クラウチの騒動はどういう訳か、外に漏れ出して早速リータ・スキーターの格好の餌食となった。日刊予言者新聞にいつも通り誇張及び歪曲された記事が掲載され、クラウチを見ていたホグワーツ生達はその話題で持ちきりとなっている。
いつも通り、ほぼ嘘だが一部本当の話もあった。
「あの女、一体どっから沸いてるのかしら?」
ハーマイオニーは思うように動かない両手を忌々しそうに振り、談話室で憎々しげに言う。エルファバの次はハーマイオニーがハリーを弄ぶ悪女として書かれたために匿名の魔女にブボチューバの原液を送られてそれをモロに両手に被ってしまったのだった。
「私のところにも吠えメールが来たわ。」
エルファバは何の抑揚もなく、そう言いながら新たな本を取り出す。
「そうなの?本当嫌になって…どうして教えてくれなかったのよ?!」
ハーマイオニーは妨害呪文のコツを読み込むエルファバにずいっと詰め寄った。こういうことが起こってもなかなか言わないのはエルファバの悪いところだと散々3人は(特にハリーが)言ってきた。1年や2年の時よりも大分マシにはなってきたが、今でも今回のように大事に至らなかったことなどは言わないことがある。
「だって凍らせたから…。」
「凍らせようが凍らせまいが、どうでもいいのっ!なんかあったら言いなさいっ!」
「はい。」
「エルフィ〜。」
エディはそんな2人の間に割って入って、まるでセクシー女優のようにエルファバの首に腕を回し、エルファバの膝に乗っかって、腰をクネクネさせた。
「重いエディ。」
「あのさぁ〜、お願いなんだけどぉ〜、夏休みにぃ〜、新しいミュージカルが始まるのよぉ〜。」
エディはそこで言葉を切って、エルファバをチラッと見た。姉は無表情である。
「だからぁ〜、ちょっとぉ〜、パパにお願いしてくれな〜い?」
「直接言えばいいじゃない。」
そこで甘ったるい演技をエディはかなぐり捨てた。
「パパがタトゥーしたペナルティで行っちゃダメだってええええええええっ!!!!あたし死んじゃうよおおおおおおおおっ!!!」
「生きなさい。」
グリフィンドールの寮はエディのやかましい声でいっぱいになった。エディは耳を塞いで談話室に逃走しようとするエルファバの足にしがみついた。
「フレッドとジョージも誘っちゃったのもおおおおおっ!!!」
「知らないわよぉっ…。」
「タトゥーのお金くれたのエルフィーだよね?!エルフィーもあたしと一緒だよねっ!?」
「だったら私がお父さんに言っても無駄だと思うけど。」
エルファバはふと今朝来た手紙を思い出す。
ーーーーー
エルフィー
エディがおそらく、何かのミュージカルに行きたいと言うだろうがエディはタトゥーを入れたペナルティとして行かせないつもりだ。当然お前がお金を払うのも禁止だ。
ーーーーー
「じゃあエルフィーお金貸して!!」
「あんまり使いたくないわ。」
エルファバとエディがもみくちゃやってるうちにハッフルパフの監督生がエディを回収しに来て、グリフィンドール寮に静けさがやって来た。そろそろ期末試験に向けて勉強しなくてはならないのだ。ハーマイオニーとエルファバは談話室に降りて、ソファで勉強していた時だった。
「やっほー。」
周囲の女子たちが色めき立っていたのでハーマイオニーは誰が来たのか見ないでも分かった。
「ルーカス、あなた合言葉誰に教えてもらったの?」
「ん?知りたい?」
「エディに教えてもらったんじゃなくて?」
エルファバの問いにルーカスは快活に笑い、ハーマイオニーは呆れた顔でソファに身を投げた。みんなヒソヒソと話しているが気にもとめない。ボーバトンの制服ではない紺色のローブを着ているルーカスはまたよく似合っていた。
「その手もあったね。けどもっと卑怯な手使っちゃった。」
エルファバは訳が分からずハーマイオニーを見た。
「多分だけど…グリフィンドールの女子生徒かなんかを"買収"したんでしょう。」
「おしいねハーミーちゃん。"男子生徒を"買収した。」
変なうめき声を上げたハーマイオニーとよく分からない顔をしているエルファバを見てケタケタ笑った後、エルファバの隣に積まれた本をヒョイっと取り上げて、パラパラと読んだ。
「魔法薬学者になりたいの?」
「ええ。」
「じゃあ将来俺と同じ職場になるかもね。俺はヒーラー、癒者になるんだ。ボーバトン卒業したら聖マンゴ病院に就職する。」
「本当?」
「ん。今度イギリスにまた来たらいろいろ教えるね。」
