ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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3.子供たちの攻防戦

「ハリー、久しぶり!…ん、なんか変な空気じゃない?大丈夫そ?」

 

明らかに“変な空気“の中でこんなに堂々と普通のテンションで空気を読まずにこの部屋に入っていけるのはエディくらいだとエルファバは思った。

 

エルファバは部屋の異様な空気感を感じ取った。

 

ハリーがグリモールド・プレイスにやって来たという話を聞きつけて、会議を盗み聞きしていたエディとエルファバ(手伝わされた)は軽やかに階段を登ってハリーに会いに来たが、部屋に入ったらハリーは顔を赤くさせ、ハアハア息が荒い。ハーマイオニーは涙目でロンは緊張した顔をしている。

 

明らかに1ヶ月ぶりの親友たちによる喜ばしい再会の雰囲気ではなかった。

 

「お取り込む中だったかしら…。」

「大丈夫だ。絶好調。」

 

全く絶好調ではなさそうな声でハリーはどかっとロンのベットに座った。

 

「久しぶりエルファバ、エディ。」

 

ハリーは無理やり絞り出した笑顔で笑いかけた。いつもは穏やかで優しいハリーが、荒々しいのは珍しい。エルファバはハーマイオニーにアイコンタクトを取ったが、ハーマイオニーは涙を拭き、特にエルファバに返しはしなかった。

 

「久しぶりハリー…その、大変だったわね。私たちは何があってもハリーの味方よ。」

「君こそ…さっきハーマイオニーから聞いた。」

 

ハリーはツンケンした物言いだったが怒るとエルファバが怯えてしまうこと、そのせいでこの部屋が雪景色になってしまうことという物理的なデメリットを考える余裕ができたのかもしれない。エルファバはかけた言葉が正しいか、分からなかったが答えをくれる人はどこにもいない。

 

「今、ハリーに騎士団のことと私たちが何も知らされていない、頑張って聞き出そうとしていることもね。」

 

ハーマイオニーも少しツンツンした言い方だった。あとで何があったか聞こうとエルファバは思った。

 

「そーそー、もーさ、ハリーのことはみんな騒いでたから聞けたけど、結局伸び耳も使えないしエルフィーの氷で盗聴も無理!」

「どうやってエルファバの氷対策してるのかしらあー!」

 

バシっバシっ!と大きな音と共にフレッドとジョージが伸び耳を持って登場した。

 

「フレッド!ジョージ!いい加減それやめて!」

 

ハーマイオニーの抗議は無視され、2人はハリーをおちょくり、自分たちが姿くらましの試験に受かったことを告げた。そのあとすぐに扉からジニーが入ってくる。

 

「エディから聞いたかしら?エルファバの氷も無理だったわ…そして理由が分かった!理由聞きたい?」

「聞きたい!!!」

 

ハーマイオニーとロン、エディ、フレッドとジョージはずいっとジニーの前に来る。ジニーは悔しそうに爪を噛んでからハッキリと皆が理解できるように発音する。

 

「マグルの温かくなるブランケットを厨房の扉に張り付けて!!!エルファバの氷を溶かしてたの!!!」

 

数秒の沈黙、そしてハーマイオニーが興奮気味にああ!と声を出す。

 

「なるほど、電気毛布!マグルの電気を引っ張ってくるのはグリモールド・プレイスでは決して難しくないわね!元々すぐ近くにマグルがいるし、それでエルファバの氷を!すごい、騎士団のみんな考えたわね!誰のアイデアかしら?」

「ハーマイオニー、全然すごくない!嬉しくないから!」

「クリーチャーがマグルの製品をここへ持ち込んでなんて言うかな。」

 

みんなが口々に話しているとき、ハリーはエルファバにこそっと聞いてきた。

 

「その、君知ってる?セドリックのこと…。」

 

エルファバはふるふると首を振った。

 

「一応、セドリックが目を覚ましたら真っ先に騎士団に連絡するようにディゴリー夫妻にダンブルドア校長からお願いはしてるんだけど…。」

「そうなんだ…。」

 

