ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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9.守護霊

「あ、ドラコじゃん。」

「スミス、マグルの下等な遊びをホグワーツに広めるな。」

 

エディはありったけの材料(枯れかけの木や噛んだチューインガム、網、針金など)で作ったバスケットゴールでシュート練習をしていた。

 

「下等なんかじゃないよ。ちゃーんとオリンピック…壮大なワールドカップみたいなもんね。そこで認められた公式スポーツですう。」

 

マルフォイはフンっと鼻を鳴らして汚物でも見るような目でゴールとボールを交互に見た。

 

「お前、いつまで包帯巻いてるんだ。」

 

マルフォイはハロウィンから腕に巻かれた包帯を見た。

 

「あー、これ?もうすぐ取れるよ。」

「何の怪我だ。」

「階段に挟まれたの。」

「本当か?」

「…うん。」

「まあ僕からすればどうでもいい話だ。」

「あー、そういえばエルフィーの秘密分かったの?」

「クリスマスに父上に聞いたが何も教えて下さらなかった。自分で探せということなのだろう。けど手がかりがあまりにも少ない…あの冷たい冷気はコントロールして出したものじゃないはずだ。だからもっと兆候があるはず「ドラコって丁寧だねー。父上って呼ぶなんて。パパでいいじゃん、よっ!」」

 

エディが投げたシュートが見事にゴールにスポット入った時、ゴールから鈴の音と何十人もの歓声が聞こえた。

 

「ルーピン教授がゴールした時に分かるようにって呪文かけてくれたの。いーでしょー?ドラコもやってみなよ!」

「わっ!」

 

エディはボールを突然マルフォイにパスしたのでマルフォイは不意をつかれたが、クィディッチで鍛えた反射神経でキャッチした。

 

「危ないだろ!」

「ははっ、ごめんごめん。でも筋よかったよ!投げてみなよ!」

「だから僕は低俗なマグルの遊びなんて「遊びもなにもそのボールをあの輪っかに通すだけだよ!やってみなって!」」

 

マルフォイは渋々、ボールを投げた。

 

「おっ、入った!!」

 

ポスっといい音を立て、マルフォイのボールはちくはぐのゴールへと吸い込まれ、鈴の音と歓声が響いた。

 

「いいじゃんドラコ!あんたも入りなよバスケチーム!」

「…。」

 

マルフォイは認めたくなかった。自分のボールがゴールに入る高揚感と目の前にいる年下の少女の無邪気さに胸がざわついたなんて。

 

ーーーーー

 

ハリーとロンと離れたことでエルファバは自然にハーマイオニーと行動を共にすることが増えたものの、ハーマイオニーはちょくちょく消えるのでエルファバはポツンといることの方が多かった。ハリーは少しそれを気にしているそぶりをみせたが、エルファバ本人はあまり気にしていない。

 

ハリーとの接触が減ったことにより厄介なのはシリウス・ブラックの行動が分からないことだった。エルファバ自らシリウス・ブラックのところに行くのは気が進まない。考えてみれば自分のベッドに彼を寝かせたし、彼は自分の体に乗っかってきたし、膝に顎ものっけてきたし、おまけに彼の前で着替えもした。挙句に杖と日記帳を現在進行形で奪われているのだ。印象がいいわけがない。

 

「じゃあ、授業はここまで。次の範囲の予習を済ませてきてね。エルファバ。」

 

闇の魔術に対する防衛術で久しぶりに授業に現れたルーピン教授はエルファバを呼んだ。

 

「ちょっといいかな。」

 

すでにハーマイオニーは退出していた。ハリーの視線を感じたが、目配せすると不自然なので気づかないフリをしてルーピン教授の元へと向かった。エルファバがペティグリューに会ってから既に2ヶ月近く経っている。

 

「君が夜に寮を抜け出した件だけど、罰則は明日から毎日学年末まで私の書類の処理を手伝うことだ。当然魔法は使わないよ。いいね?」

「はい。…学年末まで…毎日?」

 

今は1月、学年末が終わるのは7月だ。つまりこれから約6ヶ月ほど、毎日放課後苦手なルーピン教授と共に過ごさなくてはならないのだ。苦手なルーピン教授と。大人の男性と。

 

「悪いことしたからね。」

 

(最悪。)

 

通常の罰則は1回の大きな罰、例えばロンがマルフォイにワニの心臓を投げつけてトイレを手で磨かなくてはならなくなったとか、ハリーが車で木に突っ込んだならロックハートのファンレターの返事書きとかだ。1日で終わるものがほとんどだ。

 

「もちろん、私の持病が悪化した時は例外だよ。」

 

こんなに長い罰則なんて聞いたことがなかった。

 

(私への個人的な嫌がらせ?)