ルーカスはエルファバに本を返すと立ち上がった。
「さすがにUn salopは来れないか…。」
「?」
「なんでもないよ。ごめん、先約があるんだ。また話しよう!」
ルーカスはエルファバとハーマイオニーに手を振ると慣れた足取りでグリフィンドールの男子塔へと歩きだした。
「私…彼が少し怖いわ。」
ルーカスがいなくなり、いつものざわつきが戻った談話室でハーマイオニーはエルファバの耳に聞こえるか聞こえないかぐらいの声で囁く。
「偏見じゃないのよ?彼、いい人だと思うわ。エルファバとかハリーをはじめとして私にもすごく優しいし。けど、なんというか心開いた人以外は結構無下に扱うし、時々ものすごい怖い顔をしてる時がある。さっきのUn salopって言うのもフランス語で男性に対する侮辱言葉なの。ここから先はあくまで推測なんだけど、多分その侮辱言葉を言っていたのはベルンシュタインに対してで、彼は…。」
ハーマイオニーはそこから何も言わなかった。エルファバもあえて聞こうとはしない。その先は分かる。
何をされたかは分からないが、ルーカスはアダムに対して並々ならぬ恨みを抱いている。時々ルーカスはアダムを恐ろしい目で見ているのだ。まるで獲物を狩ろうと品定めしているハイエナのように、普段のしなやかな雰囲気とは想像のつかないほど獰猛な目だ。
チャンスさえあれば、ルーカスはアダムを殺してしまうのではないか。
「どうしてアダムがここに来るって思ったのかしら?」
「それは私も考えてたわ。」
今度はエルファバとハーマイオニーの間にハリーとロンが座り込んできた。ハリーは疲れ切った顔をしていて、ソファの背にもたれかかって深いため息をついた。
「ハリー、占い学の時間に倒れたんだ。」
「大変じゃない!大丈夫?」
「ああ…平気だよ。」
ハリーは勢い良く起き上がり、堰を切ったように話し始めた。
占い学の時間中、居眠りをしていたハリーの夢の中に出てきたのはヴォルデモートとクラウチと呼ばれた男性だった。クラウチはヴォルデモートから罰を受けていたという。しかし何かの準備は整ったので命は助かった。ハリーは傷跡に激痛を感じてそのあと医務室には行かず、校長室に行った。そこで憂いの篩を使って見た、数十年前の裁判の記録の数々…。
「例のあの人に罰されてたクラウチってのは…「ジュニアの方だ。裁判ではそんなことやってないって言ってたけど、現にヴォルデモートに協力してる。」」
「ダンブルドアは例のあの人が強くなってると思っているのね。クラウチは一体何の裁判にかけられていたの?」
「それは…、分からなかった。」
エルファバは何となくハリーが嘘をついているのではないかと思った。おそらくダンブルドア校長にその内容を言うことを止められているのだろう。
「ダンブルドアはスネイプを信頼しているの?元デスイーターなのに?」
「うん。」
ロンもハリーもスネイプを疑っていた。ハーマイオニーはというとエルファバのように黙り込み、じっと燃える暖炉を睨みつけていた。
「夢にはカルカロフの名前も出てきたんだ。カルカロフは何か企んでて、生徒に何かを指図してるって。」
「アダム?」
「そうだろうね。」
「カルカロフもアダムも何がしたいんだ?」
「クラウチはここに来る前夜にカルカロフを襲撃したんだわ。」
しばらく口を開かなかったハーマイオニーが呟いた。
「どういうことハーマイオニー?」
「ハリーの最初の夢…第一の試練の時、例のあの人を見つけたのはクラウチだったとするわよ?そこで彼はカルカロフを殺そうとしたけどしなかったんだわ。前にシリウスの言ったみたいにきっとカルカロフはアダムの存在を教えて自分を守った…仲間を売るんだからそれぐらいのことはするわよ。」
「けど、カルカロフはともかくとしてアダムには例のあの人に従う理由なんてないよハーマイオニー。」
「あるわよロン。アダムはカルカロフに"大切な何か"と引き換えに何かをさせられてるんだわ。」
ロンは数秒その言葉をローディングしたあと、あっ!と声を上げて立ち上がった。
「繋がった繋がった!!じゃあカルカロフは自分の可愛さのために生徒を人質にしてるんだ!!嫌なやつ!!」
「それもシリウスも言ってたよロン。」
「あっ…そっか。」
ロンは座り、エルファバは肩を叩いて慰める。
「僕の母さんが残した護りはアダムには通用しないのかもしれない…エルファバ、君にも。」
