ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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【注意】
この話では性描写を匂わせる表現が出てきます。

これが描きたかった。


11.氷に包まれるホグワーツ城

「よくやったわセドリック。お父様も喜ぶでしょう。」

 

アンブリッジはセドリックの頬を手の甲で優しく撫で、軽い足取りでピンクでけばけばしい部屋をぐるぐる回った。セドリックはその手が興奮で汗ばんでいるのに気づき少し顔をしかめたが、上機嫌なアンブリッジは気づくはずもない。

 

「…合理的なことが何かを考えたまでです。」

「魔法省へのインターンの推薦状は記述済みですからね。あとは提出するだけです…最終的に何が決定打だったのかしら?なんて言って別れたの?」

「この学期になってからというもの、エルファバは…あいつはずっとポッターと一緒だった。彼氏の僕を蔑ろにしてずっと付きっきりで…。だからそのままそう言ってやりましたよ。本人は違うだの、誤解だの凍らせながら叫んでいましたが…もういいんです。マグル育ちはこれだから…。」

 

と言った直後にセドリックはしまった、と言わんばかりに口を噤んだが、アンブリッジはいいのよいいのよ、と肯定した。

 

「これは差別ではないわミスター・ディゴリー。事実ですもの。卑しいマグル生まれ達は高貴な魔法族へ擦り寄って生きていることがよーく分かったでしょう?けどどんなにあの可愛い顔で媚びても結局のところ、生来の下品さは隠せないものですよ。だからポッターとも上手くいくんでしょうね。“生き残った男の子”と言いつつ、あの子も所詮マグルの世界で育ちましたし。ああ、そうそうシェリー酒をありがとうセドリック。ここのブランドは非常に良くて…さすがエイモスだわ。確かあなたはもう成人だったわね。よろしければ一杯どう?」

「いえ、僕は…。」

「もう、遠慮しなくて良くってよ!今日はホグワーツの高等尋問官として、祝杯を共にすることを許可します。」

 

アンブリッジは杖を振ると、セドリックの目の前に上質なグラスが浮かんでいた。もう一振りすると、その中がブラウンの液体で満たされる。

セドリックは少し考えた後、グラスを掴んだ。ペアのグラスが、アンブリッジの肉肉しい手にも握られている。

 

「乾杯。」

 

アンブリッジがグラスを上げると、セドリックも無言でグラスを掲げて一口シェリー酒を飲む。

 

「さあて、これで憎きダンブルドアもポッターへも復讐できて、あなたの哀れな彼女…元彼女も病院へ送れるわね。あなたはとても偉大なことをしたの。決行は1か月後くらいを目指しているわ。ところで…あなたはミス・スミスと2年くらい交際したのよね。」

「ええ。」

「もう身体の関係はあったの?」

「…いえ。」

「どこまでいったの?」

「…キスはしました。」

「それ以上は?」

「…そこまでは。」

「あら、可哀想に…育ち盛りの男の子が2年も交際した女と何にもないなんて。苦行だったでしょう?」

 

アンブリッジはグビっとシェリー酒を飲み干し、今度は魔法を使わずにグラス一杯までシェリー酒を注ぐ。

 

「あなたが気にしていたのはあの女の過去のことかしら?だとしたらカマトトぶってるわ。生意気だったのよ。私があの女の叔父だったら、おんなじことをするでしょう!いいえ、もっと再起不能に…顔は酸呪文で溶かして二度と外に出れないようにしてやるわねまずは。」

 

アンブリッジはカッカッカッカッという普段の甘ったるい声ではなく、小悪党のような低い声で笑う。

 

「そして、あの女が受けたことをあの女ではなくあの妹にしてやるわ!穢れた血のあの小娘!!可愛げもない、不細工な問題児!!!マグルの貧相な遊びをこのホグワーツへ入れて!!ああ、顔を見ただけで磔の呪文をかけてやりたくなるわ!!…やっぱり魔法族の血を引く姉が美人で穢れた血の妹が醜いのは興味深いわね。」

 

ああ、暑くなってきたわあ、とアンブリッジはショッキングピンクのカーディガンを脱ぐ。

 

