ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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5.大喧嘩

ハリーもエルファバも馬車からホグワーツ城まで行くのに上の空だった。組分け帽子が警告の歌を歌い、1年生の組み分けが終わり、いつものように夕食が始まった。

 

ほとんど首無しニックによる組分け帽子の豆知識やロンとハーマイオニーの喧嘩もあまり頭に入ってこなかった。エルファバは適当に野菜料理を取り分け、小さなブロッコリーを口に突っ込んだがほぼ味を感じない。

 

何度も反芻する、1時間ほど前のセドリックとの再会。

 

『セドリック!?』

 

エルファバは驚いて半径2メートルを凍らせた挙句にエルファバはセドリックに飛び込んだ。

 

『セドリック…!セドリック…!無事なの?!もうどこも痛くない?』

 

エルファバはハッとしてセドリックから離れた。

 

『ごめんなさい…私。』

『別にどこも痛くないからいい。』

『なら良かった…本当に…。』

 

セドリックはジッとエルファバを、無表情に見つめている。ハリーもエルファバに続いて、慌てたように駆け寄り軽くハグした。

 

『セドリック…本当に無事でよかった…!あそこから生還して…!』

『酷い火傷だったらしいね。君が僕を連れて帰ったって聞いた。あとその前後の話は覚えてないから君が証言したことについてはなにも聞かないでくれ。』

『え、あ、そ、そうなんだ…。』

 

まるで事前に用意された台詞のようにセドリックはハリーに言い切った。おそらくハリーは純粋にセドリックの心配をしており、セドリックの証言のことなど完全に頭から飛んでいたのだろう。かなり拍子抜けした声を出していた。

エルファバ、そしておそらくハリーもここまでセドリックと話して、セドリックの様子がおかしいことに気づいた。

 

セドリックはあまり話さない方ではあるが、表情は豊かだしユーモアや冗談も言う。しかし今は何の表情もなく淡々と言葉を発しているだけだった。エルファバが抱きついた時も抱き返すこともせず、ハリーと時もただされるがままだった。

 

まるでロボットのように。

 

『君たちは馬車に乗った方がいい。僕は監督生でみんなを誘導しなきゃいけないから。』

 

そこでエルファバは今ごった返した駅の目の前にいて、周りがジロジロとこちらを見てヒソヒソ話をしていることに気づいた。エルファバは慌てて氷を消し、荷物とロビンの籠を持ち直す。

 

『また後で話せる?』

『ああ。』

 

何かがおかしい。セドリックがセドリックではないようだ。無表情で無感情。エルファバとハリーは背中を向けて去るセドリックを戸惑ったように見るだけだった。

 

「セドリック…精神的ショックがあって当たり前よね。あんなことがあったら。」

「そう、そうだよね。」

 

ハリーとエルファバは自分に言い聞かせる。

エルファバはチラッとハッフルパフ寮の席を見る。セドリックが大広間に入った時はみんな歓喜の声を上げ、拍手で彼を迎えた。ホグワーツの模範生で人気者である彼の帰還は誰も知らなかったようで、セドリックの友達たちが抱きつきセドリックの周りを取り囲んでいた。

 

一方のセドリックは先程と同じでその歓声に応えることはおろか反応すら見せず、ただ友達と一緒に席に座るだけだった。

 

「ロンとハーマイオニー。君らは知ってたんだね。」

 

少し怒りの混じった声でハリーは食べ物に手をつける2人へ話しかける。ハーマイオニーは食べる手を止め、ハリーの機嫌を伺った。

 

「監督生のコンパートメントでセドリックを見つけた時、もちろん私たちは伝えようとしたわ…けど、セドリックが直接言うから2人には言わないでくれって。」

 

エルファバは、少し考えて蜂蜜パイを食べることにした。

 

「聖マンゴで目覚めたら、ルーカスとかが気づくんじゃないかなと思うんだけど…ダンブルドアは知ってたのかしら。」

「実は騎士団内だと共有してたけど、僕らは知らなかったとか?」

「けど、目が覚めたら教えてくれるってリーマスが言ってたのに…。」

 

ちょっとムスッとしたエルファバにハーマイオニーは励ました。

 

「きっと、かなり直前で目覚めて私たちに伝える暇がなかったと思うわ。」

 

