ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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13.秘密の部屋①

話はクリスマス後、休み明け1日前にさかのぼる。

 

エルファバは真っ暗な闇の中にいた。膝を抱え込みじっと何も言わず、物音を立てずに"その時"を待っていた。ちょくちょく人の出入りがあるが、それは少ししたらすぐに離れていく。

 

(人のスーツケースに入り込むの、生まれて初めて。ロンの服の匂いがする。私この匂い、好き。)

 

そう、エルファバは今スーツケースの中に身を隠しているのだ。ジニーから日記を奪うためだ。

 

エルファバはスリザリンの継承者だと疑われてる。このままだと大事な親友たちに疑われたままだ。疑いを晴らすためには証拠が必要。エルファバにはジニーがまだ日記を持っているという確証があったのだ。2年生のエルファバは人の物を奪うような魔法は知らないし、呪い関連は全般ダメ。エルファバは認めたくないが、力勝負なら男兄弟に囲まれて育ったジニーのほうが圧倒的に強いのだ。しかも、仮に奪えたとしても、悪ジニーが暴れかねない。結果思いついたのはジニーのスーツケースに身を隠し、ジニーが寝静まったところを見計らって日記をこっそり奪うということだ。これが作戦A。作戦Bの決行は日記を奪ってからだ。

 

(でも、この匂い嗅ぐと安心しちゃって…寝ちゃう…。)

 

エルファバは現在暗闇の中で夢と現実をさまよっている。うっつらうっつらと目をパチパチさせている。

 

(眠い…。ねむい…。…。)

 

『ミス・スミスを探している諸君、ご苦労じゃ。大広間に水とスナックが用意されとるから好きにとって行くがいい。』

 

ダンブルドア教授のアナウンスが城中に流れ出したのは、エルファバが睡魔に意識を支配された数分後の話だ。

 

ガタガタ、

 

「!?」

 

エルファバはビクッと起き上がり、思いっきり頭をスーツケースにぶつけた。

 

「いっ!」

 

地味に痛い。

 

(今何時かしら…?)

 

スーツケースに耳をぴったりつけると、外は無音だ。試しに出てもいいかもしれないと思い、そっとスーツケースを開けた。体はバッキバキだったのでエルファバは起きて軽くストレッチをする。

 

「んー。」

 

外はスーツケースと一緒で暗い、カーテンから漏れる月明かりで辛うじに部屋が見える…月明かり!エルファバはハッとあたりを見回す。自分が今しがたいたスーツケースの隣のベッドでジニーが寝息をスースー立てている。

 

隣には黒い日記がある。

 

MI6の工作員にでもなった気分でエルファバはそーっと日記に手を伸ばす。

 

(ジニー、起きちゃダメよ。起きないで…。)

 

掴んだ瞬間、さっ!!と奪った。

 

(寝てて!!)

 

「…んっ。」

 

ジニーはまだ眠りの中だ。ホッとしたエルファバは忍び足でジニーの部屋を抜け出した。

 

幸いにも誰も使っていない女子の部屋があったため、そこの電気をつけて新たなる作戦へと行動を移した。

 

まずはマクゴナガル教授とハーマイオニー、マギーへの手紙だ。ダンブルドア校長にしなかったのは、校長という役職的にエルファバの手紙がおざなりになる可能性が高いと判断したからだ。渡す日はバレンタイン。理由はよく分からないがこの日はかなりの手紙のやりとりがされる。去年のこの時期にエルファバの元にも大量の手紙が来たものだ。時期は遅くなるが、これから自分の作戦がうまくいけば問題ないはずだ。

 

そもそもこれは作戦C。Bが失敗した時に備えての前準備だ。Bは成功する確率のほうが高い。

 

(あなたたちの幸運を祈ってます。E.Sっと。)

 

「…ふうっ。」

 

エルファバはため息をつき、問題の日記を取り出した。ペンの先をインクに浸し、ツラツラと書き始めた。

 

"久しぶりね、トム。"

"やあエルファバ。君と話せて嬉しいよ。"

"よくもジニーを使ってマグルたちを石にしてくれたわね。"

 

早速本題に入る。リドルからの返答は少し時間がかかった。

 

"君はどうやら僕の想像以上に賢かったようだ。素晴らしいよ。まだ荒削りだが君の能力やその知性を磨けばさらなる魔法界の発展につながるだろう。"

