ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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8.クラウチ氏の告白

エルファバはハーマイオニーにもたれかかって、あくびをした。部屋の中は生暖かく、話を聞いているつもりでもその室温はどうしてもエルファバの思考をゆるく遅くした。4人の前にいる男性は、英国紳士らしく紅茶を優雅に飲んだ後話を続けた。

 

「つまりハリーはその屋敷しもべ妖精にそのエラ昆布を探させたのか?」

「うん、ハーマイオニーはものすごく反対したんだけど…。」

「今も反対よ。」

 

ハーマイオニーは鬼のような顔でロンとハリーを交互に睨みつけた。

 

ありとあらゆる手段を考えたが、4年生のハリーが水中で1時間息をする方法はほぼ皆無に等しかった。4人で話し合った結果、ロンがものすごく躊躇しながら聞いた。

 

『あのさ…誰かが見つけたじゃん…あのエラ昆布とか言うの…探さない?』

『このだだっ広いホグワーツを?その辺に生えてる物じゃないし、何年もかかっちゃうわ。』

『いや…ほら…君は怒るだろうけど、いるだろう?ホグワーツを大体把握してて自由に動ける奴ら…。』

 

ここまできてハーマイオニーはハッキリ、キッパリ、言った。

 

『ダメよ。』

 

おそらくロンとハリーの間で何度かこの話はしてきたに違いない。2人は予想通りだという顔をして、ハーマイオニーの説得に取り掛かった。

 

『けどさ、それ以外ないだろう?僕らの時間は授業や宿題に取られる。それとも今からN.E.W.Tレベルの魔法を必死に練習するかい?あと数週間しかないのに?』

『けどそれは、私たちの理念に反するわ!』

『君だけだよ。』

『何か言ったかしら?』

『けど、それしか手段は…。』

『大体それがこのホグワーツにあるのかすら分からないじゃない。それなのにそんなことさせるなんて奴隷労働。私たちがそんなことしたら彼らはまた奴隷としての思考を植え付けてしまうじゃない!!』

 

ハーマイオニーの主張虚しく、ロンとハリーの案は強行された。

 

『ハリー・ポッターのためならドビーはなんでもします!!』

 

マルフォイの屋敷しもべ妖精だったドビーは訳あってホグワーツで働いていた。クリスマスにロンがあげたセーターとエルファバがあげた子供用のズボンとハリーはあげた靴下を履いてドビーはぴょんぴょん跳ねていた。

 

『ハーマイオニー、ドビーは一応自由…というか、雇い主はホグワーツだからハリーの命令には拒否権もあるのよ。だけど彼が承諾したんだからそれは奴隷労働じゃなくて『エルファバまでそんなこと言うなんて!』』

 

ハーマイオニーはその日終始不機嫌だった。だが皮肉なことにこの策は大成功だった。ドビーは第二の試練2日前にやってのけたのだった。

 

『ドビーはハリー・ポッターのためにエラ昆布を見つけましたっ!!』

 

目に涙を溜めて喜ぶドビーの頭にはたんこぶが数個でき、手は包帯でグルグル巻きだった。きっと見つけられないたびに自分を罰したのだろう。ロンとハリーはハーマイオニーに見つからないようにドビーを隠してエラ昆布を手に入れた。

 

『ありがとうドビー。本当、本当助かった。ちなみにどこで見つけたの?』

『スネイプ教授の私用倉庫ですハリー・ポッター!』

『『『…。』』』

 

ちょっと厄介な問題を引き連れてドビーは帰ってきたが、もうそこは目をつむることにした(「ハリーには悪いけど、多分僕らには被害こないさエルファバ。」)。ドビーにはハリーとエルファバを助けたかっただけなのだが逆にハリーを危険な目に合わせるという前科が数件があるので試しにドビーのエラ昆布を一欠片食べると、ハリーはうずくまった。

 

『すっげえハリー。手足見てみろよ!ヒレが出てるぜ!』

 

しかし当のハリーはそれどころではなかった。エルファバは慌てて、周囲構わず杖で桶を呼び寄せてハリーの体が全身入るように肥大させ、水を張って魔法でもがくハリーを浮かせて突っ込んだ。

 

