ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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【注意】
このお話には若干の性描写とBL描写がございます。


6.クリスマス・ダンスパーティー

「どうかな?」

「女神みたいよ。」

「そんな…そうじゃなくてハーマイオニー…。」

「うふふ、ごめんなさい。でも本当似合ってるから。」

 

薄いピンクのシフォンドレスを着たハーマイオニーも本当に美しいとエルファバは思った。いつも自分を差し置いてエルファバにばかり気を使っているので、気づかなかった。

一方エルファバはというと、胸のあたりがピンクで下半身にいくにつれて段々と白くなっているグラデーションのAラインドレスだ。エルファバの女性らしくなりつつある体型をキレイに生かしたドレスを選んだのはミセス・ウィーズリーだ。しかし生まれて初めてヒールを履くのでガニ股歩きになるのが非常に残念だとハーマイオニーは思った。

 

「それにしてもどうして染め粉が効かないのかしらね。」

 

エルファバはハーマイオニーの問いに肩をすくめる。

 

目立たないように、エルファバは飲むタイプの染め粉(これはうぶ毛までキレイに染まるという優れものだ)で髪をジニーのような真っ赤な毛に染めようとしたがエルファバは規定量ギリギリまで飲んでも効果はなかった。結局エルファバは赤毛のカツラをかぶって参加することになった。

 

「あなたに白髪でこのドレス着てほしかったわ。」

「私も!絶対映えてたわ!」

 

ハーマイオニーのつぶやきにラベンダーも100%同意した。パーバティは髪を結わくのに夢中で何も反応しなかった。あえてそういう風に見えるようにしているのかもしれない。

 

「セドリックは結局レイブンクローのチョウ・チャンと踊るんですって。でもセドリックはあんまり乗り気じゃないらしいから、気にしちゃダメよ!イケメンルーカスとのひと時を楽しんでね!」

 

ラベンダーがウキウキしているのに対してエルファバはぎこちなく笑った。

 

 

ーーーーー

 

 

「見て。あの人めっちゃイケメンじゃない?」

「そう…かな?」

「ボーバトンの連中はさ、ホグワーツの奴らは田舎くさいって言うけどマッチョな人多くて好きだよ。ダームストラングはムサすぎて好きじゃない。」

「へー。」

「へーって。まあイケメンに囲まれてると感覚鈍るよね。」

「イケメン?」

「ディゴリーだけじゃなくてハリー・ポッターとかも顔立ち整ってんじゃん。いいよね、俺ハリー・ポッターも好きだなー。まあ残念ながら彼にはその傾向はないみたいだけどね。」

 

この会話をしているのはルーカスとエルファバである。影に隠れた目立たない、且つホールが見渡せる場所でエルファバとルーカスは談笑していた。セドリックがエルファバとルーカスがダンスのパートナーとして一緒にいるのをオッケーしたのには理由があった。ルーカスに誘われた後にセドリックに聞いてみるとセドリックは言った。

 

『彼は君よりも僕が好みなんだってさ。』

『……彼はセドリックが好きなの?』

『うん、そういうことになるね。』

『なのにセドリックじゃなくて私と踊るの?』

『本当は僕と踊りたくて踊りたくて仕方ないけど周りの目があるし、何より今回は君と喋りたいんだって。』

 

ルーカスはウエーブかかったライトブラウンの髪を金髪に染め上げ、伸ばすことで他の生徒の目を巻いた。

 

「ちょっと前まで恋人(ボーイフレンド)いたんだけどここ来る前になんか向こうが嫉妬に狂って俺に呪いかけようとしやがってさ。女にモテるとそういうのも厄介だから嫌なんだよね。あ、ちなみによく勘違いされるけど俺は心も男だから。女装癖とかなないからね。エルちゃんなんか知識なさそうだし今度いろいろ教えてあげる。」

「ありがと。」

 

エルファバ自身はそこに対する偏見はなかったのもルーカスが心を開いてくれた要因の1つだった。幼い頃から数々の本を読んでいるエルファバはシェークスピアやオスカー・ワイルド、レオナルド・ダ・ヴィンチが同性愛者であることも知っており、特に珍しいことでもないと考えていたからだ。

 

「なんか話聞いてるとエルちゃん不安だなあ。なんか知識あるようでないんだよね。」

「どういう?」

「性知識。」

「せいちしき?」

「ほら分かってない。君変態から狙われそうだし俺がそっちのことも手取り足取り教えてあげてもいいけどそれじゃあセクハラに見えるだろうしなー。それにそれやったらディゴリーに殺されるな。」

