべる)という相棒的な筋肉質の男で、俗に言う2ケツの状態だ。ユンは(はべる)と後ろに積んだ荷物ボックスの間に挟まれている形となる。

 

 振動があるのは3人分とも呼べる重量がスクーターにかかっているせいだ。道はコンクリートで舗装されているとはいえ、地面の凹凸に触れ合う度に臀部(でんぶ)に振動がくる。

 しかしあんまり重い荷物を載せられないワッパという低飛行マシンよりは安定性がある。そして運転音が静かだ。

 

「それで話になってた家って、あの屋敷だろ?」

 

 海沿いの丘の上に立つ豪邸を確認し、確かめるように(はべる)が口を開いた。

 スクーターに振動があるとはいえ、さすがに技術が進歩しているので騒音は小さい。確認を返すようにユンが答える。

 

「あの屋敷で間違いない。平等院(びょうどういん)さんの依頼だ」

 

 ポツンと街から少し離れた海沿いの丘に存在しているため、かつては吸血鬼の住処だの幽霊屋敷だのと呼ばれた家。

 しかし今では平等院夜鳥(びょうどういんやどり)とメルティナ・アフターグロウという二人の女性が住んでいるため、その噂は綺麗さっぱり無くなった。

 

「なんか変な装置を止めてほしいって? 隠し部屋の蓄音(ちくおん)機らしいもの?」

 

「変といえど、結果があれば原因がある。俺たちはその原因を紐解くだけだ」

 

「しかし、旧幽霊屋敷の隠し部屋ねぇ。そういった類のものに対しておやっさんからとやかく言われているけど、本当にそういったものは初めてだ。霊的なものとか奇跡とか、そういったものに遭遇するかもしれないぜ」

 

「奇跡は起こらないから奇跡なのさ。起こったとしても、それはとっくの昔に終わっている」

 

「アクシズ・ショックは?」

 

「それが起こっているから、奇跡なんてもう終わってる」

 

 奇跡は起こらないというものを心の底から信じている言い方だった。逆に、人の手によって何でも解決することができるという言い方だった。

 霊的現象やオカルトには必ず原因があって、それで何らかの結果が出るという考え方。有川ユンはリアリストであった。

 

 逆に(はべる)はユンの言うことをいつも理解を示しつつも、心のどこかでユンの理論や理屈をひっくり返してくれることが何かしらないかと期待していた。

 装置を止めるという本日の依頼に期待していたのだが、朝になっても鳴り続けているものだから、幽霊みたいな者の仕業ではないと気づいてがっくりとしていた。

 

「ここに来るのは初めてだが、やっぱり話通りにでっけぇなぁ」

 

「一年戦争前に立てられたという豪邸。元々の持ち主は失踪し、二人の女性が失踪した者と親しいものからこの家を受け継いだ……。受け継いだ人はあの日本有数の資産家、平等院家の次女」

 

「そこまで資料や言われたことにあったっけか?」

 

「信用できる噂を集めて精査して、まとめ上げただけ」

 

 屋敷の前までついた二人はスクーターから降りた。青い屋根が特徴の、見上げるほど大きい屋敷だ。さすがは資産家の娘が持つ家だなと二人は感心する。

 

 その後ユンはいつもの依頼通りにてきぱきと後ろの荷物ボックスから道具が入ったバッグや、今回の依頼のために一応持ってきた楕円形のアンテナがついた装置を取り出す。電波などを調べる装置だ。

 (はべる)は玄関の前に歩いていって、そのままチャイムを押した。

 

 一呼吸置けば、すぐにインターホンでの通話が開始される。通話に出たのはメルティナ・アフターグロウという物静かな女性だった。

 

『オオタキファクトリー様でしょうか?』

 

「ええそうです。地下室の装置というものを調べに来ました」

 

『お越しいただきありがとうございます。ただいま玄関を開けて迎えに上がります。中でお待ちくださいませ』

 

 通話が斬れると共に、玄関ドアのロックが解除されるピッという電子音がした。ドアノブに手をかけ、(はべる)はゆっくりとドアを開ける。

 

「噂通りの……」

 

「お金持ち。だけど人との交流は少ない? 玄関が綺麗すぎる。土や石の欠片がほとんど転がっていないのがその証拠。靴も丁寧に手入れされている」

 

「なぁユン。俺も興味深いけどさ、お客さんの前で推理はすんなよ?」

 

