この話にはBL表現が含まれています。
黄色のネクタイをした男子生徒は、女の悪趣味な部屋で無表情で新聞を眺めていたが読み終わるとパサっとローテーブルの上に新聞を投げ捨てた。
「あら。」
その音で、女教授は顔を上げる。
「何か?…ああ、もしかして今日の記事を読んでいたの?狼人間の話も?」
「…まあ、そんなところです。」
女はニタっと笑った。
「さすが日刊予言者新聞。早いわね掲載が。私へのインタビューは今朝の話だったのにまさか今日の夕方には載るなんて。」
「これは全て事実ですか?」
「ええ、もちろんよ。魔法省の名誉にかけて全て真実ですわ。ホグワーツの教授陣にも確認しましたし…。あなた、もしかしてミス・スミスから聞いていなかったの?」
可哀相に、と全く思っていなさそうな声色で女は語りかけ男子生徒にゆっくり近づいて顔を覗き込んだ。男子生徒は無表情で女を見つめ返す。
「ほらね…とっても重要な秘密を彼女はあなたに1つも打ち明けていない。ねえ、あの半人間がスミス姉妹の身元を引き受けようと動いていたのはご存じ?ただの元教授と女子生徒があまりにも親密すぎると思わないかしら?しかも半人間の分際で…。」
ここで、女は咳払いをする。
「新学期に入ってから、あの姉妹と元教授のやり取りを少し確認したのですが…考えすぎかしら、これはあくまで私の推測なんですけど、あの狼人間と姉妹ただならぬ関係だと思うのよ。ミスター・ディゴリー…あなたは大人だから私の言いたいこと分かるでしょう?」
男子生徒が女から目を逸らすと、女は男子生徒に紅茶を飲むことをすすめる。しかし彼は首を振った。
「まあ、紅茶を飲めば気分が晴れるわよ。」
「そんな感情が僕にはないことをご存じですよね。」
女がわざとらしく首を傾げると、頭の上のリボンのついたカチューシャがズレる。
「僕の感情は服用している薬で抑えつけられている。あなた方と僕の両親の指示だ。僕は何も感じない…喜怒哀楽だけではなく、人への気遣いも、誰かを愛しいと思う気持ちも…ほぼないに等しい。お陰で僕の友達はほとんどいなくなった。」
「そんなところへ追い詰めたのは誰でしょうね?」
「アルバス・ダンブルドアとハリー・ポッター…。」
答えに納得したように女はゆっくり体を上げ、猫の絵が描かれている皿たちの前をゆっくり歩く。
「ええ。そうですとも。私たち魔法省はあなたが健やかにホグワーツで生活できるようにその薬の服用を指示しました。そのおかげであなたは今誰も傷つけていない…そうでしょう?あなたの苦しみは重々理解しております。多感な青少年の感情を抑えつけるというのは私も心が痛みますわ。」
女はここでギュッと自身の胸元のシャツを握りしめ、苦しそうな顔をする。そして芝居かかって男子生徒も振り向き、ゆっくり近づきながら話を続けた。
「けれどあなたを守るためにはしょうがないことよ。分かってちょうだい。数年後、あなたは魔法省に感謝をするはず…だからね。」
女は男子生徒の膝に手を伸ばし、そっとそこにある男性らしいゴツゴツした大きな手を握った。
「もう、薬を飲んでいるフリをするのはやめなさいな。」
男子生徒の目は大きく見開かれた。
「ハロウィンの後ぐらいかしら。あなたの言動はいささか気になる部分があって…友人もいるようですし、スミス姉妹たちと接触が増えたでしょう?隠したって無駄ですよ。私の目は誤魔化せません。それに週1回は私とこうやってお話をしておりますが、微妙な感情機微が増えております。さっきあの半人間とミス・スミスの関係を匂わせた時のあなたの顔ったら!もう、嫉妬に歪む顔でしたわよ…ああ、けれどあれはハッタリではないわ。ちゃーんと証拠もあるもの…ほら、また感情が隠せてないわ。」
女は優しく、男子生徒の力の入った拳を叩く。
