ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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9.クリスマス

どこか虚ろな顔のハリーは自分のことを話す雑音が嫌でも耳に入ってきて、サクサクフワフワのベルギーワッフルを楽しめないでいた。

朝からずっとこんな感じだった。特にハッフルパフ生はジャスティンの寮のため、本人がいろいろ言ったのだろう。あからさまにハリーを避けている。

 

昨日ジャスティンとグリフィンドールの専属霊であるほとんど首なしニックが石化しているのが発見されパニックとなった。ゴーストであるニックですら危害を加えることができるなんて一体どんな怪物なのかというのがみんなの不安を煽った。クリスマス休暇に帰るリストにみんな自分の名前を書き込んだ。

 

ちょこん。

 

エルファバはハリーの隣に座り、手紙をフランスパンをかじりながら開いていた。

 

「エルファバおはよう。」

「はよ。」

 

いつも通りのエルファバだ。最近ずっとハーマイオニーの暴走により、日に日にやつれてきていたが今日は髪の手入れとか化粧とか身だしなみの襲撃にあわなかったらしい。髪はボサボサで荒れ放題、肌は少し乾燥気味でクタクタな布に印刷されたジェームズ・ボンドがエルファバの上半身で銃を構えていた。

 

しかし、"エルファバらしさ"は憂鬱なハリーの気持ちを少し良くした。

 

「やっぱり君そっちのほうがいい。」

「私も楽だわ。」

 

エルファバは手紙から目を離さずに反応する。そろそろ集中しだして話しかけても反応しなくなる頃だ。ハリーとエルファバの間に沈黙が流れる。しかし全く気にならなかった。むしろ沈黙が心地よかった。

 

エルファバは無言で手紙をポケットにしまいこみ、クリーム色のプティングをよそう。

 

「誰から?」

「お父さん。」

「クリスマス休暇中に帰って来いとか?」

「まあ、そんな感じ。」

 

エルファバは新学期になってからというもの、父親に1度しか手紙を出していない。しかもそれもこの事件が起こる前の話だ。が、どこから話を聞きつけたのか、父親は今回のことを知ったらしい。

 

ーーーーーー

エルファバ

ホグワーツで起こってることを聞いた。クリスマスはこっちに帰って来なさい。危険だし怪物に会った時にお前の"力"が周囲にバレてしまっては大変だ。

 

私の心配じゃないのね。

ーーーーーー

エルファバの心がツンと痛んだ。

 

「帰る?」

「…帰らない。ポリジュース薬完成させなきゃ。」

 

そう意気込むエルファバにハリーは複雑な気分になった。1つハリーしか知らない事実があった。

 

コリン・クリービーが石化して医務室に運ばれたとき、ハリーはその場にいた。教授たちが数名きたとき、ダンブルドアは静かに言った。

 

『わしはココアを取りに行ったとき、氷に足を滑らせての。その先で彼が倒れておった。』

『まさか…!!』

『しかし彼女の秘密を知る者は限られておる。』

 

この時ハリーは確信した。彼女というのはエルファバのことだと。エルファバのあの魔法は教授たちに認識されていることなのだ。

 

『ダンブルドア教授、ミスター・クリービーの腕も凍ってます。』

『凍ってるのは表面だけじゃ。おそらく中は石じゃろう。彼の体に害はないじゃろうからそのまま自然に溶けるのを待っとくれ。魔法ではどうしようもできん。』

 

そしてジャスティンとニックだ。ジャスティンの体の半分は凍っており、宙に浮いていたニックの体はドーム状の氷の中にあった。サラザール・スリザリンは1000年以上前の人間だ。どの人が継承者でもあり得なくはない。自分でもあり得なくはない。

 

つまりエルファバでもあり得なくはないのではないだろうか。

 

しかしその考えはしたくない。ハリーはマルフォイがスリザリンの継承者で、何かしらの方法でエルファバを操っているだとしたかった。現にエルファバはこんなにも協力してくれるではないか。ポリジュース薬だってエルファバがいなければ完成は難しかっただろう。

 

