ダンブルドアが魔法省の人間に刺される数分前。
ハリーは数々の障害を越えてゆっくりと、しかし着実にゴールへと向かっていた。4年生のハリーは知識と体力が圧倒的に足りなかったにも関わらず、よくやってのけたと自分で褒め称えたいぐらいだ。
考えてみればこの4年間で、ハリーたった1人で何かをやってのけるのはこれが初めてだった。1年の時エルファバの母親の体をヴォルデモートが乗っ取った時や2年のリドルとバジリスクとの戦い、3年の時のシリウスを無実にしようとした時も4人で一緒にそれを成し遂げた。今回も呪文を覚えるのを一緒に協力してはもらったが、本番は1人っきりだ。
そう考えてた時。
「うわっ!!!」
角を曲がった直後に火の玉がハリーの目の前に現れ、ハリーは顔にそれが当たるギリギリで伏せた。火の玉はジリジリと空気を焼きながらハリーの頭上を通り過ぎた。
「誰だ!?」
ハリーは体に付いた砂埃を叩いて、暗闇に杖を向けた。
一瞬ハリーの頭にアダムの顔が横切ったが、その可能性はすぐに消した。魔法の効かない火を放つアダムも所詮は生徒。こんなところに現れるはずがない。そう考えようとしたハリーの頭に今度はカルカロフの顔がぼんやりと浮かんだ。カルカロフはヴォルデモートに脅されている。そしてカルカロフはアダムを脅している。
全ては自分を殺すために。
「そんなことあったらきっとムーディかダンブルドアが飛んでくるさ。」
ハリーはそれが自分を落ち着かせる呪文のように唱えた。我ながら情けないと思ったが気にしない。一行に火が飛んできた闇から誰かがやってくる気配はない。
「ハリー?」
「エクスペリアームズ 武器よ去れっっ!」
ハリーは声のした背後へ即座に呪文を放った。しかし放った後にハリーは後悔した。声の主が敵ではないことが分かったからだ。ハリーは飛んできた杖をキャッチすると、すぐに彼の元へと駆け寄った。
「ごめんセドリック。」
「一体どうしたんだい?」
セドリックは驚きながらもゴツゴツした自分の杖を受け取った。
「何かに攻撃された直後で気が立ってたんだ。本当ごめん。」
「クィディッチで鍛えられた反射神経が活かされたな。」
ハリーは彼は突然の攻撃に怒っているかと思ったが、セドリックは怒っておらず穏やかな口調だった。
「で、その何かって言うのは?」
「分からない…てっきり…何かの生物かと思ったんだけど。」
さすがにアダムの名前を出すわけにはいかない。彼の恋人である無口少女がそれを言っているとも思えないしそのほうが好都合だった。
「またハグリッドの化け物か?」
「うーん…どうだろう…多分そうか「ハリー伏せろっ!」」
ハリーは何も考えずに体を叩きつけるように伏せた。
「ステューピファイ 麻痺せよ!」
ハリーが頭を上げるとセドリックは誰かと戦っていた。暗闇の向こうから青や黒の閃光がこちらに走ってくる。セドリックはそれを反対呪文でねじ伏せた。
「ルーモス・マキシマ 強い光よ!」
ハリーは光を空に向かって放った。暗闇が暴かれる。
「カルカロフ!」
山羊のような顔をした男は目をギラギラさせて杖を振っていた。学校の校長と生徒。当然ながらセドリックが劣勢だった。
「ペリキュラム 救出せよ!」
ハリーは赤い花火を放ってから加勢した。ハリーが加わったことにより、完璧と思われたカルカロフの体勢が徐々に崩れていく。
「教授たちは一体何をしてるんだ?!」
セドリックが吠える。
「教授たちはこの周辺を見回ってるはずだ!エクスペリアームズ 武器よ去れ!」
ポンっ!とカルカロフの手から杖が飛び、キュルキュルと宙を舞った杖は手を伸ばしたセドリックの手の中に収まった。
「なんのつもりだ?」
セドリックは武器をなくしたカルカロフに杖を向けて近づいた。
「あっははっ…。」
しかし、カルカロフの様子がおかしい。窮地に追い込まれたにも関わらず、笑っている。
「何がおかしいんだ?」
ハリーが叫ぶ前に事は起こった。蔦で作られた迷路が一瞬で炎に変わり、熱気がハリーたちを包んだ。ハリーよりも背の高い炎が退路を塞ぐ。