ハリーは核心をついてきた。全てを見透かすようにじっと見つめるハリーにエルファバは思わずたじろいだ。
「杖を使った魔法は君の氷やアダムの炎には効かない。ヴォルデモートは今の段階で僕に手出しは出来ない。つまりアダムは僕を殺そうとしてる。だから第一の試練でアダムは僕が氷を操れるって思った時探りを入れて保護呪文を解いたりしたんだ。」
「実は、さっきルーカスがアダムを探してここまで来たの。今男子寮にいるけど。アダムがグリフィンドール寮に入る理由がハリーなら繋がるわ!」
「繋がるけど…なんか、まどろっこしくないかしら?」
エルファバは自分を抱きながら3人の顔色を伺う。
「だって、ハリーを…その、なんていうか、「殺すっていう言葉使っていいよ。本当のことだし。」…ごめんなさいハリー。ハリーを殺すなら、極端な話、ホグワーツに来た瞬間に城ごと燃やしたらいいじゃない。彼の炎の前で魔法は無力だし、私の存在だって知らなかったんだから。仮にバレないように静かに事を進めたって、炎でハリーを攻撃したら誰がやったかなんて一発で分かる。彼は自分の"力"を見せびらかしてたし。」
「そうよね。これもシリウスが言ってたけど、かつて闇の帝王と呼ばれた人間が自分の宿敵を他者に殺させないと思うのよ。」
「あいつの考えることなんて分からないよ。」
ハリーは伸びをして黒いものを吐き出すように大きく息を吐いた。
「人の人生をめちゃくちゃにする人間の考えてる事なんか。」
ーーーーー
数日後、ハリーはとても不思議なメンツで昼食にやって来た。
「ママ、ビル!」
グリフィンドールのテーブルに座っていたロンはハリーの後ろにいる赤毛の2人に駆け寄った。1人はエルファバもよく知るミセス・ウィーズリーだ。ロンを抱きしめ、キスをした。
「何しに来たの?」
「ハリーの最後の試合を見に来たのよ。」
ミセス・ウィーズリーはニコニコと楽しそうに話した。
「やあ、初めまして。君がエルファバだね?ビル・ウィーズリーだ。」
身長の高い、赤毛をポニーテールにした男性がエルファバに握手を求めてきた。耳に牙のようなものをぶら下げ、ドラゴン革のブーツを履いたビルはウィーズリー一家の中でも異色な存在だった。
「エルファバ・スミスです。」
(握手だ!握手だ!私ロンのお兄さんと握手してるうっ!!私仲良くしたいと思われてるのね!!やったあっ!!)
「ビル、言っておくけど彼女これでもめちゃくちゃ喜んでるんだ。」
相変わらず握手で興奮するのは1年の頃から変わっていない。ちなみに握手をする間、ビルはロンの言う通り彼女は淡々と事務業務をするゴブリンのように無表情だと思っていた。
チラッとハッフルパフの方を見ると、セドリックに連れられてミスター・ディゴリーとミセス・ディゴリーが席に座ろうとしていた。セドリックはエルファバに気づいて、こっちに手招きしたがミスター・ディゴリーはその腕を掴んで何かをセドリックに抗議していた。セドリックは少しムッとした顔で何かを言うのをミセス・ディゴリーが止めに入った。
「(大丈夫よ。)」
エルファバはセドリックに口パクで伝えた。
(私は歓迎されていないみたいね。)
「久しぶりだな、チ……エル。」
さも当然かのようにミセス・ウィーズリーとビルの後ろにシリウスがいた。何にも変装もせずに普通にやって来たシリウスはこの大広間でかなり目立っていた。堂々と歩くシリウスに校内はざわめいていたのを思い出す。
「シリウス・ブラックだ…。」
「ハリーと暮らしてるんでしょう?来て当然だわ。」
「分かってるけど、少し前まで犯罪者だった人がいるのはなんか違和感。」
「なんというか、すっごいイケメンね。」
シリウスは目立つことに関してはかなり慣れきっているようだった。彼の人生の中で彼が目立たないことなんてなかったのだろう。
(今私のことチビちゃんって呼ぼうとしたけど、ミセス・ウィーズリーがいる手前そう呼ぶのは良くないって思ったんでしょうね。けれどパッと名前が思い出せなくて、エルまで思い出したから不自然でないようにそう呼んだと…嫌な人。)
シリウスの評価はエルファバの中でもうマイナスまでいっている。
「どうも。」
わざと少しトゲのある言い方でエルファバは反応した。その言い方をミセス・ウィーズリーが聞き逃さなかった。一瞬ミセス・ウィーズリーの目が光り、その眼光はシリウスの方へ向いた。
