ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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4.新学期前後

 

ハリーが無事魔法省の尋問で無罪を勝ち得た名誉ある翌日の朝。

エルファバはルーカスに連れられ、広大な自然が広がる土地に来ていた。イギリスのどこにいるのかエルファバは検討がつかない。確実に言えるのはここには確実に人間は住んでいないだろう。ここなら思う存分“力”を使えそうだ。

もっとも、正式には2人ではなかったが。

 

「トンクス。」

「よ、エルファバ!楽しみだわー!噂に聞いてたあなたの氷の魔法が見れるなんて!」

 

今日は腰まであるストレートの赤毛トンクスが岩の上に座ってエルファバとルーカスに手を振っていた。エルファバも手を振る。ルーカスは無反応だった。

 

「ルーカスだけだと思ってたわ。」

「あのね、エルファバ。あなたを錯乱させて人殺しさせようとした男と2人きりにすると思う?今後練習の時は騎士団の誰かが見張りに来るわ。」

 

ルーカスは不愉快そうにトンクスを睨んだ後、エルファバに向かい合った。トンクスの存在は無視することにしたらしい。

 

「さて、エルちゃん。ここなら思う存分凍らせるよ。まずは、君の最大限を見せてほしいんだ。」

「最大限?」

「うん、数ヶ月前一瞬でホグワーツの校庭を凍らせたのが俺が知ってるエルちゃんのマックスかな…けど自分で最大限凍らせようって思ったことはないだろう?」

 

エルファバは首を振る。そもそもエルファバにとって“力”は隠すもので見せるものではなかった。

 

「じゃ、何事も自分の実力を知ってから始めないとね。それじゃあ、目を閉じて。」

 

エルファバは一瞬戸惑ったものの、目を閉じる。

 

「自分の中にある“力”をなるべく外に出すイメージをして。僕とトンクスのことは大丈夫…いざとなったら炎で身を守るから。」

 

エルファバはルーカスの言われたようにイメージする。

 

(私の“力”をイメージね。よし、外へ広がるように…実際私はどれくらい発揮できるのかしら。あ、でも自分の想像したものよりたくさん凍らせてしまったらルーカスやトンクスに迷惑がかかってしまうかも…。)

 

「はい、エルちゃん、もういいよー!」

「わお…。」

 

そこから数秒後、トンクスの感嘆の声とともにエルファバは目を開けるとギョッとした。先ほどまで青々としていた草原は、真冬のように凍っていた。

 

夏にも関わらず、完全に冬景色だ。

 

自分の“力”にも関わらず、動揺した。

 

「どのくらいかな。」

 

ルーカスはヒューと口笛を吹き、サッと杖を出して地平線へ向けると、青い光が発射され、それがピンと伸ばされる。数秒後にその先端がルーカスの元へ戻ってきた。

 

「ざっと半径5キロくらいか。でもちょっと自重してたでしょ…実際もう少し出る気がする。」

「ルーカスとトンクスが心配になっちゃって。」

「俺らは大丈夫だって。まあでも、さすがに次の練習ではここまでさせないから平気。これデフィソロれる?」

 

謎の略語を一瞬理解できなかったエルファバだったが、なんのことか理解し、いつもの呪文で氷を消失させた。

 

「よし、これで大丈夫。さて今日の練習はー。」

 

そこから数時間、エルファバとルーカスの練習は1日2、3時間週に2回ほど行われた。

最初は心身疲れ果ててヘロヘロだったがルーカスの指導はかなり上手く、夏休み最終日までには、エルファバの“力”は前以上にコントロールできるようになり、自由自在に動かせるようになった。心なしか感情に左右されなくなった気がしてエルファバは大いに喜んだ。

 

エルファバが最後の練習を終え、ルーカスからどんな敵にも耐えられると太鼓判を押されてグリモード・プレイスに戻り、飲み物を飲もうと厨房へ立ち寄ったところ鼻歌を歌いながら料理を作っているミセス・ウィーズリーを発見した。

 

