ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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アズカバンの囚人
1.妹への招待状


新学期前のエルファバは、去年そして学校入学前に比べてかなり活発になった。

去年はエルファバの人生において最も記憶に残る年だったと言っても過言ではないだろう。小さな日記帳へ自分の秘密を書き出したことから始まり、数千年ホグワーツの中で生き長らえた怪物との対峙。そして自らの秘密をついに親友たちへ明かした。

 

一番知って欲しい人たちへ秘密を開示し、心の荷はかなり軽くなった。

家族の目もそこまで気にしなくなった気がする。

 

朝6時ごろに起床し、読書。そのあとはシャワーを浴びて散歩。帰ってきたら学校の宿題を行い、夜はホグワーツの誰かしらと電話または文通を行なっていた。数年前のエルファバの行動範囲が自分の部屋とシャワー室だけであり、毎授業のたびにゼエゼエ言いながら教室移動をしていた時期を考えればとんでもない進歩だった。

 

さらに。父親の書斎から生みの親であるグリンダのものと思われる銀行の鍵を盗んだ。罪悪感はあったが、グリンダのものは自分のものだと言い聞かせた。少なくとも形見の日記にはそう書いてあった。そのため大体は手助けを借りずに生活してきた。

 

 

 

そして何より、今日はまた人生で初めての経験をしている。

 

「ずっとご飯食べてなかったのね。」

 

エルファバは自分の身体の2/3ほどの大きさの黒犬にドロドロした液体を飲ませた。思いの外、犬は弱ってたらしい。エルファバの膝の上に顔を乗せ、かなり時間をかけてドロドロしたものを飲み込んだ。

 

エルファバの部屋には今2匹動物がいる。1匹は熊のように大きな犬で、もう1匹は小さな黒猫だ。

 

今日の図書館の帰り道に、この2匹が弱々しくゴミ捨て場の近くで倒れ込んでいたのだ。特に犬はやせ細り怪我を負っていたので、エルファバのベットで治るまで休ませている。

最初はエルファバを警戒しっぱなしで何度も脱走しようとしたが、犬も体力が落ちているらしい。ついに諦めてエルファバの治療を素直に受けた。本の記憶を頼りに、見よう見まねで犬を治療したがなんとか効いたようだった。

 

「こんなに瘦せ細っちゃって。飼い主はいるのかしら。」

 

なんとか時間をかけて犬は食べ物を食べきった。エルファバは犬の体を動かそうとする。

 

「キャンっ!」

「あっ、ごめんなさい。怪我してるのね。」

 

どうやら犬は左の前足を怪我してたらしい。弱々しく泣いたと思ったらウーっと威嚇の声を出す。

 

「ちょっと触るね。」

「ギャアンっ!!」

「きゃあっ!」

「グルルルル!!」

「ごめんね。ちょっと冷やしたかったの。」

 

エルファバはベットから降り、黒犬の目線までしゃがんだ。

黒犬はかなり嫌そうにエルファバを睨みつける。命の恩人であるはずだが、エルファバは好かれていないらしい。

 

「触られたくないのね…ちょっと待ってね。」

 

エルファバはまるでパン生地をこねて形を作るように手を動かした。するとキラキラした白い粉がエルファバの手の中で現れる。そしてそれはエルファバの手から離れて、犬の前足まで飛んでいった。

 

「キャンっ!」

 

その粉は犬の前足の周りでずっとクルクル舞っている。黒犬は静かになった。

 

「冷やしたほうがいいと思うわ」

 

エルファバは犬の頭を撫でた。一方黒犬と一緒にいた黒猫は黒犬とはずいぶん対照的だった。エルファバの膝に体が全て乗るほど小柄だが健康体そのものである。治療は不要だと思うがエルファバに随分懐いたらしく、先ほどからエルファバの体に何度も体を擦り付けている。

 

(この子、可愛い。ホグワーツには猫を持ち込んでいいし、せっかくだし飼おうかな。エサ代もそこまでかからないはず。グリンゴッツにある貯金から買えるわ。)

 

「ゴロゴロゴロゴロ…。」

「いい子いい子。」

 

