ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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6.最初の犠牲者

「やあ、エルファバ。」

「ハーイ、セドリック。」

 

図書室でセドリックはエルファバに届かない本を軽々取る。エルファバはお礼を伝えながら吟味した。

 

「…何かあった?」

「分かるの?」

 

ちなみに本日のエルファバの髪型はなんとファンの要望に応えたツインテールでジャパニーズアニメの美少女を彷彿させる。2つの真っ白い束はリンゴの匂いを漂わせながら元々のファンに加えて新入生のファンも絶賛増加中で、ファンクラブ運営メンバーであるフレッドとジョージが入会費でがっぽがっぽ稼いでるともっぱらだ。

 

「なんとなくね。」

「私の感情に気が付いたの3人以外であなたが初めてよ。」

「そうか。」

 

嬉しいなとセドリックは笑う。

 

「なんかいつもに比べて憂鬱な顔してたからさ。で、どうしたの?」

「別に大丈夫よ。」

 

と、反射的に言ってしまいエルファバは後悔した。しかし相手はハリーではない。まあいいか、と思った時にセドリックはエルファバの持っている本をスッと持っていった。

キョトンとしたエルファバは思わずハッフルパフの黄色と黒のネクタイを見つめていた。

 

(どうしてハッフルパフのシンボルカラーって黄色と黒なのかしら?分からないわ。人を落ち着かせるため?うーん、グリフィンドールの赤と金って主張が強すぎるし、スリザリンは冷たい感じがするわ。レイブンクローは…。)

 

エルファバお得意の関係ないことを考えて集中しているのには訳がある。セドリックの顔は疑わしそうに、たしなめるように眉毛をあげていたからだ。

 

よくいる3人以外で初めての経験だ。

 

「大丈夫じゃないと思うよ。なんかずいぶん疲れてるみたいだし君もまだ12歳なんだから…君って12歳で合ってるよね?」

「分からないわ。でも、人に自分の悩みを話して一体何になるの?」

 

エルファバは"防衛術の心構えとその鍛え方"をセドリックの手から取りバックの中に入れた。

 

「君がスッキリする。」

「あなたは?」

「僕?僕は君がスッキリすればいいから。」

 

(ハリーもセドリックもどうして人のことなんて知りたがるのかしら?私の憂鬱な気持ちを聞いても楽しい気分になるわけでもないのに。私はスッキリするけど、そっちには何も残らないわ。)

 

「君はもし友達が困ってたらどうする?」

 

セドリックはエルファバの心を読んだかのようにエルファバに質問を投げかけた。

 

「その人の悩みを聞いてできることはないか考える。」

 

即答だった。

 

「そういうことだよ。」

「…あー。」

 

この白いチビさんは他人のことはすぐ気付くのに自分のことになると驚くほど鈍感だな、とセドリックは思う。

 

一方のエルファバは大きく羊皮紙の匂いと共に空気を吸い、吐き出す息とともに悩みを出した。

 

「人と物を共有してるんだけど、返してくれないの。」

 

エルファバが言っているのはジニーのことだった。エルファバが貸した日記の虜になってしまったジニーは日記を返してくれる気配が微塵もない。ジニーはまるで日記と一心同体のようにぴったりと形見離さず持ち歩いている。

 

「本人に言ってみれば…って言っても君の場合はちょっと難しそうだね。」

 

ただでさえ必要最低限のことしか言わないエルファバにとって人に何かを要求するというのはドラゴンに呪いをかけてこいと言ってるのと同じなわけで。

 

「もう少し待つわ。」

 

少しでもジニーの不安が取り除けたら私はいいし。

 

「そっか。無理しちゃダメだよ。」

「あと…。」

「?」

 

エルファバは自身の毛先をクルクルと弄んでから、小声で囁いた。

 

「ハーマイオニー…。」

「ハーマイオニー?」

 

エルファバはうなづく。まるで今まで隠してきた罪を告白するかのようにその声は罪悪感に満ちていた。

 

「ハーマイオニー…が、いろいろ私の外見について…言ってくるの…。」

「ハーマイオニーが君の外見についていじわる言ってくるの?」

 

