ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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2.アズカバンからの友人

エルファバ衝撃の1日から数日後。ホグワーツに行くと意気込むエディだったが、母親がそう簡単に許すわけはなかった。

 

「ダメよ。」

「なんで?!エルフィーは行ってるじゃない!!」

「何度も言ってるけど、エルファバは例外よ。あの子は"あれ"をコントロールするために言ったんだから。」

「ねーお願いお願いお願いお願いお願いお願い!!」

「ダメなものはダメよ。いい?魔法の学校なんかに行ったら社会における教養が学べないわ。」

「でも、いっぱいいっぱい本とか読めばいいじゃない!」

「読むのあなた?活字を読めば眠りにつくあなたが?」

「読…む!読むわ!魔法を学べるなら何冊でも読む!」

「信用できないわ。」

 

これでエディは諦めるものだと思ったが、彼女の野望は強かった。

 

「いいわ、プランB、通称プロジェクト・ゴーストに変更よ。」

 

このプランBというのが酷かった。どこかの映画からヒントを得たらしいが、夜通しで母親のベットの隣で歌を歌うというもので、これは母親の真上の部屋で寝ているエルファバにも深刻な被害をもたらた。

 

「エンダアアアアアアアアアアィイアァァーウィルオオルウェイズラアアアアアアビュウウウウウアアアアアア〜♫」

 

翌日エルファバの顔はいつもより不健康そうで、クマがクッキリと目の下に現れていた。

 

他にもいろいろとやらかしたが、8月最後の週になるとさすがのエディもなす術がなくなってきて、キッチンにあるゴミ箱と棚の間に入ってぐずるという謎の抵抗にはしった。

 

「エディご飯食べて。」

「私ちゃんと勉強する…。」

「エディ。」

「私、エルフィーと同じ学校行きたい…。」

 

しかしそんな長い攻防戦も父親が帰って来れば全くの無意味であったと知ることになる。

 

「エディ、お前にホグワーツの入学書が?」

 

エディには魔力がないというのはエルファバと同意見だったらしい。

 

「うんっ。でもママがダメって「行っていいぞ。」…っいよっしゃああああああっ!!!」

 

母親がどんな表情をしていたのかは知らない。しかしエディの勝利の雄叫びは熟睡しているロビンの機嫌を悪くした。

 

「明日にでも学用品を買いに行こう。」

「デニス!あなた何を言ってるのか分かってるの?!」

 

父親と母親のケンカする声が響く中でエルファバはロビンを撫でながら思ったことは1つ。

 

(…杖どうしよう。レインが持ち出してしまったのかしら。あれはグリンダ唯一の形見だったのに。明日漏れ鍋でセドリックと会う前後で買おうかしら。そこまで高くはないから…。)

 

「エルフィー。」

 

どうやら母親を振り切ったらしい。父親はエルファバの部屋をノックして入ってきた。

 

「シャーっ!!」

 

突然、部屋の主となっていた猫を父親は怪訝そうに見たが、あまり気にせずに部屋に入ってきた。

 

「明日ダイアゴン横丁に行くから、一緒に行こう。エディの入学品も一緒にお前の学用品も買ったほうがいいだろう。」

 

これが普通の誘いならばエルファバはオッケーしたが、今回は違った。父親に杖をなくしたことを伝えるわけにはいかないし、セドリックと食事することを伝えるのはいちいち面倒だ。

 

「私は1人で行くわ。」

「ダメだ。」

 

即答だった。

 

(どうして?人に"力"を知られるのが嫌だから?去年フローリシュ・アンド・ブロッツ書店で床凍らせちゃったことを知ってるから?それとも、私が何かを試すために力を使うとでも思ってるのかしら?そこまでおバカさんじゃないんだけど。)

 

父親はエルファバが何を考えてるか読めたらしい。ため息をついてエルファバと同じ目線にしゃがんだ。

 

「シリウス・ブラックが脱獄したのは知ってるだろう?"名前を言ってはいけないあの人"の腹心の部下だったやつだ。」

 

当然エルファバも知っていた。最近魔法使いの監獄であるアズカバン脱獄した殺人鬼。マグルのニュースでも日刊予言者新聞にも載っていた。

 

「そんな殺人鬼がいる中で娘をたった1人で外出させる親なんていないだろう?」

 

(お母さんは私が1人で外出してても気にしなかったけど。)

 

「私はお父さんとエディと行くところ違うし、友達にも会うから。」

「けど、行き先は一緒だ。」

 

