ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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7.エディの真実

「…スナッフル…スナッフル!!ステイ!!ステイ!!こんのっ馬鹿力!!」

 

エディとエルファバは巨大な黒犬に引きずられながらホグズミードの道を歩いていた。黒い犬は尻尾がちぎれそうなほど振り、愛しの息子に会えるのが今か今かとどんどん前へ進む。

 

「スナッフル!お願いだからちゃんと犬らしくして!魔法省はあなたのこと把握してるんだから!」

 

実はシリウスはアニメーガスであることは、3年生の時にハリーら4人でシリウスを救った際、ダンブルドアを打ち合わせの上で魔法省へ公開した。ピーター・ペティグリューが自白したとはいえ、完璧な無実を証明するにはアニメーガスである事実を伝えるしかなかったのだ。一応シリウスは法律違反を犯したわけだが、そこは13年も無実の罪で投獄されていたという魔法省の不都合も相まって不問だった。

 

が、当然アンブリッジは魔法省の人間なのでシリウスがアニメーガスであることは知っているはずだし、さらに言えばシリウスがホグズミードに来ることだって認知している可能性だってある。

 

が、シリウスはハリーに会いたくてしょうがないのでもうそんなことどうでもいいのだろう。

エルファバは声を落として忠告するが、シリウスがエルファバの話を聞くはずがない。

 

「エディ、多分ここからもうエディが走って。私はマギーと合流して伝達するから。」

「オッケー、それがいい。あとでね!」

 

エルファバがリールを外すとエディが瞬足で、そしてシリウスがそれ以上の速さで走って行った。

 

エルファバは一瞬で小さくなったエディとシリウスを見届けた後、途中の道でエルファバはポツンと一人で立ってぼーっとどこかを見つめていた。

すると遠くから、大柄なスリザリン生であるマギーがマイペースに歩いてきてエルファバに話しかけた。

 

「よ。」

「ハーイ、マギー。」

「んで、私はどこに行けばいいの?」

「この少し先のホグズヘッドへお願い。」

「結局あんたは参加しないわけ?あんたが一番必要そうなのに。」

 

エルファバはできないの、と首を振る。

 

「私は記憶を開心術師に見られているからアンブリッジに記憶を監視されているようなもの…万が一記憶を見られたら…。」

 

エルファバは残念そうに俯いた。

 

『ひえええええ!!マッジで!?それ天才的なアイデアすぎるんだけどおおおお!?…で、え!?エルフィーは行かないわけ!?』

 

数日前。

相変わらずグリフィンドール寮に我が物顔で居座るエディにハリーが闇の魔術に対する防衛術を教えるということを伝えるとエディは狂喜した。

座学が大嫌いなエディにとって今の闇の魔術に対する防衛術は地獄のようだった。退屈なので周りの友人たちといつも騒いではアンブリッジに怒られ段々目の敵にされていた。

 

最近では、狼人間を定期的に侮辱するアンブリッジに激怒し、エディ曰く“アンブリッジが気にしているであろう容姿の欠点“をうっかり指摘してしまったことで2週間罰則を食らった。ハリーと同じく書き取りの罰則のようで、手の甲から酷く出血して戻って来たとエディの友人経由で聞いた。エルファバはエディのいないところでシクシク泣き、騎士団と繋がるノートにその話を怨念をこめて書き殴ったのだった。きっとリーマスもこれを読んで烈火の如く怒っているだろうと願って。

 

その次の授業でエディは教室に入った瞬間に舌がもつれ、全く話せなかったという。お陰でクラスのみんなに笑いものにされたとエディはしれっと話していた。ハーマイオニーはアンブリッジがエディに舌もつれの呪いをかけたのだと推測していた。

 

閑話休題。

 

『参加したいのは山々なんだけど…私は行けないの。』

 

エディはどうしてえええええ!と叫びエルファバを揺すり、自分の長くて黒い前髪と顔も一緒に揺れた。

 