エルファバは首を振る。そろそろあの館長が来る予感がしてならないとセドリックはエルファバを上手く死角へと手招きした。

 

「その、ハーマイオニーは私が外見に気を使わなさすぎだって言っていろいろしてくれるんだけど…。」

「やりすぎ?」

 

エルファバはユニコーン尻尾のようなツインテールを揺らしてうなづいた。

 

事実、ハーマイオニーの"エルファバ改造"は日に日に暴走と呼べる域までに成長していった。髪をいじるのはまだいい。ハーマイオニーはエルファバの私服、化粧、さらには持ち物にまで女子力を求めてきた。

髪の毛のセットのために2時間くらい早く起きるように強要される、気がつけばエルファバ愛用の白い羽ペンが消えてカラフルなものに変わっている、朝起きた瞬間に白い粉を顔にふっかけられたりと(ハーマイオニーが魔法でエルファバが起きた直後に粉が噴射されるようにセットした)あげればキリがない。その暴走っぷりはハリーやロンが心配するレベルである。

 

『ハーマイオニー、やめてやれよ。外見なんて他人の勝手だろ?』

『ハーマイオニー、エルファバが日に日にやつれてるよ。』

『私がこうしなきゃエルファバはボサボサの地味な生徒になっちゃうじゃない!』

 

何の使命に燃えているのか、2人が抗議すると決まってハーマイオニーは熱くこう答えた。

 

「ハーマイオニーって君の親友なんでしょ?じゃあ直接言ってもいいんじゃないかな?」

「言ったわ。」

「言ったの?」

「うん。」

「反応は?」

 

『エルファバ。人っていうのはね、外見の清潔さとかで判断されるのよ。私がやらないとあなたは無法地帯のようになってしまうわ。』

『どうしてあなたは私のばっかり気にするの?』

『私はいいのよ。問題はあなたなの。』

『ハーマイオニー、私ちゃんと自分で髪の毛とかしたり、可愛いもの持つ努力をしたりするわ。だから『あっ、エルファバこれ見て!これエルファバに似合うと思うの!』…うん。』

 

「ダメだったんだ。」

「ダメだった。」

 

回想を口に出すまでもなくセドリックは悟った。エルファバは小さくため息をつく。

 

「ハーマイオニーだけじゃなくて、ラベンダーとかパーバティーもなの。」

 

2人に関してはハーマイオニーに便乗してるだけで、ハーマイオニーほどひどくはないのだがそれを加速させているのも事実だ。

 

「友達思いなんだろうけど、エルファバの意思に反してるのか…僕はそのままでいいと思うけどね。個人的にはたまに君が私服で着てるマグルのキャラクターとか俳優がプリントしてある服を見るの好きだし。」

「かっこいいでしょ。」

 

ちょっと得意げなエルファバにセドリックはクスッと笑う。

 

「…私子供っぽかった?」

「ううん。かっこよかったよ。まあ、本当無理しないでね。」

「うん。」

 

今日のお礼にセドリックにまた何かあげようと考えた。

エルファバは少しため息をつき、セドリックに小さく手を振ってから歩き始める。図書館の入り口にはハーマイオニーが待っていた。

 

「エルファバ、本見つかった?」

「うん。」

「セドリックとは最近どうなの?」

「セドリックはいい人よ。そういえば明日って…」

 

なんとなく嫌な予感がしたため、エルファバは宿題に話をそらそうとした。

 

「違うわよ!セドリックはボーイフレンドになれそうなの?恋人って意味ね。」

 

さすがハーマイオニー。エルファバのしそうな誤解に対してぬかりなく説明を加える。

 

「……………セドリックは友達よ。」

 

なんとなく言ってはいけない答えだと分かっていたが、嘘をつくわけにはいかなかった。エルファバは正直に自分の思いを伝えた。案の定、ハーマイオニーは立ち止まり、エルファバの肩を抱いて極秘機密を告白するような顔で言った。

 

「エルファバ。あなたは可愛いんだから、そこのところはしっかりしなきゃダメ。」

「ハーマイオニー、あなただって可愛「そんなお世辞言ってる暇ないの。あなたは「あらっ、あの子なあにしてるのかしらあ?」」」

 