 

ルーカスがサラッと問題発言をしたことにエルファバは気づいていない。

 

話に出たセドリックはエルファバの1つ上の中国系の女子生徒(ラベンダーが言っていたチョウだろう)と並んで座っている。なんとなく考えた。

 

(あの記事が出なかったら私はセドリックとあの席に座っていたわ。そうしたらセドリックは私のドレス姿を見てなんて言ったかしら?優しい彼のことだから仮に私がカエルの着ぐるみ着ても似合ってるって言いそうだけど。)

 

大広間は銀色の霜に包まれ、満天の星空の下でヤドリギや蔦の花が絡んでいる。皆が拍手をすると代表選手たちが前に出てきてゆっくりと最初のワルツを始める体制になった。皆が(特に女子)ウキウキしている中でエルファバとルーカスは大きめのチキンを食べ始めた。

 

「それで?あの記事はどこまでが本当なの?」

 

何の前触れもなくルーカスは確信をついてきた。エルファバのフォークからポトっと肉の欠片が落ちた。

 

「どこまでって言われるとよく分からないんだけど、多分母親は私を妬んでる訳じゃないし、私は叔父さんにお金で売られた訳でもないし、数年間暴力振るわれてた訳ではないわ。でも似たようなことがあったのは事実だし、精神的な影響でコントロールできないこともあるわ。」

 

ルーカスはエルファバの顔を覗き込んだ。

 

「話で聞いたけど、2年の時に廊下と蛇を凍らせたってのはそれは意識的?それともそういう無意識なもの?」

「どっちもかしら。凍らせようとは思ったけど、あそこまでできるなんて思ってなかったし。」

「へえ。」

 

ルーカスはチキンを自分の炎で少し燃やしてからまたひとかじりした。

 

「あなたたちは完璧にコントロールできるの?」

「むしろ俺はエルちゃんが精神的にコントロールできないっていうのが本当だってことにびっくりした。」

 

(じゃあやっぱり、私って異常なのね。)

 

エルファバは心臓からシュルシュルと空気が抜けていくのを感じた。

 

「知ってる?僕らのこれって遺伝子なんだ。」

「遺伝子?」

 

それを察したのかは分からないが、ルーカスはエルファバの興味の持ちそうな話題に移した。

 

「そ。数百年前に"呪われた"僕らの一族は感情によって周囲を燃やし…あるいは凍らせて、マグルからも魔法使いからも疎まれる存在だった。魔法使いたちの魔法は効かず、皆身を隠すしかなかった。」

「数百年前…魔法界からすると意外と最近なのね。どうしてその話が広まらなかったのかしら。呪われたって誰に?」

「ゴブリン…小鬼。」

 

エルファバは魔法史の教科書に載っていたゴブリンの反乱が起こった時の話を思い出した。

 

"ゴブリンの反乱の際、ゴブリンには魔法使いの協力者が数人いたとされる。しかしゴブリン側は否定しているので真偽は定かではない。"

 

「!私たちの祖先は…!」

「ゴブリンに協力してた。」

 

エルファバは納得したようにうなづく。

 

「私銀行にお金をおろしにいくたびにジロジロ見られてたの。彼らは知ってたのね。」

「俺らの祖先はゴブリンと魔法使いとの戦いにゴブリン側として戦った。」

「けど呪われたんでしょう?」

「そこがポイントなんだ。ゴブリンたちが言うにはどうやら終戦の条件としてゴブリン側が提示した魔法使いたちが奴らの所有物を渡すことを俺らの祖先は拒否したらしい。盗んだ物を返さない魔法使いの"不誠実さ"に怒ったゴブリンは俺らに罰として呪いをかけたってわけ。」

 

ゴブリンと魔法使いの長年の不仲は有名な話だった。ゴブリンと魔法使いでは価値観、特に宝に対する考え方が違った。互いが卑怯な手を使い、お互いに多くの犠牲を出し現在は魔法使いが勝利したということで表面上は仲がいい。しかし話によればゴブリン側は宝に対する処遇や杖を持つことを許可されていないなどのことに不満を持っている。

 

「まあ、呪われた俺らに出来ることは少ないけど…言えるのは、氷なら炎よりも人を守ることができると思うよ。だからエルちゃんにはコントロールできないからって気を落とさないで欲しいな。」

