ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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14.秘密の部屋②

「エルファバ!」

「ハリー?」

 

やっとたどり着いた。エルファバが部屋の少し先でしゃがみこんでいた。いつもよりも色白く唇は紫に変色している。

 

「ハリー・ポッター、君を待ってたよ。」

 

エルファバの隣には背の高いハンサムな男子生徒が興奮したように笑っていた。ハリーはその生徒に見覚えがない。なぜ自分のことを知っているのか理解できなかった。

 

「あああああああああああ殺されるうううううううううう!!」

 

ロックハートの絶叫でハリーは今自分はまさにバジリスクに追いかけられているところだということを思い出す。

 

「エルファバ!!目を閉じるんだ!!」

 

エルファバはその一言で理解したようで、ギュッと目を瞑る。

 

「安心しろ。僕からの指示がない限り襲わないさ。」

 

男子生徒は優雅に落ち着いた声で言う。

 

「君からの指示?君は一体…?」

「トム・リドル。」

 

ハーマイオニーは毅然として、リドルを睨みつけた。

エルファバはだらりと身体の力が抜け、立っているのも精一杯な様子だ。

 

「エルファバを操ってるのね。」

「話に聞いたとおりずいぶん賢いようだ。ハーマイオニー・グレンジャー。その通り、僕はトム・リドル。日記の中にいる記憶だ。」

「どうして私の名前を…?」

 

リドルは喉を鳴らして笑い、エルファバの頬を舐めるように手の甲で撫でる。エルファバの焦点は定まってない。

 

「このまた賢いお嬢さんが教えてくれたよ。君は学年で最も賢い生徒だと。最初の方はね、彼女も僕を信頼してくれてたんだよ。」

 

リドルがエルファバの頭を指でツンっと触るとエルファバはまるで強い力で押されたようにドサリと床に崩れた。

 

「エル…!!」

 

ロンがとっさに近づこうとすると、すぐ後ろでシューシューと威嚇するような声が聞こえた。

 

「まだだ。ウィーズリー、血を裏切る一族。君はあのジニーのチビのお兄さんかな?彼女にはずいぶんお世話になったよ。最初はこの眠り姫が僕の日記を使用してた。まあ2年生の割に賢かったからまあまあ暇つぶしになったものの、僕の思惑にはハマらなかった。それである時、別の人間が僕の日記に書き込みをしたんだ。退屈だったが僕の欲しいものをくれたよ。」

 

こうやって話している間、リドルはハリーを貪るように眺めていた。他の人間はまるで存在しないかのように。

 

「彼女の秘密だ。暗い彼女の秘密を知れば知るほど僕は強くなった。ジニーのおチビさんから離れると僕の力は弱くなる。それが気がかりだったが、僕は自分でいうのもどうかと思うけど、いつだって誰でも惹きつけられたんだ。おかげで彼女は僕に夢中になった。」

 

リドルは小ばかにしたように笑った。ロンの顔は怒りで歪み、ハーマイオニーがロンを必死に抑えている状態だった。

 

「君らはもう知っているだろう。この一連の事件は全部ジニーがやったことだ。本人は無自覚だったけどね。」

 

ハリーはイマイチ話がついていけなかった。記憶が自分で意思を持ち、今回の事件を引き起こしたというのか、それともマルフォイが作った魔法なのか。

 

「1年生のジニーが1人でやったことではないというのはすぐに分かる事実だ。だからそんなことをやりそうな人物をジニーから上手く聞き出して抜擢したんだ。それがエルファバ・スミスだった。」

 

エルファバはゆっくりと立ち上がり、右手をあげる。するとエルファバの右手から、白い霧が出た。その霧の中で雪の結晶がヒラヒラと飛んでいく。

 

「彼女の能力は単なる精神異常ではない。今世紀の魔法では実現不可能なほどに複雑で精巧、そして完璧な魔術だ。それに気づいたのはジニーからエルファバが日記を奪い、自らそのことを告白した時だ。僕はこの時ばかりは悔やんだよ。」

 

まるでリドルは美しい思い出を語るかのように口角を上げ、エルファバを見た。

 

