ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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10.ふわふわした小さな問題

「ロビン。」

「みゃー!」

「お願いがあるの。これをシリウス・ブラックのところに持って行って。」

「みゃ?」

 

エルファバは、金の首輪になにかを括り付けた。

ロビンは普通の猫よりかなり賢い。確実に言葉を理解しているし、誰に甘えて誰に甘えるべきではないかをきっちり分かっている。

 

案の定ロビンは誰のことか、瞬時に理解した。

エルファバの問いかけに対し、先ほどまで生き生きしていたがシリウス・ブラックという名前を聞いた瞬間小馬鹿にしたような顔をして座り込んだ。

 

ハリーとエルファバは呆れ顔で、ロビンを見た。

 

「それやればエルファバから高級キャットフードをもらいながら、撫で撫でしてもらえるよロビン。」

「ええ。」

「みゃっ!」

 

いきなりシャキッとして、ロビンは一目散に走り去っていった。

 

「…まだ行き先伝えてないのに…。」

「ロビンって人間の言葉が分かるのはすごいけど…頭いいんだか悪いんだか。性格は最悪だけど。僕らも用意しよう。」

「うん。」

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

計画は放課後に行われた。エルファバは中庭のベンチに座って本を読むフリをして、周辺を見回した。途中数名の男子生徒が話しかけてくるというハプニングに見舞われたが、なんとか回避(逃走)した。

 

「エルファバ、僕、君の後ろにいるよ。」

 

10分ほどたってハリーの声が背後から聞こえた。エルファバはチラリと後ろを見ても何もない。

 

「全部順調。次の隠れ家は暴れ柳。」

「暴れ柳?」

 

エルファバは聞き間違えかと思って素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「うん。そこまで歩いて。」

「分かったわ。」

 

少し暗くなった中庭から廊下を通じて入った時、エルファバは手探りで空を切った。柔らかい布の感覚に触れるとそれを掴み、たくし上げて、中に入った。

 

「暴れ柳の近くに何かあったかしら?」

 

透明な布の中にハリーとハリーの腰ぐらいの犬がいた。

 

「シリウスがそこに行けってさ。僕も詳しいことは分からない。」

 

廊下を抜けるとホグワーツ名物の暴れ柳がゆらゆらと枝を揺らしていた。

 

「地図で見たらこの下に通路があった。」

 

犬はマントから飛び出し、根元まで走って行った。

 

「シリウス!」

 

根元のコブに一直線に走った犬はコブに両前脚を乗せた。するとゆらゆらと動いていた枝が普通の木のようにピタッと止まった。エルファバとハリーは顔を見合わせた。

 

「知らなかった。」

 

犬はそこから見える通路に真っ直ぐと歩いて行った。エルファバとハリーもついていく。どうやらどこかの小屋のような場所と繋がっているようだった。破壊された椅子などが転がっている。犬はどこに行くか分かっているように階段を登り、一部屋へと入って行った。

 

「もう脱いでいいと思う。」

 

部屋に着き、エルファバとハリーは蒸し暑いマントから出ると、ホコリが溜まったベットに腰掛けた。黒い犬は一瞬でボロボロのローブを着たシリウス・ブラックに戻り、ドサリと床に座った。

 

「最近ネズミが増えたなとは思ったんだよ。」

 

ブラックの第一声はそれだった。かったるそうにハリーが持ってきたカボチャジュースを飲み干す。

 

「あいつは昔からネズミのネットワークを使って情報収集してたからな。あと少し遅かったら俺はあいつに捕まってたかもな。」

 

ははっと乾いた笑いをするブラックにハリーは心配そうな目で見た。目が合ったブラックはハリーの頭をワシャワシャと撫でる。

 

「あの猫使って手紙を送るってのはいい手だったなハリー。」

「本当間に合って良かった。クルックシャンクスは…その今使えなくて。あ、エルファバありがとう。」

 

ハリーはエルファバに杖を渡す。

 

「…ハリー、お前の杖は?」

「ペティグリューに盗まれました。」

「は?!」

 

