深夜12時の公園。真っ暗な中でポツポツとあまり意味のない街灯が置かれている。
「お嬢ちゃん、こんな夜にどうしたんだーい?」
「おじちゃんの家泊まらせてあげるよ~?ぐへへへ…。」
エルファバは本日3組目となる男性集団に絡まれていた。ロビンは飽きることなく、彼らを威嚇し続け、エルファバは俯いて何も答えない。男たちはそんなエルファバの反応にイラついたのか、舌打ちをして低い声でエルファバを脅す。
「カマトトぶるんじゃねえクソガキが。なんか答えろってんだ。あ?」
「…。」
エルファバは固まり、どうすればいいか分からなかった。オロオロし、少しずつまた気温が低くなるのを感じる。この前の2組は結局氷が出た関係でビックリして逃げてしまったが早々氷を出現させるわけにはいかない。
「エルファバ!」
そんな時、救世主が現れた。
リーマスが数メートル先から息を切らしてエルファバの元に走って来て、ギロっと男たちを睨む。
「この子に、何か御用ですか?」
丁寧だが、圧を感じる物言いに男たちは慌てて去っていく。エルファバはホッとしてリーマスに駆け寄った。
「大丈夫かい!?あいつらは一体…!?」
「平気よ。歩いてると変な人たちに絡まれて…でも大丈夫。」
少し汗が肌ににじんだリーマスの顔はホッとしているが、数分前まで顔をマイナスな感情で歪ませていた跡が残っている。
「良かった…。」
リーマスは脱力したように肩の力を抜いてため息をつき、今度は睨みつけてきたため、エルファバはたじろぐ。
「大丈夫じゃないだろう。こんな夜遅くに女の子が1人で出歩くものじゃない。無防備すぎる。」
「あ…えっ…ごめんなさい。」
ここまで怒ったリーマスをエルファバは初めて見た。その怒りが自分に向けられること、そしてその理由をエルファバは理解することができなかった。
「もうこんなことをするんじゃないよ。君は魔女であるとか特別な能力があるという以前に女の子だ。あまりこんなことを言いたくはないけれど…一部の男はそれだけで君を傷つけるんだ。しかも、“変な人たち”?ここに来るまでにどんだけ危険な目に遭ったんだ君は?」
「ごめんなさい…。」
「本当無事で良かった。みんなが君を心配してる。」
「うん…。」
エルファバはシュンと落ち込んで、リーマスについていく。リーマスはエルファバのトランクを持ちエルファバは気まずそうにロビンを撫でた。少しの沈黙の後、思うところがあったのかいつも以上に優しい声色でリーマスはエルファバに声をかけた。
「君がエディを置いて家出をしようとしたなんて、相当何かあったんだろう。夜遅くまで外にいたのはいただけないが…そこを考えるべきだった。言いすぎてしまった。ごめんね。」
エルファバはふるふると首を振り、もう一度謝る、が、一つ気になる点があった。
「家出…私が…?」
リーマスはピタッと立ち止まり、振り返った。それを見た時、エルファバは自分の言葉が口に出ていたことに気づく。前まではリーマスから見下ろされるのは怖かったが、最近は微塵も思わない。しかしリーマスは癖なのかエルファバと同じ視線に体を屈んだ。
「私たちは君が母親と口論になって出て行ったと君のお父さんから聞いているけど…違うのかい?」
エルファバは下唇を噛んだ。ひどい嘘だ。エルファバは沈黙を貫いているのを、汲み取ったのかリーマスはじっとエルファバの言葉を待った。
事情は複雑だ。エルファバが周辺を徘徊してた理由は、家出ではなく母親がエルファバを追い出したから。そもそもそこへ行き着くにはエディのタトゥーの話になり、エディが愚かなピーター・ペティグリューの罠にかかって狼化したリーマスに襲われた話をしなければいけなくなる。
家出したと言うことで話を収めるべきかもしれない。とエルファバは思い家出だと言おうと口を開いた時、リーマスはダメ押しをした。
「私は、君から話を聞きたいんだ。親の話ではなく他でもない君の意見をね。」