「そういや、ゴブリンの反乱の名前なんだったっけ?僕いくつかでっち上げちゃったんだけど。」
「まあロンったら!」
今度はミセス・ウィーズリーはロンに向かって眼光を飛ばした。その隙にシリウスはエルファバの腕を掴んで耳元で小声で怒った。
「お前マジであの人の前で俺の評価落とすことすんなよ!」
ハリーにとってミセス・ウィーズリーは第二の母親のようなものだ。きっとハリーからも話を聞いてるだろうし、そんな人に評価が落ちれば別の意味でハリーと住めなくなる可能性だって出てくる訳で。
「ミセス・ウィーズリーはとても優しいから、子供のことをよく見てます。」
「お前さっきのわざとやりやがったな?」
「あ、シリウス・ブラックだ!やっほー。」
「「ハリーのパパだ!!」」
フレッド、ジョージ、ジニーそしてエディが駆け寄ってきた。シリウスはエルファバに尋問をやめる前に囁いた。
「あとで覚悟しとけ。」
(今日はいつでも氷の壁作れるようにしないといけないわ。)
エルファバは身震いする。
「ああこれがハリーのファザコンの原因か。」
「ジョージ!」
「ああそうだ。」
「…シリウス…!」
ハリーは恥ずかしそうにうつむいて席に着いたのを、フレッドとジョージそしてシリウスがからかった。
「エディ、何か食べるか?」
「ありがとフレッド。ミートパイちょうだーい。」
グリフィンドールの席での大所帯での食事はハリーのために用意されたものだったが、エルファバにとっても楽しかった。シリウスとフレッドとジョージとエディは案の定意気投合したがミセス・ウィーズリーの手前、まずい情報は教えないという暗黙の了解が成されたようだった。
「そういやエルフィーさ、小さい時に近所の木の下に出来てた穴を見つけて、その中に頭突っ込んで抜けられなくなったことあったよね。」
「ないわよそんなこと。」
「あったよ。」
「私エディみたいなことしないわ!」
「えー、だってあたし覚えてるもん。『私、不思議の国に行って来るねエディ!』って行って頭突っ込んだ。あたしあれすっごい衝撃的だったもん。」
「いつの話それ?」
「あたしが3歳か4歳の時。」
「…お願いそれ誰にも言わないで…。」
「おーい、シリウス!」
「エルファバ頭を穴に突っ込んだんだってよー!」
「「最近。」」
「フレッドとジョージ!1番嫌な人に間違った情報与えないで!!」
しかしエルファバは完全に悪ガキ4人からいじられるポジションになった。今は大人しいシリウスもミセス・ウィーズリーがいなくなった瞬間ネチネチ、エルファバをいじめるだろう。顔がそう言っていた。
「みんなが私にいじわるする。」
「けど本当なの?エディの話?」
ジニーは邪気もなく不思議そうに聞いたのでエルファバは答えざるえなかった。
「…だって…本に…書いてあったんだもん…。」
午後のテストは闇の魔術に対する防衛術を除いて何の支障もなかった。ムーディ教授の特別授業のおかげで中の下ぐらいにはなっていた。実際のところムーディ教授は「まあ、いいだろう。」と言ったので微妙だが。
夕食は豪勢だった。今度エルファバはセドリックの家族と一緒に食べたが、残念ながらウィーズリー一家の時ほど心地は良くなかった。ミスター・ディゴリーはエルファバがセドリックとハリーを弄んでいるという記事や"エルファバの悲劇"が引っかかっているらしく、遠回しにその話を聞いてきた。現在の家庭環境や記事の真偽を聞かれるとエルファバは夫妻が冷気を感じる前に、こっそりいつもの呪文を唱えなくてはならなかった。
「それで、妹は魔力がないと?」
「エディはハッフルパフだよ父さん。」
セドリックの声には呆れと怒りが混じっているように聞こえた。しかし気にするのは仕方のないことだとエルファバは思った。
「ハッフルパフか。妹との関係性は?」
「エディとは仲がいいです。彼女は優しいですし、周りを元気にしてくれます。」
「君は違うのかい?」
「…い…え。」
話がこじれるのにはエルファバにも原因があった。ハーマイオニーは食事前にエルファバに自分のアピールをしろと言われたが、アピールの仕方が分からないのだ。
「彼女は妹に負けないくらいとても優しいよ。誰にでも平等でみんなから愛されている。2年生の時に君がいなくなった時は学校総勢で君のこと探したよね…君が愛されてる証拠だと思う。」
「ありがとうセドリック。」
(セドリックに迷惑をかけているわ…けど私のアピールポイントなんて…何かあるかしら?)