『ハリーから防衛術を教えてもらうことはすごく大切だと思うわ…私は参加しない方が…。』

『エルファバ、考えすぎよ。マイナスな記憶がチラッと見えてしまったのはそんな大したことじゃないわ。誰にだってそういうことがあるでしょう?』

 

再び編み物に悪戦苦闘していたハーマイオニーはおずおず言葉を選んでエルファバを励ます。

 

エルファバは度重なる開心術、大量の宿題、テストへのプレッシャーなどで疲弊し、ついに開心術中にエルファバが叔父にベルトで剥き出しの背中を打たれている姿を見せてしまったことを今だに悔やんでいた。

しかもアンブリッジの部屋の床を少し凍らせてしまい、とても屈辱感だった。

 

『けど、アンブリッジは弱みを使ってくるから…もしも、これで何か利用されたら…。』

 

エルファバは折れなかった。

ハーマイオニーとエディ、そして翌日夜に魔法史のレポートを見せている際にロンとハリーにも説得されたが、結果3人が折れた形になった。エルファバは情報は共有されるもののハリーの授業は参加しないこととなった。

はっきり口にはしないものの、やはり可能な限りバレないように動きたい。

マギーに別れを告げた後、エルファバはハリーから借りた透明マントを被り近くの岩に座り、ジッと怪しそうな人が三本の箒へ向かわないを観察した。

実際のところ、三本の箒へ向かった人で特に怪しそうな人はいなかった。

 

1時間ほど経ち、三本の箒へ入って行った生徒たちがワラワラと楽しそうに反対方向へと出て行った。そしてその固まりが透明のエルファバを通り過ぎた5分ほど後にハリー、ハーマイオニー、ロン、エディが黒い犬を連れて歩いて来た。スナッフルはご機嫌に尻尾を振りながらハリーを見上げる。ハリーも新学期が始まっていちばん穏やかな顔をしていた。

 

「ハリー、透明マントありがとう。長く借りてしまって申し訳なかったわ。」

 

エルファバはマントを脱いで丁寧に畳んで返し、小さい巾着袋をポケットから取り出した。

 

「役に立ったならよかったよ。なんだいそれ?」

「セドリックが服用している薬ひゃっ!」

 

エルファバはスナッフルの首に首輪と共に巻き付けようと屈み、手を伸ばすとスナッフルはエルファバの腕に噛み付く真似をし、吠えた。シリウスの笑い声によく似ている。エルファバは尻餅をついてしまい、ジトっとスナッフルを睨んでから、シリウスの首に巻き付けた。

 

「どうやって手に入れたんだい?」

「くすねたの。マグルの錠剤みたいな薬じゃなくて薬草を水に溶かすタイプだから良かった…だからセドリックの袋から一掴みしてね。お願いねスナッフル。」

 

5人と1匹は最初に来た辺鄙な道を歩き出した。結果、ハーマイオニーのプランはうまく行ったらしい。問題は30人近いメンバーをどのように確保するかということだがー。

 

「空き教室とか?」

「マクゴナガルが許してくれなさそう。」

「これは学習の一環だって言ったらお許しくださらないかしら?」

「学習の一環にしては少し攻撃的すぎるって思うだろうな。」

 

うーん、と5人で唸っていたがスナッフルがワンっ!と吠えた。

 

「どうしたの?」

 

スナッフルは遠くにぼんやり見えるおどろおどろしい屋敷の方向を向く。かつてスナッフルが青春時代に使っていた叫びの屋敷だ。

 

「叫びの屋敷ってこと?」

「悪くないけど…30人入らないかも…。」

 

スナッフルは明らかにシュンと俯いたのでハリーが元気づけるように頭を撫でた。その後5人と1匹はやいやい練習場所を話したが、結局分からずじまいだった。

 