「あの手のタイプはね、自分が傷付くよりも他人が傷つく方が嫌なタイプで一生引きずるのよ。顔の溶けた姉と虐待された妹…あー、今からでも遅くないかしら?」

 

ンフフっと、笑いアンブリッジはセドリックの隣に座った。

 

「それにポッター。あれも父親は純血で母親は穢れた血…だからあんな癇癪持ちなのね。あれは哀れだと思わないセドリック?目立ちたいが故の嘘をでっち上げて、周りを混乱に陥れる…いかれ ポッターと情緒不安定なスミス…いくらなんでも仲が良すぎるわよね。もしかするとあの2人は身体の関係を…おおっと、失礼。気を悪くしないでちょうだいねセドリック。」

 

セドリックは、構いません。と言ったのでアンブリッジはまたシェリー酒を一気飲みし、体をくねらせて、セドリックに近づいてきた。

 

「そして忘れちゃいけない、あの半人間!ああ、もうあの記事を出した時本当ーに爽快だったわ!あの記事のおかげで、いろんなところで人狼検査が行われているらしいわよ。はあっ、私の功績が社会に影響を及ぼすなんてなんて素晴らしいこと!」

 

まるで恋人のようにアンブリッジは、セドリックの肩に頭を寄せ、恍惚にため息をつく。

 

「私の仕事が、魔法界の浄化をしている。この上ない喜びだわ。」

「…浄化、ですか。」

「ええ、そうよ。今の魔法界はいろんな害虫が我が物顔で魔法を使い居座っている…この上なく図々しいことだわ。」

「…ええ、そうですね。」

 

セドリックが同意をしたことにアンブリッジは少し驚き、顔を上げる。セドリックは立ち上がり、シェリー酒をグイッと飲み干した。

そして早口で喋り出す。

 

「僕が薬で感情がなくなった時、誰も助けてくれなかった。6年生の時…僕が代表選手になったときは皆が僕を尊敬し、崇めて応援したのに…薬を投与し始めてからは皆僕を避け、時には殴り、敬遠した…!その大半がマグル生まれか混血だった…!」

 

セドリックはガシガシと頭をかいてイライラしながら部屋の中を行ったり来たりする。アンブリッジは少し驚きながらそんなセドリックを目で追う。

 

「唯一一緒にいたアンソニーは純血だ。僕の病状を理解して一緒にいてくれた。薬を飲むことをやめればみんなの態度がもとに戻ると思ってやめたんだ…けど、違った。あなたの言う通りだった。結局“本物の魔法使い”以外は誰も僕を理解してくれない…!じゃあなんのためにあいつらは魔法を持ってるんだ?おかしい…ただあいつらは自分が優位に立った気でいたいだけなんだ。」

 

アンブリッジは感嘆で息を飲み、拍手をする。

 

「すごいわセドリック!!素晴らしい…!!」

「いいえ、僕が愚かだったんです。」

 

セドリックはアンブリッジの隣に荒々しく座る。

 

「魔法界は…純粋な魔法使いたちのためにあるべきだ。」

 

少し顔を近づけてアンブリッジの指輪が大量についた手をセドリックが包み込むように握る。

 

「あなたの計画に全面的に協力させてください…マグル生まれも、ダンブルドアもポッターも、みんな破滅させてやります。」

 

アンブリッジは満面の笑みを浮かべた。自身の部屋が、部屋が少し焦げ臭くなっていることに気づく由もなかった。

 

ーーーーー

「ねえ、ちょっと。」

 

図書館にてエルファバは銀行についての本を読み漁っていた。隣には心を閉じる方法を調べるハリーとテスト勉強しているマギーがいた。

 

「あなた本当ーに迷惑なんだけど、所々凍らせるのやめてくれないかしら?」

 

話しかけてきたのはパンジー・パーキンソンとミネストローネだった。エルファバに対して言ってきているのは明らかだった。エルファバはハリーとマギーを交互に見てから、答える。

 

