ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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7.母の愛、疑念、信頼

邪悪な笑い声が頭の上で響いていた。もうくたくたになった体にさらなる苦痛を刻み込まれ、悲鳴を上げる。

 

(誰か、誰か、誰か助けて。)

 

手を伸ばしても、その先にあるのは鋭いナイフか手をめちゃくちゃにしようとする握力だけ。

 

誰も助けてなんてくれない。ならば自分で自分の身を守るしかない。私は使った。自分にしかない、ただ一つの手段で自分を守った。しかしそれは一時的に苦しみから解放されるだけ、その代償にさらなる痛みが返ってくるのだ。

 

『っんのガキがあああああああああああああ!!』

 

「!?」

 

パキパキパキパキっ!!

 

月明かりが差し込むグリフィンドール塔、女子寮でエルファバは目が覚めた。

 

「はあっ…はあっ…。」

 

もう11月だというのに汗をぐっしょりかき、エルファバは息荒く髪の毛をかき乱す。

 

悪夢を見ていた。孤独と苦痛が世界を満たす…。

 

(あれ?私、何の夢を見てたのかしら?)

 

「んっ。」

 

パーバティーが毛布の中に猫のようにくるまったところで、エルファバは部屋中が氷に包まれていることに気がついた。慌てていつものように呪文を唱え、エルファバ自身もふわふわの毛布の中に身を委ねる。

 

「…エルファバ?起きてるの?」

「ハーマイオニー。」

 

どうやら起こしてしまったようだ。ハーマイオニーはボサボサの髪の毛の中から眠たそうな声を出す。

 

「大丈夫?」

「うん。ちょっと怖い夢をみただけ。」

 

(なんだか覚えてないけど。)

 

「そう…。何かあったら言ってね。」

「ありがと。」

 

とは言ったものの、眠気は完全に吹き飛んでしまった。

エルファバはベットの隣にある杖を持ち、毛布を被って呪文を唱えた。

 

「ルーモス 光よ。」

 

ぽうっと白いつえの先端から青白い光が発される。ラベンダーがモゾモゾと動いたが、その光をそこまで気にしている様子もない。エルファバはベッドの下からあのボロボロのノートを取り出した。母親の秘密が詰まっていると思われるノート。繊細な雪の結晶が描かれたノートは今にも破れそうなほどに脆い。

 

エルファバにはある確信があった。

 

雪の結晶の上に手を置き、目をゆっくり閉じ、絵と同じ形をした結晶を頭で思い描く。すると、手のひらがふんわり温かくなった。

エルファバの手の下に、ボロボロのノートは存在しなかった。その代わりに手の下にあったのは先ほどのものより一回りくらい大きく、立派になったノートだ。ノートの間に何かを強引に押し込んだようで、ノートの中心が不自然に膨らんでいる。

 

エルファバはノートに光を近づけ、注意深くノートを開いた。

 

(手紙…?)

 

開封した形跡のある手紙が数枚ほどノートに挟まっている。エルファバは少し罪悪感を持ちながらもそのうちの1枚を読んだ。

 

ーーーーーー

親愛なるグリンダ

 

ハーイ!元気にしてるかしら?私は元気よ。私、すっごくすっごく興奮しているの!あなたの娘のゴッドマザーになれるなんて!私の赤ちゃんが生まれるのには少し時間がかかりそうだけど、まだ男の子か女の子か分からないの。あの人が嫌がってね…私は知りたかったわ。男の子だったら赤ちゃんのゴッドファーザーはまあ、分かるでしょ?女の子だったらゴッドマザーはあなたになってもらいたいわ。彼はあなたのこと結構気に入ってるのよ。(あなたはどうか知らないけど!)

お互い妊娠してるしこの状況でなかなか会うのは難しいけど、あなたに会いたいわ。

 

愛をこめて

 

リリー

 

P.S. デニスによろしく言っておいて!

 

ーーーーーー

(私のミドルネーム。まさかこの人は私の、ゴットマザー?