『ジニーがね、日記を持ってるんだけど、それがジニーに悪い影響をもたらしてるかもしれないの。』

 

エルファバとジニーはどちらかと言うとそこまで仲の良い方ではない。人見知りのエルファバがなぜジニーの持ち物などに目がいくのだろうか?疑えばキリがない。しかしどうもそれが気になった。それはハーマイオニーも同じ考えだとハリーは確信していた。エルファバが気付いているか定かではないが、最近ずっと自分かハーマイオニーがくっついているのだ。それはエルファバを疑っているという何よりの証拠だ。

 

「隣座るよ。」

 

マギーはグリフィンドールの席であるにも関わらず、堂々とエルファバの隣に座り、近くにあるトーストを素手でつかみ、大口を開けて食べだした。周囲のグリフィンドール生はヒソヒソと話し、マギーを指差すがマギーはまるで他人事のように自分の指についたバターを舐めとる。

 

「シット!あいつらウチの制服になんか呪いかけやがったな。スミス直してくんない?」

 

気色悪い緑や黄色に変色するマギーのスカートにエルファバは呪文をかける。

 

「あ、ポッター。」

 

マギーはハリーと目が合うと席から立ち上がる。

 

「悪かったね、スミスだけだと思ってた。」

「いや、僕は気にしないよ。座ってなよ…君がこの騒がしさを気にしないならの話だけど。」

 

エルファバはちょっと嬉しそうにハリーを見た。

頻度は少ないものの、エルファバはマギーと話すようになっていた。ズバズバとものを言い我が道を行くマギーはエルファバにとってかなり新鮮だった。魔法薬学でもよくグループを組むようになり、面白い話と言葉を教えてくれる。

最初はハリーもマギーがスリザリンだということもあり、彼女にあまりいい印象を持ってなかった。しかしハリーがスリザリンの継承者だと噂されるようになったあと、マギーはこう言った。

 

『いや、パーセルマウスだからってスリザリンの継承者とか言ってるのただのバカでしょ。ダンブルドアもパーセルマウスだし、そんなの優秀な上級生なら誰だって知ってる。バカな奴らはさ、不安になるとその原因をなんでもいいから探し出して、根拠もないのにそれを責めんのさ。』

 

これはマギーがエルファバに対して言ってたのをハリーが聞いたものだが、それ以降マギーに対する印象が変わったのだ。しかし、他の2人はハリーのように学校の生徒からスリザリンの継承者だと疑われているわけでもない。そのためマギーの良さも分からないわけで。

 

「エルファバ?」

 

エルファバの後ろに気がつけばハーマイオニーが仁王立ちしていた。

 

「"あれ"のチェックを一緒にしてほしいんだけど。」

「いいよ。ちょっと待って。」

「いいえ、今すぐよ。」

 

ハーマイオニーはマギーをエルファバから離したいのだ。特にスリザリンから嫌がらせをよく受けるハーマイオニーはマギーもそういう人物だと思っているのだ。

 

「分かった。」

 

そんな意図があるとはつゆ知らず、エルファバはフランスパンの最後の一切れを口に含み、手紙をポケットに突っ込んだ。

 

「あと、ここスリザリンの席じゃないわよ。」

「どうもグレンジャー。」

 

バチバチバチっ!!

 

ハリーには火花が見えた気がした(しかもハーマイオニーから一方的に)。

 

「でも、ウチこっちのほうがやりやすいんだよね。」

「あなたなんのために寮制度があると思ってるの?」

「さあ?教授がやりやすいからじゃないの?」

「その通りよ。あなた狡猾に生きるスリザリンで私たちは騎士道を重んじるグリフィンドール。タイプが違うわ。」

 

マギーはため息をつき、ベーコンを一握りつかんで、ハーマイオニーに少しぶつかってから席を離れた。エルファバはマギーに小さく手を振った。

 

「ハーマイオニー、どうしてマギーが嫌いなんだい?悪い子じゃないよ。」

「おいおい正気かよハリー。」

 

ロンはハリーの隣に滑り込み、スープをカップに注ぎ込む。

 

