「あんのやろ…!」
「呪いかけてやるっ!」
「ロンもハリーも落ち着いて!エルファバは大丈夫だから!」
ハグリッドの初回の授業、結論から言えばあまり上手くいかなかった。ハグリッドはヒッポグリフという美しい生物を扱った。皆からは概ね好評で上手く行っていて、特にハリーは背中に乗って空を飛ぶまで懐かれた。しかしながらそれが面白くないのがマルフォイと愉快な仲間たち。ハグリッドの言うことを聞いていなかったために決してしてはならないヒッポグリフの侮辱をしたのだ。
「…で、バックビークが暴れ出して…私そこから見てないんだけど。」
ハーマイオニーは小声でエルファバに囁く。エルファバの利き腕である左腕は包帯で分厚く巻かれ、身動きが思うようにとれない。ハリーにマフィンを食べさせてもらいながらエルファバは答えた。
「私も覚えてないけど…多分"力"で隣にいたマルフォイを吹っ飛ばしたのよ。」
「そんなこと出来るの?あなたの能力って凍らすことでしょ?」
「私もそう思ってたわ。でも違うみたいね。」
仕組みは理解できないけど、とエルファバは肩をすくめた。
「マルフォイが怪我すれば良かったんだ!そしたらクィディッチ参加できなくなるかもしれなかったのに!」
ロンとハリーの共通の怒りのポイントはマルフォイがエルファバを怪我させたこと、マルフォイが危うくハグリッドの授業を潰しかけたことだ。実際4人でヘコんだハグリッドを必死になだめて、次回の授業もするように説得するのにかなり時間がかかった。
「ハリー、もしマルフォイが怪我してたらハグリッドがクビになってたかもしれないのよ?」
「けど、エルファバ危うく左腕もげちゃうところだったんだぜ?」
「ただ腕の中で一部骨が潰れただけよ。」
エルファバはあまりフォローになっていないフォローを入れた。ギリギリハリーは納得したように黙ったがロンはまだ不満気だ。
「マルフォイのヒッポグリフがエルファバの腕をかすった瞬間、エルファバのヒッポグリフが怒って飛びかかったのはある意味良かったかもね。ターゲットが変わったから。」
「そのあと2匹を押さえつけるのが大変そうだったけど。」
あの時のヒッポグリフは『うちの子に何をするっっっっっ!!!』というキレ方だった。エルファバが貧弱で可哀想だと思われるのは種を超えてるということが今回の出来事で証明された。
「でもあいつはエルファバの腕を粉砕するほどの価値すらないぜ?」
「ロン、多分エルファバは脊髄反射だったのよ。多分隣にいればあなたでもハリーでも誰でも助けたわ。」
ロンはまあまあ納得したようだがそれでも感情的には機嫌が悪い。カボチャジュースを一気にズズッと飲み干した。
「マルフォイに私の"力"のことバレてないわよね…?」
「ないない。」
「だってマルフォイよ?」
「あいつトロールを子分として引き連れてるんだよ?」
エルファバの唯一の心配は3人によって否定された。
「なら、いいけど…。」
エルファバはチラッとスリザリンの席を見た。
話の中心人物は、ハリーを指差してバカバカしく気絶の物真似をしていた。
「本っ当、あいつちょっとぐらい感謝しろよなエルファバに!」
「「「マルフォイだから。」」」
「だなっ。ハリーも気にするなよ。」
「ああ、勿論だ。」
しかし、マルフォイは自らも足を怪我したと騒ぎ立てた。所詮足にできた擦り傷程度だったのでハグリッドの授業に影響は出ないようだがマルフォイは大げさに英雄ぶって自分の危機一髪な話を語っていた。
「エルファバ、なんであいつの足元凍らせなかったんだんだろ。」
「僕だったらあいつが転ぶ先にトゲつきの氷作ってやるけど。」
魔法薬学で縮み薬を作っている時にそれをやってのけたので、エルファバの怪我を知っているグリフィンドール生の怒りはピークだった。
「無駄口を叩くなポッター、5点減点。」
こいつもこいつである。スネイプはマルフォイが喋っているのを無視して少し喋ったハリーを減点した。スネイプといえば、例年以上にハリーいじめとネビルいじめが激しくなった。ミスをしたネビルの薬をみんなに見せつけ、ネビルのカエルに飲ませるという。