『何でハリーを突っ込んだんだいエルファバ?』

『ハリーはえら呼吸に変わったのよ!』

『だから?』

『ここじゃ呼吸できなくなるわ!』

『なんで?』

『だってえら呼吸だもの!』

『えらこきゅうってなに?』

『魚の呼吸法。』

『魚は海の外じゃ呼吸できないのかい?』

『そうよ。』

『どうして?』

『だってえら呼吸だもの。』

『えらこきゅうってそもそもどういうもの?』

『えら呼吸は…あとで説明するわ。』

『大丈夫、これならいけるよ!!』

 

堂々巡りをしているロンとエルファバにハリーは桶から顔を出すと笑顔で親指を立てた。

 

「で、ハリーは1番最初に着いて自分の人質だけではない全員を助け出そうとしたんだろう?道徳的だ。」

 

ハリーは褒められて照れ笑いをした。ハーマイオニーは納得いかなさそうにバタービールを一気飲みした。エルファバは後々ハリーからそれを聞いたので(しかも心優しいハリーはとても言いにくそうだった)実質1番になったセドリックとの間でとても複雑な心境だった。

 

「ハリーもみんなも無事で良かった。で、本題に入るが、ハリーが直前に見たものをもう一回話してくれるか。」

 

長い赤毛をひとまとめにしてポニーテールを作り、黒いローブを被るその人は何の違和感もなくホグズミードにいるが…。

 

(この人、ハリーとクリスマスを一緒に過ごしたのに暇なのかしら。)

 

「むっ!」

 

その人は突然エルファバの小さな鼻をつまんだ。

 

「お前今俺のこと『暇人だなこいつ。』とかいう目で見たな?ん?」

「みてません。」

「悪い子にはこうだ。」

 

その男性はニヤニヤと面白そうにエルファバの反応を楽しんでいる。エルファバの鼻を右に引っ張り左に引っ張り、上下に引っ張ってから離した。エルファバは鼻をさすって男性を睨みつけた。長い赤毛の前髪からグレーのいたずらっぽい目が見え隠れした。

 

1000人ほどいるこのホグワーツの生徒の中で、わざわざホグズミードまでやって来て自分の子供に会いたがる親が何人いるだろうか。このシリウス・ブラックがそうだ。ハリーはまた会えることに喜んでいたから言えなかったものの、手紙をもらった時それ以外の3人、つまりハーマイオニー、ロン、エルファバはさすがに引いた。

 

(ルーピン教授がいれば良かったのにな。)

 

「どうせ俺よりもリーマスが良かったとか思ってんだろ。」

 

(心読めるのかしらこの人。)

 

「ハリー、カルカロフとアダムを見たんでしょう?」

「うん。」

 

ドビーにエラ昆布を手に入れたように頼んだものの不安だったハリーはそのあとも図書室で手がかりを探すことをやめなかった。その時ふとアダムとカルカロフが図書室を通りかかったという。ハリーが追いかけて聞き耳をたてると2人は口論していた。

 

『段々印が強くなってる。あのお方の力が強大になってるということだ…!』

『だからなんだ?俺の知ったこっちゃねえ。』

『お前…!お前の計画が失敗すれば"あれ"がなくなるぞ!』

 

すると焦げ臭い匂いが廊下に充満したという。

 

『俺の計画?ふざけるな…!てめえの命と引き換えに俺はこんなことさせられてんだ…お前は高みの見物。おまけに危うくトンチンカンな情報をやるところだったよなあお前?あ?俺は計画が完遂したらとっとと返してもらうからな!』

 

「印ってなんのこと?」

「分からない。何のことなんだろう?」

「その話だけだとそのアダムって奴がカルカロフに脅されてなんかやってるってことになるな。」

「あいつが?人に変な火の玉ぶっ放つあいつが?脅されるタマじゃないよ。」

「私もそう思うわ。あの態度とかエルファバがされたこととか思うと…。」

「アダムって奴がどんな人間なのかイマイチわからないが、カルカロフが自分の保身のために生徒を脅している可能性は充分あり得る。」

 

シリウスは共にナッツを奥歯で噛み砕きながら、4人にドライイチジクを取り分けた。

 