「善処する。だけどこう、くすぐられるものがある」

 

 思わず寝そべりたくなるほどに綺麗な赤い絨毯(じゅうたん)が敷かれた玄関ルーム。あらかじめ用意されたものなのかこれまた履き心地の良さそうな黒いスリッパが二人分あった。

 

 前方に見えたドアが開き、黒いワンピース姿の少女が姿を見せる。彼女はユンと(はべる)の前まで歩き、丁寧に会釈(えしゃく)をした。

 

「ようこそお越しくださいました、オオタキファクトリー様方。私はこの家でメイドを務めております、メルティナ・アフターグロウと申します」

 

 流れるように挨拶の言葉を紡いでいくメルティナに、(はべる)は戸惑いながら返答する。対してユンは、メルティナと同じくらいの会釈をするだけだった。

 

「え、ええ。この度はオオタキファクトリーに連絡いただきありがとうございます。俺は――ええっと私は加藤(はべる)。こちらは有川ユンです」

 

 ――これで合ってる?

 

 (はべる)はちらりとユンの方を見る。たぶんねという視線とほんの少し首を傾ける様子をユンは返した。

 

「承知しました。加藤様、有川様、お上がりくださいませ。装置があった部屋まで案内いたします」

 

 (はべる)は踏み入れて大丈夫なのか、別次元の家ではないのかとごくりと唾をのんでスリッパを履く。そして脱いだ靴を揃えた。

 ユンはそこまで警戒するものでもないだろうと、脱いだ靴は揃えつつ気軽にスリッパを履いて上がる。マナーを試されている訳ではないのをすぐに見抜いていた。

 

 メルティナに案内されるままに廊下を進み、書庫のような部屋に入る二人。部屋の中心には机と、その上に乗ったPC端末。

 部屋の奥には、話にあった隠し部屋というのがあり、本棚の間でぽっかりと入り口を開けていた。そして流れてくる女性の穏やかな歌。

 

 ちらりちらりと何かの強い明りが反射しているようで、階段の底から光が漏れる。どうやらこの家の主が、話にあった謎の装置の写真を撮っているようだ。

 

「依頼人はあの中に?」

 

「よくお気づきに。依頼をした夜鳥様は一人であの装置の所にいます。……資料用の写真を撮っているのだと」

 

「資料……? 小説家?」

 

 なぜ何も言っていないのに有川ユンはそこまで分かるのかと、メルティナは目を見開いた。先ほどまで無表情だった彼女だが、初めて感情を見せた顔をした。

 

「ガラス張りの本棚には数多くの資料が並べられている。でも生物学や幾何学などのほとんどが触られていない。逆に趣味で集められたような物語には手が付けられていて……すみません」

 

 心の中でテンションが上がっているのか。食い気味だったユンは一旦冷静になり謝罪した。恐らくこのまま彼の推理が進めば、家の主である平等院夜鳥が働いていないニートであることまで判明していたであろう。

 (はべる)はやっちまったかと右手で顔を抑え、左腕でユンを小突く。

 

「とりあえず降りましょう。確かにここまで歌がうるさいと執筆作業に困るでしょうから」

 

 いろいろな道具が入ったバッグを背負ったユンは先に下へ降りていく。続いて(はべる)、メルティナと順に下に降りていくのだった。

 

「ああもうどうなっているんだこの装置? 古すぎてわからない? だがそれがいい! こういった資料を実際に得られることは強いインスピレーションに――わわっ!?」

 

 三人が階段を降りた先。そこには歌を流し続ける装置の写真をあらゆる角度からフォンで撮りまくる女性がいた。名を平等院夜鳥(びょうどういんやどり)。この屋敷の若き主である。

 別の明かりで部屋が照らされた時にようやく気付いたようで、慌てながら夜鳥は(はべる)とユンに会釈した。

 

「いやぁ、お見苦しい姿を見せてしまって……。平等院夜鳥だ、ボクが依頼主だよ」

 

「オオタキファクトリーの有川ユンです。後ろの装置が話にあった?」

 

「そうなんだ。どうやっても止まらなくて止まらなくてねぇ。古くて貴重な価値のありそうなものだから、叩いたり蹴ったりして壊してしまうのもなんだかなと」

 

 これでようやく止まりそうだと、夜鳥は場所を譲る。傍若無人な言葉遣いに変人じみた行動。ただ、自分もその一種かと自嘲しながらユンは装置に近づいて背中からバッグを降ろした。