エルファバの感情は言葉と共に溢れ出した。母親との買い物、エディのタトゥーの話、母親の仕打ちの数々…。リーマスは話を止めずに聞いてくれた。リーマスにとって聞かれるとまずい話に関してはうまく誤魔化した。
「…酷い。本当に酷い…私たちが聞いていた話と随分違う。」
話し終えた時、リーマスは失望したように首を振り立ち上がる。
「計画変更だ。君を家ではなくグリモールド・プレイスに連れて行く。明日エディも迎えに…誰か騎士団のメンバーは空いてるはず。」
「で、でも、お父さんが許可してくれないんじゃ…。」
「君にとって家庭内も充分危険だエルファバ…言うのは酷かもしれないが、君の受けたことは立派な虐待だ。私は…私たちは騎士団として君たちを保護するんじゃない。大人として未成年の君とエディの安全を確保する。」
エルファバがほっと息をつくのと同時につるんっと、バランスを崩す。
「おっと!」
エルファバが滑って頭を打つ前にリーマスがエルファバの腕を掴んだ。エルファバの視線の先は街灯が反射している。
無意識に床を凍らせていたのだ。
「あ…ごめんなさい…!その…!」
「いいんだ。気にすることはない。」
リーマスは微笑んでいた。
「はい…。」
30分後、エルファバたちはグリモールド・プレイスに到着した。ミセス・ウィーズリーはシリウスの母親の肖像画が怒鳴り散らすのを無視して音を立てて玄関ホールを走り込み、エルファバを強く抱きしめた。
「穢れた血!!クズども!!汚物!!化け物ども!!よくも我が父上の神聖なる家を汚してくれたな!!!」
「もうっ!!ものすごく心配したのよ!!無事でよかった…!!…一体全体何がどうなってそんな夜を出歩いていたのかしら!?もう2度とこんなことするんじゃありませんっ!!」
最初は優しく声をかけたミセス・ウィーズリーだったが段々シリウスの母親と同じくらいの怒鳴り声でエルファバを怒った。
「ご…めんなさい…。」
「あなたもう15歳でしょう!?夜になったら危険がたくさんだってことぐらい知ってるでしょう!?リーマスが事情を教えてくれました!!リーマスによればここへ来る道中も危ない状況だったと聞いてます!!」
「まあまあモリー。もういいじゃないか。リーマスだって怒ったんだろう。」
「良くないですアーサー!!」
エルファバはものすごく縮こまってミセス・ウィーズリーのお説教を受けた。シリウスが厨房の入り口から嬉々としてそれを眺めていて、それにリーマスが呆れたような視線を送っている。そしてそれを騎士団のメンバーであるショッキング・ピンクでツンツンショーツヘアのトンクスがジーッとそれを見ていた。
「モリー、今日はもう遅い。小言を言うのは明日でもいいだろう。」
小言、という言葉のチョイスにミセス・ウィーズリーはカチンときたらしいが、夫の全体的な言い分には納得したらしい。
「リーマス、エルファバを寝室まで送ってくれないか?」
「もちろん。」
大人たちがみんなで目配せし合ったのをエルファバは見逃さなかった。きっと想定外のこと…エルファバとエディについて話し合いするつもりなのだろう。ジニーとハーマイオニーが使っている部屋だ。その人数以上の息が聞こえたのはリーマスも気づいているだろうか。リーマスはエルファバにおやすみと言って数分後、ろうそくの灯りがともった。
「こっちものすごい騒ぎだったのよエルファバ?」
ハーマイオニーはネグリジェ姿が暗がりの中でぼんやりと見えた。ジニーが続ける。
「ママが騒いだから全部聞こえたの。夜の11時ごろにあなたが家出してどこにいるか分からないって連絡があったって。もっと長くあなたが見つからなかったらシリウスが犬になって匂いで探そうって案も出てたぐらいなの。」
ジニーが話しながらベットの下ゴソゴソやると、ノソノソと髪がボサボサのロンが出てきた。
「いたたた…頭打っちゃったよ。」
「私が家を出たってみんなどうやって知ったの?」
