「つまり、グリンダ・オルレアンはあなたのお父さんと結婚してて、でもその子供はあなたじゃないと、そういうことよね。」
「写真だけで見るとね。」
ハーマイオニーとエルファバはダイアゴン横丁を歩いていた。1年前と変わらず、不思議なものや気持ち悪いもので溢れかえっている。エルファバは水色のワンピースをユラユラさせながら、ハーマイオニーに連れられ、この横丁で異様な雰囲気を漂わせる乙女チックでキラキラしているお店へ向かった。
「でも赤ちゃんの時から髪の毛の色が変わるのはそんなに不思議じゃないわ。」
ハーマイオニーは店内に入り、ハーマイオニーはまつげを伸ばすエキスやら毛穴を引き締める冷却きゅうりクリームパックなどが売られているコーナーへ吸い込まれていった。
(ハーマイオニーは自分は全くオシャレしないのに、どうしてこんなのに興味があるのかしら。)
「ハーマイオニー…それ、ばっちいよ。」
絵の具を全て混ぜたように濁った色をしている液体を、興味深そうに手の甲に塗るハーマイオニーにエルファバは顔をしかめた。
「美容文化はマグルのほうが進んでいるのよ。マグルは人間の体の構造を論理的に研究してるから、確実に肌を潤わせたり、お化粧に何が必要かとかちゃんと分かってるの。まあ、魔法使いが作るものは全部自然のものだから体には優しいし、そもそも女性が化粧をし始めたのはマグルと魔法が混在していた時代に呪術として使われていた名残でマグルの世界で残ってるの。魔法史のコラムに書いてあったわ。」
「472ページのマグルと魔法使いの決裂のところよね。右下の。」
「あー、そうだったかしら?あなたほど記憶力ないから…。」
ここに男性陣がいたらちんぷんかんぷんだろう。これが学年主席と(本気を出せばおそらく)次席の実力だ。
ハーマイオニーは自分の手の甲を嗅ぐと「うわっ。」とつぶやき咳き込んだ。
「あとこれ、エルファバ用に選んでるのよ。」
「…はい?」
先ほどの液体を横見する。
"輝くユニコーンのような肌に!カタツムリ20匹の凝縮エキス!"
その液体に小さく白い球体が無数に見えた。それはまるで目玉のような…。痙攣したように首を振るエルファバは親友3人でなくても、全力で嫌がっていることが分かる。
「あのね、聞いたけど、この夏私がいなかった時あなたひどかったらしいじゃない!あのパジャマは人様の前で着る服じゃないの!」
「…」
どのパジャマかは言われなくても分かっていた。フレッドとジョージはハーマイオニーに会って早々あのエルファバのパジャマに映るイカしたおっさんは誰だとハーマイオニーに聞いたのだ。白いまつげからジロリと覗く青い瞳に対してハーマイオニーはため息をつく。
「まあ、いろいろあるにしてもこれで本屋で調べなきゃいけないことが絞れたわ。」
ハーマイオニーはしつこい店員に大人の微笑みで対処しながらエルファバの腕を引っ張る。
「?」
「まずは呪い破りの呪文をかたっぱしから調べて、それからグリンダ・オルレアンじゃなくてグリンダ・"スミス"で探すの。結婚したら名字が変わるでしょ?」
「…そうなんだ。」
「知らなかったのね。」
ハーマイオニーはため息をついた。
「あなたは年上なのか年下なのか、同級生なのかたまに分からなくなるわ。」
本当不思議、とハーマイオニーは笑うが、言われた当人は訳が分からないと肩をすくめた。目の前には比較的大きな店が佇んでいた。黒いペンキで塗られた店の周辺を取り囲むのは大量に積み重ねられた色とりどりの本、本、本、本。
「エルファバ、好きでしょ?」
「うんっ。」
ハーマイオニーとエルファバにとっては天国だった。ハーマイオニーはプカプカ浮かぶ本を指でそっとなぞる。
フローリシュ・アンド・ブロッツ書店、イギリス内でも有名な本屋さんだ。
ここが有名な理由は古い本と新しい本両方が集まっていることや、優秀な魔法使いたちがこぞってここに訪れるからだけではない。柔らかい色の木で複雑な曲線を描く階段や細かい装飾品は訪れた人々にため息をつかせる。そして…。
「今日、ここにロックハートがいるんですって!!サインもらいに行きましょうよ!!」
装飾品の上にベタベタ飾られたポスターに映るチャーミングな笑みを浮かべる男性にハーマイオニーは大興奮だ。ハーマイオニーだけではない。店内は目をハートにした黒い魔女たちでごった返してた。その視線の先にはポスターと全く同じ顔のハンサムなブロンドの男性が本にサインを書いていた。