「僕はもっとこの魔術について知りたいという感情が勝ってしまってね、いろいろ聞いてしまった。そのせいでエルファバに怪しまれる結果となったのは痛手だったよ。彼女は能力を持っているという秘密を僕に明かしたが、それはこのお嬢さんの中で微々たるものだったし。赤毛のチビと比べると操るほどの力を持ち合わせていなかった。」

 

ロックハートは後ろで控えているバジリスクに恐怖し、ヒーヒー言っていた。

 

「だが、ラッキーなことにエルファバはジニーに日記を返した。僕はジニーを上手く取り入り、ジニーを操ってエルファバを拒絶しエルファバの手に日記が渡らないようにした。そして僕はエルファバの力とみせかけて、簡単な冷却呪文を穢れた血の周りにつくった。どうだい?君らは彼女を疑ったはずだ。」

 

ハリーは怒りでめまいがした。目の前で声をあげて笑うリドルとリドルの思惑にまんまとはまり、エルファバを疑った自分を、友人を疑った自分が憎らしかった。

 

「ジニーをつかいエルファバを追い込んで行くのが僕の計画だった。上手くいったよ途中までは…。」

 

今度はリドルは憎々しげに虚ろに立つエルファバの髪の毛を強く掴んだ。

 

「やめて!!」

「それがどうだ?自分は穢れた血であるという嘘にまんまと僕は騙された!!迂闊だった。この僕が穢れた血の持つ力などに頼るなんて、ありえない。結びつきの強いジニーを使ってエルファバ・スミスをバジリスクに襲わせた…結果は君らがご存知の通りさ。僕の大事なペットは氷漬け、日記はジニーのチビの手元を離れたために結びつきがどんどん弱まっていった。」

 

リドルは強い力でエルファバの髪をグイグイと引っ張り、離した時にリドルの細長い指にシルクのように白い髪が何本も絡まっていた。衝撃で床に叩きつけられたエルファバにハーマイオニーが駆け寄る。エルファバの頭から血が出てくる。

 

「だがね、ハリー・ポッター。幸運は僕に微笑んだんだ。次に日記に書き込んだのは僕の未来の忠実なしもべだった。僕は彼にエルファバ・スミスの生い立ちをできるだけ詳しく教えるように命令したよ。どうやら僕のことを完全には理解してないようで苛立ったが、まあ彼女の中に入り込むには充分だった。こうして僕はエルファバ・スミスとジニー・ウィーズリー2人の魂を得ることに成功した。どちらの元へ行っても2人は僕の物だ。今の僕はジニーの魂8割、エルファバの魂が2割という感じかな。エルファバ・スミスは貴重な人材だから死んでほしくないしね。」

 

リドルがまるでおとぎ話のように語る物語は3人の背筋をゾッとさせた。2人の少女の魂をエネルギーを補給するガソリンのように扱っているのだから。

 

「じゃ…じゃあ…ジニーは…。」

「ああ、そろそろ死ぬだろうね。彼女は僕に秘密を語りすぎたし、エルファバの魂を使えば僕は日記なしでもジニーを操れる。」

 

あっけらかんと答えたリドルにロンは呆然と立ち尽くす。

 

「エルファバを手に入れた僕はもう一つやりたいことがあってね。君だよ。ハリー・ポッター。君に聞きたいことがある。なぜ大して力のない赤ん坊が今世紀最大の魔法使いを破った?ヴォルデモート卿は全てを壊されたのになぜ君はたった傷1つだけで逃れられたんだ?」

 

リドルは興奮気味にハリーの前髪を引っ張り、稲妻型の傷を見た。ハリーは痛みに呻き、リドルの手を払う。

 

「どうして僕にこだわるんだ?ヴォルデモートなんて君よりあとの人間だろう?」

 

リドルはその問いを待っていたようだ。興奮で美しい顔が歪む。

 

「ハリー・ポッター…違うさ。ヴォルデモート卿、彼は僕の過去であり、現在であり、そして未来だ。」

 

リドルは生気のない目で床を見るエルファバのパジャマのポケットから杖を抜き、空中に書いた。

 

TOM MARVOLO RIDDLE

 

杖を一振りする。

 

I AM LORD VOLDEMORT

 

