ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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3.隠れ穴にて

『…んの小娘、やり返して来やがった。』

『やってやれよ。』

 

やめて。そんなことしないで。

 

『ははっ、おい。本当にやるのか?』

 

やだ、やだ、お願いやめて。

 

「いやあっ!!」

 

バキバキっ!!

 

「!?」

 

エルファバは一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。額には汗が滲み、呼吸は荒い。エルファバは呼吸を整えながら自分のあたりを確認した。自分の寝ていたシーツからはロンの匂いがする。

 

(思い出した、ここロンの家だわ。)

 

あのあとハリーとヘドウィグを餓死寸前状態から救い出したエルファバたちは無事、ウィーズリー宅である隠れ穴にたどり着いた。ミセス・ウィーズリーから大叱責と大歓迎をされたハリーとエルファバに庭小人駆除か睡眠の二択が迫られた。エルファバはハリーが救助されたのを見届けてから車の中でジョージの膝の上で爆睡し、半分引きずられながらジョージに連れてこられ、ミセス・ウィーズリーの大叱責の間立ったままフレッドにもたれかかり爆睡。自動的にジニーのベッド行きとなったわけだ。

 

「ん…?」

 

魔法で支えているとしか思えない物理を無視して斜めになった天井とその壁にはクィディッチのユニフォームやフリルのついたワンピースがかかっていている。男の人がウインクを何回もしているようなポスターが飾られ、その周辺はキラキラと氷が壁を覆って

 

氷?

 

「氷!!」

 

最悪だった。エルファバは髪をブンブン振りながらあたりを確認した。ベットの柱、シーツ、壁の一部が銀色の氷に包まれている。

 

(どうしよう…!?もしこれを見られたら?)

 

エルファバはパニックになる。必死に抑えるがただ氷が広がるばかりだ。

 

パキパキパキ…。

 

「だっダメっ!」

 

今度は自分のシーツが少しづつ凍り出す。

 

コンコンっ

 

「エルファバ?昼ごはんが出来たわよ。食べられる?」

「まっ間に合ってますっ!」

「?」

 

ガチャ。

 

「エルファバ?あなた…。」

 

ミセス・ウィーズリーの言葉はそこで途切れた。娘の部屋に突如出現した銀色の氷たちに目を奪われたのだ。

 

「ごっ、ごめんなさい!あのっ、私どうしたらいいか…!自分でコントロールできないの!本当に…」

 

ミセス・ウィーズリーは真っ直ぐにエルファバの元へと向かってきた。

 

「ひっ!」

 

エルファバは恐ろしさにギュッと目をつむった。もう痛みなんて嫌だった。ひとりぼっちなんて。

 

(誰か助けて。)

 

しかし体が感じたのは鋭い痛みではなく柔らかく温かいものだった。

 

「…?」

 

恐る恐る目を開けると、燃えるような赤毛がエルファバの顔を覆っている。そこから玉ねぎとベーコンの匂いが漂ってきた。それがミセス・ウィーズリーの髪の毛で、自分はその人の腕の中にいるんだと気付くのに数十秒かかった。

 

「エルファバ、大丈夫。何も恐れることなんてないの。」

 

ミセス・ウィーズリーはしばらくしたあとにゆっくり離れ、今度は両手でエルファバの頬を覆った。暖かく柔らかい指。エルファバを見つめるその瞳は少し濡れているようだ。

 

「昔も今もこれからも、あなたは何一つ間違ったことなんてしてないの。魔力の暴発なんて誰だってあるのよ。」

 

何一つ間違ったことなんてしてない、何も恐れることなんてない。その言葉がエルファバの心の中にどっしりと乗っかっていく。

 

「私は7人子供を育ててるけど、全員魔力を制御できなかったわ。ビルは怒っておもちゃを巨大化させて家を一部壊しちゃったし、チャーリーも空高く舞い上がって危うくマグルに見られるところだったし。みんなそんなものなのよ。」

 

そう。みんなそうであるはずなのだ。

ハリーだって入学前何回も魔力を出したって言ってたしロンもハーマイオニーも。

 

(じゃあ、私は?私とみんなはどう違うの?)

