ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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秘密の部屋
1.グリンダ・プロジェクト①


少し日が染まり始めた頃、家の前に黒い車が止まった。まず後ろから出てきたのは栗色の豊かな髪を持った女の子だった。

 

「エルファバ!今日は楽しかったわ!」

 

エルファバと呼ばれた少女はモゾモゾと車から出てきた。エルファバは栗色の髪の少女よりもふた回りくらい小さく、何より人目をひくのは少女と大人の女性を混ぜたような不思議な顔立ちと雪のように真っ白な髪だ。普段はボサボサで腰まである髪だが今日はきっちりと頭のてっぺんでお団子にまとめられ、銀色の髪飾りが光っている。

 

「ハーマイオニー…」

 

上目遣いにジッとハーマイオニーを見つめる。

エルファバは無表情だ。嬉しい時も悲しいときも怒ったときも基本的に無表情だ。それに加えて無口でもある。そして本人無自覚である。

 

「ああ、また今度返してくれればいいわ!次に一緒に教科書買いに行く時とかね。」

 

ハーマイオニーはそれが当たり前というように、さらに頭の中で瞬時に『ハーマイオニー、私こんなに買ってもらって申し訳ないわ。いつお金返せばいい?』と翻訳された。1年間一緒にいたハーマイオニーと今日ここにいない友人たちはエルファバの感情を読み解くことが可能だ(赤毛の友人は若干翻訳が遅いが)。

 

「それに私もママも久しぶりに買い物行けて楽しかったのよ!ねっ、ママ?」

 

エルファバは両手に自分の体の半分ぐらいの大きな紙袋を持ちながら運転席に座るハーマイオニーの母親を見た。ハーマイオニーの母親は笑ったえくぼがハーマイオニーにそっくりだった。

 

「本当!話では聞いてたけどこんなにいい子だなんて知らなかったわ。エルファバ、今日はありがとう。」

「いえ。ありがとうございました。」

 

窓からそう言われたものの、エルファバからすれば何を基準に自分がいい子だと判断されたのか全く理解していなかった。無表情な顔と裏腹に頭の中はハテナマークでいっぱいだ。そんな友達にハーマイオニーはふふっと笑った。

 

「じゃあまた今度ね!」

「うん。」

 

ハーマイオニーは両手の塞がってるエルファバに軽くハグした際、ハーマイオニーは耳元で囁いた。

 

「GP忘れないでね。」

 

エルファバが小さくうなづいたのを確認したハーマイオニーはニッコリと笑い、車に乗り込んだ。ハーマイオニーの母親は小さくエルファバに手を振ってから車を走り出した。

 

エルファバの母親と妹のエディは叔父の家にBBQへ行っているが別に特に珍しいことでもない。これがエルファバの家では普通だった。今日エルファバが外出して友達と1日中買い物に行ってることすら知らない。

扉を開け、靴を脱ぎ(バレないようにエディの汚れきった靴を履いたのだが、これがハーマイオニーと彼女の母親からは大不評だった。"ジョシリョク"がないらしい)階段を上って自分の部屋まで荷物を運んだ。

自分がいない間に部屋も机もタンスもずいぶん小さくなったと思うが、実際はエルファバがこの1年で身長が5㎝くらい伸びただけの話だ。

 

そしてそんな部屋の中にフワフワした物体があることに気づいた。

 

「あーあ。」

 

それはフクロウだった。茶色で暑さにノックアウトされたらしくグッタリしている。

 

「待ってね。」

 

エルファバは誰もいない家でキョロキョロと辺りを見回してから、手を何かを丸めるようにクルクルと動かした。

 

すると驚くことに真っ白い霧がエルファバの手の中で生まれ、次の瞬間拳くらいの氷の塊がエルファバの手の上に現れた。

 

「はい。」

 

机の真ん中に置くと、嬉しそうにフクロウは氷に身を寄せた。その間にフクロウの足に括りつけられた羊皮紙を外し読み始めた。

 

ーーーーーー

エルファバ

元気かい?この手紙が着く頃にはハーマイオニーとの買い物が終わってるといいけど。女の子の買い物ってすっごく時間がかかるじゃないか。ママとジニーなんかいっつも僕らを待たせてるんだよ。

ところで君夏休みずっと暇だって言ってたけど僕のパパとママが君に会いたがってるんだ。だから僕の家に泊まりに来るかい?ハリーも誘ってるんだけどハリーから一切連絡が来ないんだ。だから一緒に迎えに行こうよ!

