変な格好をした知らないおばさんが家に来た。ママはあたしをリビングから追い出そうとすると、おばさんはそれを止めた。
「あなたはエルファバ・スミスの妹ですね。ダンブルドア校長から聞いてます。あなたにも知ってほしい…お姉さんのことを。」
(あ、この人、エルフィーの学校の人だ。あたし見たことあるもん。)
「主人は家におりません。だから今あなたが私に何を説明しても私には理解できません。」
「いいえ、理解していただかなくても結構です。これだけ申し上げれば。」
おばさんの目はお母さんのことを嫌いだって言ってた。けれど、真っ直ぐに自信を持って、けど悲しげにこう言った。
「あなたのお姉さんが私たちを怪物から救いました。」
ーーーーーー
「君たちにミス・スミスの姿を見せたい。」
ハリー、ロン、ハーマイオニーはダンブルドアに連れられてあの廊下まで来ていた。やはりここは異常に温度が低い。
「ミス・グレンジャー、見るのが辛かったらすぐに言うのじゃぞ?」
「…はい。」
ハーマイオニーは囁くように答える。
「今バジリスクの目が見える部分は幕で覆っておる。じゃが見るときは充分注意するように。よいな?」
3人はうなづく。角を曲がると、ライム色の帽子を被った男性が待っていた。
「コーネリウス。」
「アルバス。今来たところだ。部下は外で待機させているが、これは…!」
「そうじゃ。エルファバ・スミスがつくりだした氷じゃ。手紙に書いた通り、グリンダ・スミスと同じ能力を持っておる。」
グリンダ?
ハリーはロンと顔を見合わせる。エルファバの母親も同じ能力を持っていたのか。
「ああ、だが想像以上だ。まさか、ここの水分全てを凍らすなんて…!!」
まるで、巨大なアイスキューブのようだった。その中に黒い影が2つ人形のように埋まっている。
「エルファバ…。」
3人のよく知るエルファバの後ろ姿だった。最後に3人が見たときと全く同じパジャマで、髪の毛が逆立ったまま凍っている。そしてその姿は怪物に毅然とした姿勢で立ち向かい、まるで何かを発するように両手のひらを大蛇の体に向けていた。
「コーネリウス。」
3人と共にまじまじと氷を眺めているコーネリウスという男性にダンブルドアは尋ねた。
「魔法省大臣として、これをどう思うか教えてほしい。この姿を見て、彼女がスリザリンの継承者だと思うじゃろうか?」
ロンは分かっていないハリーに口パクで答えた。
『彼は魔法省で1番偉い人。』
コーネリウスは、息を飲み目の前の景色に圧倒されながらも気を取り直す。
「とんでもない。誰がこの巨大な化け物に立ち向かっている12歳の少女を疑うか。彼女を疑っているものに私の見たものをそのまま伝えよう。彼女は英雄だと。」
ハーマイオニーは大分落ち着いたようだった。きっとエルファバに罪を着せられることを心配していたに違いない。
「エルファバは何か重要なことを知っていたのではないかと思います。」
ハリーは口を開いた。
「どうしてそう思うのじゃ?」
「…これまでの犠牲者には全て氷が絡んできています。」
「それは彼女のではない。最初の段階でエルファバ本人が証明してくれた。」
「ああ…。」
ハリーの体の力が抜けていく。エルファバはやはり無実だった。改めて理解した。エルファバを疑った過去の自分を殴り飛ばしたい気分だ。
「じゃが犯人が何かしらの方法でエルファバの"力"について知っていたのは事実じゃ。そして彼女は重要な何かを知っていたと考えるのが懸命じゃ。」
「どういうことですかなアルバス?」
「毎回のように犯人は犠牲者の一部を凍らせてた。しかしミス・スミスの作る恐ろしく複雑で洗練された魔法とは違い、簡単な冷却呪文によって作られたものじゃった。犯人はミス・スミスがただ情緒が不安定な少女という認識しかなかったに違いない。じゃが彼女が杖なしで魔法を使えるという情報が入ってきた。…つまり、本人から聞いたということではないようじゃ。」
