ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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【注意】
ここから、ピーター・ペティグリューのキャラ改変があります。


12.ネズミの物語

ピーター・ペティグリューはある少女のポケットの中で必死に数々の恐怖と戦っていた。"あの方"に服従しなくては自分は虫ケラのように殺される。日記をなんとしてでも見つけなくては。ピーターの脳内に再生される記憶の数々。

 

ーーーーーー

 

『ピーター!!お前!!リリーとジェームズを売ったのか!!』

『ちっ、違うんだシリウス!!それは…『何が違うんだ!!まともな答えじゃなきゃ殺すぞ!!』』

 

ジェームズとリリーを裏切った時、心が罪悪感でいっぱいになったがそれ以上に自分の死への恐怖が消えたことでホッとした。が、“あの方”は消えた。

鬼のような表情で迫ってくるシリウス。まともに戦ったら勝てない。

 

『…じぇっ、ジェームズとリリーが!!!シリウスよくも!!!』

 

ピーターは杖を出して、道路を吹き飛ばした。マグルたちを巻き添えにして。絶叫とシリウスの高笑いが下水道の中まで聞こえてきた。恐怖と罪悪感で頭がふらつく中、自分が地獄へ堕ちることを確信する。

 

(僕は一体なんてことを…!)

 

それから13年、ネズミとして生きてきた。自分を探す魔法使いと真実が暴かれる恐怖、そして自責の念から逃げ回った。自分は他の3人と比べればあまりにも凡人だった。

 

ピーターの親友たちは尊敬の対象であり、そして嫉妬の対象でもあった。ジェームズとシリウスは本来自分とは交わるはずのない人間。彼らと一緒にいると楽しい反面、自分の自信がなくなっていった。

決して自分は悪い人間ではなかったはずだ。大義を尽くす人間だった。ホグワーツで最初の友人になったリーマスのために命をかけてアニメーガスになった。不死鳥の騎士団へ入団した。その他いざとなれば勇気を出すことが多かったように思う。

 

しかし、どんなに頑張っても3人に勝てないと日々感じていた。

 

優秀なのはもちろん元から友情に厚いジェームズ、家族と決別して同じ価値観を持つ友情を大切に思っていたシリウス、自らの秘密を知りながらもなお受け入れてくれた友人たちがいるリーマス。それに比べて自分には何もなかった。何も無さすぎた。自分が普通だった。自分も大義のために命をかけて戦っていたが、いつも恐怖で心が押し潰されそうだった。

 

そしてシリウスは脱獄し、自分を見つけ出してしまった。さらに自分の生存が多くの人間にバレてしまった。自分を恨む大勢の人間が自分を探しに来る。自分が助かるには生死不明な"あの方"を探すしかなかった。

 

『久しぶりだ。ワームテール。噂には聞いているぞ。』

 

アルバニアにいるという情報を信じて向かった結果、彼はいた。

 

その姿は辛うじて人間と認識できる生き物のような形ではあったが、"あの方"は生きていた。人間以下になった“あの方"はそれでもなお邪悪で凶悪、強大なパワーを持っている。

 

『お前は逃げ回った。誰も助けず、ただただ私欲のために…当然、のこのこ舞い戻ったからには何か俺様に捧げる有益な情報は持っているんだろうな?』

 

ピーターは必死に頭の記憶をたどった挙句、元飼い主の友人の杖無しで凍らせる能力について話した。"あの方"はこの情報を大層気に入ったようだった。

 

『その娘はホグワーツの生徒だ。ダンブルドアの目がつくような行動は避けるのが無難だ。しかしそれがあれば俺様は人知を超えた存在となる…。』

『ごっ、ご主人様…日記があります。グリンダ・スミスが書いた日記が…!そこにはあの娘の能力についてしっかりと書かれております。』

『それはどこにある?』

『ほっ、ホグワーツですご主人様…。』

 

そして"あの方"はこう言った。

 

『取ってこい。』

 

それは容易い話だった。どこにあるのかは自分が知っている。自分があの場から盗んで、隠したのだから。長い道のりではあったが、確実に遂行できる任務…。

 

『ないっ!ないっ!ないっ!ないっ!どこだあああああああああっ!?』

 