「私じゃないわ。」

「とぼけても無駄よ。この学校でそこらかしこ凍らせる精神的に不安定な生徒はあんたしかいないわ!」

「彼氏に振られたからって、惨めね。」

 

2人は意地悪そうにグフフと笑う。

 

「まあ、お似合いだったわよねあんたたち。友達のいないセドリックに惨めなあんた。あーあ、セドリックはフリーってことよね今。まあ、顔は悪くないし純血だから声かけさせてもらおうかしらー。」

「僕らの勉強の邪魔をしたいならどっか行けよ。」

「監督生に口答えしたわねポッター。5点減点。スミスは城中を凍らせて迷惑かけたから10点減点。ああ、そうそうマックロードはスリザリンのくせにグリフィンドールに媚び売ってるから5点減点…グリフィンドールからね。」

 

エルファバ、ハリー、マギーは3人を走り去る2人を睨みつけてから、小声で話す。

 

「あたしのせいで、グリフィンドールから減点させちゃったね。悪かった。」

「どうせ何かしらケチをつけて僕らを減点するさ。それにあんなことで減点にはならないよ。」

 

マギーは、まあそうだけどと言った後に本をまとめるエルファバに向き直る。

 

「で、実際のところ違うの?」

 

エルファバは首を振り、本を空に投げると本はひとりでに自分のいた場所へと帰っていく。ハリーはまだ少し図書館に居残るということだったので、エルファバはマギーと共に図書館を出た。

 

「さすがに自分が出した氷は把握しているわ。」

「無意識に作ったものとかは?」

「私の一部だから…私の視界に入ってこなくてもどこに私の氷が発生しててどれくらいの広さなのかっていうのは把握できるの。」

 

マギーとエルファバの目の前に今度は見覚えのない高身長のレイブンクロー生が立ち塞がった。前髪をいじりながら、ニッコリとエルファバに笑いかける。

 

「やあ。エルファバ。」

 

エルファバは反射的にマギーの後ろへささっと隠れる。

 

「僕レイブンクローのレイモンドだけど。監督生の。今度のホグズミード暇かな?よければ僕と一緒に出かけないかい?いいカフェがあるんだ。ああ、そんな変な意味じゃなくてさ。」

 

隠れたエルファバを覗き込みながら徐々に近づいてくるレイブンクロー生にエルファバは怯えたように目を逸らす。

 

「おい、いきなり馴れ馴れしすぎんだろ。誰だよ。」

「だから監督生のレイモンドだって言ってるだろ。」

「レイブンクローの監督生何人いると思ってるんだよ。いちいち覚えちゃいないし、それをさも知ってるかのように話しかけやがって。大体お茶誘うならエルファバに顔認知されてからにしろよ。」

「黙れよスリザリン生。お前に聞いちゃいないよ。」

 

エルファバはスッとマギーの後ろから出てきたので、レイブンクロー生はパッと顔を輝かせたが次のエルファバの言葉でその顔が歪んだ。

 

「私…あなたのことよく知らないから…行けないわ。ごめんなさい。」

 

エルファバは満足げに鼻を鳴らすマギーの手を引っ張り早足で、そのレイブンクロー生の元を去る。周囲でそれを観戦していた生徒たちがギャアギャア喚いている。

 

「僕はディゴリーと違って、君がどこを凍らせたって怒りやしないのに!!!」

 

レイブンクロー生はエルファバの背中に捨て台詞を吐いた。

 

エルファバとマギーは廊下の角を曲がり、大広間に向かう最中で生徒たちが小声でヒソヒソと話している声が聞こえた。

 

「ねえ聞いた?」

「セドリックとエルファバが別れたって話でしょう?」

「最近のセドリック、様子がおかしかったわよね。前まであんなに優しかったのに今は急に変わっちゃって。」

「あのダームストラングの生徒が使う悪霊の火に取り込まれて人格が変わっちゃったらしいよ。」

「エルファバにそこらかしこ凍らせる精神異常者なんか純血で名門生まれの僕にふさわしくないってって言ったらしいわよ。」

「エルファバはショックで中庭全部を凍らせて、今も所々城を凍らせてるんだって。」

「最近氷が多いのはそのせいなのね。」

「あの2人好きだったのになー。お似合いで。」

「愛って儚いわね。」

「僕はスミスが四六時中ポッターと一緒にいるから、ディゴリーが愛想尽かしたって聞いたけど。」

「ポッターの嘘話を信じてるからってこと?」

「そうそう、ディゴリーがあの場にいてそんな事実はないって証言してるのにポッターの肩ばかり持つからって。」

 