(スネイプって本当嫌な人ね…あれ、私これ切ったかしら?これも、これも…。マギーが切ってくれたのかしら。)
「マギー、ありがと。」
「は?何言ってんの?」
「マギーが切ってくれたんじゃないの?」
「ウチは自分のことで手一杯だから。」
「あ、そうなの…。」
エルファバは不思議に思いながらも、薬作りを再開した。
「おい。」
エルファバの隣にやって来たのはマルフォイだった。
「僕は足が悪いんだ。そこの瓶を取れ。」
(私の方が重症なんだけどな。)
そう思いつつも面倒だったので、エルファバは棚まで行って取ってあげた。
「どうやったんだ?」
マルフォイは瓶を受け取る際に小声でエルファバに聞く。
「なんのこと?」
「あのウスノロの授業でだ。」
「ハグリッドのことそんなふうに言わないでよ。」
エルファバは作業に戻ろうとすると、ガシッと怪我をしていない方の腕を掴まれる。
「僕の質問に答えろ。」
「あなたの質問の意図が理解できないわ。」
「僕があの化け物に襲われそうになった時、お前は僕になんかしたんだ。」
「魔法であなたを押したのよ。」
「違う。そんなんじゃなかった。」
ハリーとロンがこっちを見ていた。エルファバはアイコンタクトを送る。
「父上が言ってた。お前が成長したら人を殺す力があるから気をつけるようにとね。お前が僕を吹っ飛ばした時、杖を持ってなかった。」
「…そんなこと…。」
「去年父上に聞いたが、何も答えてくださらなかった。けどあの時お腹に冷たい風を感じたんだ。お前みたいなノロマがあの瞬間に杖を取り出して僕を吹っ飛ばすなんてことできるわけないだろう?」
(落ち着いて…落ち着いて…。)
エルファバは自分の気持ちを悟られないように強気に出た。
「そうしたのよ。あなたの腕の骨がバラバラになるのを防いだのに人を化け物扱いするなんて酷い人ね。」
エルファバは自分の左腕を見せながらマルフォイに言う。マルフォイは分厚い包帯を見てたじろいだ。
「ぼっ、僕はお前のこと他の奴には言ってないんだ。感謝するんだな!」
「何を言うのかしら?私は悪いことはしてないはずよ。」
「…チッ!」
どうやらカマかけしようとしたらしい。
「スネイプ教授ー。マルフォイがスミスいじめてまーす。」
マギーが気の無い、しかしハッキリした声でスネイプに向かって言った。スネイプは当然ながらそれを無視し、エルファバを助けようと立ち上がったシェーマスの元に向かった。
「なあにしてるのドラコ?」
パンジーがかわいこぶりながら近づいてくる。まずい。エルファバは1度ハーマイオニーを侮辱したパンジーの足を凍らせたのだ。
「おい、偏屈爺さん。あんたの薬焦げてる。」
「だっ、誰が爺さん…!?」
直後、地下牢に焦げ臭い匂いが充満した。
「くっせー!」
「ゴホゴホっ!」
「何やってんだよマルフォイ!」
「ふざけんなよ!」
「そ、そんな!始めてからまだ3分も経ってないのに!」
マルフォイは慌てて自分の鍋に飛びついた。エルファバはポツンと立ち尽くし、シェーマスに促されてぼんやりと自分の席に戻った。
また材料切れてる。あとは煮るだけだった。どれも均等に完璧に切れている。
(私の材料を素早く完璧に切れて、誰にも気づかれずにマルフォイの薬を焦がせる人物…。)
エルファバはマルフォイに誰にでもミスはあるとなだめているスネイプに目を向けた。
ーーーーーー
午後の授業は闇の魔術に対する防衛術のみだった。
「この2年間で僕はこの授業でまともな経験をしたことがないよ。」
ロンは羽根ペンと羊皮紙を出しながら言った。
「ルーピン教授はまともなそうだけど。」
「でも、なーんか頼りなさそうだよなー。」
「でも、ダンブルドア教授が直々にお願いしに行ったんだから、優秀に違いないわ。そうでしょエルファバ?」
「ええ。」
「2年早く雇ってほしかったよ。」
「本当ね。」
「1人は例のあの人の手先で、もう1人は現在進行形でペテン師。」
「この前ロックハートは秘密の部屋に関する本を出してたわ。」
ハーマイオニーはカバンを整理しながら言う。