なかった。本来あるべき場所になかった。ホグワーツのグリフィンドール寮近くにある近くにある小さな窪みに箱ごと隠したはずだった。毎晩パイプや下水道を伝って死に物狂いで探したが見当たらなかった。各寮、各教室、隠し棚。杖のない中で探すのは絶望的だった。鍵のかかった引き出しは調べられず、生きた心地のしない毎日が続いたある日。

 

『…そこにいるのは誰だ?』

 

机を漁っていた時に誰かに見つかってしまった。灯りがこちらに迫ってくる。ピーターはとっさにネズミに変身して、暗闇へと飛び込んだ。

 

『?』

 

声の主はかつてのもう1人の友人、リーマス・ルーピンだった。

 

(彼がホグワーツで働いている…?!)

 

『…ピーターが…?』

 

ネズミになって逃げたのが仇になった。彼は自分がネズミになれることを知っている。棚の下で恐怖に震えるピーターに気づかずに大股歩きでリーマスは部屋から出て行った。

 

自分の存在が周囲に知られる前にリーマスをホグワーツから追い出さなくてはならなかった。あるいは彼の信頼を落とす方法を。ピーターがリーマスの飲む薬は脱狼薬であり欠かさず飲んでいること、砂糖が少しでも入ると効き目がなくなることを知るのは難しくなかった。

 

(しかし正しい選択なのか?ホグワーツ最初の友人を追い詰めることが果たして…。)

 

『ルパンさん…じゃなかった、ルーピン教授!』

 

深夜に彼を訪れても不思議ではない女子生徒を探すのも簡単だった。傷つけることも簡単だ。

 

『ああああああああああっ!!!!』

 

親友が女子生徒を傷つけるのをピーターはネズミの姿で見ていた。リーマスは人格者だった。いい友人だった。そんな彼にこんなことをするのは胸が痛んだが…。

 

『ウィンガーディアム・レビオーサ 浮遊せよ』

『ぎゃああっ!!』

 

女子生徒は逃げおおせてしまった。狼化したリーマスは教授数人がかりで外へと逃がされた。少女は誰にも事実を言わず、リーマスの使うゴブレットも薬も厳重に管理され、それに触れることすら不可能となってしまった。

 

その事実はピーターを今まで以上に焦らせた。どんなに一生懸命探しても見つからない日記、自分の存在がバレるかもしれないという恐怖でピーターは気が狂いそうだった。

 

そしてあの日、ついにピーターはリーマスと再会してしまった。

 

『ピーター、まさかとは思ったが、やっぱり君だったのか…なぜここに…?』

 

日記のことを言うわけにはいかず、ピーターは必死にグリンダの娘のウソをついた。そのウソをついてくうちに彼女と母親の姿が重なり、それが事実に思えてきた。

 

グリンダは化け物だった。

 

ーーーーー

 

それは10年以上も前のことだ。彼女とは出会うべきではない場所で出会ってしまった。

 

『ピーター、あなたもここにいるなんてね。あの気取り屋達は知ってるの?』

『きっ君こそ…どうしてこんなところにいるんだい?』

『別に。あなた方みたいに勇敢なグリフィンドール生とは違って私は臆病なの。だから大多数の人間につく。』

『何言ってるんだい?君はレイブンクローだ。頭がいいじゃないか!ここにいなくても自分の身ぐらい守れる。僕なんか全然頭も良くないし、魔法の腕も大したことないし…。』

『頭がいいってことはこれから先に起こる最悪の可能性を予期できるってことよ。騎士団を見てごらんなさいよ。スリザリンとレイブンクローの卒業生の人間なんてごくわずか。自分の命を落とす可能性が高いってことも分かるし、どれだけ虚しいかというのも分かる。頭がいい人って臆病者が多いのよ。』

『でっ、でも。』

『それに、私は、もう何も残っていない。彼に合わせる顔がない。』

 

彼女はやけに悲しそうな顔をしていた。それがとても美しかった。彼女に夫がいるのも子供がいるのも分かっていたが、ピーターは彼女に恋に落ちた。自分と同じ立場の人間がいるという事実がピーターを落ち着かせ、彼女は役立たずの自分をかばってくれた。彼女を信頼していた。