「これまでの不可解な出来事…例えば第一の試練の保護呪文が切れたり、お役所の人間と未成年がイチャコラしてたり。そして今回の話。臭うな。もしかしたらハリーを代表者にするように仕向けたのもそいつらかもしれないな。」

「あのお方ってことは、誰かに指示されてるんだ。」

「普通に考えてヴォルデモートだな。」

 

シリウスがその名を発するとハーマイオニーとロンは金縛りにかかったようにビクッと体を震わした。

 

「けど、ヴォルデモートが(また2人は体を震わす)カルカロフを仲間にするはずなんてないだろう?だってシリウスの話じゃ彼はいろんな仲間を裏切ったんだ。」

「ハリーの夢の中じゃ誰かがカルカロフを襲撃しようとしたと言ってたんだろう?」

「ん、まあね。」

 

ハリーが大分前に見た夢はとても気持ちの悪い夢であまり思い出したくない。シリウスは察したように話題を変える。

 

「カルカロフが炎を操れるダームストラングの生徒の存在を奴に伝えた。」

「アダムを自分の手下にしたってこと?」

「まあ、そうだな。」

 

自分で言ったにも関わらずシリウスはどうも納得のいかなさそうな顔で黒髪をガシガシとかいた。

 

「そりゃあ、彼をデスイーターにすれば強いでしょうけど、かつて魔法界を恐怖に陥れた闇の魔法使いが他者に頼りっぱなしにするかしら。」

「そうだなハーマイオニー。奴は人にへり下るようなタマじゃない。ハリーを代表選手になるように仕向けたとしても、ハリーを殺すことはできないはずだ。今回の試合も安全面が最大限に考慮されてるし、直接殺すってなってもハリーにはリリーの護りがあるから指一本触れられないことは1年の時に身をもって分かってるはずだ。」

 

話は平行線をタラタラと流れた。最終的にはハリーは何かあったらダンブルドア校長かムーディ教授のところに行くこと、その2人がいなければ誰でもいいから教授の部屋に駆け込むという結論に至った。カルカロフがスネイプに接触してたという話からスネイプの悪口話となり、それまで一切喋らなかったエルファバにシリウスは何か喋れとイジられ、シリウス的クリスマス・ダンスパーティのカップル考察を聞いて終了した。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「悪いけど、アダムに何をされたのか言う気はないよ。」

 

次の日の昼食、ハリーとエルファバは1人でいるルーカスにアダムについて聞いた。アダムが脅しの道具として使われているものが何なのかを知るためだった。ルーカスお気に入りの2人が行ったが、ルーカスはアダムという名前が出た時点で気分を害したようだった。

 

「君たちに協力できないのは悪いけど、思い出したくないんだ。」

 

嫌な気持ちを残したまま、闇の魔術に対する防衛術の授業へと移動した。が、今度はハーマイオニーとロンは険悪なムードになっていた。ハーマイオニーがホグワーツ内の屋敷しもべ妖精たちを刺激してしまい、もうお菓子を食べに行けなくなってしまったからだ。ハリーとエルファバが教室に入ってくると2人ともピタッと喧騒をやめて反応を伺った。ハリーが首を振ると2人ともガッカリしたようにまたケンカを始めた。

 

「あの2人ケンカばっか。」

「そうだね。」

「どうしてケンカばかりしてるのかしら。」

「うーん…ケンカするほど仲がいいって言うし。」

 

ハリーはモゴモゴと口ごもった。ハリーはシリウスがクリスマスに言っていたある言葉を思い出したのである。

 

『ロンも素直じゃねーな。好きなんだろハーマイオニーが。』

 

そうこうしているうちにコツっ、コツっ、と金属が重なる音がしてムーディ教授が授業を始めた。今日の授業は"呪い外し"についてだ。

エルファバにとって今もこれは苦手教科の1つである。授業は面白くタメになるし、理解度からすればクラストップクラスだ。しかし実践となるとまるでダメだった。特にこの授業はこれまで以上に実践を重視する授業なので余計エルファバのダメダメ感が目立ち、ムーディ教授に完全にマークされていた。

 

(今日も本物の目と義眼の両方と目が合うわ。)

 

「スミスっっ!!」

「はっ、はいっ…。」

「お前は放課後わしと補習だ!」

 

