ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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10.最後の犠牲者

「何か君に考えはあるんだろう。」

「お前らの脳は本当物事を記憶するために作られてないな。言っただろう?」

 

クリスマス、スリザリン寮でクラップに変身したロンとゴイルに変身したハリーはマルフォイに確信に迫っていた。ちなみにマギーになったハーマイオニーはその3人から少し離れたところで様子を伺っていた。そのほうがマギーらしいからだ。

 

「スミスだよスミス。」

「「どの?」」

 

スミスというのは2年生だけでも2人はいる。ハッフルパフのザガリアス・スミスともう1人は当然、グリフィンドールのエルファバ・スミスだ。

 

「グリフィンドールのほうに決まってるだろ。あのウスノロな訳あるか。」

 

マギー(ハーマイオニー)の目が、ありえないと言わんばかりに見開いた。きっとこの2人も同じ顔をしていたに違いない。マルフォイは怪訝そうに眉を上げる。

 

「僕が夏明けに言ったことは当然覚えていないよな?父上は僕におっしゃったんだ。"あれ"は成長したら人を殺す力があるから気をつけるようにとね。」

「人を殺す力?!エル…スミスが?」

 

クラップ(ロン)は思わずエルファバと言いそうになるのを抑えた。

 

「今回の事件のことと同様に詳しくは教えて下さらない。あのユーレイは使い方次第によっては上手い方向に向かうが、敵にしたら…まずいって言い方をしてたな、うん。」

 

マルフォイは誰かの持ち物らしき何かをポンポンと投げながら答えた。

 

「だがあれが持つ"人を殺す力"というのが、人間を石にする能力だったら今回の話もうまくまとまる。だろ?」

 

どうだ!と自慢げなマルフォイの後ろでハーマイオニーが呆れていた。

 

「すごいな。」

「さすがだマルフォイ。」

 

ハリーとロンは棒読みでマルフォイを褒める。所詮マルフォイ。さすがマルフォイ。

 

「あんた一回頭クリスマス・ディナーのフルーツポンチの中に突っ込んで冷やしてきたら?まだ余ってると思うよ。」

 

ハーマイオニーがマギーらしく参戦してきた。マルフォイの顔がクソ爆弾でも投げつけられたかのように歪む。

 

「はあ?」

「第1にスミスの小ささじゃまず1番最初の犠牲者の猫がいた場所に届かない。第2にスミスはマグルのいる環境で育ってて父親もマグル。マグルを恨む理由がない。第3に彼女はグリフィンドール生。スリザリンの継承者にはなれない。」

 

この3つの理由にハリーとロンも大きくうなづいた。まさしく3人が思ってたことだ。

 

「黙れ、穢れた血め。お前の意見なんて誰も求めてないんだよ。」

 

ハリーはマルフォイの後ろで掴みかかりそうなロンを必死に押さえつけていた。まだ体格が一緒なのは助かった。もしもハリーがハリーのままだったら引きずられていたことだろう。

 

「ハーマイオニーじゃない、マギーだ。」

 

ハリーはできるだけ小声でロンの耳に囁く。

 

「お前みたいなのがスリザリンに入れた理由が理解できないね。」

「ウチもなんであんたみたいなのがシーカーやってんのか分かんない。」

 

(いいぞハーマイオニー!!)

 

ハリーとロンは心の中でガッツポーズを決めた。マルフォイは血色の悪い肌をピンクに染めた。

 

「いいこと教えてやるよ。50年前、秘密の部屋が1度開かれた時、穢れた血が1人死んだ。今回もスミスか怪物に殺されるならお前かグレンジャーならいいんだ。」

 

そう吐き捨てて、マルフォイは怒りで歪んでるハリーとロンの元へ戻ってきた。

 

「ああ、そうだ。いいもん見せてやるよ。」

 

その後のことをハリーはあまり覚えていない。その数分後にポリジュース薬の効き目が切れたため、慌てて戻ってきたのだ。

 

「でもエルファバがスリザリンの継承者だなんて馬鹿馬鹿しいにもほどがあるよなハリー?」

 

ロンは戻った体に合わないローブを脱ぎながら言った。

 

「…」

「ハリー?」

 

ハリーは答えられなかった。否定できなかったのだ。ハーマイオニーは個室から出てきて、これまで見たことのないくらい真剣な眼差しでハリーを見た。

 

「ハリー、今思ってることを言ってちょうだい。」

 

今日のことでマルフォイがエルファバを操っているという可能性が完全に消えた。そしてエルファバには"人を殺す力"があると言っていた。

 

(エルファバがスリザリンの継承者?)