エルファバの回答で何を話しているのか察したハーマイオニーが話に入って来た。

 

「ディゴリー夫妻はセドリックがこうなったのは学校の管理不足だと思っているの。それに日刊予言者新聞に書いてあることを信じているから、ダンブルドア校長にはそもそも報告しないかもしれないって。」

「日刊予言者新聞?ダンブルドアに関すること何か載ってたっけ?」

 

ハーマイオニーはうっ、と声を詰まらせた。ハリーは知らないのだ。今日刊予言者新聞がハリーを細々したところで揶揄し、侮辱していることを。ハリーの直した機嫌がだんだん悪くなっていくのをハーマイオニーもエルファバも肌で感じる。

 

「また何か僕に隠し事かい?」

「違うわよ!そうじゃなくて…日刊予言者新聞あなた読んでないの?」

「読んださ!」

「隅から隅まで?」

「それは…ヴォルデモートの記事なんか大見出しだろう?」

 

ハリーを傷つける役目をハーマイオニーに抱えさせるのは気の毒だとエルファバは思った。先ほどもハリーはハーマイオニーとロンにこれまでのことを劣化の如く怒ったのだろうと推測する。言葉を詰まらせるハーマイオニーの前にエルファバは立った。

 

「日刊予言者新聞にMr.Vやあなたのことは書いてないわ。ただ…魔法省に手を回されているんでしょうね。あなたのこと“嘘ばかりついて周りの目を引きたい愚かな少年”に仕立てるために嘲る言葉や悪質なジョークを新聞のいろんな記事の所々に紛れ込ませているの。」

「魔法界でもこーゆーこともあるんだね。てか日刊予言者新聞ってタブロイド誌じゃないでしょ?マジ神経疑うわ〜。」

 

エルファバとエディを交互に見たハリーは自分の頭をぐしゃぐしゃと乱し、イライラとしながら深くため息をついた。

 

「僕は周りの目なんか引きたくないし、そもそも僕が有名なのは親があいつに殺されたからで!!」

「分かってるわハリー。私たちは理解してる。」

 

エルファバは“私たち”という部分を強調して、ハリーの隣に座りイラつくハリーの顔を覗き込む。ハリーはジロっとエルファバを見た。

 

「今回のディメンターの件も、誰かに策略よ。私たちは理解してる。あなたが数週間何も知らずに親戚の元へ預けられてしまったのも申し訳なかったと思ってるわ。私たちもハリーに何かしようとダンブルドア校長を説得できるように努力したけど、そんなのハリーからすれば知らないことだし。」

 

と、一旦ここでエルファバは話を切りハリーの様子を伺いつつ、言葉を選んだ。

 

「結果論だけどハリーはここに来れたから私たちはできる限りサポートしていくし、情報も伝える。みんなで約束するわ。」

 

ハリーはジッとエルファバに話を聞き、エルファバが話し終えるとハリーはぽそりと、分かったと言った。と同時にフレッドとジョージは姿くらましで消え、ミセス・ウィーズリーが入ってきて夕食の準備ができたことを告げた。

 

エルファバとハリーが一緒に部屋を去ると、エディが得意げにハーマイオニーとロンに見る。

 

「あたしのお姉ちゃん、有能でしょ?」

 

ーーーーー

ハリーがやって来たことでシリウスが超上機嫌になったのはエルファバにとって喜ばしいことだった。シリウスによるエルファバいじめは激変しエルファバのストレスはだいぶ軽い。精神衛生も整った上に時間もできたので快適にグリモード・プレイスの掃除し、エルファバは1日で階段と2階の廊下をピカピカに磨く快挙を遂げ、皆から褒められた(「エルフィー、前までとんでもなく体力なかったのに!凄すぎる!」)。

 

ハリーの状況は状況で芳しくはないが、ハリーを支える人たちに囲まれているというのはホッとするようで、初日の夜のように大声で怒鳴ったりイライラしている様子はなくなった。

 

ただハーマイオニーはこれに関して納得がいってないことがあるらしい。

 

