ハリーは今やグリフィンドールだけではなくハッフルパフ、レイブンクローの間でスターだった。今回のクイディッチで史上最短記録でスニッチを掴んだという事実はグリフィンドールが寮対抗で首位に立つということ、つまりスリザリンをペシャンコに出来るということなのだから。
が、この試合によって若干困ったことが起こったのも事実だ。試合を終わらせたハリーはスネイプとクィレルの会話を聞いてしまったのだ。
「やっぱりスネイプが賢者の石を狙ってるんだよ。僕らが正しかった。多分いろいろな魔法でそれは守られてるんだよ。スネイプはクィレルの魔法を破らなくちゃいけないんだ。」
ロンはそれを聞いて、クィレルは3日も持たないと言ってはいたがエルファバの考えは違った。本性を知っているエルファバにとって、賢者の石を狙うスネイプより完璧に正体を隠すクィレルの方が怖くて仕方がなかった。きっとあの人にはエルファバが想像できない強い力があるだろうと。しかしそれを3人に言うことはできない。それを話すにはエルファバの"力"について言わなくてはならないからだ。
(それにオルレアン家を憎んでるってどういうことなのかしら?)
ますます自分の出生の謎が深まる中、さらなる問題が入り込んできた。
「ハーマイオニー、試験はずーっと先だよ。」
ハリーはハーマイオニーに渡された紙を見て呆れたような、非難しているような声を出した。
「10週間しかないわよ。ニコラス・フラメルに比べたらほんの1秒よ。」
ハーマイオニーが3人に渡したのはこれからのテストに向けた復習予定表だった。ご丁寧に3人の苦手分野に合わせて予定を考えてあるのがなんともハーマイオニーらしい。
「ハーマイオニー、僕たち600歳じゃないんだぜ。」
「エルファバはそんなに苦手分野とかないから心配してないけど、ちゃんと本気出さなきゃダメよ?」
エルファバは顔にかかる白い髪を通してジロッとハーマイオニーを睨む。
「返事は?」
「...」
「これは進級がかかってるのよ?本気出さないで留年してしまったらどうするの?」
「留年しない程度にすればいいじゃない。」
ハーマイオニーが怖いのでロンの後ろに隠れながらエルファバは抗議する。ロンがちょっと嬉しそうなのを見てハーマイオニーはますます不機嫌になった。
「だーめ!」
結局、
が、やはり自分が知っていること以上のことについては見つからない。しかもこの時期の図書館は生徒が多いため必然的にエルファバ・ファンクラブ・メンバーの遭遇率も増える。
「やっ、やあ、スミス。」
左目の端っこに自分に接近するガタイのいい男子生徒を見つけたエルファバは、全速力でたまたまいたセドリックのところまで逃走した。
「やだ、なんであの人たち来るの?それになんで私を知ってるのよ。」
エルファバはセドリックの体を上手く影にしながら呟いた。
セドリックはハリーとロンとフレッドジョージ以外で唯一心を開いた男性だ。
(君に興味があるんだよ。可哀想だからそんな逃げないであげて、そういうの男は傷つくから。)
セドリックはそのセリフをグッと飲み込み、頭を撫でる。この小さな1年生にそれを言っても伝わらないことは薄々気づいている賢いハッフルパフ生だ。
「エルファバをイジメようとかそんなつもりはないんだよ。」
「...」
これ以上面倒なことが増えないといいけど。
そんなエルファバの願いはハグリッドの家に行って砕かれた。
「ドラゴン?」
賢者の石を守っている教師たちの情報を聞けたと思ったらこれだ。ハグリッドがエルファバの身長くらいある(ロン、なんで今チラッて私を見たのよ?)枕の下から取り出したのはエルファバも読んだことのない本だ。もしかしたら禁書から取ったのかもしれない。
「母親が息を吹きかけるように卵は火の中に置け、孵った時はブランデーと鶏の血を混ぜたものを30分おきにバケツ一杯飲ませろと。俺のはノルウェー・リッジバッグという種類らしい。こいつが珍しいやつでな。」
意気揚々というハグリッドにエルファバが考えていたことをハーマイオニーが代弁してくれた。
「ハグリッド、この家は木で出来てるのよ。」
ハグリッドはどこ吹く風なのをみてみんな絶句した。
嫌な予感しかしない。
そう4人とも顔を見合わせたのは言うまでもない。
そのあとのエルファバは闇の魔術に対する防衛術の教室でぼんやりと黒板を眺めていた。チョークには魔法がかかっておりクィレルが言ったことの要点をまとめているが、どもりまで見事に写してしまうため解読には時間がかかるのだ。それがこの授業の人気が低い理由の1つでもある。