「反省してねーなー。」
「で、クィレルはアズカバンと。」
「彼はヌルメンガードよ。」
「ヌルヌルガード?」
「ハリー、ロンみたいなこと言わないで。ヌルメンガード。アズカバンと並ぶ大きな監獄よ。」
ハーマイオニーが話を続けようとした時、ルーピン教授が教室に入ってきた。初めに会った時よりも健康的になった気もしなくはない。ルーピン教授はボロボロのカバンを机に置き、微笑を浮かべた。
「みんな、羊皮紙とペンはしまって。今日は実地だからね。」
生徒たちはソワソワしながら荷物をしまった。
「実地なんて僕らやったことないよな?」
「ロックハートのピクシー大放出をカウントすれば別だけどね。」
「あれは実地じゃなくてただの迷惑行為。」
3人が話で盛り上がっている中でエルファバはため息をついた。
正直、みんながルーピン教授を嫌うような要因が欲しいと心のどこかで願っている自分がいた。ルーピン教授にとってはありがた迷惑な話だがどうしてもエルファバはルーピン教授を見るたびに、正体の分からないあの記憶の中の男性を思い出してしまうのだ。自分を殴り、嘲笑うあの人を。そんな人を、大好きなみんなに好きになってほしくなかったのだ。
(ああ、なんて酷いことを考えてるのかしら私。Mr.V並みに最低な人間だわ。彼はエディの面倒も見てくれたしディメンターの時だって…、彼って私よりもエディと一緒にいるに違いないわ。私なんか避けなきゃいけないのに!嫌な人…待って、彼は良い人よ!本当私は何を考えてるのかしら?!なんか変な物でも食べた?)
しかしエルファバの意思に反して3分後、ルーピン教授はポルターガイストのピーブスを簡単な呪文で撃退して一瞬で尊敬の的になっていた。
「…。」
「エルファバ、元気ないわね。どうかしたの?」
「…あとで話すわ。」
「さあみんな、お入り。」
ルーピン教授は職員室の扉を抑え、片手でみんなを中へと誘う。
教授に一歩、また一歩近づいていく。
ルーピン教授は細いが、筋肉はあった。ゴツゴツとしたその手で顔を殴られるかもしれない。髪を引っ張られたらどうすればいいのか。無意識に"力"で対抗してしまえば今度は棒で打たれるだろう。エルファバは自分を抱いて、ドアを抑えるルーピン教授の横を通ろうとした。
(落ち着いて、落ち着いて…。)
エルファバはハグリッドのペンダントとグリンダの指輪を握りしめる。時間は果てしなく続くような気がして、ようやく彼の顔が視界から消える。
ルーピン教授は、ローブに手を入れる。
「!?」
「?」
どんな顔をしていたのかエルファバは分からない。ルーピン教授はエルファバと怪訝そうに目を合わせ、ローブから杖を取り出した。
「私の顔に何かついてるかな?」
「…いえ…。」
エルファバは聞こえるか聞こえないかの声で言うと急いでハーマイオニーの隣に並んだ。てっきりルーピン教授がナイフか何かを取り出すのかと思ったのだ。
(そんなわけ…ないわよね。)
エルファバはスネイプがネビルをいじめる言葉もルーピン教授が洋箪笥の中にいるマネ妖怪ボガートの説明やハーマイオニーとハリーの発言も頭に入ってこなかった。
ディメンターはその人の人生の中で最も忌まわしい記憶を呼び起こす。リドルに取り憑かれた時に思い出した記憶はボンヤリと映画のワンシーンのような感じだったが、ディメンターによってエルファバは自分の忌まわしい記憶に飛んだ気分になった。その詳細はまだおぼろけであるが確か何かのキッカケでエルファバは自分の叔父に"力"を見せ、それでどこかに連れられた。そして閉じ込められ殴られた。具体的なキッカケもどうやって逃げたかも全く分からない。ルーピン教授と叔父が似ているかと言われれば全く似ていない。それでもルーピン教授に恐怖を覚えるのはきっと彼をよく知らないからだろう。
「リディクラス 馬鹿馬鹿しい!」
ネビルが呪文を唱え、エルファバはハッと覚めた。
「?」
授業を聞いていなかったエルファバは全く理解不能だった。
「みんな良くやった。ボガートと対決した生徒は1人5点、ハーマイオニーとハリーにも5点ずつだ。」