「いっつもそうよハリーって!エルファバには何かしらで優しいのよ。彼エルファバに怒ったことある?あなたが“力”について隠したこと以外で!私とは違ってハリーってあなたにブラコン?って感じなの。エルファバのゴットマザーはハリーのお母さんだし?」

 

ハーマイオニーは書斎の本を普通の書籍と魔法がかかったものへ分けながら愚痴った。要はロンと自分が怒鳴られエルファバはそうでなかったことが不服なのである。

 

「あと、今回に限っていえば、エルファバが魔法省の管理下に置かれる可能性のあるって分かってるから変な仲間意識があるのよ。もちろんそこは理解できるわ。ハリーに私たちが何もしてあげられなかったのも申し訳「ハーマイオニー!」」

 

エルファバは叫んで、ハーマイオニーが今しがた触っていた本を風で吹き飛ばした上で凍らせた。壁に凍ったまま引っ付いた本のページから巨大な無精髭を生やした唇が口を尖らせ飛び出ていた。

 

まるで本が今にもハーマイオニーにキスしようとしたようだ。

 

「大人に処理してもらいましょう。それ以外の本は確認できたし、あれは一旦放置で。」

 

エルファバは気持ち悪そうにそれを眺めて頷く。

 

「エルファバー?ちょっと客間まで来てくれないかしら?」

 

近くでミセス・ウィーズリーの声がした。

 

「客間行かなきゃかしら?」

「ハーマイオニーはいいんじゃないかな。」

 

ハリーという体力有り余る育ち盛りの少年が来たことで屋敷の大掃除は一気に捗った。と、同時に屋敷内の危険物もたくさん出てくるようになり、もはや片付けではなく屋敷に戦いを挑んでいるようだとハリーは言っていた。

 

そんな時に数年に渡りエルファバが必死に隠していた“力”は便利道具扱いされていた。杖を使わずとも凍らせて放置すれば解決するため、万が一危険な害虫やら魔法道具やらが出て来た時に対処できるということで、エルファバは重宝されたのだった。

 

エルファバは自分が磨いた廊下を渡り、男性陣が悪戦苦闘している客間へやって来た。ハリー、ロン、シリウス、ミセス・ウィーズリーはみんな埃まみれだった。

 

「ありがとうエルファバ。今このタペストリーを剥がそうとしてるんだけど“永久粘着呪文”がかかってるかもしれなくて…これ凍らせれば剥がせるかしら?毎回頼んでしまうのは気がひけるんだけど…。」

「大丈夫です。やってみます。」

 

ミセス・ウィーズリーが指差したところにはタペストリーがあった。色褪せいたるところに噛み跡があるが、それが金色の美しい刺繍を際立たせている。

 

そして金色の刺繍は様々な名前を結んでいる。マルフォイ・ファミリー、レストレンジ・ファミリー、ブラック・ファミリー…。おそらく家系図のタペストリーだ。

 

エルファバは深呼吸をし、タペストリーに触れる。そして全ての動きをとめ、再起不能にするイメージで全てを凍らせた。エルファバの手からゆっくりと雪の結晶のような模様を描きながら霜がタペストリーを包む。

 

そしてー。

 

「あらっ!」

 

テコでも動かなかったタペストリーはペロッと剥がれ、床へと落ちた。

 

「すごいわエルファバ!何をしても剥がれなかったのよ!」

 

ミセス・ウィーズリーはエルファバを抱き締める。玉ねぎを炒めた時の匂いがする。エルファバは少し複雑そうな顔をしてミセス・ウィーズリーの腕に顔を埋めた。掃除がうまくいって皆に褒められた時は素直に嬉しかったのだが、氷に関することを褒められるとイマイチ嬉しくないというか、喜んでいいのか分からなくなる。

 

シリウスもご機嫌にタペストリーを拾い、何の躊躇もなくゴミ袋へと放り投げながら、話しかけた。

 

「それにしても面白いなお前の氷は。魔法を全て無効化できるなんて、オルレアン…お前の母親に出会うまで聞いたこともなかった。逆にここまで強力な魔法を何世代も隠せていたのが不思議だ…どうやって隠してたんだろうな。」