そしてそれをそっと撫でた。
「とても大人びているけれど、所詮あなたも17歳…大人、それも魔法省に入省しているようなエリートを誤魔化すのは難しいですわ。さて、紅茶はいかが?」
セドリックは、ジッとアンブリッジを睨みつける。先程よりも怒りを露わにしているようだった。ティーカップに手はつけない。
「いいですこと?お分かりいただけていないようですが、私からの指示は大臣からの指示と同義語でございます。それを聞かないと。魔法省に勤めているエイモスが可哀想ですわ。ただでさえあなたが心配で仕事に手がついておらず、魔法省のお荷物のような状態ですのに…さあ、いい子だから、紅茶をお飲みなさい。」
セドリックは少し考え、ため息をついてからティーカップを自身の大きな手に収めて一口飲んだ後、感情のこもった声でハッキリと吐き捨てた。
「僕のホグワーツでの生活を返せ。」
「まあっ、私にそれを言うのはお門違いよ…あなたは反抗期のようね。」
男子生徒の目は徐々に虚ろになり、女はふふっと笑った。
ーーーーー
ハーマイオニーとエルファバはホグワーツ特急に乗っていた。やたらと帰省する生徒は多かったもののコンパートメントは無事ハーマイオニーと2人で座れた。
「ええ?!ルーカスの家でクリスマス!?」
「クリスマスは騎…スナッフルの家よ。最初の数日だけルーカスの家に泊まるの。」
「ダンブルドアは許可したの?」
エルファバは少し俯きがちに話す。
「揉めたみたいだけど…私は魔法省に狙われているし、数人魔法使いが私の家へ着いていくと校長は踏んでいるわ。私は家に帰るのはまずいし、かと言ってスナッフルズの家に行くのは、保護呪文があるとしても付いてこられてしまうと大体の場所は把握されてしまう。それにほら、他の団員に家に行くと間接的に校長の味方であるとバレてしまうでしょう?だからある程度魔法省に顔が割れてて、仲がいい人の家へ行くことになったの。本当はロンの家へ行くつもりだったのだけれど…その。」
エルファバはここで口籠もる。ハーマイオニーは察したように顔を歪めた。ハリーとロン、そしてウィーズリー兄妹がホグワーツから消えたのは数日前のことだった。朝一番にエルファバとハーマイオニーは校長に呼び出され、騎士団の任務中にミスター・ウィーズリーが重傷を負い、それを目撃したハリーと親族は一足先にグリモールドプレイスに行ったのだ。
その後のアンブリッジの怒りたるや、エディが友達数人とヒソヒソ話をしていたという理由で40点も減点したことからも窺える。
「あの女がいるようじゃ、ホグワーツには残れないわよね…。」
「そうなの。」
「けど…ルーカス…ごめんなさいエルファバ。気を悪くしないで。けどルーカスは「私を操ろうとした、でしょう?」」
今度のエルファバは姿勢を正し、ハーマイオニーの目をジッと見て自信ありげに答えた。
「けど、ルーカスの恨んでいるアダムはアズカバンでしょう?きっと私には何もしないわ。」
「でも…。」
「それに、1日1回騎士団の誰かがルーカスの家に来て確認してくれるの。」
エルファバはこれでどうだ、と言わんばかりに得意げだ。
「そうなの…それなら心配いらないわね…。」
釈然としていないハーマイオニーと少し気まずくなり、エルファバは話題を変えることにした。
「スキー、楽しみねハーマイオニー。」
「ええ…そうね。」
が、この話題も少しハーマイオニーは居心地が悪そうだった。
「私…できれば、その、みんなと一緒にいたいと思うの。だってスキーは私の好みじゃないし。だから一回家に帰るふりをして夜の騎士バスでグリモールド・プレイスに行くつもり。」
ハーマイオニーはみんなのそばにいたいのだ。エルファバはモゴモゴと口を動かすハーマイオニーが可愛いと思いクスッと笑ってしまった。