「エルファバは極度に"力"が知られることを恐れていました。」
ハーマイオニーは少し震えた声で言った。
「だから、誰かが彼女の能力を見て言ったんだと思います。」
「見られた心あたりはあるかのミス・グレンジャー?」
ダンブルドアは優しくハーマイオニーに話しかける。ハーマイオニーはそれに答えるようにハッキリとした口調で答えた。
「私の知ってる限りだとルームメイトのラベンダーとパーバティですけど…でも彼女たちは気づいていないと思います。」
ふとハリーは初めてエルファバの能力を見たロックハートの授業を思い出す。ハリーいた場所からはエルファバが杖なしで魔法を使ったことはわかるだろう。しかし、角度を変えれば誰もがあの氷はエルファバの杖から放たれた魔法だと思うはずだ。
「ダンブルドア校長、ミセス・スミスを連れてきました。」
「おおご苦労じゃミネルバ。」
マクゴナガルに連れられてやってきた女性は(血が繋がっていないので当たり前ではあるものの)驚くほどエルファバに似ていなかった。
白髪交じりの黒髪が無造作に肩に乗っかっている。目つきが悪く常に人を睨みつけているようだ。このホグワーツでYシャツにジーンズという格好なので普通の格好のはずがずいぶんと違和感があった。
「あなたたちだあれ?」
「エディ指ささないのっ!」
ミセス・スミスの後ろにいたのはエルファバの妹だろう。母親によく似ているが目つきは悪くない。体の至る所に擦り傷があり、肌が全体的に日焼けして色黒かった。彼女もマグルのキャラクターがかいてある蛍光ピンクのTシャツにジーンズという格好だった。
「はじめまして、ミセス・スミス、ミス・スミス。ホグワーツの校長をしているアルバス・ダンブルドアじゃ。」
ダンブルドアが丁寧に腰を折るが、エルファバの母親は、ふてぶてしく軽く頭を下げる程度だった。
「エディ・スミスです。エルフィーの妹です。いつもお手紙返してくれてありがとう。」
対してエディはちょこちょことダンブルドアの前に来て、ペコッとお辞儀した。
「エルフィーは怪物たおしたんでしょ?エルフィーはどこ?」
そこにいるほぼ全員がこの無邪気な質問に答えられなかった。
「ミセス・スミス、そしてエディ。説明するよりもここに来て実際に見てもらったほうがいいと思い、ミネルバに呼んでもらった次第じゃ。」
ダンブルドアはエルファバの背中を指差し、静かに、しかしハッキリと2人に言った。
「エルファバじゃ。」
エルファバの母親もエディも訳が分からないといった風に眉をひそめた。
「おそらくエルファバから聞いておると思うがここ最近非魔法使い生まれ…わしらの世界ではマグルと呼ぶが、マグル生まれの生徒が石になるという事件が起こっていた。誰も解決ができなかった中、エルファバは自らの"力"を使い、怪物を氷の中に閉じ込めた…自らの体と共に。」
エディは氷の近くまでいってしげしげと1メートルほど先にいるエルファバを見ていた。
「その怪物の名はバジリスク。その怪物の目を見ると死ぬといわれておる。今までは幸運なことに誰も直接はその目を見なかった。しかし…。」
ダンブルドアはどんどん近づいていくエディの手をそっと握った。
「彼女は直接目を見た可能性がある。」
「じゃあエルファバは死んだっていうの?」
「…あくまで可能性の話じゃ。」
エルファバの母親はゆっくり氷の巨大な塊に近づき、それに触れた。
「エルファバ…。」
エルファバの母親の背中は震えていた。
エルファバの母親はエルファバのことを嫌いなのではなかったのか?
