ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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7.日記帳と姉妹の誤解

「ルーピン教授、もう平気なの?」

「ああ、大丈夫だよ。」

 

エディはルーピン教授にもらった紅茶を啜りながら聞いた。

 

「君こそ、あんまりお転婆しちゃダメだよ。女の子なんだから体に傷ができたら大変だ。」

 

ルーピン教授はエディの右腕に巻かれた包帯を見ながらたしなめるように言う。

 

「えっ、あー、うん。そうだねーあたし一応女に生まれたからねー。気をつけないと。」

「一応って。面白いなあ君は。」

「…ルーピン教授?」

「ん?」

「あのさ、この間のこと覚えてる?」

「どのこと?」

「ルパンさん…じゃなかった、ルーピン教授さ、あたしに手紙くれたの。お茶しようって。それでーあたし手紙に書いてあった場所に行ったんだけど…そのー、ルパンさんいなくて。だからーどうしたのかなって。」

「手紙…?いや、書いてないよ。君と喋りたい時は直接言うからね。本当に私の名前が?」

「えっ、あー、うん。書いてあった。…本当、あー、あたしの勘違いだったのかも。」

「どうやって私だと判断したんだい?」

「いや、なんとなくだよなんとなく。多分、そー、勘違いだったんだと思う。多分。字がルパンさんみたいだったからさー、多分勘違いしたんだよ。」

「…エディ?」

「ん?」

「何か隠してる?」

「かっかっ隠してなんかないよ!!あーあたしもう行かなきゃっ!!バイバイっ!!紅茶ありがとうっ!!」

「この後何も予定ないって言ってなかったっけ?」

 

ルーピン教授が言い終わる前にエディは逃走した。

 

「…君の嘘が明らかに分かりやすいところ、好きだよエディ。」

 

彼は苦笑した。

 

 

 

ーーーーーー

 

エルファバは4日ほど空き教室にで寝泊まりした後、授業に復帰した。一見エルファバは変わりないように思えた。

 

「スミス!ディメンターに襲われたんですって?」

「4日も授業にいないなんて!」

「サボりよサボり!」

「本当、自分の体力の無さは自分のせいなのに!」

「体が弱ければなんでも許されると思ってるのかしらー?」

 

スリザリンの連中はエルファバが帰ってくるなりヤイヤイ囃し立てた。エルファバは何も聞こえていないかのようにそれを無視し、大広間の席に着いた。

 

「エルファバ。あんな奴らの言うこと気にすんなよ。」

「うん。」

「次は数占いね。エルファバ、あとでノート見せるわ。」

「うん。ありがとう。」

 

エルファバは熱々のスコーンにクロテッドクリームとイチゴジャムを塗り一口かじった。ロンとハーマイオニーは目配せをする。エルファバがディメンターに襲われて医務室ではないどこか知らないところに隔離されてからというもの、帰ってきたエルファバはおかしかった。1年の最初のエルファバに似ている。心を閉ざし、誰にも助けを求めず、1人で闇を抱え込んでいる。

 

おまけに本人に自覚症状がない。

 

「ハーイ、ハリー。」

「やあ。」

 

ハリーはエルファバの隣に座り、エルファバにスコーンを取るように頼んだ。ハリーもディメンターに襲われて落ちた時箒が使い物にならなくなってしまい、そこからずっと塞ぎ込んでいる。

 

「あっ、えーっと…。」

 

ハーマイオニーはこの気まずい空気で必死に話題を探した。

 

「みんなはこのクリスマス休暇どうするの?」

「僕は残るよ。」

「僕も。パーシーと2週間もいなきゃいけないなんて耐えられない。」

「私もよ。どうしても図書館を使わなきゃいけないし。エルファバは?」

「私もホグワーツかな。」

 

エルファバがアールグレイティーにミルクを入れると透明な金色の液体にドロリとした白が渦を巻く。きっとロンとハーマイオニーはハリーのために残るのだ。エルファバはシンプルに帰りたくないだけだったが、4人と一緒にいるのは嬉しい。

 

「ねえ、エルファバ。そのー、話せる範囲でいいんだけど…ディメンターは君にどんな記憶を見せアイタっ!!」

 

ロンはハーマイオニーに足を踏まれたらしい。エルファバは無表情に3人を見る。付き合いの長い3人でも今のエルファバの感情を読み取るのは不可能だった。

 