「きっとハリーたちも喜ぶわ。クリスマス、楽しみね。」
「ええ…エディは結局、来ないの?」
今度はエルファバが俯く番だった。ハーマイオニーの問いにゆっくり首を振る。
「ええ。大丈夫だって言って結局家に帰るわ。」
ルーカスの家に一緒に戻るはずのエディが唐突に自宅へ行くと言い出したのは数日前の話だった。
『別に帰りたいわけじゃないよ。ただあたし、ちゃんとケジメをつけたいのよ。特にリーマスのことで。どうせ、タトゥーの話パパとママにも伝わってるでしょう?だから言ってやるつもりなの。2人よりもリーマスはよっぽどいい親だって。』
言い分は頭では理解できたものの、正直この申し出はエルファバにとってショックだった。いつもエルファバの味方でいるエディだが、本当は両親に会いたいのではないか。その機会をエルファバが奪ってしまっているのではないか。そう考えずにはいられなかった。
考えてみればエディはエルファバのように母親に嫌われているわけではない。所構わず、凍らせて迷惑をかけるわけではない。意見が違えど、エディと親たちはうまくやっていけるはずなのだ…エルファバさえいなければ。
『大丈夫。絶対クリスマスはシリウスの家に行くからさ。約束する。』
エルファバの気持ちに気づいたのか、エディはエディの両肩をポンポンと叩く。
『うん、待ってるね。』
エルファバは精一杯作り笑いをしてエディを見送ったが、うまく笑えたか不安だった。
ーーーーー
「ハアイ、エルファバ〜〜。」
キング・クロス駅を出るとすぐにルーカスはニッコリ笑いながらエルファバに手を振った。周りはルーカスのあまりのカッコ良さに魔法使いマグル問わずヒソヒソと色めき立っている。が、ルーカスにとって日常茶飯事なのだろう。全く気にも留めていない。
「エディと親たちは3人で車に乗って帰ったのをさっき見かけたよ。俺らも行こう。」
エルファバの荷物を軽々持ち上げようと屈んだルーカスは小声でエルファバに言う。
「3人だ。意外と多い。」
エルファバは周りに気づかれないように僅かに頷く。エルファバとルーカスを追いかけている人数だろう。
「本当は姿くらましするべきなんだけど、俺の家ここから徒歩圏内なんだよね〜。さっ、歩こ歩こ。」
エルファバは両親の元へ駆けていくハーマイオニーの背中を見届け、ルーカスと一緒に騒がしい駅の外を歩いていく。
「この数ヶ月は大変だったねエルちゃん。」
身長の高いルーカスをエルファバは見上げながら歩く。
「リーマスのこと。」
「私は…そんなことないわ。エディとリーマスが心配で。」
「あの新聞記事は汚かったよね。お前らはタブロイド誌かっての!本名隠してたけど誰のこと指してるのかなんてすぐに分かるし…あの記事がでたら、ますますリーマスは就職が難しくなる。どうにか助けてやれないかなと思うけどね。向こうは俺のことあんまり好きじゃないみたいだけど、俺は別に嫌いじゃないからさ。」
なんと言えばいいのかわからずエルファバは目を逸らした。クリスマスムードのロンドンではイルミネーションやらオーナメントやらが街中に飾られていて、とても美しかった。
「それにしても、エルちゃんは5年生になって表情が豊かになったしおしゃべりもするようになったね。あの無口なエルちゃんもちょこんとしてて可愛いけど。」
「それみんなに言われるんだけど…私そんなに無口だったかしら?」
「ははっ、まあそうだろうね。」
ルーカスとたわいのない話を続けると10分ほどでルーカスの家に到着した。マグルたちも大勢住んでいる小さなアパートの一室だった。
中に入ると質素な部屋の中にベッドとテレビ、小さなキッチン、テーブルがあるのみだった。ルーカスの私物はほとんどなく、この部屋を使用している形跡はあまりない。