「あなたのお父さんが、ミスター・ウィーズリーに守護霊とフクロウを飛ばしたらしいわ。」
ハーマイオニーがロンを引っ張り上げたのと同じタイミングでバチンっ!と破裂音がして、エルファバの両サイドに人の気配を感じた。
「「よお家出娘。」」
「どうも。」
「我らの発明品で君の話は全て聞き取ったぞ。」
「あの騎士団を上手くだますなんて大したもんだチビファバ。」
「騎士団は何でも隠すんだ。俺らだって隠し事の1つや2つしてもいいはずだ。」
フレッドもジョージも、そしてこの場にいる全員が、当然エルファバが本当のことを話すものだと思っているようだった。エルファバは一瞬躊躇した。エディの傷のことは話しても大丈夫だろう。
「あのね…。」
エルファバが街中で母親に暴力を振るわれたこと、家から追い出されたこと、そしてリーマスに会うまで…。最初はみんな興味津々になって聞いていたが話し終えるとその空気はどんよりと重いものになった。フレッドとジョージすらジョークの1つも飛ばせないくらいだった。
「酷い…。」
ジニーはつぶやきにハーマイオニーも同意する。
「母親がすることじゃないわ…!例えあのスキータの記事のせいで何か言われたとしても、言っては悪いけど自業自得じゃない!エルファバのせいだなんて…!それに話ぶりだとそれにあなたのお父さんも加担してるってことじゃない!」
ハーマイオニーが積み上げられた古本にバンッと拳を叩きつけるとロンがひっと声を上げた。
「エルファバは母親に追い出されたから家に帰れず、ずうっと夜中の道を彷徨ってたってことかい?どうして、すぐにこっちに来ようって思わなかったんだい?」
「発想がなかったのとエディが心配で…。」
「多分明日エディが来たら、こっちに来るんじゃないか?嫌だろうエディもそんなとこいるのは。」
「まあ、心配だろうなフレッド。お前エディのこと好きだもんな。」
ジョージの爆弾発言に、重苦しい空気が吹っ飛んだ。
「「「「え?」」」」
ゴトっ、ガタンっ!!と派手にフレッドがジョージをベットに倒しこんだ。
「お前、今このタイミングで言うんじゃねーよ!!!」
フレッドがジョージの顔を枕で何度も叩くのを4人はポカーンと見ていた。フレッドの耳が真っ赤なのが薄暗い中でも分かる。
「そうなのジョージ!?」
「何で教えてくれなかったんだよ!」
「だって俺しか知らなかったし?」
しれっとそう言ってのけるジョージは悪びれる素振りすらない。むしろ言ってやったんだから感謝しろというばかりに得意げにフレッドに笑った。
「こいつっ!!お前…よりによってチビファバの前で…!!」
「いつから!?」
ハーマイオニーすらベットから身を乗り出した。
「最初は本当に妹感覚だったんだ。6年の…エディが2年の時さ、ダンス・パーティで「フレッドはアンジェリーナを誘ってたじゃないか!」まあ、聞けよロン。エディがマルフォイの野郎の誘いに乗ったって聞いた時に2人で茶化して終わったけど、実際目の前でマルフォイとエディが一緒に踊ったりしてたのが後々本気でイラついたらしくてエディがいない間にマルフォイに結構酷い呪いかけたんだ。」
話のメインであるフレッドは固まって動かない。
「まあ呪いをかけるのはいいけど、その後からエディを目で追いかけてたり、エディは気づいてないけど、ちょっと態度が変わってさ、問い詰めたら白状した。」
フレッドはバンっと枕でベットを叩き、吐き出した。
「俺だってまさか13歳のガキンチョ好きになるなんて思わなかったよ!!俺は年上のお姉様が好みだし、別にあいつ美人ってわけじゃないし、うるせえし、男みたいだし、女としての魅力なんかねえし「エルファバ落ち着きなさい、その雪の塊をしまいなさい、まだ続きがあるわ!」「…!」…でも、いい奴だし、たまーに可愛いとこあるっていうか…うん。」
「おいおい、お前もっと惚気ろよ。そんなもんじゃなかっただろ俺の前じゃ。」