後見人なの?そうだとしたら、今どこで何をしているのかしら。私のことは知ってるはずよ。グリンダは魔女なのだから彼女も魔女よね。文章からして旦那さんもお子さんもいるみたいだわ。どこかで家族と…。)

 

エルファバは息を飲んだ。

 

顔の知らない女性と男性、その子供の温かく幸せな家庭の中に招かれる自分。本当の娘のように愛され、抱きしめてもらえる。美味しい食事を食べてソファで広い膝に座りながら飽きるほどにハリー達のことを話す。そして自分の作り出す"作品"の数々を褒めてくれて…。

 

(何考えてるの。)

 

エルファバは首を振り、夢を必死に消した。こんなことを願っても辛いのは自分だけだと誰よりもよく知っている。自分が生まれてこのかた、その人に会ったことなど一度もない。つまりこのリリーという人は自分を忘れてしまっている。つまりそういうことなのだ。

 

(これ…。)

 

その手紙が挟まったページには黒髪の赤ちゃんの写真が貼られていた。ベビーベッドの中で横になっている赤ん坊は怪訝そうな顔で写真の先のエルファバに手を伸ばそうとしている。

 

"私たちの大切な宝物、エルフィー"

 

筆記体で裏にそう書かれていた。

 

エルファバはノートをぎゅっと握りしめた。やっと身をもって実感したのだ。グリンダ・オルレアンは紛れもなくこの世界に生きていて、そしてあの黒髪は自分なのだと。

 

エルファバ・リリー・スミス。

 

自分が愛されていた事実は確かにあったのだ。

 

どうやらこれはグリンダのアルバムだったらしい。各ページに写真が貼られている。1番多いのは父親とのツーショット。魔法のかかった写真はセピア色だが、2人の笑顔は周辺を色づかせるように明るく、美しいものだ。

 

(この人がリリーかしら?)

 

お腹の膨らんだグリンダともう一人の女性が仲良く互いのお腹をさすっている。どちらも美人で華やかだ。

 

(この人、どこかで見た気がするわ。)

 

リリーと思われる女性には見覚えがあった。当然一度も会ったことはないのだが、懐かしいというか、しょっちゅう会ったことのあるような、そんな雰囲気があるのだ。

 

(明日みんなに見せよっと。)

 

エルファバは自分の胸を締め付けるような感情をそっと胸に秘めつつも、ノートをベッドの下にしまった。

 

「ノッ…」

 

光を消そうとして、エルファバは呪文を止める。この胸の高鳴りを止められそうにない。自分にあり得たかもしれない未来を頭で思い描いてしまう。現実を見て生きていかなくてはいかないのに、このまま永遠に素晴らしい夢の中で生きていきたいと思ってしまうのだ。

 

(ちょっとだけ…。)

 

エルファバは杖を膝に挟み、左の手のひらを天井に向け、右手で"力"をだした。

右手から発散される氷の粒たちは左手の中で踊り、エルファバの思う理想を作り出す。

 

(出来た。)

 

15秒ほどで手の上に氷の彫刻が完成した。ソファの上で座る髪の長い女性と背の高い男性、そして男性の膝に座る自分。

 

(エディも入れなきゃ。)

 

そう呟いてすぐに女性にしがみつくエディを作り出した。

 

(違う。エディがしがみつくのはお母さんじゃなきゃ。それにこれじゃあお母さんが仲間外れじゃない。)

 

しかし、手の中でみるみる溶け出す作品をまた作り直そうという気はおきなかった。氷と一緒で、それは一瞬でなかったことにされる儚い夢なのだから。

 

「デフィーソロ…ノックス 消えよ。」

 

エルファバの夢と光はそこで消えた。

 

 

ーーーーーーー

 

ミセス・ノリスの一件があってからというもの、学校では不穏な空気が漂っていた。特に1年生は初めての学校生活でこんなことが起こってしまい、パニックを起こしてしまう子もいた。

 

「ジニー。」

「ハーイ、エルファバ。」

 