「スリザリンはグリフィンドールと"いい関係"だろ?」

 

ハリーとエルファバは顔を見合わせ、エルファバはトボトボハーマイオニーについていく。

 

「エルファバ、一回髪の毛セットして顔にクリーム塗るわよ。」

 

来た。

 

「私このままがいい。」

「だーめ。みっともないわ。」

「ハーマイオニーがつけるやつ痛い。ヒリヒリするんだもん。」

 

最近エルファバの肌には所々赤くなったりプツプツとしたものができたりするようになり、粉やクリームを塗るとそこが痛むのだ。

 

「じゃあ新しく買ったクリーム使いましょ。」

 

エルファバはうつむきながら、授業に間に合うかと心配していた。それよりも大事な心配があったというのに。

 

「ハー…マイ…オニー…?」

「はいはい、じっとしててね。」

 

グリフィンドール女子寮の一室、ハーマイオニーが持っている瓶はエルファバを震撼させた。

 

"ミセス・ナメクジのスーパー美容クリーム!"

 

瓶には濁った緑色の液体ナメクジらしき残骸がプカプカと浮いていた。

 

「お願いハーマイオニー。それだけはホントやめて。」

 

エルファバの懇願もむなしくハーマイオニーが呪文を唱えるとねっとりとしたクリームが一塊、瓶から出てきて宙を浮かぶ。

 

「これ肌荒れにも効くんだって。だから大丈夫よ。」

「そういうことじゃなくって…!」

 

ナメクジを顔に付けるのがいや、と言おうとしたがその言葉は息となって消えた。

 

塊が迫ってくる。エルファバはとりあえず部屋の扉へと一目散に逃げ出した。

 

「待ちなさいっ!!」

 

ハーマイオニーは杖を取り出し、エルファバの知らない呪文を唱えた。

バタン、とエルファバの目の前で扉が閉まる。

 

ガチャ、ガチャガチャガチャガチャ…。

 

開かない。

 

「ハーマイオニー、本当なんでもするからそれだけは勘弁してっ…。」

 

この涙で空のように青い目を潤ませ、上目遣いで見るエルファバを見れば恋愛感情のないハリーやロンですら一発でやめるはずだ。

 

パキパキ…。

 

「あなたのためよエルファバ。」

 

それを非情に言い放つハーマイオニーはまさに悪魔である。ナメクジの塊とハーマイオニー悪魔がエルファバを追い詰めた。

 

「ハーマイオニー、本当お願い、お願いだから、本当に、やめてやめていやああああああっ!!」

 

女子生徒の悲鳴がグリフィンドールに響き渡る。これが無口な生徒のエルファバ・スミスのものだと分かるものはいなかった。

 

 

ーーーーーー

 

30分後、マダム・ポンプリーは無言でいそいそと数種類の薬をエルファバの顔に塗りたくった。

 

「エルファバ…。」

「マジかよ。」

 

ハリーとロンは心底かわいそうだと思った。

 

エルファバの顔は大量の蜂に刺されたかのように2、3倍に赤く膨れ上がっていた。髪が白くなければ誰だか分からないレベルだ。まぶたもデロンと腫れた重みで垂れ下がり、トマトのように口の前でぶら下がった鼻と口がエルファバの言葉を解読不可能にしていた。

 

「エルファバ本当に、本当に、ごめんなさい…。」

 

ハーマイオニーはこんなはずじゃなかった、とポロポロと涙を流した。

 

「ふぁいふぉーふ、ふぁーふぁいほひー。」

 

ハーマイオニー曰く、エルファバに塗ったエキスは呪いニキビのための薬だったらしい。本来であれば数滴ニキビの広がった範囲に塗れば充分。つまり成分はかなり強烈で、それをなんの呪いもないツヤツヤの顔に被ったエルファバ(『エルファバに塗ったってハーマイオニー言ったじゃないか。』『ロンうるさいわねえええええええええ!!』『ハーマイオニー、ダメだ!ロンの顔までめちゃくちゃにしないで!』)の今の状態は当然といえば当然だった。