エルファバとマギーは無言で大広間に入り、ロンとハーマイオニー、ジニーの隣に座った。ロンはクィディッチ練習直後なのか、憔悴しきっている。

 

「エルファバ、大丈夫?」

「ええ…ロンは…。」

 

ロンは俯いて何も話さないので、エルファバが戸惑っている時だった。

 

「エルファバ。」

「セドリック…?」

 

セドリックもクィディッチの練習を行なっていたのだろう。ハッフルパフのユニフォームを着てエルファバを見下ろしている。エルファバは周りの視線を気にしながら、立ち上がった。

 

「話がある。着いてきてくれ。」

 

エルファバはハーマイオニー、ロン、ジニー、マギーを横目に立ち上がり、ずんずん進むセドリックに小走りでついていく。今しがた来た道を戻っていく。エルファバとセドリックの噂をしていた生徒達はどよめき、ヒソヒソ話を続行する。

 

「セドリックとエルファバ、別れたんじゃないの?」

「どうしてまた?」

「もう復縁したとか?」

 

エルファバは戸惑いながら、セドリックの背中を追いかける。結局来たのは数週間前に2人が大喧嘩したといわれる中庭だった。

 

「せっ、セドリック、話って何?しかもこんな場所で…。」

「この数週間考えたんだ。君は僕と別れたせいで城を所々凍らせて、人に迷惑をかけている。だから…ヨリを戻した方がいいんじゃないかって。」

 

セドリックはエルファバに背を向けながら周りに聞こえる声で、唐突に話し始めた。エルファバは声を少し低くし、続ける。

 

「あの氷は私じゃなくて…それに「君は僕と一緒にいたいんだろう?だから条件をあげる。」」

 

セドリックは振り返った。表情は固く、何を考えているか分からない。

 

「君が、聖マンゴ病院で治療を受けること、そしてポッターやダンブルドアとの交流を止めるなら、僕は君との交際を続けるよ。」

「…ハリーや校長との関わりを止めることはできないわ。」

「じゃあ、僕と別れたままだ。」

 

エルファバはセドリックの高圧的な態度に動揺し、ギュッとスカートを掴む。

辺りを一度見回してから、息を吐くと共にセドリックに告げた。

 

「私は、ハリーを信じる。何があっても。」

 

セドリックはローブに手を突っ込む。エルファバも反射的に杖を取り出したがそれが大きな失敗だった。

 

「エクスペリアームズ 武器よ去れ!」

 

エルファバの杖は宙を舞い、セドリックの手中に収まった。そしてそれをローブの中に仕舞い込んだ。

 

「セドリック…私、」

 

エルファバは怪訝そうな顔でセドリックを見つめていた。

 

「エルファバ・リリー・スミス。」

 

エルファバは背後から誰かに話しかけられた。後ろには黒いローブを着た魔法使い達が10名ほど横一列に立ち並んでいる。左胸にはMのバッジ…。

 

魔法省の人間だ。

 

エルファバに呼びかけた声の低い女性が、一本前に歩み出て、杖を振ると長い羊皮紙が現れ、それを自分の前に持ってくると読み上げ始めた。

 

「ホグワーツ魔術学校5年生、グリフィンドール寮。貴女は精神的トラウマによる魔力のコントロールが不能と判断された。詳細は以下の通り。1993年8月にはウィンザーのダウンタウン道路を怒りに任せ凍らせ、その2年後の1995年には家族との不仲が原因で深夜のロンドン郊外の広場マグルたちへ我々の力を晒した。」

 

黒いローブの魔法使いたちは全員フードを深く被り、顔が見えない。生徒たちはその異様な光景を目撃し、徐々に中庭に人が集まっている。エルファバは後退りして、小声で呼びかける。