 

『これだけ言っておく。お前の"力"でエディが死にかけたようにお前の"力"で人を殺せるし、お前を悪に染めてしまう力がある。どちらも人に見せることでその可能性を高めてしまうんだよ。』

 

言ってしまいたい。

 

『君の持つ"力"は、確かに人を傷つけるかもしれん。じゃが、使い方次第では人を救うこともできるのじゃよ。』

 

私は…。

 

「私は…違います…。」

 

心臓が早鐘を打つ。引いていた汗が再び滲み出す。呼吸が速くなる。ギュッとシーツを握りしめ、優しそうなミセス・ウィーズリーの顔をじっと見つめた。

 

「私は…私は…私の"力"は…。」

 

(言うのよエルファバ、言うの!それか見せればいい!エルファバ!)

 

「何が違うの?」

 

エルファバはミセス・ウィーズリーに震えながら手の平を見せた。

(そう、いつも通り、いつも通りに"力"を見せればいい。凍って、氷をだして!決意が消えてしまう前に!)

 

「どうしたの?エルファバ。無理しちゃダメよ。」

 

急にミセス・ウィーズリーが歪み、頭の重みを支えきれなくなった。

 

(苦しい。呼吸ができない。)

 

エルファバはベッドを体全体に感じる。

 

「はあっはあっ…!!…!…!」

「エルファバ!」

 

ミセス・ウィーズリーがエルファバの首に杖を向けると、どっと新鮮な空気が口から入り込み、エルファバの肺を満たす。

 

「はあっ…はあっ…。ごめんなさい。」

 

エルファバは涙目でミセス・ウィーズリーを見つめながら呼吸を整えた。

 

「言ったでしょう?あなたが謝ることなんて何一つとしてないのよ。…昼ごはんにしましょう。日中であればここは日差しがよく当たるから氷なんてすぐに溶けるわ。立てる?それともここに持ってきましょうか?」

「立てます。」

 

ミセス・ウィーズリーはもう一度ハグしてからエルファバの手を引き、部屋の外へと連れ出した。

 

「紅茶でも飲めばきっといい気分になるわ。ねっ?一緒にお茶しましょう。坊やたちはアフタヌーンティーよりも泥んこになって遊びたいんでしょうけど…知っての通り私は娘がジニーしかいないから…ぜひ女子3人でお茶会しましょう!」

「はい。」

 

エルファバは頑張って無表情を貫いたが、目頭がツンと痛くなり、ミセス・ウィーズリーの後ろで繋がれていない片腕でゴシゴシと目を吹いた。

 

こんな全てを包み込むような優しさに触れたのは何年ぶりだろうか。

 

(私は何も悪くない。謝ることなんてない。その言葉をどれほど待ちわびていたのか、言われるまで自分でも分からなかった。)

 

そして変わらぬ自分の"力"を言えない弱さに悔しさを感じた。これを言ってしまえたら、自分はもっと楽になるはずだ。

 

「そう、何も悪いことなんてないの。…たとえあなたがどんな恐ろしい"力"を持っていても。」

 

去り際に小声で呟いたミセス・ウィーズリーの言葉はエルファバには届かなかった。

 

 

ーーーーーー

 

 

大勢の男の子たちと1つの家で過ごすというのはエルファバにとって初めての経験で少し怖かったが、そこはハリーが上手に配慮してくれたおかげでなんとかなった。本当に彼は気のきく友人である。その反面ロンは見事、無愛想なパーシーとエルファバをダイニングに2人っきりにしてエルファバに恐怖体験を植え付けさせたのだった。

 

「全く、ロンは…。」

 

無事ダイニングの真ん中でコーヒーカップを持ったまま固まってたエルファバを救出したハリーはため息をついた。そしてハーマイオニーの"エルファバ改造大作戦"の期間外である今、スズメの巣のようになっている白い髪の毛の奥からじっと見つめる視線に気がついた。

 

ピピピピ、解析中。

 

『ごめんねハリー。私悪気ないんだけど、年上の男の人怖くて。』

「いいんだよ。僕だって多分女の子だらけの家に行ったら戸惑うだろうし。」

 

ハリーは変換を的中させた自分を褒めた。エルファバの感情を表情から読み解くのは高等テクニックだが、エルファバの思考回路は割と単純というか、簡単というか、基本的に人のことしか考えていないのでしばらく付き合えば分かってくる。

 

というのはハリー個人の意見であり、他の人はまた違ったりする。例えばロンはエルファバがどれだけ自分たちを大事に思ってるのか分からないと言ってるし、ハーマイオニーはエルファバの思考は複雑でたまに突拍子のない行動をするから注意しなくてはと思っている。