 

自分の推測を2人に言ってしまえば4人の中に出来上がった何かが壊れてしまう気がした。1年と半分の中で、平凡な日常と、非凡な冒険の中で生まれたものが消える気がした。

 

「僕もエルファバがスリザリンの継承者だなんて馬鹿馬鹿しいと思うよ。」

「顔がそう言ってないわハリー。」

 

やはりハーマイオニーをこの状況で欺くのは無理があった。

 

「言えよハリー。」

 

ロンにも促される。スリザリンの継承者だと疑われた自分と普通に一緒にいてくれたエルファバ。自分を頼りにしてくれるエルファバ。兄弟のいないハリーにとってエルファバは妹みたいな存在だった。ハーマイオニーが姉で、ロンとは双子でエルファバが妹。

 

「僕は、エルファバがスリザリンの継承者だと思う。本人が意図してない中で。」

 

できるだけハリーは感情を入れずに答えた。エルファバが作り出す氷のこと、犠牲者たちの周りには必ず氷があったこと、エルファバの不審な行動。

 

「エルファバの能力と誰かを石にする能力が違うもので、スリザリンの怪物がエルファバを操っているなら説明がつかないかい?それに「じゃあ誰が秘密の部屋を開いたというの?」」

 

ハーマイオニーの言葉には冷たい響きがあった。

 

「ハリー、あなたの言うことは矛盾してるわ。もしもそうだとしたらエルファバは私たちに相談するはずでしょう?タップダンスのことがあってからエルファバ、結構話すようになったじゃない。」

「ああそうだハーマイオニー。でも3割くらいだよそれでも。」

 

ハリーは少しイライラした口調でしゃべった。

 

「それに魔力の暴走ってそんなに珍しいことじゃないわ。エルファバの過去も過去だから教授たちが把握しているのも当然よ。それに、」

 

ハーマイオニーは少しためらうように話す。ハリーがイライラしていることに気づいているのだ。

 

「魔力の暴走ってすっごく不安定で、自分でその力を出そうと思っても出せないものなのよ。」

「分かった、分かったよハーマイオニー!」

 

ハリーは中断した。これ以上話を続けてもきっとお互いのことを納得することはできないだろう。

 

「僕もエルファバがスリザリンの継承者だとは思わないよ。」

 

ずっとオロオロしていたロンが口を開いた。

 

「ただエルファバが今回のことの重要なことを知ってたと思うんだ。ほら、なんだっけ?ジニーの日記?」

 

ハーマイオニーが思い出したようにハッとする。

 

「そうだ!それがあったわ!明日エルファバのところに行って詳しく聞きましょう!」

 

そうハーマイオニーは意気込んでいた、というより早いところこの話し合いを終わらせようとしているようにハリーは見えた。

 

 

そのハリーの予想は当たっていたようで、次の日も、その次の日も、3人の中で、エルファバのお見舞いに行こうと言い出すものはいなかった。腫れ物に触るようにその話題はなんとなく避けられ、当たり障りのない会話で何日か済まされた。ジニーに誰かが日記について聞いたかも不明だった。だが休暇が終わりに近づくにつれてスネイプの課題よりも厄介な問題を解決しなくてなならなくなった。

 

ハリーはロンとハーマイオニーを女子トイレに呼び出した。さすがにこのままだとまずいと思ったからだ。

 

「2人とも、この問題を解決する必要がある。誰かジニーに日記のことを聞いたかい?」

「ジニーは日記なんて知らないって言ってたわ。」

 

即座にハーマイオニーが答えた。

 

「え、じゃあそれって…。」

 

ロンは言葉を最後まで完結させなかった。ハーマイオニーが睨みつけたからだ。

 

「ジニーかエルファバがウソをついてるんだ。」

 

ハリーはロンの言葉を引き取る。

 

「状況的に「エルファバが犯人ってこと?」…そうなるよハーマイオニー。」

「そんなのおかしいわ。」

「仮定の話だけど、エルファバが誰かに脅されてやらされてるんだと思うんだ。」

「じゃあなんでエルファバは私たちに相談しないの?」

「僕らが絡んでくるとなったらエルファバは言わないと思う。でももしもエルファバがこれまでの犠牲者に関与しているなら…」

 