朝食をとっているジニーの顔色はとても悪い。ロン曰くジニーは無類の猫好きらしいが、それを差し引いてもずいぶん顔色が悪い。

 

「大丈夫?」

「ええ、平気よ。」

 

エルファバはジニーの隣に座り、ワッフルにバターを塗り始めながら、ここに来るまでに何度も唱えた言葉を吐いた。

 

「ジニー、あの日記なんだけど…そろそろ、返して、くれない、かな?」

 

エルファバはジニーの反応をちらりと伺う。あからさまに嫌そうだ。

 

「えっ、私もっと使いたいわ。」

「えっ…と…そろそろ、私も、使いたいなあ、って。」

 

なんだかんだでジニーは1ヶ月以上日記をエルファバに返してないのだ。しかも催促をするのはこれで3回目だった。

 

「嫌よ。」

「…わか…った。」

 

(トムに聞きたいこといっぱいあったのに。)

 

そんな考えに気を取られボーっとしてバターをつけすぎたワッフルにメープルシロップをかけ、口に含んだ。

 

「ジニー。それは良くないだろ?」

 

パーシーだった。少し赤毛に寝癖をつけながらジニーを諭す。どんな時も監督生バッチを着けるのを忘れないパーシーはすごい責任感があるとエルファバは思う。

 

「パーシー、これは私たちの問題よ。入ってこないで。」

「状況は良く分からないが、エルファバの物をお前が借りてるんだろ?人の物はなるべく早く返すのが礼儀だとママが言ってたのを忘れたのかい?」

 

正論で返されたジニーはウッと声を漏らす。

 

(兄弟ゲンカね…他人のケンカを見るのってずいぶん久しぶりだわ。)

 

最後の一口でお皿にくっついたメープルシロップをできるだけ拭き取っているエルファバは他人事である。

 

「でもっ、でもっ、これは私の持ち物の中に入ってたのよっ?」

「そうだとしてもお前がエルファバにあげたんじゃないのか?じゃなきゃエルファバが"返して"なんて表現使わないだろう?」

 

パーシーはジニーにずいっと近づき、ハッキリといった。

 

「エルファバに、返すんだ。じゃないとママに言いつけるぞ。」

 

ジニーはパーシーを睨みつけ、エルファバを睨みつけ(えっ、どうして私?)乱暴に黒いノートを取り出して、バンっ!と机に叩きつけた。

 

「ジニー!」

 

パタパタと走り去るジニーの背中にパーシーは叫ぶが、エルファバは止めた。

 

「いいの。ありがとうパーシー。」

「すまない。ジニーは事件で不安定なんだよ。ハリーや君が退学になるかもとか、ホームシックとかでね。」

 

エルファバはあまり聞いていなかった。長年会えていなかった友人に再会したかのようにまじまじと日記を見つめた。エルファバがなんとしてもこれを手に入れたかったのには訳がある。生物を石にするような魔法、あるいは生き物についてトムに聞きたかったのだ。

 

ここのところハーマイオニーとエルファバはずっと図書館にこもりっきりだった。(エルファバはハーマイオニーの熱中する先が変わったため大いに喜んだ)理由は生徒たちの注目の的である誰が、あるいは何がミセス・ノリスを石化させただ。被害にあったのが学校一の嫌われ者の飼い猫ということもあり、多くの生徒は嬉々としてこの話題を扱ったが、ハーマイオニーの見解は違った物だ。

 

『もしもわざとフィルチの猫を狙ったものならこの事件は連鎖するかもしれない。そうならマグル生まれが危ないわ。』

 

実際に調べた結果やはりと言うべきか、当たったのはスリザリンにまつわる歴史だ。

 

『エルファバ、ホグワーツの歴史の創設者たちの歴史の部分読み上げてもらっていい?』

『…ゴドリック・グリフィンドールはロウェナ・レイブンクローやヘルガ・ハッフルパフとと恋仲だったなどの噂は『ごめんなさい、グリフィンドールのとスリザリンの決闘の部分まで飛ばして。』』

