残念ながら、エルファバのサプライズバースデーをピークにクリスマス休暇の幸福感は下降の一途を辿った。
クリスマスの日はミスター・ウィーズリーのお見舞いをした際にネビルとその家族に遭遇し、とても気まずい思いをした。どうやらネビルの両親はデスイーターたちに正気を失うまで磔の呪文で拷問を受けたらしい。今もその後遺症で精神後退してしまっているようだ。
帰りの車の中では誰にも何も話さなかった。
エルファバはその中でふと、考えていた。もしもあの聖マンゴ病院へ自分が何かしらの理由で入院することになったらどうなるのだろうかと。
(私の魔力の暴走具合なら、全然それはあり得るわけだし。)
ネビルの両親がいる場所と同じ病棟で、エルファバは魔力を操れない患者として1人寂しくベッドの上で日々を過ごす…。
(それは勘弁ね。)
同時にハーマイオニーがクリスマス前に言ってたことを思い出した。
『あなたの能力は、エルファバそのものに備わっているのではなく本当に“呪い”なんだわ。比喩ではなく。』
エルファバは帰宅後から数日間グリモールド・プレイスで呪いについて本を読み漁った。シリウスはエルファバがついにアンブリッジを本格的に呪おうと動き出したと揶揄したが、エルファバは可能な限り調べ尽くした。
エルファバは書斎で“血の呪いの考察〜魔法族にかかる種類と推測される原因について〜”を齧り付くように読み込んだ。呪いに関しては、かけられる前に反対呪文を唱えれるか、呪われた後はそれに基づく治療を行うか呪った本人が解呪すればいい。
エルファバを、エルファバの一族を呪ったのは
(けど、呪った
原因不明の何世紀にも渡る血の呪いが発症し衰弱する一族もあれば、女性にだけ動物へ変身し最終的には人間に戻れなくなる呪いもあるらしい。
(どのみち、呪いというだけあって不幸になるー。)
エルファバの人生も悲惨なものだ。これにより、酷い虐待を受け家族と関係が築けずエディとの時間の修復に時間がかかった。
(けど…。)
ひょいっ。
「あ。」
「ママがランチだって。さっきから呼んでるけど君が来ないから、どうせ本読んでるだと思ったらビンゴだね。」
ロンはエルファバの本を取り、エルファバの顔を覗き込んだ。そばかすだらけで赤毛のロンはここ最近随分男性らしい身体つきと顔になった気がした。
「それにしてもすーっごく、つまんなそうだねこの本。シリウスとかこんな本やら薄暗いこんな屋敷にずっと住んでたのかあ。僕なら発狂しちゃうよ。」
ロンはエルファバの本をパラパラめくりながら、うげーっと顔をしかめる。
「本当ね。」
「けどさ、前から思ってたんだけど君本当にその氷のやつ、消したいの?僕なら残しておくけどな。」
「?」
エルファバの過去を考えれば、この発言はハーマイオニーからどつかれ、ハリーからは呆れた目で見られるはずだ。幸か不幸か2人ともいなかったためツッコミ役が誰もおらずそのまま会話が続行された。
「だってさ、呪いという割にはとても便利だと思うんだそれ。僕らそれなかったらきっと1年の時も2年の時も死んでたし…4年の時だって、氷の力で僕らすっごい助けられたよ。もちろん、いろいろ凍らせちゃったり大変なこともあると思うけど、エルファバのことに限らず魔法ってそういうものじゃない?」
エルファバは少し考えた。ロンの言うことには一理ある。
「………確かに。」
実際のところ、エルファバの氷が直接的に誰かに被害を及ぼしたのはエディを凍らせた時くらいなものだ。
1年生時のクィレル、グリンダに乗り移ったヴォルデモートを倒す時、2年生ではリドルとバジリスクを倒した時、4年生ではドラゴンを氷漬けにした。4年生時に至ってはホグワーツとその他の2校の生徒たちを救った大きな功績があるとエルファバですら自負している。
「ハーマイオニーが大袈裟に捉えすぎなんだよ。」
ロンは、ウンウンと自分で言って自分で納得した。
そのすぐ後から、エルファバも自分のことを調べることだけに時間を裂けなくなってしまった。