耳の後ろをかいてやればこの通りである。

エルファバは名前を考えた。

 

「あなたの名前もつけなきゃね…ビアード(ヒゲ)でいい?」

「ミャっ!」

 

猫の言葉は分からないが明らかに猫は嫌がっている。ゴロゴロ言っていたにも関わらずエルファバを睨みつけている。

 

「じゃあタイニー(小さい)?」

 

自分がチビと呼ばれて嫌がっているのに動物にはチビと名付けようとするエルファバである。悪気はない。

 

「ミャっ!」

「じゃあロビンは?バットマンの仲間なんだけど…。」

「ニャー。」

 

やっとまともな名前が出てきたと黒猫は安堵したようだった。

またゴロゴロ言い始める。

 

「ロビン、あなたはホグワーツに連れて行けるんだけど…あなたは難しそうね。」

 

黒犬はエルファバをじっと見つめる。

 

「けどどうにかするわ…あなたの名前はレインね。雨の中にいたから。」

 

それから数日、この2匹と一緒に日々を過ごした。ロビンはエルファバにデレデレになり、レインはロビンほどではないもののエルファバに懐いたようで、家から出る気配はなかった。

エルファバの心は癒された。活動的になったとは言え、家での生活は肩身が狭い。

 

この前、こんなことを育ての母親が言ってるのを聞いてしまった。

 

『エルファバは反抗期なのよ。大人に抗う自分がカッコいいと思う時期。きっとあのおバカな3人に変なことを吹き込まれたに違いないわね。』

 

妹のエディに言ってた言葉である。

 

「…私これがカッコいいだなんて思ってないわ。」

 

エルファバはため息をつく。黒犬はリラックスしたようだった。

 

「あなたにも名前を…」

 

カタカタ、

 

窓を叩く音が聞こえた。

 

「ヘドウィグ。」

 

エルファバの親友のハリーの美しいフクロウだ。窓を開けてやるとエルファバの机に止まり、足をこちらに突き出してした。

 

「暑いのにお疲れ様。」

 

エルファバは手の上で氷をつくり、ヘドウィグにあげると、ホーとひと鳴きしてから氷に擦り寄っていった。手作り冷蔵庫(氷でできている)からミネラルウォーターを取り出し、小さな皿に入れてからハリーからの手紙を読んだ。

 

「ハリーって言う親友からの手紙なの。優しくて頭も良くて、才能に溢れている…けどすごく謙虚な人なの。」

 

エルファバは、ロビンと黒犬に話しかけた。

 

ーーーーー

エルファバ

誕生日プレゼントありがとう!君のくれた本、すっごく読みやすくて面白かった!あの続き持ってたら貸してほしいよ。ホグワーツにあるかな?

ーーーーー

 

(良かった。)

 

ハリーの誕生日プレゼントに箒磨きセットをあげようとしたのだが絶対に被ると確信していたので伝説のシーカーの伝記とスニッチのフィギュアをあげたのだ。案の定ハーマイオニーが箒磨きセットを送っていた。エルファバは続きを読む。

 

ーーーーー

君が鍵を盗んだって聞いて驚いたけど、その調子だよ。もっと自分の意見を主張するべきだと思うよ。反抗期だなんて言われても気にしちゃダメだ。僕は今マージ叔母さんっていう意地悪な親戚が来ててずっとネチネチ言われてるよ。

聞いたと思うけど、ロンが電話の使い方を分かってなくてバーノンおじさんを怒らせてしまったんだ。それも相まって君と連絡取れないのは本当に残念だよ。君だったら問題なく電話できたと思うのに。

 

でも、これもホグズミードの許可書を取るためだ。お互い頑張ろう。

 

ハリー

ーーーーー

 

エルファバとハリーのこの夏の最大の目標はホグズミードの許可書を取ることだった。ハリーの場合は意地悪な親戚であること、エルファバは多少理解のありそうな父親が出張中で帰ってきていないというのがある。

 

「本返してくる。」

 

エルファバはフォアとロビンを撫でて、犬や猫の飼い方について書かれた本を持って部屋を出る。家を出た瞬間から人々がエルファバとすれ違うたびにひそひそと話すのが聞こえた。