ロンはクィレルのどもりをからかうシェーマスたちに注意を加えている。3人はまだクィレルは罠の解き方をスネイプに教えてはいないが、やつれていくクィレルが可哀想だと思っているらしい。
だが、エルファバは気づいている。
クィレルがエルファバの恐怖を見透かすように時折不気味に笑いかけることを。
スネイプは誰かといれば危険なことは起こらないとは言っていたが、裏を返せばクィレルはエルファバに何かをする機会を伺っているということだ。目的も何も分からないが、それが余計に恐怖を煽り立てる。
お前をいつも見ているぞ。
あの笑みにはそういった意味合いが含まれているに違いない。
隣に座ってるハリーがエルファバを小突き、小さな紙を見せてきた。
ーーーーーー
いよいよ孵るぞ
ーーーーーー
筆圧の強くてインクが飛び散ったハグリッドの字だった。
「今日...?」
まだ次の時間に薬草学があるのに。間に合うのかしら?ドラゴンが孵るのなんてお目にかかることはないから見たいわ。それに、孵ってしまえばいよいよハグリッドは法律を破ってしまう。
(法律を破る...?)
頭の中につっかえ棒が挟まってるような感覚をエルファバは覚えた。しかしそれがなんなのか分からない。
「魔法界でドラゴンの飼育は法律違反...」
「エルファバ、今更何を...?」
そう言いかけてハリーの目が見開かれた。何か重大な事に気付いたのだ。
「そっ、それじゃあ、授業はここで...」
クィレルが言い終わらないうちにハリーは教室を飛び出していった。
「ハリー?」
ロンとハーマイオニーもそれを追いかける。ハーマイオニーが足の遅いエルファバを引っ張っていく。
その瞬間、エルファバが目の端に捉えたのは恐ろしい顔をしてこちらを睨みつけるクィレルの姿だった。その表情をエルファバは見たことがある。母親が自分に見せた顔だ。
憎悪。
あの顔にはその言葉がぴったりだろう。
「ドラゴンの飼育は魔法界で法律違反なんだ。いきなり見ず知らずの人がたまたまドラゴンの卵をポケットに入れて現れるかい?しかもそんな人がドラゴンを飼いたいハグリッドの前に現れるなんて話が上手すぎるよ!」
記憶力の良さはエルファバが勝っているが、思考力や頭の回転においてはハリーが1番強いことはずいぶん前から気づいていた。ロンはイマイチ分かってないみたいだが、ハーマイオニーとエルファバは理解した。
ハリーは走る勢いでハグリッドの小屋のドアを叩いた。出てきたハグリッドは興奮で頬がピンクになっている。
「ハグリッド!聞きたいことが「もうすぐだ!お前さんら、早く入れや!」」
エルファバはゼエゼエ呼吸をしながら、いつもの水色の液体を飲み干す。3人の息切れと比べ物にならないほどエルファバの息は荒い。
卵は机の上に置かれ、深い亀裂からは小さい爪が見えている。だがそれを傍観している暇はない。
「ハグリッド!これをくれた人ってどんな人だったの?!」
ハグリッドはドラゴンの誕生の瞬間を見るのに夢中でハリーの問いに答えない。
「ハグリッド!私たち急いでるの!!」
だが急かしたハーマイオニーですら卵が割れた瞬間、そっちに気を取られてしまった。黒い卵から現れた小さくてシワくちゃなドラゴンがくしゃみをすると、火花が飛び散った。
エディがこんな感じのキャラの傘を持ってた気がするわ。
体は全体的に骨っぽく、オレンジ色の目がギロッと全員を睨みつける。
「素晴らしく美しいだろう?」
ハグリッドが頭に触れようとすると、ドラゴンは小さな歯でハグリッドの太い指に噛み付いた。ハグリッドはちゃんとママが分かるんじゃ!ちと喜んだが、そういうわけではないことは誰が見ても明らかだ。
「...あっ!ハグリッド!ドラゴンくれた人!どんな人だったの?」
ロンが思い出したように聞く。
「ん?ああ、マントを被っててよく見えなかったな。まああのパブじゃそんなに珍しいこっちゃない。」
「どんな話したの?」
ハーマイオニーが間髪入れずに聞く。ハグリッドはドラゴンと戯れながら(ドラゴンがハグリッドの指を食べようとしていると言った方が正しいかもしれない。)答えた。
「わしの職業と...んー、どんな動物を飼ってるか聞かれたな。なんてたってドラゴンは飼育が難しいからってな。だから言ってやったんだ。フラッフィーに比べればドラゴンなんて楽なもんだってな。」
4人で顔を合わせた。
「フラッフィーについてどのくらい喋ったの?」
ハリーは冷静さをかなぐり捨てかけてる。
「ああ、フラッフィーは宥め方を知っていればお茶の子さいさいだって言ってやったよ。ちょいと音楽を聴かせればすぐねんねしちまうって...ああ、可愛いなあお前さんはなあ...」
ハグリッド以外の全員は絶句していた。他の人にあの犬の秘密を教えてしまったのだ!