呪い外しは完璧に出来たはずだが、授業後にエルファバはムーディ教授からお呼び出しを食らった。突然ムーディ教授に呼ばれたのでエルファバは半径1.5メートルほどを凍らせてしまった。ハリーたちに慰められ(「別に悪い教授じゃないさ。」「食べられたりしないよ。」「エルファバは補習をもらったことに対して落ち込んでるのよ?私たち談話室にいるから。」)奇妙な物をたくさん揃った部屋にやって来た。

 

「来たかスミス。」

 

ムーディ教授は椅子に腰掛けていた。義足をソファの上に乗っけていたが、エルファバが来るとよっこらせと立ち上がった。

 

「お前さんがここに来た理由は分かるか?」

「えっ…っと、私はあまり実践が得意ではないから…?」

「その通りだ。姉妹で比べる訳ではないが、妹は実践においてはずば抜けた才能を持っている。遺伝だ。お前さんの父親は決闘チャンピョンだったからな。そしてお前はポッターと同じくらいに実践を必要とする。カルカロフとベルンシュタイン。わしが目を光らせているがどうもコソコソと何かをしておる。」

 

やはり、と言うべきか。ハリーが(正式にはシリウスが)ムーディ教授がこの学校にやって来たのはカルカロフを監視するためだというのは正しかったのだ。

ムーディ教授はエルファバに杖を突きつけた。

 

「お前の能力は魔法という魔法を一切通さないと聞いた。しかしそれはベルンシュタインも同じことだ。」

 

(まあ正しく言えば魔法を包むように凍らせるイメージをすれば氷でも魔法が使えるけど。)

 

エルファバは心の中で訂正を加える。去年の深夜寝室から抜け出して氷と思う存分遊んだ結果である。

 

「2つの同じような魔法を使える場合、やはり最後に勝つのはこの杖から出る魔法だ。お前は呪い外しや妨害呪文は上手いが武装解除などは壊滅的だ。おそらく本能的に人を攻撃するのを避けてるのだろうがそんなことを気にしておったらいざという時にどうなるか分かったもんじゃない。」

 

と言ってムーディ教授はポケットに手を突っ込み、ボロボロの羊皮紙を取り出して手に握らせた。

 

「持って行け。次の授業後までにこれをできるようにするのだ。その課題ができたら次の課題がこの紙に書かれる。」

 

エルファバが紙を見ると少し荒っぽい字で"武装解除呪文"と書かれていた。

 

「以上だ。部屋に戻れ。」

「はっ、はい…。」

 

勝手に始まり勝手に終わった。エルファバは気持ちがついていかないままムーディ教授の部屋を後にした。

 

(特別課題ってことよね。)

 

しかし案外ムーディ教授は面倒見がいい人間なのかもしれないとエルファバは思った。外を出て少し廊下を歩くと聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「…まえ、女の子なんだからもっと考えろよ。」

「猫ちゃん可愛かったのにな〜。」

「猫なんて気まぐれな生き物なんだから…。」

 

1つは大事な妹の声、もう1つは大嫌いな人の声だった。

 

「エルフィー!」

 

エディが手を振ってこちらに走ってきた。エルファバはエディのネクタイが緩んでいるのを直してため息をついた。

 

「あなた今度は何したの?」

「誰かの猫を拾おうとしたら顔引っかかれちゃったの。」

 

エディの顔面は引っかき傷だらけである。エルファバはため息をついてエディと話してたであろうマルフォイを睨んだ。

 

(今ならロミオとジュリエットのジュリエットの親の気持ちが分かるわ。なんでこんな人と一緒にいるの?)

 

「ドラコがね、引っかき傷に効く薬をくれたの。ほらっ!」

 

赤黒い液体を入った瓶をエディは高々と掲げ、エディは満面の笑みでマルフォイとエルファバを見る。

 

「…そう。」

 

それは簡単に作れる傷口用の消毒液兼治療薬だった。一瞬で安全なものだと理解したが、マルフォイを責める口実がなくなってしまったのが悔しい。魔法薬学ができることがとても皮肉だとエルファバは思った。しかしエルファバの頭には新たな疑問が出てきた。

 

(マルフォイは何のためにエディに治療薬を?)