 

「誰あの子…?」

「髪が白いわ。ちょっと気持ち悪いかも。」

「見たことないわ…最近引っ越してきたのかしら。」

「ちっちゃいわね。」

 

(…この服装変かしら?ハーマイオニーが似合うって言ってくれたワンピース着てるんだけど。ハグリッドのくれたペンダントと合わないのかなあ。)

 

白のワンピースに麦わら帽子をかぶったエルファバは一際目立っていた。そしてやはり気にするポイントはずれている。

 

「捕まえろ!」

「あっちだ!」

 

エルファバより少し年下であろう男の子たちがエルファバの前を走り去った。

 

(男の子って元気ね。)

 

「あっち行ってよ!!」

 

(ん?女の子もいるの?というかこの声って…。)

 

「変わり者のエディを今日こそ捕まえるぞ!!」

 

男の子たち数人が1人の女の子を追いかけていた。その女の子は黒髪の見覚えのある後ろ姿…。

 

「エディ?」

 

明らかに追いかけっこではなかった。エディの方は切羽詰まったように逃げ、ガタイの良い男の子がはさみ打ちしようと回りこむ。

 

「ルパンさん助けて!!」

 

パキパキパキパキ…。

 

妹を苛められているという怒りがエルファバの頭を支配する。

 

エルファバは周辺の道路を一瞬で凍らせた。

 

「うわっ!!」

「なんだ?!」

 

ズデン!と数人の男の子は尻餅をついた。しかしあと2、3人はすでにエディに追いつきそうだった。エルファバも慌てて追いかける。

 

「エディ!!」

「エルフィー?きゃあっ!!」

 

自分に気を取られたエディは男の子に捕まってしまった。エルファバはエディの髪を引っ張る男の子の1人につかみ掛かった。

 

「はっなせっ!!」

「きゃっ!!」

 

男の子はエルファバを乱暴にひきはがすと、エルファバはその反動で倒れてしまった。

 

「…おい、待てギャロット!!こいつもしかして…!」

「あっ!!」

 

エディは隙をついて男の子たちを振り切り、走り出す。エディは道路を飛び出した。

 

巨大なトラックがクラクションを鳴らしてエディの元へ、突っ込んでくる。

 

「エディっ!!!」

 

エルファバはとっさに杖を取り出し、思いついた呪文を早口で唱えた。

 

「イモビラス 動くなっ!!」

 

トラックの動きがエディにぶつかるスレスレで止まった。

 

男の子たちは呆然と目の前で起こった現象に目を奪われていた。しかし、それはエルファバも同じだった。

 

エディは()()()()()

 

フワフワとトラックよりも高い場所でまるで何かに吊るされたように手を広げ、キョトンとした顔で宙に浮いていた。

 

「うわっ、私空飛んでるう〜。」

 

本人はなんとものんきな反応である。エディはゆっくりと反対車線へと移動し、ゆらゆらと着地した。

 

「…フィニート 終われ」

 

そうエルファバが唱えた時、トラックは爆音とともに消えた。

 

「…やべえ。」

「E.T.だE.T.」

「あいつ宇宙人だったのかあ。」

 

元の原因を作ったいじめっ子にエルファバはキッとにらみつけ、杖を突きつける。エルファバの端正な顔が歪み、風がないのに髪の毛とスカートがエルファバの怒りとともに浮き上がっている。

 

「「「ひっ!!」」」

「あなたたちがホグワーツの人間だったら呪ってるところよ!!」

 

ピキピキピキっ!!

 

エルファバの背後に氷の棘が現れ、先端がいじめっ子を示す。

 

「エディに何かしたら許さないっ!!許さないんだからっ!!」

 

バキバキバキバキっ!!!

 

「ぎゃあああっ!!」

「逃げろっ!!」

「化け物おおっ!!」

 

(化け物…?)

