ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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11.ハロウィンの悲劇

エディは珍しく、どの寮にも行かず、校庭で遊ばず、ルーピン教授のところにもカドガン卿の絵の場所にも行かず、太った修道士とも喋らずに自分のベッドで新しく飼い始めたネズミの世話をしていた。

 

「なーんか、痩せっぽちだねーあんた。」

 

柔らかいシーツの上を歩きづらそうにポテポテと行くネズミを見ながら、エディは今だに外せない、いや外さない包帯の巻かれた腕に触れた。

 

「ルーピン教授…。」

 

エディは引き出しから羊皮紙の一部を取り出した。

 

ーーーーー

 

エディ

今夜、消灯時間のあとに私のオフィスで2人だけでお茶をしよう。ここに来るまでに誰にも見つからないように。

R.J.L

 

------

 

 

それはハロウィンの次の日だった。放課後フクロウから来た手紙にエディは心躍らせながら数日語の夜を待った。マグルの子が持ち込んでいたコーヒーを大量摂取して寝ないようにした。エディは今まで数々の問題を起こしていたが、別に悪いことするスリルを楽しんでいるのではなく、本当に心躍るものを心のままにやっているだけでだった。なので消灯時間外に寮を出るということは特に魅力を感じなかった。しかし今回は別だ。

 

(夜のお茶会って魅力的!本っ当ルーピン教授って最高の教授だわ!)

 

そして夜、皆が寝静まった時にエディはこっそりとベッドを抜け出し、扉を抜け、グリフィンドールの尊敬すべき先輩であるウィーズリー兄弟に教えてもらった厨房の抜け道を使ってゴーストにも天敵フィルチにも会わずに無事いつも行くルーピン教授の部屋へとたどり着いた。音を立てないようにそっと扉を開けた。

 

『ルーピン教授?来たよー?』

 

月明かりで照らされた教室を抜ければいつもルーピン教授とお茶をする場所だ。

 

『ルーピン教授?』

 

エディは聞いた。地の底から這い上がるような呻き声を。

 

『ルーピン教授…?』

 

エディはドアを開けた。こちら側の月明かりが漏れ、奥がよく見える。ルーピン教授だった。いつも以上にげっそりしたルーピン教授が胸に手を当て、呼吸苦しくソファでうずくまっている。

 

『ルーピン教授!大丈…?』

『ぐあああああああああああああああああっ!!』

 

絶叫とともにルーピン教授の頭と体が伸びた。背中が盛り上がり、服がメリメリと引きちぎられる。全身から毛が生え、手が丸まり黒い鋭い爪が生え出す。

エディは立ち尽くすしかなかった。変わり果てたルーピン教授と目が合う。その姿は映画で見た狼男にそっくりだった。

 

『…教授?ルーピン教授?』

 

鋭い牙が月に光る。ルーピン教授が近づいてくる。

 

『…ルパンさん…。』

 

エディはこの瞬間、本能で彼は、優しい彼は、自分が分からなくなっているのだと思った。エディが逃げようと走り出したタイミングで信じられない速さでルーピン教授がエディを襲ってきた。

 

『いやあぁっ!!』

 

ドアを閉めるが間に合わず、エディの背後でバキバキと木が破壊される音が聞こえた。振り返る暇などなかった。

 

『あ…あ…!!』

 

エディは杖を取り出した。しかし浮かぶ呪文はこの場では役に立たないものばかりだ。"彼"の気配がすぐそばまで迫っていた。

 

(もうすぐ!もうすぐ扉が…!)

 

『ああああああああああっ!!!!』

 

しかしドアノブに手を伸ばそうとした時、右腕に激痛が走った。

 

『あああっ…!』

 

焼け付くような痛み。えぐられるような痛み。エディはたまらず倒れこんでしまった。その痛みを植え付けた張本人がエディを見下ろす。"彼"の爪から液体が滴る。右腕に触れると同じドロドロとしたものがベッタリ手に付いた。

 

『ル…パン…さん…。』

 

エディがどんなに呼んでも"彼"の目に映る自分は獲物。それ以上もそれ以下もなかった。扉を背に追い詰められたエディの目にチラリと机が入った。

 

(びゅーん、ひょい…。sじゃなくてfの発音…。)

 

エディは動かせない右手から杖を取り、机に向かって唱えた。

 

『ウィンガーディアム・レビオーサ 浮遊せよ』

 