「アグアメンティ 水よ!」
ハリーは放水したが、水は炎に触れると一瞬で蒸気となり消える。ハリーはこの不可解な現象の理由を知っていた。ハリーは何かに腕を掴まれた。ハリーがビクともしないそれにもがいていると、突然狭い水道管に突っ込まれて頭を引っ張られるような現象が起こった。焼くような暑さは一瞬で消え、今度は刺すような冷たさがハリーの皮膚に触れる。
「あっ…はっ…うっ!」
ハリーは先ほどの現象のせいで吐き気をもよおした。うずくまるとその先の感覚に違和感を覚えた。うずくまり、床に触れるとそれはひんやりと固かった。
先程の校庭の土ではなくそれが墓石であることを少し経ってから気づいた。
ハリーは姿くらましでどこかへ連れて来られたのだ。
「我が君っ!私はハリー・ポッターを連れてきましたあっ!」
カルカロフの声は反響した。ハリーが辺りを見回すとそこには墓石が並んでいる。
「…クソがっ…!!」
ハリーの背後で別の男の声だ。これもハリーには聞き覚えがあった。
「ベルンシュタイン…。」
「アダム、余計な人間は連れてくるなと言ったはずだが?」
アダムは足元でうずくまっている誰かの髪をぐいっと引っ張って顔を上げさせた。セドリックだった。セドリックは必死にアダムに抵抗し、髪を掴む手を引き剥がそうともがいていた。アダムは空いている手に火の玉を作り出し、そのままセドリックの胸へと押し込んだ。
「セドリックっっ!!」
セドリックは火だるまになり、地面でもがき苦しんでいた。夕暮れを裂くその叫びにハリーは駆け寄り、転げ回るセドリックに思いついた呪文を唱えた。
「アグアメンティ 水よ!」
セドリックにかかった水はシュウっと音を立てて水蒸気を上げていく。
「俺の炎は魔法じゃ消せねーぞ、英雄さんよお。」
ハリーは怒りに任せて何度も何度もセドリックに水をかけた。エルファバがいればセドリックに応急処置ができたはずだとハリーは悔やんだ。セドリックの口から漏れる声は言葉にならない。声帯も炎に破壊されてしまったようだった。
『多分普通に魔法薬で治るわ。私凍傷しょっちゅうしてるけど魔法薬で治るし。』
前にエルファバはそう言っていた。火傷部分を魔法で作った水で冷やすのは少なくとも無駄にはならないはずだ。ハリーはそう信じたかった。
「!!」
今度はハリーが激痛で倒れこんだ。頭がぱっくりと割れそうな痛みにうずくまった。
「我が君っ!」
カルカロフは震えた声だ。何人かが跪いて、足が草に触れる音がする。ハリーは痛みに呻きながらも辺りを見回した。
「余計なことをしてくれたなイゴールよ。」
あの、ハリーが夢の中で聞いた声が耳に入ってくる。
「わっ、我が君?私はハリー・ポッターを…。」
ハリーは声のする方を見た。
少し先で、子供のようなものが杖を使って立っている。それはハリーが見た子供の中でどんなものよりも醜かった。薄い皮膚は血管や筋肉、臓器、骨という全てを透かしている。そしてそれは"それ"が動くたびに中の物も動いた。
「我が君。そのような身体では風邪を引きます。」
"それ"の後ろから歩いてきた男性は、何の躊躇もなく、しかし丁寧にそっと"それ"を持ち上げて包んだ。
「バーティ・クラウチ…!」
ハリーに呼ばれてクラウチはピクッと体を反応させたが、無視した。
「おいっ!アダムっ!何をしている?!」
叫んだのはカルカロフだった。アダムは、両手に杖を1本ずつ持っていた。
狼狽えるカルカロフは何も持っていない。
「お前!俺を裏切るのか?!俺はお前の恩師だぞっ!?」
「アバタケダブラ 息絶えよ。」
ハリーの目の端で緑色の光が妖しく光る。それが何を意味するのかはムーディ教授の授業でやっていた。それはカルカロフの身体を直撃し、ドサッと倒れこんだカルカロフはそこから動くことはなかった。
人が死んだ。あまりにもあっけなく…。
ハリーの脳裏にディメンターが呼び起こした悪夢がよぎった。
「時間です我が君。」