どうやらエルファバの負けのようだ。

 

「…分かったわ。」

 

そう承諾したが、次の日地下鉄に乗ってる間エディは興奮しっぱなしで、エルファバは来るんじゃなかったと激しく後悔した。

 

「ホグワーツで私いっぱい友達つくる!」

「エルフィーと同じところがいいなー!!」

 

(どうかせめて今日は私の友達とエディが会いませんように。)

 

そう願うエルファバだった。

 

「パパはもちろん魔法を使えるんでしょ?」

「ああ。」

「どうして普通に家で使わないの?すっごくかっこいいのに!」

 

隣に座るお婆さんはこっちを見てニコニコしている。はたから見れば妹の空想話に付き合ってあげている優しい家族に見えただろう。エルファバは恥ずかしくてエディと距離をおいて座っていたが。

 

「父さんはちょっといろいろあったんだ。」

「いろいろって?」

「魔法は当然素晴らしいよ。けど便利すぎるが故にたまに面倒を引き起こす。」

「ふーん。」

 

一瞬、父親が過去に戻っていることにエルファバは気づいた。父親は闇の魔女といわれるグリンダと一緒にいて幸せだったのだろうか。

 

エルファバにはその答えが分からない。

 

 

ーーーーー

 

漏れ鍋はこれからホグワーツに入学する人たちでごった返していた。

 

「あたしたち、今から魔法学校の道具を買いに行くんでしょ?どうしてパブに入るの?」

「ここが魔法の町をつなぐ秘密の店だからだよ。」

 

どうやら父親も相当楽しんでいるらしい。エディなんかは目が飛び出るほど見開いている。

 

ちょうど3年前、エルファバもここにきた時は人生でトップ3に入るほどに興奮したものだ。あのレンガがゴロゴロと動く様を見たらエディは興奮で気絶してしまうのではないかとエルファバは心配した。

 

エルファバはそんなごった返したパブの中で親友を見つけた。エルファバと同じタイミングでここに来た友達だ。

 

「ハリー?」

 

(いるだなんて知らなかったわ。教えてくれたら良かったのに!)

 

「!エルファバ!」

 

エルファバは家族に構わずハリーに抱きついた。が、不思議そうにゆっくりと離れた。

 

「?どうしたの?」

「ハリー、変な風邪引いたの?」

「?」

 

人に分かるくらいにエルファバはハリーを心配していた。

 

「ううん。どうして?」

「だって…いきなり身長が高くなってるし、声が変だわ。」

 

ハリーは一瞬エルファバが言っていることが理解できなかった。

 

「…っああっ!違うよ、これは成長期。」

 

ケタケタと笑うハリーにエルファバは上目遣いに見る。

前回ハリーに会った時よりも身長差がひろがっていてエルファバは少しショックだった。てっきりなにか変な感染症にでもかかったのかと思ってたが、そうではないらしい。

 

「男の子は、大人になるにつれて身長が伸びて声が低くなるんだ。きっとロンもそうだよ。ほらっ、」

「…ハリーこれ以上身長高くなるの…?」

「うん。ごめんねエルファバ。」

 

エルファバはブスッと腕を組んだ。すっごく遠回しにハリーがエルファバの身長をからかったのを理解したからだ。ハリーは通じたとニヤッと笑った。

 

「おうおうハリー、ガールフレンドを怒らせたかー?」

 

カウンターで飲んでいる男性にそう言われるとハリーはみるみる顔を赤くした。魔法界最も強い闇の魔法使いと2度も戦ったハリーも13歳の男の子。お年頃なのだ。

 

「ちっ違います!彼女はただの友達で…。」

 

純情な反応を見せるハリーに周囲の大人たちは手を叩いて笑った。

 

「私、ハリーのガールフレンドじゃないけど。」

「からかわれてるんだよ…。」

 

そして純情を通り越して無反応な13歳の少女が約1名。女友達が1人でもいればいい加減覚えなさいと引っ叩かれるところである。ハリーとしては複雑な心境である。

 

「ゴホン。エルファバはこれからどうするの?」

「教科書とかいろいろ買って、夕方ここでセドリックの家族に会うわ。」

「ちょうど僕もそうしようとしてたところだよ。一緒に行かない?」

「ええ。」

 

と、答えた後にエルファバはチラッと父親を見る。

大興奮のエディをなだめるのに必死なようだった。エディの叫び声はパブ中に響き渡っており、魔法使いたちが微笑ましそうに見守っていた。おそらく、父親はエルファバに構っている暇はないだろう。