ガタンっ!とハーマイオニーはバックを落とした。

 

「ハーマイオニー、落ち着いて。仮定の話だってハリーが言ってるだろう?」

「これが落ち着いてられるもんですか!!ハリー!!そんなこと言うなんて私許さない!!」

 

ハーマイオニーがものすごい剣幕でハリーに向かって怒った。

 

「ハーマイオニー!!話を聞いてくれ!!感情的にならないでくれ!!」

 

そう言うハリーもカッとなってハーマイオニーに食ってかかった。

 

「僕がそう考えるなら君だって考えたはずだ!!彼女の行動はおかしすぎる!!どうしてこの数ヶ月ベッタリくっついてたんだ!?」

「それはあの子が心配だったからよ!!別に疑ってたわけじゃない!!まさかあなたマルフォイの言うこと信じるんじゃないでしょうね!?」

 

叫びすぎてハリーはめまいがした。マートルが自分の不幸を嘆いて甲高い声で泣いているがそんなの気にならなかった。

 

「信じたくない!!けどマルフォイは僕らじゃなくてクラップとゴイルに言ったんだ!!嘘つくわけないだろう!!エルファバがスリザリンの継承者なんだ!!」

 

ドサドサっ。

 

何かが落下する音が入り口から聞こえてきた。3人は思わず口を塞いだ。誰かに聞かれてた。

 

ロンは2人に静かにするように指示し、足音を立てないように入り口に向かう。そして次にロンが声を発した時に出た名前は1番この話を聞いてほしくない人物だった。

 

「エルファバ?」

 

ハリーとハーマイオニーは急いで入り口に向かった。

 

「エルファバ!」

「エルファバ…。」

 

最悪のタイミングだった。

 

「来ないで。」

 

シュー…

 

エルファバのいた場所から少しずつ刺々しい氷がハリーたちの元に向かってくる。3人は後ずさりした。エルファバの作り出す氷は先端が鋭く、布だったら簡単に貫通してしまうだろう。エルファバの持っていた人形やカード、お菓子も今や氷の塊となっていた。

 

「私じゃないよみんな。私じゃない。」

「エルファバ待って!!行かないで!!」

 

3人は必死に後を追おうとするが、鋭く滑りやすい氷に足を取られた。

 

「エルファバ!」

 

やっと女子トイレを抜けたと思ってホッとしたハリーは外の光景にショックを受けた。

 

「う…わ…。」

 

廊下が一面氷だった。床はもちろん、壁や天井の細かい装飾まで氷に包まれていた。

 

「デフィーソロ」

 

ハーマイオニーは廊下に向け、呪文を唱えた。

 

何も起こらない。

 

「エルファバはね、毎晩悪夢にうなされてたの。」

 

ハーマイオニーは罪を告白するように小さく囁く。

 

「悪夢にうなされるたびにエルファバは部屋を凍らせてた。部屋が凍るたびにエルファバはこの呪文を唱えた。でもこれってエルファバじゃなきゃダメなのね。部屋だけじゃない。エルファバが1年の時からビックリしたり、怖いことがあったり、怒ったりするとどこかしらが凍ってた。」

 

ハーマイオニーは目からキラリと一粒涙を流した。

 

「私、ハリーが知るずっと前から知ってたの。でもエルファバが少しでもよくなるようにって思ってそのこと図書館で調べたらね、本に書いてあったの。制御不能な魔力は気が触れている典型的な証拠。そんな人は病院に入れられて、一生を終える。完治して治ることはほぼないから。」

 

ハリーはハーマイオニーがここまで感情的になった理由が今ようやく分かった。

 

「エルファバが犯人となったらエルファバはアズカバンに入れられる。そうじゃなくてもエルファバのことが知られれば一生マンゴ生活になるってこと?」

 

ロンの言葉にハーマイオニーは目をこすりながらうなづいた。ハリーはよく分からないといったふうにロンを見た。

 

「ああ、アズカバンは魔法使いの刑務所でマンゴは聖マンゴ病院のことでイギリス最大の魔法使い用の病院。」

 