聖マンゴ病院を訪れた際にファッジに近い魔法省の人間がいたとトンクスが発見し騎士団内の警戒心は高まったのだ。
「ハリーやアーサーではなく、エルファバが目的よ。おそらく今後エルファバが出入りしたことで何かしらのいちゃもんをつけてくる可能性は高いわね。」
「どうしてそれが分かるの?」
「観察してたけど、ずっとハリーではなくエルファバを見てたわ。」
ロンの質問に答えつつ、トンクスは忌々しそうにサンドイッチをかじっていた。
こうしてエルファバはクリスマス休暇の後半は再びルーカスと訓練を重ねることになったのだ。
「よーし、いい感じだ。休憩しよう。」
いつもの練習場所であるあの広大な土地は、今や雪景色に染まりすごく美しかったが、そう思ったのも最初のうちだ。エルファバは体力を使う過酷なトレーニングにゼエゼエと息を荒げながら地面に倒れ込む。
「もうこれで心配ないはずだ。騎士団のメンバーにも言っておくよ。」
エルファバは息絶え絶えに頷く。
「あ、そうそう。セドリック・ディゴリーが飲まされてた薬だけど、あれ俺らが知らない薬だった。」
「…へえ?」
唐突なルーカスからの報告にエルファバは素っ頓狂な声を上げた。
「エルちゃんが飲まされてた薬に近かったけどね。君が劇薬ケーキを食べさせられたから、それで分かったんだ。けどあれは見たことがない魔法薬だったよ…強いて言えばエルちゃんの物は感情に蓋をする薬だけど、ディゴリーのは感情を抹消する薬って感じかな…。どのみちあれは新しい薬を作ることを許可されている相当地位が高くて優秀なヒーラーしか作れない。」
エルファバは息切れといきなり言われた衝撃的事実に頭がこんがらがり、地面で大の字に寝転んだ。いろいろと考えたが、やめたエルファバはいったんその問題は放置することにした。
「…私って、呪われてるのかな。」
「どうしたの唐突に。」
「ハーマイオニーが言ってたの。私の“力”は呪いだって…魔法薬で抑えられなかったから。けれど、ロンが呪いの割に便利すぎるって言ってて。」
「……まあね。」
「ルーカス何か知ってる?」
エルファバが地面からムクっと起き上がると白い髪に茶色い土が所々付いている。それを呆れたように笑いながら、ルーカスは指で取り払ってくれた。
「確かに呪いというには便利すぎるかもね。けどハーミーちゃんが言う通り、これはジャンル分けするとすれば“呪い”かな。
「うん…それはそうなんだけど。私の家族が差別したのも、叔父さんが虐待したのも、“力”が原因ではないと思うの。みんなが、マグルが嫌ってたのは“魔法”だからもしも私が他によくある魔力の暴発を起こした場合も同じになっていた気がして。」
シリウスが少し前に言ってたことを思い出す。
『お前の叔父さんの言動が…もちろん暴力を肯定するわけじゃないぞ?ただマグルっていうのは俺たち魔法使いを見ると普通怖がって避けるんだ。ハリーの親戚がいい例で…お前の“力”と俺たちの魔法をお前の叔父さんが区別できるはずもないし。』
考えてみれば1年生時にエルファバがクリスマスプレゼントとして送った魔法の刺繍本を送り返されたこともある。
つまり親戚たちはエルファバの“力”と魔法を別物として理解していないはずだ。
「うーん、まあ確かにね。まあ
「そう…ね。」
「まあ、いい線いってるよ。通販広告と一緒だよ。便利なものほど裏があるって。」
「ルーカスはその裏を知っているってこと?」
「どうかな。」
(またはぐらかされた。)
エルファバはルーカスを睨んだが、「猫が餌もらえなくて拗ねてる時の顔と一緒」と小馬鹿にされた。
ーーーーー
休み最終日にハリーは新学期からスネイプとの個人授業があると絶望していた。今のハリーはシリウスと会う機会も奪われ、クィディッチの永久禁止、そして試験でピリつくホグワーツに変えるのは大層嫌がっていた。
エルファバも当然、今後のことを考えるとホグワーツへ戻るのはかなり嫌だった。アンブリッジがエルファバの精神を錯乱しようと何を仕掛けてくるか分からない。本来であればこんな訓練など使用する機会が無い方が楽なのだ。