 

(せっかくだし、いいわよね。)

 

「ところでハリーはどうしてここにいるの?」

「あれ?…実は数日前にここに来たばかりなんだ。話せば長くなるけど、簡単に言えばマージおばさんを膨らませた。」

「…なにそれ。」

 

ミスター・トラブルメーカーのハリーと話しながらダイアゴン横丁へと入っていった。

3年ぶりのハリーだけとの買い物はなかなか面白かった。最近ハリーはずっとここを出入りしているらしく、いろんなお店に連れて行ってくれた。

 

「わああああっ!!すごおおおおおい!!」

 

途中大興奮している妹ともすれ違ったが、察しのいいハリーはそこに触れることはなかった。

 

「僕あのガラスの銀河系の模型欲しいんだよ!」

「キレイ。」

「でしょ?!あれ買ったらきっと天文学の授業受けなくてよくなるよ!割り勘して2人で買わない?!」

「それはダメかな。」

「…」

 

まあ分かってたけど、とうなだれるハリーにエルファバは悪いことをした気分になった。ハリーは無口なエルファバと一緒にいてつまらなくないのかとディーンに聞かれたことがある。答えはノーだ。

 

「あの魔女の鼻、ニンジンみたいにぶら下がってるわ。」

「確かに。付け鼻かもよ。」

「「スネイプの鼻。」」

 

ハリーとエルファバは笑った。正直どこが面白いのか端から見れば理解不能だろう。夏休み直前に4人でスネイプの鼻は取り外し式なのではないかという話で盛り上がっていたのだ。取り外し可能だった場合、回転式か、スライド式か、はたまたパスワード式か。

 

完全な内輪ネタである。

 

そんなこんなで2人は必要な教科書やら道具やら材料やらを購入し、体力のないエルファバはハリーに支えてもらいながら戻ってきた。

 

ハリーの部屋のベットで2人で寝っ転がりながら新しい教科書を眺めて休憩していたらもうセドリックに会う時間となった。

 

「あとでねハリー。」

「バイバイ。」

 

セドリックはハリーよりも身長が高いにも関わらずハリーの倍身長が伸びててエルファバはさらにショックを受けた。セドリックの頭にエルファバの手が届くか否かの身長差にエルファバは少し嫉妬した。

 

「セドリック、何か呪いでもかかったの?」

「え、まさか!どうしてそう思うの?」

 

セドリックは笑いながら、エルファバをエスコートする。その振る舞いはまさに英国紳士、周囲の奥様方はぜひ彼を息子に!と思った。

 

「だって、急に身長が伸びてるんだもの。」

 

(このまま伸びたら天井つき破っちゃうんじゃない?)

 

「…それはないと思うよ。」

「どうして私の言うこと分かったの?」

「母さんにも同じこと言われたから。」

「ふーん。」

「エルファバも身長伸ばし「いい。」…そっか。ほら、あそこに座っている人たちだよ。」

 

エルファバは人の良さそうな夫婦が窓側のテーブル席に座っているのが見えた。薄暗いパブなのでこちらが近づいてきているのには気づかない。

 

「ああ、そうだ。僕、監督生になったんだ。」

「おめでとう。」

 

声に抑揚がないが、これでも心底喜んでいる。

 

「君が悪いことしたら減点しちゃおっかな?」

 

セドリックが冗談で言っているのは重々承知だが、エルファバは内心ヒヤヒヤだ。意外とエルファバはハリーたちと共に(やむ得ない場合がほとんどだが)規則破りの常習犯だ。

 

(どうか今年はトラブルがやってきませんように。セドリックに減点されたくないもの。初っ端からハリーがちょっと怪しいけど。)

 

「父さん、母さん。連れてきたよ。」

 

エルファバはこんな風に人と食事するのは初めてだった。ロンの家でご飯を食べたことはあるがあれはアットホームな中だったので比較的エルファバは落ち着いて食べれた。

 

(セドリックのご両親はどちらも魔法使いだから一応外出用のローブをハリーの部屋で着てきたけど、大丈夫よね?ちゃんと礼儀正しくしなきゃ。)

 

「父さん、母さん。こちらエルファバ・スミス。エルファバ、僕の父さんと母さんだ。」

「はっ、はじめま…。」

 

次に起こることを誰が予想できただろうか。エルファバは動揺した。幸いローブと薄暗さで隠れていたからいいものの、エルファバの周囲は凍ったのをエルファバは肌で感じた。

 