 

マダム・ポンプリーはテキパキとエルファバの顔に薬を塗りたくって、キビキビとエルファバに指示を出す。

 

「クリスマスあたりまではここにいるように。」

「ふぁい。」

「宿題は友達から受け取るように。クリスマスプレゼントは私がこっちにとどくように手配します。いいですね?」

「ふぁい。」

 

ハーマイオニーは控えめにエルファバにハグをした。

 

「ごめんなさい。もうおしろいも口紅もマスカラもチークもパックもクリームもやめるし、エルファバの私物にカラフルになる魔法をかけることやバック捨てるのもやめるわ…。本当にごめんなさい!」

「おったまげー、君どっからそのお金でてたの?」

 

ロンの発言はないものとされた。

 

「ふぁいふぉーふ、ふぁいふぉーふ、ふぁふぁふぁいでふぁーふぁいほひー。」

「あとあんまりしゃべらないように。」

「ふぁい。」

 

マダム・ポンプリーはエルファバのために特別な羽ペンを用意してくれた。思ったことをこの羽ペンが書いてくれるらしい。

 

"大丈夫よハーマイオニー。そんなに泣かないで。私は大丈夫。目が見えないししゃべれないし耳もイマイチ聞こえが悪いけど大丈夫よ。"

 

「「それダメじゃん。」」

 

ハーマイオニーはエルファバの文章を読んでまたワッと泣き出す。

 

「私あなたがカタツムリ嫌いだって知らなくて、私あなたがキレイになっていくのが嬉しくて、それに石になるのも怖かったし、穢れた血って言われるのも嫌だったし、私はあなたみたいにキレイじゃないからこんなの似合わないし、もう私バカだったわ!」

「「?」」

 

ロンとハリーはチンプンカンプンで顔を見合わせた。ハーマイオニーは一体何を言いたいのだろうか?

 

"ハーマイオニー、大変だったのね。私も気づいてあげられればよかったわ。あなたはたくさんストレスを抱えてて、私にいろいろオシャレとかさせることでストレス発散してたってことね?"

 

ハーマイオニーはずびっと鼻をすすって、うんうん、とうなづいた。男組はエルファバの理解力に感動した。

 

「私、あなたが嫌がってるって分からなかったの。もう、2度とやらない!本当ごめんなさい!」

「えっ普通気づかない?」

「シッ!」

 

ミスター・空気クラッシャーのロンの口をハリーは押さえつけた。

 

そんなこんなでエルファバの顔にはグルグルと包帯が巻き付けられ、真っ暗な中でしばらく生活するようになった。エルファバは石化したという噂が広がり、生徒たちが医務室を覗きに来る音がちょくちょく聞こえた。幸いマダム・ポンプリーがカーテンで仕切りを作ってくれたのでエルファバは安心して勉強に励んだ(エルファバの記憶力は教科書が見えなくても授業についていけるのでハーマイオニーに羨ましがられた)。それにハリーたちは当然のように毎日見舞いに来てくれたし代わる代わる生徒が来るので飽きはしなかった。

 

「大丈夫?」

 

"その声は、セドリック?"

 

「そうだよ。シュークリーム持ってきたけど食べれそうにないね。」

 

"そうなの。私今1つ目のゴツい巨人みたいで包帯を取るとき以外食事が許されてないの。でもありがとう。こんな顔になっても嫌いにならないでね。"

 

「嫌いになんてならないよ。じゃなきゃここに来ないし。筆談のほうがよくしゃべるね。」

 

"そう?意識してないけど。"

 

「うん、君は普段は必要最低限のことしか言わないからね。」

 

"そうなんだ。知らなかった。これからもっと喋れるように努力する。"

 

「いいんじゃないかな?それが君だから。」

 

フレッドとジョージはエルファバを散々ミイラミイラとからかってから話すカードを大量に放置して帰ったが、怒ったマダム・ポンプリーに全て回収されてしまった(チビファバ・スミスはミイラ〜ミイラ〜ミイラ〜♬)。パーバティは自分のルーツであるインドのいい匂いのする線香を、ラベンダーは触っていると気持ちのいいフワフワした布をくれた。あと送り主不明のお菓子が大量に置かれた。

 

「もしかしたらあなたがいない間に"あれ"決行するかもしれないんだけどいいかしら?」

 

"いいよ!ずっと持ってるわけにはいかないし。先にやって!"