エルファバとハリー2人でシリウスの目の前で大袈裟に嘆き、ハリーがいなくなることでご機嫌斜めなシリウスの機嫌をちょっと良くさせるという一仕事を終えた後、エルファバは荷造りをしていた。
ご機嫌をとったついでにシリウスに書斎から本をいくつか借りる許可をとり(そんなことせずともシリウスはこの家にある本を貸してくれるとは思うが)、書斎に向かっている途中だった。
「あれエディ、どうした「シッ!!!」」
「むぐっ。」
書斎近くの扉に隠れるエディにエルファバは顔を掴まれ、引っ張られた。書斎の中で誰かが口論している。
「…よ、リーマス。いくらなんでもかわいそうよ。あんなに慕ってるのに。」
「やめてくれトンクス。本当に…。」
「あなたの気持ちは理解できるわ。けれど、だからっていってエディやエルファバ、それにハリーにあんな態度をとっていい理由にはならないのよ。3人だってあなたの態度に気づいているわ。」
「…私は普通に接してるよトンクス。みんなに平等に関わってる。」
「あれのどこが普通なの?あからさますぎるわ。」
「頼むから…。」
書斎から聞こえてきたのはトンクスとリーマスの声だった。どちらかというとリーマスがトンクスに押されている。エルファバはエディに目で「どういうことなの?」と必死に伝えるがエディは話を聞くことに夢中だ。
「シリウスも何度も言ってたけど、あなたは万全な対策を取っていたのよ。それをあの意地汚いペティグリューが利用したの。」
「だから私だって何度も言った。そもそも私が火種を持っていたから、利用されたんだ。私が愚かだったんだ。あの子たちはみんな純真無垢なんだ…戯れて怪我したのとは訳が違うんだよトンクス…私はエディを…みんなに愛される子を私と同じ獣にしかけた。消えない傷までつけて…もう放っておいてくれ…。」
最後のリーマスの言葉は、泣いているのではないかと思うほど弱々しく震えていた。
大の大人が、しかも男性が、こんなにか細い声を出し懇願するものなのだとエルファバは衝撃を受けた。エディも同じ気持ちだったのだろう。唇を噛み必死に目を乱暴にこする。
「あなたは獣なんかじゃない。そんなふうに自分を責めるのはやめて!」
「トンクス、君が獣になった私を見て襲われたら少し考えが変わるさ。」
「エディは変わらなかったわ!そんなことがあってもあなたと一緒にいた。何度でも言うけどあれは事故だったの!私だってあなたを…!」
トンクスが急に黙り込んだ。エルファバとエディは何が起こったのか背伸びして中を覗こうとするがうまくいかない。
「…ダメだ。それ以上は言ってはいけない。」
「リーマス…!」
そのままトンクスを置いて書斎を去ったリーマスが、エルファバとエディを見ることはなかった。その直前に背後からハリーが透明マントの中に2人を入れたからだ。
トンクスが小さくため息をついて書斎を去ったのを確認してから、ハリーは透明マントをしまう。
「僕、グリモールド・プレイスにいたいよ。」
「私も…。」
エディは何も言わず、ただエルファバの腕に絡みついただけだった。
そんなこんなで、皆いつも以上にテンションが下がり気味で、ホグワーツへ戻った。相変わらずアンブリッジはホグワーツを我が物顔で牛耳っていた。
ハリーはスネイプと閉心術を学ぶこととなり、あれやこれや恥ずかしい過去を覗かれては精神を疲弊させているという。機嫌最悪なハリーをなだめるのはいつもエルファバの役目でクィディッチに忙しいロンや進路を考えるのに忙しい(というよりハリーをなだめるのを放棄した)ハーマイオニーと話さず、四六時中ハリーといる機会が増えた。
その間にも死喰い人の集団脱獄(アダムは脱獄していなかった)という大きなイベントがあったものの、それ以外ではアンブリッジからカウンセリングに呼ばれず、数ヶ月ほど平和な日々を過ごしていたエルファバだったが、2月上旬、とある人物に呼ばれてアンブリッジの授業が終わったすぐ後に向かった。