 

------

 

驚くことに、エディは本当に向かいのピッチにいた。

 

「チョウかっこいいね。アンジェリーナとアリシアもいい!戦う女の子はカッコいいよ。セドリックに頼んで来年選手にしてもらうー!」

 

いつも通りエディの周囲は奇妙だった。各ピッチで赤マフラーと紺マフラーの集団で別れているのにここだけ赤、紺、黄、緑と色とりどりだ。ザワザワと話し声と歓声がする中で、エルファバは人生で自分の意識した中で1番大きな声を出した。

 

「エイドリアナ・レイ・スミス!!」

 

周囲がざわつくのをエルファバは肌で感じた。

 

「エルフィー?」

 

ずっと自分から話しかけてこなかったエルファバが話しかけてきて、しかもエルファバにしては大声で自分の名前を呼んでいる。

 

「エディ!」

 

エルファバは思いっきり息を吸って叫んだ。

 

「あなたの飼ってるネズミ!犯罪者よ!」

「「「「…はあ?」」」」

「は・ん・ざ・い・しゃ!!」

 

喉が枯れそうだった。しかしエディのためにここでやめるわけにはいかない。

 

「親友を殺し、裏切り、ネズミになって13年も身を隠して!!私のことを化け物扱いする犯罪者よぉっ、ゲホッゲホッ…。」

 

むせた。

 

「前足欠けたネズミよ!!あなた持ってるでしょ?!ちょうだい!!」

「持ってるけど…。そんな大声で言うことだったの?」

 

エルファバとエディで立場が逆である。

 

「だってそういう奴だってみんなに知らせなきゃ!!」

 

当然ながらこんな奇怪な行動をしているのはハーマイオニーの指示だ。

 

『ペティグリューを焦らせるの。まあ大半は嘘だってからかうでしょうけど、いいのそれは。大事なのは全員にそれを伝えているという事実なのよ。チャンスはクィディッチの日ね。』

『……それ私じゃなきゃダメ?』

『エディが信じる人じゃないとダメだわ。ロンは風評被害だけどフレッドとジョージの弟だってこともあってなんかのいたずらだと思うでしょうし、私はエディの関わりは皆無、ハリーは試合に出るし。』

『…分かったけど…私凍らせちゃうかも…。』

『いいじゃん。そしたらペティグリューの行く手が遮られるよ。』

 

エルファバを知らない生徒も知っている生徒も見ている。エルファバは頭が沸騰しそうだった。

 

「あっ!!!」

 

エディのポケットからボロっと大きなものが落っこちた。それが目にも止まらぬ速さで走り出す。

 

「ごめんなさい!通して!」

 

エルファバは自分よりも何倍も大きい上級生を押しのけ(どうやったかは分からないが、彼は冷たい!と叫んだ気がした)、灰色の物体を追いかけて席の間と人の間を走り、エルファバから逃れようとする。杖を持ち、エルファバは狙いを定めた。

 

「イモビラス 動きよ止まれ!」

 

ギリギリ射程範囲を超えたようだ。変わらぬ動きでネズミは遠ざかる。

 

(人はいないわね。)

 

エルファバは周囲を見渡して、みんながクィディッチに夢中だと確認したところでエルファバは手袋を外した。

 

バキバキっ!バキっ!バキっ!

 

エルファバの手から放たれる銀色の光は地面に触れると氷としてこびりつく。ネズミはそれをスレスレで避ける。エルファバは息を切らして立ち止まった。

 

「いいわ…あなたがそのつもりなら。」

 

エルファバは地面に触った。そこを中心に地面全体が一瞬で氷に包まれた。ネズミは足を滑らせ、もたつく。エルファバはもう一度手のひらをネズミに向けた…。

 

「ステューピファイ 麻痺せよ」

 

赤い閃光がエルファバの耳を掠めた。

 

「ルーピン教授!」

 

ルーピン教授はエルファバに杖を向けている。ネズミはその隙に茂みへと逃げ込んだ。

 

「…うっ、あっ…。」

 

ルーピン教授はブルブルと腕を震わせている。まるできつく巻かれた縄を解こうとしているようだ。

 