「おかえりエルファバ、ルーカス。どうだった練習は?」

 

階段に座っていたハリーがエルファバに駆け寄って来た。おそらくエルファバが帰って来るのを待っていたのだろう。

 

「良かったわ。」

「良かったどころじゃない、上出来だよ!エルちゃんは本当に頭が良い。」

「そうか…実はロンとハーマイオニーが監督生になったんだ。だからおばさんあんなに元気で。」

 

エルファバは1秒静止し、ハリーが告げた事実を飲み込みジワジワと幸福が心を満たした。疲れなどどこかへ消えてしまった。

 

「え、すごい。」

「本当だね。」

「2人は上?お祝いに…」

 

と話したところでエルファバはハリーがエルファバほどこの事実を喜んでいないことに気づいた。うまく言えないが少し気分が沈んでいるようなー。

 

「どうかしたの?」

 

エルファバはハリーの顔を覗き込んだ。

 

「いや…その…別に。」

 

エルファバはジッとハリーを見つめる。

 

「本当に?」

「…なんでもないって言ってるだろ。」

「そう…。」

 

ハリーは気まずそうにそそくさと2階へ上がっていく。エルファバは訳が分からず、助けを求めるようにルーカスを見た。ルーカスはチッチッチッ、と人差し指を振る。

 

「エルちゃん、さっきのとは別にもう1個レッスンね。男ってのはプライドの生き物なんだ…例え君とハリーくんがどんなに仲の良い親友でもぜーーーったい君にカッコ悪い姿は見せない。ハリーくんは今ちょっと人に言えないカッコ悪い、情けないことを考えてたんだ。けどそれはカッコ悪い自覚はあって、けど自分の中で消化もできない。」

「でも、ハリー今私に駆け寄って来たわ。」

「多分だけど、君にしてほしいリアクションがあったんじゃない?けど君はそれをしなかったから…。」

「へえ…。」

「まあ、別にハリーくんが勝手に考えたことだからね。君が責任を負うことはないさ。」

 

よくよく考えてみれば、ハリーは大変な状況が常につきまとっている人生だが愚痴はあれど弱音は吐いたことがない気がする。いつも“力”のことでメソメソしていたエルファバからすれば、大きな発見だった。エルファバは男の子は大変だと思った。

 

(そういえば…私セドリックから悩みとか聞いたことないかも…。)

 

考えると年上のセドリックは常にエルファバのそばに立ち、全てを受け入れてくれた。ハリーたちとの冒険もいつも壮大すぎて全てを言えない…シリウスの件は良い例だ。そんな中でもセドリックはエルファバが話すこと話さないことを全て受け入れて、未熟なところも愛してくれた。

逆にセドリックから弱音を聞いたことがない。去年も過酷だったにも関わらず、エルファバの前ではいつも快活に振る舞っていた。

 

(逆に私じゃなくて、親友たちには弱音をこぼしていたのかしら。ああ、セドリックのことを考えたら悲しくなるわ。)

 

「なに百面相してるのエルちゃん。」

 

急に黙りこくったエルファバをルーカスは怪訝そうに見つめていた。

 

それから数時間後。ハーマイオニーとロンの監督生を祝う立食パーティだった。ミスター・ウィーズリー、ビル、シリウス、ルーピン、トンクス、キングズリー、そしてムーディ教授(今は教授ではないが)もやって来た。

 

「ルーカスは?さっきまでいたよね?」

 

各々話に花を咲かせる中で、どういうわけか機嫌を良くしたハリーはチキンを食いながらエルファバに尋ねた。ちょうどロンから延々と新しい箒の自慢をされていたところだったので助け舟を出したのだろう。ロンはすぐさまトンクスの方へ飛んでいった。

 

「ルーカスは参加しなかったの…ルーカスの参加を騎士団の何人かが良しとしてなくて…。」

「例えば?」

 

エルファバは周りをキョロキョロ見回してから、声を落とす。

 