「でも、僕何も…。」
「君は最初の時に質問に答えてくれた。宿題はボガートに関する章を読んでまとめを提出、いいね?今日はこれでおしまい。」
ぼんやりしているうちに授業が終わってしまった。エルファバはあわてて興奮気味に喋る生徒たちの波についていく。
「あ、エルファバ。ちょっといいかな?」
1番話したくないルーピン教授に呼び止められた。頼りになる3人はもういない。エルファバは少し距離をとり、ルーピン教授と向き合った。
「授業中ずっと上の空だったね?」
どうやら見破られていたらしい。たしなめるような、面白がるような目で見られてエルファバは視線を外す。
「…すいません。」
必要最低限に話をとどめておこうと努力する。ルーピン教授と話したくないし、自分の勝手な都合で不快な思いをさせたくはなかった。
「いや、君は真面目な生徒だと聞いてるからきっと何かあったんだろうと思う。もしも何か手伝えることがあれば手伝うし、何か知識が欲しいのであればいつでも聞きにおいで。」
「どうも。」
ルーピン教授のその言葉は暗にエルファバがディメンターで呼び起こされた記憶があることを知っていると告げているようなものだった。エルファバは半分逃げるように職員室から去った。
ーーーーー
ルーピン教授の授業は瞬く間に全生徒の1番人気の授業となった。エルファバは当然授業としては面白いのは理解しているが、エルファバは必死に自分が過去に引きずられないようにすることで精一杯だった。最初は授業に集中しないエルファバを3人は心配した。
「エルファバ、ルーピン教授は素晴らしい教授よ。」
「分かってるわ。でも、怖いの。」
「そんな悪い人じゃない。僕らをディメンターから救ってくれたじゃないか。」
「ええ、そうね。」
「あんまり授業聞いてないとまずいよ。君は優秀だから問題ないだろうけど。」
しかしそれも最初のうちだった。10月に入ってハリーはクィディッチで、ハーマイオニーは勉強で忙しくなった。ロンとよく過ごすようになったエルファバはそこまでルーピン教授の授業についてとやかく言われることはなくなり、代わりに一緒に宿題をしたりチェスの指導を受けたりした。
「ナイトをEの5へ。」
「あっ…。」
ロンにクイーンを取られてしまった。どうもエルファバはゲームがあまり得意ではない。ロンのナイトにバラバラにされたクイーンの残骸を回収する。
「ビショップを犠牲にすれば良かったんだよ。」
「可哀想だわ。」
「それ言ったらキリがないよエルファバ。」
「どうしてロンはそんなにチェスが強いの?」
「兄貴たちが教えてくれたんだ。」
「いいわね、仲が良くて。」
この調子だと確実にチェックメイトされる。
「エルファバはどうしてエディが嫌いなの?」
何気なくロンは聞いてくる。
「…嫌いではないわ。そういう設定にしたいの。」
「チェック。…なんで?」
ロンは多くの駒を残したまま、エルファバの駒はごくわずかだ。
「エディと関わると、いろいろと厄介なことが起こって…。」
「確かに。そういえば君の妹レイブンクローの寮に数日寝泊まりして減点食らったらしいよ。」
「…もう。」
ガシャンっ。
「はい、チェックメイト。」
エルファバのキングはロンのルークによって完膚なきまでに壊された。
「本当、ロン強いわ。」
「まあね。」
エルファバはソファで猫のように伸びをする。その仕草が言葉では言えないくらいセクシーでロンはドギマギしてしまった。ハーマイオニーにはない要素だ。当然ロンはエルファバに対してそのような感情はないが否が応でも反応してしまう。エルファバがエディのように黒髪ならこんな気持ちにならないとロンは思った。
「私はエディが好きよ。ちょっと世話がやけるけど、あの子はみんなから愛されるから。」
「?好きなのに避けるの?」
「うん。」
「僕にはよく分からないなあ。」
暖炉で石炭が弱々しく光っている。エルファバはぼんやりと見つめた。少しウトウトしてくる。
「私にも分からないわ。」
エルファバは同じ時に、とても重大なことが起こっていたことを知らない。
「おい。」