 

 

 

 

ミセス・ディゴリーはエルファバを見るなり、泣き崩れたのだ。

 

 

 

 

エルファバの鼓膜を刺激するのは女性が泣く声。背中に突き刺さる客の視線。

 

「ううっ…!!あなたあっ…!!」

「サマンサ!しっかりするんだ!」

「母さん?」

 

セドリックとミスター・ディゴリーは泣き崩れた母に、妻に、駆け寄った。エルファバは訳が分からず、立ち尽くすことしかできない。

 

「母さん、一体どうしたんだい?」

「ううううっ!!あなたが!!あなたが!!」

 

ミセス・ディゴリーはそう言いながらエルファバを指差す。

 

初対面のはずだ。エルファバは必死に頭の中で記憶の糸をたどるが、彼女に何かをした記憶がない。

 

「ミス・スミス。」

 

ミスター・ディゴリーは妻の背中をさすりながら、エルファバに話しかける。

 

「君の母親はグリンダ・スミスだね?」

 

エルファバはうなづく。

 

「サマンサの弟がね、君の母親に殺されたんだ。」

 

闇の魔女グリンダ・オルレアン。

 

暗黒時代、"名前を言ってはいけないあの人"に忠誠を尽くし、山の中に追い詰められた時に登山中だったマグル17人と彼女を逮捕しに来た魔法使いたち5人を巻き込んで山ごと凍らせた。今もその山は常に吹雪であり、マグル避けをすると同時に悲劇を繰り返されないように慰霊碑がある。

 

1年前、書店で見つけた本の中にあった文章がエルファバの頭に流れた。

 

「当然君に罪はない。しかし、君はあまりにもグリンダ・スミスに似すぎていた。」

「…ごめんなさい…。知っていればこんなこと…。」

「いや、こちらこそすまない。ただ食事は難しいだろう。」

「…。」

 

このまま凍ってしまいたいとエルファバは思った。ミセス・ディゴリーの泣き叫ぶ姿が、声が、空気が、辛かった。

 

「ごめん…僕知らなくて…エル…」

 

セドリックは本当に申し訳なさそうにエルファバに言った。エルファバは首を振り、ゆっくりと、しかしできるだけ早く、店から出て、人のいない裏路地へと逃げ込んだ。

 

「〜〜〜!!!」

 

人がいないのを確認すると、エルファバは崩れ落ちた。下唇を噛み、声を上げるのを必死で堪える。1番辛いのはミセス・ディゴリーだ。

 

『正直なところ、私はグリンダのことを、なんていうか、おとぎ話の登場人物のようにしか思えないのよ。』

 

いつかハーマイオニーに言った言葉だ。

 

しかしなんて浅はかな考えだったのだろうか。グリンダが殺した人たち全てに家族がいて、親友がいて、愛する人間がいたのだ。そしてその人たちは愛する人間を失った心の傷を抱えて今を生きている。ただマグル17人と魔法使い5人を殺したのではない。

 

殺した22人の全ての権利を奪い、彼らに関わる数え切れないほどの人々のかけがえのないものの一部を引きちぎったのだ。

 

「っああっ!!」

 

エルファバは感情に任せて"力"をボロボロの壁に発射した。渦巻いた模様が壁に現れる。エルファバは手当たり次第周囲の物を凍らせた。

 

「ううっ…!!」

 

濁ったものを発散する快感としてはならないことをしているという罪悪感が交互にエルファバの体を出入りする。しかし、どちらかといえば快感の方が勝っていた。

 

『僕のおかげで君は押さえつけられてた力を思う存分発揮できた。気持ち良かった?』

 

なぜここでリドルの声がするのかエルファバには分からなかった。

 

『才能を押さえつけるほど苦痛なことはない、無駄な努力だ。ナンセンスだよ。』

 

(そうよ。力を抑えるなんて無意味だわ。こんなに気持ちいいのに、どうして抑え込む必要があるの?グリンダがこの力を持ってたから悪の道に進んだなんてそんな確証ないじゃない。辛いこと、悲しいこと、全て氷となって吐き出されていく。それのどこがいけないの?誰か教えてよ!)