 

少年たちは氷に足を取られながら逃げていく。エルファバはふとあたりを見回して唖然とした。今まで怒った時に凍る範囲というのは大きな水たまり程度だった。しかし、今は半径4メートルは凍っている。

 

「ひゃっ!!」

 

背後にはハリネズミの背中のような2メートルほどの尖った物体があった。幸いにもこの夏の暑さでどんどん形は崩れてはいるものの、その見た目は異常だった。エルファバは慌ててその場から離れた。

 

「はあっ、はあっ!」

 

自分の"力"は明らかに強くなっている。前も怒りで凍らせることはあったがここまでではなかった。自分は化け物に近づいているのだろうか。

 

恐怖で自分を抱いた。

 

「…エルファバ?」

 

その時、男性が声をかけたため、エルファバはビクッと体を震わした。

 

声をかけた男性はとてもみすぼらしかった。ボロボロになったバッグを肩から下げ、誰かのお下がりのようなジーンズとTシャツを着ている。明るいブラウンの髪には白髪が混じり、顔や体は痩せこけていた。

 

「エルフィー!!」

 

エディはなぜかその人に抱っこされていた。エルファバが黙って男性を睨みつけていると、男性は困ったように笑う。

 

「そんな怖い顔しないでくれよ。」

「エルフィーはいっつもこんな顔よ。」

 

(うるさいわね。)

 

「僕はリーマス・ルーピンっていうんだ。エディと知り合いで、今たまたま、エディと会ったんだ。」

 

エルファバはこっそり自分の杖をポケットに入れる。エルファバは気が気ではなかった。彼に自分のしたことが見られたのではないか?魔法ならともかく、"力"を見られてしまった場合…。

 

『っんのガキがあああああああああああああ!!』

 

あの恐ろしい声がエルファバの脳内を支配する。

 

「エルフィー、あのね、ルパンさんが助けてくれたの。だからね、お礼したい。」

「エディは足をくじいたみたいなんだ。だから君の家まで送ってあげたいんだけど。」

「…お好きに。」

 

エルファバは2人に背を向け、歩き出す。モヤモヤした感情が巡った。

 

(力に対する疑問を男性(ルパンさん?)が持たなかったのにはホッとしたわ。でもあんまり彼に家に入ってほしくないわ。知らない人は家に入れるなっていうし。)

 

正直、エルファバの彼に対する印象はあまりいいものではなかった。そもそも男性というものに恐怖意識があることに加え、全くの赤の他人がエディと親密になっていることが気に入らない。

 

「ルパンさん、ありがとう!」

「いや、君もエルファバも無事でよかった。」

 

(あなた初対面でしょ。私の名前呼ばないでよ。)

 

「でも、どうして教えてくれなかったの?あなたも魔法使いだなんて。」

 

(…ん?)

 

エルファバは足を止める。

 

「あんまり人には言ってはいけないルールなんだよ。ごめんね。」

「でも、いいなー!私エルフィーやルパンさんみたいにひょいひょいって魔法を使えるようになりたい!」

 

エルファバは信じられなかった。だがこれでエディが浮いた理由がわかった。しかしだ。問題はそこではなかった。

 

「ねえ、エルフィー?エルフィーも「…して。」」

「ん?」

「どうして?あなたは私のことをペラペラ話すのよ?!」

 

エルファバは抱えられているエディに怒った。他人に自分のことを話しているという事実を。

 

「どうしてよ?!私はあなたが嫌いなのにっ!!どうして私の話をするのよ?!しかも私の魔法のことまで…!?」

 

まさか。とエルファバは思った。

 

「まさか、"力"の事も…!?」

 

エディがエルファバから目を逸らしたのが答えだった。どうりで道路が氷まみれでも驚かないわけだ。

 

「…っ嫌いっ!!大っ嫌いよあなたなんて!!」

 

エルファバは自分が出したことのない大声を出して、家まで走った。どうやって部屋にたどり着いたかは覚えていない。部屋に入るなりベットへ杖を放り投げ、そこへダイブした。

 

「ワフッ!」

 

レインがいることも忘れてエルファバは泣き出した。

 