"どうも。あなたはジニーに私のことを精神異常だって言ってたみたいだし、今回の事件の犯人を私にしようとしてたみたいだけど。"

"価値の分からない人間が知る必要はない。魔力の暴走は魔法界では狂気の象徴だ。しかし君の場合、それは可能性の証。君の能力が友人や家族に拒絶されてさぞかし辛かっただろう。荒い手段ではあるけど、他人に期待を持つとろくなことはないということを君に教えてあげたかったのさ。"

 

リドルは獲物を狩る蜘蛛のように優雅に巧妙に罠を仕掛けてくる。エルファバが回答に迷っているとリドルは畳み掛けるように言ってくる。

 

"きっと将来、誰も君のことを好きになんてならない。"

 

リドルの書いた文字が歪んできた。

 

"君の能力を知ったら皆が君を化け物扱いするだろう。"

 

ぽろっとエルファバの目から涙が落ち、リドルの日記の上に乗っかり、消えていく。ハリーが、ロンが、ハーマイオニーが、自分を軽蔑する姿がリアルに感じられた。

 

"愛されたいんだろう?"

 

あのミセス・ウィーズリーの全てを包み込むような優しさ、ミスター・ウィーズリーの守ってくれるような力。エルファバにはない。あの日から、ロンの家に行った日から思っていた。あの全てが自分ただ1人に向いていればいいのにと。

 

(愛されたい。)

 

そう強く願っていた。

 

友人関係は不安定だ。3人のことは信頼しているけども、ケンカをしたら一生元には戻れないのではないかという不安がある。大人がくれる優しさは海のように広く深い、安定したものがある。そんな愛が欲しかった。

 

"僕ならできる。僕は小さい時に魔力のせいで大人にも子供にもいじめられた。だから君の気持ちは理解できるよ。"

 

嗚咽するエルファバにリドルは優しく甘美な言葉でエルファバを誘ってくる。

 

"僕と一緒にこの残酷な世界を変えよう。"

 

その文字にエルファバは冷水をかけられたような気分になった。本来の目的を忘れてた。ずずっと鼻水を吸い、エルファバは震える手で文字を書いた。

 

"それは難しいと思う。"

"どうして?"

 

1度書いたらもう戻れない。エルファバは深呼吸をして再び書いた。

 

"だって私マグル生まれだもの。"

 

リドルは何も書いてこない。これが答えだろう。そう思いエルファバは日記を閉じた。

 

明日、スリザリンの怪物がエルファバを襲ってくる。リドルもといマルフォイはマグル嫌いなのだから。エルファバの能力なんかよりもマグル抹消の方が重要項目だろうとエルファバは分かっていた。当然のことながら、これは怪物をおびき寄せるためのウソだ。

 

(私の"力"が役に立つ時があるとしたらこの時だわ。)

 

バチンっ!!

 

「?」

 

エルファバの胸くらいの高さの不思議な生き物が音がした方に立っていた。

 

「エルファバ・スミス!」

 

茶色い顔、テニスボールくらいの大きな目、顔が割れて見えるほどに大きな口、コウモリのような長い耳、細く短い手足に長い指。

 

(屋敷しもべ妖精ね。)

 

突然のドビーの登場にもエルファバはずいぶんと冷静だった。

 

「あなたはホグワーツの屋敷しもべ妖精?あと、こんばんは。」

 

ハウス・エルフは首を振る。

 

「違います。ドビーはあるお屋敷に務めております。なぜあなたがそれを持っておいでですか?!」

「友達から借りたの。」

 

エルファバは天気を答えるように答えた。

 

「左様でございますか…。」

 

ドビーってどっかで聞いたことがあるわ…ああ。

 

「あなた、マルフォイの家の屋敷しもべ妖精でしょ?」

 

ドビーはひゃあっ!!と大きな声をあげて腰を抜かしてしまった。

 

「なっ、な、な、な、な、なぜっ!?」

「ハリーに警告してたから。」

 

それだけでなぜ、それに辿り着けたか。それがドビーには理解できなかった。しかし最近エルファバはよくしゃべるので忘れがちだが、彼女は必要最低限のこと以外口にしない。ハリーに警告してたから、の一言で理解できるドビーではないのだから。

 

「ばっ、ば、ば、ば、ば。」

「この日記は渡さないわよ。」

 