ハリーはブラックに昨日起こった出来事を事細かに説明した。ルーピン教授の手をピーターが踏まれるくだりになるとブラックは激怒した。

 

「話をまとめれば、あのファッキン・ピーターはハリーの杖を使ってリーマスを操り、俺を殺そうとしてるってわけだな?」

「まあ、ざっくりまとめれば。」

「ファック!」

 

ブラックは舌打ちをしてイライラと頭をかいた。シリウスが叫んだ罵り言葉はマギーがよく言っているのでエルファバはあえて意味を聞くことはなかった。

 

「けど、気になることがあって…。ルーピン教授はおそらく、操られる前から…ペティグリューを匿ってた。」

 

ハリーの疑っているような口ぶりに反してブラックはあっけらかんと答えた。

 

「だろうな。リーマスは脅されてたんだ。あいつはリーマスの弱みを握ってる。リーマスはあんなちんけな奴の言うことを簡単に聞くような男じゃない。」

「どんな弱みを…?」

 

ブラックは首を振った。

 

「それはあいつの人生に関わることだから言えない。」

 

ハリーはエルファバに助けを求めるような目をしたがエルファバは首を振った。ルーピン教授の弱みなど知る由もない。

 

「シリウスが言えないなら、僕らが調べて憶測をたてるならいいんだよね?」

「さすがジェームズの息子だな。」

 

シリウス・ブラックはニヤッと笑った。

 

「まあそれを知らなくても服従の呪文でリーマスが操られてるなら、いくつか破る手段はある。あいつが強い意志を持ち、それを破るかハリーの杖を取り戻すかだ。可能性として確実なのは後者だな。」

「今どこにいるかも分からないペティグリューをどうやって探し出すの?」

「簡単だ。俺が囮になって出てきて奴が俺を殺そうとしている隙に杖を奪う。」

「それって、シリウスが危ないんじゃ…?」

 

ブラックは犬が吠えるように笑った。

 

「大丈夫だハリー。俺はあいつに殺されるほどヤワじゃないさ。心配するな。とりあえずハリーはリーマスの言動をよく見てほしい。あいつの意志の強さならピーターの呪文を破る可能性だって充分あるんだから。」

 

ハリーは不満気だった。エルファバもブラックはペティグリューのことを甘く見過ぎだと思った。その甘さが13年間自らを鎖に繋いだというのに。

 

「ただ急いだ方がいい。服従の呪文は体力を奪う。あいつのためにも早く行動を移さねーと。ハリー、お前のためにもだ。」

 

ブラックはハリーの両肩に手を置いて真剣に話しかけた。

 

「ハリー、もしもちょっとでもピーターがお前に危害を加えたら、俺はお前を助けに行く。どこにいてもだ。」

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「ハーマイオニーだ。」

 

透明マントを2人で被って暴れ柳から出たあと、ハリーは言った。

 

「ハーマイオニーはルーピン教授の弱みを知ってるはずだ。そういう素振りを見せてた。シリウスあのままじゃホグワーツに乗り込んできちゃうよ。その前に止めないと。」

「そうね。」

「エルファバ、ハーマイオニーに聞いてくれない?」

「今ハーマイオニーと口を聞いてないわ。」

 

向こうが一方的にそっぽを向いているので、同室のパーバティとラベンダーが巻き込まれているのをエルファバは思い出す。

 

「…どうしよう。」

「ハーマイオニーに全部話すのは?」

「信じてくれないよ。」

「ハーマイオニーは賢いわ。ミスター・ブラックは当然無実なんだから話の筋は通るしルーピン教授が操られてるんだからルーピン教授の様子が変だってハーマイオニーも分かるはずよ。」

「……うん。」

「ハーマイオニーは察してるわよ。」

「……うん。」

「なんならミスター・ブラックに直接会わせればいい。」

「……うん。」

「ハリー、今は非常事態よ。」

「……うん。」

 