5人ほど座れる大きな長机はフワフワと浮き、こっちへ近づいてきた。ルーピン教授が大きな口を開けて噛みつこうとした時、机はルーピン教授の背中に落ちてきた。

 

『ぎゃああっ!!』

 

エディは素早く自分の脚を引っ込めた。今しがた脚があった場所に机が音を立てて落ちたのだ。痛みでルーピン教授がひるんだスキにエディは扉を開け急いで閉めた。鍵を閉めたエディは目と鼻の先でドンドンと衝撃のくる扉をまるで怪物を見るように怯えた目で見た。

 

『…ああ…怖かった…。』

 

最初、エディはそのまま寮に戻ろうかと思った。しかし、さすがにこのままだと死んでしまうと思ったのでそのまま医務室へ行くことにした。

 

『あなた一体どうしたっていうの?!?!』

 

思いの外重症だったらしい。普段は何をしたか問いたださないネグリジェ姿のマダム・ポンフリーがこの時ばかりはすごい剣幕で何をしていたのか聞いてきた。

 

『こんなに酷い傷で!!』

 

すぐにスプラウト教授が医務室まで飛んで来た。

 

『エディ・スミス。あなたは深夜に何をしていたというのですか?!』

 

いつもは大らかなスプラウト教授にもひどく怒られた。

 

『階段に挟まれました。』

 

エディは嘘をついた。当然マダム・ポンフリーには通じない嘘であることぐらいは百も承知だ。お医者さんというのはすごい人で、骨の折れ方や傷のつき方で何をしたのかぐらいすぐに分かるのだ。けれど、エディはルーピン教授にこの学校の教師でいてほしかった。やめてほしくなかった。

 

あれは呪いなのか、なんなのかエディには分からなかったがとにかく言えるのはエディはルーピン教授が大好きだった。

 

『エディ・スミス。あなたは素行の良い生徒ではありません。けれどあなたは節度はあります。なぜかというとあなたは自分か友達が楽しいと思うことを追求するからであって、そこにたまたま校則が当てはまらないからです。だから聞きたいのです。どうしてこのようなことをしたのですか?』

『…なんとなく…夜のホグワーツはキレイかなと…。』

 

スプラウト教授はひどく失望した顔をした。エディは罪悪感で心が痛んだ。ポケットの中にあるルーピン教授の手紙を渡せば自身の潔白は証明される。けれどそしたらルーピン教授が自分を怪我させた責任を問われる。エディは罰則を受けるだけでいい。選択は楽だった。

 

『エディ・スミス、ハッフルパフから50点減点です。処罰は『待ってください。』』

 

マダム・ポンフリーが遮った。

 

『この子の腕の傷…階段に挟まれたものなんかではありませんでした。』

『いいえ、そういうものです。』

 

エディは思わず口走った。

 

『彼女の傷はそんなものではありません。挟まれたものなんかよりもずっと深くて、真っ直ぐな傷です。まるで獣に『あたしは階段に挟まれましたっっっ!!!』』

 

エディは思わず叫んだ。

 

『スプラウト教授!あたしは夜のホグワーツを見に行こうとして!足を滑らせて階段に挟まれました!あたしは罰則でしょ?!』

 

エディの慌てっぷりに2人は驚いた。

 

『マダム・ポンフリー!あたしの傷はたまたま深くて真っ直ぐだっただけ!お願いだから…。』

 

言葉を続けようとした時、小走りでダンブルドア校長とマクゴナガル教授が入ってきた。

 

『みなさん、ここにおったか。非常事態じゃ…おや。』

 

ダンブルドア校長はエディを見て、血の滲む包帯をじっと見た。

 

『その傷は…。』

『さっきこの子が医務室に来たんです。』

『あなたこんな時に消灯時間外に寮を?!』

 

マクゴナガル教授の顔が真っ赤になるのをダンブルドア校長が手を上げて制した。

 

『ミネルバ、落ち着くのじゃ。きっともう先に2人に怒られたじゃろう。エディよ、怪我の理由はなんじゃ?』

『ホグワーツの夜が見たくて消灯時間外に外に出て階段に挟まれました。』

 

誰かが言う前にエディは早口に答えた。が、マダム・ポンフリーはそれを遮った。

 

『ダンブルドア校長、彼女はそう言っていますがそんな怪我では『嘘じゃありません!!!本当です!!!信じてください!!!』』

 

エディは4人に訴えかけた。泣きそうになるのを必死に堪える。

 

