「似合ってるわエルファバ。」
ハーマイオニーは大きな前歯を見せて笑いかける。
「...ありがとう。」
ネズミーさんのスウェットからホグワーツの制服に着替えたエルファバは少しこそばゆい気持ちだ。
(ああ、いよいよ入学だ...一体どうなってるんだろう、私が学校入学だなんて!今さらだけど、これは全部夢でこのままあの小さな部屋で目が覚めてしまうんじゃないかしら。そうならそれはそれで嫌だけど。)
「うまくいくといいな。」
(友達とうまくいきますように、勉強がしっかりできますように。"力"を使いませんように。)
「エルファバはどの寮に入りたいの?」
もちろんを読んで知識はあったがハーマイオニーの演説でなんとなく、グリフィンドールがいいかなと思った。しかし、父親はレイブンクローだったりするのでなんとも言えない。
「まあ、入った寮が自分にとってベストな寮なんじゃないかしら?」
「そんな曖昧でいいの?」
「いいわよ…って私がそう言い聞かせてるだけなんだけどね。」
ハーマイオニーは照れ臭そうに笑った。
(実際意思を持ってたとして、別に何かが変わるわけじゃないだろうし。物事なんてそんなものだ。)
汽車のスピードがだんだん落ちていき始めた。そろそろ着くのだろう。ハーマイオニーはずいぶん興奮気味だ。早く授業を受けたいとか、 変身術はどんなものなんだろうとか、早口でまくし立てる。おそらく相づちはいらないなとエルファバは判断し黙って聞いていた。
ーーーーー
「マクゴナガル教授、イッチ年生を連れてきました。」
エルファバを含む生徒全員ホグワーツの巨大さに圧倒されていた。この世界遺産のような場所でこれから生活していくのだと思うと興奮しすぎて息が止まりそうな勢いだ。ハグリッドはそれを満足気に眺める。
エルファバはこの中で1番興奮しているといっても過言ではないが、いつも通りの無表情だ。興奮した時にどんな表情をしていいのかイマイチ分からないのだ。
(エルファバは冷静ね...)
初めての女友達はそれを誤解していたが。
「ご苦労ハグリッド。ここからは私が引き継ぎましょう。」
上から見覚えのある声が降ってきた。マクゴナガル教授だ。エルファバの家にやってきた時と同じ黒いローブを身にまとい、四角い眼鏡を光らせて1年生を見渡した。
「ようこそホグワーツへ。」
そこからホグワーツの説明が始まった。歴史ある学校で数多くの偉大な魔法使いたちが卒業し、学年末には最高得点を得た寮に寮杯が与えられるらしい。それより気になるのは...
「一体どうやって組分けするんだろう。」
気がつけば隣にいたハリーはロンに尋ねていた。エルファバも分からない。初対面同士で何をするのかひそひそ話し合い、ハーマイオニーに至っては今まで覚えた呪文を早口でつぶやいていた。
「どうしよう...こんなに緊張したことないよ...」
ハリーのつぶやきを聞いて、男の子も女の子みたいなこと言うんだなと思った。エルファバは正直あんまり心配してなかった。どの寮になったっていいものはいいし、ダメなものはダメなのだから。
「大丈夫よ。どの寮になってもハリーはハリーでしょ。人格や能力が変わるわけじゃないから。」
「うん。ありがとうエルファバ。」
エルファバの体を髪の長い女性の幽霊がすり抜けたことにより、白髪の女子生徒から魂が抜けたと若干騒ぎとなるのはハリーがそう言った数秒後のことだ。
ーーーーー
エルファバ含む新入生は再び興奮していた。何千というロウソクが空中に浮かび、広々とした部屋を照らしていた。
寮ごとに分けられたと思われる長い長いテーブルにはお皿とゴブレットが無数並んでいる。
(うわ...みんな私たち見てるよ...)