誰もいない廊下まで来るとエルファバはマントからでて腕を組んだ。

 

「何が嫌なの?」

 

ハリーは眉間にシワを寄せてマントを畳んだ。

 

「その…ハーマイオニーだって隠し事してるのに不公平だと思うんだ。分かってるよ、僕が悪いのは!」

 

ハリーはエルファバが口を開く前に慌てて言った。

 

「分かってるけど…ハーマイオニーはいっつも自分が正しいみたいな態度してるし、人に親切押し付けるようなことして…。」

 

段々ハリーの声が小さくなっていった。口に出せば出すほど自分が残念なプライドに縛られてる自覚が湧いてきたのだろう。

 

(男の子ってなんか独特のプライドがあるわよね…いい格好しようとか、自分の所有物に関する執着心とか。)

 

エルファバはこれを言えばハーマイオニーは100%同意して自分の意見をまくし立てるだろうと思った。少なくともハリーは自覚しているだけマシだろう。

 

「私、ルーピン教授の罰則行かなきゃ。」

「えっ…ええ?」

「だって私は昨日の一件は"忘れてる"ことになってるし。」

 

エルファバはいつも以上に感情を出さないように淡々とハリーに告げた。

当然今やさらに危険人物となってしまったルーピン教授と2人だけで過ごすのは怖い。しかし罰則が続行している以上、それを避けてはいけないのだ。

 

「僕も行く。」

「そんなことしたら怪しまれるわ。」

 

ハリーはエルファバの感情が読めなくて少しイライラしているようだ。髪の毛をガシガシかくのがシリウス・ブラックに似ていた。

 

(なんで似るのよ…。)

 

「エルファバ、本当に…相手はルーピン教授の仮面を被ったペティグリューだ。僕は行けないから…誰でもいい。僕らより年上で男子生徒の子をなんか口実作って一緒にいさせて!」

「そんな人いないわよハリー。」

「…いるよ。エルファバ。君と仲が良くて、頼んだら二つ返事でオッケーしてくれる年上の男子生徒。」

 

ハリーはそういうとそのままエルファバを連れて図書館へと向かった。エルファバはずっと理解できないまま着いていく。

 

「よしっ、いた。」

 

図書館の入り口付近の席で、ハリーたちより年上の体格ががっしりとした男子生徒たちが勉強に勤しんでいた。制服に黄色が見える。ハッフルパフの生徒たちだ。エルファバとハリーは一番近い本棚に身を隠す。

 

「まさかセドリックのこと…?」

「ああ。絶対オッケーしてくれるよ。」

 

ガタイのいい生徒に紛れて勉強しているガタイのいいセドリック。この頃はテストが近くなり、かなり忙しそうだった。あまり手を煩わせたくない。

 

「ハリー…セドリックは今O.W.L直前だから、あまり「エルファバ、セドリックのテストと自分の命どっちが大切なんだ!これは非常事態なんだよ!」」

 

ハリーは小声、しかし厳しめにエルファバをたしなめる。

 

「フレッドとジョージは?あの2人テスト勉強全くしてないって噂だし。」

「罰則にあの2人を連れ込むのは良くないと思う…。」

 

あの2人を連れて行くことで罰則が増えそうだ。エルファバは深呼吸をする。

 

(そもそも断られる可能性も充分あるわけで。将来がかかっている忙しい時に申し訳ないけど…!背に腹はかえられぬとはまさにこのことね。)

 

「わかった。セドリックに聞くわ。」

 

ハリーは当然だと言わんばかりに頷く。そしていきなりエルファバの髪に手をかけ、手櫛でエルファバの白い髪を整えだした。

 

「ブラシとかある?なるべく容姿整えて!」

「あ…るけど、どうして?」

 

エルファバはバックに手を突っ込んであまり使用していないブラシで髪を整えながら聞く。ハリーは今は非常事態だから仕方ない、と呟いた。

 