「エル…ファバ…逃げるんだ…!早く…!」

 

エルファバはルーピン教授にごめんなさいと謝って、ピッチの方へと走り出した。ルーピン教授を救えなかったことが何よりも悔しかった。

 

ーーーーー

 

「あと少しだったのに。」

 

試合が終わってシリウス・ブラックを暴れ柳の下まで送ったあとにエルファバは3人に報告した。グリフィンドールを見事にスリザリンとの決勝戦へと導いたハリーはスッキリした顔で地図を眺めていた。ちなみにハリーの飛びっぷりをいかにべた褒めしていたかを知っているのはエルファバのみである。

 

「ある。あいつの名前が!」

 

ハリーは図書室の机の上に教科書の上に地図を広げた。ピーター・ペティグリューという名前の点が3階の廊下を慌ただしく走っている。

 

「これまではこの時間にいることなんてなかった。」

「相当焦ってるのね。」

 

ハーマイオニーが悪い笑みを浮かべ、ロンが小さく、うわあ…と言ったのが隣のエルファバには聞こえた。

 

「まあ、ペティグリューを捕まえられなかったのは残念だけど、これで少なくともエディの元には戻ってこないわ。」

「ええ。ありがとう。」

「代わりにエルファバ変人疑惑は出てるけど。」

「いいんじゃない、嘘ではないし。」

「ロン。」

 

エルファバはロンを睨みつけた。今この瞬間だってエルファバは他寮からの痛々しい視線に耐えているのだ。

 

「当然シリウスは知らないんだよね?」

「ええ。バッチリよ。」

 

ハーマイオニーはテキパキと宿題をこなしながら、次の作戦を練りだした。

 

「日記のレプリカを作るっていう手もあるけど、時間がないわね。そもそもあの人なんで2年の時に日記持って行って、そのままホグワーツに置いて行ったのかしたから?」

「奪うのが目的だったんじゃない?」

「どういうことロン?」

「うーん、なんかよく分からないけど、グリンダかエルファバに恨みがあって、盗んで困らせることが目的だったんじゃないかなあ。だからそのあと日記がどうなろうがどうでもよかったんだよ。」

「なるほどね。一理あるかも。」

「私、何かしたかしら彼に。」

「恨みがあるのはエルファバじゃなくてグリンダだよ。だってあいつはヴォルデモートの部下だったんだから。」

「ハリー、あの人の名前呼ばないでくれよ!」

「そんなことどうでもいいよロン。」

「まあ、ともあれ!いいヒントが見つかったわ。ワームテールはきっと何かしらのコンプレックスがあるわ。だからそこを突けば、ボロを出すかもしれない。」

 

 

 

------

 

 

『君を魔法省へ連れて行く。』

 

リーマスはある日、唐突にピーターにハッキリそう告げた。

持ってきてくれたディナーの残りをこぼした。

 

『ネズミになろうとしても無駄だピーター。君が漏れ鍋で発見されたと聞いた時から、ずっと考えてたんだ。シリウスはアズカバンから脱獄した直後、何をしたか知ってるか?ハリーに…ジェームズの子供の元へ真っ先に向かったんだ。ハリーの居場所をどのように把握したかはわからないが、ゴットファーザーとしてゴットサンに会いに行ったんだよ。そして自分でできる限りのことを尽くしたんだ。アズカバンで気が狂っていた人間がそんなことするだろうか?君は13年間ハリーのそばにいて、ずっとネズミになって隠れただけだった。』

『リーマス…僕はハリーを陰ながら見守っていたんだよ。そりゃシリウスほど派手に接触はできなかったさ…僕は死んでいる扱いだったし…そもそも、シリウスは秘密の守人だったんだ!』

『ああ、そうだ。私には分からない…だから君が本当に行ってほしいんだよ…!本当に無実なら日の光の下で真実を明かしてくれ!』

『シリウスに殺されるよそんなことしたら!』

『君の功績と狙われているのは周知の事実だ。最高の警備が君にはつくだろう。』

『そんなんじゃダメだ!!奴らはコネがあるんだ!!今度は奴らがそれをかいくぐって殺しにくる!!』

『…奴ら?』

 