「あった。」
興味なし。
ロックハートに背を向けて、エルファバは自分より少し高いところから本を引っ張り出す。
「エルファバ、分かってるの?教科書書いてる人に会えるのよ!」
「周辺の気候を変えてしまうくらい大きな事件だったみたい。」
「エルファバ聞いてる?」
「聞いてないよ。」
エルファバの代わりに合流したロンが答えた。予想通りだとニヤニヤ笑っている。
「さっすがエルファバ。君と違ってハンサムには興味ないってよー。」
「ロン!私はハンサムだからロックハートに興味があるわけじゃ…その周辺の気候を変える?それってすっごい大きなことよ。一時的な天候変化はそこまで難しくないけど、気候って!それにあなたのお母さんは…その…亡くなってるわけだし…。」
エルファバは値段の高額さに「うわっ。」とつぶやいてからハーマイオニーに本を渡す。ロンは話をそらされたとブーブー言っていた。
「気にしないでハーマイオニー。正直なところ、私はグリンダのことを、なんていうか、おとぎ話の登場人物のようにしか思えないのよ。」
ハーマイオニーは大きな本を持ったまま、悲しそうな、怒ってるような目でエルファバを見つめた。エルファバは近くにある"魔法と宗教"という本に目を奪われていて気づいていない。本当はハーマイオニーに気候を変えた魔法について言及されたくなかったから目をそらしていたのだが。
「20世紀の闇の魔女、魔法使い最新版。」
ハーマイオニーから本を受け取ったハリー(ハリー、真っ黒けっけね。)は声に出して読んだ。
「誰が買うんだろう?こんな物騒な本。」
ロンはその本を危険物を見るような目で見つめた。
「私みたいに親が誠に残念なことしちゃった人が自分の親のこと探すのよきっと。」
ハリーとロンはハーマイオニーが睨んでるのにも関わらず、ゲラゲラ笑った。エルファバも嬉しそうにピョンピョン踵を宙に浮かせる。
ドンっ
「きゃっ。」
エルファバは気の短そうな小男に押され、本の山に倒れこんでしまった。
「どけ、チビ。」
男は大きなカメラでバシャバシャと紫の煙を出しながら目がくらむようなフラッシュを焚いた。
「大丈夫エルファバ?」
ハリーはエルファバの手を引っ張り、起き上がらせる。
「大丈夫。」
エルファバはパンパンっとスカートについた埃を払う。
「やなやつ。」
「エルファバ、ケガはな「もしかして、君はハリー・ポッターでは?!」」
ハーマイオニーの気遣いはロックハートの叫び声によってかき消された。もうずっと会っていなかった親友に再会したようにロックハートはハリーに手を伸ばしている。
ロックハートはハリーの登場に驚きつつも、このドラマティックなシーンを演出するために自分の体を若干ひねらせ、勿忘草色のローブをライトに上手く当たるようにしているあたり、しっかりどうやれば自分が美しく見えるかを心得ている。
「ハリー連れてかれちゃった。」
「なんと記念すべき日でしょう!!彼は私の自伝を買うためだけにこの書店を訪れた!そして…」
なんというか、この人見てると妙な気持ちに襲われるわ。怒ってるっていうには小さすぎるけど、イライラというには大きすぎるこのモヤモヤした感情の名前は…。
「なんか、ウザいなあのロックハート。」
ロンは哀れな親友を引きずっていったロックハートを見て、ボソッとつぶやいた。
「ウザい…。」
「ロン、エルファバにへんな言葉教えないで!!」
ハーマイオニーが釘を刺すには遅すぎた。エルファバの脳内に新たに"ウザい"
という言葉が加わった。
ウザい=ロックハート。
「私、もう少し本探してる。」
何故か分からないが、大歓声が起こったところでエルファバは人ごみから逃走した。
「待って、私も一緒に行く!」
あの小さい体が人ごみに押しつぶされないか心配なハーマイオニーはエルファバを追いかけていった。
ドンっ、
「いたっ!」
案の定、エルファバは誰かにぶつかってしまった。いや、向こうからぶつかってきたと言ったほうがいいかもしれない。
「前を見ろ、ゴーストめ。」
「…マルフォイ。」
エルファバよりもずっと背の高いマルフォイは本を数冊抱えながらエルファバを見下していた。
「ゴースト?私のこと?」
エルファバは立ち上がって本を拾いながら言う。