「ヴォルデモート…。」

「そうだ。僕がヴォルデモートだ。僕が穢れた血のマグルの名前などずっと使用するわけがないだろう?サラザール・スリザリンという高潔な血が流れている僕が!!僕は来る未来に相応しい名前をつけた。僕が世界一の魔法使いになったその日に誰もが口にすることを恐れる名前を!!」

 

リドルの瞳は真っ赤に染まり、邪悪な笑みで4人を蔑んでいた。

 

パキパキパキパキ…

 

「ひゃっ!」

 

ハーマイオニーはとっさにエルファバから離れる。エルファバが横たわる床が謎の模様を描きながら凍っていく。

 

「魔法陣だ。」

 

リドルはハーマイオニーを押しのけ、貪るように床を眺めた。高学年の男性に押されたハーマイオニーは硬い床へ倒れ込んだ。

 

「ハーマイオニー!大丈夫?」

「っつう…。」

 

すかさずロンがハーマイオニーに駆け寄る。ハーマイオニーは自分の足首をさする。どうやら足をくじいたらしい。

 

「なんの魔法陣だ?複雑すぎて訳が分からない。」

 

そう言うリドルの口元は笑ってる。まるで難しい問題に挑む数学者のようだ。夢中になってエルファバの杖を振り、床に描かれた模様を空中で書き写し始める。

 

「…ダンブルドアなら分かるわ。」

 

ハハーマイオニーが呟いた言葉にリドルは動作をやめた。震える体をロンに支えてもらっているものの、ハーマイオニーの声はハッキリしたものだった。

 

「いまなんて言った?」

「ダンブルドアならこの複雑な魔法陣だって解けるわ。みんなが彼が世界で偉大な魔法使いだって言ってる。それが真実。未来のあなたはホグワーツに指一本触れられなかった。それが全て。あなたはダンブルドアには勝てない。」

 

リドルは醜悪な顔でハーマイオニーにどんどん近づいていく。

 

「はっ、ハーマイオニーに手を出すな!」

 

ロンが必死にテープでぐるぐる巻きにされている杖を向け、ハーマイオニーの盾になる。負傷したハーマイオニーに戦わせるのは難しいしロンの杖は使えない。ハリーは必死にターゲットを自分に変える方法を考えた。

 

「去年、本物の君を見たぞ!人の魂に取り付く醜い残骸だった!あれが、世界一の魔法使いだって?汚らわしい!!」

 

ハリーはチャンスだと思った。リドルは食いついた。

 

「リドル!!ハーマイオニー言う通りだ君はダンブルドアには勝てない!!」

「あいつは僕の記憶にしかすぎない存在にホグワーツを追い出された!!」

「なっ…!!」

 

一瞬ハリーはその言葉にたじろいだ。ロンもハーマイオニーも固まった。

 

ダンブルドアがホグワーツを追い出された?どういうことだ?確かにエルファバの暴走を止めようとした時、ダンブルドアの存在がなかった。マクゴナガル、スネイプ、フィットウィックの3人ですらエルファバの魔法を止められないのだ。何故ダンブルドアが出てこない?

 

リドル勝ち誇ったように笑う。綺麗な笑いのはずだが、その笑みは汚く見えた。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

「…んっ。」

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

あのあと、私は小さな部屋の中でうずくまって泣いていた。何時間も前にぶたれた頬が今だにジンジンと痛む。

 

『エルフィー。』

 

軽く扉をノックしてお父さんが入ってきた。

 

『おとう…さん。』

 

私は駆け寄り、温かいお父さんのお腹にしがみつく。

 

『お前に悪いことなんて何一つとしてない。あれは事故だ。』

『えぐっ…でっでも…おかーさん…。』

 

お父さんのYシャツは私と同じ柔軟剤の匂いがする。

 

『母さんは気が動転してしまったんだよ。誰にだってあることだ。エディだって興味本位でエルフィーを滑り台から落としたことあるじゃないか。』

『そう…なのかなあ。』

 

お母さんは私のこと娘だなんて思ってくれてない。それが辛かった。お父さんは私をそっと抱きしめ、頭を撫でた。

 