ピーターは自分が失言をしたことに気づいてしまった。

 

『あっ、ちっ、違うんだリーマス!!違う…!!』

 

その言葉でリーマスは全てを悟った。杖をピーターに向ける。

 

『君がリリーとジェームズを殺し、シリウスを追い詰めたんだな?そして君が最も恐れているのはシリウスじゃない。魔法省にいる、裁判を逃れて生きている死喰い人だな?』

 

ピーターはもうダメだと悟った。リーマスは確信を持っている。何を言っても信じてくれないだろう。

 

そう思った時、ピーターの頭の中でピカッと何かが光った。

 

『…リーマス。病気の調子はどうだい?』

『何を言ってるんだ。』

『いいや、僕は本当に心配してるんだ。スネイプが君にあの病気のために薬を調合してるそうじゃないか。』

『ご心配には及ばないよ。彼は案外律儀だからね。』

『ああ、そうだね。けど、先月飲んだ薬…少し甘くなかったかい?』

 

リーマスは明らかに動揺した。

 

『…まさか…君は…。』

『ホグワーツでの職を失えば君は困るはずだ。反人狼法が可決されるかもしれないし、そうなってしまえば君のお父さんの安らかな生活を脅かしちゃうしねえ…それに、』

 

ピーターは邪悪な感情と共に自分は一体何をしているんだろうという思いがあった。友達のいない自分をジェームズとシリウスに紹介してくれたのも彼だった。狼人間だと知るまでは彼のことは自分と同じように凡人なのだと思っていた。

 

『君のお気に入りの生徒を傷つけたくないだろう?きっと狼の君がいるオフィスに彼女を誘い込むのは簡単だ。エディ・スミスだったっけ?あの子は好奇心旺盛だからねえ。』

 

リーマスの顔が怒りと悲しみで歪んだ。そんな顔ほとんど見たことがなかった。きっと彼女に強い思い入れがあるのだろう。リーマスは公平な人間だったがやたら、ハリー、グリンダの娘、そしてエディ・スミスに肩入れしているのは親友だから分かったことだ。

 

もうすでに傷つけていることも知らずに…。

 

『やめてくれ…それだけは…!』

 

ピーターは懇願するリーマスを見て良心が痛んだ。自分は既にあの1年生を誘い込み、殺しかけている。それを知ったら彼はどんな顔をするのだろう?

 

『なら、僕を突き出したりしないよね?』

 

彼の返答は時間がかかった。自分の正義と恐怖が戦っている、苦悶に満ちた顔だった。

 

『…言わない。言わないよピーター…。』

 

リーマスは杖を下ろした。ピーターはどんどん自分が悪に染まっていくのを感じたー。

 

 

ーーーーーー

 

 

ハリーはグリフィンドール生全体からロイヤルファミリーの一員であるかにように護衛されていた。グリフィンドールとスリザリンが決勝戦の対戦相手となった今、スリザリン生徒がひっきりなしにハリーを転ばせようとしたり、呪いをかけようとするからだ。大事なシーカーが医務室に運ばれたりしたら大変だ。そんな事情でハリーは四六時中誰かに見張られているためにシリウスのところに行けなくなってしまった。

 

「また、お前かよ。」

 

結果的に食料を届ける係はエルファバだった。エルファバは憎たらしいブラックの言葉に何も反応せず、革に入った食べ物と飲み物を渡した。

 

「ハリーはグリフィンドール内で英雄なんです。」

「だろうな。」

 

声色ですぐに機嫌が良くなったのは分かった。ハリーをおだてれば大体ブラックの機嫌は良くなる。とりあえず、友達の長所を語るのなら苦ではないエルファバにとってこれほど楽なことはなかった。

 

「けど、ちょっとぐらい危険な方が楽しいだろ?」

「危険のスケールが大きすぎますあなたの場合。」

 

エルファバは早く罰則に行かなければと思いながらブラックに冷静に言った。ブラックはエルファバをからかうのが面白くて仕方がないらしい。いろいろ困らすようなことを言ってエルファバの反応を見た。

 

「ホグワーツで犬になってピーターを探してえな。ここは本当に退屈すぎて死ぬ。」

「あともう少しの辛抱ですから。」

「もう少し?根拠は?」

 