「いいかい。ある程度見た目を良くしてセドリック・ディゴリーに近づいて、ちょっと困った感じの声を出して上目遣いでこう言うんだ。『セドリック、あなたにしか頼めないの…お願い。』って。他の誰でもないセドリックに頼んでいることを強調するんだ。できればセドリックのローブの端を少し引っ張って。そんなことしなくても大丈夫だと思うけど、エルファバの言う通りセドリックはテスト直前だから、確実に100%イエスをもらえるように。」

「ハリー。それに近いこと、ラベンダーが貸してくれた『男を落とすテクニック!魔法のように男性があなたを好きになる!』に書いてあったんだけど、私は今セドリックに頼み事をするのよね?」

「エルファバ。君にこんなこと教えたくなかったんだけど、聞いてほしい。今後本当に困った時はこれを男に使うんだ。君がそれをやったら男は絶対なんでも言うこと聞く。忍びの地図を賭けてもいい。」

「それってつまり好きじゃないのに好きフ「エルファバ!時間がない!行って!」」

 

ハリーに押されて、エルファバはハッフルパフ集団のもとへ向かった。かなり困惑している。恐る恐る、男子生徒集団の元へ向かうエルファバ。丸いテーブルに6人の男子生徒がいる中で、セドリックはエルファバに背を向けて座っている。

 

エルファバは、ゆっくりゆっくり近づきセドリックに声をかけようとするとセドリックの向かいに座る男子生徒と目があってしまった。ライオンに見つかった小動物のように固まるエルファバ。

 

「おいセドリック。」

 

セドリックが顔を上げると、その男子生徒は顎でエルファバをしゃくった。その人も含め座っていた男子生徒たちみんな顔をあげ、そちらを向く。

そして全員がニヤつき始める。ガタイのいい生徒たちからニヤニヤ見られてエルファバは恐怖するがー。

 

「あ、エルファバ。どうした?」

 

セドリックが後ろを向く。テスト勉強のせいか少し目の下にクマがある。エルファバは罪悪感で胸が裂けそうだった。

 

(エルファバ…頑張れ…!)

 

本棚の陰でハリーは全力でエルファバを応援した。

 

(ごめんなさいセドリック…。)

 

エルファバはセドリックのローブを軽くつまんだ。

 

「セドリック、あのね…セドリックにしか頼めないことがあるの…忙しいのは分かってるんだけど…おねがいっ。」

 

エルファバは上目遣いで、セドリックを見つめ囁いた。緊張気味だったのか艶やかな白い髪から覗く青い目が少し潤んでいる。

 

(すごい…100点満点だエルファバ…!)

 

恋愛に超絶鈍感のエルファバが、ここまでできると思わなかったハリーは自分の教えたことを完璧に仕上げたエルファバに大量のチョコレートをあげたいと思った。

 

セドリックは無言で立ち上がり、エルファバの腕を掴んで誰もいないところへ連れて行った。置いてかれた男子生徒たち5人は、ため息やら口笛やらを吹く。

 

「…やっば。」

「あれはそそるな。」

「いやー、テスト前にいいもん見れた。」

「何見せられたんだ俺ら。」

「あれ確信犯か?」

「写真撮ってセドリックに売りつけたかったわ。」

 

上級生たちからの感想(フィードバック)を聞き、ハリーは勝利を確信した。

 

(けど、エルファバには本当に重要な時だけ使うように言わないとな…。)

 

セドリックが早足で戻ってきて、早急に荷物をまとめてルーピン教授に質問があるから抜けると言ったのはその数秒後のことだった。

 

 

ーーーーー

 

 

「ルーピン教授、この前の説明についてなんですけど…。」

 

セドリックは生気のない目のルーピン教授に質問をしてた。エルファバは今度使う資料を選別をしながらチラリとその様子を伺った。セドリックはエルファバが本でかじった程度の知識について質問している。

 

「ありがとうございます。」

「ああ。私は少し私室からちょっと取りに行くものがあるから待っててね。」

 

淡々と告げたルーピン教授は2人を置いて、教室を出て行った。罰則の生徒を置いてどこかへ行くなど前までにはあり得ないことだった。

 

