ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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2.生き残った男の子との出会い

「あなたも…」

 

マクゴナガル教授は長い沈黙の中でそう呟いた。

キラキラと舞っている雪を見つめる瞳は長年会っていない親友に再会したような目をしているのだが、エルファバはそれに気がつかなかった。無意識に出してしまった自分の力にただただ唖然としていた。

 

「ごっ…ごめんなさい!!!あ、えっと…」

 

チラリと教授はエルファバを見た。その瞳はキラリと光に反射してエルファバは思わず見とれてしまう。

 

(私が力を操れなくて哀れんでいるの?でも、他の魔法使いだって最初は操れないって言ってたし。)

 

「この子はホグワーツに行かなくてはなりません。」

 

エルファバから目をそらし、きっぱりとした主張で教授はアマンダに言った。

 

「この子自身に我々とは違う"別の力"があるのは分かりました。しかし、それとは別にこの子にはデニスと同じ魔力があるはずです。その証拠に彼女の名前は生まれた時から入学者リストに載っています。」

 

やっと整ったエルファバの頭の中がまた混乱しだした。

 

(別の力?つまり私みたいな力を持つ人は魔法学校でさえも少ないってことかな?話からしてお父さんが魔法使いなのはもう決定みたいだけど、私にはその力もあるって)

 

「でもそれは…」

 

こんどはアマンダが話を遮られる番だった。マクゴナガル教授は声を少し大きくして話を続ける。

 

「金銭面の心配はなさる必要はございません。実は先ほどデニスと会いましたが彼は自分の娘達のためにお金をしっかりためてました。少なくともホグワーツ卒業までしっかりお金を払えるそうです。」

 

教授は一呼吸おき、言葉を続ける。その声色は軽蔑がこもっていた。

 

「彼は自分の娘に入学許可書が届いてることすら全く知らなかったようですがね。」

 

アマンダは下唇を噛み、教授から目をそらした。

 

「いいでしょう。この子をその学校に行かせましょう。私は知りませんよ。」

 

エルファバは必死で無表情を貫いたが心の中はここ数年かんじなかった喜びで舞い上がってしまいそうだった。頑張って今にも上がってしまう口角を押さえつける。その間、教授は早足で去っていくアマンダを見つめてからエルファバに振り向いた。

 

「さて、あなたの入学が決まったとなれば教科書やら杖やらを買わなくてはなりません。2日後、ホグワーツの職員があなたを迎えに行くように手立てしましょう。」 

「はい。」

「…あまり嬉しそうではありませんね。見たところ、あなたは長い間どこにも出かけずずっとここにいたように思えますが。」

 

(もういいだろう。お母さんはいないのだから。)

今感じる全ての感情を自分の顔に注ぎ込んだが、長い間笑ってなかったから頬がひくひくした。

 

「ここ数年感じたことない気持ちでいっぱいですマクゴナガル教授。最近あんまり笑ってなかったからちゃんと教授に伝わってると嬉しいんですが。私、人生で一番楽しい顔してるんです。」

「そうですか。」

 

教授の頬が一瞬緩んだのをエルファバは見逃さなかった。すぐに真顔に戻り、部屋の出口に向かって歩き出す。が、出て行くギリギリになって何かを思い出したかのように立ち止まる。

 

「まだこれをいうのには早すぎますが、ミス・スミス、入学おめでとうございます。」

 

エルファバが返事を返す前にマクゴナガル教授はキビキビと歩いていった。

 

ーーーーー 

 

2日後、エルファバは頭を抱えていた。

 

こんなの聞いてない。

 

エルファバの頭痛の原因は目の前でニコニコしているもじゃもじゃヒゲの大男だ。エルファバは長年人と関わりを持たなかったために、父親よりも巨大な男に恐怖を抱いていた。

 

こんな人にヒョイって持ち上げられてポキって体持ち上げられたら一巻の終わりじゃない。食べられちゃうかも。

 

必死に逃げる方法を考えてるエルファバに大男は陽気にじゃべりかける。

 

「お前さんがエルファバか!いやー母ちゃんにそっくりだな!!」

 

大男の声は玄関の踊り場を通じてキッチンまで響いてるだろう。じゃなければ朝ごはんを食べていた好奇心旺盛な妹がダッシュでこっちに来るはずがないのだ。そしてそれを慌てて追いかける母親も。

