スーパーロボット大戦Blank   作:フォトンうさぎ

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第0話:始まりの二人 ③Theme of Over.on(前編)

【宇宙世紀110年7月6日 地球圏サイド2のハイスクールにて、授業開始前のこと――】

 

 眼鏡をかけた少年二人は、隣の席同士で同じように項垂(うなだ)れていた。

 昨晩起きた出来事のショックが抜けきらず、こうしてお互いに元気がなくなっているのだ。

 

 二人して同時にため息。耐え切れないように、茶髪でやや髪がはねている方の少年がもう一方に問いかけた。

 

「どうしたマシロ。元気ないぞ……」

 

「そっちこそだろ、フォント。お前こそ机に突っ伏しそうでどうしたんだよ……」

 

「い、色々とね。そっちも色々あったみたいだ……」

 

 尋ねた方の少年はフォント・ボー。問いかけられた黒髪のストレートの少年はマシロ・オークス。どちらも眼鏡をかけているせいか、美少年というよりはややオタクよりな印象を与える風貌だった。

 なお、フォント・ボーは間違いなくモビルスーツや兵器のオタクであった。マシロ・オークスもゲームやSNSに寄ったオタク的趣味を持っている。

 

 お互いに顔を見合わせず再びため息。その空気に耐えられなくなったのか、フォントがまた口を開く。

 

「実はさ、俺がコツコツ集めてネットに公開していた、過去の兵器や武装について集めたサイトあるだろ? あれさ……なんか、サーバ上のバックアップも含めて丸ごと消された……。ハロロのAIや新情報のバックアップは、タブレットにしまっているから難を逃れたけど……」

 

「はぁっ? えっ、サーバのデータごと? どんだけヤバい情報に触れたんだよ」

 

 あまりにも重々しい内容にマシロはつい顔を上げ、隣で項垂れたままのフォントの方を見た。彼がコツコツ情報を集めたサイトが消された。

 彼がどれほど情報と向き合っているか知っているマシロにも、大変ショックに思える事件だった。

 

 もはやフォントは「ふ、ふっ」と乾いた笑いをすることしかできない。彼がいつも持っているタブレットから、美少女型AIの『ハロロ』が『消えてますねぇ、ぜ~んぶさっぱり消えておりますねぇ』と茶化した。なんとも主人に優しくないAIである。

 慰めになるかはわからないが、マシロも昨日にあったショックな出来事を自然と口に出していた。

 

「俺の方はさ……。昔流行ったゲームの早解きプレイをした動画でバズったら、『お前が本気を出すとお前自身が不幸になるんだ』って父さんに散々叱られた。いつもいつも、訳わかんないよな……」

 

「あぁ、お父さんのせいで、いっつもわざと平均点取らされてる感じなんだっけ。大人の考えることって、訳わかんないことあるよな……」

 

 マシロの方は、能力を発揮すると父親に叱られるという悩みの延長線上だった。

 自分の本気を出してはいけない。それが小さな頃から彼を苦しめている悩みの種なのである。

 

「うん、本当に意味無いよ。本気とか才能とか示しちゃいけないってさ。生きている意味がわからなくならない? ……それでフォント、君はどんなマズい情報に触れたんだ?」

 

 友人を立ち直らせるには、好きな話をさせた方が早い。そう思ってマシロは、一か八かの感覚で消えた情報についての内容を聞いてみた。

 熱くなれる話になると元気が出るのか、フォントは顔を上げてマシロの方を見て、記憶を手探り感覚で思い出しながらゆっくりと話し始めた。

 

「ネットっていつも変な情報が流出、リークされていることあるだろ? それで、天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)とかいうザンスカール帝国の切り札……的なものを見つけたんだ」

 

 フォントが言うザンスカール帝国。それはこのサイド2オリンポスのコロニーと同じサイドに存在するコロニー軍による国家である。

 ジオン共和国と同じように地球に対して戦争を仕掛けており、今はヨーロッパの方面にかなりの部隊を投入している。

 

「切り札? それって、超強力な核ミサイルとかそういう奴?」

 

「いや、どうやらそういったものではない……みたいで。精神感応派で、地球の人々の思考を赤ん坊の状態くらいに戻すとかなんとか。なんか、あり得ないよな?」

 

「赤ん坊の状態に戻す? 戻してどうするんだ? ザンスカールの人がまた一から育てなおす?」

 

「まさかねぇ? あり得ないってのは、なんか、こう……天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)は本当に最終兵器なのかって感じで……。確かに効果としてはすごいのだけど、切り札なら『相手を一気に殲滅(せんめつ)する即効性』に欠けている気がしてさ」