「それで…ルーピン教授との罰則に付き合ってほしいって君何したの?」

 

ルーピン教授が出て行き早々セドリックは面白おかしそうにエルファバに聞いた。

 

「消灯時間に野外にいたの。」

「なんで?」

「そうしたい時ない?」

「ない。」

「冬の夜空って最高なのよ。」

 

セドリックはケタケタ笑って椅子に身を任せた。

 

「エディさ、この前も消灯ギリギリに窓開けて上半身を出して叫んでたんだ。『本っ当あたしホグワーツの夜空大好きっ!』って。君たち似てるよね。」

「やめてよ。」

「ごめんごめん。そんな睨まないでよ。」

 

セドリックは隣の椅子を引いて、エルファバに隣に座るように促す。素直に座ったエルファバをセドリックはじっと見つめた。エルファバはキョトンとして見つめ返す。セドリックはエルファバから目を逸らし、窓を見て話しだした。

 

耳が少し赤い。

 

「母さんが君とご飯食べたいってさ。」

「えっ。」

「クリスマスの時に君の話をしたんだ。…多分君のお母さんとは全然違う人だって。暴力とか陰口とかそういうマイナスなものとは無縁の優しい子だって言ったら、お詫びを兼ねてもう一回食事したいって。」

 

エルファバはどう返せばいいかわからなかった。とても光栄な話だった。けれども、セドリックが話したエルファバ評は少し誤りがあった。

 

「当然君もあの場にいていい気分にはならなかったはずだ。だから、本当に君が良ければなんだけど…。」

「ううん、嬉しいわ。本当に嬉しい。こんな私で良ければいつでも…。」

「"こんな私"だなんて言わないでエルファバ。」

 

窓を見ていたセドリックが向き直り近づいてくる。エルファバは反射的に下がろうとしたが、セドリックが腕を掴んだ。

 

「エルファバ、君はもっと自信を持つべきた。君は気遣いができて、知的で、優しくて…その、きれいだ。君のこと嫌いになる人なんていないよ。」

「えっ、あー…ありがとう…。」

 

セドリックのゴツゴツした手が自分の動きを拘束しているのが嫌だった。怖かった。彼のがっしりした手が鈍器となり、体を破壊されるかもしれない。

 

「セドリック…ありがとう…ごめんなさい…離して…。」

「怖がらないで。何もしないから。」

 

そんなことはエルファバも分かっていた。セドリックはさらに近づきエルファバの顔を覗き込む。

 

「エルファバ、10月の頃からずっと変だ。どうして僕を怖がるんだい?少しずつ戻った気がしたけどやっぱり…本当、心当たりがないんだ。何かしたなら謝る。」

「違うの…本当に…セドリックは悪くないの…!ただ、私ちょっと男の人怖くて…。」

「ポッターやウィーズリーと、僕は何が違う?」

 

セドリックは迫った。エルファバは混乱してバランスを崩し、椅子から落ちてしまった。

 

「っつう…。」

「ごめん!大丈夫?!」

 

セドリックは勢いよく立ち上がった。セドリックはエルファバを見下ろした。

 

(私は非力な痩せっぽっちの8歳だった。彼は私の叔父さんだった。必死に生きようとする私を上から嘲り、私を殴る。)

 

「エルファバ?」

 

(違う、ここは教室よ。彼はセドリック・ディゴリー、ハッフルパフ寮の6年生優秀な生徒で優しい人。叔父さんとは程遠い人間よ。)

 

エルファバは自分に言い聞かせた。

 

「っ!!」

 

セドリックの視線はエルファバから外れた。その代わりに次に彼の目に映ったのは見慣れた教室が銀色に染まっていくその瞬間。自らの頬に触れる白い粉に触れ、それが指に触れて透ける様子を不思議そうに眺めていた。

 

「セドリック…。」

 

エルファバの口から白い息が漏れた。

 

「ピーブスがなにかしでかしたんだね。本当嫌な奴だよ。」

 

セドリックはエルファバがやったものだとは思わなかったらしい。ハハッと乾いた笑いをしてエルファバに手を伸ばした。

 

「ダメっっっっ!!!」

 

バキッバキッ!!