「私がエディを凍らせた日の午後から数日間叔父さんの家に行ったら大人たちに地下に連れ込まれて殴られたり刺されたりしたのを思い出したの。」

 

必要最低限の言葉でしか説明されなかったため、その状況の異常性を理解するのに時間がかかった。

 

「えっ…それって…。」

 

ハーマイオニーはガタッと立ち上がり、向かいにいるエルファバに抱きついた。

 

「ハーマイオニー…。」

「…ひぐっ…!そんな感じだと思ってたけど…あんまりだわ…!ひぐっ…辛かったわねエルファバ…辛かったわね…!」

 

エルファバの視界は栗色の毛で遮られている。

 

「ハーマイオニー、どうしてあなたが泣くの?」

「だってえっ…あまりにも理不尽なんですもの!エルファバがされたこと!仕打ち!…私あなたの心が癒されるなら何でもするっ!何でも協力するわっ!」

「ありがとう。」

 

エルファバは一瞬口角を上げ、あたりを見回した。何事かとみんながこちらを見ている。

 

「私…もう行かなきゃ。」

 

ハーマイオニーが止めるより早く、エルファバは半分逃げるように大広間から抜け出した。

友達の優しさが嬉しい反面、そんな優しさを受け取る心の余裕がない自分に罪悪感を覚える。

 

「エルファバ!」

 

大広間を出るとすぐ、誰かに呼び止められた。

 

「アレックスよせよ。やあ、エルファバ。」

「セドリック。」

 

セドリックは友人たちを振り切りながらこちらに近づいてきた。

 

がっしりした体型、茶髪。

 

「大丈夫かい?ずっと姿が見えなかったけど。」

 

エルファバは下がってセドリックと距離をとる。

 

「平気よ。」

 

セドリックの背後でセドリックの友達たちがニヤニヤとこっちを見ている。その笑みがあの大人たちを思い出させる。床でパキパキと何かが割れる音がした。

 

「大丈夫…じゃなさそうだよ…1年の最初の君に戻ったみたいだ。」

「そうかしら。」

 

(セドリックは悪くないのに。私は彼が怖い…。彼の友達が怖い…。)

 

「もしも何か困ったことがあれば、いつでも言ってほしい。できる限り助けになるよ。」

「うん。ごめん、もう行かなきゃ。」

 

エルファバは少しだけ口角を上げ後ずさりして授業へと走って行った。

項垂れたセドリックを物陰に隠れていた友人たちが慰めていたのをエルファバは知らない。

 

 

ーーーーーー

 

 

パキパキ、パキパキ!!

 

ここ1ヶ月毎日、どうやって授業を過ごし、夕食を食べ、寮に戻ったのかはあまり覚えていない。ただこの瞬間だけ、エルファバは生きている実感を噛み締めていた。

 

エルファバは華麗に"スケートリング"の上を滑り、中心地にもみの木の形をした氷を作った。凍った地面に巨大な雪の結晶を描く。木の枝に氷柱を垂らし、クリスタルのように輝くそれを滑る勢いとともに撫でると金管楽器のような澄んだ音が響いた。

 

「あ…。」

 

金色の毛色をしたユニコーンの子ども2匹が不思議そうに蹄で氷をつついていた。エルファバが冷たい風でたてがみを撫ででやるとくすぐったそうに身をよじった。

 

「デフィーソロ!」

 

エルファバは2匹のお客さんのために氷を溶かす。エルファバの存在に気づいた2匹はじっとエルファバの様子を伺う。警戒されないようにエルファバはゆっくりとしゃがみ、舌を鳴らす。

 

「おいで。」

 

まだ2匹は警戒している。1匹はゆっくりゆっくりと近づいてくるがもう1匹は動こうともしない。

 

「ロコモーター 動け」

 

エルファバは何もないところに呪文を唱える。すると杖からぼんやりとした光がゆらゆらとエルファバの周りを漂う。それを包むようにエルファバは手から雪を出す。

 

「できた…!」

 

エルファバの膝ぐらいの氷のユニコーンがエルファバの元を駆け回り、そして本物のユニコーンの元へと走った。一回ビクッと体を震わせた2匹だったが無邪気にじゃれるエルファバのユニコーンと遊び始めた。

 

試行錯誤した結果、エルファバはついに魔法を生かしながら自分の"力"を残すことに成功した。

 

がさがさっ。

 

エルファバは不自然な草の音に飛び跳ねた。周辺に氷が張られる。

 