ーーーーー

その数日後の月曜日、エルファバはアンブリッジの部屋で開心術をかけられている自覚がありながら、自分の記憶を探っていった。

 

(最近の記憶は見せてはダメだわ。昔の記憶を…。)

 

ホグワーツの廊下でエルファバを追いかけるクィレル、ドラゴンの炎が直撃して見るも無惨な顔になっていた。大蛇がエルファバと直面し、目を見る前に目の前を氷で覆われた。教室の中でリーマスが優しくエルファバに話しかけて、雪が降り始めた。母親がキッチンでエルファバに激昂して、平打ちした。確か母親の制止を無視して、その日のスープに入った食材を覗き込もうとしたのだ。いつの記憶かは分からない。

 

(やっぱり最近、ちょっと記憶が不安定かもー。)

 

「目を開けなさい。今日はもういいだろう。」

 

(…あれ。)

 

エルファバはジョンのボソボソした声が何を言ったのか理解するのに数秒時間がかかった。そして時計を見るといつもの”カウンセリング“は40分だが、まだ20分も経っていない。いつもエルファバが苦しむ姿をツマミに紅茶を飲んでいるアンブリッジもポカンとしていた。ジョンという開心術師はエルファバをジッと見つめ、あえてアンブリッジを視界に入れないようにしている気がする。

 

「あら、ジョン。カウンセリング時間がまだ半分残っているわよ?」

「精神は日に日に安定している。カウンセリング時間が短くても問題ない…むしろもうなくても…。」

「ジョン?これは私が「早く帰りなさいミス・スミス。君は5年生だ、テスト勉強もあるだろう。」」

 

相変わらずジョンは無愛想だった。が、何か強い意思を感じた。もうこれ以上話すことはないと言わんばかりにさっさと荷物をまとめ始めたので、エルファバはアンブリッジの制止を無視してそそくさと部屋から出た。が、エルファバがお礼を言って扉を閉めるか否かでアンブリッジがジョンへ噛み付く声が聞こえたのでエルファバは咄嗟にバッグからフレジョの伸び耳を取り出し、アンブリッジの部屋の扉にくっつけ、しゃがみ込んだ。

 

「…ったいどういうつもりですの?あなたの上司は私です!それをこんなふうに…!」

 

ガサゴソと音がした後に、ジョンの低い声が聞こえた。

 

「もう限界だよドローレンス。これ以上彼女たちから引き出せる記憶はない…家庭環境によるものだろう。それに…やはり…そもそもカウンセリングと称してこんなことを生徒たちに行うのは、違うと思う。」

「あら、それを決めるにはあなたではなく私ですわよ。会話が少ない彼女の記憶を読み解き、原因を探ることで彼女の精神的回復を「いや、違う。君はミス・スミスの弱みを探りそれを楽しんでいるだけだ。私がヒーラーであるという嘘までつかせて…そもそも前に言った通り開心術というのはかなり精神を疲弊させるんだ。特にO.W.Lがある5年生の少女に週に何度も行う行為では…」」

 

「エルファバ。」

 

エルファバはアンブリッジとジョンの話に集中しすぎて、周囲を全く気にしていなかった。ビクッと体を震わせたが、幸い周囲をそんなに凍らせることはなかった。アンブリッジが気づくほどではない。

 

「セドリック。」

 

エルファバは一通り確認して、話しかけたセドリックにシーっとジェスチャーした。セドリックは怪訝そうな顔でエルファバを見下ろし後ろを向いた。

 

「…では、次回も頼まれてくれますね?」

「…。」

 

アンブリッジの声だ。一番大事なポイントを聞き落とした気がする。ジョンは答えず、中で炎が燃える音がした。煙突飛行ネットワークを使ってアンブリッジの部屋から出ていったに違いない。

 

「セドリックもういいよ。」

 

エルファバは少しガッカリしながら立ち上がり、膝の埃を払った。

 