エルファバはエディを氷の塊にして以来、エディを避け続けていた。何度も何度も嫌いだとエディに言ってきたが、本当は大好きだった。しかし嫌うフリをしなければ母親が怒る。それでエルファバはずっとエディを避けてきた。しかしその状況は夏になって変わった。だが、エディに関わるのだけはできなかった。何年もあんな態度を取り続けて今さら戻れないというのもあるし、エディと関われば母親や父親と関わる機会が増える。

 

自分はこんなに苦労しているのになぜ理解してくれないのだろう。

 

それに自分が知られたくない秘密をなぜペラペラと人に喋るのか。しかも大人の男性に。自分を閉じ込め、暴力を振るった大人の男性に。

 

「ワンっ!」

「…はあ。」

 

レインを撫でながらエルファバは部屋を見た。案の定凍ってる。

 

「もうやだ…。」

 

早くホグワーツに戻りたいと真剣に思った。ロンの家に滞在するのもいいが、迷惑などかけられない。ハリーだって意地悪な親戚たちとの生活を我慢しているのだ。セドリックに食事に誘われたが、それはまだまだ先の話だ。

 

レインはエルファバの体の上に乗っかり、顎をぺろりと舐めた。

 

「ありがとうレイン。」

「シャーーーーっ!!」

「ロビンもありがとう。」

 

その時、エディの叫び声が下から聞こえてきた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「ミス・スミス。ホグワーツ魔法魔術学校への入学を許可されたことを心よりお喜び申し上げます。教科書ならびに教材のリストを同封しましたのでご確認下さい… ミス・スミス。ホグワーツ魔法魔術学校への入学を許可されたことを心よりお喜び申し上げます。教科書ならびに教材のリストを同封しましたのでご確認下さい。ミス・スミス…」

 

エディはたった今手渡された手紙を何度も何度も何度も読んでいた。

 

「ほほほ…。」

 

手紙を渡した老人は人様の家でちゃっかりとソファに座り、ちゃっかりその家のティーカップで紅茶をすすっている。

色黒で活発な少女の目が輝きに満ちているのを穏やかに見守っていた。

 

「行けるの?!」

「おおそうじゃともそうじゃとも。」

「本当に?!ドッキリじゃない?!カメラとか仕掛けてない?!」

「そんな意地悪なことせんよ。君の念願じゃからのう。」

 

エディは目と口を大きく見開き、足を挫いたことも忘れ体全体で喜びを表現した。

 

「…っいやったああああああああああああああああ!!」

 

リビング中を駆け回り、ソファと飛び跳ね、そこにいる人物全員と置物と家具にハグをした。

 

「やっぱり私には才能があったのね!!クリスマスにマドンナのベストアルバムもらった時よりも嬉しいわああああああ!!」

 

その喜びの例えでは誰にも伝わらないが、とりあえずものすごく嬉しいことはその場にいるみんなが分かった。

 

一方叫び声を聞いて駆けつけたエルファバは訳がわからなかった。

 

「こんにちはエルファバ。充実した夏休みを過ごしとるかの?」

 

声をかけた老人は三日月型のメガネが折れ曲がった鼻に引っかかり、この暑い夏なのに分厚い紺のローブを羽織っている。

 

(…どうしてホグワーツの校長が私の家のソファに座ってるのかしら?)

 

「やったやったやったやったやったやった!!」

 

(…エディがいつも以上におかしいわ。)

いつもおかしい前提である。

 

「混乱しとるようじゃの。ほほほ…。」

 

(…校長先生、そのカップ私の家のじゃないかしら?)

 

「エルフィーっっっっっっっ!!!」

 

エディは踊りながら私の目の前にやってきた。

 

「私ねっ!!行けるのよ!!」

 

エディはエルファバに先ほどの手紙を見せた。それはエルファバも見覚えのあるものだった。

 

「私っっっっっっ!!ホグワーツに行けるのよっっっっっっ!!」

 

 

 

 

 

 

(…え。)

 

 

 

 

 

 

「…ありえないわ。」

「私もそう思ったの!!でもね、ダンさんは私にウソじゃないって!!もう最高っ!!私魔女になれるのねっっっっ!!」

 

エディは突然得意のバレエを優雅に踊り出し、鼻歌を歌い出す。

 