「お入りなさい。」
ノックをするとマクゴナガル教授の厳かな声が部屋の中から聞こえ、エルファバは息をグッと飲み、部屋に入り教授の目の前に座った。
「さて、前例よりかなり早いですが…手紙に書いた通り、あなたは特殊なケースですので進路面談を前倒しにすることになりました。6年目、7年目でどの学科を継続するかを決めます。前にあなたは…魔法薬学士になりたいと言っていましたがその夢に変更はないですね。」
「はい。」
エルファバはしっかりと頷く。エルファバの4年生の頃からの夢だった。
自身の“力”のコントロール、リーマスのような社会的弱者を薬で救えると考えたからだ。
「よろしい。必須となる魔法薬学であなたはE寄りのOです…今回のO.W.L.で努力すれば6年目のスネイプ教授の授業は出席できるでしょう。スネイプ教授はOを取った生徒しか教えないことで有名ですから。精進なさい。あとは呪文学。これはOですので現時点では問題はないですが、しっかり学習を続けていきましょう。」
エルファバの成績は決して問題はない。しかしエルファバの心の沈みは消えず、そわそわした。マクゴナガル教授は水色の冊子を手に取り、パラパラとめくりながら話を続ける。
「この2つさえ取っていれば問題はないですが…端的に言いますと、あなたの成績からすると非常にもったいない気もします。」
エルファバはキョトンとマクゴナガル教授を見つめた。教授はあなたのことですからそれ以外の授業を怠ることはないとは思うのですが、と前置きした上で続ける。
「魔法史や数占いの授業で非常に良い成績です。もしもこの2つの教科が好きであれば、錬金術や古代学の授業はあなたに合っているはずです。あなたは前々からやりたいことを決めていましたが、今の成績からして、もう少し将来の幅を広げても良いかと。例えばー。」
マクゴナガル教授はエルファバに手に持っていた水色の冊子を手渡す。
「銀行、とか。」
マクゴナガル教授が意図したわけではないことは重々理解しているが、
水色の冊子には“ゾクゾクするような冒険を!グリンゴッツ銀行で共に働きませんか?”と書いてある。
また違った心のざわめきを抑えつつエルファバは思いを伝えた。
「正直銀行にはあまり興味はなくて…それにグリンゴッツ銀行への就職には闇の魔術に対する防衛術が必須だと書いてありました。私の成績はAで、到底叶うものでは…「そのことですが、」」
一瞬マクゴナガル教授は、下唇を噛み考え込んだ。数秒の沈黙の後また話しだす。
「あなたは、本来の実力をこの5年間で出せていなかった可能性があるのですよ。フィットウィック教授とも話していましたが、ここ最近のあなたの実技の成績は目を見張るものがあります。まあ当然、あなたは目立つのを恐れて実際の実力を隠していたことも加味してですが…ええ、ミス・スミス。どの教授陣もそれは把握済みです。」
エルファバは、恥ずかしくなって目を逸らした。少し前なら床を凍らせていただろう。マクゴナガル教授は続ける。
「今年に入り、あなたは本来の実力を出せるようになってきた印象です。魔法を使いこなすには精神的な成熟も重要な要素の1つであることはあなたも分かっているでしょう。きっと…もっと良い成績を収めることができるはずです。」
エルファバは、マクゴナガル教授が暗にエルファバが薬によって魔力を抑えられていたことを示唆しているのだ。4年生時にはマッド・アイによって防衛術の特訓をすることでなんとか武装解除くらいはできるようになった。
(もう少し、進路を広げる…ね。)
「…けれどマクゴナガル教授…。」
「なんでしょう。」
「私は…そもそもO.W.Lを受けれるのでしょうか。」
一瞬、マクゴナガル教授はエルファバを憐れむような、悲しそうな目で見たのをエルファバは見逃さなかった。が、すぐに凛として冷静にしかしハッキリと告げた。
「当然です。ホグワーツの生徒であり、5年生である全ての魔女と魔法使いがO.W.Lを受験します。例外はありません。当然あなたもー。」