廊下にはハーマイオニーのすすり泣く声が響き、ハリーとロンでハーマイオニーの背中を撫でた。ハリーは反省した。スリザリンの継承者がエルファバかもしれないということに考えが行き過ぎててその後のことやエルファバのことを全く考えてなかった。

 

「エルファバはスリザリンの継承者じゃない。でも重大な何かを知ってる。これで3人の意見は一致してるよね?」

 

ロンとハーマイオニーはうなづく。

 

「エルファバを探そう。」

「ハリー見て!」

 

ロンは廊下を指した。反対側からゆっくりゆっくりと光の反射を受けながら氷が溶け、その溶けた水がまるでそもそも存在していないかのように消えていった。

 

ハリーはその様子が美しいと思わず思ってしまった。

 

「あっちだ。行こう!」

 

ーーーーー

 

3人は広大な城の中を走り回った。ウィーズリー兄妹や残っている他寮の生徒、ゴーストや絵の中の人々にもお願いし、エルファバ捜索が行われた。

 

「これは一体なんの騒ぎです?」

 

事態が大きくなったころ、マクゴナガル教授は各空き教室をバタバタと開け閉めしているロンに尋ねた。

 

「エルファバを探してます。」

 

バタン、バタン、バタン、バタン。

 

「いないのですか?」

「いません。グリフィンドール寮も医務室も大広間もチェックしましたがいないんです。」

「そんな小さな棚と思いますがねミスター・ウィーズリー。」

「エルファバの小ささならありえるかなと。」

 

ロンは教科書をいれる棚を確認していた。

 

「ウィーズリー、スリザリン寮にはいなかった。」

「スリザリン寮?」

 

マクゴナガル教授はマギーの発言に驚愕した。

 

「ミス・スミスはグリフィンドールですよミス・マックロード!」

「探せって言われたんで。」

 

マギーはあっけらかんと答えた。

 

「ハッフルパフ寮にもいませんでした、ミスター・ウィーズリー。」

「太った修道士!?」

「レイブンクロー寮にもいませんでしたわ。」

「灰色のレディまで!?」

 

マクゴナガル教授はめまいがした。

 

「一体なぜ!?」

「レイブンクローにもハッフルパフにも残っている生徒があまりにも少なかったので2人に頼みました。」

 

若干ズレたロンの回答にマクゴナガル教授は壁に寄りかかる。

 

どうも複雑だった。普段あまり団結することのない他寮が1人の生徒を探すためだけに生物を超えて団結しているというこの状況を飲み込めなかったのだ。

 

「なぜそこまでしてミス・スミスを探してるのですか?」

「すっごく、すっごく、大事な用があって!!」

 

ロンは力説した。

 

「でも、そのちょっとした誤解から彼女がいなくなってしまったんです。ほらホグワーツって馬鹿でかいから探すのに時間がかかって。」

 

マクゴナガル教授はため息をついた。

 

「今こんな事件が起こってる中で、多くの人間やゴーストを動かすのはあまり懸命ではありません。できれば避けてほしいものです。」

 

ロンは納得してない、と言わんばかりに眉間にシワを寄せた。

 

「ミス・スミスを探すのはやめ『ミス・スミスを探している諸君、ご苦労じゃ。大広間に水とスナックが用意されとるから好きにとって行くがいい。』…ダンブルドア校長?」

 

魔法で大きくなったダンブルドアの声が城中に響き渡った。

 

『生徒を石にする者はこんな状況で事件を起こさんと思うぞミネルバ?』

「校長どこにいらっしゃるのですか!?」

『ミス・スミスは皆も知っての通り小柄じゃ。細かいところもしっかりと見ないと大変じゃ。しっかり探すのじゃぞ?』

「「「「「はああああああい!!」」」」」

 

ホグワーツ創設以来といっても過言ではない見事な返事が城の至る所から聞こえてきた。

 

「よしっ!校長の許可が出たところでいっちょ探すぜ!」

 

ロンは呆然と立ち尽くす教授を置いて生徒とゴーストを引き連れて行った。

 

 

ーーーーー 

 

 

4時間に及ぶ生徒、ゴースト、絵の人物、そして数名の教職陣(ダンブルドア校長の実況とロックハートの邪魔、そしてハグリットの校庭捜索)による思いの外大きくなったエルファバ大捜索だが、その結果は報われなかった。