「セドリック、今からアンブリッジに用?」

「ああ。君、隠密活動に本当向いてないからやめた方がいいよ。普通生徒が行き交う廊下でそんな堂々と教授の話を盗み聞きしないから。」

 

セドリックは無愛想にそう言うと、アンブリッジの部屋をノックしたのでエルファバはササっとその場から離れた。

 

閉心術のカウンセリングが半分で終了したのでエルファバの足取りは軽かった。しかもジョンがもう少し抵抗してくれれば自身への閉心術も受けずに済むかもしれない。そうすればハリーの授業も受けられるだろう。まるでバタービールを一気飲みしたようだった。

 

ウキウキして寮に戻ると談話室では3人は魔法薬学のレポートを進めていたが、エルファバからすればハリーとロンが談話室にいることの方が驚きだった。

 

「あれ、早かったね。」

「クィディッチは?」

「アンブリッジが許可を出さなかったんだ。」

 

エルファバはハリーの隣に座った。

 

「スリザリンには出したのに?」

「ああ、どうせこの状況を楽しんでるんだあの婆あ…。」

 

そう吐き捨てるハリーの機嫌は最悪だった。

ホグズミードに行った翌週、アンブリッジはあるルールを出した。「学生による組織、グループ、クラブは全て解散」そして「許可のない保護者と手紙のやりとり以外での接触禁止」だ。

 

案の定というべきかアンブリッジにシリウスとの面会がバレていたらしい。ハーマイオニー曰く週末に行った会合についてはバレていないはずだと力説した。この2つの知らせを知ったハリーはクィディッチ、シリウスの2つの癒しを奪われ最高潮に不機嫌になったのは言うまでもない。

 

エルファバはハリーの隣にちょこんと座り、羊皮紙を開き、スネイプの課題を始めた。

 

「シリウスに言わなきゃ…多分もう暖炉に出てくるのもダメでしょう?」

 

エルファバはシリウスというワードを口パクにし、周囲を見回す。

 

「ええ…どうも手紙も見張られているというのは間違いなさそうね。シリウスが無茶しなきゃいいけど。」

「ハーマイオニー、なんだよ無茶って。」

 

機嫌が悪いハリーがますます突っかかってきたので、エルファバは話題を変えることにした。ハーマイオニーが言う通り、今のハリーはエルンペントのツノだ。

 

「そういえば、“あれ”にセドリックも参加するのよね?エディから聞いたわ。」

「あっ、そうなの!エディがセドリックを誘って…正直彼が参加するのは心配ではあるけど…ほら、魔法省のお膝元でしょう?けど、あなたとエディのお墨付きがあったし。あとセドリックの友達のアンソニーも参加したわ。さっき女子トイレでリストに署名してくれたから心配ないはず。」

「セドリック、大丈夫かな。噂じゃ、クィディッチは病院からの指示で出られないんだろう?」

 

ありがたいことにハリーの興味は、セドリックへの心配に移ったらしい。エルファバとハーマイオニーはホッとして話を続ける。

 

「“あれ”は体を使うでしょうけど、呪文がメインだから大丈夫ですって。」

「代理でシーカーはエディになったのよね?」

「うん。」

「本当かい?そしたら僕はチームが再編成されたら、エディと戦うのか…運動神経がいいのは分かってるけど、シーカー経験は僕が多いから、次回はグリフィンドールの勝ちだな。」

「ハリーったら、意地悪!」

「君は自分の寮を応援するべきなんだよ。」

 

ハリーが意地悪そうにニヤニヤ笑うその様はシリウスに似ている。エルファバはハリーの膝に軽くパンチした。が、ハリーが少し元気を取り戻したようでホッとした。

 

「それで思い出したけど、エディ、また罰則受けてるらしいけど大丈夫かい?」

 

課題がひと段落したらしいロンが話に入ってきた。

 