エルファバはドビーに杖を向けた。

 

「どっ、ドビーめは本日はご主人の命令では来ておりませんっ!!」

「あ、そう。」

 

エルファバはまだ杖を向けたままだ。ドビーはよろよろと立ち上がる。

 

「ドビーめは警告しに参りました。あなた様はハリー・ポッターのお友達にして超越した魔法の持ち主!!その日記は危険なのです!!」

「知ってる。」

 

エルファバはあっけらかんと答える。

 

「でも怪物がいなくなれば危険さは半減するでしょう?」

「えっ!?いなくなる!?」

 

(感情が忙しいわねこの子。)

 

エルファバは日記からある程度の距離を置きながら答えた。

 

「私が朝襲われるわ。どんな怪物なのか分からないけど…私の"力"なら捕まえられる。あ、そうだ。」

 

エルファバはドビーに近づき、両肩にそっと手を置いた。

 

「私はあなたの主人がこの事件を引き起こしたと思ってるの。別にイエスもノーも言わなくていいわ。目的はアーサー・ウィーズリーの社会的地位を落とすためでしょ?」

 

ドビーの慌てぶりが答えだった。

 

「もしも、日記がジニーの手元にないと気がつけばあなたの主人ジニーに返すように言うんじゃない?」

 

ドビーの目にはみるみると涙がたまってきた。

 

やりたくないことをやらされる辛さ。憧れの人を助けたい気持ちと主人の命令を聞かなくてはならないという間での苦悩。

 

ドビーは声を上げて泣いた。

 

「どっどっドビーめは!!ほっほっ本当はこんなことしたくないのでありますっ!!」

 

エルファバはドビーの背中に触れた。

 

「大丈夫。」

 

エルファバはドビーの背中を優しくさすりながらしゃべった。

 

「あなたの主人は日記を取り返し、本来の持ち主の元に返せと言うでしょう。でも私は怪物を倒したらすぐに日記をダンブルドア校長に渡すつもりだから。もしも仮に失敗してもあなたは素直に"本来の"持ち主に返せばいいの。」

 

ドビーはしゃくりあげながらエルファバの胸から顔を離す。エルファバはドビーの大きな目をしっかりと見た。

 

「"本来の持ち主"は私なの。石になった私のそばに置いて。そしたら持ち主に返したことになるでしょう?あなたは命令に背いてないし。」

 

きっとその日記に誰かが気づくはずだ。ドビーはその言葉の意味を理解したのか、涙と鼻水を飛ばしながらうなづく。

 

「ハリーたちが気付いてくれたら完璧なんだけど…。」

 

正直なところ、エルファバにはハリーたちが自分の友達でいてくれるか確証はなかった。頭ではハリーやロン、ハーマイオニーがそんな人間ではないことは理解している。自分の"力"を知っても前と変わらず仲良くしてくれるはずだ。しかし心の奥深くで、警鐘が鳴っている。

 

奴らは秘密を知ってしまった、逃げなければお前を殺しにくると。

 

自分の行動の矛盾さに呆れる。馬鹿馬鹿しい。そんなことする人たちではないしそもそも、そんな力ないはずだ。エルファバの目から一雫の涙が流れた。

 

「あーあ…。」

 

(私ってずっとこのままなのかな。自分の"力"に一生怯えて、手を差し伸べる友達たちに恐怖して。一生一生私は孤独に生きていくのかな。)

 

「ドビー…私行かなきゃ。」

 

エルファバはまた泣き出してしまったドビーにハグし、荷物を持って部屋を出た。

 

少し行けば、自分の部屋がある。パーバティとラベンダーは今休暇中でいないので、今あの部屋にいるのはハーマイオニーだけだ。

スヤスヤ寝ているハーマイオニーの寝顔を見ると、エルファバはホッとした。ハーマイオニーだったら夜通しで自分を待っていそうだったらからだ。

 

エルファバは自分のベットの下に日記を突っ込み、その隣にあるグリンダの物がある箱からチェーンにつながる指輪を取り出した。

 

ハグリッドのお守りとグリンダの指輪があればなんでもできる気がした。

 

エルファバは再び箱をしまい、知っている限りの保護呪文をかけ、ハーマイオニーのみ解除が可能にした。きっとハウス・エルフは強い魔力の持つ生き物だからドビーならこれを破れるだろう。