3人の頭の中に浮かんだ疑問は同じだった。エルファバの話では母親はエルファバの能力を嫌い、エルファバの存在を小さな部屋に押しやる最悪な母親だった。ところが今そこにいる彼女は普通の、死んでしまったかもしれない娘のことを案じる母親だった。
「エルフィーはしんじゃったの?」
手を握られたエディはダンブルドアを見上げる。
「誰にも分からん。君のお姉さんをこの氷から救い出さぬ限りな。」
「校長。」
フィットウィックがキーキー声で誰かを引き連れてやって来た。
「デニスを連れて来ました。」
ハリーはフィットウィックの連れてきた男性を見て、エルファバの父親だと思った。
エルファバの顔の造りは写真で見たグリンダ・オルレアンに似ているがエルファバの醸し出すあまり人を近づかせない感じの雰囲気は父親似だ。無精ひげを生やした黒髪の男性は身長が高く、やつれているように見える。しかしマグルのスーツを着た彼の青い瞳は鋭かった。
「ああ、デニス。」
「ダンブルドア。」
デニスと呼ばれたエルファバの父親は一瞬ハリーに目を止め、そして逸らした。軽くダンブルドアと握手を交わす。
「事情はフィリウスから聞いたじゃろう。」
「この子達は?」
エルファバの父親が3人を邪魔だと思っているのは明らかだった。無表情だがこの無表情のタイプはエルファバに似ている。1年半エルファバと一緒にいた3人は幸か不幸か彼が何を思っているのか分かってしまった。
「僕ら、ここにいます。」
ハリーはキッパリと言った。正直、初対面の大の大人の考えに反するのは少し恐怖だった。しかし今はそれよりもエルファバのことをもっと知りたかった。
「絶対動きません。」
ハーマイオニーも賛同した。エルファバの父親は少し考え込む。
「君らはエルファバの秘密を知ってるのか?」
「はい。でも私たち3人以外は誰も知りませんし、誰にも言うつもりはありません。」
ハリーが口を開く前にハーマイオニーが早口に答えた。
「いいだろう。」
「デニス、我々が聞きたいことは分かっていますよね?」
3人に許可が下りた時点でマクゴナガルは急かすように話した。
「ええ。どうやって彼女をこの氷から取り出すかですよね。」
エルファバの父親は淡々と語る。ハリーは驚いた。娘が死んでいるかもしれないという状況でなぜ彼はこれほどまでに落ち着いているのだろうか?死んでいないという確証でもあるのか。今世紀で最大の魔法使いだと言われている校長ですら死んだかもしれないと言っているのにも関わらずだ。それとも…実はエルファバを厄介払いできてホッとしているのか。
マクゴナガルも少し拍子抜けしたようで、短く息を漏らした。
「私とミネルバ、そして校長で試せる魔法は試しました。しかしこの氷は魔法が当たった瞬間に全てそれを凍らせてしまいます。」
フィットウィックは杖で氷を指しながら言う。
「熱で溶かすことも試しましたがびくともしませんでした。」
ハリーが氷を見ると、確かに平らな氷の表面にいくつかボコボコと盛り上がっている部分があった。
「この氷には一切魔法は効きません。魔法でつくられた火による熱も無効です。あの呪文は例外ですが。」
「じゃあ、やはりクィレルをここに連れて来て呪文を唱えるというのは?」
フィットウィックの提案にダンブルドアが首を振る。どうしてここであのクィレルの名前が出てくるのかハリーには理解ができなかった。
「あまり奴に杖を持たせるのは賢明ではないじゃろう。」
「はい。それにあの呪文は使いこなせないと全ての氷を溶かしてしまう。だからこの怪物も一緒に出てくるでしょう。」
「じゃが所詮は氷。そうじゃろう?」
「ええ。だから時間はマグルの方法でやれば溶けます。」
「つまりマッチやライターを使って火をおこし、その熱で溶かせばいいと?」
ロンは突然出てきたマグル用語にちんぷんかんぷんのようだった。ハリーはマクゴナガルがマグルの物の名称を知っているという事実に驚く。
「あと、エルファバのみを出すならチェーンソーやのこぎりを使って彼女の周辺の氷を削れば怪物を凍らせたままエルファバを溶かすことができるでしょう。あとはマグルの世界に存在する科学的な薬品を氷にかけて火をつけるぐらいでしょうか。あまり現実的な考えではありませんが、それぐらいしかアイデアはありません。」
マクゴナガルは納得したようにうなずき、杖を振って羊皮紙とペンを取り出し、メモを取った。
「お父さん。」