話に割り込んできたのはスリザリンの塊だった。パンジーは仲間を4、5人引き連れてハーマイオニーとエルファバに近づいてくる。

 

「お願いだからホグワーツから出て行ってくれない?ホグワーツ城が汚れちゃうわ。」

 

パンジーがそう言うと他のスリザリン生も笑い、それが廊下に反響して猿の大群が鳴いているようだった。ハーマイオニーは唇を噛んで俯いた。マルフォイがハーマイオニーを侮辱してからというもの、スリザリン生徒が便乗してハーマイオニーをこうやって馬鹿にするのだ。

 

「ハーマイオニー、行こう。」

 

エルファバはハーマイオニーを引っ張るがハーマイオニーは動かない。反論する言葉を探しているのかもしれない。

 

「何よ、ゴースト。」

 

エルファバは無視してハーマイオニーを揺する。自分をけなされるのはどうでもいい。

 

「本当、あなたって気持ち悪いんだけど。ボソボソしゃべって生きてないみたい。」

「そう。」

 

エルファバは生返事をしてからハーマイオニーを全体重かけて引っ張っていった。エルファバが興味なさげに反応したのがイラっときたのか、パンジーは続けた。

 

「髪の毛真っ白で不気味。」

「気持ち悪いっ!」

「こんな人と一緒に生活してるなんてやだー。」

「穢れた血と生き霊と一緒に勉強してるなんて言ったらお母様はなんておっしゃるかしら?」

 

パキパキっ…。

 

「エルファバ…?」

 

ハーマイオニーはエルファバの異変にいち早く気づいた。エルファバはローブをシワができるほどに握りしめ、スリザリン生を睨みつけるが焦点が定まっていない。

 

「怒らせないでよ…。」

 

エルファバはパンジーに近づいた。

 

「ひっ!!」

 

身長はパンジーの方が一回りも二回りも大きい。しかし今は完全に縮こまり、小柄なエルファバがずっと大きく見えた。

 

殺気、あるいは狂気。

 

それが今パンジーがエルファバに感じているものだ。

 

「私のことは勝手に貶せばいい。でもね、ハーマイオニーのことをバカにするのは許さない。」

 

バキバキバキバキっ!!

 

「きゃあっ!!」

 

パンジーが突如としてクルクルと踊り出した。

 

「いやっ!いやっ!」

「パンジー!どうしたの?!」

「冷たいっ!!」

「「冷たい?」」

 

ハーマイオニーとエルファバはその光景を見守っていた。

 

「あなたがやったの?」

「行こう。」

 

当然エルファバは何をしたかハーマイオニーに言うことはできない。杖を使わず、意図的にパンジーの靴の内部を軽く凍らせたなんて口が裂けても言えない。

 

「デフィーソロ…」

 

ハーマイオニーには聞こえないようにコッソリと凍ったローブの一部を元に戻す。

 

「何か言った?」

「ううん。」

「本当、あの人たちって…あっ!!新しい髪飾りが今日中に届くのよ!」

「そう…。」

 

『"力"を使えばお前は悪い魔女になってしまう。どんな理由であろうとね。特に人に見られたりしたら人々はお前を気味悪がり、離れていく。』

 

(一体何てことをしてしまったの?)

 

エルファバは自問自答していた。1年の時もそうだったが、友人が侮辱されると我を忘れて"力"を意識的に使ってしまう。ハーマイオニーが気づいた様子はない。楽しそうに髪飾りについて話している。

 

(きっと誰も分からないはずよ。あのおばかさんたちですら私がやったなんて証拠ないもの。私は杖をあの人たちの前で出したわけじゃない、そもそも指一本動かしてないわ。そう、誰も分からない。)

 

が、この思いが崩れ去ったのは次の魔法薬学の時であった。

 

「グリフィンドール10点減点。」

 

コウモリ男はエルファバが教室へ入室した瞬間に減点した。そして見向きもせず、黙々と煙の中で調合する薬を選別していた。

 

「…理由はなんですか?」

「ミス・パーキンソンに呪いをかけた。」

 

(ずるいわ。だってあの子は…。)

 

「あの子ハーマイオニーにいじわる言ったんです。」

「それは貴様が呪いをかけていい理由にはならん。」

 