数え切れない人達(ゴーストも含む)が新入生を凝視しているためエルファバはドギマギする。
「天井には本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。」
美しい夜空を見つめていたエルファバにハーマイオニーがそっと耳打ちしてくれた。
「エルファバ、前見て。」
「あっ、ごめんハリー。」
ハリーが言ってくれなければ危うく人にぶつかるところだった。
「エルファバ、実は結構興奮してたりする?」
「実はもなにも...すっごい興奮してるわハリー。こんなこと自分が経験しているなんて信じられない。」
ハリーはその答えに少しホッとした。エルファバは相変わらず無表情を貫いていたからだ。そして彼とそれを聞いていたハーマイオニー、ロンはエルファバは感情を表に出すのが苦手なのかもしれないと思った。
ロンが古びた帽子の歌を聞きながら、自分はエルファバに嫌われてなかったと安心したのは、彼だけの秘密だ。
「ABC順に名前を呼ばれたら帽子を被って椅子に座ってください。」
エルファバはSなので後ろの方だ。
「グリフィンドール!」
「レイブンクロー!」
「スリザリン!」
どんどんエルファバの番が近づいていく。ハーマイオニー、ハリー(ハリーが呼ばれた時結構ざわつき、先生たちも姿勢を伸ばした。)はグリフィンドールに選ばれた。
「スミス、エルファバ!」
(呼ばれた。)
全校生徒が平均身長を大きく下回るエルファバをじっと見つめている。
「あの子ちっちゃくないか?」
「確かに。」
「その割に髪の毛長っ。」
(チビじゃないし。ちっちゃくないし。)
チビあるある①自分がチビだと頑なに認めない。
エルファバは心の中でツッコミを入れながら、おんぼろ帽子を被った。
「ふん、お前も実に難しい。勇気に満ち溢れる。類まれな記憶力、思考力もあるな。かなりの努力家でコツコツ頑張るタイプだ。狡猾さは皆無だ。お前はスリザリンに向いてない。ここまで狡猾さがないのも珍しい。」
(そうですか。)
「ふーむ、難しい...難しい...個性的な発想、優しさ、賢さ...やはりスリザリンに入る要素はない。」
(さっきも聞きましたそれ…。)
おそらくエルファバの組分けが1番時間がかかってるであろう。まあ自分の組分けだからそう感じるのかもしれないとエルファバはぼんやりと思う。
(できれば1番"力"を使う可能性の低い寮がいいな。そう考えた時だった。)
「お前、今自分の才能を潰すような希望をしたな。」
(...へ?)
「私は生徒の希望は尊重する。望みも彼らの道を決める手段の1つだからだ。だがお前のように故意に自らの才能を潰すような希望をする者は嫌いだ。全く情けないことだ。」
(待って、なんで帽子さん怒ってるの?帽子さんって感情あるの?組分けするだけじゃないの?)
「お前の寮を決めたぞ。お前の才能を最大限に活かせる寮だお前の寮は...」
(え?え?え?)
困惑するエルファバをよそに帽子は叫ぶ。
「グリフィンドオオオオール!!」
赤いネクタイをした生徒たちのテーブルが歓声を上げた。
ーーーーーーーーーーー
お父さんへ
私はグリフィンドールになりました。みんなびっくりするくらいいい人たちばかりです。お父さんもこんな人たちに囲まれて生活してきてたのね。今は特に問題ないです。また手紙送ります。
エルファバ
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エルファバは驚くほど短い手紙をフクロウにくくりつけて送った。
実際、学校生活はエルファバが想像する3倍は素晴らしいものだった。料理は美味しく、毎日の授業は新鮮で貪るように授業を受けていた。
中でも好きなのは友達だった。
長い間人との関わりを絶ってきたエルファバにとって、グリフィンドールのみんなは神の使いに見えた。ハリー、ロン、ハーマイオニーは相変わらずエルファバを気にかけてくれるし、その3人を通じてまた新たな友達もできたのだ。ロンの双子の兄や、同級生の女の子たち(いい子達だがエルファバは彼女たちのガールズトークにはついていけなかったりする。)、さらにはパッフルパフやレイブンクローの生徒だ。
「よお、エルファバ!!」
朝食を食べている時、気がつけば全く同じ顔の人間がエルファバの左右にいた。エルファバが最高に面白いと思ってる人たちの一部である。
「ハーイ、フレッドとジョージ。」
(どっちがどっちか分からないけど。)
「エルファバ、お前の意見が欲しい。」
「フィルチが俺らを嗅ぎまわってるんで、仕返しをしたい。」
「何かいい案は?」
(どうして私に聞くんだろう。)
エルファバはフレンチトーストを飲み込む。
「...部屋から出られなくなるくらい醜いおできでも作れたらいいんじゃないかしら。」
テキトーに答えた。
「そりゃ名案だぜ。」
「フレッド、さっそくやるか。」