 

「それよりエルファバ、髪とかしなよ。またおばさんの魔法でブラシ5本くらいの襲撃にあうよ。」

 

ハリーはエルファバの顔にかかる絡まった髪をどかしながら言う。そこからぶすっとしたエルファバの顔が見えた。きっと昨日のブラシたちの襲撃で抜けてしまった哀れな髪たちを思い出しているんだろう。

 

(可愛いんだから、もっと外見に気を使えばいいのに。)

 

ハリーはこっそりとエルファバを分析する。本人に言っても理解しないことはハーマイオニーが実証済みだ。それにいくら女友達とはいえ、そんなこと言うのは恥ずかしかった。

 

そんな仲のいい様子を陰から見ている人物がいた。

 

ジニー・ウィーズリー、ロンの妹でハリーに憧れている女の子だ。

 

「ハリーとエルファバは付き合ってるの?」

 

ジニーはエルファバが部屋に戻ってきたとき、泣きそうな顔をクマ柄のクッションに埋めて尋ねてきた。

 

ハリーたちとは違い、ジニーはエルファバとは完全初対面である。部屋を共有しているが、この少女をジニーはあまり好きではなかった。無愛想だし、ハリーと仲がいいし、無表情だし、ハリーと仲がいいし、話しかけても無視するし(これをロンに聞いたら本に集中していたからだろうと言っていたが)、ハリーと仲がいいし、自分の部屋を氷まみれにするし。

 

ジニーはエルファバに嫉妬していた。

 

無表情のエルファバのパジャマからのびるほっそりと長い手脚、腰まである真珠のように光沢のある真っ白な髪の毛。陶器のようにスベスベの肌に、長くて豊かな白いまつげから覗く青空のような瞳。そしてピンク色のふっくらとした花びらのような唇。

 

特記すべきなのが髪は驚くほどボサボサで、パジャマに I will be back という文字と知らないおじさんがデカデカと書かれているのにそれでも可愛いということだ。むしろこのアンバランスさがエルファバの無邪気さを引き立ててるとジニーは分析した。

 

自分の憧れであるハリーがエルファバの髪を払ってあげてた仕草はまるで恋人のようだった。フレッドとジョージが言うにはエルファバにはファン・クラブがあって、ハリーはそのファン・クラブの創設者らしい。赤毛でソバカスだらけの自分なんてかないっこない。

 

「それ以上よ。」

 

とんでもないことを暴露しやがったエルファバにジニーはクッションを投げつけたくなるのを必死で抑え、クッションに顔を埋めた。

 

エルファバは物覚えはいい方である。ルームメイトの女性陣3人がボーイフレンドは男友達ではなく、彼氏のことだと散々伝えてそれは理解している。恋愛という現象についてもしっかり学んだつもりだった。

 

しかし問題は3人も未経験が故に、「付き合っている」という概念を伝えていなかったことである。今ジニーが「付き合っている」と言われた時にエルファバは「知り合い程度の友人か。」と聞かれたと勘違いしたのであった。

 

(ジニーってハリーのこと嫌いなのね。すっごくいい人なのに。どんなにいい人か言えば分かってくれるかも。)

 

「ハリーってすっごく優しくていい人よ。それにクィディッチが上手くてみんなから賞賛されてるの。あなたもクィディッチ好きでしょ?最後の試合は相手が悪くて負けちゃったけど、みんな6年生と対等にやりあったハリーを褒めてたわ。それにハリーってスネイプからいじめられても…スネイプって教授だけど、ちゃんと我慢してるの。普通の生徒なら仕返しとか授業放棄とかしてしまうものだけど、でもしっかり授業に参加して耐えてるのよ。本当、私彼ってすごいと思う。」

 

友達のためとなれば饒舌に喋る。この力をもっと日常生活に活かせればエルファバに嫌われてると思ってる哀れな男子生徒たちを慰められるはずなのだが。

 

「ふんっ。」

 

ジニーはそっぽ向いてしまった。残念ながらここまでエルファバが話すことがどれだけすごいことなのかジニーは理解できなかった。

 

(惚気ちゃって。私がハリーのこと好きだって知ってるくせに、本当やだ。)

 