「そんな…あなただって守ったでしょう?」

 

ルーカスはキョトンとエルファバを見返した。

 

「クィディッチのワールドカップで。」

「あ、あれ君の知り合いだったの?」

「ハリー、ロン、ハーマイオニーだったの。」

「へえー!不思議な偶然っていうのもあるんだねえ。ハリー・ポッターを助けた男ってことでイギリスの魔法省からたんまりお金もーらおっと。」

 

ルーカスはジョークを言ってクククっと笑ったがすぐに真顔になる。

 

「俺はただこれでできるだけ多くの人を守りたいんだ。君も感じたことがあると思うけど、たまに…俺自身の炎に俺が飲み込まれるんじゃないかって思うんだ。いつか誰かを傷つけて、それに快感を覚えるような人間になりそうで怖い。アダムがそうだ。」

 

ルーカスは辺りを見回してから声を落とした。

 

「今更って思うかもしれないけれど、あいつは危険だ。俺とあいつは家族ぐるみで関わりがあったんだけど、あいつは子どもの頃、俺でいろいろ"実験"してたんだ。最終的には俺の親が気づいて終わらせたんだけどね。内容はこんなキレイな夜に言えるもんじゃない。ああ、言っておくけど俺がゲイなのは生まれつきだから、そういうので目覚めたわけじゃない…って言ってもエルちゃん分かんないよね。」

「んー。」

「今度教えてあげる。とりあえず、アダムからはできるだけ離れて。ダームストラングはカルカロフが校長になったことによって暗黒期を迎えてるし…なんかあったら俺に言って。」

「分かっ「エルフィーっっ!!」」

 

エルファバの言葉を遮ったのは当然エディだ。"プロフェッショナルなビッチたち"に仕込んでもらったのか、朱色のドレスをヒラヒラさせて走ってきた。その背後には、燕尾服を着たマルフォイがついてきた。

 

「あなた本当に…。」

 

エルファバは覚悟を決めて、立ち上がった。

 

「エディ。ちょっとマルフォイと話してもいいかしら?」

「ん?いいよ?」

 

エルファバは自分よりも20センチ近く背の高いマルフォイを睨みつける。マルフォイもマルフォイでエルファバを小ばかにしたような目で見た。

 

「僕に近づかないでくれよ。パンジーみたいに情緒不安定で凍らされるのはごめんだ。僕はあの記者が暴くよりもずっと前からお前が精神病だってことは分かってたんだ。」

「エディと一緒にいるのはどういう目的なの?」

「僕じゃない。あいつが俺と行きたいって言うから仕方なく付き合ってやってるだけさ。」

 

(どうしてこんな人とエディは付き合ってられるワケ?)

 

エルファバは憎たらしいにやつき顏のマルフォイに呪いをかけたいと本気で思った。きっとこの白い肌に膿がたまった赤いニキビはよく映えるだろうと考えると少し落ち着いた。エルファバは一歩近づくとマルフォイはひるんだ。

 

「おいっ、僕に近づくなって言ってるだろう!?化け物!」

「エディにこれ以上何か危害を加えるならいくらだって化け物になってやるわ。」

 

エルファバが踏み出した足の先直径30センチほどで空気が割れる音がする。

マルフォイがそれを見て、ヒエっと声を上げた。

 

「ただでさえハーマイオニーがあなたたちに侮辱されてることが耐えられないのに、エディまでそんなことされたら私何するか分からないわよ。」

「僕はグレンジャーみたいな穢れた血を持つ人間が魔法教育を受けるべきじゃないと正当な主張をしてるだけさ。お前の妹は…別に…。」

 

マルフォイはエルファバの後ろでルーカスに挨拶するエディをチラリと見た。

 

「マグルのハーマイオニーやエディをこれ以上辱めるなら私本当に凍らすから。」

「だからお前の妹は違うって言ってるだろう?」

「何が違うって言うのよ。彼女が私と異母姉妹でマグル生まれであることはお父様から聞いてるんじゃなくて?」

 

この一言で挑戦的だったマルフォイの笑みが一瞬で消えたことはさすがのエルファバも分かった。

 

「なんだって…?」

 

なんとなく、なんとなくだが、エルファバはマルフォイに余計な情報を与えたような気がした。

 

(考えてみれば記事にはエディと私が異母姉妹であることは載ってなかったし、エディ本人もそこを理解してないわ。ってことはマルフォイがエディと一緒にいたのはまさか彼はエディを混血だと思ったから…!?)

