ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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16.恨みと機転

エルファバの細い腕をグイグイと引っ張るクィレルは興奮していた。ターバンの中からツンと玉ねぎのような臭いが漂い、エルファバの鼻を麻痺させる。

 

(どのタイミングで薬をかけようかしら?)

 

爪入り薬は当然ローブの中に入っているが問題はどのタイミングでかけるかだ。城の内部にずんずん進んでいき、逃げようにも腕を掴まれているので逃げられない。凍らすということも考えたが、クィレルはエルファバの氷を溶かすことができる。若干の時間稼ぎにはなるかもしれないが、そこから薬を取り出してかけても城まで走って助けを呼べるだろうか?呪文も使えそうなものは知らない。クィレルの授業は教科書を淡々と(どもり付き)語って板書(どもり付き)を写すだけの授業は不幸なことにクィレルにいい影響を及ぼしたようだ。

 

「逃げようたって無駄だ。」

 

(知ってるわ。そんな感じだもの。)

 

「お前はあいつに似てずる賢い。常識じゃあ思いつかないようなことを考えついた女だ。」

「...。」

 

(グリンダ・オルレアンに一体なんの恨みがあるっていうのかしら。)

 

エルファバは引っ張られて宙に浮きそうな自分の体を必死に押さえつけながら考える。

 

(一体どこに向かってるのかしら?)

 

「あいつはいつもそうだった。成績優秀なくせにそれを必死に隠したり、寄ってくる友人達を邪険にし、おまけにクィディッチのビーターときたものだ。あだ名は"クイーン"だとよ。はっ!私は弱い弟を演じて、まるで姉がいなきゃ何にもできないふうに装ってた。」

 

エルファバはその言葉の意味を飲み込もうとして放心状態になった。自分がどこかに連れ去られてしまうことも忘れ、抵抗をやめて手の届かない位置にあるニンニク臭いターバンを見つめる。

 

「...グリンダ・オルレアンはあなたのお姉さんなの...?」

 

クィレルは急に立ち止まった。その拍子にエルファバは思いっきり体をクィレルにぶつける。

 

「ああそうだ。私はあの女の弟だ、弟だったんだ。」

 

クィレルはエルファバの腕を雑巾を絞るように強く締め付ける。エルファバの腕が少しずつ赤くなっていく。

 

「...ったい。痛い。」

「母も父もあいつが好きだった。オドオドして神経質な末っ子など見向きもしなかった。だが、そんなことどうでもいい。今私はあいつよりも強く高い力があるのだから...!!」

 

エルファバはクィレルの"演説"を聞いて、哀れに思った。この弱々しい演技をしている教授は自分に自信がないようだ。きっと大変な経験をしたに違いない。

 

(でも私の腕を折る理由にはならないわ。)

 

今やエルファバの白い腕は真っ赤に染まっている。

クィレルはそんなことも気にせずに再び歩き出しながら饒舌に喋った。

 

「私には強い力がある!ご主人様が与えて下さった強い力だ。私はご主人様の期待に応えるのだ!!」

 

クィレルが自分の野望に浸ってる中にエルファバはこっそりローブに手を突っ込んでいた。今は真っ直ぐでどこまで続くか分からない廊下のど真ん中にいるが、一か八かでやってみようと思ったのだ。

 

(このままこの人のいいようにされたくないもの。)

 

ローブの内ポケットの中で瓶の蓋を開けてエルファバはクィレルのうなじあたりを狙う。

 

(上手く行きますように...!!)

 

ばしゃっ。

 

「ぎいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

廊下にゾッとするような絶叫が響き渡った。エルファバの人生の中で聞いたこともないくらい恐ろしく、残忍で、誰も真似できない叫び声だ。

 

「ああああああああ!!!ご主人様あああああああ!!ご主人様ああああああああああ!!」

 

今度は別の声が絶叫した。クィレルだ。泣きそうな声でターバンを必死に剥がし、主人の名前を呼び続ける。

 

エルファバは止まってなどいなかった。瓶を放り投げて、全速力で来た道を走る。

 

(怖い、怖いわ。ハリー、ロン、ハーマイオニー、お父さん、お母さん...!!)

 

「貴様あああああああああああああああああああああ!!」

 

クィレルが追いかけてくる。廊下に響くブーツの音からエルファバに対する怨み、怒り、殺意が伝わってきた。それはどんどん近づいてくる。

エルファバは頬に伝うものを感じながら無我夢中で中庭をつき向ける。

 

「はあっ、はあっ....!!...!!」

 

体力は限界を超えていた。喉の奥からは血の味がする。クィレルはもうすぐ手の届くところまできているのは分かった。

 

(この先に行けばハグリッドがいるわ。ハグリッドが助けてくれる!)

小さな希望がエルファバの体にムチ打った。ハグリッドの小屋はすでに見えている。

 

「小娘えええええええええ!!」

 

クィレルの声は庭中に響き渡り、反響する。声の全てがエルファバの体にまとわりつくような感覚を覚えた。それを振り払うようにエルファバは走りこむ勢いで思いっきり小屋の扉に体当たりした。

 

「...!!...!!...!?...?」

 

おかしかった。ズキズキ痛む右肩を抑えながら、最悪の事態を必死に否定する。絶対にエルファバの"ノック"は聞こえたはずだ。それなのになぜ反応がないのだろうか?

