スーパーロボット大戦Blank   作:フォトンうさぎ

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本編
第0話:始まりの二人 ①小説家とメイドの日常


「覚悟は決まったな……? 平等院夜鳥(びょうどういんやどり)、履歴書を書け!」

 

「やだね。ボクは小説家だ、ニートじゃない」

 

 どんっと、高級テーブルに叩き付けられる空白の履歴書。それを冷ややかな目で見ながら、平等院夜鳥(びょうどういんやどり)という若き女性はコーヒーを飲もうとした。

 舌に黒い液体が触れた途端にあちっ、と夜鳥は口を離す。幸いにも白い履歴書に(しずく)は飛ばなかった。

 

 カップから口を離した通り、お嬢様というにしてはこなれていない雰囲気が見て取れる。

 目ざとい者であれば、少なくとも彼女がここ数年は大きなパーティや集まりに出てはいないということを読み取れたであろう。

 

 まるで動じない夜鳥に苛立ったのか、テーブルの向かいに座るヘルメットを被った男は、まくし立てるように説得に乗り出す。

 彼女のお嬢様風のぎこちなさは見抜けていないようであった。大金星を上げるために功を焦ってもいた。

 

「我々強制就職(デスマーチ)軍は君のような暇を持て余すニートの労力を欲している! 今ならオハヨーワークにこちらから紹介してやるぞ! 就職祝いのご祝儀1万円もつく! さぁ君も『お仕事楽しいです』!」

 

「ボクを舐めてんのか。曲がりなりにも平等院財閥の次女だぞ。まぁ家出したけど。うん、そこらへんは知ってるか」

 

「くうっ……! しかしニートだ!」

 

「だーかーらーっ! ボクはニートじゃない小説家だ! きちんと先月分の収入もある!」

 

「だが安定性した収入源ではない! 我々強制就職(デスマーチ)軍の紹介なら、安定した収入を得られる! アットホームな職場を紹介するし、この豪邸よりも通いやすい寮を紹介しよう!」

 

 段々と夜鳥も苛立ってきたのか、オレンジ色の長い髪をさらりとかき上げた。そしてひじ掛けを使って頬杖をつき、いつもはしないような目つきで強制就職(デスマーチ)軍と名乗る者を睨みつけた。

 

「帰ってくれ。あいにくボクの作品を待っている者は多くいるし、収入源なんてしばらく必要ないくらいに金は足りている」

 

 もうこのモードに入ったら、話は通じないと判断したのだろう。男は押し黙った。

 

「知っているよ? この戦争だらけの世の中であらゆる職業を斡旋(あっせん)、または請け負う企業である強制就職(デスマーチ)軍。しかし、その企業の仕事を受けたら永遠に社畜にされると。ハンッ、嫌だね! そんなのボクが作品を書く時間が無くなるだろう? 君、ボクの作品がどれだけ読まれているか知ってる?」

 

「ぐぬぬっ……! 一応小説家として活動している以上は連れていけんか……! 何も活動していないなら更生として連れていけるものを……」

 

「話は終わり。メルティナ! メルティナ・アフターグロウ! お客様がお帰りだ、お見送りしたまえ」

 

 夜鳥が手を叩くと、既に応接室の前で控えていたのか、メルティナという少女がドアを開けて入ってきた。

 黒い三つ編みのツインテールに、メイド服風の装飾がされた黒のワンピース。顔立ちはまだ幼い感じがするが、無表情で機械的な印象を受ける感じだ。

 

「承知いたしました、夜鳥様。お客様、お忘れ物はございませんか? 玄関まで案内いたします」

 

「ま、待てっ、平等院夜鳥! 平等院財閥の令嬢なら、月面本社であるハッピーハッピービルに話を通して大きな仕事を与えても――」

 

「お客様、騒ぎを起こされては困ります。お帰りはこちらです」

 

 メルティナは静かに、しかし強かに言い放った。

 小娘ごときがと話を続けようとした男だったが、ぞっとするような暗く赤い瞳の禍々しさにあてられてついに黙り込む。

 男の何かが、これ以上この少女の前で言葉を発してはいけないと警鐘を鳴らしていた。

 

「く、うぅ……わかりました。こちら簡単な仕事の求人冊子になります。もしよろしければ――」

 

「いらない。メルティナ、帰してあげて」

 

「承知いたしました、夜鳥様」

 

 突っぱねる夜鳥と、さぁ帰れと恐怖のオーラを放つメルティナ。素人目から見ても只者(ただもの)ではない。

 男は悔しそうに『バイト・正社員募集中』と大きく書かれた冊子を(かばん)にしまい、メルティナの後について部屋を出た。

 

 カチャリと静かな音を立てて閉まるドア。それを確認した夜鳥は――どっと脱力した。今まで演技していたお嬢様風の行動が一気に消滅する。

 

「ふぃいいい……勘弁してくれよ強制就職(デスマーチ)軍の下でとかさぁ……。20時間くらい働いているとか噂される社畜なんかなりたくないって」

 

 思いっきり背もたれに背を預け、夜鳥はぶつくさ呟く。

 