「リーマス、キングスリー、ムーディ。この3人はそもそも私とルーカスの接触も良しとしてないらしいの。」

「リーマスは分かるかも。僕らのこと平等に気遣ってると思うけど、僕と君とエディのことは特に気にかけてるし…ムーディもあの性格だしね。キングスリーは?」

「マンダンガスと違って騎士団内の誰かに、恩義を感じている訳ではないからいつでも裏切る可能性があって危険だって。私とルーカスは“力”という他の人たちには理解できない共通点もあるから、私をうまく取り入って利用するんじゃないかって思ってるみたい。」

「そんな…僕はそうは思わないけど。」

「むしろ、3人の感覚が普通じゃないかしら。」

「僕らにはすごくフレンドリーじゃないか。」

 

実際ここ2、3週間の練習はルーカスと話せて非常に楽しかったのだが、見張り役の騎士団メンツとは微妙にギスギスしている時もあった。エルファバに話しかけるルーカスと騎士団に関わるルーカスは別人なのだ。練習途中にルーカスのたまに騎士団に向ける憎悪の目線に気づいてしまい、怯えてしまうこともあった。

それは警戒心剥き出しのムーディでも、決して嫌悪感を出さず紳士的に振る舞うリーマスでも、天真爛漫なトンクスでも。

唯一の例外がシリウスだ。シリウス自身はエルファバが錯乱された現場を直接目撃しているものの、ピリピリしているもののルーカスの態度は若干軟化した(「どうせ顔でしょ。」とハーマイオニーは鼻を鳴らしていた)。

 

反面、ルーカスはハリーやロン、ハーマイオニーに前と同じように絡んだ。ハーマイオニーとエディはルーカスを大層警戒し、なるべくエルファバにも距離を置くように散々警告もしているが、ルーカスはそれを面白がって2人をからかった。

 

パーティに誘った時もこのような感じだった。

 

『パーティ?うーん、ロンくんとハーミーちゃんが監督生になったのは嬉しいけど、俺が来たら大人たちが素直に喜べないでしょ。俺からはプレゼントを送るよ。あ、そうそう監督生同士ってやらしい関係に発展しやすいって俺のホグワーツのセフレが言っ『さっさと帰ってちょうだいルーカス!』楽しんでー!』

 

女子部屋に勝手に入ってきたルーカスは、ハーマイオニーから本を投げつけられながらヘラヘラ去って行った。エルファバはその後ルーカスを女子部屋に連れてきたことを凄まじくハーマイオニーに怒られた。

 

『いい性格してるよなルーカス。』

『ダンブルドアは一体何を考えてるのかしら?エルファバとルーカスの距離を近づけるなんて!!あんなあとに!!』

 

ルーカスに散々弄られたハーマイオニーはプリプリ怒りながら新しい教科書をまとめ、ロンは呆れながら監督生バッジを眺めていた。

 

エルファバはそれを思い出しながら、チキンに小さな口でかぶりつく。

 

「というか、それ誰から聞いたの?騎士団の誰かじゃないだろう?」

「もちろんルーカス本人よ。」

 

あの調子でヘラヘラとそれを話すルーカスは容易に想像できる、とハリーは思った。

 

「そういえば、魔法省からなにか連絡ってあったの?君の管理について。」

 

ハリーの問いにエルファバはふるふると首を振った。

 

「カウンセリングはホグワーツに行った時に付く以上のことは何も…。」

「そうなんだ…連中が何をしたいのか分からないけどエルファバは決して悪くないから。ホグワーツなら僕らもついてるし、いざとなれば僕らが守る。大丈夫だからね。」

「ありがとうハリー。」

 

おそらくハリーは、自身が魔法省へ行く時に言われて精神的に役になった言葉をエルファバにかけたのだろう。エルファバは笑いかけた。

 

「おい、ポッター。」

 

エルファバの背後からヌッと、ムーディが現れた。

 

「ポッターに用がある。借りるぞ。」

 

エルファバがイエスを言う前にムーディはハリーを連れて行った。エルファバは少しあくびが出たのと同時に自分が眠くなっていることに気づいた。

 