 

「んの!!」

 

クィレルはエルファバの髪を掴み引っ張った。階段から引きずり下ろされ、地面に叩きつける。頭に痛みが走り、そこからねっとりとしたものが流れるのを感じた。

 

「っはっ!!残念だったなあ!?あのウドの大木は"ダンブルドアのお呼び出し"で行ってしまったよ!!今頃留守中の校長室でオロオロしているに違いないさ!!」

 

エルファバはうずくまったまま起き上がることができない。頭や脚の痛み、疲労で体は悲鳴をあげていた。

 

「ダンブルドアも愚かだ!あんな奴に賢者の石を守らせておくなど愚かにもほどがある!強い酒を飲ませてドラゴンの卵をやればホイホイ秘密を漏らした!!」

 

エルファバの動きが鈍い頭がゆっくりと動き出す。賢者の石、ドラゴンの卵。

 

賢者の石を狙っていたのはスネイプではなかったのだ。

 

「はあ...あなたが...」

 

クィレルはターバンを剥がした状態でエルファバを見下ろしていた。嘲笑い、憎み、優越感を感じているに違いないとエルファバは思った。ゆっくりとエルファバにまたがり、エルファバの小さな顔をゴツゴツした手で包んだ。

 

「本当はお前に部屋の仕掛けを凍らせてもらうつもりだったがな...お前は俺を怒らせた。私はあの方に殺される...。」

 

親指でエルファバの頬を撫でてから何かを思い出したようにニヤリと笑う。ゆっくりと指を滑らせ首に手をかけた。

 

「お前はあいつにそっくりだ。死に顔も美しいだろう。」

 

手の力はエルファバの首をキリキリ締めつけ、酸素を奪う。エルファバは必死に抵抗したが11歳の少女と大の大人とでは力の差がありすぎた。

 

(もうダメだわ...。)

 

遠のく意識の中、エルファバはいろいろと思い出した。父親と母親は自分が死んだらどう思うだろうか?エディは?そして大好きな3人のことを思い出す。たくさん初めてをくれた人たち。あの人たちがいなければ自分は...。

 

「エルファバ!?」

「...ぶはあっ!!はあっ!!はあっ...」

 

声が聞こえた瞬間、エルファバからクィレルが離れた。エルファバは一気に酸素を肺に吸い込み、呼吸を整える。そして救世主たちの方を見た。

 

「ああエルファバ、しっかり!!」

 

栗色のフワフワしたものがエルファバの顔を覆った。シャンプーの香りのする"それ"は自分の親友のものであることはすぐに分かった。

 

「ハーマイオニー、エルファバから離れてやれよ。」

 

そう言ったロンの声はハーマイオニーと同じくらい震えていた。今さっきの状況を見ていたに違いない。

 

「みっ、みなさん、どうして...」

「隠そうたって無駄だ。」

 

オドオド演技をしだしたクィレルの前に立ったのはメガネをかけた心優しいエルファバの親友だ。声には怒りが滲み出ている。

 

「あのあと僕らはあなたに誰かが賢者の石を狙っててハグリッドの罠の解き方を知ってしまったことを伝えようと戻ったんだ。でも...」

 

ハリーは一瞬ハーマイオニーに抱きかかえられているエルファバに微笑んでから、クィレルを再び睨むつけた。

 

「僕らが来てなきゃエルファバは死んでた。」

 

クィレルはオドオドしたままハリーを睨みつけ、チラッとエルファバを見た。

 

「全部聞いてたわ、あなたが賢者の石を狙ってたのね。」

 

ハーマイオニーは震える手でエルファバを強く抱きしめる。

 

「ああ、そうだ。」

 

クィレルはもう無駄だと思ってたのか本性を現し、4人に近づく。ゆっくりとローブから杖を取り出し1人1人に向けた。

 

「知ってもらっては困る。ここで記憶を消すのもいいが...全員ここで死んでもらったほうがいいだろう。」

 

ロンはギュッと目をつむり、ハーマイオニーはエルファバの肩に顔を埋める。ハリーとエルファバだけはクィレルをじっと見つめていた。ハリーは目をそらさずにゆっくりとハグリッドの小屋の扉まで歩く。

 

「残念だが、お前たちのお友達は留守だ。」

「知ってます。」

 

エルファバはハリーがドアノブに手をかけた瞬間、何が起こるか分かった。

 

「アロホモラ 開け!」

 

ハリーはローブの裾に隠し持っていた杖で扉に呪文をかけた。その時、エルファバは何をすればいいか分かった。ローブから杖を取り出し、震えるハーマイオニーを支えながら叫んだ。

バーン!と小屋の扉が勢いよく開き、ハリーは同時にクィディッチで鍛えた反射神経で素早くその場にしゃがみこんだが、クィレルは間に合わなかった。

 

「あああああああっ!!」

 

小さなドラゴンは爆音のせいで機嫌が最悪だったようだ。視界に入った人間を敵とみなし、クィレルの顔に火を吐いた。

 

「やめろ、やめてくれえっ!あああああああああああ!!」

 

クィレルはのたうち回り、杖で必死にドラゴンを狙おうとするが的外れな場所に呪文を飛ばしていた。

 

「逃げるんだ!!早くっ!!」

 

ハリーの声で我に返り、ハーマイオニーとロンはエルファバを支えながらその場から逃走した。

 

「このまま校長室に行きましょう!すぐに知らせるの!」

「ハーマイオニー!校長はさっきいないってクィレルが言っただろ?!」

 

ハーマイオニーとロンはエルファバを挟んで叫んだ。

 

「じゃあマクゴナガル教授よ!」

 

エルファバが若干浮いてることに2人は気づかない。クィレルの叫び声が聞こえなくなったころ、エルファバはホッとして眠気が襲ってきた。

 

(ありがとう、みんな。)

 

4人が走ったあとが氷に包まれていってるのは誰も知らない。

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