怪訝そうに部屋を見渡しているエルファバにルーカスはクスクス笑う。
「
「え、いや、そんなことは」
「本当はエロいポスターとか貼ってたんだけど、さすがに片付けろって騎士団の奴に怒られたんだよね。」
ルーカスはそう言いながら、杖を振るとどこからともなく空のティーカップが現れた。宙に浮かぶ青いティーカップはフワフワとエルファバの手元へくる。
「ミルクは?」
「ほしい。」
エルファバがティーカップを持つと、茶色い液体で中は満たされ、カップの下から湧き上がるように白い液体が混ざり合う。
温度もちょうどよく、ひと口飲むとたちまち身体が温かくなった。
「アールグレイだよ。」
「美味しい。」
「ありがとう。スコーンも食べる?さっきデパートで買ってきたんだけど。」
「うん、ありがとう。」
ルーカスがゴソゴソとキッチンにある袋の中を触っている間、エルファバはティーカップ片手にベッドの横にある写真を見た。
この部屋の中で唯一、ルーカスの人柄が分かる物だ。
モノクロの写真の中で、9歳ほどの顔が丸い女の子が満面の笑みでエルファバに手を振っている。そしてアッカンベーをして写真の縁に顔を隠し、また写真の中に戻って驚いたような顔をしていた。ワンピースを着ているが少し汚れている。目元だけルーカスに似ていた。
「妹。」
ルーカスは、エルファバの後ろからスコーンを手渡す。エルファバは一口紅茶を飲んでからスコーンをかじる。
「リンジーっていうんだ。ブサイクだろ?」
「ブ…?」
「ブサイクなくせに変顔が好きでさ、それでもっとブサイクになるんだ。それを言うと本人はキャアキャア喜ぶんだよ。生意気な口聞くし可愛くないんだ本当。」
と、言いつつその写真を眺めるルーカスは写真で豚鼻をするリンジーが愛おしそうに見つめていた。
『俺からしたら無邪気に笑って俺を慕い追いかける妹は可愛くてしょうがなかった。友達も多くて誰からも愛される子…エディみたいに。』
ルーカスがそのように言っていたのをエルファバは覚えている。その時のエルファバはルーカスに錯乱の呪文をかけられていたので、ぼんやりとした記憶だったが。
「こいつはスクイブだったから、マグルの友達とばかり遊んでいた。俺の親たちはスクイブの妹を邪険に扱ったけど、それでもこの子は擦れずに優しいいい子に育ってた。死んだ時いっぱい友達がこの子を弔ってくれたんだよ。みんな、その辺で摘んだ花とか雑草を持ってお悔やみを言いに来てくれたんだ。親たちはこの子が死んでから、自分達がした仕打ちを悔やんだんだ。バカだけどね。」
ルーカスはそう言って鼻で笑ったがエルファバは笑わなかった。
ルーカスはその見下した笑いを自己完結し、今度はエルファバにベッドに座るように促した。ルーカスの隣にちょこんと座ると話を続けた。
「俺の家とエルちゃんの家は逆だけど似てるかもね。結局どの世界も自分達と違う才能を怖がって嫌うんだろうな。」
「ルーカスは…?」
「俺は優遇されてたよ。これを持ったら尚更…。」
ルーカスは手のひらを広げると、その上で火の玉が煌々と燃えた。エルファバはジッと見つめる。エルファバはふと思う。
(もし…私がグリンダと生活していたら受け継いだ私を褒めてくれたのかしら…それとも…。)
「ルーカスは誰からの遺伝なの?私は前にも言った通り生みのお母さんだけど…。」
「俺は誰からも受け継いでいない。」
「え、そうな…。」
エルファバの記憶は1年前に戻る。本当にちょうど1年前のダンスパーティーの話だ。
『数百年前に"呪われた"僕らの一族は感情によって周囲を燃やし…あるいは凍らせて、マグルからも魔法使いからも疎まれる存在だった。魔法使いたちの魔法は効かず、皆身を隠すしかなかった。』
(ルーカス、これは遺伝だって前言ってなかったかしら?)