エルファバは皆に寝ることを告げ、楽しそうにダンスしているフレッドとエディの横を通って階段に上がろうとしたがー。

 

「ひくっ、ひくっ、」

 

客間の方から誰かが啜り泣く声が聞こえてきた。全員パーティに参加しているはずだ。ここに誰もいるはずはないが、エルファバは恐る恐る客間へと近づき、そっと中を覗いた。

 

いざという時のために凍らす準備もする。

 

「おばさま?おばさまなの?」

 

声の主は、ミセス・ウィーズリーだった。客間の床に疼くまり、啜り泣いている。

 

そしてそのすぐそばでハリーが目を見開いて倒れていた。まるで死んでいるかのように。

 

(いいえ、つい数秒前まで私はハリーと一緒にいたわ。しかもその後はムーディと…ありえない。)

 

そこでエルファバは、客間にまね妖怪(ボガート)がいるとミセス・ウィーズリーが言っていたことを思い出した。

 

そしてハリーの死体はロンに代わり、ビルの死体に変わった。死体が変わる度にミセス・ウィーズリーはまた声を出して泣く。

 

「大丈夫よおばさま。」

 

エルファバはミセス・ウィーズリーに駆け寄ると、縋るようにミセス・ウィーズリーがエルファバに抱きついた。エルファバは優しく背中をさする。

 

「ここを一旦離れましょう…誰か大人を呼んできます。そしたらー。」

 

エルファバは、ふとまね妖怪の方を見た。

 

それはもう死体ではなかった。

 

目の前には、エルファバの倍ほどの身長がある恰幅の良い男性が野球バットを持って2人を見下ろしている。

 

青いワイシャツにベージュのズボン、サスペンダー。

 

「なんで生きているんだ、化け物。」

 

男は暗闇の中で黒い目だけが光っている。そしてゆっくりエルファバの方へ近づいてきた。

 

エルファバは、一瞬たじろぐが決して動かない。

 

「それを…俺の前で!見せるなあああっ!」

「どうした!」

 

階段を駆け上がり、部屋に入ってきたのはリーマスだった。それに続きシリウス、そしてエディも入って来た。エルファバとミセス・ウィーズリー、そしてその背後にいる男を見て杖を取り出し構えた。

 

「お前のような怪物は、この世にいてはいけないんだ!!!!」

「リーマス…!これまね妖怪!」

「っリディクラス ばかばかしい!」

 

叫んだ男は消え、銀色の球に変わったところで今度こそまね妖怪は消えた。

 

ミセス・ウィーズリーは嗚咽してエルファバにより強く抱きついた。

 

「何があったんだ?」

「あっ、その、おばさまがまね妖怪を片付けようとして…その、私杖なかったから…。」

 

今の説明で通じたか否かは分からなかったが、リーマスはしゃがんでミセス・ウィーズリーの頭を撫でた。

 

「モリーにとって、とんでもなく恐ろしいものだったんだねきっと。大丈夫。ただのまね妖怪さ。」

 

エルファバはミセス・ウィーズリーが何を見たのか言うべきか迷ったが、次に発したエディの言葉でそのことに関して触れずに済んだ。

 

「あれ、叔父さんじゃん…。」

「ええ、そうね。」

「エルフィーのまね妖怪は、叔父さんになるんだ…知らなかった。」

「君がまね妖怪のことを覚えててくれてて元教授として嬉しいよ。だって君結局レポート提出しなかっただろう?」

「え、今それ言う?」

 

リーマスの程よいユーモアにエルファバは思わずクスッと笑った。ミセス・ウィーズリーも少し落ち着いたようで顔を上げた。まだ涙で顔がぐしゃぐしゃだった。リーマスがハンカチを渡すとそれで涙を拭いた。

 

「おばさま…。」

「ごっ、ごめんなさいね…みっともないところを…。」

 

ミセス・ウィーズリーは家族の半分が騎士団にいる命の危険性、絶縁のようになってしまったパーシー、万が一自分が亡くなった時にロンとジニーの面倒を誰が見るのか、そんな不安をしゃくり上げながら語った。

