なんとなく時間の目星はついた。
あなたはその時間まで宿で休もうと町を歩いた。
俺はお勘定を払って酒場を出た。
彼女が言っていた暗闇に光指す晴れた日とは。
ふと、空を見上げる。
今は夜になっていた。
この世界とリアルの世界とは時間の流れが違う。
リアルで半日がこの世界での1日になっていた。
そうする事でプレイヤーが夜も朝も冒険する事ができるという事らしい。
見上げた空は満点の星空。
明日は晴れそうだな。
それから、俺は露店を見ながら情報収集をした。
酒場でも聞いたが、間違いなさそうだ。
大神神社はこの始まりの町にある。
この始まりの町に隣にある山の頂上にその神社があるらしい。
そこまで行くのに階段を何千段上がらないといけないと言うことだ。
ま、一度上がればワープポータルが解放されて一瞬で上がったり降りたりできるらしいけど。
酒場で彼女から聞いた言葉の時間そこに行くには少し休んどかないといけないな。
マップを開いておおよその山の入り口は分かった。
迷わないように入り口に印を付けてと。
さて、宿屋を探して休みますか。
「あ、あのう、すいません」
「はい?」
突然後ろから声をかけられ振り向く。
そこに剣を腰につけた男性が息を荒くして立っていた。
「と、突然すいません。
あなたを探してて」
かなり探し回ったのか息が荒い。
「な、なんでしょう?」
「えっと、あなたですよね?
黄金色のトウモロコシ持っていたのって」
「え?」
なんで知ってるんだこの人?
「酒場で持っているのを見たと言う人がいて」
あ、確かに出したわ。
「それでですね、そのトウモロコシ俺に譲ってもらえませんか?」
「え、どうしてですか?」
「はい、実はそのトウモロコシは呪いを解除するアイテムの1つなんです。
仲間がダンジョン攻略でその呪いを受けてしまってどうしても必要でして」
「そうなんですか」
確かにこのトウモロコシがどういう能力があるか分からないけど、そんな効果があるのか。
「なので是非お願いします」
「そう言われましても」
「この武器と交換してもらえないですか?」
「武器?お金じゃなくて?」
「はい、実は手持ちがなくて、そのトウモロコシは買えば5000Gするのでこの武器なら申し分ないかと」
剣を受け取り能力を見てみる。
確かにレア武器のようだ。
だけど。
「このトウモロコシって買えるんですか?」
「はい、この近くの農家で。
本当はこの武器を売ってお金に換えたいんですが、武器屋はもう閉まっています。
呪いは明日の朝までは持ちそうにないんです」
「お金があれば今からでも農家で買えますか?」
「は、はい、農家さんはまだ大丈夫です」
なら、所持金は9000G。
俺は5000Gを取り出して冒険者に渡す。
「え?」
「すいません、こちらも事情があってこのトウモロコシは渡せないんです。
代わりにこのお金でトウモロコシを買ってあげてください。
あと、武器も結構です。
俺にはもう頼もしい武器を持っているので」
「しかし、それでは何も担保なしで借りる事に」
「最悪その時はこのトウモロコシを買ったと思って諦めますよ」
「あ、ありがとうございます。
必ず、必ず返しますので」
そう言って冒険者は急いで走っていった。
これって彼女に関係するのかな?