そして困ったことに、ブラックはピーターの居場所をエルファバ達が知っていることを勘付いていた。忍びの地図を持っていれば大体は分かるだろうというのが彼の持論だ。それは事実だ。

 

『お願いだエルファバ!絶対パッドフットにはワームテールの状況を言わないで!上手く切り抜けてくれ!』

 

ハリーのあの眉毛をハの字にしてお願いする顔を思い出す。あんな顔をされてはノーとは言えない。今のところペティグリューには何の進展もない。おそらく新たなる場所を探して誰かのペットとなろうとしているのだというのがハーマイオニーの出した結論だった。

 

「なあお嬢ちゃん。」

「エルファバです。」

「んなことはいいんだよ。お嬢ちゃん、俺は真剣にピーターを探してるんだ。あんまり怒らすな。」

 

ブラックは急に真剣な顔でエルファバに言ってきた。ブラックは立つと190センチ近くある。エルファバは数歩下がって、早鐘を打つ心臓を抑えた。

 

(大丈夫大丈夫。ルーピン教授との罰則で男性に慣れてきた…。いざとなれば凍らせればいい。)

 

「ハリーがあなたに本当の人殺しになってほしくないそうです。」

「へえ?」

「ハリーはペティグリューが捕まったら、殺すんじゃなくてディメンターに渡すつもりらしいです。…あなたと一緒に暮らしたいから。」

 

“暮らしたい”の部分を少し強調した。

ブラックは一瞬にして顔から怒りの色が消えた。そして、はあっ、とため息をついてホコリまみれのベットに座り込んだ。

 

「んなこと言われたら何にもできねーじゃねーか。」

 

エルファバは父親ってこんなものなのだろうかとまじまじと観察した。

 

(親バカだと思ってたけど、ここまでハリーの"一緒に暮らしたい"攻撃がてきめんだなんて。)

 

ハリーと違ってエルファバには血の繋がった父親がいるが、一緒に生活をしている事を喜んでるとは思えない。きっと自分と生活をしているのはたまたまエルファバがグリンダの子供だからだ。その繋がりさえ失えば、あとは何も残らない。少しブラックが可愛く思えた。

 

「何ジロジロ見てんだ?」

「ハリー効果はすごいなと。」

「あ?」

「何でもないです。」

 

(やっぱりこの人あんまり好きじゃないわ。)

 

ガン飛ばされたエルファバは、スッと柱に隠れた。

 

「なあ、せめて状況だけでも教えてくんねーか?やっぱり何も知らないというのは…こたえる。」

「本当に伝えることがないんです。今はどこにとどまってるとかそういうのもないですし。」

「そうか。何か進展があれば教えてくれ。」

「ええ。」

 

エルファバはこの事をハリーに報告した。驚いた顔はしていたが、納得したようだった。

 

「そうだよね。パッドフットに何もかも秘密にしておくべきじゃない。彼が正しい。」

 

今晩の"会議"が終了して、ハーマイオニーとロンが自分の部屋に戻ろうとする中、ハリーだけが人のいない談話室に残っていた。

 

「ハリー?大丈夫?」

「ああ、平気だよ。今から守護霊の呪文を練習するんだ。」

 

ハリーはロンの家の杖を出し、目を閉じて練習しだした。

 

「エクスペクト・パトローナム… エクスペクト・パトローナム…」

 

ハリーが呪文を唱えるたびにボンヤリした霧が杖の先から出てくる。

 

「毎晩練習してるけどこれ以上できないんだ。」

 

ハリーは悔しそうに拳でソファを殴った。エルファバはふと杖を出して、ハリーと同じ呪文を唱える。

 

「エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来れ」

 

ハリーのものよりも濃い霧がエルファバの杖から飛び出し、ボンヤリと4本脚の動物の形が出てきた。なんの動物かは判別できない。

 

「すごい!」

 

ハリーの声でエルファバはビックリしてしまい、動物は消えた。

 

「どうやってるの?!僕守護霊の形すら浮かんでこないのに!」

「え?」

「何を思い浮かべてるの?」

「えっ…えー…。」

「なに?教えてよ。」

「あっ…あなたたちのことよハリー…。」

「えっ。」

 