 

リーマスはそれに対し、優しくかつ論理的にミセス・ウィーズリーに説明しているのを見てエルファバは舌を巻いた。ミセス・ウィーズリーは徐々に落ち着いてきた。この役回りはリーマスにしかできないだろう。

 

(リーマスって人生何周してるのかしら。)

 

ミセス・ウィーズリーが落ち着き、寝室に戻っていく時にエルファバを呼び止めたのはシリウスだった。

 

「おい。」

 

エルファバとセットでエディも立ち止まった。

 

「さっきの男が例のお前の叔父さんか?」

「シリウス。」

 

パーティへ戻ろうとしたリーマスが2人の前に立ちシリウスを止めようとする。エルファバのトラウマを刺激しないようにリーマスはあえてエルファバのまね妖怪には触れなかったのだろう。

 

「別に嫌な記憶を思い出させたいわけじゃないんだよ。ただ1つ気になることがあるんだ…辛かったら答えなくていい。」

 

エルファバはコクコクと頷いた。

 

「あいつの姿と発言は記憶のそのままか?」

 

忘れるわけはない。ディメンターによって蘇った記憶の通りの姿、声だ。言っていた発言も一語一句間違っていない。

 

「話した内容をあたしは覚えてないけど…あれは叔父さんだった。」

「言ってたことも間違って…ないと思う…ひとつだけ言われたか曖昧な言葉があるけど…。」

 

エディが優しく俯くエルファバを抱きしめる。

 

『お前のような怪物は、この世にいてはいけないんだ!!!!』

 

それに近いことを言われたような言われたことのないような。エルファバは思い出せなかった。

 

シリウスはなるほど、と顎を触った。

 

「すまない、もしもお前の記憶そのままの発言ならなんとなく釈然としないんだ。お前の叔父さんの言動が…もちろん暴力を肯定するわけじゃないぞ?ただマグルっていうのは俺たち魔法使いを見ると普通怖がって避けるんだ。ハリーの親戚がいい例で…お前の“力”と俺たちの魔法をお前の叔父さんが区別できるはずもないし…ましてや、閉じ込めて痛ぶるなんて「もうやめて、シリウス!」」

 

エルファバはエディの腕の中で小刻みに震えていた。氷こそ出ていないものの、一気に廊下の気温が下がっているのが皆肌で感じた。

 

「すまなかった。」

 

エルファバは首を振る。そして顔を上げて真っ直ぐシリウスを向いた。エディを凍らせないように腕を解こうとするがエディは意地でも動かないのでエルファバは諦める。

 

「それ…私も思ってた。」

「エルフィー。」

 

エルファバの声はか細かった。

 

「叔父さん…まるで魔法そのものを憎んでるみたいだった。自分の子供にも…暴力を振ってたけど…それの比じゃなかったの…どうして、叔父さんはそんなに魔法を…嫌いだったのかなって。」

「君が考える必要はないさエルファバ。」

 

リーマスは優しくエルファバに語りかけた。

 

「きっとこの世の加害者はどこかで被害者だった…だから自分の傷を相手に植え付けようと人を傷つけたり、貶めたりできる。けれど、君がどんなに優しいからってそこまで考える理由はない。君は君の人生を生きるべきなんだよエルファバ。」

 

エルファバは頷き、エディに身を委ねる。

しばらく沈黙が続いた。

 

「…エディ…リーマスの授業あんなに好きって言ってたのにレポート提出しないなんて。」

「待って、エルフィーまでそれいじるの?」

 

廊下にいる4人、エルファバも含めて声を上げて笑った。

 

ーーーーー

翌日。

 

ホグワーツへの旅はいつもと違った。ハーマイオニーとロンは監督生のため、監督生用の車両へ行き、エルファバ、ハリー、ジニーそしてジニーの同級生のルーナが同じコンパートメイトだった。ルーナはレイブンクロー生で、杖を左耳に挟み、バタービールのコルクを繋ぎ合わせたネックレスを掛けて雑誌を逆さまに読んでいた。

