ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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もう、エタらない!


0.プロローグ

ある少年が犬に追いかけ回されているころ

 

また別の少年が祖父に階段から突き落とされ魔力を発揮したころ

 

ある囚人が自分の無実を訴えることを諦めたころ

 

彼らはロンドン郊外に住んでいた。

 

スミス一家は近所では有名な家族の1つだった。

 

デニスとアマンダはその家族を一生懸命支えてた。

デニスはよく出張でアメリカやらカナダやらに飛んでいたが、帰ってくる時はかならずお土産を買い、自分が行った場所について面白おかしく娘たちに聞かせた。

アマンダはそんな忙しい夫を支え、同い年の友人たちが夜遊びをしているのを目の端に捉えながら自身は家事やら娘たちの世話やらに精を出した。それを本人はさも当たり前のようにやり、近所に住む年配の住人は感心したものだった。

 

「あんた、このおもちゃ使わないからさ、娘さんにね。」

 

「ありがとうございます、こんなにたくさん...」

 

そんな彼らに周りの人々が手を差し伸べるのは当然のことで、お菓子を差し入れしたり、育児のアドバイスをした。

 

2人の長女であるエルファバ・スミスは、年の割に大きい体に少し不健康なのではと思わせるほどの真っ白い肌、父親譲りの大きい瞳は深いブルーで、何より人目を引いたのは腰まである真っ白な髪の毛だった。

 

「おばさま、よければ荷物持ちます。」

「お母さん、大丈夫?体調悪そうよ。私がエディ見てるから休んで。」

 

その髪の毛を揺らしながら彼女は周囲のお年寄りの荷物を持ったり、年下たちのケンカの仲裁をしたり、公園の木の下で本を読んだりした。

 

大人びた知性、絶やさない笑顔、面倒見の良い性格。

 

同い年の子供を持つ親は半分本気でエルファバが我が子になってもらえないかとミミズを大量に持って帰ってきた息子を見ながら嘆いた。

 

 

エルファバの妹であるエディはすべてにおいて姉とは正反対だった。

母親のアマンダと双子なのではと思わせるほどそっくりなそばかすだらけの顔に父親から受け継いだ黒髪を揺らしながらエディが精を出すのは、いかに大量のミミズをペットボトルに入れられるかである。さらにそれをご丁寧に包装して他の女の子たちにプレゼントするのがマイブームだ。

 

それを代わりに謝りキャンディやらチョコレートをあげるのがエルファバの仕事でもあった。

 

「エディ....ダメよこんなことしたら。」

「どうして?」

「人が嫌がることはしちゃダメなのよ。たとえあなたが楽しくてもね。」

 

本日7人目の被害者に最後のチョコレートをあげたエルファバは、イマイチ分かってない妹に言い聞かせてた。

 

「わかった...ねえ、エルフィー!あたしね!きょうはかくれんぼしたのよ!」

 

分かってない...そうエルファバは思いつつも太陽みたいに笑う可愛い妹に何も言えなくなってしまった。

 

「そうなの?だからワンピースが汚れてるのね...どこに隠れたの?」

「んとねー!ゴミばこのなか!」

「うそ...きたない...」

「ちょっとくさかった!でもだれもみつけられなかった!」

 

この正反対の姉妹はとても仲が良かった。いつも手を繋ぎ、よくエディはエルファバに抱きついていた。エルファバはそんな妹の頭を撫でながら、ニコニコと妹の話を聞く。

 

「ねえ、はやくエルフィー!!!ジャックもメアリーもいるの!!」

「まーだ。公園についてからよ。」

 

そう言えばエディは顔をキラキラ輝かせ、エディの手を引っ張っていく。

 

「はやく!はやく!」

「ひっぱらないでエディ、そんなことしなくてもちゃんとできるから...」

 

そんな姉妹は大人たちの癒しだった。

 

「あらあら、エディは本当にお姉ちゃんが好きなのね。」

「エルファバは偉いな。ダミアンなんてこの間弟を仲間外れにして大変な騒ぎになったじゃないか。ちゃんと付き合ってあげるんだな。」

 

姉妹は笑いながら公園の広場にやってきた。木々は外の世界を覆い、少女たちの"秘密の遊び"を隠してくれる。

 

8月の太陽は人々の肌をジリジリ焼き、女性たちはそれを嫌い日焼けクリームやらサングラスやらで必死に、子供たちはそんなこと全く気にしない。ましてやこれから面白いことが始まるとなれば膝にできた傷も、いたずらで親から逃げてることも忘れてしまう。

 

「エルフィーだ!」

「うわ!やった!」

「エルフィー!」

 

エルファバは近所の子供たちの小さなスターだった。

なぜなら....

 

「まほうみして!」

「はーやーく!!」

 

5、6人の小さな手がエルファバが引っ張る。

 

「はいはい、わかったから...見てて。」

 

ニヤリと笑うとエルファバは自分の手の平を空に向け、ふうーっと息をかける。

 

 

すると手の上でキラキラと粉が舞った。

 

 

子供たちはその瞬間を見逃さないように、静かにその手の平を見つめる。

八の字を書くように手をひらひらさせれば、その粉たちは大きな塊となった。

 

「わー...!」

 

女の子はうっとりとした声を漏らす。

エルファバはその塊を掴み、地面へ叩きつけた。

バキバキっ!と音がしたかと思えば、叩きつけた先から地面は凍っていき、気がつけば広場はアイススケート場のようになっていた。

 

「すっごーい!!」

「いいなー!!!」

「スケートする!!」

 

もう何度もみているというのに毎回呼吸困難になるのではと思うくらい興奮する子供たちにエルファバは笑う。

 

子供たちは乱暴にリュックからスケートブーツを取り出して、滑り出した。

 

公園を季節関係なくアイススケート場にできるのも雪がなくても雪だるまを作れるのも、さらにはこの地域一帯を天候を変えることができるのは彼女だけだ。

 

エルファバは子供たちを喜ばすためだけにその"力"をつかった。

 

「ねー!きょーは、ドラゴンつくらないの?」

 

「あれはもうだめよ。だって、火のかわりに雪吹いてこの辺の木凍らせちゃって大変なことになったじゃない。お父さんがもう動くものは作っちゃいけないって。"しゅうしゅう"がつかなくなるからって。」

 

「えー...」

「今日はスケートだけ!ほらはやく行かないととけちゃうよ。」

 

男の子はドラゴンがつくれないことにご立腹だったが、できないものはしょうがない。エディはきゃーきゃー言ってる他の子たちの方へと滑っていった。

 

エルファバもたまに転びそうになる年下たちの周りに柔らかな雪を放ちながら、自身も夏のスケートを楽しんだ。

 

一時間後くらいに親たちが向かいに来る。その時にはこの氷は全て溶けるだろう。たとえどんなに子供たちがエルファバの力の素晴らしさを語っても、親たちはそれを空想上の話として聞くのだ。

 

そうやって、子供たちの秘密は成り立ってきた。今日までは....。

 

 


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