クラウチが杖を振ると、巨大な鍋の表面から火花が飛ぶ。クラウチは子供のような"それ"を丁寧に抱きかかえ、大鍋に入れた。バシャッと重い物が液体に落ちる音がする。
「父親の骨…知らぬ間に与えられん…。」
細かい塵がハリーのすぐ近くの墓の穴から舞い、グツグツと音を立てる大鍋の中に入っていった。ハリーは恐怖と痛みで体が硬直している。
「しもべの肉…。」
バーティ・クラウチが杖を一振りすると、アダムの手から杖が消えた。そしてもう一振りすると周りの天使をかたどった石像たちの首が一斉にアダムの方向をぐるん!と向きアダムへ走り出す。
「おい、何をするんだ!!やめろ!!」
アダムが火を出し抵抗するが、石像達には敵わない。5体ほどの石像たちがアダムの元へのしかかり、そこへクラウチが近づく。剥き出しになったアダムの腕へと杖を向けー。
「ああああああああっ!!」
アダムは絶叫した。クラウチはアダムの腕だったものを浮かせて無造作に大鍋へ放り込む。
「喜んでさし出されん…。」
そのままアダムの腕は大鍋にバシャッと落ちていった。その瞬間、液体が赤く燃え上がった。クラウチは大鍋に近づき、確認すると今度はローブからナイフを取り出して刃の先を鍋の中に向ける。クラウチがジッと固まり、しばらく大鍋の中の液体が沸騰する音とアダムの絶叫だけが墓場に響いた。
「やっと来たか。」
突然クラウチが笑った。ハリーは目の前で起こる状況にただただ見ていることしかできない。
「敵の血…力ずくで奪われん…。」
何もしていないナイフから赤く光る血が一滴一滴ポタポタと流れていく。
「セドリック…、セドリック…。」
ハリーはセドリックだった赤いものに声をかけた。全身焼けただれ、セドリックの目だけがその中で白く、瞳の焦点は合っていない。
(セドリック…お願いだ。死なないでくれ…!)
大鍋の液体が四方八方にダイアモンドのように輝いたかと思ったら、次の瞬間また漆黒に染まった。
(失敗だ。何もできてないんだ…。)
「ローブを着せろ。」
大鍋を跨いだ男にクラウチは素早くローブを着せた。
男は骸骨よりも白い顔に刻まれる深い皺、細長い目の中で不気味に光る赤い瞳。そして、スッとした高い鼻筋。
ハリーを悩ませ続けた悪夢に出てきた、ヴォルデモート卿と呼ばれた彼だ。
初老の英国人男性と見た目は変わりない。しかし赤い瞳と異常に白い肌が彼が普通の人間ではないことを感じさせる。
「思った以上だ。」
ヴォルデモートは赤い目で見て自分の腕に胸に腹に、指を滑らせ自分の体を慈しむかのように笑う。絶叫するアダム、自分の周りをシャーシャー音を立てながら這いずり回る大蛇のことを気に留めていない様子だった。
「お前が加えた魔術により、より精巧によく動く身体になった。感謝する。」
「我が君…。」
クラウチは跪き、ヴォルデモートに杖を捧げた。先程の自分を支えていた杖ではなく、魔法を使うための杖だ。まるで懐かしい友人のように愛おしそうにその杖を撫でると、跪くクラウチに向き直った。
「お前には最高の栄誉を与えよう。バーティよ。」
「ありがたき幸せでございます。」
クラウチはヴォルデモートのローブの端にキスをし、ささっとアダムの元へ歩くヴォルデモートの道を開ける。
「アダム。お前にも栄誉を与えよう。俺様を助け、獲物を上手く丸め込んだ。」
アダムは腕を失った痛みにずっと叫んでいた。ヴォルデモートは不愉快そうに顔を歪めたためクラウチが杖を振る。そうするとアダムの声が消えた。
アダムは依然叫び続けているが、声は出ない。まるで無声映画のようだった。
「“あれ”を出せ、バーティ。」
クラウチはサッと自らの左腕をローブを捲り上げヴォルデモートに差し出した。生々しい口から蛇が出ている髑髏の赤い刺青が見える。ハリーがワールドカップで見たものと同じだった。ヴォルデモートの人差し指がその刺青に触れると、クラウチは一瞬顔を歪めた。指を離すと刺青が黒く変色しているのがわかる。
「さあ、クラウチよ。この目でしっかりと見届けよう。この刺青を感じた時、戻るものが何人いるか…そして離れる愚か者が何人いるか。」