でも、さっきの人は間違いなくプレイヤーだったしな。
ま、いいや。
このトウモロコシは渡さなくてすんだしな。
俺は改めて宿屋に向かった。
言われた時間に必ず鳥居に行かないとな。
「やば、寝過ごした。
間に合うか?」
俺は宿屋を出て山への階段に向かった。
まだ、辺りは暗い。
山頂に向かう階段についた。
まじかぁ。
見上げると噂通りの階段の数。
くそ、急がないと。
俺は石階段を上がり始める。
彼女が言っていた暗闇に光指す晴れた日とは。
晴れた日に朝日が出る時間の事を言っていたと俺は考えた。
ま、分かりやすく言ってくれたんだろうけど。
なので、早起きして階段を上がる予定が30分も寝過ごした。
「はぁはぁ」
リアルじゃなくて良かったよ。
リアルだったら死んでたな。
まだまだ、階段が続いている。
後ろを向く。
後ろの山がうっすらと明るくなって来ている。
くそう。
俺は力を入れ直し、階段を駆け上がる。
「まだ、つかないのか、はぁ、はぁ」
だいぶ登ったが、もう、後ろの山もだいぶ明るい。
ふと、上を見上げる。
ん?
誰かいる?
俺は疲れた体に鞭を入れ上がる。
やっぱりいる。
腕組みをして階段に立ちこちらを見る人影。
俺はその人に向かって階段を上がる。
「やっと来ましたね」
目の前で、長い白い髪を揺らし笑顔で待つキツネの女性がいた。
「まずはこれを飲んで」
スポーツ飲料?
ごくごく。
あ、疲れがなくなった。
「さ、行きますよ」
「了解」
俺は女性と共に階段を上がる。
「この姿では初めましてですね。
特殊世代組の白上フブキです」
《スキル【運命】が発動しました》
そうか君が。
「はい、よろしくお願いします」
お互いに笑う。
「約束通りきちんとコーン持っててくれたみたいなので手助けに来ましたよ」
「昨日のあれってやっぱりフブキちゃん?」
「はは、すこん部さんに頼んでちょっと一人芝居うちました」
すこん部?
たぶん、彼女を推してる人かな?
「なんか怪しかったですよ」
「ですよねぇ。
でも、約束守ってくれて嬉しかったですよ」
「約束守ったかいがありましたよ、こんな可愛い人が待っててくれるなら」
「な」
一瞬で顔が赤くなるフブキちゃん。
「今はそれ言うのやめて」
顔を隠しながらでもすごい勢いで上がっていくんだが?
「ちょ、ちょっと待って~」
やっと追い付いた。
「ほら、そろそろ着きますよ」
本当だ、階段がなくなってる。
「何とか間に合いそうですね」
後ろの山からゆっくりと太陽が上がってきている。
「条件は暗闇に光指す晴れた日に階段で上がってきて鳥居を見上げるだったんですよ」
「え?」
「君はこの世界は初めてみたいだから階段の事は言わなかったんですけどね」
上から歌が聞こえる。
「こんな晴れた早朝だったら、気分よく歌ってると思った」
「これはミオ様が?」
「そ、相変わらず聞いてると心が落ち着くなぁ」
確かにはっきりとはまだ聞こえないけど、疲れを忘れてしまうように気分が落ち着く。
「さて、わたしが付き合うのはここまで」
「え?」
「これは返しておきますね」
5000Gと狐と書かれた玉?
「これは?」
「それはおまけです。
必ず近いうちに役に立ちますから」
「ありがとう」
「いえいえ。では、おつこんでしたー」
そう言ってフブキちゃんはその場で宙返り、煙となって消えてしまった。
「ほんと化かされた気分になるよ」
俺は笑う。
さぁ、もう少しだ。
階段を上がりきった。
ちょうど朝日の光が背中から当たり、鳥居をくぐる。
俺はゆっくりと鳥居を見上げた。
そこには目をつぶり気持ちよく歌っている、ケモミミ少女の姿があった。
疲れた体を鳥居にもたれかけ、俺も目をつぶって歌を聴く。
途中で声をかけてこの歌を遮るのは無粋な気がした。
「終わるまで待っててくれたんだねぇ」
「え?」
目を開けるとそこには笑顔の大神ミオちゃんの姿があった。
さて、ミオちゃんに出会えたあなたは、自分の持つ2つのスキルの謎を知ることができるのか?
私事ではございますが、11月は不定期な掲載になります。
見捨てずお待ちいただけると嬉しいです