最後の投稿から何年も経っていたにも関わらず、本当に嬉しいです。
ーーーーーーーーーー
エルファバ
一体何を考えてるんだ?人の前で"力"を使うなんて。前にも言っただろう?人に見られればお前は拒絶され、みんな離れていくって。もう2度とこんなことしないでくれ。じゃないとお前を退学させなきゃいけない。
父より
ーーーーーーーーーー
エルファバは小さくため息をついた。クイディッチでの一件を父親に話した結果がこれだ。
(お父さんは本当にこの力を使ってほしくないのね。今までショックや恐怖でいろんなものを凍らせたと言ってしまえば、お父さんは確実に私を退学にするわ。)
(でも...でも...)
ふと、窓を見るとキラキラした雪がホグワーツを包み込んでいる。
エルファバは雪が大好きだった。一瞬で世界を銀色にする雪。しかし、それは許されないことだ。
それを認めれば、自分の危険な"力"を認めることになるから。
「エルファバ?」
はっ、とロンの声で深い思考の世界から目覚めた。そして今、みんなでニコラス・フラメルについて話し合っていることを思い出す。
事の発端はクィディッチ後に、ハグリッドがポロリと漏らした一言だった。ニコラス・フラメルに関するものを3人が見た三頭犬が守ってるらしいということで、ニコラス・フラメルとは何者か、そして守られているものはなんなのか、徹底的に調べていたのだ。
と、言っても大まかなことを知るのにそこまで時間はいらなかった。
「ニコラス・フラメル?錬金術士でしょ?」
通称ミス・図書館、エルファバ・スミスによってその疑問はあっけなく解決される。ダンブルドアと共同研究しているニコラス・フラメルはとんでもない長生きであることや、それの元となる"賢者の石"をスネイプが狙ってるであろうことまで分かった。
「やっぱり、長生きしたいんじゃないか?」
「うん、それが一番妥当だよね。」
スネイプは長生きしたいらしいということで結論付けた3人は、話題をエルファバの母親に変えた。そっちの方が謎が多く、不可解なことに満ちている。
「じゃあ、杖はお母さんが使ってたものって考えてるのね?」
「うん。」
父親のもの、という推測も出来たが、ハリーたちが杖を買う際には腕のサイズを測ると聞いてその可能性を消した。父親のものにしてはあまりにも小さすぎるからだ。
「あっ、そういえば、パパから手紙の返信来てたんだった!」
ロンの鈍感すぎる発言にハーマイオニーはギロリと睨みつける。
「忘れてたんだよ!ごめんごめん。」
ロンの言うには、オルレアン家はフランス系移民の純血一族だったが、数世代前にマグルと繋がったために今は純血の一族からは外されてるらしい。
「ロ・ン?その手紙来たのいつ?」
ハーマイオニーの笑顔は怒りの表情よりも恐ろしい。ハリーとエルファバはそう思った。不幸なことに、本人は気づかない。
「んーとね、11月半ばくらい?」
今は雪積もる12月だ。ハーマイオニーは近くにあったクッションでロンを殴り始めた。
「うわうわっ!!やめろよハーマイオニー!!」
「すっごい、重要な、ことじゃないの!!」
ハリーは苦笑いだ。さすがロン、と言ってしまえばそれまでだが。
「まあ、これでなんでオルレアン家のことが図書室の本に書いてなかったのか分かったわ。」
エルファバはありがと、とお礼を言った。"魔法使いの名家一覧"や"純血たちの主張"に名前が出てこないのは当然といえば当然だ。フランス系の家族である事はなんとなく想像できたし、あのホグワーツの図書館といえどもフランスのことを細かに知るのはかなり困難なことも分かっていた。