エルファバは恥ずかしがって顔を両手で覆い隠した。ハリーも妙に恥ずかしくなってエルファバから目をそらして頭をかく。

 

「初めてやった時はエディとの思い出だったんだけど…本当昔のことだからハッキリしてなくて…で、今は3人のことを思い浮かべたの…やだ、恥ずかしい…!」

 

何の躊躇もなく親友たちの自慢を長々とするエルファバがこのタイミングで恥ずかしがる理由はハリーは理解できなかったが、むず痒い気持ちになった。話題を変えることにした。

 

「そっそういえば、ルーピン教授の罰則は大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。今のところは問題ないわ。」

 

不謹慎かもしれないが、ルーピン教授の罰則は前よりもずっと楽しいものになっていた。いつもはとても虚ろなルーピン教授だが、時々呪文が切れるらしく、ふと本当の彼と話せる時がある。その時が楽しかった。エルファバは彼に対する恐怖は前の一件で大分消えていた。

 

問題なのは呪文によってルーピン教授の身体的、精神的な力がかなり弱まっているということだった。教授たちもルーピン教授の異変には気がついているはずだ。ハーマイオニーとエルファバはどうにかしてルーピン教授を服従の呪文から解放してあげたいと調べていた。

 

「君に宿題を出そうかな。」

 

金曜日の罰則の日、ルーピン教授は穏やかな笑みを浮かべていた。疲れ果てているがそれを取り繕うとしているのが分かる。

 

「宿題ですか?」

「なぞなぞだよエルファバ。賢い君なら分かるはずだ。」

 

エルファバは選別していた資料を置き、ルーピン教授の話に聞き入った。

 

「来週の月曜日は満月だ。魔法において月の満ち欠けは古来から研究され続けている。薬を煎じたり占い学でも重要なものだ。さて、問題です。」

 

ルーピン教授はエルファバを期待に満ちた顔で見た。

 

「満月は一体何を意味するでしょうか?」

「…?」

 

この問題の意図が全くつかめなかった。満月はルーピン教授からすれば狼となる時期。ルーピン教授はエルファバに自分は狼人間だと伝えたいのだろうか。

 

「宿題の起源は来週の月曜日まで。友達に聞いても全然構わないよ。」

「あ…はい。」

 

エルファバは1人で考えてみたが答えが分からず、寝る前に(ロン曰くカリカリしている)ハーマイオニーに聞いてみた。

 

「満月?それがルーピン教授からの宿題?」

「ええ。」

 

ハーマイオニーのベットの上でエルファバはハーマイオニーがくれたクマさんを抱きながら口を尖らせる。

 

「そうね、占い学だと…私はあの分野は嫌いだけど…完了のエネルギーを利用して放出するといいって言われているわ。今までの習慣とか人間関係とかいろいろ。逆にエネルギーは満ち足りているから体の持つ吸引力が最大になるって…エルファバどうしたの?」

 

エルファバは突如、興奮気味にピョンピョン跳ね始めた。

 

「お手洗い行きたいの?」

「ルーピン教授からのメッセージよ!!」

「え?」

「ルーピン教授は満月に変身するわ!!!」

 

エルファバが跳ねるたびにハーマイオニーのベットがミシミシっとなった。しかしそんなことを気にせずにエルファバはウサギのように跳ね続けた。

 

「ええ…そうね。それがどうしたの?」

「狼になった時!!ルーピン教授の中にあるエネルギーが放出されるのよ!!つまり!!ルーピン教授の中にある呪いが!!放出される!!」

 

ハーマイオニーは一瞬固まったかと思うと、弾けたように立ち上がってエルファバと跳ねた。

 

「だから教授たちはみんな様子を見てたのね!!呪いが解けるのは時間の問題だから!!」

「そう!!」

 

エルファバとハーマイオニーは手をつないでキャッキャ笑いながらクルクルと踊るように回った。

 

「じゃあワームテールはその時にまた現れる?」

 

ハーマイオニーとエルファバは息を切らしながらベットに座り込む。

 

「そうね。その時がラストチャンスね。ペティグリューを捕まえるの!」

 