 

できればハーマイオニーが先に手に入れて欲しいけど、どっちみちちゃんとした人間の元に渡るはずだ。

 

エルファバはハーマイオニーに小さく手を振ってから部屋を後にした。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

エルファバが寮を出た時にはすでに少し空は明るくなっていた。ミセス・ノリスがいないのでフィルチが来れば気配で分かるはずだ。

 

(やっぱりゴーゴンの末裔がホグワーツに入り込んできたとしか思えないのよね。みんな石化のみで誰も死んでないし…。でもあれって神話だから、信憑性がないし。でもバジリスクやコカトリス・バジリスクとは雄雌関係にあると言われている伝説の生き物で息を吹きかけるだけで生き物を石に変える力がある)だとは思えないのよね。そんな化け物がいたら気づくでしょ普通。)

 

エルファバがそう考えながら、廊下を歩いていた時だった。

 

『またあの声だ!』

 

石化したミセス・ノリスを見つける直前にハリーが言っていた言葉だ。ハリー以外聞こえない声。ハリーは決闘の時に蛇と喋れてた。パーセルマウス…。

 

エルファバは気付いた。怪物の正体に。なぜ、どうして。その疑問を考えるには遅すぎた。

 

気配が迫ってくる。

 

床に巨体を引きずってくる音だ。ズルズルと迫ってくる音はエルファバを縮こまらせた。

 

(まずいわ。)

 

エルファバはハグリッドのペンダントとグリンダの指輪を握りしめた。

 

「きっと全て上手く行くわ。」

 

エルファバは小さく呟く。その言葉は誰が言ってた言葉なのかエルファバには分からない。バジリスク、蛇の王。目を見ただけでその生物は死ぬ。牙には猛毒が含まれており、非常に危険…。

 

(ああ、ダメだわ。パニックでどうでもいい情報しか頭に巡ってこない。)

 

シューシューと息を吐く音が廊下に妖しく響いた。ハリーが蛇語を使った時と同じ音だ。

 

(ハリーたち怒るだろうな…。普通に怪物凍らせて終わらせようと思ったんだけどな。まあある意味作戦は成功したわけで。)

 

太陽が差し込んできた。その光はエルファバに降る雪にキラキラと反射した。

 

エルファバはゆっくりと後ろに下がる。今まで自分の"力"を最大限に出したことはない。しかし今がその時だ。

 

怪物の影が伸びてきて、異臭が漂う。同時に氷が廊下一帯の壁を覆った。

 

(もっと、もっと、もっと、もっと!!)

 

エルファバは出せる限りの力を出した。空気の水分という水分が結晶になり、それが繋がっていく。

 

黄色い目玉を持つ巨大な蛇と対峙した時、体が硬くなる感覚と身を貫くような冷たさがエルファバを襲った。怪物も同じに違いない。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ…。

 

次にエルファバが意識を取り戻したとき、身体中に振動が伝わってきた。肌という肌が細い針で貫かれると感じるほど冷たい。特にまぶたはガッチリとテープでもされるかのように重い。

 

(氷の中かしら?氷の中ってこんなに冷たいのね。)

 

エルファバは急に体を倒されたのに気がついた。

 

(今日は何日なのかしら。寒い。痛い。絶対凍傷があるわ。自分が発生させた氷で自らを傷つけるなんて皮肉ね…それにしても普通氷の中にいたら人は死んじゃうらしいけど私は違う…多分生きているけどどうしてかしら。正式には氷ではなく氷に近い道の魔法だからかしら。)

 

「…ミス、ミス・スミス!」

 

どれくらいたっただろうか?急にまぶたが軽くなり、暖かい空気が顔全体を温めた。

 

「無事か。」

 

目を開けた先にいたのはスネイプだった。ご自慢の鉤鼻がくっつくほどにエルファバをまじまじと見ていた。

 

「…さ…う…ぃ。」

 

自分でも何を言ってるのか理解できないくらい細々とした声が唇の隙間からでる。

 

「今熱湯と水で徐々にお前の周りにある忌々しい氷を溶かしている。」

 

スネイプの説明は頭に入ってこなかった。スネイプは温めたタオルをエルファバの口から上にかけた。エルファバの神経が産声を上げ、一気に感覚を取り戻す。

 

「ったかぃ…。」

 

