1.入学許可証
そう、あの日まではすごく平和だった。少なくとも私は笑ってたし、お母さんやお父さんだって私が好きだった。エディのことを嫌いなフリなんてする必要なかったんだ。
あの日、いつもみたいに近所の子数人とエディと一緒に遊んでて、楽しくなって、もっともっとってせがまれて、いろいろ自分の能力を見せたんだ。その辺の木を凍らせて、オブジェみたいにしたりとか。みんなで楽しんでた。
私の力が、エディの胸に直撃するまでは。
新しい木に力を放った時、走ってきたエディの右胸にそれが誤って当たった。倒れてどんどん冷たくなっていくエディに私は何度も名前を呼んだ。色黒の肌がどんどん白くなり、所々に霜がつきはじめ、さらには力が当たった場所からどんどん体が凍っていった。
異常に気づいたお父さんが慌ててエディを抱えていった。
真夏なのに家で暖炉をつけた部屋で、ブランケットに包まれた私の妹はお母さんに何度も何度も抱きしめられ、キスをされた。私は何もできず、扉の陰でひっそりと妹の行方を見ているしかできなかった。
数時間...私は数日に感じたけど、妹を包んでいた氷は溶け、目を覚ました。ほっとしたのもつかの間、お母さんは私に平手打ちをした。何度も何度も。
『なんでこんなことしたの!!許さない!!!許さないんだから!!!』
あの時のお母さんの顔は一生忘れられないだろう。憎悪。名付けるならあの顔は憎悪に満ちた顔だ。頬がヒリヒリしたが、見たことのないお母さんの顔を見て私は生きている心地がしなかった。
『私の娘に二度と話しかけないで!!!』
その日から、私は学校に行かなくなった。というか行けなくなった。お母さんが私を見るたびに癇癪を起こすから。
部屋で1人静かにお父さんが貸してくれる本を読み、お母さんがいないスキを狙いトイレやシャワーへ行く。
そんな日々が3年続いた。
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エルファバは突然の来客に恐怖を覚えた。
「あなたがエルファバ・スミスですね?」
来客者は四角い眼鏡をキラリと光らせる。
「…はい…」
やっと絞り出した声が聞こえたかエルファバは疑問だった。声を出すのはいつぶりだろうか。声を出したら眉を上げたので、ちゃんと聞こえたみたいだ。
「あの…誰…です…か。」
落ち着け…落ち着け…
エルファバは必死に呪文のように唱える。
(この人に私の力を見せちゃダメだ…大変なことになる…。)
「私はホグワーツ魔法魔術学校で変身術の教授をしていますミネルバ・マクゴナガルです。本日はあなたにお話をしに参りました。」
何が何で何をしに来たって?
あまりにも突然の自己紹介は、エルファバの恐怖を吹き飛ばしてしまった。
女性ははあっとため息をつく。どうやら顔に出てたらしい。
「どうやらデニスはあなたに話していなかったようですね。」
と、来客者はゴソゴソとマントに手を入れだした。
(この人はこんな夏に一体なんてものを着ているの?黒は太陽の熱を吸い取るんでしょ?それなのに首から足まで黒い服を着て...この人の制服なのかな。もしそうだとしたらこの人可哀想。そうじゃないにしてもなんでこの人はマントなんて羽織ってるのかしら。)
嫌なこと、悲しいことがあったとき、エルファバは全く関係ないことを集中して考える。今はそのどっちでもないのだが、頭のおかしな女性が自分の部屋に来るという出来事のせいで頭がパンクしているのだ。
「あなたは魔女です。あなたのお父様、お母様がそうであるように。」
「…あっ…そう…」
(このおばさん、今すっごく、すっごく重要なことを言った気がする。なんだろう。頭に入ってこない。)
エルファバは今言われたことを復唱した。
「あなたは魔女、つまり、私が魔女…」
「そうです。」
まあ、これは納得がいった。自分の力がおかしいことは本を読んで知ったからだ。普通の人は怖い夢を見たときにベットを凍らせたり、びっくりして周辺に雪を降らせたりしないのだから。