「紳士、淑女のみなさん!あと5分で第三の試練が開始します!選手はミスター・バクマンと一緒に会場へ向かうこと!」
とてもいいタイミングでダンブルドア校長が言った。エルファバはホッとして両親から激励を受けるセドリックに声をかけた。
「ありきたりな言葉だけど…頑張ってセドリック。」
「僕が優勝するまでに家族に紹介できる自分のいいところ5つ考えておいて。」
セドリックはからかうように笑ってエルファバの頭を撫でた。エルファバはセドリックの両親に別れを告げて、みんなから激励を受けるハリーにも声をかけた。
「頑張ってねハリー。応援してるわ。」
「ありがとうエルファバ。」
ハリーはエルファバはグータッチをして、バクマンのあとについていく。
選手が出て行ったあとに観客もクィディッチ競技場へ行くように指示がなされた。いつもの競技場は6メートルほどの高さの生垣が周りを囲み、おどろおどろした空気だった。さらに空は濃紺に染まって一層不気味だった。ハーマイオニー、ロン、エルファバ、ミセス・ウィーズリー、ビル、シリウスは固まって座った。
「変なこと起こらなきゃいいんだけどな。」
シリウスは独り言を呟いた。
「紳士、淑女の皆さんお待たせしました!これがトライ・ウィザード・トーナメントの最終決戦です!」
大歓声と拍手の中ハーマイオニーは怪訝そうに首を傾げた。
「今日の司会はジョーキンスじゃないのね。」
4人の代表選手の得点、順位が発表された。
「では、ホイッスルを鳴らしたらハリーとセドリックは出発してください!1、2、3…」
バクマンがピッ!と笛を鳴らすとハリーもセドリックも慌てたように迷路の入り口に入っていった。数分してクラムがそして最後にフラーが迷路の中に入っていった。
空には各選手の様子が映されていた。4人とも慎重に、かつ早足に迷路内を進んだ。開始早々クラムが悪魔の罠に足を取られ、セドリックはハグリッドの尻尾爆発スクリュートの襲撃を受けていた。ハグリッドの授業内でのエルファバのトラウマである。
「凍ってんぞ。」
「ごめんなさい。」
案の定、セドリックが襲われる件でエルファバはスタンドの床を一部を凍らせた。しかしセドリックのシーンが終わったわけでもない。スクリュートのハサミがセドリックの腕をかすめるたびに床が凍る。周囲の生徒はひそひそと話してエルファバを睨む。
「凍らせないで欲しいんだけど。」
「本当迷惑。」
エルファバはその場にいるのがいたたまれなくなり、そっとその場を離れようとした。
「お前実際どっち応援してんだ?」
しかしその前にシリウスがエルファバの腕を掴んだ。
「どっちも応援してます…手を離してくれませんか?」
シリウスは何かいたずらを思いついた悪ガキのような笑みはどこかそれはフレッドとジョージを思い出させる。浮かべてエルファバを引っ張り、エルファバの目をもう片方の手で覆った。
「親友と恋人どっちが大事だ?」
「はーなーしーてっ!」
「どっちか答えるまではダメだ。」
「選べませんっ!」
エルファバはもがもがと動いたが小柄なエルファバが長身の筋肉質な男性に勝てるはずはなく、捕らえられた小動物のようにジタバタと動いていた。
「ほら終わったぞ。」
視界が明るくなると、セドリックはスクリュートから逃げ切っていた。擦り傷はあるが無事のようだ。
「良かった…。」
「あんな奴ら気にせずに見ようぜ。ハリーかお前のボーイフレンドがピンチになったら俺がまた覆ってやるよ。」
(あ、もしかして私が周辺凍らせないように隠してくれたのかな。)
「しかし残念だ。あれがお前のボーイフレンドの腕切ってくれたらハリーの優勝だったのによ。」
「おばさまに言いつけますよ。」
一瞬上がったシリウスの好感度は再び0を下回った。
「ねえ、見て!」