「はい、我が君。」
ハリーは、ハッと我に返り自らの杖を掴みヴォルデモートへ向ける。が、その瞬間ハリーは後ろへ吹っ飛び背後の墓石に打ち付けられ、どこからか出てきた麻の紐にきつく縛り上げられる。
「おうおう、ハリー・ポッターよ。まだ気が早い。まだだ、今宵は素晴らしい夜になる…。」
暗がりからローブと仮面を付けた人が次々に墓の間、木々の間から現れ、ゆっくりとヴォルデモートに近づいた。
「ご主人様…!」
「ご主人様…よくぞ…!」
数名がヴォルデモートのローブの端にキスをし、主人を囲い輪を作った。所々穴がある。
「よく戻った。デスイーターたちよ。」
ヴォルデモートは、戻ったデスイーター達に13年ぶりに出会えた喜びそしてこれまで探さなかった恨みを淡々と話し始めた。失望したと話し、許しを請う磔の呪文をデスイーターの1人にかけ、嘲笑う。
1人1人にヴォルデモートは問いかける。ルシウス・マルフォイ、マクネア、ノット、クラッブ、ゴイル…。
「貴様らが次に臆病風に吹かれた末路がこれだ。」
ヴォルデモートは杖を一振りすると、カルカロフの遺体が浮かび、輪の中をぐるぐるゆっくりと回った。だらんと力なく手足がぶら下がり、正気のない目をしているカルカロフをデスイーターたちは見ないように目を逸らした。
「決して、次は俺様への忠誠心が揺らぐことがないように。愚かなカルカロフの最期をしっかり刻め。」
浮いていたカルカロフの遺体は無造作に輪の外に捨てられた。
「一方でだ。アズカバンから脱獄し危険を犯してまでも俺様を探し出し忠誠を俺様へと見せてくれたのが、ここにいるバーティ・クラウチだ。俺様の計画を助け、復活に必要な材料、魔術を全て取り揃えた。以前よりもより強力になれるようバーティが本来俺様が使うはずの
ヴォルデモートが左手を空に掲げると、何もないところから炎が発生した。
轟々と燃えるその炎をハリーは呆然と眺めた。目の前で行われている事実。
「この我らの新たな友人である、アダムが代々受け継ぐ杖から発した魔法を無効化する炎…これにより俺様を倒せる人間は誰もいなくなった。死を超越した俺様はこの世の魔法すら統べる存在となったのだ。」
ヴォルデモートが…アダムの“力”を手にしてしまった。ハリーはその事実に絶望する。杖を魔法を使わずこの強大な闇の魔法使いを、どのように倒せばいいのかー。一方ヴォルデモートは恍惚とした目でその炎を眺めた。
「…これで良い。先ほども言った通り、お前には最高の栄誉を与えようバーティ。」
バーティは深々とお辞儀をする。
「おい…!」
輪の外から、先程腕を切断されたことにより狼狽していたアダムが腕を押さえてこちらに来た。ヴォルデモートそしてデスイーターたちが一斉に振り向く。自分の杖で止血したようで、腕の出血が止まっていた。
「弟を…返せ。」
ヴォルデモートは高らかに笑った。ハリーが何度か聞いたことのある残忍で冷たい声で。
「なんと素晴らしい兄弟愛よ!唯一カルカロフにしてはお前を招き入れるという選択は正しかったようだな!」
アダムは獣が威嚇するようにヴォルデモートを睨みつけた。
「お前は約束した!!!お前の計画に従えば弟は解放すると!!!」
ヴォルデモートはさらに笑う。その笑いすらハリーの全身を刺すような恐ろしさがある。
「そうだその通りだアダムよ。まだ俺様の計画は終わっていない。」
いつも余裕を見せるアダムの顔に絶望の色が浮かんだ。ヴォルデモートは続ける。
「もしも俺様の計画が気に入らないのであればさっさと離脱すればいいさ。だが…その場合お前はアズカバンに行き、弟は無残な死体を穢れた血どもに晒される。」
「…っあああああああっ!!!」
アダムの両手から太い火の柱が真っ直ぐヴォルデモートに向かって放たれた。冷たい空気が一瞬で熱くなる。
「っあーっははははっ!!!感情に飲まれては何も生まないぞアダム!!!」