「ルー…。」
エルファバが口を開くと、ルーカスはエルファバの唇に人差し指を置く。黙ったエルファバが顔を上げるとルーカスは無表情でエルファバをジッと見つめていた。
何を考えているのか分からない、ジッとエルファバを明るいグリーンの瞳で見下ろすルーカスにたじろいだ。目を逸らしたいが逸らせない。さっきの穏やかな雰囲気は消え去り、外の喧騒が遠くから聞こえるだけだった。
「ヒントはあげた。」
しばらくの沈黙の後、ルーカスは毅然とした声で言う。
「答えを探すんだ…さっ、そろそろ騎士団の誰かが点検に来る頃だ。さっさと荷物片付けよ!」
突然普通のテンションに戻り杖を振り出すルーカスにエルファバは当惑しきっていた。
とりあえず紅茶は飲んだがぬるくなっていた。
ーーーーー
あの一件以降、特に気になることはなくルーカスと映画を観たり本を読んだりして休暇を楽しんでいた。
約束通り1日1回騎士団のメンバーが、というよりリーマスがルーカスの家を訪れてエルファバや部屋に呪いをかけられていないか確認しに来た。
「やあ、エルファバ。元気かい?」
「ええ、とっても元気よ。あのね、リーマスこの前の記事のことなんだけど「よし、君に呪いはかけられていないな。部屋を点検しよう。」」
リーマスが毎回確認を行うのは、騎士団員たちのエルファバとリーマスを話をさせようとする粋な計らいだろうと察した。エルファバもエディとの仲を取り持つと約束したので必死にリーマスと話そうとするが毎回逸される。もっと言えば目も合わせてくれない。エルファバに杖を振り、小さな部屋をウロつくのにリーマスは忙しいらしい。
前以上に酷くやつれ、白髪が増えた。服装も貧相でエディが見たら金切り声を上げて泣くのは容易に想像ができた。
ルーカスは玄関前の壁に寄りかかり、助けを求めるエルファバの視線に肩をすくめた。確かにルーカスへの信頼は薄いので、何かしたところでリーマスの心には響かないだろう。
エルファバは口を尖らせ、少し大きな声でリーマスに話しかけた。
「ねえ、リーマス。お願い話を「どこも呪いをかけられていないようで安心したよ。すまない、君ともっと話したいんだがそろそろ戻らないと。」」
そう言ってリーマスはルーカスに会釈もせずさっさと部屋を出て行ってしまった。それを呆然と眺め扉が閉まった後エルファバは、もうっ!と言ってルーカスの(今はエルファバが寝てる)ベットにボスっと身を投げた。
「う“〜〜〜〜〜。」
「猫の唸り声みたいだね。」
エルファバはのそッと顔だけ上げると、艶のある白い髪が全てエルファバの顔にかかっていた。ルーカスの使用するシャンプーはやたら質が良く、お陰でエルファバの髪はサラサラだった。
「だって結局この家に3回リーマスが訪れたのに結局何もできなかったの。明後日はみんなでクリスマス・パーティでエディも来るはずなのに…リーマスがこれで欠席したらエディが落ち込んじゃうわ。」
「俺も協力したいんだけどね。俺の家に泊まるということでそもそもピリピリしてるから、俺が動くとやばいってシリウスに釘刺されてるんだ。あの記事が出たことでリーマスは一旦任務から外されたし…あまりいい時期じゃないんだろう。」
「そうなの?」
「ああ。俺も詳しくは知らないけどね。」
エルファバは再び唸ってベッドに突っ伏した。ルーカスはその隣に座るとベッドがギシギシと鳴った。
「…あのアンブリッジばばあ…。」
「あーあ。エルちゃんの口が悪くなった。」
しばらくエルファバがハリーやロンから学んだ罵り言葉でワーワー騒いでいると、コンコンと大きな窓を何かが叩いた。ルーカスとエルファバは振り向く。
「あれ、フクロウだ。」
窓を開け、フクロウを部屋に入れてやる。茶色い見覚えのないフクロウが手紙と大きな包みを持って、ベッドの上に着地しヒョコヒョコとエルファバの前に近づいた。
「おい、汚いからベッドに乗るな。」
ルーカスの冷たい物言いに、ギョロッと黄色い目でフクロウは睨みつける。
「誰のフクロウかしら。」
「え、見覚えないの?」
「全く…。」
エルファバは起き上がり、手紙と包みを外した。
ーーーーー
エルフィーへ
ハーイ!アンソニーからフクロウを借りてこの手紙を送っているわ。
あともう少しで会えるのが楽しみで仕方ない!例のアレは本気で実行するつもりだからね。みんなにそう伝えて!