 

「私が…その、発作起こした場合はどうするんですか?」

「心配ないよ。君は対策できるだろう?」

「そうじゃなくて…!」

 

ルーピン教授の微笑みがエルファバをイラつかせた。ただ凍るだけではない。エルファバの氷は形状が感情と共に変化する。怒りは針のように鋭いものに変わる。ルーピン教授をあの大人たちと重ねあわせれば彼を傷つけるなど容易い。

 

「私は私の意志関係なくあなたを傷つけることが可能なんです。」

「エルファバ、私も大の大人だ。自分の身ぐらい自分で守れる。君が何も心配することはない。」

 

分かってくれないルーピン教授にイライラした。本物を見せれば恐れてくれるだろうか。

 

(分からないなら今ここで…生徒もいないし…!)

 

ハッとその思考をしている自分にエルファバは気づいた。そして自分自身に失望した。

 

「!?」

 

左手の違和感を感じ、見るとゾッとした。鋭利な氷が左手に握られ、水が滴っていた。

 

「それで私を刺そうとしたのかい?」

 

ルーピン教授は静かにエルファバの目を見て言った。エルファバは慌てて杖を取り出し、呪文を唱え、消失させた。

 

「ごっ…ごめんなさい…!!そうじゃなくて…!」

「エルファバ。」

 

ルーピン教授はエルファバ両肩に手を置き、エルファバの目線に合わせた。反射的にエルファバはルーピン教授の手を解こうとしたが男性の力には勝てない。エルファバは涙目だった。

 

「エルファバ、今も私が怖いかい?」

 

エルファバはうなづく。

 

「どうして?」

「…ごめんなさい…本当に意味はなくて…離してください…。」

 

冷気がエルファバの体から出ていた。このままではルーピン教授の手が凍傷してしまう。

 

「君が正直に答えたら離すよ。どうして私が怖いのかな?」

「…るから…。」

「ごめん、聞こえなかった。」

「…にてるから…。」

「誰に?」

「おじさんに…。わたしは…あなたがこわいし…きずつけたくないから…。」

「君は君を傷つけたおじさんに似ている私が怖い。だから自分の意志関係なく防衛本能で私を傷つけてしまうのが嫌だということかな?」

「うん…。」

 

ルーピン教授は肩に置いた手を優しく滑らせ、エルファバの頭に乗せた。

 

「それを理解しない私に腹が立ち、気づいたら氷が発生していたと。」

「うん。」

「けど、それで激しい自己嫌悪に陥ってる。」

「…はい。」

 

ルーピン教授はポンポンと頭を叩く。

 

「じゃあこの罰則はお互いにとっていいはずだ。」

 

ルーピン教授は再び意味深に微笑んだ。

 

「あの…ペティグ…。」

 

ルーピン教授の目はペティグリューについて言及させない強い何かを感じさせ、エルファバは口をつぐんだ。

 

そんなこんなで始まったエルファバの"罰則"は思いの外うまくいった。エルファバの方でまだルーピン教授に苦手意識があるものの1人で黙々と作業するものを選んだため接する機会はあまりなかった。

 

深夜に"力"を使いたいという衝動もハーマイオニーがくれたクマさんとロビンのおかげで大分抑えられるようになった。

 

「みゃーん。」

 

エルファバは膝にロビンを挟み頭を撫でながら、ピーター・ペティグリューの事件について書かれた章を読んでいた。ロビンはエルファバを独占できてご機嫌である。

 

(ピーター・ペティグリューはグリンダの日記を持っていたけどクルックシャンクスに盗まれた。ルーピン教授はペティグリューのことを覚えている。あの日記の執着からして日記が見つかるまでまだホグワーツにいるはずだわ。ルーピン教授がペティグリュー側について匿ってるのかもしれない。)

 

ハーマイオニーがヨロヨロと部屋に入ってきて、ドサリとベットに倒れこんだ。

 