『不思議な話じゃのエディ。』

 

校長は静かにエディに話しかけた。

 

『話によれば君は無遅刻無欠席を目指しておるから夜更かしはしないと聞いたのじゃがな。』

『きっ気が変わったんです。』

『少し前にの、あるゴーストが教えてくれたのじゃ。君の友人たちが深夜にホグワーツを徘徊しようと提案した時に君は断ったそうじゃな。夜のホグワーツは薄気味悪いし身長を伸ばすためには早寝早起きがいいからと言っていたそうじゃの。』

『…!』

 

もうここまで来るとエディは何も言えなかった。

 

『ある人物に会いに行ったのじゃな。』

 

他の3人が息を飲んだ。エディは必死に首を振った。

 

『違いますっ…!』

 

エディは右腕の包帯を握りしめながら唇を噛んだ。

 

『違う…違うから…!!!私は罰則?退学になるの?なんでもいいから…!!お願いだから聞かないで校長先生!!』

 

エディは叫んだ。じっとダンブルドア校長の青い目を見た。

全てを悟ったようなその目にエディはたじろぐが、自分の主張を曲げるつもりはない。ルーピン教授の人生がかかっているのだ。

 

『そうか。本当に階段で挟んだのじゃな。』

『校長?!』

 

ダンブルドア校長の急に納得した態度にマクゴナガル教授とスプラウト教授はたじろいだ。

 

『そうか、そうか。悪かったの。今ちょっとした緊急事態が発生しとってな。そのせいかと思ったのじゃが…違ったとは。何より無事で良かった。』

 

ダンブルドア校長以外の面々は、エディさえも、はあ?といった顔でダンブルドア校長を見ていた。本人はすまなかったの、と穏やかな笑みを浮かべている。

 

『校長。』

 

今度はスネイプだった。エディのもう1人の天敵スネイプ。

細長い指で金色のゴブレットを弄んでいる。

 

『原因が分かりました。砂糖が微量にですがゴブレットの底に溶けていました。』

『ご苦労。きっと犯人はネズミじゃの。しっかりと細かい穴まで塞がなくては。それであの件は上手くいったかの?』

『なんとか。現状復帰は今夜中に済ませなくては。』

『上々じゃ。それではわしはちょっと片付けをしに行こうかの。このことはわしらだけの秘密じゃ。スプラウト教授よ、彼女の件はお任せしますぞ?』

『えっ、ええ…。』

 

よく分からぬまま、エディは罰則としてハグリッドとヒッポグリフの約1Kgの餌探しを命じられた。皆怪訝そうにしていたが、しかしそんなの苦ではなかった。

 

 

------

 

そのあとルーピン教授は何事もなかったかのようにエディと接し、エディもあれはルーピン教授ではなかったと自分に言い聞かせた。

 

「ルーピン教授…。」

 

いや、ルーピン教授ではないと言い聞かせたというのは嘘になる。ルーピン教授は人狼なのだ。アニーの話によれば、彼女の従兄弟は人狼に噛まれてしまい職に就けなくなっている。マイケルの人狼になってしまった叔父さんは家族と自ら縁を切りその後消息不明なようだ。

 

「ねえ。あたしさ、この手紙送ったのはルーピン教授じゃないって分かってるんだ。けどさ、ルーピン教授に心当たりなんて聞けない。だってそんなこと聞いたらあたし以上にルーピン教授は傷つくよ。…エルフィーもあたしを傷つけて、あたしは覚えてないのに離れちゃった。もうこれ以上誰も離れて欲しくないもん。だからあたしは死ぬまでこれを隠し続けるんだ。決めたの。」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「じゃあムーニーは今ペ…ワームテールに操られてるってこと?」

「まあ僕らは"知らない"けど、そうだよ。」

 

4人で誰にも気づかれずに好きな話をできる場所というのはなかなか難しかった。談話室だと話を聞かれる確率は高いし、ペティグリューの目に付きそうな場所は避けたい。シリウス・ブラックのいる場所という手もなくはないがこれ以上彼を刺激するのは良くないというハリーの意見もあり、最終的にはシリウスが前に隠れててエルファバが数日泊まった空き教室に4人で透明マントを使って入り、中に入った瞬間エルファバが部屋全体を凍らすということでまとまった。ハーマイオニーの十八番の青い火を灯して4人でブランケットにくるまりながら話し合いを進めた。

 