まさかここまで露骨な態度なのに気付いてないわけがないとジニーは思った。

 

「…。」

 

(何か言ってはならないことを言ってしまったかしら。)

 

エルファバはシュンとして水色の箱を取り、ジニーの部屋を後にした。

 

 

ーーーーーー

 

「持ってきたかい?」

「うん。」

 

ロンの部屋は満杯だった。ハリー、ロン、そして面白いことが大好きなフレッドとジョージである。

 

勝手にシャッフルしているカードをまたぎ、真ん中に水色の箱を置いた。

 

「これか、その秘密の箱ってのは。」

「うん。開けてほしいの。」

 

フレッドとジョージはマグルのピッキングの技術を持っているのだ。これはハリー救出の際に見事活用され、ハリーを救うこととなった。ジョージはヒゲをさする動作をしながら、もったいぶる。

 

「ふーん、これはずいぶんと大仕事だなあ。どうだフレッド?」

「ああ、我々の繊細な技術をここに使用するのにどれだけの労力と時間が必要か…。」

「ただ鍵開けるだけだろ。」

「「出来るのかお前?」」

「いや。できないけど…。」

 

ロンはハリーとエルファバに目配せする。どうやらこの赤毛双子は年下に代償を求めているらしい。ホグワーツに行ってから魔法で開けるのも手ではあるが、そこまで待ちたくない。できれば今日中にハーマイオニーに伝えたいのだ。それにフレッドとジョージに事情はざっくり話してしまっているため今更断ったら誰に言うか分からない。

 

おそらくここまで計算の内だったのだろう。さすがである。

 

「何がほしいの?」

 

ハリーの問いに双子はニヤリと笑う。

 

「ハリー、フレッドとジョージは家の手伝いをしたくないんだよ。」

 

ロンの言葉にフレッドはチッチッチ、と人差し指を振る。

 

「残念だなロニー坊や。時間が有り余る君には分からないだろうが我々は将来に向けて多大な時間とお金の投資が必要なわけだよ。」

「僕らはお金はないよ。」

「それはいいさ、下級生にお金をせびるつもりはない。」

「じゃあ僕らにこの夏ずっと家の手伝いを全てやれってわけ?」

「僕は気にしないよ。ダーズリーの家でずっと家事やってるから慣れっこさ。」

「…ハリーには悪いけど私も家事を代わるのは問題ないわ。」

「えー…。」

「「取引成立だな。」」

 

不服そうなロンをよそに、ジョージがいそいそとピンで箱を開け出した。

 

「さあ、何が入ってる?」

「お宝か?」

「地図か?」

「それとも邪悪な呪いとか?」

「やめろよ兄貴たち。これがエルファバの母親の何かだって知ってるだろ?」

「ムードってものがあるだろ?…お、開いた。」

 

一気に空気が張り詰める。エルファバは、まるで危険なものを覗くように恐る恐る箱を開けて、中身を確認した。

 

「何が入ってる?」

「小さい手帳と写真と…鎖に指輪がついてる。」

 

手帳は水色で箱と同じ雪の結晶の装飾がついていた。ボロボロで糸がほつれ、今にも壊れてしまいそうだ。

 

「…何も書いてないわ。」

 

手帳は所々シミがついているぐらいで、メモ書きすら残されていない。

 

「何か呪文がかかってるのかもなー。誰も見れないように。」

 

フレッドは手帳をマジマジと見ながら呟く。

 

これはハーマイオニーと一緒に調べたほうがいいかもしれないわ。いくつか簡単な呪い破りの呪文は知ってるけど、ハーマイオニーならもっと知ってそうだし。

 

エルファバは手帳を箱に戻した。そしてジャラジャラと鈍い光を放つ金色の鎖にかかっている、金の指輪をマジマジと見た。

 

なんだろうこれ?

 

「この写真…。」

「バカっ、なんでお前が先に見てるんだよ?!」

「お前はエルファバの保護者か?!」

 

フレッドとジョージに張っ倒されたロンはいじけながらエルファバに写真をパスする。

 

「その男の人ってエルファバのお父さん?」

 

写真は動いていた。まあ魔法界なら当たり前の話なのだが、今だに紙切れの中で何かが動いているというのは違和感がある。さらに違和感だったのはセピア色の写真の中で1組のカップルが仲良く赤ん坊をあやしていることだった。カップルなのだからそれも当然の話だが…。

 

「グリンダ・オルレアンとお父さんだ。しかも笑ってる。」

 

グリンダ・オルレアンはともかく、こんなに穏やかに笑う父親を見たことがなかった。赤ん坊とグリンダを見て幸せそうに微笑み、時折グリンダの額にキスを落としている。いつもくたびれたような父親がこんな風に笑うなんてエルファバは知らなかった。

 

(それにキスって真実の愛から生まれるもので…えっ?えっ?)