「酷い場合には軍事企業とか傭兵だよ? 無理無理っ。資料として戦争は見てみたいけど、それを実際に望んでいるわけじゃないんだって」

 

 そこまで言って夜鳥はメルティナが戻ってくるのを待つ。もう男が玄関から去った時間だろうと考えた。

 ちなみに、独り言をぶつくさ言うのは夜鳥の癖である。いくつになっても抜けない、他人に聞かれたら恥ずかしい癖だ。

 

「戦争、か……。お爺様、宇宙世紀110年になっても戦争やテロは続いています。……ジオンに続いて今度はザンスカール帝国との戦争。今はヨーロッパが危ないみたいだ」

 

 夜鳥は手の甲を額に当て、表情に影を落とす。しかし、これはいけないと手をどけて嫌な考えを振り払った。

 

「ボクがこの世の中を直すとか? 無理だろ、ただの家出娘だぞ? ロボットでもあれば……ボクが戦うか?」

 

 ちょうどその直後には、夜鳥のメイドであるメルティナが部屋に戻ってきて、疲れ果てていた夜鳥に一礼した。

 

「お疲れ様です、夜鳥様。今回も大変でしたね。家に上げるリスクはありましたが、もう来ないでしょう」

 

「メルティニャ~ン! ボク疲れたよぉ! 後で肩揉んで足揉んでそんでもって一緒に寝て~! ぎゅうって抱きしめさせて~! 愛でさせろ~!」

 

 先程までの気が強そうなご令嬢という装いはどこへいったのやら。夜鳥は手を上下にバタバタ振ってメルティナに甘えさせてもらうよう駄々をこね始めた。齢22の乙女がなんとはしたない真似であろうか。

 

「承知いたしました。ではまずコーヒーセットを片付けますね。……しかし、僭越(せんえつ)ながら夜鳥様。安定した収入があった方がいいというのは正しいご意見かと」

 

「やったぁメルティナ大好きぃ! ……の後にいじわるするメルティナは嫌いだ。仕事はそのうち探す、趣味の執筆作業に干渉しないくらいのやつなら」

 

 唇を尖らせ、夜鳥はそんなの後でやるよと何度メルティナに聞かせたかわからない言葉を言う。主人のそういった態度は承知の上なのか、メルティナは流すようにさらりと言葉を述べた。

 

「お言葉ですが、『そのうち探す』というお言葉は私が夜鳥様の下に就いてから100回以上聞いております。まだまだ備蓄があるとはいえ、私はおこになります。角が生えます」

 

 可愛い表現が急に飛び出し、夜鳥は真顔になる。『まさか? いつも無表情で無感動っぽいメルティナが、こんなにも可愛い冗談を言うのか?』と。

 

 そして満面の笑顔になって椅子から立ち上がり、メルティナに向かって抱きしめるように飛びついた。

 力はあるのか、メルティナは床に倒れることなく夜鳥の飛びつきをきちんと受け止める。

 

「メルティナは可愛いなぁ! 世界一可愛いなぁ! そこまで言われちゃあボクも頑張るしかないよなぁ! よぉ~しよしよし! まずは、そうだな……きちんとした小説家になる道を目指す――」

 

「夜鳥様、小説の先月の収入はいくらでしたか?」

 

「うっ……アフィリエイトで、ごうけいさんびゃくえん……」

 

「おにぎり2つ、プラス駄菓子いくつかですね。よくそれで先月分の収入や読者が待っているなどと言い切れましたね」

 

「ぐすん。メルティナが怖い、事実怖い……でも可愛い、泣きながら撫でる……。無表情系ちょろかわ毒舌メイドさんとか属性もりもりだよぉ……」

 

「よしよし夜鳥様、よしよし。まずはコーヒーセットを片付けますので、放してください」

 

 お互いに頭をさすり合い、夜鳥は名残惜しそうにメルティナから離れる。そしてすうっと息を吸い込んで、気合を入れた。

 

「よしっ、歴史ものとかに挑戦してみるか。葦原(あしはら)さんが置いていった資料は大量にあるんだし」

 

「まずは身近な求人募集を探しましょうか夜鳥様」

 

 既にメルティナはコーヒーセットを片付けに入っている。夜鳥は二つ返事を返しつつ、また後でねと応接室を後にした。

 向かう先は、現在の平等院亭(旧葦原(あしはら)亭)の書庫。壁一面に本棚が並び、部屋の中心に執筆用の端末が存在する夜鳥専用の部屋だ。

 

 葦原道幸(あしはらみちゆき)なる人物から、平等院夜鳥とメルティナ・アフターグロウが受け継いだこの家。まさしく豪邸なのだ。

 

 海沿いの小高い丘の上に建ち、近くの千葉県逃尾(にがしお)市から少しだけ離れた場所に存在する。

 平等院財閥という大きな家を、家出同然に抜け出した夜鳥とメルティナが静かに暮らす場所であった。

 

「さぁてと、まずは歴史ものを書くんだったら歴史とか漁ってみないとねー。10年前以前の書物やデータしかないから、ネットで漁るかぁ。まぁゴシップや嘘も含まれるけどしょうがない」