ヴォルデモートは杖を使ってアダムの炎を防いでいた。一瞬ハリーはヴォルデモートが何か特別な呪文を使ってアダムの炎を防いだのかと思った。しかし、違った。ヴォルデモートは先ほど自らが入った大鍋の液体を目の前に持ってきて、アダムの炎を止めていたのだ。
「クルーシオ 苦しめっ!!」
ヴォルデモートはアダムに呪文をかけた。アダムは苦しそうに仰け反り、芝生を這いずりまわった。
「俺様に敬意を払うのだ!!それとも弟を殺してほしいのか?!」
あのヴォルデモートですらアダムの炎を防ぐのはギリギリだった。もっとヴォルデモートの反応が遅ければヴォルデモートの体は燃やされ尽くしていたのにとハリーは思った。アダムはやがて、声を出さなくなった。
「さて、どこまで話したかな?ああ、そうだ。ハリー・ポッター。今宵のパーティーに招待された若者だ。ご存知の通り、母親の古い魔術によって守られたハリー・ポッター…忌々しいことにこの者に俺様は手を出せなかった…がそれは今日までの話だ。」
ヴォルデモートは再び左手を空へかざすと、大きな火の玉が現れる。
ハリーの身体を丸々飲み込めるくらいの巨大な炎。
「この炎さえあれば…お前を殺せる。さあ、杖を取れハリー・ポッター。」
クラウチが杖を振ると、ハリーを縛っていた縄目が解けた。よろめいた足取りでハリーは立ち上がり、近くに落ちていた杖を拾う。
「決闘をしようハリー・ポッター。もちろんやり方は学んでいるな?あのダンブルドアが教えないわけはない。」
ハリーは一瞬ヴォルデモートの言ったことを理解できなかったが、徐々にヴォルデモートの目的が分かってきた。呪文が効かない炎で、杖で抵抗するハリーを痛ぶり殺すつもりなのだ。
「まず決闘の際はお辞儀だハリー・ポッター。礼儀を弁えなければダンブルドアもさぞや悲しむだろう。これから来る、苦痛を伴う死にお辞儀だ。」
デスイーター達がニヤニヤしながらハリーを眺めている。ハリーは顔を上げたままでヴォルデモートを睨み、この場での打開策を必死に考えた。
ハリーに使えるのは武装解除呪文しかない。あのアダムの炎への対抗呪文はエルファバがいつも唱えている「デフィーソロ」のみだ。が、あれは“力”を使う者とその血縁者のみ…ハリーは該当していないだろう。
「お辞儀をするのだ、ハリー・ポッター!!」
ハリーの背骨は何か強い力によって無理やり押され、曲げられた。デスイーター達の大笑いする声が聞こえる。
「クルーシオ 苦しめ!」
ハリーは全身を刻む苦しみに絶叫した。セドリックもこのような苦しみに耐えたのか?とにかく楽にしてほしい、終わりにしてほしいー。磔の呪文を数回かけられ、ハリーは憔悴した。
「休憩だハリー・ポッター。」
ハリーは呼吸を整えながら考える。
自分も最期は、セドリックのように焼かれてしまうのだろうか?
ヴォルデモートが次に杖を上げた時、ハリーは素早く近くの墓石へと隠れた。
呪文が墓石に命中し、割れる音が背後で聞こえる。
「かくれんぼではないぞハリー・ポッター!貴様の死を早めてもいい…!」
後ろでチカっと光った気がした。ハリーは一目散にその目の前の墓石へと逃げ込んだ。ハリーが今しがたいた場所はミシミシミシっと音を立て、火の玉が墓石を包み込んでいた。
「デフィーソロ!」
ハリーはそこへ向かって呪文を唱えたが当然効かず、炎が煌煌と燃えるだけだった。目をつむり、ハリーは考えた。この状況を打開する方法は何かないか。必死に考えたがアイデアが出てこない。
もうないのかもしれない。それであれば、自分はヴォルデモートに勇敢に立ち向かった父親のように死にたい。例え自分がそれで苦痛を伴っても。ハリーはゆっくり、墓石から出てきて杖を構えた。ヴォルデモートは満面の笑みでハリーへ左手を向けた。
「エクスペリアームズ 武器よ去れ!」
ハリーは大声で呪文を叫んだ。と同時に炎がハリーの身体を焼くことを覚悟して。
しかしその時は、やって来なかった。
ヴォルデモートはハリーに左手ではなく杖を向けていた。ハリーの武装解除呪文はヴォルデモートによって阻まれた。しかし、炎はいつまでもハリーへ発射されない。ヴォルデモートは、自らの左手をまじまじと見て、たった今起こった現象に信じられないと言わんばかりの表情だった。