 

一方、レイブンクローの無愛想なビーターもニコニコしながら赤ん坊の手を握り、写真を見る人に手を振っていた。緩くウェーブのかかった髪の毛はエルファバのボサボサな髪とは違い、整っている。Mr.Vが入ったグリンダ・オルレアンは見た目は一緒ではあるが、中身は全く別人なのだと写真で実感する。

 

「これ、きっと結婚指輪だよ。」

 

一緒に写真を見ていたハリーはエルファバが握っている鎖付きの指輪とグリンダの指にはまっている指輪を交互に指す。

 

「多分だけど、サイズ的にグリンダのじゃないかな。」

「けっこんゆびわ…。」

「この人と結婚してるよっていう指輪だよ。見たことない?」

「ないわ。」

 

男の人がアクセサリーをするなんて知らなかった。お父さんはは全くそういうものをしていなかったから。そういえばミスター・ウィーズリーもしていたかもしれないわ。

 

「じゃあ、この2人は…真実の愛で…結ばれてる?白雪姫と王子様みたいに…?」

「多分…そうじゃないかな?」

 

(あれ?でもお父さんはお母さんと結婚してるよね?真実の愛のゴールは結婚なんでしょ?で、真実の愛って1人だけで…あれ?あれ?)

 

エルファバの頭の中は吹き飛ばされたグームのようだ。

 

「この赤ちゃん、エルファバだよね?」

 

ハリーは触れてはいけないことを言ってしまったと思い、話題を変える。

 

「…違うわ。」

 

エルファバが返した反応は意外だった。確信したような声色にハリーは不審に思う。こんな判断しづらい小さな赤ちゃんを何を思って自分ではないと判断したのだろうか?

 

「どうして?」

 

ハリーはエルファバが少しずつ深い悲しみに溺れていくのが見て取れた。

 

「この子毛が真っ黒。」

「えっ?」

 

無邪気に母親と父親の指を握ろうとする赤ん坊は父親に似て黒髪だった。エルファバの光沢ある白とは真反対だ。

 

「じゃっ、じゃあ、妹とか?」

「エディはお母さんにそっくりだし、グリンダが死んだのが私が生まれた直後だったから、年が合わないわ。」

 

部屋は静まりかえっていた。

 

グリンダと父親は真実の愛で結ばれてたのだろうか。その2人の子供は誰なんだろうか?

 

「私は「チビファバの髪の毛突然変異したんじゃねーか?」…え?」

「フレッド。俺も思ってたところだ。」

 

ぽかんとしている3人をおいて早口で双子は漫談を続ける。

 

「ああ、気の毒にチビファバよ。きっとそなたは強大な力を得るために、色素と身長と髪の毛の神様に捧げてしまったのだ。」

 

ロンは吹き出したのを咳で誤魔化す。ハリーですら口角をヒクヒクさせていた。エルファバはそんな2人を見て訳が分からないといった感じだ。

 

「しかしそれを後悔しているに違いない。そなたは幼稚園生のような格好できっと入園することも可能なぐらい「私チビじゃないもん。」」

「「チービ!」」

「チビじゃない、そっちが大きすぎるの。」

「「チービ!」」

「チビじゃないもん!」

 

エルファバは地団駄を踏み、双子を睨みつける。が、容姿のせいで全然怖くない。ハリーとロンは双子とエルファバを交互に見た。

 

エルファバは閃いた。

 

「おばさまに言いつけてやる。」

「「それは勘弁。」」

 

ちょこちょこと障害物を避けながら扉に向かって走り出すリスのようなエルファバとそれを捕まえようとするネコのような双子の攻防戦にロンとハリーは笑った。

 

あまりに暴れすぎてミセス・ウィーズリーの刺客である"これでどんなハエはいなくなる!魔法のハエ叩き!byギルデロイ・ロックハート"がやってくるのはあと5秒後のことである。

 

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