『あの時、エルフィーはエディを怒ったか?』

『ううん。だってエディちっちゃかったから。』

『ほら、そういうことさ。大丈夫だ、全て上手くいく。ほらっ、父さんにキレイな雪の結晶を見せてくれよ。』

 

私はそう言われて嬉しくなった。私は自分のこの魔法が大好きだし、エディにあんなことが起こってからはもう2度と使えないと思ってたからだ。

 

私は大きな雪の結晶を父親に見せる。

 

『エディにも見せてやれ。』

『うんっ。』

 

お父さんはワシャワシャと大きな手で頭を撫でた。私も思わず笑う。

 

『今日から叔父さんの家に行くんだろ?早く用意しなきゃ置いてかれるぞー。』

 

そうだった。今日から叔父さんの家に泊まりに行くんだった。4人の従兄弟たちに会いに行くの。叔父さんはすっごい力持ちで、筋肉があって、すごく…すごく…

 

痛くて、怖くて、暗くて、

 

『いやだ。』

 

不思議そうに見るお父さんに私は主張した。思い出してしまった。私がエディを凍らせてしまったあの日には続きがあったのだ。

 

『やだ。やだ。私、あそこに行ったら死んじゃう。私が私じゃなくなっちゃう。…"力"がコントロールできなくなる。お父さん…お父さん?』

 

目の前にいるのはお父さんじゃなかった。

 

『魔女!』

『何をしたの!?!?』

『気持ち悪い!!!』

 

叔父さんが、叔母さんが、知らない大人たちが私を取り囲んでいる。

 

 

 

ーーーーー

 

 

「いやああ!!いや!!いや!!来ないでええ!!やだ!!もうやめて!!」

「エルファバ!!落ち着いて!!エルファバ!!」

 

エルファバは四方八方に"力"を発射していた。何かに取り憑かれたように大声で叫びながら髪を振り乱し、ドーム状の部屋を銀色に染めていく。ハリーたちは散り散りになり、辛うじてそれを避けていた。

 

「おとうさああん!!おかあさあああん!!たすけてええええ!!」

「…くそっ。」

 

リドルの片腕が凍っている。避けそびれたようだ。

 

『…許さん…殺す…にんげんの女…』

 

その言葉にハリーとリドルのみが反応した。

 

「まずい、バジリスクが怒ってる!!!」

 

ハリーが2人に警告したのと同時にリドルはシューシューと蛇語で話した。

 

「ひいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

ロックハートは隅っこに丸まって震えている。

 

『やめろ!!僕の命令に従え!!』

 

リドルの命令が聞こえないようだ。蛇が濡れた地を這う音が近づいてくる。ターゲットはエルファバに違いない。前にもこのバジリスクはエルファバに凍らされたことがあるのだ。

 

「ハリー!!ロン!!ハーマイオニー!!」

 

エルファバは3人の名前を呼ぶ。

 

「エルファバ!僕らはここだよ!ここに!」

 

ハリーは叫んでも、エルファバには届かないようだ。

 

「そうだ…。僕らはすごい近くにいるよ。エルファバ。いつだって、君が隠し事をしてても、僕らは君と一緒にいる。ダンブルドアだって!!」

 

ハリーはリドルに向かって叫んだ。

 

「ダンブルドアだって!!たとえこのホグワーツにいなくても!!彼の心はホグワーツと一緒のはずだ!!」

 

1人だったら恐ろしかった。しかし、今はロンとハーマイオニーが一緒だ。そしてダンブルドアだってハリーの味方のはずだ。エルファバもいる。それがハリーを強くした。

 

その時だった。

 

どこからともなく、音楽が聞こえて来た。

ゾッとするほど妖しく、美しい旋律…どんどん大きくなって近づいてくる。

 

白鳥ほどの深紅の鳥が炎散らしながら、ハリーに向かって何かを投げた。ハリーはそれをキャッチし、まじまじと見つめる。

 

つぎはぎの黒い帽子…見覚えがある。

 

「…組分け帽子…?」

「ハリー!!バジリスクが!!」

 

帽子に気を取られている隙に蛇の胴体がハリーの体をかすめた。すぐ近くで暴走するエルファバに噛みつこうとした。

 

「やめろ!!」

「イモビラス 動くな!」

 