『スリザリンの創設者であるサラザール・スリザリンはゴドリック・グリフィンドールと決裂したのち、秘密の部屋と呼ばれる場所に自らの敵となる生徒たちを抹消する怪物を放った。かっこスリザリンとグリフィンドールは決闘をしたという説もあるかっことじ。そして秘密の部屋を開くものはスリザリンの真の継承者であり、その継承者が現れた時にこの学校から魔法を学ぶにふさわしからざる者を追放すると言われている。』

 

ハーマイオニーはニヤッと笑ってエルファバにハグをした。

 

『あなたって本当最高よ。』

 

エルファバはよく理解できなかったが、ハーマイオニーが嬉しそうだったのでエルファバも幸せだった。

 

"ハーイ、トム。エルファバよ。覚えてるかしら?"

 

パーシーが教授に呼ばれて席を離れたのを見計らい、エルファバはトムにメッセージを書き込んだ。

 

"やあ、もちろん覚えてるよ。本当に久しぶりだね。"

"ええ、ジニーに返してもらったのよ。あとで聞きたいことがあるんだけどいいかしら?友達と一緒に。"

 

いつもよりも少し間が空き、トムから返事がきた。

 

"僕のことはできるだけ他の人に伝えないほうがいいと思うんだ。"

"どうして?"

"僕は人の悩みに答えたり、知識を答えたりすることができる。それが多くの人に共有されてしまった場合、僕が混乱するんだ。それによってここに書かれたことが外に漏れてしまうかもしれない。"

 

文字は消え、トムは続ける。

 

"君は特に僕に何も伝えてないけど、ジニーはここに誰にも言えない悩み事を綴ったんだ。それが漏れてしまってはジニーもかわいそうだ。"

 

(そうね。)

 

エルファバは心の中でうなづいた。幸いなことにハーマイオニーにはこれについての詳細は伝えていない。"どんな質問にも答えてくれる人がいるからその人に秘密の部屋について聞く。"と言っただけだ。心配はない。トムに聞いてその情報をハーマイオニーに伝えればいい。

 

"分かったわ。"

"で、聞きたいことっていうのは?"

"あとで書くわ。これから授業だから。"

 

そう書き、エルファバは日記を閉じた。

 

同じ頃、グリフィンドールの談話室でこれから大広間に向かおうとしているハーマイオニーはハリーとロンに自分の仮説である秘密の部屋についてを聞かせていた。

 

「へー、つまり例の純血主義ってスリザリンが言い出したものなんだ。お金を出したってそんなとこ入りたくないよ。」

「そうね。」

「…」

 

ハリーはそこについては何も言えなかった。1年の時、組分け帽子が自分をスリザリンに入れようとしたことを思い出してしまったからだ。

 

「あとでエルファバも一緒に現場を見に行きましょうよ。何か手がかりがあるかもしれないわ。」

「そうだね。そういえばエルファバは?」

「ジニーに物を返してもらうからって先に大広間に行ったわ。」

 

ハリーの問いにハーマイオニーは答える。

 

「なんか…エルファバだけ別行動多いよな1年の時から。」

 

ロンはボソッとつぶやく。

 

「ずっと1人だったから団体行動とか慣れてないのよ。」

 

ハーマイオニーは少し非難めいた声色でロンに言った。

 

「そんなに怒るなよハーマイオニー。君ってエルファバのことになるとすぐ怒るんだから。ちょっと気になっただけだよ。」

 

全く、とロンは首を振った。ハーマイオニーが言いかける前にハリーが遮る。

 

「でも誰だと思う?スクイブやマグル出身の子を追い出したい子なんて。」

「そんなの分かりきったことさハリー。」

 

ロンは緩んだネクタイを締めながらかしこまる。

 

「我々の知っている人物の中でマグル生まれがクズだって思ってる奴は誰でしょーか?」

「まさかあなたマルフォイのこと言ってるの?」

「モチのロンさ!」

 

ロンが思いの外大声を出したので寮の出口でたむろしていた1年生がビクッとなった。

 