変人(ルーニー)と呼ばれているその女子生徒とコンパートメントに乗るのは気が引けたハリーだった。

 

案の定、常に地に足がついておらず“ザ・クィブラー”と書かれた雑誌を逆さによんで集中しているルーナと基本人見知りなエルファバが特に会話が弾むわけでもなく、ハリーと2人でただただ流れる車窓をぼんやりと見つめていた。

 

「そういえば、君は1年生の頃に比べると無口ではなくなったし無表情でもなくなったよね。」

「…私そうだったの?」

「それ私も思ってたわ!」

 

ハリーの呟きにジニーが大きく頷く。

 

「前は表情が読めなかったけど、4年生の後半からかしら?あなたが何考えてるか分かるようになった!」

 

エルファバは戸惑ったようにハリーとジニーを交互に見る。

 

「私、逆にそんなに無表情だったかしら?」

「うん、すっごく。」

「前は常に“力”を隠さないとって無意識に気を張ってたのかもね。僕以外のホグワーツの人みんな知って安心したんじゃないかな。」

 

エルファバが、なるほどとつぶやく。

 

「ハリーもロンもハーマイオニーも私が何も言わなくても理解してくれるからてっきり、私って分かりやすい人間なんだと思ってたわ。」

「僕らは君とずっと一緒にいたからね。」

「レイブンクローの人たちがあんたのこと石像みたいで気持ち悪いって言ってたよ。」

 

唐突にルーナが雑誌から顔を上げて話し出したので3人とも固まった。飛び出したような大きな目がじっとエルファバを捉えている。

 

「あたしはそんなこと思ってないけど…あんたの妹が呪ったのを根に持ってるんだ。あとセドリック・ディゴリーはみんなの憧れだって言ってたもン。みんなあんたに嫉妬してるんだ。でもあたしはディゴリーより優しいからエディが好き。」

「え、えっと、ありがとう。」

 

ルーナなりの優しさなのか、とりあえずエルファバがお礼を言うとまたルーナは雑誌へ引っ込んだ。その後少しすると、レイブンクロー生のチョウがやって来てハリーに声かけ、随分と嬉しそうにハリーはコンパートメントから出て行った。

 

「ハリー、あのレイブンクロー生が好きなのね。」

 

ジニーはなんでもなさそうに、エルファバに聞いた。

 

「そう…なの…かな?」

「だって、ハリーのあのニヤつき顔見た?エルファバはハリーのあんな顔見たことある?」

 

エルファバは2秒考える。

 

「ないわね。」

「ほら!はあ、やっぱ男の子は可愛い子が好きなのね…」

 

ジニーがやけに落ち込んでいた時に、エルファバはジニーがかつてハリーのことが好きだったことを思い出した。あまりにも2人が普通に話していたし、ジニーはマイケル・コナーと付き合っているのは騎士団内の女性陣で情報共有していたので、すっかりエルファバの頭からその事実が抜け落ちていた…そのせいで2年生の時にエルファバとジニーの間でとんでもない事態になったにも関わらずだ。

 

(ジニー、今でもハリーが好きなのかしら…。)

 

「まあ、もう関係ないんだけどね。」

 

エルファバの考えていることを読み取ったのか、ジニーは軽い調子でしかし少し慌てて付け加えた。

 

エルファバはふと自分の関係を考える。

 

騎士団のメンバーでの恋バナを聞くといかにエルファバとセドリックの恋愛が上手く順調であるかがよく分かった。

セドリックがエルファバへの好意を自覚したのはエルファバがバジリスクに襲われた時だという。そこからセドリックがエルファバに告白してキスするまで付き合うまで1年。そこから恋人同士として一緒にいてさらに約1年。嫉妬や他者からの干渉などの小さい摩擦はあれど、喧嘩もなく穏やかに過ごしてきた。

普通のカップルはその小さい摩擦が大きな火種となり最終的に別れるケースも多い、というかそれが大半だ。

 