 

「あいつが…穢れた血…?」

「やめてその呼び方。」

「そんな…。」

 

マルフォイは髪をかきむしって、キョロキョロと何かすがるものを探すように挙動不審に首を動かした。動揺している。

 

「ドラコとエルフィー、話終わった?」

 

エディがエルファバとマルフォイの顔を交互に覗く。

 

「あっ…ああ。」

 

マルフォイはエディから視線を逸らす。青白い頬がピンク色になっている。

 

「ドラコ、あたしエルフィーにやってほしいことがあるの。だからちょっと離れてていい?」

「ん…。」

「ありがと。」

 

エルファバの同意は得ずにエディはエルファバの腕を掴んで人の多い場所にずんずんと歩き出す。

 

「エルフィー、あのデラクールがね…可愛いガブリエルじゃなくて憎たらしい姉貴の方ね。ホグワーツの装飾は最悪だって言ってたの。ボーバトンのクリスマスは溶けない氷の装飾があってキラキラ輝くんですって。だから「待って。ダメよ。」」

 

エディが結論を言う前にエルファバはエディから離れて首を振った。

 

「なんで?」

「なんでって…そんなことしたらみんな怖がるわ。」

「そうかな?キレイだったらみんななんでもいいと思うけど。」

「それが杖から出されて、精神的に不安定なものじゃなければね。」

「けどエルフィー普段から出せるでしょ?」

「そうだけど、そうじゃなくて。」

「いいじゃんいいじゃん。てかあたし今スケートしたい気分なの。ハーマイオニー!!」

 

ハーマイオニーはエルファバの後ろでビクトール・クラムと談笑しているところだった。

 

「なあに?」

「スケート靴ちょうだーい!」

「はーい!」

 

ハーマイオニーは杖を取り出し、エディのしなやかなヒールを一瞬でゴツいスケート靴に変えた。

 

「持ってきてたの。」

「あなたたち、まさか事前に計画してたわね?」

 

エルファバはハーマイオニーを睨むが当の本人は嬉々としてクラムに事情を説明していた。

 

「エディ!」

 

エディは人をかいくぐって絨毯の上を器用に走る。その先は大理石のダンスホール。

 

「ほらほら床凍らせないとあたし転んじゃうよ〜?」

「エディっ!」

 

エルファバもエルファバで慣れないヒールでよろよろとエディを追いかけている。あと数メートル、数センチ…。

 

バキバキバキバキっ!!

 

「ひゃっほ〜うっ!!」

 

エディは美しく大理石の上で滑り始めた。エルファバは大理石と絨毯の境界線ギリギリで必死にエディの行く先を凍らせた。

 

「なんだあれ?」

「アイススケートよ。」

「スッゲー!」

「氷の上を飛んでるみたい!」

「エディって本当なんでもできるのね!」

 

一方"裏方"のエルファバは足の方に異変を感じていた。気がつけばエルファバの銀色のハイヒールがエディと同じものになっている。

 

「ハーマイオニー、私はやらないわ。」

「ふふっ、やるのよ。」

「やんない。」

「やるわ。」

「やんな!?」

 

突然強い力がエルファバをダンスホールへと押した。エルファバはよろっとバランスを崩しながらも後ろ向きになりながら滑ってなんとか体制を持ち直す。必死にエディと自分の行先を見ながら、凍らせた。エルファバがいた場所にはフレッド、ジョージ、そしてロンがいた。

 

「誰やったの!?」

「「ロン。」」

「僕じゃないよ!」

 

そう言う3人はニヤニヤしているのでおそらく全員共犯だろう。今やエルファバとエディはその場に生徒たち全員の注目の的だった。

 

「エルフィー!ダンスホール全部凍らせちゃいなよ!その方が楽だよ!」

 

主犯格(エディ)は辺りを取り囲む生徒たちに歌手のように投げキスをしながらスピンした。エディと自分が転ばないように必死に床を凍らせる。黒髪の少女と赤毛の少女が華麗に床を滑る(正しくはエディをエルファバが追いかけている)を生徒たちは感嘆の声を上げて見ていた。

 

「みんな聞いてっ!!」

 

ただでさえ注目を浴びているのにエディはさらに大声を出した。

 