 

「セドリック…これは…。」

「さらに同年9月には同室の生徒への怒りで魔力を暴発させるなど…我らが築き上げてきた国際魔法戦士連盟機密保持法を著しく犯す行為であります。そして最たる例は、」

 

魔女は杖でピラっと羊皮紙を伸ばし、後半部分を覗く。

 

「貴女の叔父であるエドワード・クロウへの傷害…殺人未遂。」

「…え…。」

「年明けに魔法省は通報があり現場に向かうとに向かうと、半分氷となっていた被害者を発見した。辛うじて、助かったものの治療が遅れ生涯片腕片脚での生活を余儀なくされ、由々しき事態であると魔法省は判断した。」

 

(叔父さん…?そんな、あり得ないわ。あの日から一度だって会ってない。そもそも私はずっとグリモールド・プレイスでみんなと一緒にいて…。)

 

「コーネリウス・ファッジ魔法大臣の名を元に正式に貴女を“魔力不適合者”と認定し、聖マンゴ病院への入院を決定した。よって聖マンゴ病院“呪文性損傷“の病棟へ我々ヒーラーが、貴女を連れて行きます。ご同行願えますでしょうか。」

 

”呪文性損傷“はネビルの両親が入院していた病棟であることをエルファバは思い出す。

 

「私じゃ…。」

「ご同行願えますか?さもなくば、少し手荒に連れて行く必要があります。」

「…私じゃない。違うわ。」

 

背後で、エヘンヘンと甘ったるい声の咳払いが聞こえた。

 

「もう1つ付け加えなくては。ミス・スミス。あなたは聖マンゴ病院へ入院しますので…この高貴な学校には不要な人材。ホグワーツ魔術学校は退学です。」

 

セドリックの隣でニッコリ笑っているのは、アンブリッジだった。恍惚そうな笑みを浮かべ獲物が仕留められる様を今か今かと待ち望んでいる。

 

エルファバの前に、現れたのは羊皮紙。めまいを感じながらエルファバが羊皮紙の中で読めたのは、

 

”エルファバ・リリー・スミス“

”国際魔法戦士連盟機密保持法の度重なる違反“

”退学“

 

という文字だった。

 

「現にこんなに城の所々を凍らせて…多くの勉学に励む生徒たちに迷惑をかけています。」

「エルファバじゃないです!」

 

アンブリッジの発言に間髪入れずに叫んだのは、ジニーだった。今や多くの学生がエルファバを取り囲む中でジニーはその中をかき分けて、人混みの先頭に立った。その後ろからロン、ハーマイオニーも続いて顔を出す。

 

「エルファバの氷は魔法の火じゃ消失できない!みんなが知っている事実よ!さっき“インセンディオ”で起こした火を氷に近づけたら簡単に溶けたわ!これは罠よ!」

 

ジニーが必死に自身を庇ってくれるその姿にエルファバは胸が熱くなる。ジニーが1年生の時、エルファバが教えたことだ。ジニーの声に冷静さを少し取り戻し、震えながら、セドリックに手を伸ばす。

 

「お、お願い…杖を…いつもの呪文で証明するから…叔父さんの氷も私ではないと…だから、セドリック…。」

「あら。そんなことをすると思う?」

 

エルファバとセドリックの間に割って入った手には先程セドリックに渡したエルファバの杖が握られている。

 

「ホグワーツの退学時には、どうなるか知ってる?ああ、あなたはあの退学した半巨人と仲が良かったわね。」

 

アンブリッジの宝石だらけの両手が、エルファバの杖の両端を握る。その瞬間エルファバはアンブリッジが何をしようとしているのか理解した。

 

「やめ…!」

 

エルファバが駆け寄ろうとした時、フードを被った魔法使い達が一斉にエルファバに駆け寄り、エルファバを地面に叩きつけた。

 

「いやっ!離して!お願いやめて!それは母親の形見なの!」

 

エルファバは地面やローブを凍らせて抵抗するが、ビクともしない。ローブの魔法使い達はガシャガシャと音がしてかつかなり重い。小柄なエルファバは窒息してしまいそうだった。