「でも、杖がお母さんのものだったとして、あなたのお母さんはもう...」
そう言って口を閉じたハーマイオニーはすごく悲しそうだった。
魔法使いはずっと同じ杖を使い続けるのが普通だ。その杖が今エルファバの手元にあるということは、前の持ち主は亡くなったと考えるのが普通だ。
「そうでもないと思うよ。」
ロンは、昼食から失敬したマフィンを頬張る。
「家族の杖とかを受け継ぐのは普通だけどその人が必ずしも死んでるとは限らないよ。僕のだってチャーリーのだけど、チャーリーは今ルーマニアで元気にドラゴン追いかけてる。」
ロンは先っぽからヒラヒラしたものが出てる杖をクルクルと弄ぶ。
「どういう時に杖って受け継がれるの?」
「僕の場合はチャーリーが新しい杖を手に入れるからで、あとは...そうだなー持ち主が死んじゃった時とか、魔法使えないくらい頭がおかしくなっちゃった時かな。」
ハーマイオニーのクッション乱れ打ちを食らってるロンを見ながらエルファバは無造作に置かれている自分の白い杖を見つめた。
(私のお母さんは今どこにいるのかしら...。ロンの話からすると、よくて生きてるけどもう魔法が使えない状態、悪くて既に亡くなってるってことよね。ロンのお兄さんのように新しい杖を買うほどこの杖は損傷してないわ。むしろ結構綺麗だし。)
「まだ、その杖がお母さんのものだって決まったわけじゃないよ。今度お父さんに聞いてみなよ、ね?」
こういう時、1番優しいのはハリーだ。エルファバの肩をポンポン、と叩き励ますように微笑んだ。
「ありがとう。」
エルファバは頑張って口角を上げる。男の子にお礼を言うときに微笑むのが有効であることはラベンダーが教えてくれた。それは"恋愛講座"で学んだことなので、若干意味合いはずれてはいるのだが。
「クリスマス休暇に帰るのは私だけよね?」
一通り叩き終えたハーマイオニーはハリーに聞いた。
「そうだよ。僕はダーズリーのとこなんて帰りたくないし、ロンも兄弟と一緒に残るんだろう?」
あえてエルファバのことに触れなかったのはハリーなりの配慮だろう。
実際、帰ろうか迷ったが自分が帰らなくてはいけないのは"家"ではなく、小さな"自分の部屋"であることは本人が1番分かっていた。
(独りは寂しいわ。)
ホグワーツに来てから、エルファバは人の温かさを知ってしまった。友達と些細な話で笑ったり、真剣に勉強したり、教授たちに褒められたり。想像以上に外の世界は美しくて優しさに溢れていて、それを失いたくないと思うのだ。
「じゃあ、クリスマス休暇楽しんでね!」
ハーマイオニーは3人にハグをして、談話室から出て行った。
「女子は誰が残ってるんだ?」
「私だけ。」
エルファバの知ってる人はいない、という意味だとロンとハリーはすぐに分かった。伊達に数ヶ月エルファバと一緒にいるわけではない。
「これからどうするの?」
ハリーの問いにエルファバは日刊予言者新聞を見せる。
「クリスマスプレゼント決めなきゃ。」
エルファバはクリスマスにプレゼントを贈り合うことを昨日知った。自分の家族には行事というものがなかったのだ。これはエルファバが数年間部屋にこもっていたからではなく、そもそも何かを祝うとかそういう習慣がなかったのだ。それを知ったハーマイオニーはエルファバに口座番号を教えてくれ(親にはもうフクロウで伝えてあるわ、いくらでも使っていいって。来年返してくれればいいから!)生まれて初めて他人に贈るプレゼントを考えている。
(難しいわね...)