 

「おいっ!気安く人に見せるなって言っただろ?!それに入手元を言うなとも!」

「えーっ、だってエルフィーにもドラコがいい人だって教えたかったんだもーん。」

「僕は…いい人なんかじゃ…。」

 

マルフォイの耳がピンク色に染まる。

 

「ありがとうマルフォイ。」

 

マルフォイはハリーやハーマイオニーやロンに意地悪を言う嫌な奴だ。エルファバも何回ひどい言葉をかけられただろう。雪女、ゴースト、モンスター、気色悪い、存在感がない…などなど。しかし、エディに治療薬をくれたので仕方なく、仕方なく、お礼を言った。

 

「ふんっ。最初っから僕にそうやってへり下ってればいいものを。」

 

(訂正。やっぱり嫌な奴だわ。)

 

「んもうっ。ドラコったら素直じゃなーい!」

「うるさいっ!」

 

エディがマルフォイを頬をツンツンっと突っつくとドラコはそれを煩わしそうに振り払った。

エルファバに話しかけるマルフォイはまるで映画に出てくる主人公にすぐやられそうな小悪党みたいな感じだ。しかしエディと一緒にいるマルフォイは…まるで、普通の男の子だ。シェーマスやディーンのように…。

 

(我が妹ながらエディってすごいのね。誰でもエディの前だといい人になっちゃう。Mr.Vもエディと会えば何か変わるかもしれないわ。)

 

大方の予想通り、マルフォイの変化の理由をそっちの方向には考えないエルファバだった。

 

 

ーーーーー

 

 

ハリーの最終課題は迷路だった。数々の難問を解き、ゴールにたどり着けた人間が優勝だという。

 

「ステューピファイ 麻痺せよ!」

 

エルファバは赤い閃光が体に当たる直前、床にあるクッションの方向に体の重心を傾けて倒れこんだ。

 

「エルファバどう?」

「体が動かなくなっただけで、完全に失神はしてないわ。」

 

数十秒後にエルファバはノロノロと初めて体を使うロボットのように立ち上がった。ハリーはガッカリしたように肩を落とした。

 

「唱えても何も起こらないエルファバの武装解除よりいいって。」

「ロン。」

「確かにね。」

「ハーマイオニーぃっ。」

 

2人はニヤニヤしながらエルファバをからかった。エルファバはハーマイオニーに泣きついた。

 

「もう意地悪言うんじゃないの2人とも。」

 

そんなこんなで4人は呪文を30分ほど練習し、こっそり使った空き教室を出てきた。

 

「ハリー、失神呪文は大分上達したと思うわ。エルファバもあと少しよ。」

「なんかもう少し呪文覚えたほうがいい気がする。」

「そうね。少し調べてみ…。」

 

ハーマイオニーの言葉が途切れたのも無理はなかった。他の3人もハーマイオニーの話など耳に入ってこなかっただろう。

立派なローブを着込んだ男性が前からすごい勢いで走ってくる。

 

「あれは…バーティ・クラウチ?」

「何をそんなに急いでるのかしら?」

 

ハーマイオニーの言い方にはトゲがあったことからしてまだウィンキーのことを根に持っているのだろう。

 

「試合のことじゃない?大変だなあ。伝言なら魔法とか使えばいいのに「ダンブルドアはどこだ!?!?」」

 

クラウチはロンの両肩を掴んでロンが気持ち悪くなるほどに揺すった。

 

「ダンブルドアは!?彼は今どこにいるんだ!?」

「おっ落ち着いてください!ダンブルドア校長はきっと校長室にいるはずです。」

 

ハリーはクラウチをロンから引き剥がし、息を切らしながら答えた。クラウチは立派なローブを着込んでいるがよく見ると手入れは行き届いておらず、毛玉だらけだった。顔には汗が滲み目は血走っている。

 

「私はとんでもないことをしてしまったっ!!!!」

 

今度は引き剥がしたハリーの両腕をガッと掴んだ。

 

「わっ私誰か教授を呼んでくるわっ!」

「他の人間じゃダメなんだっ!!!ダンブルドアを!!!!ダンブルドアだっ!!!」

「バーティっ!わしの生徒を離すのじゃ!」

「だっ、ダンブルドア…!!」

 