エルファバは少し納得したように鼻を鳴らすが、ハリーの機嫌は直らず仏頂面のままだったが、騎士団への不信感がある仲間として認識したのかエルファバには優しくシチューを取り分けてくれた。今度はそれを見てハーマイオニーがイライラしながら、ローストビーフを噛みちぎった。

 

そのタイミングで噂のダンブルドア校長の話が始まった。前半は大して変わらない話だった。禁じられた森は立ち入り禁止であること、廊下で魔法を使わないこと。そして後半は新しい教授の話。

 

グラブリープランク教授とアンブリッジ教授。

 

本来ハグリッドの担当だった魔法生物飼育学。グラブリープランク教授がいつまで授業を担当するのかを言わなかった。これには4人全員パニック気味に目を合わせ、そして教授の席を見回した。エルファバは反射的に、1年の時にもらって未だに身につけているハグリッドからのペンダントを握りしめた。

 

(ハグリッドがいないホグワーツなんて…。)

 

エルファバはエディの方を見るとエディは周りの友人とアワアワしながら話し込んでいた。同じテーブルの方のセドリックは相変わらず、無表情だった。周りの友人たちがセドリックに積極的に話しかけるが特に反応はしていないようだ。

 

校長がクィディッチの話に入ろうとしたところ、闇の魔術に対する防衛術の教授であるアンブリッジ教授が話を遮った。

 

「皆さま、ホグワーツに戻ってきて本当に嬉しい限りですわ!」

 

ハリー曰く魔法大臣のファッジの部下だそう。

 

ずんぐりとした体にクリクリの薄茶色のショートヘア。けばけばしいピンクのヘアバンドとピンクのカーディガン。かなり悪趣味な容姿に不釣り合いの青白いガマガエルに似た顔ー。

 

他の教授の冷ややかな視線や興味のなさそうな生徒たちの空気など微塵も気にせず、アンブリッジ教授は甘ったるい声でご立派なスピーチを始めた。

 

やれ魔法省は若い魔法使いと魔女に教育に力を入れてきただのこれまでの校長たちは新しいものを随時取り入れてきたが進歩のための進歩は奨励されるべきではないだの、古い慣習は維持して禁ずるべきものはなんであれ禁じるなど。

 

多くの生徒が注意力が散漫になる中で(席が離れているのに関わらずエディがクィディッチに参加することを高らかに宣言している声が聞こえた)エルファバとハーマイオニーはアンブリッジ教授のスピーチに目配せした。

 

要は魔法省がホグワーツに干渉するつもりなのだ。

 

アンブリッジ教授のスピーチが終わると、ダンブルドア校長が再びクィディッチの話を簡単に知らせ会はお開きになった。ガタガタと皆が席を立って寮へ戻ろうとする。

 

「ミス・スミス!ミス・エルファバ!」

 

エルファバもその波に乗っかりセドリックの元へ行こうとしたところ、教授席から大きなかつ甘ったるい声で誰かがエルファバを呼び止めた。

 

アンブリッジ教授が、小走りでエルファバの元へ向かってくる。そしてエルファバから1メートルほどのあたりで立ち止まると、少し大きな声でエルファバに話しかけた。

 

「こんにちは。ミス・スミス。」

 

アンブリッジ教授はエルファバと同じくらいの身長だった。教授はエルファバを頭の先から足まで2周ほど舐め回すように見た後でまるで5歳児に話しかけるようにエルファバへ声かけた。ハリーは少し離れたところでエルファバの様子を眺めた。

 

「あなたの精神を安定させるカウンセリングですが、明日から1週間に1回行わせていただきます。」

 

エルファバが少し顔をしかめたのに、アンブリッジ教授は気づいているのか分からない。明らかに周囲の生徒にこの声が聞こえている、というより聞こえるようにこの話をしている。エルファバを精神異常者と周りに印象付けるのが目的なのか。

 

寮に戻ろうとした生徒たちは自分達の寮へと帰る足の動きをゆっくりにし可能な限りでエルファバとアンブリッジ教授の話に聞き耳を立てている。

 

「明日からですか。」

 

エルファバの問いに、まるでエルファバが駄々をこねたかのようにアンブリッジ教授はんー、んー、と首を振る。

 

「あなたの可哀想なその精神を私たち魔法省は総力を上げて治療したいと思っております。あなたの魔法も暴走するとずいぶんと不便でしょう?あなたが普通の生活をみんなとできるように一刻も早く治してあげたいのです。」