「多分ムーニーはそれを気づかせるためにエルファバの罰則を異常に長くしたんだと思うわ。気づかせるために。」

「じゃあ私彼に悪いことしちゃったわ…。」

「そんなの分かりっこないさ。」

 

エルファバはロンの一言でホッとした。話がまとまったところでハリーはハーマイオニーの方を向いた。

 

「今度は君の番だよハーマイオニー。もちろん知ってるんだよね?ムーニーの秘密。」

「ええ。まあね。エルファバ、てっきりあなたも知ってるかと思ったんだけど。」

 

エルファバは肩をすくめる。

 

「彼は人狼よ。」

「えっ!?」

 

ロンはビクッと反応した反面、エルファバとハリーは無反応だった。いや、驚いてはいるのだがやはりそれはエルファバ基準なわけで。ハーマイオニーは思ったような反応を2人から得られずに少しガッカリしたようだった。

 

「彼の病気の傾向と月の満ち欠けは一致してたし、ボガートが映した彼の怖いものは満月だったから。」

「じゃあ、人狼が僕らにずっと教えてたってことかい?」

 

ハーマイオニーはため息をつく。

 

「ロン、偏見よ。魔法界では非人間生物…吸血鬼とか偏見持たれがちだけど、どっちもしっかりとした対策がとられているし、人には害がないはずなのよ。」

 

ロンは納得したような、しないような変な顔をした。

 

「彼はここに来る前、マグルの工事の仕事をやってたの。なにか魔法使いなのにそんなことしてるなんて事情はあると思ったけど…。」

「そんなに差別されてるの人狼って。スネイプはそんなこと言ってなかったのに。」

「スネイプは多分ムーニーが人狼であることを生徒に気づかせたくてそんなことしたのよ!あの人本当最低だと思うわ!」

 

ハーマイオニーはカンカンだった。それを聞いたハリーも怒り出して収集がつかなくなりそうだったのでエルファバは話を進めることにした。

 

「まあ、皮肉なことにスネイプの意地悪が私たちがムーニーを救う手段になったわけだし利用しましょう。」

 

感謝はしないけど、とエルファバは心の中で完結させた。

 

「じゃあワームテールはそれを使ってずっと脅してたってこと?」

「そうなるわね。」

「親友だから知ってたことのはずなのにそれを自分のために利用したのか!」

 

ここまでくるとペティグリューの神経を疑うレベルだった。

 

「えっと…じゃあハーマイオニーが言ったってことは次は…。」

「あなたの番よロン。」

 

もっともよく分からない段階にやってきた。ロンは3人の視線を感じてモジモジと居心地悪そうに顔をよじらせる。

 

「あー、そっか。えっと…何から話せば良いのかな…。」

「全部よ。どこでいつワームテールと会ったのか、何の話をしてたのか、洗いざらい話しなさい!」

「そっ、そんなに怒るなよハーマイオニー…。」

「怒ってないわよ。早く知りたいの!」

「分かった、分かったから!…僕がペティグ…ワームテールと会ったのは確か…12月だ。うん。ハッフルパフ戦のあとだったから。彼は談話室に置いてあったお菓子に食らいついてた。スキャバーズとしてね。それで人間になって僕と目があうとビックリしててそれで、助けてほしいって言われたんだ。」

「で、助けたんだ。」

「ハリー、そんな言い方しないでくれよ。あいつすっごいリアルな嘘ついたんだぜ?ブラックはディメンターと長年いたせいで正気を失っちゃって、君のお父さんとお母さんを殺したことを忘れちゃったって。で、僕はどうして魔法省に助けを求めないんだって聞いたら、ブラックの仲間…例のあの人の部下がね、何人か魔法省にいるからそこに行くわけにはいかなかったって。みんな裁判では無罪判決が下ったから今更もう1度証言してもスルリと抜けるって。」

 

このウソには3人も舌を巻いた。仮にシリウス・ブラックとハリーが遭遇せずに先にピーターの話を聞いてしまったら、そっちを信じてしまっただろう。ロンは少し得意げにほらね、と言った。

 

「だから僕はワームテールにご飯と食事をあげたんだ。ママがくれたパイとか、自分の夕食とか。すっごい感謝されたよ。自分がネズミだった時もちゃんと世話してくれてありがとうって何度も言ってくれたし。だから僕はワームテールのことを良いやつだって思ってたんだ。シリウスがスネイプをいじめてた話とかもされたし。」

「シリウスがスネイプをいじめてた?」

 