ハリーにはクイディッチの技一覧書、ロンはご贔屓のクイディッチ・チームのガイドブック、ハーマイオニーには"首席だった偉大な魔法使い"という本をあげることにした。
少々骨が折れたのは家族のプレゼントだ。父親には最近人気の勇者ロックハートの本で、母親はアートが好きなので、ミセス・パーキンソン(スリザリンのパンジー・パーキンソンが自分の祖母だと自慢していた。)の美しい金や銀の装飾を使った画集だ。
問題は妹エディのプレゼントだ。ホグワーツに行きたいと言ってるくらいだから、魔法がどんなに素晴らしいか教えてあげたい。だがエルファバはエディが嫌い(という設定)なので、あげたら多分自分が好きだと勘違いするだろう。
『エルフィー!!プレゼントありがとう!!ねえ、一緒に遊ぼうよお!!魔法見せてよおっ!ねええええええええっ!』
容易に想像できる。非常に面倒だ。
いろいろ考えた結果、エディには触ると消えるいたずらコインを数枚あげることにした。意地悪に見えるが、エディは直に魔法に触れることができるから大喜びするに違いない。
妹が単純で助かった。
ハリーやロンと暖炉のそばでマルフォイの退学計画を練ったり、2人のチェスマッチを観戦したり(魔法の世界のチェスは動くのだ。おかげでドラマティックな試合を真近で見ることができた。)しているうちに、クリスマスはスニッチのようにやってきた。1人で占領している女子部屋で少し早く起きたエルファバは、足元にあるプレゼントの山を見つけ、ゴクリと唾を飲んだ。
(私にもプレゼントが!!人生の中で最後にプレゼントをもらったのは、いつかしら?というよりそもそもプレゼントなんてもらったことはあるのかな?覚えていないわ。)
無我夢中に包装紙を引きちぎり(本当はマナー違反かもしれないわ。ごめんなさい。)中身を開いた。
"誰でもオシャレになる女の子の魔法"はもちろんハーマイオニーからだ。セドリックとの会話を目撃してから彼女のプロデュース作戦は加熱するばかりだ。キレイにまつ毛をカールさせる魔法とか肌をキラキラ輝かせる魔法とか、女の子は自分以外誰も気づかないような小さな変化のために必死なのだとエルファバは理解する。
ハリーとロンからはお菓子の詰め合わせセットで、ハリーの方がピンク色のチョコレートとか花びら風のキャンディとか女の子が好きそうなもののチョイスだった。"女の子"といったものを選んでいるのはハリーなりの気遣いなのだろう。
驚いたのはハグリッドからのプレゼントがあったことだ。ハグリッドがくれたペンダントは金色の鎖にぶら下がるガラス玉の中で、銀河が浮いておりキラキラ星が舞っている。
(ハグリッドがこんなロマンチックな贈り物をするの?)
エルファバは結構失礼な疑問を抱く。
最後の包み紙には藍色のセーターとホームメイドのファッジが入っていた。宛名はなく、ゴールドの毛糸で真ん中にEと書かれている。
(誰のかしら?私にセーター送る人なんて...着てみよう。)
その疑問はすぐに解決された。セーターとペンダントを身につけ、談話室に降りて来た際のロンの第一声は呻きだった。
「うわっ、ママ、君にもセーター送ったんだね...。」
「ママ?…ロンのママ?」
どうやら噂の人はセーター作りが大好きらしい。ハリー、ロン、フレッドとジョージ、さらにパーシーも真ん中にイニシャルが入ったセーターを着ている。
「おそろい。」
エルファバが小さく呟くと、みんな笑った。
「メリークリスマス!エルファバ!」
「みんなメリークリスマス。」
(こうやって人と何かを共有しあうってなんて幸せなんだろう。)
胸の奥からジワジワくる暖かい気持ちをエルファバは噛み締め、このままこれが永遠に続けばいいと思った。
(ねえ、お父さん。私今すっごく幸せなの。みんないい人ばかりでロンのママはセーターまでくれたわ。みんな、私の"力"を知ったら離れていくかしら?一度人の温かさを知ってしまうと、独りでいた時がすっごく惨めで、悲しく感じる。もうこれを手放したくないわ。)
『君の"力"は確かに人を傷つけるかもしれん。じゃが、使い方次第では人を守ることができるんじゃよ。』
あの優しい瞳をした校長の、落ち着いた声が頭の中に響く。その声が響いた瞬間にいろんな場面が目まぐるしく回った。
どんどん氷の彫刻のようになっていく妹、血走った目でエルファバを殴り続けた母親、面倒くさそうな顔をして自分を見る父親、ハリーやロン、ハーマイオニーの笑顔。そして数え切れないクラスメイトたちや教授たち。
(もし、私が"力"を隠すことで明るい未来が生まれるのなら、隠し通していこう。ずっと、ね。)
「エルファバ。朝ごはん食べに行こう!僕もうぺこぺこだよ。」
「うん。」
エルファバは新たな決意を胸に、友人を追いかけた。