「ああ、いいあだ名だろ?教室に行くのに呼吸困難になるチビめ。白すぎて不気味なんだよ。」
マルフォイはわざとらしくゼエゼエと息を自分の首を絞めてもう片方の手で空を切った。エルファバの体力のなさは学校レベルで有名な話だが、ここまで堂々とバカにするのはスリザリン生、特にマルフォイと愉快な仲間たちぐらいである。
「気にしちゃダメよエルファバ。」
後ろから追いついてきたハーマイオニーはエルファバの肩を引っ張り、店の盛り上がっている中へと連れ戻した。
「嫉妬してるのよ。私もあなたもマルフォイよりも成績がいいから、ってああ、ハリーたちも絡まれてる…。」
振り向くと、別の方向から来たハリー、ジニーそしてロンもマルフォイに絡まれてた。ロンもジニーも顔を真っ赤にしているあたり、マルフォイが何か言ったようだ。
「どうして私たちのこと放ってくれないのかしら?嫌いなら避けてくれればいいのに!」
ハーマイオニーはカンカンだ。
「愛の反対は無関心よハーマイオニー。」
「それじゃあまるでマルフォイが私たちに愛情があるみたいじゃないっ!気持ち悪いっ!ミスター・ウィーズリー!」
赤毛、とくにウィーズリー一家の赤毛というのはよく目立つ。ミスター・ウィーズリーはちょうど奥様魔女方の熱気に疲れ果て、外に避難してこようとしているところだった。
「ああ、やあ君達。一体「ロンたちがマルフォイに絡まれてるみたいなんです。」」
ミスター・ウィーズリーは眉間にしわを寄せ、考え込んだ。
「マルフォイ…そうか、それはまずいな。」
「あっちです。」
ハリーたちがいる方向へミスター・ウィーズリーはその方向へ向かおうとした。向かおうとしたのだ。
「ミスター…?」
エルファバもハーマイオニーも気がついた。ミスター・ウィーズリーがハリーたちに声をかける直前、急に立ち止まり意図的にエルファバの前に立ったのだ。まるで何かから隠すように。
「おや、アーサーじゃないか。」
男性の気取った声が聞こえてきた。
「ルシウス。」
ミスター・ウィーズリーは軽く、無愛想に会釈をする。エルファバは何かに睨まれたように動けない。
「ずいぶん仕事が大変なようだな。当然給料は出ているのか?…どうやらそうではないようだ。」
ドサッと本が大鍋に落ちる音が響く。ハーマイオニーの目配せでわかった。マルフォイの父親に違いない。
こんなに嫌味なことを人に言うなんて大人気ないわ。リンゴは木から遠いところには落ちない(蛙の子は蛙と同じ意味)って言うけど本当ね。
後ろ姿しか見えないミスター・ウィーズリーの耳はピンクに染まっていた。
「あんな奴らと付き合っているとは…君の一族は落ちるところまで落ちたらしい。」
「魔法使いの面汚しというのは私と君では意見が違ってくるようだ。」
2人の顔が見えないエルファバは誰のことを言ってるのか理解できなかった。
「そこにいるのは誰だ?」
ミスター・ウィーズリーの体がビクッと震えたのは誰が見ても明白だった。
「君の後ろにいる子だ。」
「ハーマイオニーだ。ハーマイオニー・グレンジャー。」
紹介されたハーマイオニーは軽く会釈をするが、ミスター・マルフォイは違う、とつぶやいた。
「君が後ろに隠している子だよアーサー。」
自分のことだと気づいたエルファバは恐る恐る、大蛇の前に出てくるように、一歩前に進み出た。
マルフォイによく似たミスター・マルフォイは長いプラチナブロンドの前髪を払い、貪るようにエルファバを見つめた。
「これは…素晴らしい。なんということだ。」
頭の先から足まで、行ったり来たりしたミスター・マルフォイの視線は最終的にエルファバの顔へと移った。
「名前は?お嬢さん?」
聞き方は丁寧だったものの、早く聞きたくてウズウズしているのが見え見えだった。
「エルファバ…スミス…」
「スミス。デニス・スミスの子供か?」
エルファバは自分のスカートを握り締めながら頷いた。
「みんな、行こう。」
ミスター・ウィーズリーは全員を外へ出るように促した。
「知らなかったな。ドラコは君のことを話さなかったし。」
「父上、授業によく遅れてくる不真面目なグリフィンドール生がこいつです。」
自分に飛び火すると思ったのか、慌てて息子は口を挟む。
「エルファバは遅れたくて遅れてるわけじゃない!」
「そうよ!バカなこと言わないでよ!」
「みんな行くぞ!」