 

『"力"を使えばお前は悪い魔女になってしまう。』

 

「!?」

 

父親の言ったことを思い出した。

 

(何をやってるのかしら私…?思うままに"力"を使うなんてこれじゃあグリンダと一緒じゃない。)

 

自らが作り出した氷の世界でエルファバは泣いた。

 

私の"力"で人を殺せる。

私を悪に染めてしまう力がある。

人に見せることでその可能性を高めてしまう。

 

 

 

ーーーーーー

 

「それってエルファバ悪くないじゃないの。」

 

エルファバは合流した3人とアイスを頬張っていた。どうやら手紙でこの日にロンもハーマイオニーも来ることになっていたらしいが、エルファバは知らなかった。

 

「うん…。」

 

3人の慰め方は個人の性格が出ていて面白い。

 

「何もあなたが責任を感じる必要なんてないわ!」

「そうだよ。君はただ純粋にご飯を食べようとしてただけだ。何も悪くない。」

「運がなかったんだよ。」

 

ロンは少しソワソワしながら、あたりを見回す。

 

「ねえ、エルファバ。このタイミングで悪いんだけど僕ちょっとトイレに行きたいんだ。これ凍らせておいてくれない?」

 

ロンは溶けかけのオレンジアイスクリームをエルファバに渡した。

 

「私、あなたのその能力欲しいわ。」

「?ありがとう。」

「ほ・め・て・な・い・わ・よ!!」

 

ハーマイオニーはバックでロンを叩いた。

 

「あなたはこの2年間何を見てたの?!エルファバは能力を見られたくないの!!そもそもこのタイミングでそれ言う?!」

「えっ、だって、僕らに能力のこと知られたんだからいいじゃないか。」

 

エルファバは困ったようにハーマイオニーとロンを交互に見るしかなかった。

 

「0か1かじゃないのよロン。頭使って。」

 

頭使ってと言われたロンはブスッとアイスクリームを口に突っ込んだ。

 

「でも実際どうなの?」

「?」

「僕らに知られてから君の中で能力に対する変化ってあった?」

 

ハリーは怪訝そうに尋ねた。

 

「そうね…。」

 

"力"を使う快楽を覚えてしまった、と言ったら引かれるとエルファバは本能で思った。

 

「感情の起伏があるたびにいろんなところが凍るから今もあまり好きではないわね。」

 

エディが追いかけられた時のことを思い出す。

 

「やっぱり、感情の起伏で魔法が出るのはあなたの過去に関係しているのかしら?」

「多分ね。」

「どういう気分なんだい?使ってると。」

 

正直あまり聞かれたくない質問だ。しかし聞かれたからにははぐらかすわけにはいかない。エルファバはクッキーアイスクリームを小さな口に入れる。

 

「…すっごく気持ちいいわ。本当自分がしたいようにすると、毒素が抜けるっていうのかしら。さっきも…ミセス・ディゴリーのことがあって…。」

 

いや、言うのはやめた方がいいだろうか?エルファバの心臓は警告するようにドクドクと鳴る。

 

「…裏道で思う存分周囲を凍らせたの。」

 

言わなきゃ良かったとエルファバは後悔した。3人ともエルファバを責めたわけではない。しかしそれを言ってしまうこと自体が罪だとエルファバは感じた。いや、もしかしたら3人は表に出さないだけで自分に失望したかもしれない。それに対する罪の意識すら軽くなっているということだろうか?

 

「帰ろう。」

 

気まずい沈黙が流れたところで、痺れを切らしたロンが言った。

 

「漏れ鍋にパパもママもいるから。僕ら今日はそこに泊まって、そのままホグワーツに行くんだ!」

「本当?!」

 

ハリーは嬉しそうにロンの肩を抱いた。

 

「私もそうすれば良かったわ。」

 

ハーマイオニーは新しく買ったオレンジ色の猫のクルックシャンクスを抱き直す。ロンは注意深く胸ポケットに手を突っ込んだ。そこには最近元気のないスキャバーズがうずくまっており、さっきこのハーマイオニーの猫に追いかけられたため、警戒しているのだ。

 

「その猫嫌な奴だぜ。」

「あなたがちゃんとペットの管理しないからでしょ?!」

「ああ、また波乱の予感だ。」

 

ロンとハーマイオニーのケンカっぷりを見てハリーはやれやれと首を振った。

 

ーーーーー

 

パブに帰ってくると、ウィーズリー一家が1番長い机を占領していた。

 

「いやいや、ご機嫌いかがかなエルファバ?」

「いいわ。」

 

首席になったパーシーはHB(首席)バッチを輝かせて、もったいぶってエルファバに話しかけてきた。赤毛の双子はそれが気に入らないらしい。

 

ふと、エルファバが席を見渡すととても奇妙な光景だった。

 