「あー、バンドのおじさんたちセッション邪魔してごめんね!あなたたちの歌好きよ!けど、今はあたしのお姉ちゃんのパフォーマンスを見てほしいの!」

「エディ、何を言って…?」

「どっかのボーバトンの誰かさんはホグワーツの装飾をボロクソ言ってたから、エルフィーにそれを変えてもらおうと思うの。もちろん全部じゃないよ?あたしはこの飾り好きだからね。」

 

ハーマイオニー、ロン、フレジョは拍手やらピーピー口笛を吹くやらで盛り上げたが、他の生徒たちは不安げにヒソヒソと声を潜めて話す。"どっかのボーバトンの誰かさん"は美しい顔を醜悪に歪めてエルファバとエディを睨んでいた。

 

「エディ、私そんなことできないわよ…。」

「大丈夫だって。サーカスみたいにひょいひょいって大げさにやればいいんんだから。」

 

エルファバはチラッとハーマイオニーとロンを見た。ロンはうなづき、ハーマイオニーはエルファバを指差し、片手の指をウネウネと伸び縮みさせた。おそらく普段のエルファバの真似だろう。そこにルーカスが寄ってきたが、面白そうに口笛を吹いて拍手をする。次に座っているセドリックを見た。彼はウインクをして脚を組んだ。

 

「分かったわ…。」

 

エルファバはゆっくりと両腕を大きく広げ、ホールを見渡す。

シン…と静まり返り、全ての視線はエルファバを見ているのを全身で感じた。

エルファバはそれを無視し、なるべく建物全体に注意を向ける。

 

(このクリスマスに合うのは彫刻みたいなものよりも花の方がいいわね。蔦とかあっても悪くないわ。)

 

エルファバは滑りだす。蝶が舞うように大理石の上を滑るたびにダイアモンドのようにきらめく粉が舞った。それはまるで妖精の粉のようで、観客数名からため息が漏れる。

 

「見て!」

 

ダームストラングの女子生徒がテーブルを指差して叫んだ。各テーブルの真ん中に氷でできた花と花瓶が置かれていた。花はピンポンマムで細かな花びらの細部に至るまで作り込まれていた。壁には本物のヒイラギと氷のヒイラギが混じり、天井の角には大きなポインセチアを咲かす。その華麗な魔法に会場にいる人々は拍手を送った。

 

エルファバは息を飲む。

これを望んでいた。自分の魔法が人に喜ばれるのを。自分のエゴでも構わなかった。エルファバは自分の髪を締め付けるカツラを力任せに投げ捨てた。絹のような白い髪が現れ、その美しさで皆はまた歓声を上げる。

 

「もっと!もっと!」

 

生徒たちはエルファバにねだった。エルファバは杖で呪文を唱え、それと同時に手を伸ばすと指先にアゲハ蝶が生まれて大広間の中で優雅に羽ばたいた。

 

歓声はどんどん大きくなり、エルファバは天井に手のひらを向ける。銀色の光が上へ放たれ、会場内に雪が降り始めた。

 

「見て、これ普通の雪より粒が大きいよ!」

「すごい、結晶がはっきり見える!」

「キレー!」

 

ハーマイオニーは杖で滑れるマグル生まれの生徒にスケート靴を履かせていた。初体験のフレッドとジョージは無謀にも挑戦して盛大にコケて笑いを誘っている。

 

 

「見事なものじゃ。」

 

エルファバの後ろにはダンブルドア校長がいた。自分の作品を作るのに集中していたエルファバはぎょっとした。

 

「来年からはフリットウィック教授と共に君にクリスマスの飾りを頼もうかのお。」

「お上手ですね。」

「はるか昔にマグル生まれの学友に教えてもらったのじゃ。」

 

ダンブルドア校長は魔法使いとは思えない、そして老人とは思えない軽快な滑りで別の意味で注目を浴びていた。しかもスケート靴が自前である。エルファバの周囲をなめらかに一周してからニッコリと微笑み、お辞儀をすると皆感嘆の声を漏らしパラパラと拍手した。

今度はフリットウィック教授は杖を一振りする。

 

「これで魔法使いでもスケートは楽しめるでしょう。」

 

スケートをやりたいとブーブー言っていたフレッドとジョージ、そしてリーが2センチほど宙を浮き、氷の上を滑り始めた。

 

「簡単な浮遊呪文。自分にではなく靴にかけるのですよー。」

 