ハーマイオニーが唱えたのはエルファバがロックハートの授業で唱えてた呪文だ。バジリスクの動きが止まる。

 

「エルファバを!」

 

しかし誰もエルファバの元には辿りつけない。あの氷の魔法に当たればひとたまりもないのだ。リドルがいい例だ。しかし、こちらも時間がない。バジリスクの体が震えだす。

 

「一体どうすれば…!?」

 

一か八か。

 

「ハリー!」

 

ハリーはエルファバの魔法をブラッチャーを避けるように軽やかに避け、エルファバのもとへ駆け寄る。

 

『殺す…殺す…殺す…!!』

 

ハリーは全ての力を振り絞りエルファバを突き飛ばした。エルファバはバランスを崩し、自らの氷で体を滑らせ倒れ込む。

 

「ごめん、エルファバ!許して!」

 

ハリーは謝るがエルファバからの反応はない。ハリーは藁にも縋る思いでもらった帽子を被った。

 

「助けて…助けて…!お願い!僕らを…!」

『ぎゃあああああああっ!』

 

ハリーたちの真上で何かが破裂するような音とシャーッシャーッと声にならない叫びが部屋に響く。と、そんなハリーの頭上に鈍器のようなものが落っこちたのは同時だった。

 

「何が起こってるの!?」

 

ハーマイオニーが叫ぶ。

ハリーは気絶しそうになりながらも、状況を把握しようと上を向く。

 

フォークスは蛇の首を飛び回り、バジリスクは煩わしそうに毒牙を振り回す。

 

そしてー。

 

ズブっ。ボタボタボタっ。

 

黄色いバジリスクの眼球はフォークスによって潰された。と、同時にどす黒い液体が大量に床へ降り注いだ。

 

がしゃんっ!!

 

自暴自棄に、エルファバとハリーのいたまさにその場所にバジリスクは噛みついていた。氷の棘に噛みついたバジリスクは苦痛で呻いた。

 

ハリーは帽子に手を突っ込むと、美しい銀色の剣が出てきた。

 

「喰らえっ!!」

 

ハリーはその剣をバジリスクの目に突き刺した。

 

「ぎゃあああああああああああ!!!!」

 

どす黒い血が氷と混じり合う。ハリーは辛うじてバジリスクから避けていく。

 

「…ぅう…?」

 

遠くから小さな声が聞こえた。

 

「エルファバ!」

 

どうやら正気に戻ったらしい。エルファバは頭を抑えながら辺りをキョロキョロする。

 

「…?私…?」

「エルファバ!バジリスク凍らせて!」

 

ハリーはバジリスクの絶叫に負けないくらいに叫んだ。喉から血の味がする。

 

エルファバは周りを見渡して状況を理解した。すぐに近くにあるバジリスクの胴体に触れる。

 

バキバキバキバキ…

 

バジリスクの胴体が凍った地面と一体化した。しかし、暴れている頭部はまだ凍ってない。そうこうしているうちにバジリスクの体半分ほどで凍結が止まった。

 

「何してるんだ!!全部だよ全部!!」

「むっ、無理よ!!そんなことできない!!」

「エルファバ!!こんな化け物に躊躇する必要ないんだ!!」

「躊躇なんてしてないわ!!私の"力"には限界があるのよ!!」

「嘘つくなよ!!君ホグワーツの廊下全部凍らせてたんだぜ?!」

「…!?」

 

エルファバが嘘を言ってるようには見えなかった。しかし心当たりはあるようで、もう一度、バジリスクに向かって手をかざす。

 

「…!!出て!!凍って!!なんでこんな時だけ…?!」

 

もともとあった氷にどんどん厚みが足させるだけだった。

 

「きゃっ!?」

 

エルファバは後ずさりした。

 

「僕の邪魔をするな!!」

 

リドルが杖をエルファバに向けている。目にも止まらぬ速さで次々と魔法をエルファバに振りかざした。エルファバは自分とリドルの間に薄い氷を作り出し、呪文を全て無効化した。

 

「ダメよロン!!」

 

加勢しようとしたロンをハーマイオニーが制止した。

 