「ありがとうよ、チビファバ。」
「チビじゃない。」
エルファバの抗議をよそに双子はどこかにってしまった。
「エルファバやめとけよ。あいつらマジで作るぜ。」
一部始終を見ていたロンはため息混じりにパンをちぎる。
「そう?」
「君の提案したもの、本当に実用化されちゃったよ。」
ハリーはレイブンクローの席の方向を顎で指す。哀れなレイブンクロー生が激辛スープを飲んで文字通り火を吹いてたところだった。
『インドで火を吹いてる人ってカッコいいよね。』
エルファバが入学式の次の日、そう呟いたのを双子が聞き取った結果だ。もちろんエルファバに提案したという発想はなかった。
「...気をつけるわ。」
双子が謎の破裂玉をフィルチの顔面に投げつけ、目が見えなくなるほどに巨大なおできができたため、フィルチがしばらく休みになったのはそれから1週間後である。
エルファバに問題が発生したのは授業が始まってからだ。授業態度は完璧ではあるのだが、エルファバはどの授業も毎回遅刻してきた。理由は単純だ。
「...!!...!!」
エルファバは魔法薬学の授業への移動中なのだが、廊下の地べたに座り込んでしまったのだ。
「...!!...はあ、はあ...」
エルファバは長い間2階の自分の部屋とバスルームを行き来するのみの生活を送っていたので、筋肉量と肺活量が著しく低下していた。当然この広いホグワーツを回るほどの力はない。
(もうすぐなのに...。)
エルファバが教室に着いた時には、授業が始まって10分は経過していた。
「...遅れて...すい...ません...」
やけに息切れしているエルファバにスリザリン生数名は笑った。グリフィンドール生は心配そうにエルファバを見つめている。たった今、"ハリーいじめ"によってスネイプ教授のスリザリン贔屓が露呈したからだ。
「飲め。」
大きな手がエルファバの前に水色の薬を差し出す。それを飲むとエルファバの呼吸がすぐに落ち着いた。
「遅刻の理由を言え。」
真っ黒なコウモリのようなスネイプ教授は腕を組み、ノロノロ立ち上がるエルファバを冷たく見る。
「...予定より早く出たのですが、ここまで来る途中に体力を使い切ってしまって。ごめんなさい。」
スリザリン生はエルファバの回答に大爆笑した。グラップとゴイル(ハリーの嫌いなマルフォイと一緒にいたのでエルファバはすぐに覚えた)に至っては机をバンバン叩いている。
(真面目に答えたんだけど。)
「どんな理由があっても遅刻は許されん。グリフィンドール1点減点。」
(みんなごめんなさい。)
グリフィンドールから呻き声が上がり、エルファバは心の中で謝った。
実際、他の教授はエルファバの事情を知っているので減点したりなどしなかった。フリットウィック教授に関してはどんなに息切れてもしっかり来ただけでお菓子をあげたぐらいだ。
グリフィンドールにやたら厳しいスネイプ教授にみんな畏敬の念を示した。
「ベゾアール石はどこから取れる?」
まただ...今みんながノートに取ってる内容だ。ハリーとロンはどうにかしてエルファバに教えてあげたいと思うが...
「まさか、遅刻しておいてこれを知ら「山羊の胃。」...ないとは...」
いつもの無表情でエルファバは答える。
「たいていの薬の解毒剤となりますが、バジリスクなどの強力な毒は逆に石を溶かしてしまいます。」
唖然とする生徒と教授にエルファバは思い出したように付け加える。
「ページは38ページ。確か山羊の断面図が書いてあったところ。」
みんな顔を見合わせ、一斉に本をめくり出した。
「...合ってる。」
呟いたのはスリザリン生だった。
「モンクスフードとウルフスベーンの違いは?」
「同じ植物ですが、国によって言い方が違います。アコナイトとも呼ばれ、マグルの世界ではトリカブトとして有名です。少し前までは違う植物として認識されていたため、魔法薬学界の中で混乱を招きました。ページは82...違う、82ページの最後から2行目から83ページにかけて。」
ページをめくる音だけが地下牢に響く。
「すごい!本当に82ページから83ページにかけてだ。」
シェーマスがそう言った。
「...早く席につけ。」
「はい。」
エルファバはグリフィンドール生と数名のスリザリン生に尊敬の眼差しで見つめられながら、席に着いた。
相当勉強したに違いない。そう確信付けられていたが、実際はそうでなかった。
(良かった。1回しっかり読んでおいて。)
そう、エルファバは教科書を1回読んだだけで細かなところまで覚えられるという驚異的な記憶力を持っていた。本人に"覚えた"という自覚はない。エルファバからすれば"読む"ということは"覚える"ことと同義語だった。
「すごいわエルファバ...」
隣に座る友人に本人はキョトンと答える。
「?何が?」
これはエルファバにとって大して珍しいことではなかった。彼女の父親が全く同じ才能を持っているからだ。