快楽を知ってしまうと自分の置かれている苦痛が余計辛く感じるものだ。ナイフで切り裂かれるような痛みは果てしなく続くように思えた。エルファバは愚痴をこぼさずにひたすら耐えた。かと思えば、その苦しみから解放されたのはあっという間だった。スネイプは私に大量のタオルをかけた。そのタオルはふんわりとして暖かい。

 

「飲め。」

 

スネイプに半強制的に飲まされたのはコンソメスープだった。体の内側が一気に蘇っていく。エルファバはスネイプに身を預け、外側も内側もあったかくなる感覚を味わった。

 

「ありが…。」

「何も喋るな。飲み干せ。」

 

(スネイプはハリーをいじめるのとえこひいきがなければいい教授なのに。)

 

ハッキリとしていく意識の中でエルファバはそう思った。

 

「私は教授としての責任を果たしただけでそれ以上もそれ以下もない。」

 

私が考えてること分かったのかなあ。

 

「教授たちを呼んでくる。せいぜい凍傷だらけの体をあたためてろ。」

 

(一言余計ね本当に。)

 

エルファバはスネイプの後ろすがたを睨みつけた。

 

バシッ!

 

「エルファバ・スミス!!」

 

直後に現れたのはドビーだった。前に会った時よりも嬉しそうでぴょんぴょん跳ねている。

 

「ご主人は命令しました!!ドビーめにこの日記を"本来の"持ち主に渡すようにと!!あなた様の言う通りでした!!」

 

生き生きと誇らしげにドビーは日記を見せた。正しいことをしている自分が嬉しくて嬉しくて仕方がないに違いない。

 

「やった。」

 

対してエルファバはまだ氷の中から生還して数分しか経ってない。そのためあまり力が出なかった。それに気がついたのか、ドビーは骨ばった手でエルファバの手に日記をつかませた。

 

「あなた様がハリー・ポッターにこれを渡せば、事件は解決ですっ!」

 

エルファバはそのドビーのキーキー声がかなり遠くに聞こえた。頭の中で謎の声が響く。

 

『やあエルファバ・スミス。この僕を出し抜いたなんて大したものだよ。君が穢れた血だという嘘に騙されてしまった。おかげで僕のペットは氷漬けだ。』

 

謎の声は笑った。しかしそれは怒鳴り声よりもエルファバの背筋をゾッとさせた。

 

『僕の忠実な下部が君の真実を教えてくれた。哀しい君の人生をね。実に興味深い。ただ邪魔者が多いな…。』

 

まるで夢の中のようにふわふわしている。エルファバの体は勝手に動く。

 

『これはすごい。古代魔術では杖を使わない技術があったというがまさか現代でできる人間がいるなんて。素晴らしい、見ろ!イギリスで最も優秀といわれるホグワーツの教授たちが太刀打ちできない!』

 

リドルは嬉しそうだ。誰かが私を呼んでる。遠く遠く、私の知らないところで…。

 

(違う、遠くなんかじゃない。すごくすごく近くだ。)

 

「!」

 

一瞬にして現実がエルファバの体に入り込んできた。ジメッとした温室からの空気、それと反対のひんやりとした空気、所々悲鳴を上げる体。

 

「ミス・スミス!返事をしなさい!」

 

マクゴナガル教授だ。隣には小さなフィットウィック教授もいる。その2人は私に杖を向けて、暴れる猛獣を見るような目でエルファバを見ていた。利き手が不自然に上がっている。

 

手のひらの上には大きな雪の結晶が浮かんでいた。

 

「…ごめんなさい…。」

 

またの意識が遠のいていく。

 

『なんて不安定なんだ…!!どうしてだ?僕は君の秘密を知ってるというのに。教授たちには早いとこ退散してもらおう。』

 

(やめて、そんなことしないで!)

 

エルファバは闇の中で必死にもがく。

 

『抵抗するな!さもなくば貴様の命を削るぞ!』

 

(私の命なんてどうでもいい。"力"を止めて!)

 

『エルファバ・スミス。僕は君の命を削りたくなんてないんだ。君は自分の能力を悪と決めつけ、本当の才能に気づいてないが、君の能力は世界を変える力がある。』

 

エルファバは自分を操る無数の手を必死に振り払う。

 

(やだ!やだ!やだ!私の"力"に才能なんてない!これは人を傷つける悪い魔法なの!お願い教授を傷つけないで!)