「ええ…その、消灯時間外に禁じられた森で花火をバンバンやっちゃった関係で…けど、消灯時間外の出歩きによる罰則の権利はアンブリッジではなくスプラウト教授なの。授業ではなかったから。だから、ドラゴンの糞を温室へ運ぶ手伝いを1週間で済んだわ。」

「良かった…マジでこれ以上あいつがホグワーツで権限を持たないことを祈るよ。」

 

ロンの言う通りだった。

その数日後、マクゴナガル教授の猛抗議によりグリフィンドールのクィディッチチームも無事再編成されることとなった。マクゴナガル教授がダンブルドア校長へ控訴したことで折れたのだとアンジェリーナが嬉々として話していた。

別問題だったハリーのレッスンを行う部屋もドビーの大活躍により無事発見。エルファバ以外の面々は武装解除の術を練習したと聞いて心底羨ましかった。

 

そこから数週間の時が流れたー。

 

「こんばんは、ミス・スミス。まだジョンは来ていないの。少し待っていただけるかしら。」

 

いつも通りカウンセリングのためにアンブリッジの部屋へ訪れたエルファバは、趣味の悪い部屋の時代遅れな花柄のソファに座った。ジョンはこれまできっかり5分前にはアンブリッジの部屋にいたにも関わらず珍しい。

 

アンブリッジは気障ったらしく紅茶をティーカップから飲み、いそいそと忙しく(エルファバはアピールしていると思った)、書類を読み、エルファバもぼんやりとジョンの到着を待った。

 

そこから5分、10分、15分…とうとう30分経ってもジョンが現れる気配はなかった。少しずつエルファバは1つの可能性を見出した。

 

(まさか、ジョンはボイコットを…?)

 

アンブリッジも苛立ちを抑えられないようで、さっきから必要以上に砂糖を紅茶に入れてかき混ぜている。ついにアンブリッジはガバッと立ち上がり、ずんぐりして指輪をたくさん付けた手で杖を握りエルファバに向けた。

 

「レジリメンス!!」

 

バキバキバキ!

 

一瞬、最近のグリフィンドール寮でエルファバに抱きつくエディが見えた。が、それだけだった。あまりにも一瞬なのでアンブリッジが今しがた見た光景を理解したかも不明だ。アンブリッジから飛び退くエルファバは、氷も少し出してしまった。アンブリッジは無表情だ。何を考えているか分からない。

 

(まさか、こんなことをするなんて…!)

 

エルファバはアンブリッジから目を離さず、凍ったソファと壁を見渡しゆっくり杖を出す。

 

「教授に杖を向けない!!!」

「こっ、氷を消すだけです…。」

 

アンブリッジは金切り声だった。パニックになっている。と、エルファバは思った。ジョンが職務放棄をしたのは完全に想定外であり、屈辱的な出来事だったのだろう。

 

アンブリッジはスーハーと深呼吸をして、無理やり自分の顔を笑顔にした。口元はひくついている。

 

「ジョンは、予定を間違えたようね。私から言っておきます…まあいいわ。今日はおかえりなさい。」

 

エルファバは当然ながら、自分の荷物を持ちアンブリッジの部屋をさっさと出た。完全に暗くなった廊下を1人で歩きながら、今起こった出来事全てを頭の中で整理する。そして段々心が軽やかになってきた。

 

(このままジョンがボイコットすれば、私ハリーのサークルに入れるかも…!あ、でも現実はそんなに甘くないわよね。きっとまた新しい閉心術師を出してくるに違いないわ。でも…それでも少しだけ希望を持ったって…。)

 

エルファバは思わず笑みがこぼれ、少し鼻歌を歌いながらもう暗い廊下をスキップして大広間に向かった。今の時間であれば大広間で夕食が出ているはずだ。まさかこんなタイミングで終われるとは予想していなかった。

 

(ハリーの授業に出られたら、どんなに楽しいかしら!私防衛呪文苦手だし…これでうまく行ったらもっとみんなの役に立ててそれで…。)

 