 

「やっぱり。実験の通り、小鬼(ゴブリン)の甲冑には効かないようね。」

 

重みでエルファバが息すらできないところで、アンブリッジの嘲笑う声が聞こえる。

 

「お願いやめて!!!」

 

ハーマイオニーの金切り声と、バシュッと呪文が飛んでくる音が聞こえた。

 

「ミス・グレンジャー!黙っておくのが賢明ですよ!ええ、そう。あなたまで魔法省に盾突いて退学になりたくないでしょう?」

「魔法省なんかくそくらえだ!エルファバを離せ!」

「ミスター・ウィーズリー!あなたのお父様がどこで働いているかご存じの上での発言かしら?これは魔法省へのー。」

 

そう言ったところで、エルファバは一気に新鮮な空気を吸い込むことができた。エルファバを取り押さえていた魔法使い達が全員宙をくるくると舞い飛んで行ったからだ。

 

「わしの生徒に、手荒な真似はやめてもらおう。」

 

ダンブルドア校長は気がつけば中庭の中心に立っていた。1つ1つの言葉を意識してハッキリ発音し、アンブリッジにしっかり聞こえるように話しかけた。態度は落ち着いているが、声は怒りを抑えているようにも感じる。

 

「ダンブルドア…!」

 

その直後、バタバタと足音がして大人の男性の息切れる声と共に人混みの先頭にファッジ、パーシー、キングスリーそして知らない男性と女性が現れた。

 

「ドローレンス、少し見込みが甘かったの。“わしが組んだ”学生の会合の証拠を掴み、わしを追及している間にミス・スミスを聖マンゴ病院へ…いや、その名をもとに神秘部へ連行する計画だった…会合のリーダーにミスター・ポッターを仕立て上げ、ミス・スミスを連行し、一連の首謀者としてわしを陥れる。君らの悩みの種を一掃できる最高のプランだったといえよう。」

 

エルファバはノロノロと立ち上がった。身体のところどころが痛い。

 

「ドローレンスよ、君がいなければわしが怪しむと考え別の職員を連れて来てポリジュース薬を飲ませたのは良い手だった。しかし、自身のパーソナリティと全く違う魔女を替え玉にしたのは爪が甘いと言わざる得ない。エミリー、卒業以来じゃの。優秀だが控えめな君が元気そうで良かった。」

 

ファッジの後ろで縮こまっているショッキングピンクのローブを着た女性にダンブルドアは軽く会釈した。ローブはアンブリッジの物だったのだろう。エミリーと呼ばれた女性はブカブカのローブを引きずっている。

 

「しかしじゃ、ドローレンスそしてコーネリウスよ。先ほども申した通り、わしの生徒に手荒な真似は許さん。ミス・スミスは決して情緒不安定な魔女ではない。我々と持っている魔法の性質が違うだけじゃ。」

「それを精神異常と「そして何より、君たちには生徒を退学にする権利を持ち合わせていないはずじゃ。それはまだ校長のわしが持っておる。」」

 

ファッジは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「ところがどっこい、そういう訳にはいかない。『高等尋問官は生徒に著しく害を及ぼすホグワーツ魔法学校在籍生徒を退学にする権利を有する。』このような教育令をつい先ほど発令した。精神不安定で周りに害を及ぼす生徒、つまりミス・スミスを退学処分とする。なに、気を落とすでないミス・スミス。正しい環境で魔力をコントロールする知恵を身につけるだけだ。それがたまたまホグワーツじゃなかったというだけで「この者たちは“無言者”じゃなコーネリウス。」」

 

ダンブルドア校長の静かな物言いにファッジは豆鉄砲を打たれたような顔をする。校長に飛ばされた黒いフードの魔法使い達はすぐに体制を立て直し、また1列に並び直している。

 

「新学期の始めにも伝えたであろう。君らはミス・スミスの“力”を研究し、自らの武器に仕立て上げる口実を作り出しているだけじゃ。無言者たちとそこで利害が一致したかの?それにしても1人の女子生徒を大人の魔女魔法使いが一斉に取り押さえるとはなんとも嘆かわしいことか。」