「はぁっはぁっ…!!」

 

音の先から荒い息遣いが聞こえる。ユニコーンたちはその音に驚き、逃げ出した。エルファバは杖を向けた。教授だったらエルファバを見つけた段階ですぐに姿を見せるはずだ。暗闇の中、お互いの様子を伺うのは果てしなく長い時間に思えた。

 

「誰なの?」

 

エルファバは声をかけた。

 

「シリウス・ブラック?」

 

厳重な警備とはいえ1度はここよりも厳しいセキュリティのアズカバンを抜けてきたのだ。ここにいても不思議ではない。草陰に隠れている誰かはその名前を聞くと、ヒッ!と声を上げた。その声に聞き覚えがあった。

 

「ピーター・ペティグリュー?」

「うっ!」

「ルーモス光よ。」

 

エルファバが明かりを灯すと、痩せこけたネズミのような顔のピーター・ペティグリューがいた。汗が光に反射し、シリウス・ブラックに会った時以上にひどい顔をしている。

 

「えっエルファバぁっ………!」

 

向こうはエルファバと2年間も一緒にいるから知っている。しかしエルファバからすれば初対面同然の相手に名前を呼ばれるのは身震いした。それも相手がよだれを垂らしながら手を伸ばしてくるのだから。ピーター・ペティグリューとエルファバの距離はそれなりにあるが、エルファバはいつでも逃げれるように構えた。

 

「どぉこぉ…にっきぃ…。」

「日記…?」

「グリンダのぉにっきぃ…ないところされちゃうよぉ…!」

 

涙と鼻水と汗でピーター・ペティグリューの顔はぐちゃぐちゃだ。

 

「グリンダの日記?あれは2年の時に箱ごと盗まれて…誰に殺されるの?」

「僕が!!僕が取ったんだあっ!!けどないんだあっ!!あの方に言われて持ってこないと僕は死んじゃうんだあっ!!」

 

ペティグリューの叫び声はホグワーツ城に反響した。

その時である。

 

「誰かそこにいるのか?」

 

遠くで声が聞こえた。

 

「ひいいいいいいいっ!!!」

 

ピーター・ペティグリューとエルファバが動いたのはほぼ同タイミングだった。

 

(考えるべきだったわ。ユニコーンが来れる場所まできてしまっていたんだわ!)

 

エルファバは来た道を必死に走った。

 

「やだっやだよおおおおおっ!!!」

 

ピーター・ペティグリューも骨と皮だけの体でゼエゼエ隣を走っている。運動神経がお世辞にも良いとはいえないエルファバを追い越した。

 

「ピーター…?!」

 

しかし、それが仇となった。角を曲がったところでピーター・ペティグリューは誰かに見つかったらしい。エルファバは急停止し、息を殺して草陰に隠れた。

 

「ピーター!」

「りっリーマスぅぅぅぅっ!!」

「ピーター、まさかとは思ったが、やっぱり君だったのか…なぜここに…?」

「こっここが安全だと思ったからだ!ここならシリウスから逃げられると思ったんだ!」

「ディメンターの目をどうやってかいくぐった?」

「ぼっ僕はアニメーガスだから!ディメンターは人間にしか興味ないみたいで…。」

「!それでシリウスは脱獄できたのか!」

「リーマス!お願いだよぉっ…助けてくれよぉ…。」

 

大の大人の情けない泣き声が反響する。

 

「シリウスが僕を殺しに来るよぉっ…!!」

「分かったピーター。君を助けよう。でも1つだけ聞きたいことがあるんだ。」

「なんだい…?」

「さっき誰と話してたんだい?」

 

エルファバの近くにある草が氷に変わった。

 

「エルファバ・スミスだ…ちっ違う!僕じゃない!僕じゃないよリーマス!あの子が勝手に外に出て遊んでたんだ!」

「消灯時間の過ぎたこの真夜中にかい?」

「リーマス、何も不思議じゃないさ…僕らだってやってただろう?けどあの子は恐ろしいよ…グリンダと一緒だ!自分の能力に飲み込まれようとしてる!」

 

エルファバは冷気がそっちに伝わっていないことを祈るばかりだ。

 

「まさか、今ここにいるのかあの子は?エルファバ!いるなら出てきなさい!」

 

これがマクゴナガル教授なら大人しく出てきただろう。しかしルーピン教授の前に出て行くわけにはいかなかった。ペティグリューが何をしでかすかも分かったものではない。

 