エルファバの秘密を探っているマルフォイだが犬猿の仲のグリフィンドール生はスリザリンの相手などしないことなど百も承知だし、自分も関わりたくない。ポッターらへんにバレると面倒だった。なので、マルフォイは他寮から責めることにした。
「ん?」
エディ・スミス。エルファバ・スミスの妹にしてホグワーツ始まって以来の大問題児。彼女が現れてから事件が起こると思えば渦中には彼女がいる。ちょうど校庭で自己流で魔法薬を開発しようとしているところだ。なにを作るかも不明であり、自分が地下牢で適当にとってきた材料が何なのかも分かっていない。
「お前、エルファバ・スミスの妹だな?」
「うんっ!あなたもファンクラブのメンバー?入学してからエルフィーのこと聞いてくる人多いんだよね〜エルフィー美人だからさ「ハッ。この僕がそんな低俗な団体になんて入るか。このチョコレート欲しいか?魔法界最高級のチョコレートだ。」」
「それってゴディバ?それともリンドール?」
「…それがなんだか知らないが。マグルの反吐の出るようなチョコレートじゃない。」
「魔法チョコレートね、ステキ、ありがとう!!」
「おおっと待て。これが欲しいならお前の姉について教えるんだ。」
「エルフィーについて?」
「そうだ。そうじゃなきゃ僕のような純血の魔法使いがお前みたいな劣等生ハッフルパフの問題児に話しかけるわけないだろう。」
「そんなにエルフィーのこと知りたいなら直接聞けばいいじゃない。」
「それができないからこうしてるんだ…!!」
マルフォイは早くもこの負け犬に話しかけたことをひどく後悔していた。
「で、何が知りたいの?」
だが話してくれるらしい。マルフォイはホッとして、しかし余裕ぶってニヤリと笑った。
「お前の姉の秘密についてだ。」
「秘密?」
「そうだ。」
「あたしはエルフィーのことあんまりよく知らないからなあ。」
「何を言ってるんだ?お前はあいつの妹なんだから他の人間よりも知ってるだろ。」
「どうだろーね。エルフィーは数年間部屋に閉じこもってそのままホグワーツ行っちゃったから。昔エルフィーはもっと喋ったし、笑ったし、いっぱい走ったのよ?一緒に公園に行って遊んだり、こっそり部屋でわんちゃんのお世話したりしてたの。エルフィーは頼れるお姉ちゃんで最高の親友だった。エルフィーみたいな人どこ探してもいないもの。でも急にエルフィーは部屋に閉じこもって、あたしのこと嫌いだって言い出したの。」
マルフォイはひとりっ子なので、心のどこかに兄弟願望があった。しかし今目の前でごく当たり前のように話すこの少女の経験は苛酷ではないだろうか。突然大好きな姉に嫌われるなんて。
「理由は?」
「さあ?」
「さあって、お前の家族の問題だろ。」
「だって誰も教えてくれないんだもん。2週間くらいエルフィーがいなくなった時もあるけど、ママはエルフィーは悪い子だからとしか言わないし、エルフィーが帰ってきてからはエルフィーは私と話してくれない。パパはあんまり家にいないし…今あたしはエルフィーのこと何も知らない。だから秘密も知らないな。」
エディはマルフォイの手からチョコレートを取り、包み紙を開けて口の中に放り込んだ。
「ありがと!あなたって意外といい人ね!」
マルフォイは数秒立ち尽くしてから、慌てて自分の寮へと向かっていった。
「…まずいぞ…。」
ハリーはちょうどクィディッチの練習帰りでエディとマルフォイが話している場面に遭遇した。早足で寮に戻り、状況をエルファバに伝えた。ちょうど図書室から帰ってきたハーマイオニーも加え、暖炉の前のソファで額を寄せ合う。
「マルフォイがエルファバのことにたどり着けるかい?無理だろ。エルファバがスリザリンの後継者とか言ってたんだぜ?」
「私最近よく凍らしちゃってるのよ。特に闇の魔術に対する防衛術で。」
「グリフィンドール生に聴き込もうとするほどマルフォイはバカじゃないと思うわ。だからそこは心配いらないんじゃないかしら。」
「いっそバラしちゃイッタっ!!!」
「ロン、あなたって本当無神経ね!!それやったら周りがどんな反応するか分かってるの?!」