 

「あいつ隠れんの上手いなあ。」

「あいつ、」

「本当」

「「チビだから。」」

 

エルファバ捜索に関わった者は大広間に集合していた。

 

「エルファバどこに隠れたのかしら?相当よ、ここまで探して見つからないなんて。」

『皆の者よ、時の流れは早いもので残念ながら生徒は就寝時間じゃ。ほれっ、戻るのじゃ。』

 

ハリー、ロン、ハーマイオニーはゴーストや絵の人物とは違い生身の体で1番動き回ったのでクタクタだった。

 

「さすがに戻ってくるんじゃない?」

 

ロンは楽観視していた。

 

「そうね…期待しましょ。エルファバのベットに探知呪文と夜鳴き呪文かけるわ。エルファバが横になった瞬間大きな音がするの。そしたらすぐ分かるわ。」

 

とりあえず3人はこの大捜索の本来の目的を忘れ、自分たちのフカフカのベットへと真っ直ぐに向かった。

 

 

 

ーーーーーー 

 

 

 

「うそ?!」

 

翌日、ハリー談話室でハーマイオニーの報告に驚愕した。続々と休暇を終えた生徒が寮に荷物を運んでいる時、フレッドとジョージは昨日の大捜索を面白おかしく生徒たちに聞かせていた。

 

「うそじゃないわ。1度もエルファバは戻ってこなかった。」

 

間違いないわ、とハーマイオニーはため息をつく。

 

「大捜索すぎて恥ずかしくなって出てこれなくなったとか?」

「まあありえなくはないけど、エルファバだったらみんなに迷惑かけてるって思って大捜索が始まったって分かった段階で出てくるんじゃないかしら?」

「ロンの言ってることもハーマイオニーの言ってることもありえるな。」

「人数増えたし、もっかいやる?」

「「勘弁してよ。」」

 

ハーマイオニーとハリーはハモった。

 

「あなた何気に楽しんでたでしょ。」

「ははっ、バレた?」

 

ロンは頭をかく。

 

「おかしな。」

「パース、どうした?」

 

パーシーが入り口付近でウロウロしている。

 

「帰ってきたグリフィンドール生の人数が半分くらい合わない。もうホグワーツ特急からはとっくに全員下車しているのに。まさか外で遊んでるわけじゃないだろうな。」

 

パーシーがもったいぶって、グリフィンドール寮から出て行った。

 

「なんか外騒がしくない?」

 

パーシーが出て行った際に聞こえた声は随分と騒がしいものだった。

 

「まさか、エルファバ?!」

 

ハーマイオニーの声に弾けるように3人は寮から飛び出していった。声のする方へ階段を駆け下りると、人だかりができていた。

 

「寒い。」

 

ハーマイオニーはつぶやく。

 

確かに寒かった。ここの廊下の一帯だけにまるで冷蔵庫のように気温が低い。どちらかといえば薬草学で使う温室に近いため、本来であればこの廊下は避寒地のはずだった。寒さとは別の悪寒が3人の背中を貫く。

 

「通して!!通して!!」

「お願い通して!!」

 

人を押しのけて3人はどんどん前へと突き進んでいった。

 

「ダメだ!!」

 

最後に目の前を妨害したのはハグリッドだった。おそらくハグリッドのいる先の角を曲がれば何が起こっているのか分かるだろう。その目は涙で濡れている。

 

「ハグリッド!!お願いだ!!通してくれ!!」

「頼むよ!!」

「いけねえ!!この道を通った生徒3人がすでに犠牲になっとる!!」

 

3人は訳が分からなかった。

 

「他の生徒もだ!!とっとと戻れ!!さもなくばお前さんら石になるぞ!!」

 

ハグリッドの掛け声で周辺の兵隊の石像たちが1人でに槍の模型で生徒たちをどんどん追い払い始めた。

 

「マクゴナガル教授の魔法だわ!」

「下がれ!!下がれ!!」

 

押し問答になりながら生徒たちは後ろに下がっていく。だがここで引き下がる3人ではなかった。上手く石像の兵隊を切り抜けて再びハグリッドの元へ向かった。

 

「ダメだと言っとるだろうがっ!!!」

 

3人は固まった。ここまで怒るハグリットはハグリッドがダンブルドアをダーズリーに侮辱されたのを見て以来だった。

 