エディはダンブルドアの手を離れ、父親へと近づく。
「エルフィー、しんじゃったの?」
「まさか。エルファバが死ぬわけないだろう?」
その発言は自分の娘を慰めるためなのか、それとも本当にそう思ってるのか、どっちともとれた。
「…エルファバ…。お願い…死なないで…。」
か細い母親の声だった。懇願している声は痛々しい。
エルファバが母親のこんな姿を見たら、きっと少しエルファバは母親に実は愛されていたという自信を持つだろう。
ハーマイオニーもエルファバがいる氷へ一歩近づく。中のエルファバをじっと見つめ、頭を氷にくっつけた。ハリーとロンはそんなハーマイオニーの元へそっと近づくが…。
「…あなた、何言ってるの?」
ハーマイオニーの問いかけはエルファバの母親に向けられていた。それに反応する様に母親はハーマイオニーを向く。
「あなたの呟きが聞こえたわ。てっきりエルファバへ向けられてるのかと思ってたけど…『お願い、死なないで。じゃなきゃ私は一生嫌われたままだわ。』『あの人に殺される。早く起きて。』『あなたは死んでないはず。起きて証明して。』…あなた、さっきからエルファバの心配を全くしてない。事情は知らないけど、自分の保身ばかりだわ。」
ハーマイオニーは怒りでぶるっと震える。エルファバの母親は一瞬見開いたが、すぐに悲しそうな顔に戻る。
「…あなたがハーマイオニーね。エルファバが話していたわ。一緒に買い物に行ってくれてたって…ありがとう。彼女は喜んでいたわ。」
ハリーはこの光景をもう何百万回と見たことがある。自分の親戚のダーズリー一家で。ハリーから都合の悪いことを聞かれた時に関係ない話をして逸らす。ペチュニア叔母さんの常套手段だった。
ハリーは瞬時にハーマイオニーが言ったことが真実であり、図星を突かれたエルファバの母親は話を逸らしたのだと悟った。
「…あなたは、エルファバの母親なんかじゃない…。エルファバがなんと言ってもね。」
「ミス・グレンジャー。口を慎みなさい。」
マクゴナガル教授はハーマイオニーをたしなめるが、止まらない。
「エルファバはどうしてあんなに小さいの?どうしてエルファバは魔力をコントロールできないの?どうしてエルファバはあんなに私たちに能力を知られることを恐れていたの?きっと全部あなた…いえ、あなたたちのせいだわ…!エルファバは毎晩毎晩悪夢にうなされるけど、起きると忘れるの!きっともっともっとあなたは酷いことしてたのよエルファバに!!」
最後の言葉はほぼ叫びに近かった。ハーマイオニーは再び嗚咽して、氷の前に座り込んだ。ハリーとロンはハーマイオニーの背中をさする。
エルファバの母親は突然の出来事に数秒固まっていたが、ため息をつき、エディを連れて肩を鳴らしながら歩き出す。
「ママ…私エルフィーのそばに「帰るわよ。失礼しちゃうわ。」」
エルファバの父親は、軽くハーマイオニーに頭を下げてから2人を追いかけた。
ハリーは、あの家族の冷たさを感じた。あんなに冷めきった人たちの塊を家族と呼んでいいのか。ダーズリーたちですら他人に迷惑をかける形ではあるものの家族を思いやっている。エルファバはあの冷たい家族の中で蔑まれ、疎まれ、誰にも頼ることができなかったのだ。
あの家庭環境を理解していれば、エルファバがこの氷の中に閉じ込められるという事態を防げたのか。
ハリーは悶々と考えた。
ーーーーーー
エルファバが怪物を凍らせたという事実はいろんなところで影響をおよぼした。
まずハグリッドに着せられた罪が晴れた。
生徒たちほぼ全員がこのことを知らなかったが、ハグリッドは最初に秘密の部屋が開いた時の犯人でホグワーツを追放されていたということをハグリッドの口から直接聞いた。しかし今回バジリスクが出てきたことでハグリッドが飼っていた蜘蛛とは異なったため(ロンはそれを聞いて紅茶をむせていた)ハグリッドの名誉が回復したという。
「もう一度ホグワーツで勉強するかとダンブルドア校長先生はおっしゃったが、俺は門番がいいと断ったんだ。じゃが、嬉しかった。俺の罪は晴れたんだ。」
「良かったよ本当に。」
「俺はっ、エルファバに感謝せんとなあっ…。」
ハグリッドはハリーの肩まで覆えそうな大きなハンカチでぶおおっと鼻をかんだ。その鼻息がハリーたちに振る舞われたケーキ(よく分からない硬い物体入りの)を吹き飛ばした。