「彼は記憶とはいえ5年生よ!?私たちよりよっぽど呪文も知ってる!」

 「でもあのままにしたらエルファバが!!」

 「分かってる!!分かってる!!ロックハート教授!!」

 

ハーマイオニーは隅っこで泥だらけになりながら怯えているロックハートに声をかけた。

 

「お願いです!!エルファバを助けて!!」

「…いえっ!?え!?わっ私が!?そんな…!?」

「教授は英雄でしょ!?あなたなら5年生のリドルに勝てるでしょ!?」

 

ハーマイオニーの純真無垢な願いはもろく儚く崩れ去った。

 

「わっ、私は忘却術しか使えなああああああああああああああああああああああああい!!」

 

それだけ言えば賢いハーマイオニーには充分だった。裏切られた瞬間だった。ハーマイオニーはボロボロと泣き、絶望した。

 

ロックハートがペテン師だったことではなく、今の状況を打開する策がないという事実に。

 

「ああ…そんな…。」

「ハーマイオニー!!諦めちゃダメだ!!エルファバ!!」

 

ハリーは怒り狂って攻撃してくるバジリスクを避けながら叫んだ。杖を取り出し、もう片方のバジリスクの目玉に向かって呪文を唱えた。

 

「エクスペリアームズ 武器よ去れ!!」

 

紅色の光線が見事バジリスクの目に命中した。目玉がハリーの元へと飛んでくる。

 

「エルファバ!!尖ったやつ!!」

 

リドルの攻撃を避けながら、エルファバはバジリスクの胸に手を伸ばす。

 

エルファバの指の先から飛び出た銀色の光は空中でハリーが取り出した剣と同じ形を作り出し、バジリスクの心臓へと飛んでいった。

 

 

ドスっ

 

 

 

秘密の部屋に静寂が訪れた。

 

 

なんの音も立てず、蛇は息絶えた。巨体が氷を突き破り倒れる音が響き、数百年生きたこの部屋の主が息絶えたことは全員が分かることだった。

 

「…マジかよ…。」

 

ボソッと呟いたロンの言葉が全てを物語っていた。リドルは髪をかきむしり、エルファバに止めを刺そうと杖を上げた。

 

「エクスペリアームズ 武器よ去れ!!」

 

ハーマイオニーが足を引きずりながら、エルファバの元へと来た。リドルはハーマイオニーの呪文を難なく受け止め、反撃した。

 

「エクスペリアームズ 武器よ去れ!!」

 

やられそうになったハーマイオニーの前にハリーが立ち塞がる。しかしリドルの呪文の強さにハリーは体制を崩した。

 

「エクスペリアームズ 武器よ去れ!!」

「エクスペリアームズ 武器よ去れ!ペトリフィカス・トタルス 石になれ!」

 

2人の知っている呪文はあまりにも少なかった。

 

「2年ごときが!!!この僕に!!!勝てるとでも思ったかああああ!?!?」

 

2人は囮だった。

 

ロンがたった今死んだバジリスクの元へと走り込んでいた。

 

パキパキパキパキ…。

 

エルファバはリドルの足元の氷を分厚くし、足元を掬う。

 

ザクッ!!!

 

リドルの動きが止まった。

 

ロンがエルファバの溶けかけの剣でリドルの日記を突き刺していた。日記からインクが溢れている。

 

その瞬間、エルファバは鼓膜を壊すような悲鳴に思わず耳を塞いだ。ロンは顔をしかめながら何度も何度も持ち手を変えて日記を刺していく。

 

リドルは数分前の自らのペットのようにのたうち回り、消えた。

 

「…きえた。」

「うん。」

「終わったの?」

「多分。」

 

どっと疲労感が4人を襲い、クラクラと倒れこむ。

 

「…っ!っ!あーっははははははは!!」

 

高らかに笑ったのはロックハートだった。さっきの動揺っぷりが嘘のように高らかに笑ってるが、涙と鼻水は肌の上で輝いているし、ズボンは濡れてはいけないところが濡れている。漏らしたらしい。

 

「怪物はいなくなった!!私が倒した!!君たちを私が救った!!私は英雄だ!!」

 

エルファバは無意識にハリーの元へと寄る。ある意味リドルや怪物よりも意味不明で怖い光景である。ハリーもエルファバを自分の背中に隠し、剣を構える。

 