「マルフォイ?まさか…。」

 

ロンとハーマイオニーがずっと言い争いをしている間、ハリーには別の可能性がよぎっていた。それはエルファバのあの能力。

 

ミセス・ノリスがいた現場の壁には所々霜があったのに加えて、床の水溜りは所々凍っていた。そしてダンブルドアのあの言葉。

 

『石になっただけじゃ。…凍った訳でもない。』

 

まるでその言葉はエルファバのために付け足されたような言葉だった。かなり動揺していたエルファバもその言葉のあとは思いの外落ち着いてた気がする。ロックハートの初回の授業、ナメクジ顔面放射事件(赤毛双子命名)、さらに言えば1年の時にも突然雪が降ってきたり、地面が凍ったりしていることが何回かあった。

 

(エルファバには特別な能力があるのかもしれない。それがスリザリンの真の継承者の証で、もしも、もしもエルファバが今回の事件に関与していたら?)

 

エルファバのあの無表情な、ちょっとぼんやりとどこか遠くを見ているような顔を思い出す。

 

(いや、あのエルファバがそんなことをする訳がない。性格上エルファバができる訳がないし、そもそもエルファバの父親も母親もレイブンクローだ。本人もグリフィンドール。スリザリンの継承者な訳がない。)

 

じゃあ、一体あの氷たちはどうやって説明すればいいのだろうか?

 

「…リー、ハリー!」

 

考え事をしていたハリーの目に、ロンのどアップ顔が映されていた。

 

「うわっ!」

「ったく、ハリー全然話聞いてないじゃないか?何考えてるんだい?」

「えっ、あー…。」

 

エルファバが継承者かもと考えてたなんて言えなかった。このことを知っているのはハリーしかいないのだ。

 

「…なんでもない。」

「そうか。こっちは大変、ハーマイオニーが校則を50くらい破るのを待ってないといけないんだぜ?」

「なんのために?」

「何って、マルフォイから秘密の部屋のことを聞き出すためよ。」

 

ハーマイオニーは鼻息荒くロンを睨みつける。

 

「エルファバにも言わなきゃ。成績的にはエルファバのほうが私よりもできるし。」

「何をするんだい?」

「ポリジュース薬を作るだけよ。」

 

ーーーーーー

 

あのピクシー大放出の事件後、ロックハートの授業というのは涙が出るほど退屈なものとなった。哀れなハリーは今日もいつもロックハートの喜劇(武勇伝)に付き合わされている。しかし今日の場合はハリーに頑張ってもらわなくてはならなかった。

 

エルファバはロンと一緒にハリーを応援しつつ、ロックハートの顔写真をいかにスネイプに似せるかというゲームを行っていた。豊かなブロンドがインクで黒く塗りつぶされ、あたふたとスネハートはもがいている。

 

「動くなよスネイプ、もうすぐねっとり髪の毛が完成するんだから。セリフも入れるか。」

「"私の愛の妙薬で魔女たちはメロメロだ!"でいい?」

「最高。」

 

黒い笑みを浮かべるロンはまだしも、これを無表情でやっているエルファバは側から見ればずいぶん恐ろしかった。ガリガリと2人の生徒に汚されていくスネハートは写真の中で絶叫していた。

 

「さあっ!今日の宿題は敗北した狼男の心情を詩に書くことだ。1番うまかった人にはサイン入りの本を進呈!」

 

ロンはその言葉を合図に華麗に落書きされた教科書をしまう。これがハーマイオニーにばれたら大変だからだ。

 

ハーマイオニーは2人とクタクタになっているハリーに目配せし、ロックハートの元へと駆け寄った。

 

「ハリーおつ。」

「お疲れ様。」

「君ら僕が一生懸命ロックハートの機嫌を良くしようとしている間になんかやってたでしょ?」

 

人の気も知らないで、とハリーはため息をついた。ロンは笑いを堪えており、エルファバもさもおかしそうに踵を上げ下げしている。

 