あと当然ながら怪物がいなくなったため石になった犠牲者はもう出てこない。ホグワーツに平和が戻った。しかしながら、どちらかというとマイナスなことが増えた気がするとハリーは思っていた。
ラベンダーはしょっちゅう突然泣き出して、よくいろんな生徒に慰められていた。
「わっ、私エルファバにペン借りてて…返せてなかったのよっ…!!それに…エルファバともっと…。話せばよかった…!!」
ハリーはチラリとラベンダーがハッフルパフのアンナにそう言っているのを休み時間に聞いた。一方パーバティはラベンダーのように公で泣くことはないもののエルファバのベットを見て毎晩泣いているという。
「よくエルファバが寝る前にパーバティの悩みを聞いてあげてたのよ。かなり信頼してたみたいで。」
ハリーはパーバティとラベンダーはエルファバと同室なのにエルファバがうなされてたのを知らないのを疑問に思った。
「申し訳無かったけど…エルファバがうなされてた時、エルファバに無声呪文をかけてたの。だからパーバティもラベンダーも気がつかなかったのよ。」
ハーマイオニーはロンとハリーにお昼の時間にこっそり教えてくれた。
エルファバと接点のあったセドリックもかなり落ち込んでいるらしいと風の噂で聞いた。優秀にも関わらずテストの成績もガタ落ちし、あまりの落ち込み様にからかえないとフレッドとジョージが嘆いていた。
そして闇の魔術に対する防衛術の授業はそんな落ち込む生徒の神経を逆なでした。
「私がミス・スミスの叫び声を聞いた時、華麗に杖を取り出し角を曲がった。そして大蛇に食べられそうになったミス・スミスに…ハリー、口を開けてっ!そうそう!私は『避けろっ!!』と言い、複雑な呪文を唱えた。そして大蛇は…。」
2年グリフィンドール生全員、驚くことにファンである女子生徒も、呪いをかけようと準備しているのにロックハートは気がつかなかった。他の授業ではエルファバに関わりのない生徒が多かったために俗物根性で興味深く見ている生徒も少なからずいた。ここ最近ずっとこの授業が"好評"だったので続けていた。噂ではこの授業を受けた真面目なハッフルパフ生徒の半分が無言退出をしたとか、キレた赤毛の双子がロックハートの顔にクソ爆弾を投げつけたとか言われているが犠牲者のいる学年寮でこれをやったのは何よりのロックハートの最大の失敗だっただろう。毎回ラベンダーやネビルが泣きながら教室を出て行くにも関わらず続行したロックハートに皆の怒りは頂点に達したところで、チャイムが鳴った。
「さあっ!今日の宿題は私の勇気に免じてなしだっ!いい放課後をねっ!明日の朝食をお楽しみにっ!」
とはいえどもロックハートの部屋の前には人だかりができている。今や"バジリスクを倒した英雄"は学校全体で見ればヒーローだった。だからロックハートは退出されようが妨害されようが授業を続行するのだ。
「さあさあっ!!サインを欲しい人はこっちにおいでっ!」
「あれはエルファバがやったんだ!!」
「ロン落ち着いて。」
ロンは思いっきり壁を蹴り上げ、指先を痛めた。
「エルファバが怪物に立ち向かったんだ!!あの無能じゃない!!エルファバがたった1人で怪物と戦ったんだ!!」
ロンは痛さにぴょんぴょん跳ねながら叫んだ。
「ええ、そうよロン。でも私たちしかエルファバの姿を見てないのよ。」
生徒の噂は見事ロックハートに汚染され、エルファバは恐怖に怯えた表情で床に倒れているということになっていた。
「コンチクショー!!」
「ロン!!」
ハリーはロンの気持ちが痛いほど分かった。ハリーがバジリスクの役を演じている時、何度あの憎たらしい顔にマンドレイクを投げつけるか膨らみ薬を顔にかけるイメージをしたことか。エルファバの姿を見ろと叫びたかった。100歩譲ってエルファバの姿を見ないでも、エルファバの生死に関わる状況の中で自分の英雄談をまるで劇のように授業でやるなんて最低だとハリーは思った。
あれからハリー達に情報は一切入ってこない。きっとエルファバの父親が言っていたマグルの方法でエルファバを取り出そうと試みているに違いない。時々あの廊下付近を通るが、がりがりと氷を削る音が響いている。そして封鎖された廊下の前には花やお菓子、そしてカードが大量に置かれている。ハリーたちはあえて花やカードは置いていない。それをすればまるでエルファバが死んだと言っているようなものだ。そんなことはしたくなかった。
「エルファバは絶対生きてる。生きてる。」
ハリーは自分に言い聞かせるように言った。