 

「ありがとう。」

 

ハーマイオニーの発言の所々に罪悪感が見え隠れした。それをエルファバは頑張って慰め、宿題を手伝ってもらうことで元気を出させた。そして休暇に入り人の声が消え、エルファバの鼻と唇の腫れが引いて筆談ペンが必要ではなくなった頃、ジニーがやってきた。

 

「エルファバ。」

 

エルファバはジニーの声が聞こえると姿勢を正した。

 

「ジニー。」

「エルファバ、私、私ね、てっきりあなたが石になっちゃったのかと思って。フレッドとジョージがそう言ってたから。でもさっきロンが違うって教えてくれて…だからここにきたの。私、あなたが石になってなくて良かった。」

 

その声はエルファバが恐れるジニーではなかった。いつもの、11歳の可愛らしいジニーだ。

 

「エルファバ、あなた私を避けてた?」

「あなたが私のこと精神異常者だって…。」

 

ジニーは大声で叫んだ。

 

「言ってないわそんなことっ!!」

 

マダム・ポンプリーの咳払いがジニーの叫びの直後に響いた。

 

(やっぱり、覚えてないのね。きっと悪ジニーのせいだわ。)

 

「ええ、あなたは言ってないわ。」

「どういう「日記のせいであなたの中に悪ジニーが生まれたの。」」

 

エルファバは自らの推測を説明した。マルフォイが、誰かが日記でジニーの中に別の人格を作り出しそれがこれまでの事件を引き起こしていること、つまりリドルという人物は存在しないということだ。

 

「呪いだから体調も悪くなって、あなたの記憶もなくなって、悪ジニーが悪さしたのよそれ「つまり私が今までの事件の犯人ってことね?」…え?」

 

ジニーの声は震えていた。エルファバは真っ暗な世界の中でどうすればいいのかと手を伸ばす。

 

「ミセス・ノリスもコリンもジャスティンもニックも、みんな、みんな、私が…!!」

「違うわジニー、それは悪ジ「それって私じゃない!!!」」

 

バン!とジニーが机を叩き、バラバラとお菓子が床に落ちていく。

 

「こらっ!!大声出すんじゃありませんっ!!出てお行きっ!!」

 

ズルズルと何かが引きずられていく音がする。

 

「ジニーお願い!!」

 

エルファバはありったけの大声でジニーに叫んだ。

 

「日記を捨てて!!」

 

バタン、と扉が閉まるとともに医務室に静寂が訪れた。

 

(きっと、あのあともジニーはトムにそそのかされて、つま親マルフォイだけど日記を使い続けてたに違いないわ。ジニーがどこまで書いてたのか知らないけど、ジニーがきっと今までの犠牲者がマグル生まれだって何かしらの経緯で伝えた。それで怪物をその生徒に…。そもそも怪物って何かの比喩かしら?だって怪物って呼ばれるようなものがこの学校をウロウロしてたら気づくわよね普通。特にダンブルドア教授だったらわかるはず。ああ、頭が痛くなってきたわ。)

 

倒れると柔らかいシーツがエルファバを受け止めてくれた。

 

(ああ、そういえば明日ってクリスマスだったわね…。)

 

 

ーーーーーー 

 

「メリー・クリスマス、ミス・スミス。」

 

バラっと包帯が目から落ち、白い医務室の景色がエルファバの目に飛び込んできた。まだ目の上に異物感があるものの、大分改善されたようだ。

 

「今薬を持ってきます。それまでプレゼントをチェックしてなさい。」

「うわっ。」

 

飛び込んできたのは色とりどりにラッピングされたプレゼントの山、山、山。

 

(去年よりもちょっと増えてるわね。やった。)

 