目線で会話する。かなりまずい状況だ。
本来なら大人に報告するべきなのだろうが、ハグリッドは完全なる法律違反をしているのだ。もしもこれがバレたらハグリッドは逮捕されるだろう。
エルファバがハリーを見た時、ハリーの頭の後ろのカーテンから見える隙間を通して誰かと目が合った。プラチナブロンドの緑色のネクタイをした少年はエルファバと目が合うと弾けたように逃げ出した。
「マルフォイ...」
「「「え?」」」
「マルフォイが見てたわ...」
4人は慌てて小屋を飛び出しマルフォイを追いかけたが、時既に遅し、マルフォイは城の中に消えてどこにいったか分からなくなっていた。
「ウソだろ?!こんなに不運続きってあるか?!」
ロンは柱を蹴り上げ、自分の足を痛めた。ハーマイオニーは芝生に座り込んでしまい、ハリーも柱に寄りかかる。エルファバに至っては芝生に倒れこんでしまった。
「マルフォイはひとまず置いておいて、賢者の石に関してはまだクィレルの罠があるわ。」
「クィレルはきっとすぐにスネイプに言ってしまうよ。」
ハリーはハーマイオニーの意見に抗議する。ぐうの音も出ず、4人の間に沈黙が流れた。授業がもう始まってるため、校庭はやけに静かだった。
「ダンブルドアに言いに行きましょう。」
ハーマイオニーは寝っ転がったエルファバを起こしながら言う。
「ダメよ。ハグリッドが捕まっちゃう。」
せっかく朝ハーマイオニーが結いたエルファバの白い髪には枯葉が絡まっている。
「そんなこと言ってる場合じゃないわ。賢者の石が盗まれてしまうかもしれないのよ?」
ハーマイオニーは枯葉をいくつか取りながらエルファバに言う。
「でもエルファバの言う通りだよハーマイオニー。正直、スネイプが若返るために必要なだけならハグリッドを差し出すような真似はする必要なんてないんだ。僕ハグリッドが捕まってしまうなんて嫌だよ。」
「よしっ、それはそういうことで決まりだ。あとは...」
ロンが口を開いたが、それを閉じてしまった。エルファバとハーマイオニーは背後に気配を感じ、振り向く。
「みっ、皆さん。かっ、感心しませんねえ。さっ、サボりですか?」
クィレルが4人を見下ろしていた。頬骨が浮き上がった顔は不気味で、ツンとした臭いが漂っている。
「あー...すいません。すぐに次の授業に行きます。」
ロンの言葉を合図に4人は立ち上がる。エルファバはさりげなくハリーの背後に隠れた。
「いっ、いいでしょう...わっ、私は、みっ、ミス・スミスに...用が...」
そう言うクィレルの瞳はオドオドしながらもエルファバを捉えて離さない。
(助けて...)
当然、事情を知らないハリーたちはエルファバのSOSに気がつかない。
「またあとでねエルファバ。」
(待って、行かないで!)
「きょっ、教授からは私がいっ、言っておきます。」
エルファバの叫びは虚しく、3人は去ってしまう。
(やめて、行かないで!)
エルファバの運はここで尽きたのか。
3人が角を曲がった瞬間にクィレルはエルファバを嘲笑った。
「さあ、鬼ごっこはもうおしまいだ。」
この回のクィレルが変態呼ばわりされてたことを思い出しました。