話途中に、誰かが部屋の扉を乱雑にノックした。エルファバとマクゴナガル教授は固まる。
「すいませんが、今は取り込み中でー。」
アンブリッジが、マクゴナガル教授の言葉を待たずにいそいそと部屋に入ってきて、しれっと部屋の端っこに収まった。
「失礼、ミネルバ。私進路面談がこんな早い時期にあるだなんて全く知りもしなかったから…遅れてしまって申し訳ないですわ。」
ニタっとアンブリッジが勝ち誇ったように笑う。エルファバは(最近豊かになったといわれる)表情にウンザリした感情を出さないように細心の注意を払ったが、マクゴナガル教授に至ってはそれを隠そうともせず小さくため息をついた。
「そうですか。それでは続けますが「お待ちになってミネルバ。私に許可もなくこーんなにも早くミス・スミスの進路相談を実施した理由が分かりませんわ。私、ミス・スミスに用があって先程の授業の後に彼女を探したのですよ。けれど授業が終わったら彼女はさっさと出ていってしまって…ルームメイトの…あ、失礼、ミス・スミスの脆弱な精神のせいで“元ルームメイト”のミス・パチルに聞きましたらあなたと会うと言っているではありませんか。例年進路面談の開始時期は4月あたりですのに、今は2月。なぜこのようなタイミングで進路面談の実施を?」」
マクゴナガル教授は間髪入れずに答える。
「これは正式な面談ではありませんドローレンス。ミス・スミスより進路を悩んでいると聞き、少し時間を取って話を聞いていただけです。」
「まあっ!なんて情熱的で生徒思いですこと!その些細な面談にそこまで資料を用意するものでしょうか?」
「正式な面談ではないと言っただけで、些細なものとは言っておりません。生徒たちの大事な将来の話のために、事前準備をするのは当然です。さて、話を続けますよミス・スミス。」
エルファバは慌ててマクゴナガル教授に向き直る。
「あなたが魔法薬学士になるという長らくの夢を叶えるのはとても良いことですが、あなたには可能性があるのです。今後のことも考え、1つに絞らず、別の進路を検討しても良いでしょう。そしてー。」
マクゴナガル教授は先程話した件を繰り返したが、エルファバがO.W.Lを受けれるか否かについての話には触れなかった。
ーーーーー
「お待ちになってミス・スミス。一緒に歩きましょう。」
面談終了後、まるで可愛らしい少女が母親に言うように、エルファバに声かけたアンブリッジにエルファバは一瞬の嫌悪感を覚えた。拒否権が無いことを悟ると仕方なく一緒に夕暮れの廊下を歩き始める。
この後は図書室でエディの宿題を見る予定だったが、一旦グリフィンドール寮へ戻るフリをした方が得策だと感じた。
「聖マンゴ経由で魔法省へ連絡が入りましたわ。あなた、幼少期からずっと”魔力抑止薬”を服用していたのね。可哀想に。」
(前置きもない、不躾な物言いは通常運転ね。)
「あなたも気づいていなかったとはいえ、私が施したカウンセリングは正しいものだったのね。」
(よくもそんなことを言えるわね。)
エルファバは心の中で、ツッコミを入れながら話す。エディはアンブリッジを見るたびに呪いをかけようと杖を取り出すので毎回周りが止めている始末である。
「そうそう、あなたに伝えたいことがあってね。あなたの精神を安定させるために、魔法省よりあなたへ特別なプログラムを組むことになったのよ。」
アンブリッジはまるで注目の新製品を紹介するように言う。
「あなたのボガートは虐待を行った叔父さまに変身すると聞いたわ。あなたの精神を不安定にさせる原因!そのボガートが変身した叔父様と対話を続けるの。物事を解決するには話し合いが不可欠でしょう?まずはボガート、そのあとはヒーラーがあなたの叔父さまに変身して模擬で対話を行う。最後には本物の叔父さまと話すの、どう?素敵でしょう?」
「…なんてことを…。」
「何ですって?」
エルファバは立ち止まり、同じ背丈のアンブリッジを睨み付ける。耐えられなかった。激しい怒りを必死に抑えつけながら、必死に自身の怒りを言語化する。