「じゃあせめて何が起こってるかだけでも教えてくれ!」

「ダメだ!絶対に言うなとダンブルドア校長のお達しだ!連絡が来るはずだから大人しく寮で待てい!お前さんらの命に関わることなんだ!」

 

唾を飛ばして叫ぶハグリッドに3人は後ずさりした。

 

「ハグリッド!エルファバはどこ?」

 

エルファバ、という名前を聞いた瞬間ハグリッドの目から涙が滝のように溢れてきた。

 

「ハグリッド…エルファバは?」

「いばねえっ!!ダンブルドアごうぢょうがらいばれてるんだ!!」

 

分厚いコートで鼻水と涙を拭ったハグリッドはそういったまま、1人でしゃくりあげて何も答えなかった。

 

「行きましょう…。多分これ以上待っても何も起こらないと思うの。」

 

後ろ髪引かれる思いで3人は現場を後にした。

 

  

ーーーーー 

 

 

数時間後、生徒は監督生の指示のもと大広間に集められた。

クリスマス帰りの生徒たちはザワザワと自分の推測を話しながらダンブルドア校長が話すのを待つ。

 

「今朝起こったことを話そう。」

 

ダンブルドア校長は今までに聞いたことのないくらい重々しい口調で話始めた。大広間はシーン、と静まり返った。

 

「今朝、いわゆる"スリザリンの怪物"と呼ばれる生物が発見された。」

 

その一言で再び一気に生徒がざわついた。

 

「静かにっ!!」

 

マクゴナガル教授の一喝で再び静まりかえる。

 

「ありがとうミネルバ。正体はバジリスクと呼ばれる巨大な蛇じゃった。どこで生まれたかもホグワーツでどうやって育ったかもまるで検討がつかない。しかし、記録されてる限りではバジリスクと目が合うと死ぬと言われておる。」

 

下級生はちんぷんかんぷんといったように辺りをキョロキョロ見渡し、上級生は信じられないと言わんばかりに校長の話に食い入るように聞き入った。

 

「幸いなことに、これまではどの生徒も直接バジリスクの眼を見なかったために最悪の事態は逃れた。」

 

ハリーは思い出していた。コリンはカメラを、ジャスティンはニックを通して見たに違いない。ニックはもとから死んでいるので石になった。ミセス・ノリスはあの時床に凍りかけの水溜まりがあったのでそこでヘビを見たのだろう。

 

1つずつピースが繋がっていく。パーセルマウスだからこそハリーにのみあの不気味な声が聞こえたのだ。

 

「バジリスクが最後の生徒を襲っている時、ロックハート教授がその場面に出くわした。そ「そして私がバジリスクを複雑な冷凍呪文で凍らせましたっ!!」」

 

ロックハートは高らかにダンブルドア校長の前に立ち、ライラック色のローブを翻し、発言を奪っていった。

 

「あなた方を怪物の恐怖から救ったのです!」

 

これには多くの生徒が拍手をロックハートに送った。特に女子生徒はロックハートの勇姿を近くで見られたと大喜びして、ロックハートが嫌いな男子生徒ですら感心して拍手したりピーピー指を鳴らしたりしていた。

 

しかしロンとハリーは顔を見合わせた。

 

「「エルファバだ。」」

 

あのアホで無能なロックハートが、ピクシーすら追い払えなかったロックハートが、巨大な蛇など追い払えるのか?これが別の手段だったら信じられたが、凍らしたとなると話は別だ。

 

「ハリー、やばい。」

 

ロンの言われるがままに教授たちを見た。マクゴナガル、スプラウト、フィットウィック、マダム・フーチ、マダム・ポンプリー、ハグリッド。みんなゾッとするような目でロックハートを見ていた。スネイプに至ってはもはや杖を取り出している。あの視線を浴びてもなお平然と笑っていられるロックハートはある意味大蛇なんかよりも強いとハリーは思った。

 

「そうじゃ、じゃが数名の犠牲者も出た。」

 

ダンブルドア校長の言葉でさっきの騒がしさがウソのようにシンと大広間が静まりかえった。

 