ハリーは信じられないといった顔でロンを見た。

 

「ああ。あとは自分はシリウスと君の父さんといていつも自信を無くしてたとか、いろいろ。」

「あいつ父さんとシリウスのおかげでアニメーガスになれたのに何を…!!」

 

むしゃくしゃしているハリーにエルファバは自分のバッグをあげた。

 

「いいの?」

「どうぞ。」

 

ハリーはエルファバのバッグをサンドバッグ代わりに何度も殴った。

 

「ありがとう。ロン、続けて。」

 

戻ってきたエルファバのバッグは思いの外しわくちゃだった。男の子のパワーを舐めたらダメだ。

 

「あ、うん。で、何回か会ってるうちにだんだん様子がおかしくなっていったんだ。なんか取り憑かれてるっていうか、怯えてるっていうか。ブラックがすぐそばまで来てるかもって言ってたんだ。だからそんなことディメンターがいるんだしありえないよって言った。」

「多分そのあたりよ。私とワームテールが遭遇したの。」

「グリンダの日記を探していたっていう?」

「ええ。」

 

そう言ってエルファバはふと思い出した。

 

『僕が!!僕が取ったんだあっ!!けどないんだあっ!!あの方に言われて持ってこないと僕は死んじゃうんだあっ!!』

 

「ワームテールはMr.Vに指示されて日記を取りに来たってシリウス・ブラックが。」

 

ハーマイオニーは、なるほど、と納得した。

 

「確かに彼の性格上いくらアニメーガスだからといってこのディメンターの群れの中に行ったりしないわよね。」

「で、昨日だ。彼に思い切って聞いたんだ。困ってることあったら言ってごらん、協力するからって。だってもう何あげても食べないくらい追い詰められてたし。そしたら、エルファバがブラックと同じぐらい怖いって。能力に飲み込まれていく彼女は母親と同じくらい恐ろしい人になるとね。ブラックがこの学校に彼女がいるって気がついて手を組んだら殺されるって。だから僕は変だなって思ったんだ。」

「まあ、間違ってはないけどね。だってエルファバはこっち側だし。」

 

ハリーは満足げにエルファバの肩を叩いた。

 

「今日ハリーの話聞かなきゃ、僕ペティグリューの言うこと鵜呑みにしてたよ。」

「話を整理するとこうね。」

 

ハーマイオニーは羊皮紙に要点をまとめ出した。

 

・Wは2年生の時にグリンダの日記を盗んだ

・Sが脱獄して逃走し誰か(おそらく例のあの人)と接触。日記を取りに行かされる

・Wはグリンダの日記を探して学校に侵入

・ロンと接触して食料確保

・しかし日記が見つからずに焦りエルファバとMに接触

・WはMの秘密を握り、黙らせる

・ハリーとエルファバに話そうとしたMにハリーの杖で服従の呪文をかける

・Wは今エディのところに

 

「ハーマイオニー。エルファバを悪者にしようとしてるのも追加して。」

「了解。」

 

・エルファバを悪者にしようとしてる

 

ハーマイオニーは書き足して、小さく読み上げてからエルファバに羊皮紙を渡した。

 

「これが宿題のリストに見えるように呪文をかけてもらってるの。念には念を入れなきゃ。」

「なんかこうすると分かりやすいね。」

 

ロンは羊皮紙を眺めながらヘラヘラ笑った。

 

「最優先事項はエディからワームテールを引き剥がすことね。ワームテールが誰の指示でやったのかはすぐにわかるわ。」

「ええ、そうね。もうあの子ったらなんでネズミなんか拾うのかしら?」

「ロンが今度接触した時にスキついてエルファバが凍らせちゃうとか。」

「で、そのままダンブルドア校長のところに引っ張っていく?」

「それいいかも。」

「でも、ワームテールがいつ来るかなんて分からないよ。それにエディから充分なエサをもらってるならこっちに来る可能性って低くないかい?」

 

ロンの言い分はもっともである。

 

「多分ワームテールはロンが怪しんだことを察したんでしょうね。」

 

ハーマイオニーがどうしたものかと考え込んだ時、鐘の音が聞こえた。ハリーがあ、と言った。

 

「ごめん。クィディッチの練習。」

「私も罰則だわ。」

 

エルファバとハリーは2人にごめん、と言った。ロンは仕方ないさと言うが、ハーマイオニーからの返事がない。

 

「…こうなったら強行突破ね。」

「「え?」」

 