 

『その思想を植え付けた穢れた血も排除してやろう。君の存在価値を理解せずに殴り、罵倒し、屈服させようとした人間たちに価値などない。』

 

エルファバの頭を巨大な手が握りつぶすような感覚に襲われたエルファバは絶叫した。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「…んっ。」

 

エルファバは再び冷たい空気にさらされていた。

 

「やあ。」

 

エルファバは地べたで寝ていた。

 

「起きたかいお寝坊さん?」

 

ゆっくりと起き上がると頭がズキっと痛んだ。声のする方を見上げれば、スラッとした男子生徒がエルファバを見下ろしている。周囲は君の悪い蛇の彫刻が立ち並び、どこかで水がぴちゃぴちゃいっている。

 

「…リドル…?」

「そうだよ。こうやって顔を合わせて話すのは初めてだねエルファバ・スミス。」

 

緑色のネクタイをつけた黒髪の青年はクスクスと笑い、エルファバと同じ目線にかがんだ。

 

「あなたは…日記でしょ?」

「ああ、そうだ。日記だ。でもジニーのおチビさんと君が僕に秘密をバラしたことによって僕はここにいるんだ。」

 

リドルはエルファバ反応を見て面白そうにニヤリと笑った。

 

「どうだった?」

「?」

「僕のおかげで君は押さえつけられてた力を思う存分発揮できた。気持ち良かった?」

 

リドルは今度はエルファバの顎を掴み、エルファバが逃げられないようにする。

 

「何を…。」

「君は現実から逃げたいだけだ。その魔法使うことに常に罪悪感を感じる君は自分の能力を使うことを無意識に封じ込めてる。と、同時に君の能力は本能の中で自己防衛として発揮するようだ。その狭間で君は悩んでいる。」

 

可哀想に、とリドルは思ってもなさそうなことを口にする。

 

「君の能力は氷のような物体を発生させるだけではない…その形も操れるし、場所によっては雪雲も発生できる。氷だから自然に溶けるという問題もその場で天候を変えてしまえばいい。マグルの魔法の真似事(テクノロジー)が弱点みたいだがこの世界に住んでいる以上そんなの問題ではない。君は成長途中だから数年したらもっとすごいことができるかもしれない。どうだ?魅力的じゃないか?」

 

リドルは再びまるで愛しい恋人に触れるかのようにエルファバの頬を撫でた。

 

「才能を押さえつけるほど苦痛なことはない、無駄な努力だ。ナンセンスだよ。」

 

リドルの言う通りだった。バジリスクと対峙した時、エルファバは自分の持っている"力"を生まれて初めて最大限に発揮した。その時、1番記憶に残ったのは"力"を使った罪悪感でも、身を貫く激痛でもなく。

 

快楽だった。

 

身体中の毒素を全て解放したような解放感だった。

 

「僕はもうすぐ日記に閉じ込められた記憶という域を超え、人になる。その時は「エルファバ!!!」」

 

ハリーが息を切らしてこの不気味な場所へと入って来た。所々切り傷があり、ここまで来るのに相当苦労したことが伺える。

 

「ハリー?」

「ハリー・ポッター、君を待ってたよ。」

 

リドルはエルファバの"力"を見た時と同じくらい興奮していた。リドルの目が赤く光っている。

 

「「エルファバ!」」

「ロン?ハーマイオニー?」

 

2人とも切羽詰まったように走りこんできた。ハーマイオニーは髪を乱しており、ロンも壊れかけの杖を持ちながらハーマイオニーの盾になるように走っている。

 

「っちっ、邪魔者が…!!」

「あああああああああああ!!助けてえええええええええええ!!」

「…ロックハート?」

 

いつものハンサム顏は何処へやら。汗と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたロックハートが腰を抜かしてロンの足をつかもうとしながら入って来た。

 

「あああああああああああ殺されるうううううううううう!!」

「エルファバ!!目を閉じるんだ!!」

 

ハリーの一言で何が来るのかエルファバは一瞬で理解した。バジリスクだ。

 

「!?」

「君には君の仕事をしてもらう。」

『夢でも見てもらおうか。』

 

(まただわ。意識を乗っ取られていく…。ハリーたちを攻撃なんて…ない…。)

 

エルファバは深く闇に戻っていった。

 

 

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