ミスター・ウィーズリーはエルファバとハーマイオニーを店外へと引っ張った。ミスター・マルフォイが長い顎を撫でて考え事を深めているのが気になった。
「君は使えるのか?」
ミスター・マルフォイはエルファバを指差し、囁くように問いかけた。
「エルファバ。」
ミスター・ウィーズリーはエルファバを引っ張ったが、エルファバは凍ったようにそこに立ち尽くしてしまった。恐怖でいっぱいだったが、その先が知りたいという気持ちになってしまったのだ。ミスター・マルフォイが自分の何を知っているのかを。
「君は使えるのか?あの女と同じ全てを凍ら「おいでっ!」」
ミスター・ウィーズリーは半分抱きかかえるようにしてエルファバを連れて行った。ウィーズリー夫妻は何かに追われるように本屋から走り、子供達は訳が分からないといった顔でそのあとを追いかける。ハーマイオニーは両親と合流し、そのまま別れた。
「またねみんな!」
「バイバイハーマイオニー。」
その一連の流れを見て不敵に笑うマルフォイに気付いたのは、息子以外誰もいなかった。
そのあとフレッドとジョージがしつこく親たちに事情を聞いたが、ウィーズリー夫妻が質問に答えることはなかった。ハリー、ロン、エルファバは強制的に宿題をやらされ(主にロンが)機嫌が悪くなったものの、美味しいチキンやスープ、デザートのクレームブリュレを食べればみんなすっかり機嫌が良くなった。
エルファバも機嫌が良くなり部屋に戻って教科書を仕分けしている時だった。
「あなた、魔法コントロールできないの?」
ジニーが発した言葉にエルファバは教科書一式と新しい制服を全て床に落としてしまった。心臓がうるさくエルファバの体を叩く。
「そう思う?」
今更遅いが平静を装い、物を拾った。
「だって私の部屋を凍らしたし、マルフォイと一緒にいた時、店内の床も凍ってたわ。」
「…そう。」
「そうなのね。」
今度はエルファバを少し非難するような目で見つめた。
「フレッドとジョージが言ってたわ。魔法がコントロールできないのは小さい子か頭のおかしい人だって。」
小さな嫉妬心だった。ハリーが好きなエルファバにちょっとヤキモチを焼いたジニーはいつも冷静なエルファバに少しムッとしてほしかったのだ。前髪で顔は見えないがうつむいてるあたり、成功していると思った。
「そうかもね。私って頭がおかしいのかも。」
エルファバは教科書たちを拾い上げ、まっすぐにジニーの元へと歩いてきた。
ぶたれる!
「きゃっ!」
ジニーは目をつむった。
ドサッ!
「これ、あなたのよ。」
恐る恐るジニーが目を開けると、キョトンとしたエルファバの姿があった。エルファバはジニーのベッドの上に自分の持っていた教科書を数冊置いたのだ。
「え?」
闇の力:護身術入門、基本呪文集、魔法薬調合法…。
どれもジニーが持っているお下がりのものよりもずっと綺麗だった。他の子のもののように綺麗な1年生用の教科書たちだ。
「これはちょっとインクこぼしちゃったけど、字は読めるはずよ。」
「…くれるの?」
「1年生の時って新しいものの方が気持ちいいしね。あなたのものと交換でいいならこれ全部持って行っていいわよ。」
私も読みたいから、とエルファバは口角を少しあげる。
ジニーはすぐそばにある自分の古びた教科書をエルファバに渡す。古びた教科書を持つ姿も愛らしい。
「本当にいいの?」
「うん。」
「本当に本当に?」
「うん。」
ミスター・マルフォイに教科書についてバカにされたのが恥ずかしかった。これからできる友達たちにもバカにされるのではないかと不安で不安で仕方がなかった。それをエルファバは察して、自分の教科書をくれると言ってくれたのだ。
ジニーは意地悪を言ってしまったのをひどく後悔した。
「ありが…。」
お礼を言う前にエルファバは何かを思い出すように小走りで部屋から出て行ってしまった。
「ごめんね、エルファバ。」
本人には届かない言葉を誰もいない部屋でジニーは口に出した。
時を同じくして、エルファバはトイレに駆け込んでいた。
「はあっ…はあっ…うっ!!」
下から上へ押されている不快感と共に今日のディナーであるクレームブリュレやチキン、スープが外へと投げ出されてしまった。
「はあ…。」
美味しかったのに…。
ミセス・ウィーズリーに申し訳ない気分になりながら、エルファバはとぼとぼトイレを後にした。
「エルファバ?」
「ハリー。」