フレッドとジョージはパーシーのコーンポタージュに粉を入れて気色悪い色のポタージュにしていて、ミセス・ウィーズリーはハリーを抱きしめていろいろと話しかけていた。

 

「これなに?」

「薬を作るための鍋よ。」

「これは?」

「杖磨きセット。」

「これって取っておいた方がいいの?」

「いいえ。捨てて大丈夫よ。」

「「ジニーが姉貴顔してるぞ!」」

 

ウィーズリー一家の中で1番年下のジニーは新入生にいろいろと教えていた。

フレッドとジョージはそれを冷やかす。

 

(…エディ…。)

 

「10年ぶりだね!元気にしてたかい?」

「おかげさまで。」

 

こちらもこちらで奇妙な光景だ。ミスター・ウィーズリーと父親が握手して話している。知り合いだったらしい。

 

「去年は娘がお世話になりました。」

「いやいや!とても知的で優しい子だったからこちらも助かったよ。彼女が楽しんでくれたならいいんだけど。」

「楽しんでたみたいです。あまり感情が表に出ない子なので分からないかもしれませんが。」

「ははっ君とそっくりだ!」

 

(一体何の共通点かしら…?)

 

「よおハリー。」

 

ミセス・ウィーズリーの話のターゲットがハーマイオニーに変わると、さっきハリーをからかってた男性がハリーに話しかけた。男性は高身長で明るい茶色の癖の強い髪とそれと同じ色の髭が顔を覆っていた。

 

(彼は毛になにかこだわりでもあるのかしら。魔除けとか。)

 

「学用品は買えたか?」

「ええ。なんとか買えました。」

「箒を買う誘惑には勝てたのか?」

「…頑張りました。前に言ったように叔父と叔母に教科書代をせがむのは嫌ですし、今の箒で満足していますから。」

「確かにな。君の飛びっぷりを1回見てみたいよ。あっ。」

 

エルファバは男性に指差され、反射的にハリーの後ろに隠れた。

 

「この子、動物の赤ちゃん並みに警戒心強くて。」

 

気まずい2人の間に挟まれたハリーは的確な例えでフォローした。

 

(赤ちゃんって何よ。)

 

エルファバは内心むくれた。

 

「スキャバーズ!!」

「こらっ!!クルックシャンクス!!」」

「ミ"ヤ"ーっ!!」

 

スキャバーズは死に物狂いといった感じでこっちに向かってくる。一方でクルックシャンクスも暴れてハーマイオニーの腕から脱出し、ガニ股でスキャバーズを追いかけた。

 

「イタッ!!」

「ハリー大丈夫?」

 

ハリーはスキャバーズを捕まえようとして手を伸ばしたが、引っかかれてしまったようだ。ハリーは傷をなめて苦笑した。

 

「何本も針を刺されたみたいだったよ。あ、ホップカークさんも気をつけて!」

「あ、ありがとうございます。」

 

どうやら男性が捕まえたらしかった。スキャバーズは男性の右手でキーキーと暴れて、必死に逃げようとしている。ロンは男性にお礼を言って返してもらおうとした。

 

「あの…?」

 

しかし、男性は返す気配はない。スキャバーズが男性の指を引っかいたり、噛み付いたりしてどんどん男性の指が痛々しくなっていくのに関わらず、彼は気にしておらず、なにかにとりつかれたようにスキャバーズを見ていた。

 

「!?」

 

突然男性はローブから杖を取り出し、スキャバーズにつきつけた。

 

「何を…?!」

「…っぎあああああっ!!」

 

次の瞬間、目を疑うようなことが起こった。

 

「ああ…!ああ…?」

 

ハゲかかった髪に小柄な身長、急激に痩せたと思われる余った皮膚はスキャバーズの肌のように薄汚れていた。彼は四つん這いに走る動作をした後、訳が分からないといった顔で自分の両手を見つめている。

 

あまりにも異常に飼い主のロン、ハリー、エルファバは後ずさった。3人だけではない。今の男の叫び声がパブ中に響き渡ったため、皆その男に釘付けになった。

 

スキャバーズが人間に変わったのだ。

 

「…っちっ。やっぱ使えねーなこれ。」

 

呪文をスキャバーズに放った茶色の男性はボソッとつぶやいた。

 

「まあいい。どっちにしろお前はここで死ぬんだよ…なあ、ピーター?」

 

彼は白い杖をスキャバーズに向けた。

 

「あっ!」

 

その杖はエルファバが失くしたグリンダの杖だった。

 

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