「黙れジョージ!あいつそれなりに観察力あるくせに自分のことに関しては超鈍感なんだよ!!アピールしてんのに思いっきりスルーしやがるし、2人でどっか行こうって言ってんのにジョージ連れてくるし、…。」
「お姉ちゃんの1番似ちゃいけないところが似ちゃったんだ。」
「待って、どういうことよロン。」
「そのまんまの意味だよ。」
ジョージは片割れの苦悩した姿を最高に楽しそうに見ていた。ジョージの一人勝ち感が否めない。
「けど、少し驚いたわ。あなたたち性格そっくりだからてっきり同じ人好きになると思ったんだけど。」
「それは幸運なことに重ならなかったなフレッド。」
「エディはどう…。」
ジニーが聞く前にバンっと扉が開き、明かりがついた。
「寝なさいっ!!」
ミセス・ウィーズリーが言い終える前にフレッドとジョージは逃げた。
ーーーーーー
翌朝、エルファバは1人起きた。あまり寝られなかったが、それでも自宅にいるよりよっぽど安全だっただろう。
ブカブカのハーマイオニーのTシャツを1枚とロンのズボンを紐で縛って着ていたエルファバは辛気臭いキッチンをうろうろし、インスタントコーヒーを作っているところにリーマスと出くわした。
「おはようエルファバ。」
低血圧のエルファバはぼうっとして、言葉が発せずペコリと頭を下げる。するとリーマスはふふっと笑った。
「君、酷い寝癖だ…着替えておいで。昨日のことでいろいろ聞きたいことがあるみたいだから。」
エルファバはコクっとうなづき、自分の髪を触る。確かに随分と芸術的な髪でとかした方が良さそうだとエルファバは思う。
着替えが終わり、エルファバはリーマスに連れられて厨房へと入った。どうやら聞き耳を立てようとしていた子供たちは追い払われたようで、その代わりにいたのはエルファバにも馴染み深い長身の老人だった。
「ダンブルドア校長。」
一体いつ、どうやって来たのかエルファバにはまるで分からない。ダンブルドア校長はまるでさも何ヶ月もここに滞在していたかのようにこの屋敷に馴染み、かつここまで来るにはあまりにも目立ちすぎる真紅のローブを羽織っている。
「おはようエルファバ。朝からすまんのお。」
校長が杖を一振りすると、小さい花の絵があしらわれた小ぶりのティーカップがエルファバの前に現れた。当然中には熱々のブレックファースト・ティー入りだ。
「お座り。おそらくここに呼ばれた理由は察しがついてるじゃろう。」
ダンブルドア校長の明るいブルーの目がキラッとまるでエルファバの嘘を暴くかのように光った。
嘘はつけない。
エルファバは正直に全てを話した。発端はエディのタトゥーの奥にある傷、母親から追い出されて公園をうろついていたこと…。校長はふんふんと聞いた後に優しく声かける。
「リーマスからはわしが上手く話しておこう。わしらもあの夜の話を彼には聞かせておらん。ピーターの策略とはいえ、大事にしておる少女が自分のせいで傷付いたとなれば必要以上に自分を責めるじゃろう。」
エルファバは小さく頭をさげる。少し気まずくなってぬるいお茶を飲む。
「君に言わなくてはならないことがある。」
ダンブルドア校長が次に口を開いた時、その口調は重々しかった。
「まず、夏休み前のことを覚えておるかの?コーネリウスがヴォルデモートの存在を頑なに信じず、その根拠として従わせたであろうアダム・ベルンシュタインが護りのあるハリーの殺人が可能であるということを言っておったのを。わしはそれに対してヴォルデモートは自らの手でハリーを殺したいと思っていると。」
「えっ、ええ。」
「そこでじゃが…相変わらずコーネリウスはヴォルデモート復活を頑なに認めておらん。が、ちーと厄介なことになった…コーネリウスの興味が君に向かい始めた。」
「…?」
エルファバはあまりにも唐突すぎて、全くもって理解が追いつかなかった。