 

「すまないが、作業しているところも見ていいかい? 写真は……顔が写るからよしておこう。今後の資料にしたいんだ!」

 

「……まぁ、構わないですよ。邪魔にならない範囲で」

 

 興味津々に目を輝かせながらユンに尋ねる夜鳥。

 あーあ、変人同士が出会ってしまったかと後ろで(はべる)は頭を抱えそうになった。メルティナも直感的にだ。どうなるかわからないコンビかもしれなかった。

 

 ユンは相変わらず歌を流し続ける装置をそっと触れながら確認し、夜鳥はその行動の一手一手を頭に電気屋の資料として叩き込んでいく。

 

「うん……ラジオだ」

 

「ラジオ? この装置はラジオだというのか?」

 

「このダイヤルはチャンネル設定。電源も無しに動いている? 受信機は外に? ……鉱石ラジオの一種か?」

 

「宝石? いや、鉱石? 鉱石ラジオというのはすごいものなのかい!?」

 

「電波を鉱石が受信して、その受けたエネルギーで音を流す。相当強力な電波が出ている? (はべる)、電波の受信と記録をしておいてくれ。この流れ出ている歌も。……技術的にはすごくなくて、この日本が昭和と呼ばれる時代から存在していたものだ」

 

「なんだぁ……でも昭和か、昭和かぁ……。ああ、だとするとこの部屋は昭和から!?」

 

「中は……こういう感じか。200年以上前のものがここまできれいに残るとは思えない。一年戦争時代に建てられたのなら、その時がちょうどいい」

 

 ユンがネジを外してラジオの金属製カバーを取り外し、中をチェックしていく。作業が進むに応じて次々と夜鳥が興奮気味に質問を重ねていく。噛み合っているようで噛み合ってない応答が繰り返されていくのであった。作業に集中しているせいか、ユンの答えももはやタメ口だ。

 

「コンビに見えてコンビじゃありませんね」

 

「そうっすね、ハハ……」

 

 後ろから無表情に作業を見つめるメルティナと、苦笑いを浮かべる(はべる)。ユンと夜鳥は良いコンビになると思えても、実はあんまり合わない組み合わせだった。まだ気心が知れてないせいかもしれない。

 

 その直後、ピタリとラジオから出る音が止まった。

 

「これで大丈夫なはずです。……でも、どこからかさっきの歌を流した電波が流れているはず。ん……」

 

 不意に、ユンはまじまじと夜鳥が立っている周辺の床を観察する。ライトで良く照らし、夜鳥がいる場所の近くまで移動してしゃがみ込む。

 

「なにかボクの足元に?」

 

「……この部屋、隠し部屋と言ってましたね」

 

「そうだけど……」

 

「まだ下にありそうです」

 

「まだ隠し部屋が!? 興味深い! 探そう! 今度こそお宝か何かの呪いが――」

 

「ここだけ床が新しい……ひっくり返せる金属製の取っ手だ」

 

 ワクワクする夜鳥の言葉を半分聞きながら、ユンは床の回転式の取っ手を見つけてがばりと入り口を開いた。重たい床が持ち上がり、ハシゴが姿を現す。

 

「……だいぶ深そうだ」

 

 ユンはポケットからフォンを取り出し、何かのアプリを起動した。すると簡単に描かれた目と口を持つ可愛らしい顔が画面に表示される。

 それはまるで人間のようにまばたきしていて、別の場所にいる人と本当にモニター通話しているかのような印象を夜鳥は受けた。

 

「ユング、このハシゴと底にある空間をエコースキャンしてくれ」

 

『わかりました。エコースキャンを開始します。ピピピピピピ……』

 

 ユンはフォンをさらに下へと続く隠し部屋入り口の前に向ける。もし落としたら絶対にただでは済まないだろう。だがそれを平気で行えるあたり、有川ユンという人物の異質さが見て取れる。

 

「なんだいそれは? 応答してくれるタイプのアプリケーション?」

 

「自己学習型の便利プログラム、『ナラタケ』。その一つである『ユング』。自分で開発した」

 

「すごいじゃないか!? 情報工学のスペシャリストなのかい!?」

 

『ボンッ! 解析が終了しました。このハシゴの先に空間があります。中心にロボットらしきものが存在しています』

 

「ロボット? 存在は?」

 