「グリンダを知っているんですか?」

 

エルファバはシリウスを見て、ミセス・ウィーズリーを見た。よくよく考えればこの2人どちらも、エルファバの“力”を最初から普通に理解し受け入れていた気がする。男子陣も気になったようで自分の動きを止め、シリウスの答えを待った。

シリウスは一瞬ミセス・ウィーズリーの様子を伺った。この2人は数日前にハリーら子供達にどこまで情報を与えるかということで激しく口論したのだ。が、ミセス・ウィーズリーは優しくエルファバに微笑んでいたのでシリウスは答えを教えてくれた。

 

「オルレアンは騎士団員だったんだ。ダンブルドア曰く、二重スパイをしていた最中に命を落としたらしい。」

 

エルファバは、この埃まみれの屋敷が一気に美しくなった気がした。命をかけ、危険な二重スパイになりながら正義のために戦っていた母親。

 

エルファバは実親が誇らしくなった。

 

(グリンダが無実になったことで気にしていなかったけど、そっか。ピーター・ペティグリューがいた時は任務中だったのね。一体どんな人だったのかしら。性格は?何が好きだったんだろう。)

 

エルファバのグリンダに対する唯一の手がかりはあの古ぼけた日記のちょっとした文章や写真のみだ。父親からはあまり聞き出せなかった。

 

ミセス・ウィーズリーはタペストリーが剥がれたし、グリンダの話題になったことであえて離れるべきだと思ったのか、サンドイッチを作ってくると言って客間を離れた。

 

「どんな人だったか知ってますか?」

 

シリウスはエルファバを見下ろし、ニヤッと笑った。嫌な予感がする。

 

「お前より20センチくらい身長が高かったな。」

「パーソナリティを!教えてください。」

 

エルファバは睨んだ。ミセス・ウィーズリーがいなくなった瞬間シリウスはやりたい放題だ。

 

「冗談だって。いや身長に関しては事実だけど…そうだな。あいつは俺らが騎士団へ入ったかなり後に入団した…正直、あいつは見た目もああだしクイディッチのビーターだったから、目立つ存在だったが入団した時はみんな驚いた。そんな行動力があるタイプではないと思ったからな。そしてオルレアンは自らの“力”を見せて、自分がいかに役に立てるか証明したんだ。今ほどそれに対する情報はあまりこちらには与えられなかったけどな…多分オルレアン自身もダンブルドアにそこまで開示しなかったんだろう。」

 

そこでシリウスは一旦話を切った。シリウス家に仕える屋敷しもべ妖精、クリーチャーがやって来たからだ。シリウスの口調はそれまで優しかったが、クリーチャーを見るなり一気に声を低くする。

 

「出て行けクリーチャー。タペストリーはもう剥がした。」

 

腰につけたボロ布以外は素っ裸で、コウモリのような大きな耳からは白髪が生えている。クリーチャーはいつも掃除を邪魔しては、騎士団の面々と子供たちを侮辱してシリウスに怒られている。エルファバの知る屋敷しもべ妖精のドビーがいかに可愛らしく愛嬌があるかがよく分かるとつくづくエルファバは感じていた。

 

クリーチャーは憎悪の目をエルファバに向けた。彼からすればエルファバは大事な、7世紀ほどに及ぶ貴重なタペストリーを剥がしてしまった永久戦犯なのだろう。エルファバはシリウスの後ろへスッと隠れる。

 

「滅相もない。クリーチャーめは様子を伺いに…。」

 

と言ってクリーチャーは深々と腰を折り、豚のような鼻を自分の膝へくっつけ、ボソボソと言った。序盤は何を言っているのか理解できなかったがおそらく罵り言葉だろう。

 

「…白髪の氷の化け物。奥様の貴重なタペストリーを剥がしやがって。ああ、奥様はクリーチャーをお許しにならない…こんな混血のガキに…。」

 

シリウスは、喚くクリーチャーの首根っこを掴み部屋から放り投げ、扉を閉めた。

 