ハーマイオニーが指さした先は空ではなく、スタンドの最前列だった。
「カルカロフの席が空いてるわ!」
その席にいるのはダンブルドア校長、マダム・マクシーム、大臣のファッジ、クラウチ、そしてバクマンだった。
「動き出したかあの野郎。」
シリウスはキョロキョロと辺りを見回す。
「ムーディが巡回に回ってるはずだ。この状態でハリーや他の代表選手に手出しできないな。」
「あ、誰か来た!って、なんだジョーキンスだった。」
ロンはガッカリして座り込んだ。バーサ・ジョーキンスは体調が悪そうにヨロヨロと来賓席に入ってきた。彼女は何かを探すように辺りを見回して、ふと立ち止まった。バーサの手の中で何かがキラリと光りー。
「ダメっっ!!」
ハーマイオニーの悲鳴は歓声に飲まれた。観客はその事態に気付いていなかった。
バーサの体は1人の体にぴったり重なり、手の中の光は消えた。その代わりバーサの手はどす黒い液体に染まっていく。
「ダンブルドア校長っ!!!」
背の高い老人は突然の襲撃になす術もなくグニャリと体を曲げて倒れこんだ。
「ステューピファイ 麻痺せよ!」
シリウスは失神の呪文を飛ばした。赤い閃光は急降下し、バーサの腕に命中した。観客は徐々に来賓席を指さし始めた。ダンブルドア校長の腹に広がる赤黒いシミに悲鳴を上げる。
「おい、魔法省は役立たずしかいねーのか?!」
シリウスは3メートルほどあるスタンドから飛び降り、来賓席まで走って行った。
シリウスは倒れた校長の腹から何かを抜こうとしていた。しかしなかなか抜けないらしく、まごついている。クラウチは激昂して失神したバーサに杖を向けているのをバクマンに抑えられている。マダム・マクシームは校長に駆け寄り、腹に呪文を唱えていた。
「全員動くなっ!!!」
ムーディ教授は拡声呪文で声をスタンドに響かせた。
「競技はまだ続いているっ!!!」
マダム・マクシームは誰かを連れて再びダンブルドアに近づいた。よく見るとルーカスだ。話し込んだ後、ルーカスはダンブルドアの腹に突き刺さっている何かを燃やした。シリウスは魔法で担架を作り、ダンブルドアを乗せた。
「なんと恐ろしい…!!」
ミセス・ウィーズリーは両手で口を覆う。
「ジョーキンスはダンブルドアに何の恨みがあってあんなことしたんだ?」
「大丈夫かしら…!?もうそんなに若くないのに…!!」
「あああああああっ!!!」
人間のものとは思えない声が競技場に響き渡った。
バーサ・ジョーキンスはスネイプに抑えられていた。まるで猛獣のようにむちゃくちゃに暴れ、必死にダンブルドアの方へ行こうとしていた。スネイプはバーサに呪文をかけて再び眠らせた。
「ハリーとセドリックは?どこにいるの?」
エルファバが上空に映されている映像を見ると、忽然と迷路からハリーとセドリックが消えていた。
ーーーーー
その頃ホグワーツからはるか遠くの墓場で、少年2人は倒れこんでいた。男の持つ妖しく光る新品のナイフからどこからともなく流れてくる。
「やっと来たか。」
ハリーは額の傷跡が燃えるように痛み、その場にうずくまっている。
「敵の血…力ずくで奪われん…。」
ナイフから滴る血は一滴一滴ポタポタと沸騰する鍋の中へと落ちていく。
「セドリック…、セドリック…。」
ハリーの隣で横たわる少年は、目を見開きどこも向いていなかった。全身が焼けただれ、見るに堪えない変わり果てた姿だ。同時に傷跡がハリーの頭を割ってしまうのではないかと思うほどに痛んだ。大鍋から濃い蒸気と共に人影が見える。
「闇の帝王よ…蘇れ…!」
ハリーはうずくまり、早く何もかもが終わることを願った。夢であってほしい。これは全部嘘だ。
「ローブを着せろ。」
しかしその可能性を、この世の誰よりも冷たい声が壊した。