ーーーーーーー
「ハッピー・バレンタインっ!!」
ロックハートは人の神経を逆撫でる天才か何かなのか。
ゴテゴテの花が大広間の壁という壁を覆い、空から降ってくるハート形の紙吹雪がハリーの眼鏡の上に乗っかった。
「37人の女子生徒が私にバレンタインカードを送ってくれました!ありがとう!みなさん愛の日ですよ愛の日!スネイプ教授に愛の妙薬の作り方を教えてもらうもよしっ!フィットウィック教授に魅惑の呪文を教えてもらうもよしっ!この暗いホグワーツの雰囲気を愛の力でふっとばしましょう!」
ウザい。
「そして愛のキューピットたちがバレンタインカードを送ってくれますっ!」
ロックハートが手を叩くとゴツい無愛想な小人たちが12人ほど大広間に入ってきた。金色の翼とハープを付けられているが恐ろしいほど似合ってない。寝起きのエルファバの方がよっぽど可愛らしい。
「アーマイオニー・グレンジャー。あなたにです。」
張り付いたような笑みを浮かべる小人は体が薄汚れていて不潔なのは明らかだ。
「あ…どうも。」
ハーマイオニーが親指と人差し指の先で赤いカードを受け取ると、男子生徒がピーピー囃し立てた。
「誰だい?君にカード送る物好きなんて?」
ロンの爆弾発言にハリーは骨生え薬を一気飲みした気分になった。
「…」
しかしハーマイオニーは聞いてなかった。受け取ったカードを凝視して何も音が入ってきていないようだった。
「ハーマイオニー?」
「おーい、誰がくれたの?」
グイッ!
ハーマイオニーは2人がクリスマスの時にポリジュース薬を飲むのを嫌がった時に大広間から連れ出した時と同じ力で2人を引っ張った。
「いたいよハーマイオニー!」
「どうしたの?」
ハーマイオニーは無言でハリーの胸にカードを押し付けた。
「なに?僕らに読んでもらいたいほど嬉しかったの?」
ロンの冗談にキッとハーマイオニーは睨んで、顎でカードを読めと指示した。
ーーーーー
ハーマイオニーへ
ハッピー・バレンタイン。これをあなたが読んでいるということは、私は石になって医務室にいるのでしょう。迷惑かけてごめんなさい。あの時魔力を爆発させてごめんなさい。でも、私はスリザリンの継承者じゃないの。その証拠をつかもうとしたんだけど、あなたたちがこれを持っているということはそれに失敗したんだと思う。
私はこの事件に関わる重要な物をこの城に隠しました。ハリーが退院した時に言ってたアレです。本人は今手元になくて焦ってると思うけど、その子に渡さないでください。ソレは闇の魔術を間接的に人にかけることができて、持っていた彼女はそれによって悪い人格が生まれたのではないかと考えています。今はその子の手元から離れているけど、戻ったらきっとまた彼女の意図しないところでマグル生まれの子が襲われるでしょう。犯人はクリスマスを共に過ごした私たちの親愛なる人の父上だと思います。
このことを書いた手紙をマクゴナガル教授にも渡してあります。見つけたらすぐに教授に渡してください。
ソレは黒くて薄くT.M.RIDDLEと名前があります。
場所はマギーに聞いてください。
あなたたちの幸運を祈ってます。
E.S
ーーーーー
その綺麗な筆記体で書かれている手紙は数ヶ月しか経っていないにも関わらず懐かしかった。
「エルファバ…。」
エルファバは自分の身が危険であるということを覚悟の上でこの手紙を書き、多くの手紙が行き交うバレンタインという時期を選んだのだ。
一体何をエルファバは知っていたのだろうか。そして何を思ってエルファバはこれを書いたのだろうか。
「エルファバは怪物の正体がバジリスクだって予想してなかったに違いないわ。」
ハーマイオニーは目尻に光る涙を拭った。
「だってこの手紙だと100%石になっているという書き方をされているもの。だから逆を言えばエルファバは死にはしないって高を括って怪物に臨んだに違いないわ。」
「ジニーの日記がどうして…。」
ロンはショックを隠せない状態だった。
「マルフォイの父親がその日記を通じてジニーに呪いをかけたのね。」
「でもマルフォイは犯人じゃない。そうだろ?」
「マルフォイは父親は何も教えてくれないって言ってた。ありえなくはないと思う。」
ハーマイオニーは杖を取り出し、手紙を燃やした。
「証拠隠滅よ。」
唖然とするハリーとロンにハーマイオニーは答えた。
「私たちがエルファバの意思を受け取らなきゃ。そうでしょ?」