 

叫んだ時には遅かった。エルファバに手を伸ばしたそのままの形でセドリックの腕が分厚い氷に覆われいた。

 

「え…あ…そんな…そんな…!ごめんなさいセドリック…!セドリック…! 」

 

エルファバがパニックを起こせば起こすほどどこからか雪と風が生まれ、羊皮紙や羽根ペンが舞う。

 

「ちがうの…!こんなことしたかったんじゃ…!デフィーソロ、デフィーソロ…!!」

 

エルファバは杖を取り出し、あの呪文を何度も何度も唱えた。しかし、氷が消えていくのと新しく増えるのが同時進行しているので結果的に無意味だった。

 

「エルファバ。」

 

セドリックの背後に立っていたのはルーピン教授だった。さっとエルファバの近くまで来て、しゃがみこむ。

 

「エルファバ、落ち着くんだ。落ち着いて呪文を唱えれば心配することなんて何もない。」

「触らないでっ!!」

 

手を伸ばしたルーピン教授をエルファバは拒絶した。

 

「エルファバ。」

「教授の腕も凍らせたくないんです…。」

 

エルファバは必死に自分を落ち着かせる方法を考えた。降り注ぐ雪を見ると、小さい時にエディがこれを見て大喜びしたのを思い出した。

少しずつ心が落ち着いてくる。

 

(エディは今もこれを見て喜んでくれるかな…。大嫌いなもので喜ぶエディを見て落ち着くなんて皮肉な話。)

 

エルファバはセドリックに杖を向け、まだ少し震える声で唱えた。

 

「デフィーソロ…」

 

セドリックを覆う氷が水となって消えていき、教室を覆う氷と積もる雪がなかったかのように元の色を取り戻していた。

 

「腕のことはごめんなさい。私は…コントロールできないの…。あなたを危ない目に合わせるつもりなんて毛頭なくて、でももし怖くなっ「エルファバ。」」

 

半分パニックになりながら、謝罪を述べるエルファバをセドリックは制した。ゆっくり顔を上げると、驚くことにセドリックは笑っていた。

 

「大げさだよ。ただ腕が凍っただけだ。」

 

エルファバは言葉を失ってしまった。てっきりセドリックとはもう友達ではいられないと思った。セドリックの腕が凍った時、エディが凍ったことを思い出した。母親の激昂に父親が自分から離れる瞬間、そして自分を襲った暴力の数々。負の思い出がエルファバの頭をよぎり、セドリックとの離別という新たなる悪夢が自らの中に刻まれると思ってたのだ。

 

「…本当?」

「うん。」

「気を使ってない?本当に気にしなくていいから。」

「逆に君はこれを僕に知られることを恐れていたのかい?怖がることないよ。だってすごく綺麗だった。」

 

セドリックに自分の全てを肯定された気分になった。セドリックに自分の夜の秘密を見せたら喜んでくれるだろうか…エディと同じように。エルファバの中でそんな淡い期待が生まれる。

 

「セドリック。このことは誰にも言わないでほしい。」

 

ルーピン教授はセドリックに語りかけた。

 

「エルファバは決して病気とかそういうのではないんだけれど、多くの人物に知られるとエルファバがプレッシャーに感じるから…いいかな?」

「ええ。もちろんです。」

 

セドリックはハッキリと頷き、エルファバにニッコリ笑いかけた。

 

「良かった…それじゃあエルファバ、罰則を続けようか。」

 

その言葉は合図だった。察したセドリックは散らばった荷物をまとめてバックに詰め、帰り際にエルファバに小さく手を振った。

 

「じゃあねエルファバ。また明日。」

「バイバイ。」

 

(…あれ?)

 

エルファバは違和感に気がついた。

 

「エルファバ。そこの本取ってもらっていいかな?」

「はい。」

 

(しまった…ルーピン教授と2人きりになっちゃった!)