「彼女はいないよ…さっき君の声を聞いたら逃げて行った…。」

「…氷が証拠だ…教授として罰則をつけなければ。」

「リーマス。良かったよ…教職について…ダンブルドアなら君の…その、持病も理解してるし。不安定な仕事より安定してるし。」

「…ありがとうピーター。」

 

ルーピン教授とペティグリューは恐る恐る、かつての波長を探るように話した。ルーピン教授の声はエルファバたちが知らない声色だった。

 

「リーマス…その、本当は君のことを助けられたらと思っていたよ。僕は逃げてばかりの臆病者だ。君の事情を知っていたのに自分のことに必死になって…ごめんね。」

「いいんだ。」

 

エルファバは物音を立てないように細心の注意を払いながらじっと話を聞いた。ピーターのさっきの焦り方とは別人のような落ち着きぶりにエルファバは驚く。シリウス・ブラックとハリーの父親が親友だったようにこの2人も親友だったのだろう。段々、数十年の年月を感じさせない昨晩も話していたかのような雰囲気へと変わる。

 

「あ、そうだ忘れる前に…君に警告しなきゃいけないことがある。エルファバ・スミス…あの子は自らの能力に魅了されてるんだ。今呼んだら毎晩の楽しみを邪魔された怒りで凍らされてしまうかもしれない。」

 

突如エルファバの名前がねじ込まれ、耳を疑った。

 

「あの子はそんな子じゃ…。」

「もちろん本人はそんな子じゃない。でもグリンダと一緒だ。誰も彼女みたいに意志の強い女性が例のあの人の側につくなんて想像つかなかっただろう?でも彼女は自分のできることに酔ってしまったんだ。さっき彼女を見つけて警告したんだ。グリンダの日記があれば自分を止められるってね。」

「それであの子は?」

「自分のことを怪物だと言いたいのかと怒ってね…さっき叫んだのは彼女の能力で危うく凍らされかけたからだよ。」

 

(そんなこと!!)

 

もしもエルファバでなければ誰もがこの濡れ衣に対してその場で声を上げただろう。しかしそこは寡黙なエルファバだった。心の中にとどめた。巧妙なウソだった。仮に日記という単語が聞こえても話が矛盾しないようにしたのだろう。

 

しかし、エルファバには言葉以外に感情を表す手段があった。

 

ピキピキピキ…。

 

エルファバは隠れた草陰が凍っていくことに気づいた。エルファバはゆっくり、ゆっくり、音を立てないように後ずさる。早く離れなければ気温の低下か氷、雪などでエルファバの存在に気づかれてしまう。

 

自分の体から冷気が出ているのを感じ、エルファバの周囲はどんどん凍っていった。

 

そして何より、嗚咽が漏れないように必死にパジャマごと腕を噛む。

 

(こんな私だからお父さんもお母さんも私を愛してくれない。大事な妹と一緒にいることも許されない。自分の好きなものを好きだと言うことも。私だから酷いことをされても誰も助けてられない。助けてくれない。)

 

「リーマス…お願いだ助けてくれ…僕はどうしたら…。」

「…分かった。どうにか手を打と…」

 

ルーピン教授とペティグリューの会話がどんどん聞こえなくなり、数メートルほど離れたと同時にエルファバは駆け足でその場から逃げ出した。

 

その後どうなったのかはエルファバはわからなかった。魔法省がペティグリューを保護したというニュースを聞くことはなかったしエルファバはちょくちょく体調を崩すことが増え、ルーピン教授の授業も休みがちになったからだ。それに授業に行っても彼がそれを追及することはなかった。一方、クィディッチでハッフルパフがレイブンクローにぺしゃんこにされたことによりグリフィンドール優勝への可能性が上がり、寮内は喜びに沸いた。

 

「ほらあっ!見ろよエディ!言っただろ?前回はディメンターが入ってきたから僕らが負けただけで別にハッフルパフは強いチームでもなんでもないさ!」

「え〜。そんな言い方ないじゃない〜。セドリックはすごいシーカーよ。それにあたしも来年チームに入って活躍してやるんだから!」

「あれ?クィディッチよりも"ばすけ"の方が面白いんじゃなかったっけ?」

「ん、まあ、考えが変わったの。クィディッチの金の玉取ったら大量得点の試合終了っていうマグルのスポーツからすると意味不なルールは納得できないけど、箒に乗ってやるスリリングなゲームは試合を見てかっちょいいと思ったわ。それにちょっとバスケに似てるし!あ、明日試合やるから来てねー。」