「はあ…。」

「遠慮しなくて良いのですよ。あなたはOWLも控えておりますし、できる限り早く治療しましょう。明日18時に私の部屋へ。どうぞよろしく。」

 

まるで自分がエルファバの命の恩人であり、エルファバがそれに深く感謝している前提のような話の進め方にエルファバは少し呆れた。アンブリッジ教授はンフフと笑ってから、スタスタとエルファバの元を去っていく。

 

アンブリッジ教授から解放された頃には結局セドリックどころか生徒もほぼいなくなっていた。エルファバとアンブリッジ教授の話を聞いても特に面白い収穫もなかったのだろう。ハリーだけがエルファバを待っていた。

 

「ありがとうハリー。」

「いいさ。僕が人混みにいるとみんなヒソヒソ話すし面倒なんだ。」

 

ハリーはうんざりした声で言った。廊下に人がまばらに残っていたがエルファバとハリーを指さしてはヒソヒソと話しているのがエルファバの視界の端で見えた。

ハリーはホグワーツ入学以来、根も葉もない噂で注目の的だったが今回の雰囲気がこれまでで最悪だと言えるだろう。

 

エルファバもハリーも無視することにした。

 

「カウンセリング、何をするつもりなんだろうね。」

「変なこと聞かれて、凍らせないといいんだけど…。」

「みんなそんなこと、気にしないさ。それにルーカスとのトレーニングでコントロールできるようになったんだろう?」

「ええ、一応…でも完全じゃないから…。」

「逆に君が凍らせたってことは連中が君の精神を害することを何かしたってことさ。君のせいじゃない。」

「ありがとうハリー。」

 

エルファバはハリーと話していて思い出した。

 

(そうだ、早速今日のことをリーマスに伝えなきゃ。)

 

エルファバは今朝のことを思い出す。

 

『今いいかな。』

 

自室で最後の荷物チェックをするエルファバのところへリーマスがノックをして入ってきた。エルファバは手を止める。

 

『リーマス。』

『ダンブルドアからの指示だ…これを持って行きなさい。』

 

と、渡されたのは何の変哲もない紺色の皮表紙の日記帳だった。それは2年生の時に見たリドルの日記を彷彿とさせた。

 

『カウンセリングでどんなことをしたか。何を聞かれたか可能な限りここに書き留めてほしい。』

 

そしてリーマスはもう1冊をエルファバに見せる。

 

『シリウスのアイデアでね…対になる日記帳を騎士団が管理している。君が書いたことを騎士団がすぐに共有できるようになっているんだ。』

『フクロウを飛ばして手紙を送るのはダメなのかしら。』

『マッドアイ曰く、多分魔法省がホグワーツ外の手紙のやり取りを見張ってる。なるべく手紙にはありきたりのことを書いた方がいい。』

 

エルファバは日記帳をじっと見つめてうなづいた。リーマスは少し躊躇した後、エルファバの両手を優しく握る。傷だらけでゴツゴツした手は前は恐怖だったが今はとても心強い。

 

『この1年は君にとって、すごく大変かもしれない。特にアンブリッジ…今年の闇の魔術に対する防衛術の教授は魔法省の手先だ。そして、あい…その教授は簡単に言えば自分が分からない種族を嫌ってる人間だ。』

 

(今、新しい教授を“あいつ”と言おうとした?)

 

エルファバは眉を上げる。

 

『ダンブルドアは君の前では冷静だけど、君に魔法省が危害を加えて精神に支障をきたすのをかなり危惧している…あそこまでダンブルドアが感情的になって人を心配しているのは珍しいよ。特に今年は君にとって進路が決まる大切な年だから、テスト以上の心労を加えたくない…だから私たちが全力で助ける。』

 

エルファバはたとえ自分にどんな恐ろしいことが起ころうとも、エルファバのことを考えてくれる人がいるだけで幸せだと思った。エルファバに危害が及べば、リーマス、ハリー、ロン、ハーマイオニー、エディ、ダンブルドア…その他面々が敢然と立ち向かってくれるだろう。当然逆も然りだ。

 