大広間に近づくにつれて、少しずつ照明が増えて明るくなっていく。人も増え、エルファバはスキップは止めたものの小さくハミングは歌っていた。

 

(それで…。)

 

エルファバのハッピーな気持ちが段々シュルシュルと消えていくのを感じた。周囲が異様な目でエルファバを見つめていることに気づかないわけにはいかなかったのだ。

 

エルファバを見て皆がヒソヒソと話している。そして、皆がエルファバを見る目、目、目。

 

これは記憶にある。ちょうど1年前、リータ・スキーターがエルファバの家族についての記事が出回った時と同じだ。あの時はエルファバの“力”がコントロールできないことが知れ渡り、皆がエルファバを腫れ物扱いした。

 

(けど…リータ・スキーターはハーマイオニーが懲らしめたから、ありえないはずで…けどどうしてみんなが私を見るの…?また何か私の家庭に関する記事?それとも“力”?)

 

エルファバは身を縮めながら、大広間に入り助けを求めてグリフィンドールのテーブルに座る友人を探した。

 

「エルファバ。」

 

エルファバが見つける前に、ハリーが話しかけてきた。無言で差し出したのは日刊預言者新聞だった。

 

ーーーーー

【速報:教育者アルバス・ダンブルドアのあるまじき隠蔽〜狼男による女子生徒傷害事件〜】

 

近頃のアルバス・ダンブルドアの判断力の喪失には魔法界各所から大きな嘆きがあるが、魔法省による調査によりアルバス・ダンブルドアの教育者として致命的な隠蔽工作が発覚した。

1993年、ダンブルドアは周囲の反対を押し切り狼人間を雇用した。ダンブルドアの人選ミスについては連日報道されている通りだが、1993年の狼人間の雇用はこれまで以上に疑問そして生徒への被害が及びであろう危険な判断だった。にも関わらず、ダンブルドアはこの雇用を強行し、あろうことか保護者にはその事実を知らせずに1年間狼人間による授業を実施したのだ。

そして、その人選は大きく誤っていたことが今回の調査で発覚した。当時狼人間と親しくしていた1年生女児が満月の日に狼人間と遭遇し、大きな怪我を負っていたのだ。

さらにあろうことか、アルバス・ダンブルドアはその女子生徒に口止めし、少女の腕に大きく残る傷の上から刺青を掘り隠すように指示した。

 

これは先日ホグワーツ高等尋問官に任命されたドローレンス・アンブリッジ女史による調査によって発覚した。

 

『ホグワーツ内の教授方は、アルバス・ダンブルドアにその事実を口止めされていたようでしたわ。私独自のパイプを使用し今回の事態が発覚しました。不慮の事故であることは重々理解しておりますが…最高峰の教育機関は保護者及び生徒に誠実であるべきで、自身の都合でこれを隠蔽していたアルバス・ダンブルドアには今後魔法省として言及を行う所存です。』

 

アンブリッジ女史はそのようにコメントしている。(アンブリッジ女史による1994年制定の反人狼法についての功績は4ページを参照)

 

現在、アルバス・ダンブルドアに取材を依頼したもののコメントはない状態である。この件については続報があり次第本紙にも随時報告をしていく所存だ。

 

ーーーーー

 

読み終わったエルファバは、周りに降る粉雪も気にせずワナワナと震えていた。激しい怒りがエルファバの底から湧き上がる。

 

「ち、違う…違うわ…あれは…ペティグリューが…!え、エディは…?」

「少し前に、大広間でこの記事を知ってみんなに言及されたんだ…特にマルフォイが…あいつが大声でエディを問い詰めたんだ。エディは違うって叫んで僕が止める前に走って行ってしまったよ。本当にあのアンブリッジ婆あ…。」

 

エルファバはここでやっと皆が、エルファバの反応と発言に聞き耳を立てていることに気づき、自分を抱きしめた。ハリーは優しくエルファバの両肩を叩く。

 