 

 机の上の端末を起動して、背もたれ付きの椅子にどかッと勢いよく座る。宇宙世紀という時代にもなれば端末の起動から操作できるようになるまでの時間は非常に短く、夜鳥はすぐに作業に入ることができた。

 

 ネットの海から拾ったものだが、次々と画面に歴史が表示されていく。

 

 

 ・宇宙世紀100年以前:コウモリ退治戦役、木星戦役などの大きな戦いが頻発。宇宙戦国時代の突入。リムガルド・フォールなる国一つが消滅する大災害も発生。ミノフスキー粒子の発見による戦争の大きな変化。

 

 ・宇宙世紀100年:コロニー落としから始まる1年戦争、Dr.ヘルの反乱、安倍晴明率いる鬼の襲来が同時発生。しかし最後にIS(インフィニット・ストラトス)という宇宙用高性能パワードスーツの開発という進歩も見られる。

 

 ・宇宙世紀100年12月31日:激しい戦いの連続であった時代、『悪夢の100年時代(ナイトメア・ハンドレット)』終焉宣言がなされるも、以後激しい戦いが続く。

 

 ・宇宙世紀100~110年:ミケーネ帝国の襲撃、グリプス戦役、ネオ・ジオン戦役、シャアの反乱、ラプラス事件発生。

 

 ・宇宙世紀110年:現在(宇宙世紀110年7月1日)

 

 

「ざっくり!? うわぁ、歴史の教科書の目次かよ……。でもよく考えたら、歴史もの書くったって1つの物事とかよくよく知らないんだよなぁ……。無理かな、当事者でもないし。当事者、ねぇ」

 

 お爺様が連れてきた少女メルティナ、生々しい人体実験の跡、後遺症に苦しんで暴れるメルティナ、姉との激しい喧嘩と確執、人が散らばったビームの粒子で穴だらけになる光景、倒れるビル、逃げろと促すお爺様、メルティナを汚らわしいものかのように見る両親の目、メルティナを守るために一緒に家を出た日、お互いに孤独で抱きしめ合いながら眠った夜……。

 

「……歴史ものはやめよう、嫌な出来事ばかり思い出す」

 

 夜鳥の表情から元気が失われていた。開いていた画面をさっさと閉じ、席を立って何か資料やインスピレーションになるものはないかと本棚に向かう。

 しかし、強制就職(デスマーチ)軍の対応での疲れもあり、一気に嫌なことがフラッシュバックしてきたやる気の低下もあってか、何かを書くという余裕は残っていなかった。

 

「ハァ、やっぱりやめやめ。メルティナにマッサージでもしてもらおっと」

 

 夜鳥は一度うんと背伸びをしてから書庫を出た。

 明かりが自動的に消える書庫。誰もいないはずの空間。その中で優し気な子守歌がどこかから漏れ出たことに、夜鳥とメルティナがその日のうちに気付くことは無かった。

 

 

 そして深夜になり――

 

「メルティ、ナぁ……むにゃむにゃ、ボクが居場所になる……はふぅ……」

 

「……夜鳥様、実は起きてますよね? ……ふぅ、本当に寝言ですか」

 

 寝室の高級ベッドの上で、パジャマ姿で軽いシーツを体にかけて寝る二人。はっきりとした言い方であれば、一人は完全に寝てもう一人はうとうととしているところであった。

 夏の暑さが少し気になるが、それも自動で送風してくれる機器のおかげでなんとかなる。

 

 そんな中で夜鳥の寝言を聞き、メルティナは少し頬が熱くなるのを感じた。

 孤独だった自分の居場所になってくれること。そう約束してくれた夜鳥に今一度嬉しさを感じ、メルティナは暑さを忘れて夜鳥にぴったりと寄り添った。夜鳥は暑さで寝苦しさを見せたが、メルティナは自分のわがままを優先させた。

 

「私はずっとあなたのお傍に、夜鳥様」

 

 このような穏やかな日々がずっと続けばいい。そして、主人が仕事を見つけてくれれば。そう願うメルティナであった。

 

 しかし、平穏は――

 




【おまけ!】

【中断メッセージ:平等院夜鳥、メルティナ・アフターグロウ】

「う~ん、う~ん……足りない、強化パーツが足りない……」

「どうされたのです? 夜鳥様」

「メルティナぁ……序盤の機体にいっぱい強化パーツを付けられないんだ。どうしてもスロットが余る」

「そういう時はインターミッションのヴァンフリーク商会を利用してみましょう。第4話のインターミッションから利用できます。マギアルカさんが初めの内ならブースターやSPドリンクミニを売ってくれますよ」

「なるほどぉ。で、ヴァンフリーク商会やマギアルカさんって何? だれ?」

「まずは4話クリアまで進めましょうか。……4話の前で悩んでいたんですか? あの、第3話クリアの時点で正式に味方に加入している人って、夜鳥様とル……」

「あ、あはははははは! とりあえず進めるよ、ありがとうメルティナ! ネタバレは勘弁!」

「え? えぇ? 3話すらクリアせずに強化パーツで悩んでいたんですか……?」
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