「ハーマイオニー。少し休んだら?」

「そうしたいけど…まだ宿題が…。」

「宿題って、フィットウィック教授しかないし、そこまで時間かかるわけじゃないから30分ぐらい…。」

「いいえ。それだけじゃないのよ。 他に3教科もあるわ。」

「それってハーマイオニーが授業とってるの?」

「ええ。」

 

(ハーマイオニーだけ私たちと違う次元で生きてるのかしら。1日36時間とか。)

 

「エルファバ。」

「ん?」

「ハリー、まさかシリウス・ブラックと会ってるなんてないわよね?」

 

その瞬間、エルファバの時間が止まった。

 

「…………………………どうしてそう思うの。」

「いや、別に。ハリーがやけに大人しいと思うのよ。ほら、前はブラックのことになると私に食ってかかってたの。箒のことも怒り方が尋常じゃないし…それがないにしても自分が無実だと信じてる人の安否が分からない時にあそこまで大人しいかなって。でもシリウス・ブラックがホグワーツにいるならゴーストか誰かが目撃するわよ。」

「……………………だよね。」

「さっきから気になってたから言うわ。何かしらその沈黙は?」

 

エルファバは膝でゴロニャンしてるロビンを顔の前に掲げて自らの顔を隠した。ロビンの黒いお腹がハーマイオニーの前に立ち塞がる。

 

「エルファバ答えなさい。何を隠してるの?!」

「エルファバ・スミス、黙秘権を使用します。」

「こらー!!」

「ミャー!!」

 

エルファバはロビンを抱えて逃走した。ハリーと口をきいていないがハリーが嫌いなわけではないしそもそも他人の秘密をばらすわけにはいかなかった。

 

「待ちなさいエルファバっ!」

「ロビン!どうしよう?」

「ミャー!」

「そうよね。ハリーとの約束だもん!」

 

談話室は寝る前準備で賑わっていた。ハリーがクィディッチチームのメンバーと話しているのが目に入った。

 

「あれっ。エルフィー猫いたの?」

 

エディは同級生とお菓子を分け合っていた。エルファバは凍りつく。

 

「消灯時間だー!部屋に戻れー!」

 

パーシーの一声が死刑台へのベルだった。みんなおしゃべりをやめてぞろぞろと各部屋に向かい(エディはパーシーに引きずられていった)、エルファバは固まった。

 

「エルファバー?寝るよー?どうしたの血相変えて。」

 

ネグリジェ姿のラベンダーがエルファバに声をかけてきた。

 

(そうだ。消灯時間。パーバティもラベンダーもいるなかで聞けるはずないわ。)

 

「ちょっとね。」

 

案の定、ハーマイオニーがその晩にエルファバを問いただすことはなかった。しかしその翌日からはハーマイオニーはエルファバからしつこく問いただすようになった。朝食、授業の合間、昼食、授業の合間、夕食、寝る前。

 

「エルファバ、ハリーの危険が迫ってるかもしれないのよ。いい加減話しなさい。」

「黙秘します。」

「エルファバ、取り調べじゃないの。重要なことなのよ!」

「黙秘します。」

 

エルファバは早足で図書館の棚をクルクル回りながらハーマイオニーを巻こうとしていた。

 

「エルファバ、あなたが喋らないことでハリーが危険な目にあったらどうするの?!」

「そんなに聞きたいならハリーに聞けばいいじゃない。彼が当事者なんだから。私の口から言うことじゃないわ。」

「ハリーは…今バカなことで私と口聞いてくれないもの!」

「ごめん、ハーマイオニー…でも私は何も言えないわ。」

 

ハーマイオニーは鼻息荒くエルファバを睨む。真相を言ってもファイアボルトの一件もあり、今のハーマイオニーがいい方向に物事を進めるとは思えない。それにエルファバは誰にも言ってはいけないというハリーとの約束を破りたくはなかった。ハーマイオニーは今やルーピン教授並みに疲れ果てた顔をしている。

 

「そうっ!ならいいわ。エルファバもハリーと一緒で犯罪者の味方ってわけね!」

「私は…。」

 

エルファバは何か言う前にハーマイオニーは足音鳴らして去ってしまった。

ひとりぼっちになった。今年のハーマイオニーはよくどこかに消えていたが、その時は全く気にならなかった。同じ事象なのに今回は孤独を感じる。

 