ナイスタイミングでダンブルドア校長がやってきた。クラウチはダンブルドアを見るや否や、彼の前で崩れ落ちた。それに対して校長はいつものように落ち着きを払って問いかけた。

 

「何があったのじゃ?」

「私の息子が…っ、私を殺そうと…。」

 

ロンは肩を回し、ハリーは腕をさすりながら4人は状況把握に急いだ。

 

「(息子?だれ?)」

「(知らないわよ。)」

「これを言うのは酷じゃが、君の息子は亡くなっておるじゃろう。」

 

トライ・ウィザード・トーナメントに毎回いるがバクマンやバーサほどキャラが濃いわけでもハリーたちに接触して来るわけでもない。印象は薄いが息子に殺されそうになるなど、いかに息子に恨まれてたのか。クラウチは両手で自分の顔を覆い、手のひらで汗を拭った。

 

「ダンブルドア…私は罪を告白する…。私は息子を脱獄させた…。」

 

校長の明るいブルーの目の周りの白目の面積が少し広がった。

 

「アラスター!」

 

ダンブルドア校長が突然叫ぶと4人はビクッと体を震わした(そして床に氷が張られた)。コツっ、コツっと義足を鳴らして薄い闇からムーディ教授が現れる。

 

「厨房に行き、ウィンキーという屋敷しもべ妖精を呼んできてほしい。緊急事態じゃ。そして4人は寮に戻るのじゃ。くれぐれも、盗み聞きはせんように。」

 

ロンが不満の声を上げる前にハーマイオニーはロンの口を塞いだ。ハリーはきっと透明マントを持ってきてないことをこれほど後悔したことはないだろう。

 

「(不謹慎よ。)」

 

ハーマイオニーはハリーとロンを交互に睨み、半分連行するように2人の腕を掴んでクラウチと校長に背を向けて歩き出した。

 

「息子はあいつの手下になっていた!!!」

 

クラウチの叫びが廊下中に響く。

 

「ヴォルデモートかの?」

 

その名前を聞けば、ハリーを動かすのはハーマイオニーのみでは難しかった。ハリーはまるで両足に杭を打ったかのようにテコでも動かない。

 

「そうだっ…例のあの人だ…っ!」

「4人ともここに残って話を聞くのじゃ。」

 

数秒前ならハリーもロンも話を聞けることを喜んだだろう。しかし、今はそんな空気ではないことも2人には分かった。

 

「まず、全てを時系列で話すのじゃバーティよ。」

 

クラウチは声を震わせ話し始めた。

数十年前、何かしらの罪でクラウチの息子はアズカバンにいた。目の見えないディメンターの弱点を逆手に同じような精神状態になっていたクラウチの妻と息子をポリジュース薬で変身させて入れ替えた。

 

「どうやって脱獄した息子を大人しくさせたのじゃ?」

「…服従の…呪文を…。」

 

ハーマイオニーが息を飲んだのと、ムーディ教授の義足の音とパチパチと裸足で廊下を歩く音が重なった。

 

「ヒックっ…!ご主人様…!?」

 

クラウチの元で働いていたウィンキーだ。クラウチに解雇された後は、このホグワーツ城で飲んだくれていた。ご主人との再会で、ショックのあまり酔いがさめたようだ。エルファバは初対面であるが、ハリーたちから話と特徴を聞いていたので知っていた。

 

「君に話を聞くのはあとじゃウィンキー。バーティよ。続けるのじゃ。」

 

クラウチは話を続ける。

息子を監禁して昼も夜も透明マントを着させ、ウィンキーに息子を監視させていた。息子を哀れんだウィンキーはクラウチに外の空気を吸わせるように説得した。長い説得の末、クラウチはついに折れたのだった。

クィディッチのワールド・カップの貴賓席でウィンキーと息子を繋ぎ、席に座らせていた。

 

「けどっ…!!!それが間違いだったのだ!!!この無能な屋敷しもべ妖精は犯罪者を世に放ったのだ!!!!」

 

ウィンキーはビクッと体を震わせ、大声で泣き出した。ハーマイオニーがウィンキーのそばに駆け寄り、背中をさする。

 

「そして息子が今日やってきたのかの?」

「…そうだ…。私の自宅に…何の躊躇もなく死の呪文を放ってきた。私の思い出の全てが…消えた。」

「分からんなクラウチ。」

 