エルファバとハーマイオニーはがっしり手を握る。

 

「あの地図で見張り、ルーピン教授が狼から人間に戻る時…つまり早朝にワームテールを捕まえる!」

「来週の月曜日!」

「明日ハリーとロンにも伝えなきゃ!!」

 

しかしこの女子2人は次の日の午後に男子2人によって奈落の底へと突き落とされることになる。

 

「地図を没収されました。」

 

ロンとハリーは絶望した顔でグリフィンドール寮に帰ってきた。

 

「なんですって?」

「地図を没収されました。」

「誰に?」

 

ハーマイオニーは口をあんぐりと開けた。エルファバも驚きで眉間にシワを寄せている。

 

「ハリーをホグズミードに連れて行きたかったんだ。叫びの屋敷の前でマルフォイに遭遇して、僕の家族を侮辱して。」

「それで僕は怒ってマルフォイにやり返したんだ。泥を投げつけて…僕の生首を見せた。」

「あなたの生首?!」

「透明マントで…体を隠したんだ。」

 

ハーマイオニーは持っている本を2人に投げつけそうな勢いだった。

 

「それで?」

「そのあとマルフォイがスネイプに言って、スネイプが僕を呼んだんだ。いろいろ尋問して…そしたらルーピン教授が来て、ゾンコの商品だろうって…それでルーピン教授がそれを持って行った。」

 

想像以上に最悪な展開だった。

 

「ハリー…それが本当なら…今…地図持ってるのは…ルーピン教授…つまり…ワームテール…ってことよね…!?」

「そうだ。」

「どうしよう…?」

「地図を奪還しなきゃ…!シリウスがこっちに来れば彼がどこにいるのかも分かっちゃうよ…!」

 

 

ーーーーーー

 

ピーターは突如舞い降りた幸運に舞い上がっていた。自分が学生時代に作成した地図が手に入ったのだ。もう恐れるものは何もない。

 

「リーマス…ありがとう…やっぱり君は僕の親友だね…!」

 

グリフィンドール寮の談話室にハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー、そしてエルファバ・スミスの点が並んでいる。ペラペラとめくれば自分のいる部屋にリーマス・ルーピンとピーター・ペティグリューという点がある。そしてその近くに近づいてきている点が2つあった。

 

ドラコ・マルフォイとエイドリアナ・スミスと書かれている。

 

「あいつは、杖なしで何かを凍らせることができるんだ。グリフィンドールとレイブンクローの試合中に僕は見たんだ!」

 

マルフォイは誇らしげにエディに語った。

 

「そういえばあいつ2年の時にバジリスクを自分と一緒に氷の中に閉じ込めてた。これでいろいろ分かったぞ!」

「ねえドラコ。それ知ってどうするの?まさか全校生徒に言いふらす訳じゃないよね?」

 

エディの発言にドラコは固まった。そのつもりだったからだ。

 

「けっけど、正解だろ?」

「残念だけど外れ。」

「外れだって?!僕はこの目で見たんだ!というかそもそもお前はあいつの秘密知らないって言ってたぞ!」

「だってあたしからしたら秘密でもなんでもないもん。それにエルフィーの魔法って他にもいっぱいあるもん。」

「例えば?」

「物を宙に浮かせたり、生きてるものを作ったりとか。」

「それはどの魔法使いも子供の時はできることだ!それとスミスの魔法は違う!」

「ふーん。」

 

エディは大して興味がなさそうにドラコの話を聞いていた。

 

「というか、ドラコもルーピン教授に用があるの?」

「違う、僕はお前に用があったんだ。…いや、その、偶然会っただけで…!」

 

ドラコが慌てて訂正しようとするのをエディは聞いていなかった。ルーピン教授の部屋の前に来ると、コンコンとノックして扉を開けた。

 

「失礼しまーす!ルーピンきょう…。」

 

エディの言葉は続かなかった。エディはドサッと倒れたのだ。

 

「!?おっ、おい!しっかりしろよ!どうしたんだよ?!」

 

ドラコは慌ててエディの元に駆け寄った。しかしそこでドラコの意識も途切れた。

 

「シリウス…リーマス…僕を怖がらせるものは…この場で、今夜、消す…!」

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