あと、ママからこれエルフィーにだって。なんのつもりか知らないけど送れってさ。本当はあたしは送りたくなかったんだけど、しつこくて。あたしがリーマスのこと話したらいきなり作りだして…こんなんでエルフィーへ行った仕打ちへ謝罪のつもりかしら?嫌なら全然捨ててもいい。むしろ捨てて。
とにかく!会えるのが楽しみだわ。
あなたが大好きなエディより
キスとハグ
P.S.ルーカス、エルフィーに何かしたらあたしが許さないから!
ーーーーー
「はは、俺、嫌われてんな。アンソニーって誰?」
「セドリックの友達。」
ルーカスはエルファバにピッタリくっつき一緒に手紙を読んでいた。
「念のためだけど、確実にエディが送ってきたやつ?」
「ええ、筆跡は同じだし。」
「けど、筆跡は魔法で真似られるからね。」
エルファバは苦笑いして、紙で包まれた何かを開けると甘い匂いがした。
「フルーツケーキ?」
母親がよくおやつとして作っていたイチジクなどのドライフルーツとナッツを練り込んだフルーツケーキだった。ナッツがケーキ生地からはみ出ており、それが少し焦げているがそれがまた美味しいとエルファバは小さい頃これをほじくって食べていたものだ。
「ええ、お母さんが小さい時によく作ってくれていたの。」
エルファバは、なんとも言えない気持ちになった。
(お母さんとは決別したいのにこんなことされたら…いいえ。お母さんは元々悪い人じゃないのよ。ただ…何かの理由で魔法が嫌いなのよね。)
「これは…エディの手紙だし、お母さんからの贈り物だわ。間違いない。」
エルファバは母親の優しさにギュッと胸が痛くなり思わず、その場でケーキをちぎり一口頬張った。
(ああ、そう…そうだわ。昔と同じ味。少しパサパサしているんだけどフルーツがぎっしり詰まっているからちょうどよくて、歯応えがあって毎回限界まで口に含むと噛んでいる時に体積が増えて、口からこぼれちゃってお母さんに怒られていたわ。)
「大丈夫?無理して食べてない?」
「平気。」
エルファバはもう二口、三口を口に頬張り、黙々と食べて飲み込んだ。
「美味しい?」
「ええ。」
「そろそろ夕食だし、これは食後に食べようか。台所に入れておくね。」
「ええ。」
エルファバは包みにフルーツケーキを戻し、ルーカスに手渡した。
「へー、そんなに夢中で食べ切るなら相当美味しいんだろうな。良かったね。まあ、エディの言う通り君への仕打ちはこれで解決するわけじゃないだろうけど、あの女は少なくともエルちゃんへの謝罪はちょっとは見せているってことだね。」
「ええ。」
「…エルちゃん?」
(ああ、美味しかったな。なんか久しぶりだったわ。今度お母さんにお礼をしないと…エディは嫌がるかもしれないけど人の礼儀として、そこはしっかりしないといけないわ。魔法のものを送ったら嫌がるから普通にマグルの紅茶とかがいいかしら。それに「エルちゃん。」)
ルーカスの呼びかけにエルファバは顔をあげる。そしてギョッとした。
ルーカスがエルファバに杖を向けている。
数日前にルーカスの家族の話をした際の無表情な顔の数倍恐ろしい、去年に妹の末路を皆へ語った際の表情をしたルーカスがそこにいた。
「手を上げて跪け。」
いつもより数段低い声でルーカスはエルファバに命令した。エルファバは両手をゆっくり上げ床に座り込んだ。
茶色いフクロウは怪訝そうにエルファバに近づく。
「そのまま動くな。俺の聞いたことにだけ答えろ。さもなくばお前を呪う。」
エルファバは頭が真っ白で、言葉が出てこず痙攣したように頷く。
(るっ、ルーカス…どうしちゃったの…?まさか、ずっとこれを狙ってて…!けど私を狙う理由なんてないはずだわ。どうしてこんなこと…!)