「僕はロンの意見に賛成だな。」
「ハリー?!」
「いや、全員じゃなくて理解ありそうな生徒を味方につけるんだ。僕ら3人でいろいろするのは限界がある。」
「確かに。エルファバと仲のいい子に協力してもらえれば、他の人にバレる恐れがなくなるかもしれないわね。マギーとかグリフィンドールで信用できそうな…あっ!エディにマルフォイが声かけてくれるなら例えば同じ寮のセドリックに打ち明けるのはどうエルファバ?」
「……………………いいと思う。」
「「「本当に思ってる?」」」
3人の声は見事に揃った。エルファバはうつむきながらボソボソと言った。
「それが最善策だってことはわかってるわ。…でも怖いの。セドリックが嫌というわけではないんだけど。」
「エルファバ、僕らだって君のこと知ったって平気だったんだから大丈夫だよ。」
「みんなあなたたちみたいに優しいわけじゃないのよハリー。」
「けど、このままじゃ余計な人にあなたのことが知られてしまうわ。それで傷つくのはあなたよ?」
しかし、4人の会議はある声によって中断された。
「へええええっ!!グリフィンドールの寮ってハッフルパフの寮と同じぐらい居心地がいいのね!!本当はあたしここに入る予定だったのよ!!まあ、ハッフルパフも最高だけどねっ!!」
赤いネクタイの集団の中に黄色いネクタイが1匹。
「えっ、エディ…!!」
「エルフィー!!」
それは紛れもなく妹の姿。顔の所々に煤と引っかき傷が付き、髪の毛にはホコリが付いてることからしてどこかに顔を突っ込んできたに違いない。
「あなたハッフルパフでしょ?!太った
「太った
ハーマイオニーとハリーは顔を見合わせた。エディはホグワーツ制覇でも目指しているのか。
「あたし、今ホグワーツ制覇目指してるんだ!!さっきも空き教室にみんなと探索しに行ったの。変な隙間があったから顔突っ込んだらなんかいたみたいで、もう大変っ!!ちょっとここで休ませてもらうわ!!」
ビンゴだった。
エディはどかっとソファに座り込む。
「ハッフルパフの寮はね、厨房の廊下右手の陰にある樽の山が入り口になってて、二つ目の列の真ん中の樽の底を2回程叩くと、寮への扉が現れるよー。あ、ちなみに間違えるとセキュリティで熱々のビネガーがかかるから気をつけてね!」
「「いいこと聞いたぜ。」」
「おいフレッドもジョージもやめろよ!!」
「あ、あなたがフレッドとジョージね!噂で聞いてるわ!最高に面白いってね!」
「君こそホグワーツ始まって以来の、」
「問題児、」
「「エディ・スミスじゃないか!」」
「ワオ、息ピッタリ!!」
「ロン!!!何としてもエディとあの2人を仲良くさせちゃダメよ!!!ホグワーツが壊れる!!」
「僕もそんな気がするっ!!」
「何をしてる君たち!!」
首席のパーシーである。他寮の生徒が侵入しているのを目ざとく、発見。詰め寄った。
「君っ!!!他寮に入るのは校則違反だぞっ!!」
「え、でもスプラウト教授がそういうことはバレないようにやりなさいって言ってたもん。」
「「バレたからアウトだな。」」
「あー、そっかあ。」
「そっかあーじゃない!!今すぐハッフルパフの監督生を呼ばせてもらうぞ!!」
「えっ!セドリックは呼ばないであげて!最近すっごく疲れてるの!」
「「絶対お前のせいだって。」」
「あー、そっかあ。」
「若き才能の持ち主よ。君が好奇心の赴くままにいきたいのなら、」
「われわれを呼ぶがよい。」
「「君を
「何それ最高っ!!!ほかの子も呼んでいい?!?!」
「「君が望むのであれば。」」
「フレッド!!ジョージ!!下級生を巻き込むんじゃないっ!!」
このあとエディはパーシーに引っ張り出され、セドリックを含むハッフルパフの監督生数名に回収されていった。セドリックは少し疲れた顔をしていた。
このやり取りの中エルファバは、自室へ逃走した。
ーーーーーー
エディのグリフィンドール騒動から数時間後。エルファバは毛布にくるまり、ロビンを撫でながら月を眺めていた。
(本当、エディどうして迷惑ばかり…?)