 

再びパニックのエルファバをよそにルーピン教授は杖を振って、傾いた椅子や机を戻し、散らばった羊皮紙をまとめている。

 

「エルファバ、こんなこと言うと君はまた嫌かもしれないけど、」

 

ルーピン教授は崩れた不思議な球体の模型を浮かせ、作動させてエルファバに向き直った。

 

「君は能力によってたくさんトラウマがあるだろう。それは重々承知だ。さっきもセドリックの腕を凍らせてしまったことによって彼との友情の終わりを悟ってたに違いない。でも、そうはならなかった。」

 

ルーピン教授は微笑んでエルファバの様子を伺う。

 

「本当に大事な友人は君の能力だけで君の元からは離れない…なんというか、そうだな…君の能力のことは、フワフワした小さな問題なんだ。」

 

当然それを抱えている身としては辛いけどね、とルーピン教授は付け加えた。

 

「もっと君を慕う人を信じるのも悪くないはずだ。」

「でも、もしも、もしもそんな彼らを傷つけてしまったら?そうしたら私はどうすればいいんでしょうか?」

「別に人を傷つけるのは何も君だけじゃないんだ。君の能力が目に見えるだけで誰しも人を傷つける。」

 

また目頭が痛くなってきた。セドリックに大げさだと言われた時も必死に泣くのを堪えた。エルファバは下唇を噛む。

 

「いいんだよ泣くのを堪えなくて。泣いてこの部屋が凍るとかも考えなくていい。」

 

ルーピン教授はエルファバに1番近い椅子に腰掛け、エルファバを見た。

 

「私は意外と君の泣き顔を見てるしね。」

 

エルファバは小さい子供のように声をあげて泣き出した。上がった温度がまた下り、エルファバを中心に放射線状に雪の結晶の模様が広がっていった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「もう一回確認するけど、その時はムーニーは完全に呪文からは解放されてたと。」

「うん。」

 

次の日のエルファバの顔はひどいものだった。目が腫れて泣いたのは丸わかりだったのでエルファバ・ファンクラブのメンバーはざわついていた。エルファバが泣いた理由の考察は数日にわたり考えられ、そんな時にそばに居られるハリーは絶賛妬まれ中だ。ハリーは(1年の時から)もう慣れた妬ましい視線を背中に浴びながらコーンスープをすすった。強いて言えば、セドリックが悪いはずだ。自分だけ責められるのは解せない。

 

と、ハリーは思う。

 

「けど、あの様子だとまたかかったみたいだ。」

 

ハリーは教職員席で焦点の定まっていないムーニーをパンの持っている手で指した。

 

「そうね。」

「つまり、ワームテールの呪文は微弱ってことだ。」

 

ワームテールとはピーター・ペティグリューのことだ。学生時代のあだ名らしい。ムーニーはルーピン教授。パッドフットはシリウス・ブラック。それを暗号としてそれを使うのをエルファバが提案した時、シリウス・ブラックはかなり嫌がったが、ハリーがお願いした瞬間あっさりオッケーした。

 

(親バカ。)

 

エルファバは思った。実際ハリーもハリーで父親的な立場の人物がいないのでシリウスの親バカっぷりに気づいていない。気づかない方が幸せなこともあると思い、エルファバは黙っている。

 

「じゃあパッドフットが飛び込む心配もなくなってきた。」

 

ついでにここ数日でファイアボルトが返却されたのでハリーはポジティブ思考になっている。

 

「ムーニーはその…なんだっけ?」

「服従の呪文。」

「それっ。それを一瞬でも破ったならワームテールを捕まえるなりなんなりすれば良かったのに。」

「多分それができないのがムーニーの秘密につながるんでしょうね。」

 

エルファバはバターをトーストに塗りながら淡々と語る。

 

「…僕らの斜め後ろでハーマイオニーが君を見てる。」

 

気づいていたが、エルファバはあえてそれを見ようとはしなかった。

 