「ったく、あいつは…それで、何の話だったか…ああ。あいつはグリンゴッツに勤めていてゴブリンたちを味方につける任務を任されていたと聞いている。そこからいつ二重スパイに切り替えたかは分からないが、俺たちはペティグリューのことがあるまではオルレアンは黒だと思ってた。おそらくあまりにもオルレアンの情報開示が少なかったせいでいきなり加入した人間を、多少ダンブルドアも疑ってたんだろう。あいつもそこまで騎士団員とかかわろうとし関わろうとしなかった…けど、リリーとは仲良くしてたな。」

 

シリウスは再び話を止めた。シリウスの母親の肖像画がギャンギャンとこの住人を罵る声と共にドタドタと大きな足音がこちらへ近づいて来た。

 

「「チビファバ!!」」

 

バチンっ!大きな音がして部屋から出てきたエルファバの前にフレッドとジョージはエルファバを見、その後ろにいるシリウスを見、やべっ!という顔をした。

 

「フレッド!!ジョージ!!それを返しなさいっっっ!!!」

 

ミセス・ウィーズリーの怒鳴り声が外からしたかと思えば、ミスター・ウィーズリーが下から2人を追いかけて来た。

 

「お前宛の手紙だ!!」

「騎士団に渡る前に!!」

 

エルファバの前に華麗に現れたのはジニーと1階の厨房を掃除していたはずのエディだった。シリウスが手紙を奪う前にジョージが持っている紙切れを掴んで、手すりを滑り降りながら手紙を開いた。

 

「えーっと、ミス・エルファバ・リリー・スミス、貴殿の度重なる魔法漏洩とうわっとっ!!」

 

ミスター・ウィーズリーとすれ違う直前にエディは器用に迫る腕を避け手紙を読み続ける。

 

「こらっ!!エディ!」

「及び国際魔法使い機密保持法により貴殿をああああっ!!」

 

手すりを滑って見事に地面に着地したエディだったが、次の瞬間バチンっ!とシリウスが現れてエディは手紙を奪われて俵抱きにされてしまった。

 

「じゃじゃ馬めが。室内で姿くらましをするのがフレッドとジョージだけだと思ったか!」

「おーろーしーてーシリウス!!!」

 

Tシャツから背中が丸見えになってもなおエディは暴れる。

 

「こんの馬鹿力っ!!」

 

シリウスに担がれるエディはなかなかシュールである。エディは今身長170センチに追いつくほどに急成長しているのでなかなか重いはずだが、それを軽々担ぐシリウスもシリウスだ。「筋トレ効果か…。」とハリーが小さく呟いたのはエルファバにしか聞こえなかった。

 

「別に手紙を隠すつもりはない。先に確認するだけだ。」

 

ミスター・ウィーズリーはシリウスから手紙を受け取り、元凶である2人の息子を睨みつけた。フレッドとジョージも負けじと睨み返した。

 

「チビファバの手紙をなんでチビファバが先に見れないんだ!?」

「だから、先に確認するからだと言っているだろう!ほら、2人ともこっちへ来なさい!エディもだ!」

 

気がつけばシリウスの母親の喚きは止んでいた。フレッドとジョージ、そして担がれたエディはそのまま厨房へ連行され、閉められた扉からミセス・ウィーズリーが怒鳴りつけているのが漏れて来た。シリウスは歩きながら背伸びをして一仕事終えたと肩を叩く。

 

「あれ、あいつは?」

「エルファバなら2階に行ったよ。」

「あいつの手紙なのにあんまり興味ないんだな。」

「エルファバはそこまで反抗的じゃないからね。」

 

ハリーはシリウスの問いに答えつつもう少し自分のことに興味を持つべきだと思った。

 

その頃エルファバは2階でタペストリーを持ってウロウロしていた。

 

「あ、いた。」

 

エルファバは同じくウロウロしていた老いた屋敷しもべ妖精に話しかけた。クリーチャーは目が合うと深々とお辞儀をした。

 

「これはこれはお嬢様。」

 

そしていつも通りぼそっとつぶやく。

 