 

ダンブルドアはサッと、エルファバの前に向き合った。

 

「わしはミス・スミスを…1人の女子生徒として成長する環境を残したい。事実、ミス・スミスは少しずつ能力をコントロールできるようになっておる。これは時間が必要ではあるがあるが、近い将来にはきっとー。」

 

アンブリッジがフンッと鼻を鳴らしエルファバに近づく。決して顔をダンブルドア校長からは逸らさない。

 

「この女子生徒がコントロールできるようになる?ハッ、とっても興味深いですわ。つい先日も氷の力を使って私を脅しましたし、たかだか彼氏と別れたくらいで城の所々を凍らせて。彼女のせいで何人の人が迷惑を被っているかー。ああ、そう、そこまで言うのならダンブルドア。私がこの場で証明してあげましょう。」

 

アンブリッジは再びエルファバの杖を両手で掴み、力をかける。

 

「いやっ!」

 

エルファバが近づこうとすると、アンブリッジとの間に透明なガラスのようなものが現れ、近づけなくなった。校長がサッと杖をアンブリッジに向けた。

 

「止めるなダンブルドア!さもなくばハリー・ポッターを退学にするぞ!」

 

ファッジがそう叫んだのと、ミシッと火花を散らしエルファバの杖が真っ二つに折れたのは同じタイミングだった。折れた先からは繊維のような糸が数本見えた。

 

「はい、これであなたはもうおしまいね。」

 

アンブリッジはただの木の枝となったエルファバの杖を芝生に投げ捨てた。

 

「あ…え…。」

 

エルファバは後退りし、その場に座り込んでしまった。バーン!とアンブリッジがダンブルドア校長に吹き飛ばされ、立っているセドリックを軽く押してから、後退りするエルファバに近づいた。

 

「エルファバ、落ち着くのじゃ。堪えるのじゃ。」

「つ…つえ…そんな…。」

 

頭を抱えたエルファバに校長の言葉は届かない。

エルファバの頭の中でいろいろな記憶が、まるで開心術をかけられた時のようにぐるぐると回る。

 

ホグワーツ入学前に父親からもらった白い杖。グリンダの杖。グリンダとハリーの母親が穏やかに笑っている。母親の筆跡。トロールを倒した時、エディをトラックから助けた時、エルファバのホグワーツ生活にはいつでも杖がいた。

 

まるで魂の一部分を潰されたような苦しみがエルファバの身体を駆け巡った。

 

中庭の気温が下がり、霜が芝生に見え始め、雪の混じった風が舞い、周りの生徒の羊皮紙が数枚宙を飛んでいることにエルファバは気がつかない。

 

「総員、実験体が暴れるぞ!!!指定した配置につけ!!!」

 

ファッジの叫びが遠くで聞こえる。

 

(私とグリンダを、ホグワーツを繋ぐものが…なくなった。)

 

「っっっうわああああああああっ!!!!」

 

エルファバの叫びと共に中庭のアーチが、廊下が、全てが氷に包まれる。石垣に寄りかかっていた生徒たちは慌てて飛び退き、後退りした。

 

「重傷を避ければ何をしても構わん!!!捕らえろ!!」

 

ファッジの声をよそに、大粒の涙を流すエルファバを中心に氷の波は広がり、廊下を伝って灰色の外壁が全て銀色に変わっていく。気温が一気に下がり、刺すような冷たさの風が生徒たちの肌を撫で、ブルッと身震いする。その風の中には雪の結晶も混じっていた。

 

風は渦巻きを描きながら生徒たちの羊皮紙を、髪の毛を荒らしてはけたたましく声を鳴らす。

 

あまりの強風に、その中心にいるエルファバに誰も近づけなかった。

 

そして今はホグワーツ城は、“氷の城”と呼ぶのに相応しく銀色の艶やかな城となった。

 

「風と氷に構うな!失神させろ!」

 

ファッジの叫びを合図に無言者達が一斉に赤い閃光をエルファバに飛ばしたー。

 

 




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