 知らないのかと、ユンは夜鳥の方を向いた。そんなまさかと、夜鳥はブンブンと首を横に振る。

 夜鳥もメルティナの顔をばっと見たが、彼女も静かに首を横に振るだけであった。

 

 誰も知らないロボット。昔から存在したのだとしたら、一年戦争時代くらいのロボットがここにあったということになる。

 空間というのだから、存在しているのはモビルスーツクラスのロボットの可能性がある。

 

 まさかの展開に夜鳥とメルティナは非常に驚いた。まさかこの日本で個人で強力な兵器を所有するなど。

 前例があるとすれば、マジンガーZを所有していた兜甲児(かぶとこうじ)くらいのものだろう。

 

「……いっ、行ってみよう! それはすごい! 警察や軍隊沙汰になる前に、資料として撮っておかないと! コックピットやどんな質感なのかとか!」

 

 ロボットが失われる前に我先にと、夜鳥はハシゴを降り始めた。ハッとしたメルティナが続いて追いかけるように降りていく。さらにユンも興味津々な様子で降りていった。

 

「おっ、おい!? こういうのって警察とかに任せないか!?」

 

 部屋には(はべる)だけが残された。こういうのって入り口が閉じたりしないように見張っておいた方がいいのだろうかと考えこみ、結局彼はその場で待っていることを決めた。

 

 暗い空間だが、ポケットに入れたフォンのライトがぼんやりと周りを照らす。ついにハシゴの最後までたどり着いて足を床に付けた夜鳥は、フォンを取り出して興奮気味に辺りを照らした。

 

 その場にメルティナ、ユンと降り立ち、二人とも警戒しながら同じように周囲を照らす。

 

「キャットウォークというものでしょうか」

 

「ちょうどコックピット周りに降りたようだ」

 

 メルティナはまず自分たちがどこにいるのかを確認。そしてユンは目の前に立つロボットを確認。

 ちょうど三人は胸部の前にいるようで、さらにハッチが開かれている状態であった。

 

 黒色で、歪で奇妙な四肢をしたロボット。顔は左右非対称の角をしていて、両腕両足の形も左右非対称なことが確認できた。

 背丈は解析通りにモビルスーツらしいものであるが、その姿はよくわからないもの、強いて言えば機械獣じみた格好であった。

 

「ろくな機械ではなさそうですね……」

 

 何かを思い出したのか、メルティナはぞくりと震えた。彼女に違和感を感じたのかユンが声をかけようとしたが、その空間に夜鳥の声が響く。

 

「すごい! 本当にロボットじゃないか!? コックピットは開いている!? どうせ動かないんだから、シートの手触りとか、どんな操縦方法なのかとかが見たい!!」

 

 パシャパシャと外見を撮っていた夜鳥だったが、我慢できずに開いているコックピットへ突入してしまった。

 

「夜鳥様!?」

 

「さすがにコックピットに入るのは危険だぞ!」

 

 焦るメルティナとユン。だが夜鳥の予想は正しかったようで、ロボットが勝手に動くことは無く、コックピットもまた閉じることは無かった。

 

「ふむ、シートの手触りはこうなのか。よくフィットする感じだ。IS(インフィニット・ストラトス)は動かした経験はあるが、それとはまた違った操縦桿の手触り! いい資料になるぞ! ミリタリー物はリアルさが重要だから――」

 

 シートに座って操縦桿を握ってみる夜鳥だったが、そこまで言って違和感を覚えた。

 おかしいのだ。シートも操縦桿も、『自分にフィットしすぎる』。まるで今この時の自分のために用意されてたかのような感じである。

 

「まさかお爺様が……いや、そんなまさか。そんなことはあり得ない……。えっ?」

 

 また夜鳥は、いや、その空間にいた三人全員が違和感を覚えた。

 ズン、ズンとした揺れが起きたのだ。空間の上にいる(はべる)もそれを感じ取っていることだろう。

 

「何かが、近づいてきている?」

 

 メルティナは自分の経験から、それが大型ロボットの足音であることに気が付いた。彼女の心の中をかき乱す焦燥感、恐怖心、そして植え付けられていた高揚感。

 

「危険です夜鳥様! この場から――」

 

 そこまで言ってコックピットのハッチを見た途端、その瞬間を待ち構えていたかのように夜鳥を閉じ込めるようにハッチが閉じるのだった。

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