「ロン、ハーマイオニーが上手くいってるか確認してきてくれない?ストッパーが必要かも。」

「それ言えてる。」

 

ロンは納得し、ロックハートとの会話に夢中になっているハーマイオニーを止めに入った。ハリーはその間にエルファバに素早く、廊下へと誘った。

 

「エルファバ。」

 

チャンスは今しかない気がした。

 

「?」

「君に聞きたいことがあるんだ。」

「なに?」

「あのミセス・ノリスが襲われた場所…凍ってたよね。」

 

わずかにエルファバの真っ青な目が見開かれる。

 

「ええ…そうね。」

「何か心あたりはあるかい?あれって、なんというかすごく不自然だと思うんだよ。」

 

エルファバの反応を伺ったが、エルファバはじっとハリーを見つめたまま動かない。これからハリーが言うことを待っているようだ。

 

「僕は、君が杖な「ハリー!エルファバ!」」

 

ハーマイオニーが嬉しそうにロックハートのサイン付きの許可書を見せながら走ってきた。

 

「信じらないよ、あいつ、何の本借りるか見もしなかった!まあ、あいつ能無しだから。」

「能無しなんかじゃないわ!」

 

ハリーはチラッとエルファバを見る。相変わらず無表情で普段から一緒にいるハリーですら感情が読み取れない。

 

「…行こう、図書室に。」

「ええっ!これで作れるわ!」

 

ハーマイオニーもロンも、ハリーとエルファバの間にある微妙な距離感を感じることができなかった。

 

「エルファバ、先にあの女子トイレ行っててくれない?一応誰かいないかチェックしてほしいの。私は本借りなきゃいけないし、ロンとハリーが行って誰かに捕まるのも嫌だわ。」

「分かった。」

「えっ、あそこ使うの!?勘弁してくれよ!」

「あそこだったら私たちのプライバシーが保証されるでしょ!?」

 

ハリーは再び言い争う2人をよそに、徐々に小さくなっていくエルファバの背中を見つめていた。エルファバは脈打つ心臓を必死に抑えていた。

 

(落ち着いて…ハリーはただあの時壁に氷があったことに関して不自然に思っただけよ。誰が私のことなんて分かる?)

 

エルファバは自分でも驚くくらい怯えていた。足がガタガタ震え、その足元は銀色の光沢に包まれている。どうすることもできず、エルファバは図書館に到着すると、衝動的にバックに手を突っ込み、震える手でインクと羽ペン、そしてあの日記を出した。

 

"トム、私怖いわ。"

 

書き殴った字は辛うじて読めるくらいだ。スルスルとそれは消え、あの知的そうな字が浮かび上がる。

 

"何かあったのかい?"

"私、秘密があるの。どんなに仲の良い子にも言えない。それのせいで誰かが私を猫を石にしてしまった犯人に仕立て上げようとしたし、妹も殺しかけてしまった。でも親友になら伝えてもいいって思ってる。でも心のどこかがそれを必死に止めるの。みんなに伝えられたらどんなにいいか!本当、自分が怖いわ!"

 

エルファバは今思ってることを手の動かすままに書き込み、制服や白紙のページにインクが飛び散った。

 

"その秘密が漏れたらどうなるんだい?"

"特に…何もない…と思う。お父さんやお母さんが怒るかもね。お父さんは私は悪い魔女になってしまうって。"

 

どんどん気持ちが落ち着いてきた。明らかに自分の行動は不自然で早く女子トイレの様子を見に行かなければならない。

 

"君が言いたくないのであればいいけど、言えばスッキリすると思うよ。僕なら誰にも言わないし、一緒に秘密を共有できる。"

 

ずいぶん魅力的な言葉だ。秘密を共有すれば少し楽になるかもしれない。

 

"私の秘密は…"

 

スッと文字が消える。

 

"君の秘密は?"

"私の秘密は…"

 

(私の秘密は…。)

 

トムなら信頼できる。エルファバはそう信じた。

 

"全てを凍らすことができる。杖なしでね。"

 

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