「さっさとここを出よう。僕の食事はもう済んだし、君も食べる気分にならないだろう。そうだ…ドビーにでもいくつか料理を運んでもらって…今日の練習前に少し時間あるからエディを探すの手伝うよ。」

「ええ…。」

 

エルファバはハリーに連れられてさっきの道を出た。相変わらず人がエルファバとハリーをジロジロ見ていた。生徒たちが吠えメールがとか、親がもうホグワーツにいかせてくれないかもという発言がチラチラ聞こえてきたが、エルファバは無視することにした。

 

「けどあの記事はどこまで本当なんだい?」

 

実はエディのタトゥーの件はハリーたちには話していなかった。理由は単純でこれはエルファバの問題ではなくエディの問題であり、そもそも真実も教授たちすら知らなかったからだ。そしてエルファバが3年生の時にエディの仲直りをした際に聞いた話だった。エディは唯一エルファバにだけ話し、傷を覆うためのアイデアをエルファバに聞いたのだ。

 

「……ほとんど合っているわ。違う点はあとタトゥーはエディの意思よ。あとそもそもリーマスが暴走したのは、ペティグリューの策略で…。」

「どこで、漏れたんだ?教授が?ペティグリューを野放しにしてたのは魔法省の失態なのに!」

「エディは教授たちに頑なに認めなかったのよ…それに教授たちが安易にアンブリッジに漏らすはずなんてありえないし、エディも絶対その話をするとは、あ…。」

 

エルファバはここで、大事なことを見落としていたことに気づき立ち止まった。こんな大事なことを見落とすとは、愚かにも程があるとエルファバは自分に苛立った。

 

少し前のカウンセリングでジョンは言っていたではないか。

 

これ以上“彼女たち”から引き出せる記憶はないと。

 

「ジョンは私だけじゃなく、エディの記憶までも開心していたのね。」

「なんだって?けどエディはカウンセリングを受けているわけではないだろう?」

「開心術はなにも、あんな風に対面で関わらなくてもいいの。多分1人でいるエディに背後から呪文をかけたんだわ!」

 

ハリーは天を仰ぎ、ガシガシと頭をかいた。

2人は再び歩き出す。大広間から離れるほどに人はまばらに減っていた。

 

「リーマス…お願いだから、自分を責めないで欲しいわ。」

「シリウスはどうにかリーマスを励ましていると信じよう。問題はエディだけど心当たりは「女子トイレ。彼女は3階の女子トイレよ…なんとなくだけど。」どうして分かるんだい?」

 

エルファバは肩をすくめた。

 

「なんとなくよ。変な話だけど。ハリーお願い…大量のお菓子や食べ物をくれない?」

 

ーーーーー

 

30分後、エルファバはハリーの助けを借りながら無事女子トイレへ辿り着いた。小さな身体では抱えきれないほどのお菓子をてんこ盛りにしながら、女子トイレの中に入った。

 

「エディ?」

 

少女が啜り泣く声が聞こえた。ハーマイオニーといい、女子トイレは泣く場所にピッタリなのだろうか。

エルファバは泣き声を頼りにエディの居場所を探した。一番端っこの個室の扉は閉まっており、そこから声が聞こえて来る。

 

「エディ…。」

「ぐずっ…エル…フィー?」

「うん。エディに食べ物とお菓子を持ってきたの。」

 

エルファバはお菓子と食べ物をよっこらせと下ろし、床にあぐらをかいた。エディの啜り泣きは止まらない。エルファバはここに来るまでに考えていた言葉を並べ始めた。

 

「エディ…本当にアンブリッジって性根曲がった奴よね。エディが何も悪くない。今回のことは悪意のある人が、もちろん私はエディが誰かに話をしていないことを分かってるし…あいつらはエディの心を読んだのよ。」

 