「由緒正しいタペストリーを剥がしたアマめ。お前を一生呪ってやる…ああ、奥様どうぞクリーチャーをお許しに「そのタペストリーをあげる。」」

 

エルファバはクリーチャーに丸めたタペストリーをヒョイっと渡した。あの金の刺繍と一族の名前が書いてあるタペストリーをクリーチャーは信じられないと言わんばかりに開いて覗き込んだ。

 

「これ服じゃないし、別に私たちも必要ないから大切にしてるあなたが持ってたほうがいいかなって。まだ冷たいし濡れてるけど。」

 

クリーチャーは微動だにしない。エルファバの声も聞こえているか不明だ。

 

「シリウスにはバレないようにね。彼この家のものなんでも捨てたがってるから。」

 

エルファバはクリーチャーを覗き込んだが、やはりエルファバが見えていないようだった。

 

「えっと、じゃあね。」

 

エルファバは皆がいる厨房へ戻っていった。

 

ーーーーー

事が動いたのは翌日、ハリーの尋問の日だった。ハリーとミスター・ウィーズリーそしてシリウスが早朝に魔法省へ向かった。

 

エルファバは、その1時間後くらいに起きたがもうすでに騎士団は慌ただしくいろいろ作業に取り掛かっていた。厨房にも何人か騎士団員がいた。

 

「エルファバおはよう。よく寝れたかい?」

 

エルファバは、リーマスの問いにコクコクと頷きながらインスタントコーヒーに瓶を薄目で作る。

 

「酷い寝癖ね。」

 

今日は長いブロンドヘアの騎士団員兼闇祓いであるトンクスが笑った。

 

「彼女、ちょっと無頓着なんだよ。」

「笑っちゃうわね。あとそのパジャマ、個性的で好きよ。マグルのキャラクターかしら?」

 

リーマスとがエルファバについて話しているのが聞こえたが、あまり気にせずお湯をマグカップに入れた。その背中には、なんともいえない顔の白いお化けの上にバッテンが描かれたロゴがあった。エルファバの最近の映画系私服のお気に入りの1つだが眠くてうまく説明できなかった。

 

が、エルファバは別の声を聞いて眠気が吹っ飛んだ。

 

「フーゴナゴール、ゴースト・バスターズ!でしょ、エルちゃん。」

 

懐かしい声。軽い調子で「エルちゃん」とエルファバを呼ぶのはこの世でただ1人だ。エルファバはゆっくり振り向くと、明るいブラウンの髪にグリーンの瞳を持った映画俳優のような男性がリーマスとトンクスの隣で笑って手を振っていた。

 

「エルちゃん寝ぼけてて俺のこと気づいてなかったでしょ?ずっといたのに。」

「ルーカス!」

 

エルファバはマグカップを乱暴に置き、立ち上がって手を広げるルーカスに思いっきり飛びついた。

 

「よし、今日は不意打ちじゃないから受け止められた。」

 

ルーカスはエルファバの両頬に軽くキスをした。

 

「ルーカス…!!久しぶり…!!」

「って言っても2ヶ月だけどね。けど俺も会いたかったよ。相変わらず可愛いなあ。そんなチャイニーズヌードルみたいな頭で変なTシャツ着て可愛いのエルちゃんだけだからね。」

 

エルファバはルーカスに降ろされ、クスクスと笑った。

 

「どうしてルーカスがここに?」

「俺も騎士団員なんだ一応。」

「え、そうなの?」

 

初耳だった。リーマスとトンクスを見るが少し気まずそうな顔をして目を逸らす。エルファバは怪訝そうにした後ルーカスに向き直った。

 

「俺はみんなほど表立って活躍してないんだよ。主に聖マンゴの様子を見張ってるから…基本仕事をして怪しいことがあればこちらに報告すればいればいいんだ。」

 

エルファバは納得したように頷く。そして一瞬考えた。

 

例え目立った行動をしないにしても、ここに来たマクゴナガル教授やスネイプのように何かしらの活動はできるはずだ。おそらく騎士団はルーカスが数ヶ月前エルファバを錯乱させてアダムを殺すように仕向けたことを許していないのだ。それか、ダンブルドア校長からエルファバにその話をしないように指示したか。