 

返事はエロールに持たせてね。

 

ロン

ーーーーーー

ロンのソバカスだらけの顔を思い出すと、あのため息のつくくらい素晴らしい日々を思い出す。

 

(早くホグワーツに帰りたいわ。)

 

エルファバはホグワーツから帰ってきたその日から毎日のようにそう思っていた。美しい城やそれを囲む大自然、美味しい料理をお腹いっぱい食べたり、魔法の勉強に専念したり。中でも1番好きなのは人と一緒にいることだった。エルファバの思った以上に学校で友達ができた。特にハーマイオニー、ロン、そしてハリーが1番仲が良く、多くを乗り越え、時にはケンカをして、それでも仲の良い素晴らしい友人たちだ。今でも自分がなぜこんなにも素晴らしい友人たちと一緒にいられるのか疑問に思うくらいだ。

 

ーーーーーー

ロン

 

行くわ。GPもそれまでにやる。

 

エルファバ

ーーーーーー 

エルファバのメモ書きのような手紙を受け取った人は例外なく『短っ』と呟いていることを本人は知らない。気にしない。

 

エルファバはエロールに手紙をくくりつけて窓から送った後(回復に15分はかかった)、トランクから羊皮紙を取り出した。

 

Glinda Projectと書かれた紙を取り出し一から読み始める。

 

その羊皮紙を見れば、1ヶ月ほど前の会話が昨日のことのように情景、発言1つ1つが思い出される。

 

『いいエルファバ。あなたはあなたを苦しめた過去に向き合う必要があるわ。』

『う?…ん。』

『Glinda Project(グリンダ・プロジェクト)略してGP。あなたとあなたのお母さんの周辺関係を全て洗い出すの。』

『ハーマイオニー。気合い入りすぎだよ。最後まで反対してたのハーマイオニーなのに。どうやってこの本の量を1人で持ってきたんだい?』

『エルファバのためだってハリーが言ったんじゃない!』

 

そう、これはエルファバの過去を知るため、そしてエルファバに自信を持たせてくれるためのプロジェクトだ。自分の友人たちはじぶんのためにここまでしてくれてるのだと思うとエルファバの胸がキュウっと傷んだ。

 

事件の後の2カ月間、自分の"力"を話そうと何十回も努力した。言葉で言う、紙に書く、実際に力を見せる。いろんな方法を思いつき何度実行に移そうとしたことか。その決心と同じくらい謎の恐怖に襲われやめたことか。何か本能がそれにストップをかけているようだった。エディのことや母親のこともシーツを凍らせながらも言うことができたのに。なぜここまでしゃべって"力"について話すことができないのだろうか。エルファバ自身も分からなかった。

 

『"力"を使えばお前は悪い魔女になってしまう。』

 

初めてホグワーツに行く直前、父親に言われた言葉だ。悪い魔女になってしまうと周りは自分を嫌い、離れていってしまう。ハーマイオニー達が自分から離れていく。考えるだけで地面が凍ってしまう。

 

『百聞は一見にしかずよエルファバ。』

 

ハーマイオニーのキビキビした声が頭の中で響く。テストが終わってリラックスした空気の談話室で話すハーマイオニーは唯一テストと同じ緊張感を持ってエルファバを鼓舞する。

 

『直接対決。』

『ハーマイオニー、僕ら未成年は魔法使えないんだよ?』

『ロン頭使って。論理で戦うのよ。私が賢者の石で薬を探し当てたようにね。』

『君それ事あるごとに言ってるね。』

『あら?マクゴナガル教授のチェスを破ったって周りに言いふらしてるのはどこのどなたでしょうね?』

『まあ、とにかく!』

 

この"対決"はロンが言い返す前にハリーによって終結させられた。ハーマイオニーは咳払いし、エルファバに言った。

 

『お父さんに直接聞くんだ。』

『?』

『君のお父さんしかいないだろう?』

 

エルファバは外出時のお供であるネズミーさんのスウェットを脱ぎ(エルファバがホグワーツ入学以前から持っている数少ない服であったため、クッタクタで毛玉だらけだ)、暑苦しいジーンズを脱ぎ(上手にジーンズと素肌の間を凍らせてクールダウンしてたなど口が裂けても言えない。脚はビチョビチョである)、新しく買ったGAPの最高に着心地のいい藍色のTシャツに着替え(ハーマイオニーがこれは外出用だと言っていたが気にしない。エルファバは今着たいのだ。)着心地ゼロのショートパンツを履いて戦闘態勢を整えた。

 

「シャキーン。」

 

デパートで見た某アメコミ・ヒーローの決めポーズを見よう見まねでやった。楽しい。

 

「行くぜ、坊や。」

 

余計な言葉も覚えてきた。準備万全。あとはターゲットが来るのを待つのみだ。

 

(…宿題やろ。)

 

何事もなかったかのようにエルファバは机に向かい出した。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「…ディ、言うことが聞きなさい。」

「やだ。」

「エディ。」

「エルフィーと喋りたい!」

 

魔法史のレポートのテーマ、魔法戦士ファービア・ロールの最大の偉業である小鬼と魔法使いに一時休戦条約を結ばせたことに対して賛成か反対かの結論をあと少しで終える頃、エディと母親が帰ってきた。

 