エディはピカピカの廊下に足を取られながらも目をキラキラ輝かせ、男に叫んだ。

 

「おじさんなに!?」

 

エディはかなり失礼なことを聞いたはずなのだが、大男はニコニコしながら答えた。

 

「俺ぁ、ルビウス・ハグリッド。ホグワーツ城の鍵とその周辺の管理をしてるんだ。ハグリッドって呼んでくれ。」

 

「ほぐわーつ!!」

 

エディはそう叫んだ後、エルファバの腕に巻きついてきた。

 

「ねえ!!エルフィーはほぐわーつで魔女になるんでしょ!?いいなー!!すっごいうらやましい!!あたしもなれるかなー!?」

「うるさい。あっち行って。」

 

エルファバは出せる限りの冷たい声で鬱陶しそうにエディを引き剥がす。こうしないと母親がうるさいのだ。

 

「エディ!!こっちに来なさい!!」

 

哀れな妹は母親にズルズルと引きずられていく。

 

「エルフィー!おみやげよろしくね!」

 

エディは引きずられてないほうの手でエルファバに手を振った。

 

「誰があんたのために買うもんですか。」

 

とは言いつつ、エルファバは普通に見える魔法の何かを妹にあげようと思っていた。そもそもこれから行く世界がどんな場所なのかエルファバには見当もつかないが。

 

「はっはっはっ!!ずいぶん肝っ玉のある妹じゃねーかエルファバ!!」

 

反応できない。いやしないほうがいいのかもしれない。

 

(マクゴナガル教授は一体何を考えてるんだろう!?しかもなんで私の名前を…。生徒だから知ってて当たり前か。)

 

1人で悶々と考えるエルファバに気にも留めず、大男改めハグリッドはじゃあ行くか!と少し脇に逸れた。(ハグリッドのせいで玄関が完全に封鎖されていたのだ。)

 

「いってきます。」

 

(こんなこと言うのは何年ぶりだろうか。エルファバは何の反応もない家の中を見つめる。たくさん本を読んだけど、こういう時主人公の家族やら友達やらは"いってらっしゃい"と言うものだ。それがないってことは、私は自分の物語の主人公ですらないのかもしれない。)

 

ぼんやり考えて外に出ると、目の前には1人の男の子が立っていた。

 

「…!?」

 

エルファバはパニックになる自分を必死に抑えた。まさか外にハグリッド以外の知らない子がいるなんて思わなかったのだ。

 

(抑えて…抑えて…落ち着いて…。)

 

「おお!そういや、まだハリーを紹介してなかったな!いけねえいけねえ。エルファバ、こいつぁハリーだ。お前さんと同じく今年から入学だ。ハリー、こいつぁエルファバ。さっき言ったろ?」

 

(なんでこの人は私の知らないところで私の紹介をしているんだろう。)

 

エルファバの疑問はプワプワと頭に浮かび消えていった。

 

改めてエルファバは男の子を見る。

 

まず気になったのは、絶対彼のサイズに合ってないと思われるダボダボのTシャツとズボンに、セロテープだらけのメガネ。痩せている彼をさらにみずほらしく見せた。この子は自分の家で一体どんな扱いを受けているんだろうとエルファバは男の子を可哀想に思った。

その反面、エルファバは彼のメガネに隠れたアーモンド型の目の中で光るグリーンの瞳は好きだと思った。

 

この人なら信頼できる、なぜかそう直感した。

(彼は痩せてるけど、仮にこの大男に襲われても何か得策を思いついてくれるはずだ。しかし彼は男の子だ。)

 

男兄弟のいないエルファバから恐怖は拭えない。

 

「やっ、やあ。僕はハリー。よろしくね。」

 

ハリーはそう言って手を伸ばしてきた瞬間、エルファバは興奮した。

 

(これは!!!"握手"だ!!!握手だよね!?これは握手だよね!?人と初めて会った時、みんな握手をするものだ。信頼の証!!"私はあなたと仲良くしたいです"っていう意思の表れ!!私仲良くなりたいって思われてるんだ!!!)