 

何かを悟ったのかルーカスは、リーマスの方を向く。

 

「えっと、もう魔法省の手紙の件は話していいの?」

「ああ、トンクスに裏を取ってもらったから大丈夫だ。あとで私から話す。」

 

リーマスはエルファバに座るように促したので、エルファバはコーヒーを一飲みしてからリーマスの正面に座った。

 

「またあとでねエルファバ!」

「うん、またねトンクス。」

 

トンクスはヒラヒラと手を振って厨房から出て行った。その入れ替わりでミセス・ウィーズリーが入って来た。

 

「おはよう、エルファバ。まあ、なんてひどい寝癖!」

 

エルファバの頬を包み、その反対の手で杖を一振りすると、数個のブラシがどこからともなく現れてエルファバの髪をとかしはじめた。癖っ毛ではないので、軽く水で濡らせばエルファバの髪は徐々にスムーズになっていく。

 

「あなたの毛は本当に綺麗ねエルファバ。まるでヴィーラみたい!本当に可愛いからあなたがオシャレに興味を持って大人の女性になったらもう男性がいーーっぱい寄ってきて大変でしょうね。」

「去年のダンス・パーティの時なんか、大変だったよね。何人の男が寄って来たか。俺が炎で威嚇しなきゃエルちゃん大変だったんだよ〜分かってる?」

 

エルファバは首をかしげた。段々覚醒してきて、1つの疑問が生まれる。

 

(普段は騎士団に関わらないルーカスがなぜここにいるの?)

 

髪の毛が整ったら、リーマスがエルファバに向かいに座るように促した。ルーカスはエルファバの隣に座り、ミセス・ウィーズリーは髪が整ったことに満足するといそいそと厨房で朝ごはんを作り始めた。

 

「君に昨日届いた手紙について今話してもいいかい?」

 

エルファバはコクっと頷く。リーマスは手紙をエルファバに渡した。

 

「長ったらしく複雑な文章だったけど、簡単に言えば魔法省は君に聖マンゴのヒーラーによるカウンセリングをつけると言い出した。」

「カウンセリング…?」

「ああ。君は精神的ショックがあり魔法のコントロールが必要だから、今後ホグワーツに戻った時に2週間に1回、聖マンゴのヒーラーが君を訪ね、精神面のサポートをするそうだ。」

 

エルファバは少し考えて口を尖らせる。

 

「が、問題は聖マンゴではなく魔法省がこれを言い出したことだよ。しかもこのタイミングで…簡単に言えば君を監視するんだ。」

 

エルファバは少し前にダンブルドア校長が言っていたことを思い出した。リーマスはここから少し声を落として話した。

 

「ここからはダンブルドアの推測だが…聖マンゴは君を精神病棟に入れる機会を窺ってる。隙をついて、魔法省による保護という名目で君の自由を奪うことを…。」

 

これでエルファバはなぜリーマスがエルファバにこれを告げる役割になったのかよく分かった。今後起こるであろう出来事を告げるのはエルファバ最も精神不安定な状態を見たことがある、そしてそれを理解した上で優しくエルファバに話しかけることができるリーマスが適任だ。現にエルファバの心臓は早鐘を打つが、思った以上に悪くない。

 

「でっ、でも、ダンブルドア校長にも言ったけど、私本当に魔力をコントロールできないし、カウンセリングは受けるべき…じゃないかしら。例えそれが管理の下でも…いつまでもみんなの優しさに甘えて好き勝手凍らせるわけにはいかないし。」

「それがまともなカウンセリングならね。」

 

リーマスは弱々しく笑う。

 

「君の精神を癒すちゃんとしたものならいいけど…そうならないとダンブルドアは考えている。だから私たちは対策を考えることにした。」

「対策…“力”を抑えるの?」

「いいや?」

 

ここでルーカスが心底楽しそうに話に入って来た。

 

「君が必要な時に最大限のパワーを発揮できるようにトレーニングするんだ。俺が手取り足取り教えてあげる。」

 

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