 

「なるほど。う~ん、ずっと精神感応派をかけ続けれるのかという疑問もあるし……」

 

 そこまで話題が進んだところで、同じクラスの少女が突然ずいっと間に入ってきた。

 

「マシロ、フォントも。なんか随分と物騒な話をしているみたいじゃない?」

 

「ルチア? これは、そう、戦術とか兵器の男のロマン的な話で――」

 

「人をどうにかしてしまうってのにロマンも何も無いと思うわよ、フォント」

 

 少女の名はルチア。フォントやマシロと同じクラスメートで、活発的な性格をしている子だった。

 

「どうしたんだルチア? この話に割って入ってくるなんて珍しい」

 

 マシロがそう問うと、ルチアは腰に手を当てて答えた。

 

「どうしたんだ? じゃないでしょ、もう授業始まるのよ? どんだけ話し込むつもり? それに、朝から項垂れていた君たちを心配したんでしょ」

 

 二人は同時にクラスの壁に表示されている時計を見る。確かに授業開始1分前ほどの時間で、このまま気づかなければ教師が来ても二人は永遠と話し続けていたであろう。

 

「こんな時間か……ありがとうルチア。フォント、昼休みにどこか食べに行って英気を養おう」

 

「そうだ、な。うぅぅ……サイトのことまた思い出した。ガンダム試作2号機は存在したんだよ? 確かに情報にあるんだよ?」

 

 いつもの日々、いつもの日常、いつもの会話。17歳でハイスクール2年である彼らの日常は、このまま穏やかに流れていく……はずだった。

 

 午前の授業が終わり、昼になって二人は学校の外に出ていた。

 昼休みは1時間。外食でも少々の時間は余るので、学校から少し離れた洋食店に向かう途中のことだった。

 

 二人は天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)の話題について、あーでもないこーでもないと言いつつ、歩む速度を合わせながら店に向かう。

 だが、不意にその途中でマシロが足を止めるのだった。

 

「どうしたんだ?」

 

「……なぁ、フォント。俺っていったい、なんだと思う?」

 

「えっ?」

 

「父さんに小さな頃から言われているんだ。『お前は本気を出してはいけない』って。でもさ? 俺、その小さなころの記憶がぼやけているんだ。なんか、昨日の怒られたこととかでさ、俺は自分が何者か分からなくなった。……俺って、なんだと思う?」

 

 重たい相談内容であった。それはマシロも若干感じていたようで、問いかけてから申し訳なさそうに顔を逸らす。

 しかし、フォントは一度うんと悩んでから自分の考えを口に出す。

 

「ハイスクール時代からの付き合いだから、わかったような口はきけないかもしれないけど……。君は、どこにいてもマシロ・オークスなんだと思う。きっと今悩んでいるマシロが、本当のマシロなんだよ」

 

「そう、なのかな」

 

「きっとそうだろ? じゃあ、俺は君がマシロって名乗れない存在であったとしても、このコロニーに……オリンポスにいた証として君をマシロ・オークスって呼ぶよ。ははっ、ちょっとくさいかな?」

 

「いや……ありがとう、フォント。気が楽になったような感じがする」

 

 自分を自分の名で呼んでくれる。それはマシロにとって救いの言葉であったし、このコロニーオリンポスに確かに存在しているとつなぎとめてくれる(アンカー)であった。

 

「見つけたよ、マシロ・オークス君。『シャマール』……いや、パプテマス・シロッコと呼ぶべきかな?」

 

 突如としてそこに割り込む声。気づけば、二人のすぐ横に向かって金髪の男性が歩いてきていた。

 不敵な笑みに、格好はスーツ姿。後ろには物騒に拳銃や機関銃を構えたボディガード達。その姿を見た周りの住人たちは一目散に逃げだして住居の中に隠れる。

 

「俺のこと? あなた達は、いったい?」

 

「私はレイモン・メキネス。安心してくれ、君たちに危害を加えるつもりはないよ。何もしなければ、の話だがね」

 

 にやりと不敵な笑みを浮かべたまま、レイモンという男はボディガード達をマシロとフォントの周りに配置させる。

 同士討ちしないように円形ではないが、逃がさないという明らかな意思が二人には見て取れた。

 

「話って……銃を向けられたまま正常に話なんてできませんよ!」

 

「言っただろう? 別に何もしなければ危害を加える心配は無いんだ。パプテマス・シロッコ、今からの私の話をよく聞いてほしい」

 

「パプテマスって、ティターンズを乗っ取って戦争を玩具(オモチャ)にしていた人でしょう!? 俺の何が彼と結びつくんです!?」

 