『リーマス、私のお父さんよりお父さんみたい。これからお父さんって呼んでいいかしら?』

『3年生の時はあんなに私のこと怖がってたのに、えらい変わりようだね。』

『それは…!だって…!』

『あれでも私は結構傷付いたんだよ?自分の心当たりなしに年頃の女の子に訳分からず避けられるんだから。』

『…ごめんなさい。』

『ごめんごめん、冗談さ。』

 

リーマスはいつもやつれて疲れ果てているが、この時はずいぶんと穏やかで10歳くらい若返ったようだった。エルファバも束の間の穏やかな時間を噛み締めた。

 

エルファバは談話室に入るとハリーと別れ、自分の部屋へと入った。

 

「パーバティ、ラベンダー!」

 

エルファバは気を取り直して、ルームメイトたちとの再会に胸を踊らせた。正確には2人の存在は認知し、挨拶したのだがセドリック事件のせいで上の空でしっかり話せなかった。ハーマイオニーはまだいなかったので、監督生の仕事に励んでいるのだろう。

 

エルファバはパーバティとラベンダーに抱きついた。

 

「いい夏休みだった?」

「ええ、一応ね。」

 

エルファバから離れたパーバティの目が少し泳いでいることに気づいた。それを見たラベンダーが批判するような目でパーバティを睨む。

 

「?」

「あの…ねえ。」

「どうかしたの?」

「あなたハリーが言ったこと、本当に信じてるわけ?」

「…?どういうこと?」

 

パーバティもラベンダーも一瞬後ろの扉を覗ってからまたエルファバに向き直った。

 

「ほら、例のあの人が蘇ったって話よ。」

「え、信じてるけど?」

「それは、本当に信じてるの?本当に本当に?」

 

ラベンダーが少し意地の悪い笑みを浮かべていることに気づかないわけにはいかなかった。今度はパーバティがラベンダーを諌めるような目で見ているがラベンダーは気づいていない。

 

「ハリーから、何か詳しい話聞いてる?ほらセドリックからも?あなた2人と近いじゃない?」

 

エルファバは少しずつ気分が悪くなってきた。つまりラベンダーは、セドリックやハリーの身に起こったことをいつものイケメンがどうだとかクラスメイトのゴシップと同じノリで聞こうとしているのだ。

 

そして後ろの扉を確認した理由はハーマイオニーだ。ハーマイオニーにこれを聞こうものなら激怒するに違いない。それが分かっているので感情を荒げない、怒らないであろうエルファバを狙って聞いたのだ。

 

「…ラベンダー…私、彼氏が死にかけたのよ。」

「でも、でも、セドリックはピンピンしてホグワーツにいるじゃない。」

「あなたは、先学期に校長が言っていたことを覚えていないの?“あの人”が復活したの。ハリーとセドリックはそれに巻き込まれて…。」

「あなた、日刊預言者新聞を読んでいないの?ハリーが世間からどう言われているか知らないの?」

「つまり、あなたはハリーの証言が嘘だと思ってるわけね。ナンセンスだわ。あなたハリーのことよく知っているでしょう?」

「何ですって?」

 

エルファバの冷たい物言いにラベンダーの血の気がサッと引いた。

パーバティは、部屋の気温が一気に下がったことに気付いたのか小声でラベンダーを止める。ラベンダーもそれに気づいているはずだ。が、エルファバに大声で言い放った。

 

「あなた、ハリーを盲信しすぎよ!本当にハリーが言ってることが真実ならどうして魔法省はそれを公言しないわけ?ハリーっていっつもそうじゃない!額の傷が痛むとか、幻覚を見てるとか周りから気をひこうと普段から必死なの、みーんな分かってるわ!」

「ハリーはそんな人じゃない!悪く言わないで!」

「だから、あなたはハリーのこと信じすぎなのよ!ハリーの話じゃセドリックだってまるで死にかけたみたいな話だったけど、普通に元気じゃない!あ、まさか!」

「ラベンダー!もうやめて!」

 

ラベンダーの前に立ちはだかったパーバティを押し退け、ラベンダーが意地悪そうな笑みを浮かべて続けた。

 

「エルファバ、あなた実はハリーともできてるんじゃない?」

 

空気が割れる音とパーバティとラベンダーの金切り声と、ハーマイオニーが部屋の扉を開けたのは同じタイミングだった。

 

「なに?何が起こったの?」

「私を…怒らせないでよ…!!!」

 