ずっと黙ってきたムーディ教授が声を上げた。

 

「なぜそれを今まで黙っていた?」

「…っ!!それは…!!私の罪が明るみになるのを恐れて…。」

「違う。」

 

今度は第三者のハリーが口を出した。

 

「あなたは確かに罪が明るみになるのを恐れていた…しかしそれ以上にあなたは自分の息子を…デスイーターである息子を匿っていたという事実を恐れたんだ。だから、自ら彼を捕まえようとしたんだ。」

「なっ!!何を…!?」

「シリウスが言ってたんだ。」

 

ロンはハリーに対して"なんで言ってくれなかったんだ"というサインを目で送った。ハリーは無視した。

 

「わしもそう思う。そうでなければヴォルデモートとの関係を気づいた理由が理解できぬ。バーティよ、君はもうすでに多くの罪を重ねた。これ以上嘘をつくでない。家に襲撃をかけたら騒ぎになるはずじゃろう。」

「…。」

 

クラウチは沈黙した。事実が知られるのを恐れている。息子を脱獄させて逃すということをあっさり言ったクラウチはこれ以上何を隠しているというのだろうか。

 

「ウィンキーよ。ワールド・カップについて話すのじゃ。君の知っている限りを。」

 

ダンブルドア校長はさっきと打って変わってとても優しい口調でウィンキーに話しかけた。ウィンキーは泣きじゃくってしゃくり上げながらもゆっくりと口を開いた。ウィンキーの心はクラウチにあるのだろうが実質的な主人はホグワーツの長であるダンブルドア校長にある。命令には逆らえなかったのだろう。

 

「わだくじは…なにもぞんじあげまぜん…っ!!だだ…ざわぎのどきに…ひが…!!びのながをどおったら…まぼうがぎれだのでございまず…!!」

「…火…?」

「ルーカスの火だわ。」

 

ウィンキーの背中を優しくさするハーマイオニーがハッとした。

 

「偶然だったんでしょうけど…あいつらに攻撃しようとして放った火が当たったんじゃないかしら。」

「そしてその直後にウィンキーに失神の呪文が当たった。」

 

ウィンキーは声を上げて崩れ落ちた。ハーマイオニーが立ち上がらせようとするものの、うずくまって声を上げて泣いている。

 

「お前の屋敷しもべ妖精は言ったぞクラウチ。」

 

ムーディは非情に言い放った。クラウチは蒼白な顔で、薄い唇からは息しか漏れない。

 

「……た。」

「なんだって?」

「…囚人に…磔の呪いを…かけた…。」

「磔の呪い…。」

「アルバニアにいると…そう…聞いて…。」

「見つけたのかの?」

 

ダンブルドア校長の質問に答えなかった。クラウチは痙攣し、嘔吐した。

 

「うわっ。」

 

ロンはエルファバに寄った。液体はタイルの隙間を通して徐々に広がっていく。嘔吐物の刺激中が廊下に充満した。しかし次の瞬間、校長が杖を一振りすると嘔吐物も、匂いも全てなかったことにされた。

 

「バーティ、ホグワーツは安全じゃ。医務室へ行こう。」

 

話は突然打ち切られた。校長はバーティを介助しながら歩き始めた。ムーディ教授も泣き叫ぶウィンキーを抱き上げて反対方向に歩き始める。

 

「あんなクラウチ見たらパーシーはどう思うかな。」

「クラウチ…分からないわ。一体どうしたっていうの?」

「多分ヴォルデモートを見たんだ。」

「ハリー、大丈夫?」

 

ハリーもクラウチのように顔が真っ白だった。今にもハリーも嘔吐しそうだ。

 

「大丈夫…大丈夫。」

 

ハリーはあの日の夢を思い出していた。ヴォルデモートを探していたのはクラウチの息子。クラウチが、そしてハリーが吐き気を催すほどに恐ろしい容姿もクラウチの息子は気にもとめていなかった。むしろ恍惚とした表情で、“それ”を見ていたのだ。

 

体の中の筋肉が、血管が、骨が、そして臓器が全て剥き出しになっている赤ん坊のようなあの姿を。

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