今日はたまたま早めに魔法薬学の用意をしたかったので来たが、それが失敗だった。ハーマイオニーはスプラウト教授にアルカロイド系の毒用ハサミのオススメの材質を聞きにいったし、ロンとハリーは午後一発目の授業前恒例の"ものすごい長いトイレ"に行っている。

 

「"きっと誰も分からないはず"、"自分がやったなんて証拠ない"。この心理がこの世の負を生み出しているとは思わないかね?"力"を使うことで悪になると言われているなら貴様がミス・パーキンソンにした行為はその第一歩だ。 」

「でも…。」

「言い訳をしたらさらに減点するぞ。」

 

エルファバはネットリした前髪の奥で光る黒々した目を睨みつけた。

 

「どうやら貴様は今年も惨めな夏休みを送ったらしい。私の言ったことをキレイさっぱり忘れたのだな。」

 

(スネイプは一体何の呪文を使ったのかしら?人の心を読む魔法なんて聞いたことないわ。トムに聞いてみようかしら。ジニー早く日記返してほしい…。こんなのフェアじゃないし。)

 

言い返せば減点される可能性があるので、エルファバは黙って荷物を置いて席についた。

 

(いいわ。あの人がどう思うと関係ないわ。私は幸せよ。私は…。)

 

『なんで"力"を使ったのよっ!?』

『どうして"力"を使ったりなんかしたんだ。』

 

(私は…。)

 

「エルファバ?」

「あっ、ハリー。」

 

エルファバはハリーの席を空け、座るように促した。

 

「なんか浮かない顔してるね。大丈夫?」

「平気、平気よハリー。」

 

ハリーに咎められる前にエルファバは今日の薬の材料を倉庫へと取りに向かった。

 

(平気よ、エルファバ・スミス。このくらい。)

 

エルファバは暗がりの中で自分に言い聞かせた。自分が幸せか否かよりもハーマイオニーに向けられた侮辱に対する怒りにシフトすることにした。

 

(穢れた血なんて、許せないわ。純血主義なんて!私のお父さんもマグルだけどレイブンクローで首席だったし。)

 

パキパキ…。

 

(血筋で誰かを責めていいなんて理由にならないのよ。)

 

エルファバは乱暴に瓶の蓋を閉め、もう一度気持ちを落ち着かせてからハリーの元へと向かった。

 

"それ"はこの授業の数日後に起こった。

 

エルファバは人ごみの最前列ででニヤニヤ笑うマルフォイに叫びたかった。

 

「次はお前らだぞ、穢れた血め!!」

 

"THE CHAMBER OF SECRET HAS BEEN OPENED. ENEMIES OF HTE HEIR, BEWARE."

 

マルフォイは壁に書かれた文字を読み、向かいにいるハーマイオニーをせせら笑う。その言葉の意味することをエルファバは理解することはできない。誰がやったのかも、何を目的にそれを書いたかも分からない。その文章は赤黒くギラギラと光っている。

 

そして、そのメッセージを引き立てるように周辺は霜でかこまれていた。

 

(どうして…!?)

 

書いてから少し時間が経っているのか霜は徐々に水となり、タラタラと壁を伝う。それが余計に不気味さを煽っていた。

 

エルファバは不安そうにしている生徒の中で必死に自分の記憶を辿っていた。今日の出来事、自分の歩いた場所、自分の心情。

 

(この前パンジーの靴を凍らせたけど、この場所じゃないわ。)

 

エルファバは信じられなかった。目の前で起こってることは何か悪い夢なのだと思いたかった。壁の近くの松明の腕木に引っかかって動かないあの猫が生徒の嫌うフィルチの猫であることは間違いなかった。

 

「ミセス・ノリス…。」

 

フィルチのかすれた声が廊下に響いた。小さい声にも関わらず、その声はざわつく生徒を一気に沈める。

 

「わたしの猫だ!お前だ!お前がやったんだ!」

 

フィルチの飛び出した目がハリーを向いていた。エルファバはその殺気に思わずロンの後ろへと隠れた。

 

「ぼっ、僕じゃ「おまえだ!おまえが!殺した!殺してやる!わたしが!この手で!「アーガス!」」」

 