 

最近エディはホグワーツ内でバスケチームを結成した。メンバー募集のためにチラシが城中にバラまかれ、面白いこと大好きな赤毛双子+リー・ジョーダンが宣伝に参加したことにより、最終的には夕食の大広間に大量のミニバスケットボールが降るという軽い珍事件が起こった。最初はルールの分かるマグル生まれの生徒のみでやっていたが、魔法を一切使わない自らの勘と運動神経勝負のスポーツというのは魔法使いたちからすれば斬新で面白いらしい。

 

「やっと寮対抗でやれるようになったよー。まだスリザリンが足りないけど、まあどうにかなるっしょー。」

 

ちなみにエディは初心者の多いチームの中で強すぎるので試合に参加することができず、指導の立場になった。

 

「もうそろそろバスケットボールがフィルチの持ち込み禁止リストに入るんじゃないかって噂だけど。」

 

ハッフルパフの敗北に少し機嫌をよくしたハリーはローストビーフの脂身を取り除きながら言った。ハーマイオニーとロンはいない。ロンはハリーをバカにするマルフォイにキレてワニの心臓を投げつけたために罰則を受けており、ハーマイオニーはどこにいるか不明だ。

 

「ところでエルファバさ、今週末空いてる?みんながホグズミードに行っている時。」

「うん。」

「じゃあその時ついて来て欲しいところがあるんだ。いいかな?」

「うん。」

 

エルファバは柔らかい出来立ての白パンをちぎった。その時グリフィンドール優勝に燃えるウッドがこっちに接近してきた。

 

「あ…僕行かなきゃ…。」

 

幻覚だろうか。ウッドの背後には炎が見える。ハリーがパンをくわえて早足に去ったあと、エルファバはコーンスープをすすった。

 

「エルフィー。」

 

先ほどまで友達と話していたエディがエルファバの正面に座っていた。思わずたじろぐがエルファバは持ち直し精一杯睨みつけた。

 

「なによ。」

「エルフィー、大丈夫なの?ルーピン教授が言ってたの。ここ最近エルフィーが授業に来てないって。病気だって聞いたけど、セドリックもエルフィーの心配をしてるし、あたしもエルフィーの心配してるわ。」

 

エルファバは荷物を持って早足で大広間の出口へと向かった。

 

「エルフィー!待って!」

「あっち行ってよエディ。」

 

エディはいつの間にかエルファバの背を越していた。運動神経のいいエディはすぐにエルファバの腕を掴んだ。

 

「どうしてエルフィーはあたしが嫌いなの?嫌なことしたなら謝る!あたしずっとずっと寂しかったの!そりゃ、ここの友達は最高よ。あたしのこと変人って言わないし、みんな何しても笑って許してくれる。エルフィーのこと知ってるし、魔法がいっぱい学べるし、他にもたくさん…でも!エルフィーがいなきゃ!やっとエルフィーと話せると思ったのに!前と変わらないし、この前のクィディッチの試合でエルフィー倒れちゃってそこからずっと変だし!」

 

エディは泣きそうな顔でエルファバを見た。そんな顔を見るとエルファバの心も揺らぐ。

 

「逆にあなたはどうして私なんかと関わりたいのよ。」

「だって、エルフィーみたいに優しい人はいないし!ホグワーツの人だって言うもん!エルフィーは静かで何考えてんのか分からないけど!いっつも誰かを助けてるって!みんなを助けるために大蛇に立ち向かう人なんてこの世にいない。エルフィーは私のことを一番理解してくれるの!あたしが危険な目に遭ったら真っ先に助けてくれて…!」

「私あなたを殺しかけたのよ?それなのに、そんなのおかしいわ。」

「?エルフィー何言ってんの?」

「何って…!私が7歳の時!公園で私の魔法があなたの体に当たって!どんどんあなたの体凍っちゃったじゃない!それで私お母さんにも嫌われて…。」

「?エルフィー、あたしそれ覚えてない。」

 

エルファバは頭を鈍器で殴られたような感覚に襲われた。考えてみればエディはその時4歳だった。エルファバにとってはかなりショッキングな出来事ではあったがエディはどうなのだろうか。たくさんの出来事があった中で、エディにとって大したことのない出来事なら…。

 