ピキピキ…。
(マルフォイに"力"のことが知られてしまったら…?)
ピキピキ…。
(明日ルーピン教授の授業だわ。どうしよう…?)
ピキピキ…。
エディのことやルーピン教授のこと、グリンダのこと、マルフォイのこと、あまりにも悩みが多すぎた。
(ああ、いつの間にベットが凍って…。)
そして、エルファバの体全身が叫ぶ。"力"を使えと。
「デフィーソロ…何を馬鹿なことを…。」
自分のあるもの全てを出し切ればどんなに気持ちいいかエルファバが1番理解していた。しかし屋内でやったら3人とも迷惑だろうし、それ以前に自分のことがバレる。
(けど、どんなに気持ちいいかしら…。)
ふと、エルファバは窓の正面に映る木に目をやった。
目の前にある禿げかけの木を銀色の氷で覆い、ガラス細工のように細かい模様を描く。クリスマスのオーナメントのようなしずくの飾りをぶら下げれば月の光に反射してもっと美しいだろう。
その想像はエルファバの身体中の体温を上げ、歓喜した。エルファバは窓を開ける。木から部屋までは3メートルほどの距離があった。
(ああ、もう止められないわ!!)
エルファバにとってそれはそこまで大きな問題ではなかった。片腕のパジャマを捲り上げ、右腕で木に向かってかざす。エルファバの手から強い風と共に大粒の雪が大量に現れ、それは自分のあるべき場所に向かう。それは大きな塊となって思って木と部屋を繋いだ。
バキバキバキっ!
エルファバがその脆い塊に触れると、一瞬でそれは硬い、頑丈な氷の橋に変わる。エルファバは杖を持ち、裸足でそこを歩いた。
罪悪感はとうに忘れてしまった。
木まで到達すると、灰色の大きな木にそっと触れる。流れるように木は分厚い氷に覆われ、その上からエルファバが見た美しい模様を描く。木の枝にはダイアモンドの形をした氷が細長い氷にぶら下がっていた。
「…ふふっ。」
(ああ、なんて美しいの。これが私が作ったものなのね!!)
エルファバはそれだけでは物足りなかった。愛らしい小鳥が数羽舞えばこの自分の作品はもっと映えるはずだ。エルファバは右手の指をゴニョゴニョと動かす。キラキラと氷の粉が踊ったかと思えば、氷でできた小さな小鳥がエルファバの手の上にちょこんと乗っかっていた。
「行っておいで。」
エルファバは空に手を伸ばす。しかし小鳥は相変わらず手の上に乗っかったままでむしろ体温で溶け始めた。
(変ね…。私が小さい時は雪を吹くドラゴンとかひょこひょこ動く雪だるまが出来ていたのに。どうして動かないのかしら?)
エルファバは木の幹に寄っ掛かりながら考える。
(物を動かすのはどうやってやってたのかしら?)
少しずつ氷が溶け始めたので、エルファバは木の上に雪雲を作る。その直後にひらめいた。
(あっ!物を動かす魔法は幼少期に起こる制御不能な魔法ね!つまりあのドラゴンや雪だるまは私の"力"と魔法が合わさったものなんだわ!)
しかしそうすると新たな疑問が生まれる。
(でも魔法は私の氷を通さないはずよ。そんなこと可能なのかしら?)
エルファバは溶けかけの小鳥をもう一度作り直して床に置き慣れない右手で杖を持ち呪文を唱えた。
「ロコモータ 動け!」
当然何も起こらない。氷の小鳥を溶かして今度は呪文を唱えてから作ってみるが、何も起こらない。
(何かテクニックが必要なのかもしれないわ。)
エルファバは小鳥を作るのをやめ、自分のいる場所から地上へ滑り台を作る。よくこうやってエディと遊んだものだ。土に触れたエルファバの足は一瞬で地面を氷の床へと生えた。エルファバは滑るように、踊るように、雪の粒を宙に舞わせたり冷たい風を起こして竜巻を作った。
(ああ、私はこの世界が好き…。)
エルファバは悩みを忘れていつまでも踊り続けた。