ハーマイオニーは決心した顔でハッキリと告げた。エルファバはなんとなく予想がついた。そしてこれから自分が背負わされる任務も。

 

「エディにあなたの飼っているネズミは人殺しよって言うの。」

「「…え?!」」

 

ロンとハリーは顔を見合わせた。

 

「任せて。ちゃんと計画があるから。」

 

 

ーーーーーーー

 

残念ながらホグワーツの生徒全員が妹の命に左右されているわけではない。特にグリフィンドール生とレイブンクロー生は数日前からクィディッチ戦にソワソワしていた。勝てば決勝に進める大試合。ハリーはずいぶん上手く勉強とクィディッチとゴットファーザーの運命を両立しているとエルファバはしみじみ思った。

 

「懐かしいな。これでよく深夜に徘徊したもんだ。」

 

シリウス・ブラックは嬉しそうに透明マントを被った。エルファバは地図を注意深く見て畳み、シリウスがマントを返してくれるのを待った。

 

『シリウスにシリウスがくれたファイアボルトで飛んでるのを見てほしいんだ!』

 

ハーマイオニーとエルファバは反対したがハリーの熱意に押されて折れた。実際、伝言係を頼まれたエルファバがシリウス・ブラックに伝えに行くと彼は2つ返事でオッケーした。計画はというとまずエルファバがブラックと共に透明マントで連れ出し、ロンとハーマイオニーの近くに連れてからエルファバはマントをブラックに渡しエルファバがエディの元へ行く。やはりなんだかんだでエディはエルファバの言うことを聞くからということだ。

 

(なんか習い事の送り迎えみたいね。)

 

初めてエルファバが計画を聞いた感想である。

 

「わっ!!」

「ひゃっ!!」

 

バキバキっ!!

 

シリウス・ブラックがマントを被ったままエルファバの背中を押してきた。

 

「はっはっはっ!!猫みてー!!」

 

エルファバは犬が吠えるみたいに笑いながらマントから出てきたシリウス・ブラックを睨みながら凍ってしまった床を呪文で直した。その溶けていく様をブラックはまじまじと見た。

 

「綺麗だな。」

「どうも。」

「なんだ嬉しくないのか?」

「別に…。」

 

本当は自分の作ったものを綺麗だと言われるのはとても嬉しかった。胸が高鳴った。しかしそれをどう表現していいかわからなかった。

 

「そういえばハリーは杖どうしたんだ?」

「ロンの家の使っていない杖を借りてます。」

「ロン…ピーターの飼い主か。新学期前に会うくらいだから仲がいいのか。」

「ホグワーツの中で一番仲がいいと思います。」

「へえ。」

 

シリウス・ブラックは考え込んだ。きっと自分にはまだまだ知らないハリーの世界があると思っているのだろう。その気持ちは分からんでもなかった。

エルファバも部屋に閉じこもっていた時エディを拒絶する反面、エディがどんどん自分の知らない友達ができていくのを感じてものすごい孤独に襲われたものだ。エディを独占したいとかそういうことではない。ただ自分のいない間にいろんなことが彼女の中にどんどん起こる。その中でエディは変わっていく。その変化に自分が置いていかれるのが寂しいのだ。

 

「行きましょう。ハリーが待ってる。」

 

エルファバはシリウス・ブラックの手の中に握られているマントを被った。

 

いろいろありながらも(「お前しっかりしてるように見えて抜けてんな!」「…」)無事にハーマイオニーとロンを見つけ出したエルファバはロンとハーマイオニーの肩を叩く。

 

「送迎お疲れー。」

「ありがとうロン。」

 

エルファバは辺りを見回してから素早く外に出た。冷たい空気がエルファバの肺を満たす。

 

「計画通りに行くわよエルファバ!」

「うんっ!」

「エディはどこにいるの?」

「向かいのピッチ!」

「なんで分かるの?」

「勘!」

 

ハーマイオニーとロンはガッツポーズをした。エルファバも返して、走り出すと割れんばかりの拍手が競技場に響き渡る。

 

「全員飛び立ちました。レイブンクロー対グリフィンドールの対決、準決勝です!何と言っても本日の目玉はハリー・ポッターの…」

 

リー・ジョーダンの軽快な実況もみんなの歓声もエルファバの耳には届かなかった。

 

エディを、そしてルーピン教授を救う壮大な"鬼ごっこ"の火蓋が落とされた。

 

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