「大丈夫?」

 

恐る恐る、一部始終を見ていたセドリックがエルファバの肩を叩いた。エルファバはため息をつき、本棚に寄りかかって座った。

 

「…大丈夫……じゃないかも。」

「ケンカ?」

「うん、それに近いわ…。」

 

セドリックもエルファバに合わせて本棚を背に座り込んだ。

 

「ハリーとちょっと…黙っててほしいって言われてたことがあって、それがハーマイオニーにバレてしまったの。私はハリーとの約束を守りたくてその、黙秘権を使用したのね。」

 

セドリックは黙秘権という言葉に吹いた。エルファバはブスッと睨みつける。

 

「セドリック、私真剣なのよ。」

「ごめん。」

「でも、そしたらハーマイオニー怒っちゃった…当たり前か。」

「ポッターからすれば、黙っててほしいことだったんだろう?それはそれを知ろうとするグレンジャーが悪いんじゃないか?」

「ハーマイオニーはハリーを心配してたの。」

「じゃあポッターに直接聞けばいいのに。」

「2人はケンカ中なの。」

「あー…。」

 

エルファバは体育座りで膝に顎を乗っけて考え込んだ。

 

「どうしてみんなお互いを思ってるのにうまくいかないのかしら。」

「そんなこともあるさ。」

 

セドリックの手は温かかった。その手の温もりはどうにかなるという不思議な安心感があった。

 

「早くみんな仲直りしてほしいな。」

「君は中間管理職みたいな立場だね。きっとすぐに仲直りするさ。」

 

セドリックを探す声がする。じゃあね、と言ってエルファバの頭をわしゃわしゃっと撫でた。力の加減ができなかったのか、ただでさえボサボサの髪がさらにボサボサになる。セドリックが離れて数秒後、エルファバはセドリックに対する恐怖、というより男性に対する恐怖が少しなくなっていることに気がついた。

 

(ルーピン教授の罰則で毎晩彼といるから…?)

 

 

ーーーーー

 

 

「エルファバ、ついてきてくれるかい?」

 

ある木曜日の夜、エルファバはルーピン教授の部屋で教材の整理をしていたところ、ルーピン教授に呼び止められた。

 

「今日は個人レッスンがあってね。君の手伝いが必要なんだ。」

 

荷造り用の鞄を持ったルーピン教授は少し機嫌が良さそうだった。

 

「はい。」

「良かった。」

 

基本的にエルファバはルーピン教授に返事しかしない。基本エルファバは必要最低限しか話さないがルーピン教授に対しては特にそうだった。しかし彼がそれを気にしている様子はなかった。廊下を出て歩くとすぐに、シリウス・ブラックがいる空き教室がある。静かなその空き教室は誰も気にも止めないくらい地味だ。

 

「あそこに何か思い入れが?」

 

ルーピン教授はエルファバと話したいらしい。

 

「いえ…。あそこで数日過ごしたんで。」

「ディメンターのことがあった時だね。」

「はい。」

 

そこからルーピン教授は何も話さなかった。エルファバがあの忌まわしい記憶を自分から追い出すことに集中しようとしているのが暗闇の中で分かったのかもしれない。今は冬だが、あの記憶が蘇るたびにエルファバの体はあの日のようにムッとした暑さを肌に思い出し、じんわりと汗をかく。

 

「1つお節介で言わせてもらうと、」

 

魔法史の教室の前で立ち止まると、ルーピン教授は言った。

 

「君は怪物なんかじゃないよ。少なくとも君には感情があって、大事な人を傷つけたくないと思えばそんな事態を避けることができる。例えば…そうだな、満月の時に自我を失う狼人間のほうがよっぽど怪物だ。」

「あなたにはどちらの気持ちも分からないと思います。」

 

ルーピン教授は怪訝そうにエルファバを見る。

 

「意識があってもなくても、人を傷つけるのは苦しいです。それに狼人間の方は魔法界で苦労していると聞きます。ホグワーツにももしかしたらいるかもしれません…今の発言はすごく失礼だと思います。」

 

軽蔑した感情が言葉に出てしまった。エルファバは、すいませんと謝った。

どうもルーピン教授とは折り合いがつかない。普通エルファバはここまで人に八つ当たりのようなことはしないのだ。

 