「頭おかしくなっちゃったのかな?」

「いや、もとからだよ。」

 

ロックハートは鮮やかな色のローブから杖を取り出す。

 

「こういうことだ!!君らはバジリスクという化け物を目撃し、哀れにも…正気を失った。あとを追いかけた私は4人を救い出し、怪物と例のあの人の記憶を倒し、英雄となる。こういうストーリーだ。お嫌いかな?ん?」

 

4人は顔を見合わせた。

 

「さあ、皆の者よ、記憶に別れを告げるがいい。オブリビエイト、忘れよ!!!」

 

真っ白な糸状の光が4人に向かって走ってくる。

 

バキバキバキ!!

 

 

「「「「…」」」」

 

 

4人の前に氷の壁が出現し、呪文はそこに当たると氷の粒となってしまった。

 

「この氷、どの呪文にも無効なのね。」

「あら、エルファバ知らなかったの?」

「うん。さっき知った。」

「この氷には一切魔法は効かないし、魔法でつくられた火による熱も無効なんだよ。」

「ロン、それエルファバのお父さんの言ってたことと丸かぶりよ。あ、エルファバ。氷溶かしてちょうだい。」

「うん。」

 

エルファバは落ちていた杖を拾い、つぶやく。

 

「デフィーソロ。」

 

ハリーたちを隔てた壁が、凍りついた床が、尖った氷が、どんどんなかったことになっていく。氷そしてそれが滑らかに消えていく様は、なんとも言えない美しさがある。

 

「すっごい。キレイだよ。」

「ありがと。」

「エクスペリアームズ 武器よ去れ!!」

 

ハーマイオニーがロックハートの杖を奪った。

 

「あっ…。」

 

4人はずんずんロックハートを角に追い込んだ。

 

「ハーイ、お漏らしさん。」

 

ハーマイオニー・スマイルである。怒り顔より怖いとエルファバの中で有名なアレである。

 

「エルファバ、このお漏らしさんの手を凍らしちゃって。」

「はーい。」

 

バキバキ!

 

「ひいっ!!」

 

警察に捕まった窃盗犯のようだとハリーは思った。

 

「なーんか、こいつのせいで僕らが秘密の部屋の怪物たちを倒したってことが台無しだな。」

 

ロンは日記をつまみ上げながらガッカリしたように言う。

 

「そうでもないわ。」

 

ハーマイオニーは満面の笑みでロックハートの頬に手を添える。

 

バッチーン!!

 

「いいね。悪くない。」

「おばかさん。」

「どうやって帰る?行きは楽だったけど。」

 

ここは地下であるのに加え、今はロックハートも含め全員負傷者だ。秘密の部屋の外はゴツゴツした岩がいっぱいで歩きづらい。

 

「歩いて帰るしかないかしら…これは置いていきましょう。」

「ハーマイオニー、それはまずいよ。」

 

エルファバはびりっと自分のパジャマの一部を破り、氷の棒を作りハーマイオニーの足を固定した。

 

「エルファバ、帰ったら説教よ。」

「……………………はい。」

「ハーマイオニー、今回はエルファバあんまり悪くないよ。むしろ悪いの僕らだし。」

「いーえ!私たちに心配かけたことに関してお説教させていただきます!!あと!あなたが自分の力を隠してたこともね!!」

「ハーマイオニー、1年の時から知ってるんだから何を今更…。」

「ロン!」

 

エルファバが助けを求める目をしてきたがハリーはどうしようもないと首を振る。

 

「みんな知ってたんだ…。」

「まあね。」

 

エルファバは立ち上がり、深々と頭を下げた。

 

「本当、本当にごめんなさい。私、ずっとずっと言いたかった。でもできなかったの。どうしてなのか理解できなかったけど、さっきやっと分かった。」

 

エルファバはゆっくり顔を上げる。その顔は決意に満ちていた。

 

「理由は帰ってから話す。…頑張るわ。」

 

3人は互いをみたあと、曰くありげに目配せするのをエルファバがおずおずと見守る。

 

入り口で待っているフォークスがどこか微笑んでいる気がした。

 

 

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