 銃への恐怖に対する反発なのか、強い口調でマシロは反論した。

 次に、フォントも怖がりつつレイモンという男に反論する。友人のための、勇気ある行動だった。

 

「あなた達は何を言っているんですか? 彼は、マシロ・オークスですよっ、戸籍上だってそうだっ。外見上も内面も何も関係ない……彼はパプテマス・シロッコじゃない!」

 

 当たり前の反論。齢17の少年が過去に死んだとされるパプテマス・シロッコにどう結びつくというのか。

 しかし、レイモンはやれやれと首を横に振った。まるで分っていないのだと呆れるように。

 

「君に用は無いよ隣の少年君。マシロ・オークスは正しくパプテマス・シロッコなのさ。私達が示してあげよう、君の過去、そして本質というものを」

 

 頭に少々のノイズが走る。ジ・Oというモビルスーツに乗り、多数の敵を撃ち抜き斬り伏せ、最後にZガンダムに突撃された記憶……。

 しかしそんなのはあり得ない、あり得てはいけないと勢いよく首を振る。そんな記憶があったら、自分は自分だという確証が無くなってしまうからだと。

 

「俺はマシロ・オークスだっ! 思想も経験も性格もっ、パプテマスじゃない! 俺は――」

 

 途中まで言ったところで、カランと地面に響く金属音。ボディガード達が下に目を向けると、そこにはモクモクと煙を吐き出す缶がいくつか転がっていた。

 一瞬で辺りが煙だらけになり、レイモンとそのボディガード達、そしてマシロとフォントの視界までもくらませる。催涙性のない煙幕だ。

 

「その場から逃げろっ! いいな!? 真っすぐ後ろに走れ!」

 

 その場にどこからか響く男の声。マシロとフォントは何から何まで訳が分からないと思いつつも、銃を向けられている状態よりはマシだと、男の声に従って後ろへ振り返って全力で駆けた。

 

「どうなる!? 誰の声だ!?」

 

「フォント! 走ろうっ! アイツらよりマシと思いたい!」

 

「煙幕から出たな! 二人ともこっちだ!」

 

 二人はただ全力で走り、やがて煙だらけの場から抜け出す。抜けてすぐに片目を長い金髪で隠した男に出会い、二人は路地裏へと誘導される。

 マシロは重要人物なのか、ボディガード達は足を止めるために闇雲に銃撃を行うということはしてこなかった。それが身体能力に優れていない二人の救いだった。

 

「キツイだろうが今は全力で走れ! お前たちは……フォント・ボーは知ってはいけない情報を知ってしまった!」

 

「こ、今度は俺ぇ!?」

 

「あの輪っかのこと!?」

 

 先導する男は問いに応えない。今はただ死にたくなければ、自由の身でいたければ全力で走れと背中が示していた。

 やがて銃撃戦のない追走劇は長い金髪の男やマシロとフォントの勝利という形で終わり、三人は倉庫の一角に入ることになった。中は薄暗く、人の気配は無い。

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……」

 

「はぁ、はぁ……」

 

 肩で息をする二人。その前に立つ男も多少息を切らしていたが、まだまだ余裕のありそうな佇まいだった。普段から相当鍛えていることが伺える。

 

「あ、あなたは誰なんです……? どうして俺達を助けてくれたんですか?」

 

「あなた、何か知っているんですよね? 俺がパプテマスと呼ばれる理由も、もしかしたら――」

 

「……俺は宇宙海賊ビシディアンの頭領(リーダー)、キャプテン・アッシュ。ある依頼の上でお前たちを、フォント・ボーを救出した。話があるのは俺ではなく、『あちら』だ」

 

 宇宙海賊という名乗りに二人はぞっとする。本日は厄日のようだ。

 キャプテン・アッシュという男は振り向き、握りこぶしから立てた親指で横を差す。フォントはその顔立ちをどこかで見たことがあると思いつつも、示された方を促されるままに見た。

 

「すまないアッシュ。けっこうな苦労をかけさせてしまった」

 

「宇宙海賊としては日常茶飯事なことだ」

 

 指で示された方には、機材に座っている褐色でサングラスをかけた男と、まだ幼女と言えそうな少女がいた。

 薄暗い中でサングラスをかけているということは、そしてその男自らが自分たちの元に来なかったのは、褐色の男の目が悪いからではないかとフォントは勘づく。

 

「この子であっているだろう? カーティス。危機が迫っていたので余計な子まで付いてくることになってしまったが」

 

「ベルお嬢様? この子であっておりますか? 確認をお願いします」

 

「……うん! この人であっているよ!」

 