「いや、私も少し軽率だった。すまなかった。」

 

そんなエルファバをいつもルーピン教授は受け入れてくれる。エルファバは申し訳なかった。失礼だと不機嫌になったり、減点してくれれば心置きなくルーピン教授を嫌うことができるのに。毎回自分の器の小ささを感じさせられる。

 

教授は教授の扉を開けた。

 

「エルファバ?」

「ハリー?」

 

教室にいたのはハリーだった。青い明かりをつけた杖をこちらに向けている。お互いがお互いの登場に驚いていた。

 

「どうして…。」

「君もディメンターの追い払い方を習いに来たの?」

 

ハリーと話すのは久しぶりだった。

 

「いいえ…あなたこれから守護霊の呪文を習うの?」

「守護霊の呪文?」

「これから君が習う呪文の名前だよハリー。」

 

ルーピン教授は杖を振って教室の明かりをつけた。

 

「ボガートを使うんだ。ミスター・フィルチの戸棚に隠れていたのを使う。君がこれを見たらこいつはディメンターに変身するはずだ。」

 

鞄をビンス教授の机に置きながらルーピン教授はテキパキ答える。エルファバとハリーは目を合わせる。

 

「エルファバが言った通り、ディメンターを追い払う呪文は守護霊の呪文と呼ばれるものだ。普通の魔法のレベルを超える複雑な魔法だよ。」

「どんな力を持っているんですか?」

「呪文がしっかり成功すれば守護霊が出てくる。いわば保護者だよ。これが君とディメンターとの間で盾となる。守護霊は希望や幸福といったプラスのエネルギーで出来ていて、ディメンターはそれを傷つけることはできないんだ。けど、さっきも言った通り守護霊(パトローナス)は作るのが非常に困難だ。君には難しいかもしれない。」

 

そうは言ってもハリーの強い決意を崩すことはできなかった。

 

「どうやって守護霊を?」

「1番幸せな思い出を考えながら呪文を唱えるんだ。」

 

エルファバは自分の幸せな思い出を考えた。幸か不幸か、エルファバの幸せな思い出というのはかなり限られている。エディと仲の良かったあの日々か、ホグワーツでの生活だ。

 

「呪文はエクスペクト・パトローナム 守護霊よ来たれ だ。」

 

エルファバはハリーとルーピン教授のやり取りを尻目にエルファバは教授の隅で杖を取り出し、呪文を唱えた。

 

「エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来たれ 」

 

シューと銀色の光を帯びた強い煙が杖の先から現れその煙は一瞬4つ脚の動物の形のようになり、消えた。エディと一緒に雪だるまを作ったりアイススケートをした思い出だった。

 

(少し思い出が弱かったのかも。)

 

エルファバはその1回で守護霊の呪文をするのを止めた。ハリーはエルファバのものよりもずっと薄くてぼんやりしたものだった。ボガートが扮したディメンターを倒そうとするたびにハリーは倒れ、悪夢にうなされた。

 

「ハリー、ハリー!起きるんだ。」

 

ハリーが再びおきあがった時、小さい声でハリーはつぶやいた。

 

「父さんの声が聞こえた。母さんを捨て身でヴォルデモートから守ろうとしてた。」

「ジェームズの声を?」

「はい。」

 

ルーピン教授はしばらく考え込んだ。ハリーはまだ意識がぼんやりしているようだった。

 

「…こんなこと君に言うんじゃなかった。君にこんなことさせるなんて…。」

「!違います!もう一度やらせてください!」

 

ハリーはガバッと立ち上がり、構えた。ルーピン教授は思いをこらえたような顔をして、もう再び箱の蓋を開けた。またディメンターが現れ、ハリーの呪文を唱える声が小さくなる。

 

「……シリウス………!」

 

ハリーは気絶しなかった。じっと体を持ちこたえていた。彼がつぶやいたその名前はルーピン教授にも、エルファバにも、届いた。

 

「泣いてる僕を…ハグリッドが助けてくれた。外に出たらシリウスがオートバイに乗ってきた…シリウスはハグリッドから父さんと母さんが死んだって聞いて…取り乱してた。」

「ハリー!」

 

ルーピン教授はいつもの呪文でボガートを消した。そして大股で少し意識が朦朧としているハリーに近づき、肩を掴み、揺すった。

 