「当然、君の氷やアダムの炎が我々の魔法を通さないのは周知の事実じゃ。ルーカスも含めこの中でハリーに危害を加えることが可能なのもその3人。ヴォルデモートはハリーを早く殺めたくて仕方がないじゃろう。しかし当然ながら、あやつが手に入れたアダムは今はとらわれの身じゃ。」
エルファバにはまだ話が読めなかった。
「次にここで出てくるのはヴォルデモートとは関係ないコーネリウスの私欲じゃ。コーネリウスは君の"力"に対して学術的な興味を抱いておる。その証拠に彼は君の母親の体を病院ではなく魔法省に置いた。常に君を何かしらの口実で魔法省の管理下に置きたがっておる…言ってなかったが、彼からそのような誘いは何度も受けていたのじゃ。君の"力"をこれからの魔法の発達に役立てたいとな。ルーカスに関しては成人でそもそも彼の国籍はフランスじゃからイギリスの大臣であるコーネリウスが何かをできる領域ではない。シリウスの件やバーサ・ジョーキンスの失態で民衆からの支持が落ちてしまった今、何かしらの大きな成功を彼は世間にしらしめたいのじゃ。じゃから未成年で決定権のない君に目をつけたのじゃろう。」
「私…"力"が誰かの役に立てるならそれでも…。」
ダンブルドア校長は弱々しく口角を上げる。
「彼の要望は、君の学業に支障がでそうだったのじゃよ。校長としてそれはできん。」
校長はユーモアこめて言ったのか、真面目に言ったのかエルファバはどっちか分からなかった。校長はローブのポケットからなにか黄色い個体を取り出して口に放り込む。ダンブルドア校長はほれ、とエルファバにも1つくれた。口に含むとレモンキャンデーだった。
「これまでは、君に危害が及ぶような状態までいかなかった。しかしヴォルデモートの復活を考えたくないあまり、彼の中で論点がずれてしまい、強大な力でイギリスを飲み込みかねないため、安全のために魔法省の管理下に置くと言いだした。」
「…はい?」
「わしは君らではなくヴォルデモートを抑えることがイギリスの、世界のためになると言ったのじゃがの。それ以前に彼はもうヴォルデモートの存在を信じざるえない状況じゃった。問題を変換する方が好都合なのじゃろう。」
(えっ、えっ?)
エルファバの頭はパニック寸前だった。ファッジの思考回路が理解できないし、今現在のエルファバの立ち位置がかなりまずいことになっている気がした。
「わっ私…じゃあ、どうすれば…?」
「今は大丈夫じゃエルファバ。わしがその必要はないと言っておる。じゃが昨晩みたいなことがある…思いがけぬ出来事ではあったが君の家庭環境の中では今後何が起こるか分からん。学校に行くまではここにおるのじゃ…昨日の出来事はデニスに騎士団から伝えておるし、魔法省からの伝達もしておる。理不尽な暴力を我が生徒が受けるわけにはいかんと。よいな?」
ダンブルドア校長は悲しそうに顔を歪めた。
「許してくれるかのエルファバ?わしの至らなさで君はいつも辛い思いをしておる。」
「悪いのは…校長のせいではないでしょう?」
「全てにおいてじゃよエルファバ。」
冷め切った紅茶を校長は杖を振って消す。
「全て…?」
エルファバが尋ねても校長は曖昧に微笑むだけで答えなかった。
校長は、もうこれ以上話すことはないと立ち上がった。それに対してエルファバは立ち上がりたいが、足に力が入らない。それに気づいた校長はエルファバに優しく声をかける。
「そろそろエディも来る頃じゃ。良い夏休みを。」
校長はこの会話の中で初めて茶目っ気たっぷりに笑ってウインクする。エルファバも微笑で返した。
「あ、あの、校長先生。」
「なにかの?」
「ハリーにはまだ騎士団の話をしてはいけないのですか?」
これはロン、ハーマイオニーと3人で何回も交渉していることだった。事件の当事者…目撃者であるハリーが騎士団の存在を知らないことはあまりにも酷すぎると思った。が、ダンブルドア校長はまた険しい顔になり首を振る。
「今はその時ではない。もう少しじゃ。」