状況を理解できていないのはハーマイオニーだけではない。クルックシャンクスとロビンがシャーシャー言っている。部屋内は一瞬で銀景色となり周りのベッド、トランク、ペット用籠全て棘のついた氷に包まれた。

 

その棘は全てラベンダーを向いていた。

 

「きゃああああああっ!」

 

ラベンダーは叫びながらエルファバを、そして扉で棒立ちするハーマイオニーを押し退けて階段を降りて行った。

 

「何があったの…?」

 

ハーマイオニーは呆然としたエルファバに駆け寄り泣きそうなパーバティに尋ねた。パーバティは深くため息をついて、頭を抱える。エルファバは杖を出し、呪文を唱えて氷を消失させてぐったりと自分のベッドに座った。ハーマイオニーも隣に座る。

 

「ラベンダーが、ハリーとセドリックのことを聞いたの…ハリーが言ってることが本当なのかって。」

「何ですって?エルファバに?」

「その…私もハリーやセドリックのことみんな噂してるから聞きたかったのよ。だから聞こうって…セドリックも無事だったから聞いても問題ないはずだって2人で話してて…でも私、ラベンダーがあんな風に思ってたなんて知らなかったわ!言っておくけど、私はそこまで懐疑的だったわけじゃない。」

「ラベンダーが何を言ったのかは分からないけど、ハリーが親友で恋人がセドリックのエルファバにそんなこと聞くという発想がそもそもありえないわ。そんなに、人の悲劇を噂話したかったわけ?呆れるわ。」

 

ハーマイオニーのピシャリとした物言いに、パーバティは唇をキュッと噛み、何かを言い返そうと口を開こうとして止めた。

 

ラベンダーがマクゴナガル教授を連れて戻ってきたからだ。目を真っ赤にしたラベンダーがエルファバを睨んでいる。キビキビとマクゴナガル教授は部屋に入ってきてエルファバを見下ろした。

 

「ミス・ブラウンから話を聞きました。ミス・スミス、あなたはミス・ブラウンを攻撃しようとしたとか。」

「…間違っていません。」

「理由を。」

「…ラベンダーがハリーを侮辱して、その、許せなくて…そしたら氷が。」

「ミスター・ポッターを侮辱したと…事実ですか、ミス・ブラウン。」

「侮辱してません!事実を述べただけです。」

「…それではその事実はミスター・ポッターに面と向かって言える内容だったのですか?」

 

ここで威勢が良かったラベンダーは、ウッと言葉を詰まらせた。

 

「人に面と向かって言えないことを話すのは陰口にあたりますミス・ブラウン。」

 

マクゴナガル教授はその様子に眉を上げて、今度はエルファバに聞く。

 

「ミス・スミス。あなたは攻撃しようと例の…氷を出したとのことでしたが、そこに明確な意思はありましたか?」

「ありませんでした。怒って、制御出来なくて。」

「理解しました。ミス・パチル、ミス・グレンジャー。つまりこの2人の証言をまとめると、ミス・ブラウンとミス・スミスは口論になり、ミス・スミスが怒ったことで部屋が凍ったと。この理解で合ってますか?」

「教授、私は事が全て済んだ後で入ってきたのでなんとも言えません。けど…それで辻褄は合うと思います。」

 

ハーマイオニーが話した後、全員がパーバティの発言を待った。パーバティはラベンダーとエルファバを交互に見て少し考え、怯えたようにか細い声で間違っていないと答えた。

 

マクゴナガル教授はエルファバそしてラベンダーを交互に見る。

 

「お互い事実認識ができたところで、ミス・スミス、5点減点。同じくミス・ブラウン。グリフィンドールから5点減点です。2人とももう15歳、感情的に言い合うのはみっともないです。おやめなさい。」

 

エルファバは少し残念そうにしかし納得したように頷く。しかしラベンダーがそれを聞いて、はあ?と口を開いた。

 

「マクゴナガル教授!どうして私も減点なんですか?!不公平です!私は危うく怪我をするところだったのに!」

「諍いにおいて、誰かが100%非があるということは無いのです。ミス・スミスはあなたを攻撃した、だから減点しました。ええ、ミス・グレンジャー、攻撃の意図が無いのは理解してますが、受け流せなかったミス・スミスにも非があります。しかしそもそもミス・ブラウンがミス・スミスの友人を侮辱しなければこのような事態になりませんでした。」