「そんなの…いらない…!私は…話したくない…!」
口を塞ぎ、首を絞めてくる醜悪な叔父の顔。
椅子で殴りかかられ、ペットの餌のような物を口に入れさせられ、服も変えられず。
「私たちはただ、あなたを思って…。無料で聖マンゴの施術を魔法省から与えられるというのに恩知らずね。」
「そんなの、施術じゃないです。カウンセリングだって…ジョンが開心術士ではないことぐらいとっくに知ってます。」
エルファバは続けて捲し立てる。
「私だけじゃない。ハリー、エディ、リーマス、セドリックまでどんどん追い詰めて…!」
エルファバがアンブリッジに向かって一歩前に出ると、パキパキっと氷を踏む音がする。
「私を…私の大切な人たちをこれ以上追い詰めたら、私は絶対に許さない…!」
アンブリッジは凄むエルファバにウフフと小馬鹿にしたように笑う。
「やはりあなたは精神異常者ね。周りをご覧なさい。」
エルファバがふと周りを見渡すと、広い廊下一体が棘のある銀色の氷に包まれていた。その棘が全てアンブリッジの方向を向いているが、アンブリッジは動揺していない。
エルファバは一瞬それを目に入れつつ直ぐにアンブリッジに向き直る。アンブリッジも一歩踏み出す。
「そしてお若いあなたは、ご自分が何をしているか分かっていないようね。私を恐喝するということは、魔法省、つまり大臣を恐喝することだということをご理解なさい。」
あとね、と言って半笑いでアンブリッジは続ける。
「可愛い顔で男に媚びる生き方は良くないですわよ。英雄ハリー・ポッター…今はただの目立ちたがり屋の大嘘つきですが。アルバス・ダンブルドア…ジョンのこともどうせダンブルドアから聞いたのでしょう。名家出身のセドリック・ディゴリーを誘惑すれば、誰もあなたを傷付けない。獣のリーマス・ルーピン…彼を誘惑する理由を私は理解できないですが、味方は多い方がいいですものね。」
「…何を…。」
「強いものに擦り寄って生きていくのは、楽ですものね。何もしなくても自分が優秀に感じますし、あなたを傷つけるものはいなくなる。あなたの可哀想な過去を見ればそちらに走ってしまう気持ちは多少なりとも理解できますが。」
エルファバは、思わず吹き出して声を上げて笑ってしまった。想像以上に自分の笑い声が醜悪な声で、驚く。
「何がおかしいのかしら?」
「ふふ…だって、それってそのままあなたのことじゃないですか。」
「…は?」
「実力の伴わないホグワーツの教授という仕事は、ファッジ大臣に擦り寄って得た仕事でしょう?私魔法省のいろんな優秀な方と会ったことありますけど、あなたが魔法省で活躍する理由が魔法だとは思わないもの!いつも話の引き合いに魔法省や魔法大臣の名前を出されるのは、アンブリッジ教授…あなたが何もないからでしょう?」
「…っっっ!!!グリフィンドール、50点減点です!!!!教授に対する侮辱!!!!あなたには罰則を…罰則を…!!」
息切れしたアンブリッジは、ゼエゼエいいながら呼吸を整える。エルファバはそれを無表情でジッと見つめる。
「罰則を与えます…近日中に伝えますので…!」
アンブリッジが踵を返すと、足を滑らせ思いっきり尻餅をついて転んだ。エルファバはそれすらも笑ってしまいそうになったが、流石にまた減点されるわけにはいかなかったので、堪えた。
「っっ〜!!!この忌々しい氷を早く消しなさい!!!」
エルファバは冷静に杖を取り出し、いつもの呪文を唱え、氷を消す。自身の短い身体をアタフタさせて起き上がるアンブリッジを見下ろしながら、この光景をエディに見せたらどんなに喜ぶかと考えた。
「だから子供は…!子供は嫌いなのよ…!」
そんな捨て台詞を吐きながら立ち去るアンブリッジの背中を見送り、エルファバはぽつりとつぶやく。
「これくらい言ってもいいよね、みんな。」
ーーーーー
セドリック・ディゴリーとエルファバ・スミスが中庭での大喧嘩の末、破局したと噂が流れたのは、その数日後のことだった。