エルファバは心の中で小さくガッツポーズをした。

 

ハーマイオニーからはずっと欲しかった東洋の魔法についての本、ハリーからは孔雀の模様の羽ペン、ロンからはお菓子セット、ハグリッドは糖蜜ヌガー、ミセス・ウィーズリーからはネイビーブルーのセーターと大きなプラムのケーキ、フレッドとジョージからはキャンディの山(絶対食べない)そして、

 

「………………エディ?」

 

赤い手袋の送り主はエディだった。

 

ーーーーーー

エルフィー

メリー・クリスマス!ダンブルドアさんがね、フクロウにくくつけたらプレゼント届けてくれるっておしえてくれたの!だから手ぶくろおくるね!

 

あなたの妹エディ

 

ーーーーー

 

(なんてこと教えるのよ!)

 

エルファバは頭を抱えた。

 

(だんだんエディが魔法界の知識を持ってくるのは困るわ。多分魔力はないからここに入学とかはないんだけど…エルフィーって書けるようになったのね。去年はアルフィーだったのに)

 

とても複雑な気分になった。

 

「エルファバ!メリークリスマス!」

 

ハーマイオニー、ロン、ハリーが医務室に走りこんできた。

 

「メリークリスマス。みんなプレゼントありがとう。」

「私こそ!素敵なカチューシャだったわ!」

 

ハーマイオニーは嬉しそうにエルファバに抱きつき、笑う。

 

(きっと私の顔が大分治ってきて嬉しいのね。)

 

「調子どう?実は今夜決行する予定なんだ。」

 

ハリーはチラッとマダム・ポンプリーの様子を伺ってからエルファバに小声で囁いた。

 

「多分まだだと思うわ。私が希望すればクリスマス・ディナーは行っていいらしいけど。」

「そっか。」

「誰が誰になるの?」

「ハリーとロンがクラップとゴイルで私がマックロードよ。」

「「「えっ?」」」

 

3人の声が珍しく揃った。ロンとハーマイオニーは初耳だったらしい。

 

「変身する人の一部を取ってくれば平気。」

「ハーマイオニー、スーパーで洗剤を買ってこいみたいなノリで言うのやめようよ。どうやって3人の一部を取るっていうんだい?」

「ハリー、すーぱーとせんざいってなん「眠り薬で眠らして隠すのよ。簡単でしょ?」」

 

ハーマイオニーはスラスラと言った。

 

「クラップとゴイルに眠り薬を飲ませるのは簡単だろうけどさ、マックロードに飲ませることって難しくないか?」

 

ロンは1番の問題を指摘した。

 

「それは心配ないわ。もうマックロードの毛は手に入ってるの。この前彼女がぶつかったときにあの子の長い黒髪がローブに乗っかったの。で、本物の彼女のことは人気のないところでエルファバに引き止めてもらうわ。」

「え。」

「まあこれ今思いついたことなんだけど。」

 

エルファバはいくらスリザリンの継承者を探すためとはいえ、マギーを巻き込むのは少し気の毒だと思った。

 

「マギーを騙すわけじゃないのよエルファバ。ただ普通に1時間くらい会話してくれればいいの。オッケー?」

「…分かった。」

 

ハーマイオニーは自信ありげに笑ったが、ハリー、ロン、エルファバは目で合図した。

 

絶対うまく行く気がしないと。

 

 

ーーーーーー

 

そんなこんなで大役を任されてしまったエルファバは顔にペタペタとガーゼを貼り、クリスマス・ディナーへと参加した。去年と同じくらい大広間は豪華絢爛だった。霜や雪の結晶をかたどったオーナメント、金や銀のヒイラギとヤドリギの小枝が天井と壁を埋め尽くし、その隙間から魔法の雪が降ったいた。

 

(やっぱり雪っていいなあ。)

 

エルファバはウットリとそれを見つめていた。

 

(ああ、いけないわ。マギーを探さなきゃ。)

 

ダンブルドアが揚々とクリスマス・キャロルを指揮している近くでマギーは1人でエッグタルトを頬張っていた。

 

「隣いいかしら?」

「あ?いいよ。」

 

ちょうどハリーとロンがハーマイオニーにディナーを中断させられて大広間から引きずり出されているところだった。今から1時間と30分といったところか。

 

「あいつらについていかなくていいの?」

 

マギーはハリーたちを顎で指す。

 

(いきなり核心を…!!)