「名前は?」
「…名前?」
「そうだ、お前の名前だ。ミドルネーム入りで。」
「エルファバ・リリー・スミス。」
「妹の名前は?」
「エディ…エイドリアナ・レイ・スミス。」
「家族の名前は?」
「アマンダ・スミスとデニス・スミス。」
ルーカスは跪くエルファバに大股で近づき、エルファバの顔に触れるほどに杖の先を近づけた。室温がどんどん下がっていく。
「今何を考えてる?」
「…ルーカス、どうしてこんなことを…?」
「質問に答えろ。」
「こっ…怖い…!」
ルーカスはため息をつき、杖を振り上げた。
エルファバがギュッと目をつむったのと、ルーカスが呪文を唱えたのは同時だった。
「エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来たれ!」
バキバキバキバキっ!!!!!
「…えっ?」
部屋は完全に銀景色に包まれ、フクロウが急に室温が下がったことで怒り狂って室内を飛び回っていた。そしてルーカスの杖より噴き出てきたのはライオンの有体守護霊だった。それは部屋を見回したあと、辛うじて凍っていなかった壁の隙間から抜けて走り去っていた。
「エルちゃん。」
ルーカスはエルファバに駆け寄り、かがんでギュッと抱き寄せた。
「本当に本当にごめんね。また怖がらせてしまって…けど確認しなきゃいけなかったんだ。」
いつものルーカスの優しい声がエルファバの耳をくすぐり、呆気に取られながらエルファバはルーカスに両頬をキスされた。
「あっ、杖使って氷消していいからね?多分バレないし、寒いよね?毛布もすぐ持ってくるから。怖かったよね、本当にごめん。今リーマスもすぐ戻ってくるはずだから。今は自分の感情に向き合って欲しいんだ。」
「どういうこと?」
ルーカスはエルファバのおでこに自身のおでこを軽く当てる。
「エルちゃん、この事実を伝えるのは酷なんだけど…。あのケーキを口にした瞬間、君の顔から感情という感情がなくなり、目がうつろになった。口数も減り、僕への返答も必要最低限になった。僕はそれが君の感情によるものなのか、外部的な原因なのかを知る必要があって…こんな行動を取ったんだ。」
エルファバは訳が分からなかった。全く無自覚であり、特にコミュニケーショにおいて違和感はエルファバにはなかった。
「服従の呪文や錯乱の呪文ではなかった。君はしっかり質問に答えていたし、無抵抗だった。第三者が君を操っていたなら俺が攻撃耐性に入った段階で俺に攻撃し返すはずだ。残った可能性は1つだー。」
ルーカスは一呼吸し、ゆっくりハッキリと言った。
「あのフルーツケーキには魔法薬が仕込まれていた。しかも劇薬が。」
室内の気温はさらに下がった気がしたのはエルファバだけだっただろうか。
ルーカス「え?俺がゲイの証拠?なんで今更?」
シリウス「若い男女が1つ屋根の下に泊まるのは側から見ると好ましくないからな。しかもあのチビは未成年だし…ちゃんとそこを証明した上でチビをお前の部屋に泊まらせろとダンブルドアからのお達しだ。」
ルーカス「えー。えーっと、これアティテュード(イギリスの有名ゲイ雑誌)でしょー?テテュー(フランスの有名ゲイ雑誌)でしょー?そうそう、この人セクシーなんだよね!雑誌から一番エロいの拡大呪文で引き伸ばして貼ってるんだー!」
シリウス「よし。」
リーマス「頼むからエルファバが来る前にはそのポスターしまってくれよ。」