エディのしゃくり上げる声が小さくなった。エディに声が届いていると感じたエルファバは自分に自信を持ち、語りかける。

 

「だから…お願い、責任を感じないで。リーマスも校長も絶対理解してくれるはずよ。クリスマスの時、私も一緒に行くから…。」

 

そこでエルファバの言葉は切れた。バンっ!とエディは勢いよくトイレの個室のドアを開けたのだ。

 

「無責任なこと言わないでよ!!エルフィーだって、エルフィーが悪いわけじゃないのにあたしのこと避けたじゃない!!!もし、リーマスが私のそばから離れたら?もしルパンさんが私に冷たくなっちゃったら…?私どうしたらいいの?あたし…!!そうなっちゃうと嫌だから誰にも…言わなかったの!!ルパンさんがエルフィーみたいにあたしを置いてどこかへ行っちゃうって…!!もう、大好きな人が私を嫌いになっちゃうなんて…耐えられない…!」

 

エディがひとことを叫ぶたびに周囲の床に、壁に氷が張った。エディの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、声も枯れている。

 

「そんな…リーマスはあなたのことを嫌いになんて…私だって…。」

 

そう言ってエルファバは思い出した。

 

『うるさい。あっち行って。』

『誰があんたのために買うもんですか。』

『あっち行ってよ!』

『放して。』

『私はあなたが嫌いなのにっ!!』

 

エディを誤って凍らせかけて、数年。

エルファバはもうエディを傷つけないように、エディを何度も拒絶し続けた。そうすることでエディは安全に、傷つかずに生活できると信じていた。

3年生の時に、謝罪した時は満面の笑みでエディはエルファバの全てを受け入れてくれた。

 

反面エディからすれば、エルファバによる拒絶は突然始まった。エディは訳も分からずエルファバに拒絶される度に傷つきいろんなアプローチをかけて必死にエルファバに好かれようとして。それでも拒絶されて。

 

エディが2年前に言った言葉が反芻する。

 

『どうしてエルフィーはあたしが嫌いなの?嫌なことしたなら謝る!あたしずっとずっと寂しかったの!そりゃ、ここの友達は最高よ。あたしのこと変人って言わないし、みんな何しても笑って許してくれる。エルフィーのこと知ってるし、魔法がいっぱい学べるし、他にもたくさん…でも!エルフィーがいなきゃ!』

 

エディは強い子だと思っていた。そうではなく、エディは傷つきながらエディの形で拒絶に向き合い、そして乗り越えたのだ。そんなエディにもう一回傷つけと言っているようなものだ。

 

「ごめんなさい。」

 

エルファバは立ち上がり、恐る恐る泣きじゃくるエディに近づく。トイレの中に降る粉雪は無視する。

 

「私は…自分の罪を、被ってもう二度とあなたを傷つけないように必死で、私を好きでいてくれたあなたの気持ちなんて…考えたことなかった。」

「罪って何よおっ…。あたしはそんなこと1ミリも気にしてないのにい…。」

「ええ…私の身勝手な自己満足だったのよ。」

 

エルファバは自分よりも一回り大きいエディをギュッと抱きしめる。

 

「リーマスは…多分どんな事情であれ、あなたを傷つけたことを責めると思う。もしかしたらあなたとの距離を置くかもしれない。けど、忘れないで。私もリーマスもあなたを嫌いになんて…なったことないし、これからもならないわ。」

 

エディは痛いほどにエルファバにしがみつくように抱きしめた。

 

「…ぐずっ、これから私はどうやってリーマスと話せばいい…?」

「私が…エディとリーマスの間に入る。」

 

エルファバも涙を流していた。

 

「エディ…忘れないで。あなたを嫌いになる人なんか…この世にいるはずがないのよ。」

 

エルファバとエディの頭上ではヒラヒラと雪が舞い、2人の頬に、まつ毛に、髪の毛に乗っかった。

 

「エディ…一緒にご飯食べよう。」

「…うん。」

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