 

エルファバは冷や汗をかく。

 

「いいの。みんなとは毎日話してるから。」

「ふーん。」

 

マギーは興味無さげにチキンの山盛りをエルファバに渡した。

 

「ありがとう。」

「あんたマジで貧相だから食いな。」

 

(それにしてもハーマイオニーは私になんて仕事を託したのかしら?私こういうの苦手だって分かってるでしょ!?)

 

「まっ、マギーはさ、どうして今年残ったの?」

「んー。母親が毎年主催するクリスマス・パーティに参加すんのが面倒だったから。」

 

会話終了。気まずい沈黙が流れた。

 

(うわっ、何話そう?どうしようどうしよう緊張しすぎて床凍っちゃういや凍っちゃダメなんだけどどうすればいいの誰でもいいから助けて本当にハーマイオニーはマギーになってるハリーはクラップかゴイルでロンもクラップかゴイルじゃない誰も私のこと助けてくれない本当誰か助けてうわうわバ「あんたさ、なんで母親のこと聞いたの?」)

 

「ふへえ?」

「ふへえ?じゃなくてさ、初対面で。」

「えっ、ああ。マチルダ・マックロードって私その…」

「何。」

 

一瞬、グリンダ・オルレアンのことを言おうか迷った。しかしマギーがマチルダの娘であるならグリンダのこともなにか知っているかもしれないと思ったのだ。

 

「マチルダ・マックロードっていう人がね…つまりあなたのお母さんだけど、私の本当のお母さんの知り合いかもしれないのよ。」

「へえ?名前は?」

「グリンダ・オルレアン。」

 

マギーの目は驚きで見開かれた。

 

「グリンダ・オルレアン?」

「ええ、知ってる?」

「ウチの母親とその友達がよく話してる。あいつが闇の魔女になることは予想できたって。」

 

クリスマス・キャロルは3曲目に入った。ハグリッドはそれに合わせて陽気に歌っている。エルファバにはそれが遠くで起こっていることのように思えた。

 

「ウチの母親の友達、嫌いなんだよね。」

 

マギーはオレンジジュースをぐびっと飲み干した。

 

「あんたもチキン食べな。」

「うん。」

 

エルファバはチキンを切り、あまり開かない口に強引に入れ込んだ。

 

「あいつら人の悪口で生きてるようなもんさ。自分の学生時代の元カレとか、嫌な教授とか、友達とかの話でいっつも盛り上がってんの。ウチの母親は本当はそういうの好きじゃないけど、嫌われたくないから黙ってる。ムカつくよね。だからウチはクリスマス・パーティ嫌いなんだよ。」

 

マギーは一呼吸置く。

 

「あんたは母親のこと探してるってこと?」

 

エルファバはうなづく。

 

「私の本当の母親については1年の時に知ったの。お父さんも隠してて。母親が闇の魔女なのを知ったのもつい最近。でも、」

 

エルファバはギュッとナイフとフォークを握りしめた。

 

「私は、そうは思わない。グリンダ・オルレアンは本当は愛情に溢れてて、友人を大切にする人だったと思うの。何かの間違いでああなってしまったんだわ。」

 

天候を変えてしまったあの事件は、私のように"力"を感情で暴走させてしまった。それを悔やんだグリンダは自らを凍らせた…。

 

「私がそう思いたいだけなんだけど。」

「まあ誰だって親はいい奴だって思いたいわな。」

「うん。」

 

エルファバは冷めたチキンを頬張る。

 