 

「よろしく。」

 

エルファバもハリーの手を握り返す。特に何も考えてないフリをして。

 

ハリーがこの時親戚から酷い扱いを受けている自分より不健康に痩せて小さなエルファバを可哀想に思い、いじめられたら守ろうと思っていたことをエルファバは知らない。

 

そして、生涯の親友としてお互いを支え合うことになるなど2人はまだ知る由もなかったのだ。

 

 

ーーーーー

 

ハリーとエルファバは道中、いろんな話をした。

 

正式に言うとエルファバは必要最低限の応答しかしないので、ハリーは沈黙が耐えられず頑張って自分の話を一方的にした。自分の惨めな人生の話。従兄弟にいじめられたこと。しかし本当に腹が立った時や怖い時に不思議な事がよく起こったことや動物園でガラスが消えて大蛇が脱走した話。

そしてハリーに手紙が届いた時のダドリー一家の攻防戦やハグリッドが孤島へ向かいに来るまで。

 

「それでロンドンへ向かう途中にハグリッドがフクロウで手紙をもらったんだ。魔法の学校からもう1人生徒を迎えに行くように言われたって。それが君だったってわけ。」

「…ここまですっごい大変な道のりだったのね…お疲れ様…。」

 

話していくうちにこのエルファバという少女は、ハリーに興味がないのではなくただただ感情が顔に出ないだけであることに気づいた。

必要最低限の応答しかないが、その応答の中にはハリーへの思いやりを感じる。

 

「ううん、僕疲れを感じてない。すごく楽しみなんだ。だって魔法学校だよ?自分が魔法使いだっただなんて、それが誕生日に分かるなんて!こんなに幸せなことないよ。まだ何がなんだか分からないけど。」

 

ただでさえ、謎なことが起こる中でますます不思議なことが起こった。

ハグリッドが立ち寄った漏れ鍋というパブで、ハリーはその名を口にしただけで多くの人から賛美の言葉やら握手やらを受けたのだ。

 

「ハリー、有名人なのね...」

「うん。僕も知らなかったよ...」

 

どうやらハリーは魔法使いの中では英雄みたいだ。自分と同い年のハリーが一体何をしたのか気になったが本人は全く身に覚えがないという。

 

「本当に何も知らないんだよ。ほら、さっき話しただろう?」

「あの変わったことが大嫌いな親戚たちでしょ?」

「そう。そいつらのせいで僕の両親のことだって知らなくて...」

 

エルファバからしてハリーの親戚の話...特に手紙からの逃走記はかなり滑稽だった。

 

「それにしてもあの人...」

 

エルファバはぽそりとつぶやく。

少し離れた場所に座っていたターバンを巻いておどおどした男性を横目に見る。

 

(あの…確か、闇の魔術に対する防衛術っていう長い名前の授業の教授...クィレル教授?何に対して怯えてるのかしらあの人は。)

 

ハリーも同じことを思ったらしい。

 

「ねえハグリッド。彼っていつもああなの?」

「ああ、可哀想にな。学生時代は普通だったんだがな。」

 

(教授の学生時代知ってるってハグリッドいくつなの。)

 

疑問が口まで出かかってゴクリと飲み込む。女性に年齢を聞くのは失礼だっていくつかの本で言ってたのをエルファバは思い出した。

 

ハグリッドはもしかしたら女性かもしれない。

 

(魔法界なんてどんなところか分からないのに、ハグリッドが男性であるなんて確定できるのかしら。もし女性ならかなり失礼だわ。かと言って性別聞くのは失礼よね...話の流れからつかもう。)

 

何を根拠にエルファバがその結論に至ったかは不明である。

 

「黒い森でいろいろあったらしい。噂じゃ吸血鬼にあったとか、鬼婆に会ったとか...そういや俺の傘はどこだ?」

 

いろいろ考えを巡らせていたエルファバの耳にいくつかとんでもない言葉がねじ込まれた。

 

(吸血鬼?鬼婆?)

 

2つの理解不能な言葉が頭の中で泳ぐ。

エルファバはハリーをチラリと見るが、全くわけが分からないという顔をしていた。

 

そうこうしているうちにハグリッドは自分の傘を見つけ出し、レンガをコンコンと叩いた。

 

「3つ上に2つ行って...右と!ハリー、エルファバ下がっちょれ!」

 

するとハグリッドが傘で触れたレンガがカタカタと動き出し、クネクネとすき間を作り出して...