「エルフィーまたすぐいなくなっちゃうんでしょ?!」

 

いつもは芋虫を部屋に持ち込むとか、エルファバの部屋の前で大音量で音楽流すとか、アリの行列を追い求めて迷子になってお巡りさんに保護されるとか、友達を引き連れてエルファバの部屋の前でエルファバ・コールをするとか、金魚の鉢を床に落として金魚と水草がリビングに散らばりそれを踏んだお客様にトラウマを植え付けるとか、そういうことばっかりしているエディだが今日は珍しく母親を説得しようと試みているらしい。珍しく。

 

「エルファバはあなたに良い影響を及ぼさないわ。それにあなたは友達がたくさ「いないわよ!!みんな私となんか話してくれない!1人ぼっちはいやなの!!」…エディ。」

 

「どうかしたか?」

 

今度は低い男の人の声がした。エルファバのターゲットだ。

 

「パパ!ママがエルフィーと話しちゃダメだって!」

「理由は?」

「わかんない!!」

 

そこからひそひそと話し声がするものの、エルファバの部屋までは届かなかった。

 

というか気にするヒマがなかった。

 

「ぇるふぃいいいいいいい!!」

 

迫ってくる怪物(エディ)にエルファバは必死に扉を押さえつける。

 

ドンドンドンっ!!

 

「あっち行ってよ!」

「エルフィー!!聞いて!!ママがねえっ「知ってるからあっち行って!」」

 

大攻防戦である。今やエディはエルファバよりも身長が高くなっていた。ドアノブはガチャガチャ荒ぶり、今にも壊れそうだった。

 

「今宿題やってるのよ!邪魔しないでっ!」

 

ピタっ。

 

「?」

 

ドアノブの荒ぶりと扉の威圧が止まった。

 

(勉強しているというのは意外といい言葉なのかもしれないわ。これからはそう「…魔法学校の勉強?」)

 

あっしまった。と言葉に出たときは遅かった。ドアノブがさっきの2倍速くらいで動き回り、扉を叩く音が破壊音に近かった。

 

「なにしてるの!?ねえ!!なにしてるのねえ!!おしえてえ!!」

 

エルファバは危うく命の危険に晒されてると判断し、机の上にある杖を取りに行ってしまうところだった。

 

「エイドリアナ!」

 

ドアの向こう側から父親が叱る声がした。

 

「頼むからエルフィーの部屋の扉を破壊しないでやってくれ。ホグワーツの話なら父さんがするから。」

「分かった…。でもエルフィーの友達の話も聞きたいの!エルフィー友達できたか心配だし。」

 

ハリーがいかに優しくて、ハーマイオニーがいかに賢くて、ロンがいかに面白いかを話すのにこの疲れた体に鞭打つことは惜しくない。最初は教室に行くだけでも大変だったことや、イベントごとの装飾が美しくてため息がでてしまうこと。自分が魔法薬学と魔法史で1番の成績を取ったこと(全体的に本気を出さなかったことにハーマイオニーには怒られたが)。あとは自分の生みの母親のこと。

 

きっとこの1年間の話をしたらエディはあの大きな目をキラキラさせながら聞いてくれ、自分のことのように喜んでくれるに違いない。

 

しかしそれは叶わないことはエルファバにも分かっていた。

 

「エルファバ。入ってもいいか?」

「うん。」

 

父親は少し疲れたような顔をしながらエルファバの部屋に入ってきた。まあ疲れたような顔をしているのはいつものことだ。それに怪物(エディ)を追い払うのも一苦労だったに違いない。父親は額に汗をにじませながらネクタイを緩め、エルファバの部屋に入り、一瞬買い物袋の山に目を止めたもののすぐにエルファバの瞳を見た。

 

「どうだった?ホグワーツは。」

 

何気ない質問だ。しかしエルファバは"力"について聞いたのだと受け取った。

 

「平気よ。」

 

言いたいことがたくさんある。学校で何があったのか事細かに説明したかった。ハリーがクィレルから救ってくれたことやあのあと結局自ら危険なことを犯したエルファバには罰則があり、怪我を負ったユニコーンたちの治療をしたり、その間じゅうずっとハグリッドに謝れ続けたこと(『本当にすまねえ!ドラゴンの卵ごときにちっちゃなエルファバを危険にあわせちまって!!』『私チビじゃないもん。』)。ハリーの素晴らしいクィディッチの成績と勇気ある3人の行動にさらに加点が入りグリフィンドールはここ数年類を見ない圧勝を見せ、レイブンクローとハッフルパフからも大歓声が響き渡ったこと。父親はどこまで知ってるだろうか?

 

しかしそれを今言う時ではないのだ。

 

今は最高に着心地のいい服を着てる、決めポーズもした、大丈夫だ。

 

(落ち着いて、エルファバ。)

 

「お父さん。グリンダ・オルレアンについて教えて。」

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