「でも、ゆーてグリンダ・オルレアンが起こした事件って山嵐のやつだけでしょ。聞いた話だと。」

「そうよ、どうしてあなたのお母さんのお友達はグリンダが闇の魔女になるって思ったのかしら。」

「あいつは気取ってたとか、男にチヤホヤされてたとか、クイーンて呼ばれてたとか、そんな感じだよ。」

「……………それだけ?」

「それだけ。くっだらないでしょ?」

「バカみたい。」

 

マギーはエルファバの一言にゲラゲラ笑って手を叩いた。

 

「来年のクリスマスウチん家来る?本人たちの口から聞いてごらんよ!マジだから。」

 

それに、とマギーは目をこすりながら口角をひくつかせた。

 

「あんたと一緒ならあいつらの会話も面白い物になるかもね。」

 

 

 

ーーーーーー

 

なんだかんだでエルファバは2時間近くマギーとしゃべってから医務室に戻った。医務室は真っ暗で、あの3人もいなかった。

 

(上手くいったかしら?どうだったのかしら?明日聞こう。)

 

しかしその次の日も、またその次の日も3人が医務室を訪れることはなかった。毎日見舞いに来てくれた3人がパタリと来なくなったのだ。医務室に缶詰めのエルファバにその理由を知る術はなかった。

 

「今日で退院してよろしい。」

 

休みの最終日、マダム・ポンプリーにそう言われた瞬間、エルファバは大量のクリスマスプレゼントとお見舞いの品を腕いっぱいに抱え、前が見えなくなりながらもできるだけ早くグリフィンドール塔へと向かった。

 

(グリフィンドール塔?)

 

違う。そんな気がした。エルファバは方向転換し、嘆きのマートルのいる女子トイレへと向かった。

 

ずいぶん前にポリジュース薬は使って、あそこにはもう用がないことは分かっていた。しかし、なぜかみんなそこにいる気がした。

 

そこに着くと案の定話し声がした。

 

「…ニー、落ち着いて。仮定の話だってハリーが言ってるだろ?」

「これが落ち着いてられるもんですか!!ハリー!!そんなこと言うなんて私許さない!!」

 

ハーマイオニーがものすごい剣幕だった。しかも相手はハリーということがエルファバにとっては意外だった。

 

「ハーマイオニー!!話を聞いてくれ!!感情的にならないでくれ!!」

 

そう言うハリーもエルファバが聞いたことのない声で怒っている。エルファバは自分が怒られてるようで身を縮めた。

 

「僕がそう考えるなら君だって考えたはずだ!!彼女の行動はおかしすぎる!!どうしてこの数ヶ月ベッタリくっついてたんだ!?」

「それはあの子が心配だったからよ!!別に疑ってたわけじゃない!!まさかあなたマルフォイの言うこと信じるんじゃないでしょうね!?」

 

2人の叫び声がぐわんぐわんトイレで響き渡った。

 

「信じたくない!!けどマルフォイは僕らじゃなくてクラップとゴイルに言ったんだ!!嘘つくわけないだろう!!」

 

一体なんの話をしているのかしら?

 

「エルファバがスリザリンの継承者なんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサドサドサっ。

 

 

 

 

 

エルファバは持ってるもの全てを床に落とした。

 

 

 

 

 

スリザリンの継承者は私の"力"を知った上で私に罪をなすりつけようとした。ジニーは私が物を凍らすことを知っていた。ジニーに別の人格を作らせ、"怪物"をマグル生まれを襲わせてた。

 

(ああ、私ってなんてバカだったのかしら。)

 

「エルファバ?」

 

驚いたようにロンがエルファバの前に立っていた。

 

「ちっ、違うんだよ。これは…。」

「エルファバ!」

「エルファバ…。」

 

ハリーとハーマイオニーがこっちに来た。

 

「エルファバ聞いて。」

「来ないで。」

 

エルファバの踏んでいる床から、少しずつ、少しずつ、薄い氷が女子トイレを侵食していく。刺々しいその氷は今にも3人を襲い、突き刺しそうだ。

 

3人と話がしたかった。しかし3人の安全が1番大事だった。

 

「私じゃないよみんな。私じゃない。」

 

エルファバの視界が歪んでいく。

3人の叫び声を背中で感じながら走り出した。

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