トイレの前に歯ブラシを持ったハリーが立っていた。明るいグリーンの目はエルファバを心配そうに見つめている。
「大丈夫?」
「平気よ。」
反射的に返してしまったことを後悔した。ハリーが疑わしそうに眉毛を上げたからだ。
「ええっと、私は大丈夫よ。大丈夫なんだけど、大丈夫じゃないというか…大丈夫なのかな私?」
ハリーは大きくため息をつき、エルファバを手招きした。当然ながらエルファバの中に思い出されるのは"タップダンス事件"だ。助けを求めなかったせいで、親切を仇で返したせいで危うく友達たちを失いかけた記憶にも新しいとは言えない事件。
恐る恐る、エルファバはハリーに近づく。その様子はまるでイタズラをしてこれから主人に怒られる子犬に見えてしまうのはなにもハリーだけではない。シュンとして白い髪から覗く大きな瞳は既にごめんなさいと言っていた。
「エルファバ。」
「うん。」
「僕はずっと君はわざと僕らに助けを求めることをしないと思ってたんだ。でもそうじゃないんだね。」
エルファバは頭の上にハテナマークをたくさん浮かべる。
「分からないんじゃない?いつ、どのタイミングで助けを求めるべきなのか。」
ハリーは何回もいとこのダドリーにいじめられてるからこそ回避する方法をその場で考えられる。しかし、エルファバは悩みを相談するという経験がなく、そもそも自分の問題を他人と比較するということもなかったため、悩みを相談するという概念がエルファバの中にはないのではとハリーは思った。
「そう…なのかなあ?」
「僕は君じゃないから分からないけどね。」
エルファバは少し斜めった壁に寄りかかる。
「さあ、話すんだ。」
「えっ?」
「君が今思ってること。きっとスッキリするよ。」
ポタポタと水が滴る音だけが2人の間の沈黙を繋ぐ。偶然にもウィーズリーの誰かやうるさいお化けが来ることはなかった。
「私…ジニーが羨ましい。」
「ジニー?」
エルファバのグルグルした感情を必死にまとめた結果、このような言葉になった。
「ジニーもロンも羨ましい。美味しい食べ物を毎日食べれて、いっつも笑ってて。」
「そうだね。ミセス・ウィーズリーはすごく優しい。」
「それにミセス・ウィーズリーとミスター・ウィーズリーは四六時中チュウしてるわ。」
「…四六時中?」
意外と夫婦円満なダーズリー夫妻を見てきたハリーは夫婦間でのキスなど慣れっこだった。
「私、お父さんとお母さんがチュウしてるとこ見たことない。」
そう言って一呼吸置いてから、エルファバは続ける。
「ここのお家は私がいたところとは違いすぎるの。全然雰囲気が違いすぎて、私の家と比べてしまって…。それを考えると気分が悪くなって毎晩吐いてたわ。」
エルファバはチラリとハリーの顔色を伺った。
「君の気持ち分かるよ。僕だってここに預けられてたらどれほど幸せだったかって何百万回も思ってた。でも、これから何回だって来れる、そうだろ?」
「うん。」
「自分の元の家のことを忘れてしまうくらい何回も何回もここに来ればいい。そうしたら吐かなくなるよきっと。」
ハリーは妹を慰めるようにエルファバの頭を撫でた。
「それだけ?」
「……今はね。」
ジニーに頭のおかしい子と言われたことも言ってしまいたかった。しかしそれはハリーに自分の"力"についても言うことになってしまう。それはできなかった。
「ハリー。」
「なに?」
「もしも、もしもねハリー。私の"力"でみんなを傷つけてしまったら、みんなは私のこと嫌いになる?」
エルファバはハリーが驚いたように「なに言ってるんだい?」と言うかと思った。あるいは眉をひそめるかどちらかだと思っていた。
まさか、声をあげて笑い出すなんて。
「あっはっはっはっは!!」
ハリーはメガネをずらしながらゲラゲラと身体を震わせて笑った。
「ハリー!私真剣なのよ!」
「あっはっはっは…ごめんごめん!」
ハリーは涙を拭き、口角をひくつかせながらメガネを直す。
「でもさエルファバ、考えてよ。君の力じゃ到底僕らに敵いっこないよ。だって君、本を4、5冊持ち上げる時ですら生まれたての鹿みたいじゃないか!君が力腕力で僕らに勝てるわけないよ。それに…」
ハリーはまだ笑っていた。エルファバはジッとハリーを睨む。
しばらく腹の虫が収まりそうになかった。
「君がそんなことするなんて、絶対わざとじゃないって分かってるから。」