 

マクゴナガル教授はこれで話は済んだとばかりにさっさと部屋を出て行こうとする。が、腹の虫が治らないラベンダーはまた怒ってマクゴナガル教授を止めた。

 

「教授!私は今日ここで寝たくありません!部屋を変更してください!」

 

エルファバとハーマイオニーは顔を合わせる。マクゴナガル教授が少し呆れたようにラベンダーを見た。

 

「部屋の変更は基本的に禁止です。5年生のあなたなら理解しているはずですが。」

「だって、エルファバの氷がいつ私を攻撃してくるか…!彼女の意思関係なく攻撃してくるなら…私今日は寝られません!」

 

エルファバは頭から冷水をかけられた気分だった。ラベンダーはワナワナとエルファバを犯罪者として突き出すようにエルファバを指差している。ハーマイオニーが鼻息荒くラベンダーを睨んだが、エルファバが冷静に発言した。

 

「マクゴナガル教授…ラベンダーの言っていることは正しいと思います。」

 

エルファバは皆の視線に耐えながら、続けた。再び部屋の気温が下がっていることは皆気づいているかはわからない。

 

「私…ラベンダーを傷つけるつもりは…なかったですし、これからもそのつもりもないですが…こんな状況じゃ…ラベンダーをいつ傷つけるか分かりません。」

 

ラベンダーは自分が提案したにも関わらず、エルファバがそれを飲んだことに酷くショックを受けたようだった。それを見てハーマイオニーは軽蔑するように鼻を鳴らした。哀れなパーバティはこの状況で板挟みにされ、オロオロしている。

マクゴナガル教授は一瞬エルファバを憐れんだように見たがすぐにいつもの教授に戻った。そして言葉を慎重に選び、双方を刺激しないように(とエルファバは思った)指示した。

 

「よろしい…分かりました。それでは、お二方が落ち着くまで…部屋を離しましょう。ミス・ブラウン、あなたの希望ですからあなたが動きなさい。部屋は今用意しますから荷物を準備してでお待ちなさい。」

 

マクゴナガル教授はササッと部屋から出て行く。ラベンダーはイライラしながら、荒々しく自分のトランクやローブを引っ掴み、扉の前へ運んだ。

 

「ラベンダー…。」

 

エルファバは恐る恐る、自分の“力”を出さないように慎重に注意を払いながら荷物を乱暴に降ろしたラベンダーに近づいた。

 

「ごめんなさい…私…。」

「パーバティ!行くわよ!」

「え?」

 

パーバティは、一瞬悩んだが渋々ラベンダーに言われてついて行った。2人の荷物が中に浮かびどこかへ運ばれ、2人も去った後ハーマイオニーは自分のベッドに身を投げた。

 

「ああもう!嫌な人!エルファバ、気にしちゃダメよ。心の中ではラベンダーは自分が悪いって理解してるのよ!分かってるけどプライドが邪魔して、エルファバに謝れなくて…それであんな態度だなんて!さっきの部屋を変えたことだってエルファバを謝らせて自分が悪くないことを主張したいがために…それに一緒についていったパーバティも同罪よ。」

 

ハーマイオニーは一通り怒った後、エルファバの隣に座り優しく手を取った。エルファバはため息をつく。

 

「マクゴナガル教授の言う通りだわ。私は“力”をコントロールできないことを理解してるのに、カッとなってしまって…ハリーのことを信じるのは私とハリーができているからって言われたしルーカスとせっかくトレ「何ですって?!信じられない!!どうしてあの子はいつもそんなことばかり言うの?」」

 

ハーマイオニーはカリカリと怒っている姿を見てエルファバは妙に冷静になった。ラベンダーはいつになったらエルファバを許してくれるか、それがただひたすら頭を支配した。

 

「エルファバ。何度でも言うわ。」

 

ボーッとしているエルファバにハーマイオニーはもう一度手を握り顔を覗き込んで力説する。

 

「あなたは友人のために怒ったのよ。あなたは悪くない…ただ、人と違った方法で怒りが表現されちゃって、それを理解できない人がいるだけよ。」

 

ずっと様子を眺めていたクルックシャンクスがそろそろ自分の餌を寄越せと檻からシャーっと鳴いた。

 

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