ペアを組んだ男女はお互いの体を支えながら、氷の上で滑りだした。雪を降らせ、凍らせ、滑り、笑う。

 

不思議な夜は時を早めた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

エルファバは大広間の外でセドリックを待っていた。

あの大活躍のあと、もう誰もエルファバが精神異常者などと呼ばなくなった。むしろ次々とエルファバがダンスを申し込まれてルーカスが連れ出さなくてはてんてこ舞いになっていた。

 

(セドリックまだかな。)

 

エルファバの周りでは妖精たちがくすくす笑いながら光を放ち、飛んでいる。クリスマスの夜によく似合う。その中で、カップルがキスしたり、キスしたり、キスしたりしている。そんなことを気にするエルファバでもなかったが、問題はエルファバの場所からは見えない暗がりにいるあるカップルである。

 

「ダメよ…こんなところで…。」

「いいだろ?誰も気にしないさ。」

 

そこから聞こえる吐息と怪しい雰囲気にさすがの他のカップルたちも退散し始めた。

 

(女の人苦しそうね。大丈夫かしら。でも嬉しそうでもあるし…人呼んだ方がいいかしら。)

 

いらぬ心配をするエルファバである。

 

「あっ、あっ、ああっ…!」

 

嬌声響く廊下でエルファバは2人の安否を気にしながらセドリックを待った。

 

「あ、セドリック。」

 

セドリックはすごい勢いでエルファバのところにじ来たかと思えば、すごい勢いでエルファバを校庭まで引っ張っていった。

 

「なんであんなところにいるんだよ?!」

「ごっごめんなさい…。」

 

エルファバはセドリックが声を荒げる理由が分からずに反射的に謝った。

 

「えっ、あっ、いや…その…怒ってるんじゃなくて…居づらくなかったのかな…って。」

 

エルファバの手を握るセドリックの手が段々熱くなっているのを感じた。

 

「ちょっと女の人が苦しそうだったから助けを呼ぼうとしたけど。」

「しなくて正解だよ。って、え?」

「?」

「…まさか、知らないの?」

「知らないって何が?」

「…なんでもない。」

 

彼氏としてとんでもない問題に直面したことをセドリックは理解せざるえなかった。このやり取りをルーカスが聞いたら、満面の笑みでやって来て「ヘルプしよか?どっちにも伝授するよ?」と聞いてくるだろう。

 

頭を抱えたが気を取り直し、セドリックはエルファバの頭を軽くポンっと叩いた。

 

「やっぱり白髪の方が君って感じ。」

「そう?」

「うん。いつもキレイだけど、今日は一緒にいるのが申し訳なくなるくらい美しい。」

「恥ずかしいわ…ありがと。」

「本当だよ?」

「…うん。セドリックも素敵だったわ。」

「僕は現在形で綺麗って言ったのに、君は僕のこと過去形で言うのかい?」

「違うわよ…!だって今セドリックのこと見えなくて…!」

「ははは。冗談だよ。」

 

真っ暗な校庭の中で妖精たちの光のみで互いの顔はよく見えない。大広間からは優美な音楽が漏れている。セドリックは大げさに片手を後ろに回し、腰を折って、エルファバに手を出す。

 

「一緒に踊ってくれませんか、綺麗なお嬢さん?」

 

エルファバは、少し複雑な顔をしてセドリックの手を取る。

 

「私踊るのダメなの。」

「ロングボトムの足7回踏んだんだって?」

「誰が言ったの?」

「エディ。」

「もうやだあの子。」

 

セドリックは笑ってエルファバの手を取り、エルファバの腰に手を回して、音楽に合わせてワルツを踊り始めた。

 

「あっ、ごめんなさい。」

「ごめんなさい。」

「あー、もうっ。本当ごめんなさい。」

 

案の定何度も足を踏んでは謝るエルファバにセドリックは突然しゃがみ込み、エルファバのヒールを脱がせ、横抱きにした。

 

「どう?」

「足が楽だわ。」

 

エルファバとセドリックは笑ってワルツの音に合わせてゆらゆらと動いた。

 

「私、来年もずっとこうしてたい。」

「僕も。」

 

エルファバはセドリックの首に腕を回して身を委ねた。

 

ーーーーー

 

ハリーへ

 

クリスマス・ダンスパーティーは楽しかったわ。けど、私はあの計画にあなたがどこまで関わっていたのか知りたいわ。

 

エルファバ

 

ーーーーー

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