「じゃあ、そのあと叔父さんの家に行ったことは…?」

「叔父さんの家?叔父さんの家にはしょっちゅう行ってるけど?」

「そのあと叔父さんの家に行って、いとこたちが暴力を振るわれてたのは?2人で怖い大人から逃げたことは?…私がいなくなってたことは?」

「…エルフィーが何日かいなくなった時?もしかして、ママがエルフィーが悪い子だからお仕置きされてるって言って。そこからエルフィーは私と話してくれなくなったこと?…あっ。」

 

エディの顔がみるみる青ざめていく。小さかったエディからすれば記憶が断片的でつながっていなかったのだろう。違う理由だが、エルファバ自身も忘れていたのだ。

 

「叔父さんの家で、なに、されたの?」

「あなたの家族を壊したのは、私なのよ。」

 

そろそろ授業が始まろうとしていた。生徒たちは2人のことなど目に入らず、せわしなく次の授業の準備をしていた。

 

「私がいなければ、あなたはもっと幸せだった。お母さんもお父さんももっと笑ってた。こんな"力"がなければ、あなたは普通の生活を送ってたわ。私なんかいなければ…。」

「エルフィー、どうしてそんなこと言うの?違うでしょ?待って、あたし何を知らないの?エルフィーがあたしを嫌っている理由は他にあるの?」

「あなたは覚えていないでしょうけど、覚えてたら私のことなんか追いかけないわよ!お母さんだって私がそんなことしたから私のこと嫌いなのよ!お父さんだって…。」

「エルフィー、あたしのお姉ちゃんはエルフィーじゃなきゃ!お願いだからそんなこと言わないでよ!」

「そんな重要なことを忘れてるあなたなんか…どうせ別に私じゃなくたっていいのよ。私はあなたのお姉ちゃんなんかじゃない!」

 

エディは下唇を噛んだ。この数年間何を言われてもめげなかったエディがだ。

エルファバも胸が張り裂けそうだった。

 

「授業が始まりますよ!早く準備なさい!」

 

その言葉を合図にエルファバは逃げるようにその場から去った。1度も振り返らなかった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

乳白色の空の下、ホグワーツの中はクリスマス・モード一色だった。雪が校庭と屋根に降り積もり、色とりどりのコートを身にまとった生徒たちがワクワクしながらホグズミードに歩いていた。

 

そんな中で逆方向に行く生徒が2名。

 

「私はよからぬことを企むものなり。 」

 

ハリーがボロボロの羊皮紙に呪文を唱えた。杖の触れた先からインクの線が走り出す。

 

「これ…。」

「ホグワーツの地図だよ。初日に列車でフレッドとジョージがくれたんだ。去年君がいなくなった時にこれで君の居場所を見つけてたんだって。」

 

ハリーは地図を用心深く見ながら何かを探していた。地図上には動く点がいくつもあり、それにはそれぞれ名前がふられている。

 

「誰がどこにいるのか分かるの?」

「うん。見つけた。」

 

歩き出すハリーにエルファバはついていく。

 

「これから起こることは誰にも言わないでほしいんだ。ロンにも、ハーマイオニーにも。」

 

エルファバは信じられないといった目でハリーを見た。こういう秘密事をするのはハリー自身が好きではないはずだ。

 

「もちろん、いつかは言うさ。でもハーマイオニーもロンも僕の言うことを信じてくれるとは思えない。実際そうだから最近その話題を避けてるんだ。1番信じてくれそうなのは君だ。」

「何を言って…?」

「シッ!」

 

誰もいない、肖像画すらない辺鄙な廊下だった。そこに扉がある。エルファバが少し前までいた空き教室だった。

 

「アロホモラ 開け」

 

ハリーは鍵のかかった扉を開け、エルファバに入るように促した。ボロボロの棚と机とベッドしかない部屋だ。

 

「パットフット。僕はプロングスの息子だ。」

 

ハリーがそう言うと、石と爪が擦れる音がした。それがこちらに近づいてくる。ベッドの下から現れたのは大きな黒い犬。

 

「レイン…。」

 

エルファバは思わず呟いた。前よりも毛並みが良くなっている気がする。黒い犬はハリーとエルファバを交互に見たあと、影が伸びた。

 

「久しぶりだな、お嬢ちゃん。」

「シリウス・ブラック…。」

 

前と変わらない姿のシリウス・ブラックがエルファバの前に立っていた。

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