ハリーはそれを見て1つの可能性を見いだす。
「馬鹿め。たかだか俺の左腕を奪っただけで、“それ”を完全にコントロールできるわけないだろうが!!!」
その直後、立ち上がったアダムは右腕から大きな炎の柱を出して龍のように墓全体にうねらせた。デスイーターたちは反射で消火しようとした者は炎が直撃し、火傷に身をよじられた。その他のデスイーター達は他者を押し退けて逃げる。
「ハリー・ポッター!!!」
ヴォルデモートが炎を避けながら、緑の閃光を飛ばしてきたのでハリーは一目散にアダムの元へと駆け寄った。
「ふざけるな!!ハリー・ポッター!!お前が来たら俺まで死ぬだろうが!!」
アダムはハリーに叫んだが、ハリーは無視しアダムの後ろに隠れる。
ヴォルデモートは忌々しそうに左腕を使わずに杖で応戦する。
「あいつ、操れないの?!」
「…俺たちの魔術は“血の呪い”だ。身体全てに呪いの血が入ってないと意味がない。」
アダムはさらに火力を上げ、デスイーターそしてヴォルデモートが近づかないようにする。
「バーティ!!俺様が命令するまで手を出すな!!あいつは俺様が直々に殺す!!
今度はヴォルデモートが炎の向こう側でそう叫んでいるのが聞こえた。
ハリーは打開策を探ろうとアダムの後ろで、キョロキョロ辺りを見回す。
炎と緑の閃光が飛び交う上空で、突如黄金の光が輝いていることをハリーは見つけた。それが何千にも裂けて周囲をアーチ状に包み込む。まるで光の籠となったその中で美しい調べが聞こえてきた。ハリーはこれを2年前に聞いたことがある。不死鳥の歌だ。絶望的だった状況の中で、その歌がハリーの心を鼓舞した。
自分は生きている。このまま帰る。
ハリーは心の中でそう自分に言い聞かせた。そのためには、アダムの協力が不可欠だ。姿くらまししてここから逃げられればあとは大丈夫だ。
「おい、ポッター!なんの呪文だこれは?!」
「分からない!」
「ハリー!」
突然、背後で誰かに呼ばれた。ハリーは振り返り杖を構えたが、その正体に息を飲んだ。
背の高くくしゃくしゃな髪の男性と髪の長い若い女性が立っている。
それは、ハリーの両親であるリリーとジェームズだった。
濃い灰色のゴーストのような2人は、ハリーに近づき肩を抱いた。その温もりを感じることはできないが、まるで2人は生きているかのにクッキリはっきりとその姿を認知できる。
「ハリー、大丈夫だ。僕やリリーも助けるから、あそこにいる怪我をした友達を連れてここを離れるんだ。この炎の魔法使いが姿くらましをするから。」
「あともう少しで終わるわハリー。もう少しの辛抱よ。」
ハリーは2人の言葉に何度も頷く。セドリックは数メートル先で炎が当たるか当たらないかの位置で横たわっていた。父親はハリーをすり抜け、アダムに話しかけた。
「僕が合図をするハリー。おい、醜男。やることは分かっているな?僕の息子をきっちり守ってくれ!」
「っちっ!」
アダムは、背後で何が起こっているのか理解していないようだったが忌々しそうにセドリックとハリーの間に炎の道を作った。
「今だハリー走れ!」
父親の叫びを合図にハリーはその道をまっすぐ走り、セドリックの元へ駆け寄った。
「ハリー・ポッター!」
ハリーの頭上を緑の閃光が数回すり抜ける。ヴォルデモートが炎を抜けこちらへ近づいて来た。ハリーは仰け反ったが、父親と母親のゴーストがヴォルデモートの元へ突進し、ヴォルデモートは身動きが取れなくなった。
アダムはこちらへ走り込み、ハリーはセドリックのユニフォームらしき布を掴み、反対の手でアダムにしがみついた。目の前が炎に包まれ、熱気でハリーの全身が火傷しそうだった。するとまた突然狭い水道管に突っ込まれて頭を引っ張られるような現象を身体に感じた。
ハリーはその感覚にまた気持ち悪さを感じたが、反面安堵に包まれた。
自分は生きて帰れるとー。