「…エディって魔力あるんですか?」

「彼女の魔力は君もさっき見たはずだよ。ほら、浮いてた。」

 

ルパンさんは微笑を浮かべながらエルファバの疑問に答えた。

 

(あれは、彼の魔法ではなくエディの魔力だったのね。)

 

「ずっと君はホグワーツに来たいと何度も手紙でよこしてたからのお。わしも君の笑顔が見れて嬉しい。」

 

ダンブルドア校長はニコニコと踊るエディに笑いかけた。

そしてルパンさんに向き直る。

 

「さあて、リーマスよ。わしがここに来た理由は分かっておるな?」

「私にはできません。私には…その、持病がありますし…迷惑をかけます。」

 

ルパンさんは頭をかきながら困惑気味に言った。エルファバは何の話をしているのだろうと訝しがった。

 

「新しい闇の魔術に対する防衛術の教授を探しておってな。彼は適任者だと思うのじゃよ。」

 

そんなエルファバに校長は答えてくれた。

 

「そんな「ルパンさん私の教授になるの?!」」

 

そこらへんで踊っていたエディはピタっと止まった。ルパンさんは明らかに自分が不利な方向へ物事が進んでいることを悟ったのだろう。エディを不穏な目で見る。

 

「いや…私はね、安定した仕事につかない方がいいんだよ。言っただろう?私は病気があるって。」

「えー…。でもルパンさんが私の教授になってくれたら絶対最高なのに!」

「ミス・スミス言う通りじゃよリーマスよ。幸い君の病気のことも心配はいらん。しっかり対処は考えておる。」

「え、じゃあいいじゃん!!」

 

エディは思いっきり、ルパンさんの体にしがみ付いた。

飛び込んできたエディにルパンさんは困惑する。

 

「お願いルパンさん!!私の教授になって!!」

「ルーピン教授じゃよ。」

「ルーピン教授!」

「え、いや…その…。」

 

(哀れなルパンさん…。エディのキラキラした目でお願いされると大体の大人はオチちゃうのよね。校長はそれを知っててやったのかしら?そんな訳ないわよね。…そんなことありそうだから怖いんだけど。)

 

エルファバは完全に傍観者だった。

 

「ホグワーツに行けば、いろいろと安定するじゃろう。持病に関してはさっき言った通りじゃ。リーマスよ、君のユーモアセンスや観察力は教授向きじゃとわしは確信しとる。その優しさもきっと生徒を救うこととなるじゃろう。ホグワーツの校長として、ぜひ教授になっていただきたい。」

 

ルパンさんは少し困ったように口をすぼめ、ソファに座ってエディの頭を撫でた。

 

「………わかりました。やりましょう。」

 

ーーーーー

 

親愛なるハリー、ロン、ハーマイオニー。

 

私の家のリビングで妹の入学と新しい闇の魔術に対する防衛術の教授が決まりました。

 

ーーーーー

 

エルファバはたった今起こった衝撃を脳内で文字化した。

ダンブルドア校長は気がついたら消え、エディは踊り狂ってルパンさんは困っているが関係ない。

親友に伝えるべく、階段を上がり、自分の部屋へと戻った。しかし、衝撃はそれだけでは終わらなかったのだ。

 

部屋にいたのはロビンのみ。あの大きな黒犬は忽然と姿を消していた。

 

「レイン?レイン?」

 

ベットの下も、机の下もいない。

 

(あれ?)

 

窓が開いていた。ヘドウィグが出て行かないようにさっき閉めたはずだった。しっかりロックもかけたはずだった。

 

だが黒犬が出て行くには充分な大きさだった。

 

(でも、どうやって鍵を開けたのかしら…?)

 

そしてー。

 

「…待って。」

 

エルファバは、ある事実に気づいた。

慌ててベットをひっくり返し、スーツケースをひっくり返した。

 

「ニャー。」

 

ロビンはそれを机の上から眺めていた。

 

(…ない!ない!ない!ない!)

 

エルファバはパニック気味に床をどんどん凍らせていく。

 

(ないわ!)

 

「杖が…杖がない!!!」

 

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