そもそもジニーのように好きな人ができてもその思いが実らないことだってあるのだ。エルファバのように悲劇的に離れることだってー。

 

(違う、セドリックはまだ死んでない…何を考えてるの私。)

 

「雪…。」

 

ルーナの声にエルファバはハッとした。

 

「あ、その、ごめんなさい…。」

 

エルファバは杖を出し、天井から舞う雪を消した。ジニーが心配そうに、ルーナが怪訝そうにエルファバを見ている。

 

「大丈夫?」

「…平気。」

 

ジニーが口を開く前に、この上なく上機嫌なハリーとぐったりしたロンと不機嫌なハーマイオニーがコンパートメントに入ってきたので話は中断した。

 

ジニーはじーっとそんな上機嫌なハリーを見ていた。

 

一方でスリザリンの監督生がマルフォイとパーキンソンであるという最悪のニュースをお知らせし、ロンはハリーから奪ったチョコレートを大口を開けて食べた。

 

「あ、でもエルファバ。さっき、あイタタタタタ!!!」

 

ロンの口をハーマイオニーが力任せに塞いだ。ロンは口の中のチョコレートとハーマイオニーの手でモガモガ言っていた。

 

「ほっんとにあなたって人は!!!」

「なんのこと?」

「その…すぐに分かるわ。ハリーあなたも。」

 

浮かれ気分なハリーは良い夢を見てたようだが、自分が呼ばれて目が覚めたかのようにキョトンとする。ハーマイオニーは真剣な目でエルファバとハリーをじっと見つめた。

 

「「?」」

「まあ、本当に…お互いに心が軽くなるはずよ。」

 

ハリーとエルファバは顔を見合わせた。空気を読まずにルーナが鼻歌を歌い出した。

 

その後は、ハーマイオニーがうっかりルーナの読んでいる雑誌を侮辱してルーナを怒らせたり(その雑誌の編集長がルーナの父親だったのだ)いつも通り監督生になりたてほやほやのマルフォイが権力を見せびらかしながら絡んできたり、いろいろあったが夜には無事ホグワーツに到着した。

 

汽車を降りると冷たい夜風が生徒たちの肌を刺し、松の木の匂いが鼻腔を満たす。ガヤガヤと各自の荷物やらペットを持った生徒たちでごった返す駅からホームへ歩きながら、どこかでエディが叫んでいた。

 

「あれ、今年の1年生引率ハグリッドじゃないの?!」

 

1年生の引率はハグリッドの役目のはずだが、今年は違う教授が行っていた。

ハリーが随分ショックを受けた顔をしていることをエルファバは気づいたが、あまりにも人が多い上に荷物やらロビンやらを抱えるのに必死でハリーに声をかけることすら叶わなかった。しかし、エルファバもハグリッドがいないのはかなり衝撃的だった。

 

ひとまずホグズミード駅から出てきたエルファバはキョロキョロとロンとハーマイオニーを探す。夜で薄暗くあまりよく見えない。監督生として他の生徒を引率しているのかもしれない。

 

「ねえ、ハリー。私たち先に行った方がいいかも…これじゃあロンもハーマイオニーも見つからないわ。」

「ああ、そうしてくれ。」

 

答えたのはハリーではなかった。エルファバは幻聴だと思い、固まった。

 

(この騒がしい中で、私は聞き間違いを?)

 

「ここで待たずに早く行ったほうがいい。人がごった返してるから。」

 

もう一度同じ声がした。聞き間違いではない。

あの優しい声。聞き間違うはずはない。

エルファバの隣にハリーがいた。視界の端に見えるハリーもエルファバと同じ方向を向き、きっと同じ表情をしているだろう。

 

「…久しぶり。」

 

黒髪にグレーの瞳、エルファバの二回りも背が高い青年がホグワーツのローブに黄色のネクタイをつけてエルファバを見ていた。

 

エルファバが最後に話した時と全く同じの、ハンサムなセドリックがそこにいた。

 

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