「ハリー!シリウスに会ったんだな!?そうなんだな!?答えるんだハリー!」

「あっ、会いました…。」

 

その気迫に押され、ハリーは思わず答えてしまったようだった。ルーピン教授は焦っていた。何かに追われているような顔をしている。冷や汗をかき、その蒼白な顔にハリーもエルファバも驚いていた。

 

「るっ、ルーピン教授…シリウスは…シリウス・ブラックは無実です!まだ証拠はありませんけど…彼は命をかけて僕を守ろうとしてくれたんです!」

 

ルーピン教授は杖を床に置き、しゃがみこんだ。

 

「…分かってる…!分かってる…ハリー!私は…。」

 

明かりが一斉に消えた。3人が声を上げる前に、3人のどの声でもない声が教室に響いた。

 

「オビリエイト 忘れよ」

 

ドサリ、と人が倒れる音がした。

 

「リーマス!約束したじゃないかあっ!」

 

ルーピン教授の杖を持ったガリガリの男が、倒れたルーピン教授を唾を飛ばして怒鳴り、手を踏みつけた。

 

「シリウスが…シリウスがこの城にいる…!!探さなきゃあ…殺さなきゃあ…!!僕は殺されるうっ!!」

 

男はうずくまり、ガタガタと震えた。よだれと涙を垂らし、自らに降りかかる恐怖におののいた。

 

「ハリーぃ…いいよねえ…ジェームズとは親友だったんだ…ちょっとの間借りるよお…っ!」

 

男はハリーの手に握られた杖を奪った。

 

「インペリオ 服従せよ」

 

ルーピン教授はゆらりと正気のない顔で立ち上がった。

 

「リーマス…僕の親友…バラされたくないよねぇ…あのこと?嫌だよねえ?傷つきたくないよねえ?」

 

まるで操り人形のようにルーピン教授はうなづいた。

 

「そぉそぉ、それでいい…この2人を寮に返すんだ…。」

 

男が机の下に隠れると、ハリーとエルファバがゆっくり立ち上がった。

 

「大丈夫かハリー。」

 

ルーピン教授はハリーに近づき、起き上がるのを手伝った。

 

「もう今日は遅い。2人とも帰るんだ。」

 

ハリーとエルファバは何も言わず、教室から出て行った。沈黙のまま2人はグリフィンドール寮までたどり着き太った貴婦人(レディ)に合言葉を言って入ると、まだ談話室内はガヤガヤしていた。2人は端っこまで行くとハリーは口を開いた。

 

「…ありがとうエルファバ。」

 

ハリーは周りの目を気にしながら答えた。

 

「いいの。」

 

エルファバは震えていた。周囲のカーテンや絨毯が少しずつ凍っていく。

 

「ごめんなさい…怖くて…デフィーソロ…」

「大丈夫、僕もだ。君が僕とあいつの間に氷の壁を作ってくれなかったら今頃僕は何もかも忘れてた。ルーピン教授は…?」

「多分ハリーの杖で操られてるわ。多分記憶はあると思うんだけど…。」

 

エルファバは涙目だった。

 

「真っ暗になる直前、鼠がルーピン教授の杖の前にいたの。私真っ暗になった時、一か八かで記憶を頼りにルーピン教授とハリーと私の前に壁を作ったの。それですぐに氷を解いたんだけど…ごめんなさい、あの時ペティグリューごと凍らせれば…!」

「ルーピン教授も記憶を消されていないなら倒れたフリをしていたんだ。きっとあの判断は正しかった。彼は脅されてんだ。シリウスに会わなきゃ。」

「ダメよハリー!今会ったらペティグリューにシリウスの居場所が知られるわ!」

「でも、危険を知らせないとペティグリューにシリウスが殺される!」

 

ハリーもエルファバも半分パニックだった。

 

「全部マクゴナガル教授に伝えましょう。」

「僕らは"記憶を消されて"いることになってるんだ。それにルーピン教授が操られてるなら絶対どの教授もマークされる。」

「じゃあ…どうすれば…。」

「ミャーン。」

 

ロビンがエルファバの足にじゃれつき、さりげなくハリーを踏みつけた。

 

「…エルファバ。ロビンって君の言うことなら何でも聞く?」

「多分?どうして?」

「シリウスに伝える手段を思いついた。」

 

 

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