ダンブルドア校長が数人の教授を従えて現れた。生徒を数名通り抜け、哀れなミセス・ノリスをそっと腕木から外す。

 

「アーガスとそこの4人は一緒においで。いくつか聞きたいことがある。」

 

“そこの4人”とは居合わせたハリー、ロン、ハーマイオニー、エルファバのことである。一行はそこから1番近いロックハートの部屋へとたどり着いた。ベタベタと張り付いたロックハートと写真たちは突然の来客に慌てふためき、枠の奥へと逃げ込んだ。

 

エルファバ以外の3人は目配せで情報の把握をしようとしたが、あまりにも怪奇なことすぎて2年生の知識では状況を理解するにはあまりにも難しかった。

 

その中でエルファバは小さく震えていた。

 

「エルファバ、大丈夫よ。」

 

ハーマイオニーがそっとエルファバの肩に手を置こうとした。

 

ばっ!!

 

「ダメっ!」

 

エルファバはそれを拒否した。ハリーやロンだけではない。教授たちや写真のロックハートたちまでもエルファバに視線を注いだ。

 

「ごめんなさい。」

 

エルファバは痛いほどに手のひらに爪を食い込ませ、"力"を出さないように耐えた。

 

(落ち着いてエルファバ。私がこんなことするはずないわ。)

 

別の声が囁く。

 

(でも、あの猫はまるで凍ったみたい。もしもあれを私がやったのなら…。)

 

『エディっ!エディっ!しっかりしてよおっ!』

 

(あれがエディの未来だった…?じゃああの猫は凍ってるんじゃ…!?)

 

「アーガス、猫は死んでおらんよ。石になっただけじゃ。…凍ったわけでもない。」

 

部屋に入った時の第一声に不謹慎ながら、エルファバはホッとした。エルファバを見て話していることからして、ダンブルドアはエルファバの不安を読み取っていたに違いない。

 

(石。凍ったんじゃない。私のせいじゃない。じゃあ、あれは?文字の周りの霜はなんだったのかしら。)

 

ホッとしたのもつかの間、新たな疑問と不安がエルファバの心を包んだ。

 

「やっぱり!私もそう思「どうしてこうなったのかはわしにも分からん。」」

 

ロックハートが叫ぶ絶妙なタイミングで校長は言葉をかぶせた。

 

「あいつが知ってる!」

 

フィルチはハリーを指差して叫んだ。

 

「最も高度な闇の魔術をもってして「あいつだ!あいつがやったに違いないんだ!あいつは…私が出来損ないのスクイブだって知っているんだ!!」」

 

(………え?)

 

思わずハーマイオニーと顔を見合わせてしまった。

 

(フィルチが…スクイブ?)

 

スクイブというのは魔法使いの家系に生まれたのにも関わらず、魔力を持たない人間のことだ。最近の魔法使いは混血が増えた分スクイブは減ってきているが、かつては純血家系で親戚同士で結婚を繰り返したためにスクイブの数がかなり多かった。

 

(フィルチがスクイブ?じゃあ、今まで生徒に嫌がらせしてたのってまさか…嫉妬?)

 

「僕じゃありません!!僕はスクイブがなんなのか知りませんし…。」

 

ハリーはスクイブという言葉を知らなかったらしい。必死に否定した。

 

「馬鹿な!」

 

ここでフィルチの前にコウモリがマントを広げて立ちふさがった。

4人はブスッとその背中を睨みつけた。

 

「一言よろしいですかな?」

 

スネイプのことだ。ハリーが嫌いなスネイプがこっちにとっていい発言をするわけがない。

 

「確かにポッターとその仲間はたまたまその場に居合わせただけかもしれませんなあ。」

 

(あなたはそう思ってないくせに。)

エルファバはスネイプの口調にイラッとした。

 

「しかし状況は疑わしい。なぜこの4人がハロウィン・パーティーではなくあの場にいたのか。」

 

ハリー達は地下牢で行われていた"絶命日パーティー"についての説明をした。グリフィンドール専属のゴーストであるニックの絶命日パーティーに誘われたハリーはロン、ハーマイオニー、エルファバと一緒にそこへ向かった。しかし当然ゴーストの食事なんて食べられるはずもなく、3人のお腹に限界が来てそこから抜けたわけだ(エルファバは実を言うと結構楽しんでいたのだが、ロンにそこから引きずられるようにして抜け出してきたのだ)。