少し考えたがこれ以上エルファバ1人でダンブルドア校長を説得するのはなかなか難しい。エルファバはお礼を言って厨房を出ると外で待っていたミセス・ウィーズリーが入れ替わりで入って行き、校長に朝食を食べるかどうか尋ねる声が聞こえてきた。
エルファバは改めて、今自分の置かれている立ち位置について考えた。
(私を魔法省の管理下に…。そうしたら一体どうなるんだろう。友達に会えなくなる?嫌だわそんなの。それに今このタイミングで授業に支障が出たらO.W.L…今年の重要なテストが受けられなくなるわ。そしたら、魔法薬学師になれなくなるわ。だってあれはO.W.LでE(優秀)が必要な職業だもの。それに、それに…。)
「エルフィー!」
昨日のパジャマのままのエディが階段を駆け下りてきた。
「エディ…どうしたのその痣…!?」
「あ、校長先生!お願い待ってください!あたし言わなきゃいけないことがあるの!」
と、呼びかけたエディの右頬には昨日はなかった青々とした丸い痣ができていた。しかしエルファバの問いを無視してエディは抱きつき、声を詰まらせながら言った。
「エルフィー、大丈夫なの…?あたし、あのあとね、ううん、あたしはいいの。エルフィー、大丈夫?あたしごめんね。こんなことになるなんて夢にも思わなかったの!本当ごめんねぇ!」
「…エディ…どうしてあなたが謝るの…あなたは何も悪くないじゃない。」
「…ずずっ。あたし泣かないって決めたのに…。」
エディは服の袖で、涙を拭く。
「あたし…ダンブルドア校長に会わないと…言わなきゃいけないことがあるの。」
「うん。校長先生は厨房にいるから。」
「分かった…あとでねエルフィー。」
エルファバよりも少し大きくなったエディはもう一度エルファバにハグをして、厨房に向かう。
「エルフィー!!」
厨房の扉を少し開けた時、エディは後ろを向いてエルファバに言った。
「あたし、エルフィーをこれから悪い人から守るわ。…どんな手を使っても。」
なぜかは分からない…。しかしエルファバはそう言うエディの瞳にこれまでのエディからは見たことのない感情がエルファバの中にも直に伝わってくる。悲しみから湧き上がる怒り。それはまるで…。
「ありがとうエディ…私も同じよ。」
エルファバが階段を登ると、リーマスが吹き抜けの廊下でエルファバを待っていた。
「エディをありがとうございます。」
リーマスはいいんだよ、と微笑んだがすぐに難しい顔になる。おそらく何を言おうか考えてるんだろう。リーマスは白髪が増えてますますみずほらしくなっているのに、他のことを考えてほしくないとエルファバは思った。
「エルファバ。何が起こっても、私たちは君の味方だよ。」
しかし、考えこまれたその言葉に固まったエルファバの心がどんどん柔らかくなっていく。
「この結晶を見るのは2回目だ。これが出る時は君が安心しているのかな。」
「えっ、あっ!」
エルファバを中心に絨毯に雪の結晶の模様が広がっている。
「いやいや、とっても素敵だよエルファバ。辛気臭いこの家にはとてもいい飾りだ。」
「辛気臭くて悪かったなムーニー!」
上からわざと腹が立ったような声を作ったシリウスの声が降ってきた。
「ははっ、ごめんよパットフッド。」
「いいさ、チビ!この屋敷全部凍らして使えなくしちまえ!そしたら俺はハリーとあの家でまた暮らせるんだからな!」
「それはみんなが困るよ。」
(リーマスは冗談だろうけど、シリウスは本気だろうな。)
エルファバは苦笑しエディが無事にここへ来たことで、一気に安心して疲労と眠気が戻ってきたことが分かった。
「私…もう一回寝てきます。」
「もちろんさ、ゆっくり休みなさい。」
エルファバはリーマスに見守られながら、階段を登って行く。
エルファバの親友であるハリーが、吸魂鬼、ディメンターに襲われたという報告を聞き烈火の如く怒った校長を見て全員が、騎士団員さえも震えるのはそれから数日後の夜だった。