 

「ようこそ、ダイアゴン横丁へ。」

 

目の前に現れた、連なる店、店、店、そして喧騒。

こんな気配は先ほどまでなかった。

 

驚愕がハッキリ顔に出ているハリーに対し、ハグリッドはクククと笑う。

 

「どうしたお前さん、思いの外無表情だなあ。」

 

無表情なのではない。エルファバは驚きのあまり全ての体の動きが停止しているのだ。

 

「私...一生分の驚きを味わったわハグリッド...」

 

そりゃ、ホグワーツに行ってからにしろ!とハグリッドは満足気に笑い、レンガのアーチをくぐる。ハリーに続いてエルファバはまだ停止中の体に緊急命令を下し歩き始めた。

アーチは何事もなかったかのように壁に戻っていく。

 

ハリーとエルファバは頭を四方八方に回して少しでも見逃さないようにする。

 

「あれも買わなきゃなんねーが、ハリーには金が必要だ。」

 

ハグリッドはハリーが見ていた大鍋を指差しながら言った。

 

(そういえば私はお父さんからお金もらったけど、ハリーはもらってないんだよね。エルファバはハリーから電車に乗ってる時に色々と聞いた。)

 

"まとも"を求める親戚の話はユーモラスだったけどハリーからしたら笑い事じゃないわよね。何も罪もないのに小さい時からずっと家族から冷たくされるのは悲しいことだわ。私の場合は...私の場合は100%自分が、自分の力が悪いわけだし。

 

"許さない!!許さないんだからあっ!!"

 

アマンダの憎しみに満ちた顔を思い出す。

 

(そう、私は一生許されない。)

 

 

-----

 

エルファバはハリーとハグリッドを銀行前で待っていた。すでにお金を持っていて、これから取りに行く2人に関係のないエルファバは入ることが許されなかったのだ。

 

ゴブリンによって管理されているこの銀行はセキュリティが厳しいらしく、強盗なんかに入ろうものなら生きては帰ってこれないらしい。ヒマなエルファバは柱にもたれ掛かりながらぼんやりと扉を見つめていた。

 

(こんな警告作らなくても…。)

 

エルファバはドアに刻まれた盗人に対する警告を読みながら心の中でつぶやいた時だった。

 

ふと、誰かの視線を感じた。

 

目をやると2人のゴブリンがエルファバを指差しコソコソと話していた。

 

「?」

 

訳分からずエルファバは周囲を見渡すとそれをしているのはその2人だけではないことに気づく。銀行内の多くのゴブリンたちが扉の前にいるエルファバを横目にひそひそ話したり、長い指でエルファバを指差したりしている。

 

聞こえてくる言葉も英語ではない。

 

何を話しているのか分からない。

 

(どうして...?)

 

「な...に...」

(怖い、怖い。やめて...!!)

 

 

パキパキっ!!

 

「あっ...!!」

 

気がつけばエルファバは寄りかかっていた柱の一部を凍らせてしまっていた。

 

ゴブリンたちは一斉にエルファバを見る。金貨を測るのに集中していたゴブリン、何かを運んでいたゴブリン、全員が出口にいるエルファバを静かに見ていた。

 

「あ...の...」

「エルファバー!終わったぞー!」

 

ハグリッドの声が広い銀行のホールに響き渡った。

 

「う、うん。今行く...」

 

ゴブリンの視線を逃れるようにエルファバは出てきたハグリッドとハリーの間にサッと入る。

そしてハリーから銀行の内部についての話を興味深く聞くフリをした。

 

「でもさ、ここって本当不思議だよエルファバ。」

「そうねハリー...」

 

(凍らせてしまった柱どうしよう?)

エルファバはチラチラと巨大な銀行に目をやる。

 

「ああ!そうそう、さっきね、グリンゴッツから出てくるとき、君がキラキラ光って見えたんだ。」

「...え?」

「キレイだったよ。なんだろう...妖精の粉みたいな?でも近づいたらなくなっちゃったんだ。僕の見間違いかな?」

「...見間違いよきっと。」

 

そっか、とハリーは納得したみたいだった。

 

(妖精の粉なんてキレイなものじゃないのよハリー。)

 

エルファバはハリーの横顔を見ながら思う。

 

(あれは雪よ。全てを冷たく凍らせてしまうね。)

 

 

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