「君が泣き腫らしたのは知ってるけど自分は事情知らないから知りたいけど、僕がいるから多分話しかけられないんだろうね。あ、来る。」

 

エルファバが後ろを向くと、ハーマイオニーが何かを決意した顔で2人の顔を交互に見た。

 

「ハリー…あなた、シリウス・ブラックに会ってるわね?」

 

ハリーは信じられないといった顔でエルファバを見た。

 

「彼女は何も言ってないわ。黙秘権使ったの。」

「それ半分答えてるようなものじゃない?」

「ごめん。」

 

エルファバはシュンとして俯いた。

 

「私が問いただしたの。エルファバは悪くないわ。ハリー…私決めたの。ここ最近ずっと殺人鬼と会っているならあなたは殺されてもおかしくないなって。けど、あなたはここにいる。」

「ああ、ピンピンしてるよ。」

 

ハリーはちょっと皮肉っぽく言った。シリウス・ブラックを犯人扱いしていたことを根に持っている。

 

「それにね…。」

 

ざわついている大広間でハーマイオニーは声を落として話した。

 

「昨日の夜、ロンがペティグリューに会ってたの。」

「えっ?!」

「シッ!!」

 

ハリーの驚嘆の声に気づいた人は誰もいなかった。

 

「ペティグリューは談話室にいたの。ロンとは何回も会っているような口ぶりだったわ。彼はすごく焦っているみたいだった。ロンに協力を求めていたの。ロンはできるだけ協力するけど、心当たりがないって言ってたわ。ロンはペティグリューを信じきっていたんだけど、その…。」

 

ハーマイオニーは口ごもる。

 

「なに?」

「エルファバ、気を悪くしたらごめんなさい。ペティグリューはエルファバは魔力を制御できない化け物だって言っててその辺でロンも不信感を抱いたみたいだったわ。」

「仮にもロンとエルファバがずっと一緒にいるのを2年間も見てたのに何言ってるんだ?」

 

ハリーの疑問はもっともだった。

 

「ペティグリューは完全に冷静さを失ってたわ。けどそんなこと言ってたから確信したの。ペティグリューはおかしいって。だから私ちゃんとハリーの意見を聞きたいの。」

 

ハーマイオニーがそう言い切ったタイミングで、寝癖をつけてパジャマ姿のロンが現れた。見た目とは裏腹に深刻そうな顔つきである。

 

「あの…おはよう。みんなに言わなきゃいけないことがあるんだ。」

「「ペティグリューに会ってた?」」

「うん、そう…へ?なんでみんな知ってるの?」

 

ハーマイオニーは呆れた顔で腕を組んだ。

 

「ハーマイオニーが教えてくれた。」

 

エルファバは無邪気に答えた。

 

「ああ…ええ…そうなの…。」

 

ロンは気まずそうにモジモジとした。

 

「もう授業が始まっちゃうわ。今夜みんなで話し合いましょう。」

「「待って!」」

 

去ろうとしたハーマイオニーにハリーとロンが同じタイミングで引き止めた。

 

「なに?」

 

2人は顔を見合わせ、口をモゴモゴさせて言った。

 

「ごめん。」

「ごめんなさい。」

 

ハーマイオニーはため息をついてから、吹き出した。

 

「いいわ。私も勝手に箒のこと言ってしまってごめんなさい。」

 

3人がお互いに謝っている時、エディが友達数人と大広間に入ってきた。

 

「エディ、それって大丈夫なの?」

「大丈夫だよ!すっごく怯えてたしさ、そのままほっとくのは可哀想だよ。」

「うーん、でもペットショップのやつとは違うんだよ?魔力があるわけじゃないしさ、バイキンいっぱい付いてるよ。」

「そーなの?でもその割にキレイだったよ。それにさ、」

 

エルファバは自分の集中を3人に戻そうとした時、衝撃的な言葉が入ってきた。

 

「あの子前足欠けてたからそれが治るまでは一緒にいなきゃ!」

 

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