 やはり褐色肌の男は目が見えないのだとフォントは気づく。隣にいるベルという少女に確認をしてもらったのだから、間違いなくそうなのであろう。

 

「フォント・ボー、君はザンスカールの知ってはいけない情報を知ってしまっ――」

 

 プルルルルルと、カーティスという男の言葉を遮るように響く携帯(フォン)の着信音。マシロのものだった。

 いつもの癖のようにマシロがフォンをポケットから取り出して画面を見ると、それは父からの画面表示通話を求める合図だった。

 

「……あの、父さんからです」

 

「――出てもいいよ、連絡できるのは最後になるかもしれん。しかし、私たちのことは言わないでいてくれたまえ」

 

 カーティスがマシロに通話の許可をする。その場を見ていたキャプテン・アッシュは、『やはり甘いな』と苦笑するのだった。

『最後になるかもしれない』という言葉に、ごくりと唾を飲みながら通話に出る。

 

「もしもし、父さん?」

 

『マシロか!? 無事なんだな!? ――そちらにオーヴェロンを向かわせた。今はただ、逃げろ!』

 

「はっ? 父さんちょっと待ってくれ! オーヴェロンって何? いったい何が起きているの? 教えてくれよ!」

 

 険しい表情になったのは通話に出ているマシロだけではなく、アッシュとカーティスもだ。フォントと、ベルという少女はただ何が起こっているのかわからず傍観するだけである。

 

『私も全てに答えてやりたい、今度こそ。しかし時間があまりにも足りなすぎる……。だからっ、オーヴェロンに乗る少女と共に逃げろ。連中はお前を簡単には殺さない』

 

「何を言ってるんだよ……訳が分からないよっ、父さん!」

 

『マシロ、今まで厳しい育て方をしてすまなかった。しかし、今からは自らの意志で――』

 

 そこまで父親が口にした途端、画面の奥側から爆発らしき光景が見えて画面通話が途切れた。残るのは、会話が途切れた音のみ。

 

 一瞬だったが、画面の奥で何が起こったのかはマシロにも分かった。『父が誰かに消された』のだ。厳しい育て方や愛情を感じなかったようにも思えるが、たった一人しかいない父が死んだということは彼にもわかってしまった。

 それを理解したマシロは、足から力が抜けて地面に膝をついてしまう。

 

「父さん、意味わかんないよ……なんで誰も、何も教えてくれないんだっ!」

 

「……君も大きな事情を抱えているようだ。だが今は、あえてこの言葉を口にさせてもらう」

 

 ビッと二人を指差し、カーティスという男は厳しく告げた。もはや今の二人に残されている道は二つしかないと。今ここで、すぐに選ぶしかないのだと。

 

「フォント、マシロ。今の君たちには二つの道がある。我らと共に来るか、ここで何もできずに朽ち果てるかだ!」




【解説】

◆:『機動戦士ガンダムヴァルプルギス』の序盤の展開と、『機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト』の序盤の展開を混ぜ合わせ、プラスそこに『機動戦士ガンダムAGE』の要素です(キャプテン・アッシュ)。

◆:キャプテン・アッシュとカーティス・ロスコは旧知の仲(?)です。(彼らが10年以上の時を経て再会した話もいずれ書きたいと思っております)

◆:フォントは原作最終章で18歳と明言されており、マシロは原作で年齢がはっきりとしていなかったはず……。成長して18歳ならまだわかるかなって感じで、どちらも年齢17歳の同じクラスに設定しております。高校2年生です。

◆:フォントが住んでいる箇所を、ズム・シティ(ジオンのサイド3コロニー)からオリンポスに変更してます。


【おまけ!】

【中断メッセージ:マシロ・オークス】

「ん? 言葉が走った……? あっ、プレイヤーか、お疲れ様。マシロ・オークスだ。俺はもうちょっとスパロボの早解きプレイを続けるとするよ」

若干暗めな顔になりながら

「えっ? せっかくのクロスオーバーなのに、どうして最初から早解きプレイなのかって? そりゃあ、早解きプレイでバズって広告収入を--じゃなかった。一刻も早く俺の真実を知りたいからさ」

明るめな表情に戻り

「みんなはスパロボBlankをじっくり楽しんでくれよ。それじゃあまた会おう。……なんだ、この展開? 『私』が知らないストーリーが内蔵されているのか!?」

眼鏡を外して焦燥の表情になる

「何っ、フリーズだと!? ゲーム機がエルドリッジ効果を受けている!? ゲーム機、動け! ゲーム機、なぜ動かん! ええいっ、話にならん。……あれっ? 俺、いったい何を……? ゲームのやりすぎかな」
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