 

「だから、そこのゴースト達が僕らがそこにいたことを証明してくれます。」

「それではそのあとパーティーに来なかった理由は?」

 

さすがスネイプ。痛いところをついてくる。

 

パーティーから抜けたあと、ハリーはいきなり立ち止まりこう言った。

 

『またあの声だ!』

 

当然ハリー以外には聞こえなかった。しかしあのハリーの動揺っぷりはウソとは思えない。誰かを殺すつもりだとハリーが叫んで走り出した。その結果あの場所にたどり着いたというのが真相だ。

 

しかし教授達は信じてくれるだろうか?

 

「あの地下牢で空腹を満たせたとは思えんがな。」

「ぼっ僕たち、空腹じゃありませんでしたっ!!」

 

ぐるるるるう。

 

ロンの言い訳も虚しく、部屋にロンの空腹を知らせる音が鳴った。スネイプはニヤニヤとチャンスだと言わんばかりにハリーのクィディッチ参加禁止をするべきだと言った。

 

そのやりとりをエルファバはあまり聞いていなかった。

 

あの壁に書かれた血の文字…秘密の部屋…確かサラザール・スリザリンの…あっ。

 

「疑わしきは罰せず。マグルの刑事裁判の原則じゃ。」

 

校長はまっすぐスネイプを見て言った。

 

「私の猫が石にされたんだ!納得がいかん!」

 

フィルチは子供が駄々をこねるように地団駄を踏んだ。

 

「心配ない。スプラウト教授がマンドレイクで回復薬を作ってくださるからな。皆の者、帰ってよろしい。ああ、エルファバ。君は残ってくれ。」

 

3人と一緒に帰ろうとしたエルファバを校長は引き止めた。

 

「もう一度、あの場所へ行ってはくれぬかの?君もよく知る理由でじゃ。」

 

校長はあの壁を覆う霜と氷について言ってるのだろう。エルファバは黙ってうなづき、校長のあとへとついていった。廊下に戻ると、もう人だかりは消え、 そこは再び寂しい廊下へと戻っていた。しかし赤黒いメッセージとそれを囲む氷はありありと残っている。

 

「さあ、いつもの呪文を唱えるのじゃ。」

 

エルファバはローブから杖を取り出しつつ、小さく深呼吸をした。

 

「これで…。」

「もしも溶けなければこれは君が作った氷ではない。」

「もしも、消えれば…?」

「その時はその時考えよう。」

 

校長は少し腰を折り、ほほほっと笑った。正直エルファバからすれば笑い事ではない。

 

当然、3年生以上となれば凍結呪文やら氷を作る魔法やらで簡単に氷や霜を作り出すことが可能だ。しかしこの10月にあえてこの壁に霜を作り出した理由は一体なんなのだろうか。

 

それがエルファバの呪文で答えがわかる。

 

「デフィーソロ...」

 

エルファバはぎゅっと目を瞑って呪文を唱えた。現実を知りたくない。もしもこれで霜が消えてしまえば、何も知らない自分がこれに関与していることになってしまう。

 

「目を開くのじゃ、エルファバ。何も起こっておらん。」

「…?」

 

恐る恐る目を開けると、霜と氷は今だに雫が伝うたびにキラリと光り、ポタポタと床に落ちていっている。

 

良かった。

 

エルファバはホッとして床に倒れこんでしまいそうになった。

 

「安心するのじゃ。わしは最初から君がこれに関わっているとは思っておらん。」

 

ダンブルドア校長はエルファバに一瞬微笑んでから、すぐに真剣な顔になり杖で凍った一部を突き始めた。

 

「しかし、事はあまり君にとってはいい方向には向いてないのお。」

「?どういうことですか?」

 

ダンブルドア校長はエルファバに向き直り、静かに、しかし力のある声でハッキリと言った。

 

「ここであえて氷を使った理由…犯人は君の"力"を知った上で、君に罪をなすりつけようとしたということじゃよ。」

 

 

 

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