「あなたは怖いことや嫌なことが起こったときに不思議なことがありませんでしたか?」
「…ありすぎます。」
まあそうでしょうね、と女性は鼻を鳴らす。
「あ、えっと…」
「マクゴナガル教授です。」
「あっ…はい…えっと…あなたは…」
「あなたにホグワーツへの入学許可を伝えにきました。」
教授がエルファバに渡したのは一枚の手紙だった。
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ミス・スミス
ホグワーツ魔法魔術学校への入学を許可されたことを心よりお喜び申し上げます。教科書ならびに教材のリストを同封しましたのでご確認下さい。
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「あ、つまり…」
「この世界には魔法使い、魔女が数多くいます。マグルはそれを知りませんがね。若い魔法使いたちは学校に通い魔法の制御と共に魔力促進に専念します。」
(それって…)
「じゃっ、じゃあ、いるんですか?私みたいな子がいっぱい…」
「ええ、そうです。」
エルファバの頭の中でもやもやしている霧がどんどん晴れていき、胸の奥から何かが高揚してきた。
(私だけじゃなかったんだ!!他の、私が知らない誰かも私と同じようにこの力に怯えて悩んでいたんだ!)
でもまだ信じられない。
「あの…えっと、マクゴナガル…教授?」
「はい。」
「見せて頂けますか?あなたの魔法…」
まだちょっと信じられないんです、と言うと、教授は細い木の棒を取り出し、ヒョイっと一振りした。
パラパラパラパラっ
ベットの上にある"ハムレット"が宙に浮き、勝手にページをめくり始めた。
「うわ。」
「信じて頂けましたか?」
「はい…」
信じざる得ない。エルファバはそう心の中でつぶやく。
「あなたにはホグワーツに行く意志があるようですが、問題は…」
「その子を魔法学校なんかには行かせないわ。」
扉の方でエルファバの母親であるアマンダは腕を組み、寄りかかっていた。黒い髪の毛をなびかせ、クマがある目は私をじっと睨みつけている。
「行かせないとは?」
「お金がないもの。学費見たけど、こんなバカ高いお金払ってもその子の力が抑えられるとも思えない。」
「全ての幼い魔法使い、魔女は皆入学前は魔力を抑えられません。ホグワーツでその方法を…」
教授が言い終わる前にアマンダは、手をヒラヒラさせてそれを制す。
「私が言ってるのはデニスが持ってるような魔力の話じゃないわ。」
(デニス?お父さんも魔法が使えるの?
…さっきお父さんも魔法使いでお母さんもって言ってた…。)
「お父さんも魔法使いなの?」
一応質問してみたが、それに対してアマンダが回答することはなかった。エルファバが存在しないかのような扱いだ。慣れている。怒鳴られたりしないだけで、ラッキーと思うべきか。
「あなたのお父様はホグワーツ出身ですよ。優秀な魔法使いでした。」
アマンダはキッとマクゴナガル教授を睨んだが、当の本人はアマンダの目をみたまま微動だにしない。大物だとエルファバは思った。
「この子の力だけじゃないわ。この子は化け物よ。自分の妹を面白半分で殺そうとするんだから。」
心臓を鷲掴みされたようなショックがエルファバの全身を駆け巡る。
『エディ!!しっかりしてよ!!エディ!!』
私の声に反応しないでただ凍っていく妹の体。何もできない私。怖いお母さんの顔。
ごめんなさい。もう何もしないから。いい子にするから。
エディとかかわらないから。
「…なさい…止めなさい!!」
母親の声でエルファバは現実へと引きずりもどさせれた。
「本当、あんたって子は!!」
その言葉で気がついた。
エルファバの周囲にヒラヒラと純白の雪が降り、隣にいるマクゴナガル教授の肩に乗って溶けていた。