「凍らせたために大蛇と目が合うとすぐに石になってしまうという状況が作り出されてしまった。ギルデロイよ、どいてくれぬかの?」

「はっ、はい。」

「ありがとう。それにより氷越しに目が合ってしまった4年のハッフルパフ生メアリー・マクガヴィン、同じく4年のレイブンクロー生アンドリュー・ブランディ、そして6年のスリザリン生のジャスティン・バークレーじゃ。」

 

これに今度はスリザリン生の動揺が広がった。スリザリン生なら絶対に襲われないという自信があったのだろう。

 

「当然だろ。怪物は凍ったわけだから裏を返せばその状況は無差別殺戮兵器みたいなもんさ。」

 

レイブンクローの男子生徒が隣で耳打ちしていたのがハリーの耳にも入ってきた。しかしそれどころではない。どうしてエルファバの名前が呼ばれないのか。

 

『いけねえ!!この道を通った生徒3人がすでに犠牲になっとる!!』

 

ハグリッドはそう言っていた。エルファバは犠牲になっていないということか?いや、

 

ハリーはその答えを知っていた。しかし、否定したかった。

 

(ウソだ、絶対ウソだ。

 

「そして…残念じゃが…ロックハート教授が怪物を発見した時、襲われていたのが…。」

 

(その名前を言わないでくれ!!)

 

そんなハリーの願いは虚しく崩れ去った。

 

「2年のグリフィンドール生、エルファバ・スミス。」

 

ハーマイオニーが椅子から崩れて落ちていくのが視界の端で見えた。ロンがハリーのローブを掴む。グリフィンドールの机から悲鳴や息を飲む音が聞こえた。

 

「彼女は、何も持っていなかった。」

 

ウソだ。

 

「ミス・スミスは直接バジリスクの目を「「ウソだっ!!!」」」

 

ハリーとロンが叫んだのは同時だった。

 

「ポッター、ウィーズリー落ち着きなさい。」

 

マクゴナガル教授の制止を振り切り、ハリーとロンは叫んだ。

 

「ウソです、絶対ウソです!確認してください!」

「そうです!エルファバだったらバジリスクを回避する術を知ってたはずだっ!昨日あんだけ探してもいなかったのに!それなのにどうして!」

「ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、落ち着くのじゃ。彼女が死んだとは決まっておらん。」

「へ…?」

「彼女の体は今、大蛇と共に分厚い氷の中じゃ。そのため彼女が石になっているのか否か、判断がつかんのじゃよ。」

 

ロンは思わず席に座り込んでしまった。ハリーは立ち尽くしたまま、じっとまるでダンブルドア校長が悪いとでも言わんばかりに睨みつけた。

 

「氷の中にいたのであれば氷を通して見たかもしれん。しかしロックハート教授の放った呪文が先か、怪物がミス・スミスを襲ったのが先か、判断がつかん。」

 

(氷なら魔法で大量に火を作れば簡単に溶けるはずだ。何を言っているのだろう?)

 

これがハリーの正直な感想だった。

 

「もう、怪物に襲われる心配はない。じゃがまだこの事件の全貌も明らかになっとらん。じゃから皆の者気をつけるように。監督生、生徒を寮へ連れて行くのじゃ。」

 

生徒たちの空気は怪物がいなくなったにも関わらず重々しいものだった。もしかしたらエルファバが死んでしまったかもしれない。その事実が1人1人の心を締め付けているのだ。

 

「ハーマイオニー…。」

 

床で静かに泣いているハーマイオニーにロンは話しかける。反応はない。

 

「ハーマイオニー。」

 

ロンとハリーは静かにハーマイオニーを抱きしめた。

 

「エルファバは大丈夫さ。あの子はいつも僕らに心配かけてるだろ?」

 

エルファバはよく1人で突っ走る。それは悪気は一切なく、長い間エルファバは1人ぼっちだったから人の頼り方が分からないのだ。人のことはしょっちゅう助けるくせに、自分のことはずいぶんと雑で気にしない。そんなところがエルファバの欠点であり長点だった。

 

「ハーマイオニー、でも、絶対最後にはいたずらしたのがばれた子犬みたいな顔で反省して戻ってくるよ。」

 

ハーマイオニーはロンとハリーの腕の中で小さくうなづく。

 

「氷溶けたら、また説教だな。まあ経緯次第だけど。」 

「お取込み中申し訳ないが。」

 

スネイプは獲物を捕まえるコウモリのように3人の後ろに立っていた。

 

「校長がお呼びだ。」

 

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